特許第6374161号(P6374161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374161
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】有機性廃水の生物処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   C02F3/12 B
   C02F3/12 F
   C02F3/12 V
   C02F3/12 H
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-258890(P2013-258890)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-112587(P2015-112587A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄住金環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100098213
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】東 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 康平
【審査官】 松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−110718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非凝集性細菌を主体とする生物群による生物処理をpH6〜8で行うと粘度が上昇する有機性廃水を第1処理槽に導入し、非凝集性細菌を主体とする生物群により生物処理を行った後、この非凝集性細菌を含む処理水をさらに生物処理するように構成し、かつ、上記第1処理槽における生物処理を、pHを4.5以上5.9以下の範囲内に調整して行うことで、該第1処理槽内の廃水の粘度上昇を抑制して生物処理することを特徴とする有機性廃水の生物処理方法。
【請求項2】
前記有機性廃水が、前記非凝集性細菌を主体とする生物群による生物処理を、pH6.5、又はpH7.5で行うと粘度が上昇する廃水である請求項1に記載の有機性廃水の生物処理方法。
【請求項3】
前記非凝集性細菌を含む処理水をさらに生物処理するための第2処理槽が、前記非凝集性細菌を捕食する原生動物が生育する、活性汚泥槽であるか或いは接触酸化槽である請求項1又は2に記載の有機性廃水の生物処理方法。
【請求項4】
前記有機性廃水が、糖類を含有する廃水である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機性廃水の生物処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水の生物処理方法に関し、更に詳しくは、特に非凝集性細菌を主体とする生物群により生物処理をした場合に生じることがあった廃水の粘度の上昇を、簡便な方法で抑制することで、最終処理水の水質の悪化を生じさせることなく、効率のよい生物処理ができる実用価値の高い有機性廃水の生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃水を、好気性微生物を含む活性汚泥により処理する活性汚泥法は、浄化能力が高く、比較的に処理経費が少なくて済む等の利点があるため、活性汚泥法を利用した種々の水処理方法が提案され、下水処理や産業廃水処理等において広く一般に利用されている。しかし、活性汚泥法を利用した水処理方法では、低い処理効率と、大量に出される余剰汚泥の処理が問題となる。
【0003】
これに対し、有機性廃水を、まず第1処理槽で、非凝集性細菌を主体とする生物群(主に分散菌)により生物処理することで、廃水中の有機物を酸化分解すると同時に非凝集性細菌に変換させ、その後、第2処理槽で、増殖した非凝集性細菌を固着性原生動物に捕食させることによって、生物処理効率を向上させて高負荷状態での運転と、余剰汚泥の低減を可能とした、いわゆる2相活性汚泥法が提案されており(特許文献1参照)、実用化されている。さらに、この2相活性汚泥法の考え方を利用し、より効率のよい安定した有機性廃水の生物処理を可能とし、その実用性を高めるための種々の提案がされている。
【0004】
例えば、第1処理槽内の水質を経時的に測定し、細菌処理を悪化させる水質の変化を検知した時点で、少なくとも被処理水の第1処理槽への導入を一時停止して、種汚泥等の添加と曝気を行った後、運転を再開することで、処理の悪化を未然に防止することを可能にする有機性廃水の処理方法が提案されている(特許文献2参照)。この文献では、第1処理槽で行う細菌処理の悪化を検知する指標の一つとして、第1処理槽内のpHを挙げており、そのpHが6以下となった場合に第1処理槽の回復操作が必要となるとしている。
【0005】
また、例えば、より余剰汚泥発生量を低減させる目的で、余剰汚泥の一部を好気条件で処理して返送する工程を付加した構成において、その際に、第1の生物処理工程と第2の生物処理工程における処理をいずれもpH6〜8の条件下となるように制御して行い、さらに、余剰汚泥の好気条件での処理をpH5〜6の条件下でとなるように制御して行うことが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭56−48235号公報
【特許文献2】特許第3035569号公報
【特許文献3】特許第5170069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、第1処理槽で行われている非凝集性細菌を主体とする生物群(主に分散菌)による生物処理を実際の廃水に適用していく中で、新たに、場合によっては、処理した際に第1処理槽内もしくは第2処理槽内の廃水の粘度の上昇が生じ、このことが原因して最終処理水の性状が悪化する現象が起こることを見出した。本発明者らの検討によれば、この処理による粘度の上昇の傾向は、例えば、糖類が含有されたような食品工場からの廃水の場合に顕著であるが、必ずしもこのような廃水の処理に限定されるものでない。その対策としては、通常、処理を希釈した廃水に対して行うことや、或いは、第1処理槽への通水速度を通常よりも遅くすることで、第1処理槽の容積負荷を低減することが考えられる。しかしながら、これらの手段は、処理効率の著しい低下を意味し、有機性廃水の生物処理を、より効率よくより良好に安定して行うという点では実用上の極めて大きな課題があり、本発明者らは、この課題を簡便な方法で安定して解決することが急務であると認識するに至った。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記したような、処理した際に第1処理槽内の廃水の粘度の上昇が予想される廃水に対して、或いは、処理した際に廃水の粘度の上昇が生じた場合に適用することが特に有用な、非凝集性細菌を主体とする生物群(主に分散菌)による生物処理を行った場合に生じる廃水の粘度上昇を、簡便な方法で確実に抑制することができる方法を見い出し、これにより、廃水の粘度上昇に起因して生じる最終処理水の水質の悪化の発生を有効に防止できる有機性廃水の生物処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、有機性廃水を第1処理槽に導入し、非凝集性細菌を主体とする生物群により生物処理を行った後、この非凝集性細菌を含む処理水をさらに生物処理するように構成し、かつ、上記第1処理槽における生物処理を、pHを4.0以上5.9以下にして行うことで、該第1処理槽内の廃水の粘度上昇を抑制して生物処理することを特徴とする有機性廃水の生物処理方法を提供する。
【0010】
上記した本発明の有機性廃水の生物処理方法の好ましい形態は、前記pHが、4.5以上であること;前記前記非凝集性細菌を含む処理水をさらに生物処理のための第2処理槽が、前記非凝集性細菌を捕食する原生動物が生育する、活性汚泥槽であるか或いは接触酸化槽であること;前記有機性廃水が、生物処理の際に粘度が上昇する傾向のある廃水であること;前記有機性廃水が、糖類を含有する廃水であること;が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非凝集性細菌を主体とする生物群(主に分散菌、以下、単に分散菌とも言う)による生物処理を行う場合に、第1処理槽内の廃水の粘度の上昇が予想される廃水に対して、本発明で規定する簡便な手段を適用することで、或いは、処理した際に廃水の粘度上昇が生じた場合に本発明で規定する簡便な手段を適用することで、第1処理槽において生じる廃水の粘度上昇を、簡便に確実に抑制でき、その結果、処理効率を低下させることなく、廃水の粘度上昇に起因して生じる最終処理水の水質の悪化の発生を有効に防止できる有機性廃水の生物処理方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例及び比較例の各処理系で用いた生物処理装置のフローである。
図2】実施例1及び比較例1の各系で処理した場合の、(1)各生物処理槽内における廃水の粘度の経時変化及び(2)最終処理水のSSの経時変化、を示すグラフである。
図3】実施例2及び比較例2の各系で処理した場合の、(1)細菌槽内における廃水の粘度の経時変化及び(2)細菌槽処理水の溶解性BODの経時変化、を示すグラフである。
図4】実施例3、4、比較例3、及び4の各系で処理した場合の、(1)細菌槽内における廃水の粘度の経時変化及び(2)細菌槽処理水の溶解性BODの経時変化、を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明の有機性廃水の生物処理方法は、少なくとも、第1処理槽(以下、分散菌槽とも呼ぶ)で、分散菌による生物処理を行い、更に、該分散菌槽で処理することで得られた非凝集性細菌を含む処理水を、さらに生物処理するように構成されており、かつ、分散菌槽における生物処理を、pH5.9以下にして行うことを特徴とする。このように構成することで、実際の有機性廃水を処理する際に、分散菌槽で生じることがあった廃水の粘度上昇を有効に抑制し、その結果、生物処理の際に、分散菌槽で生じる廃水の粘度上昇に伴って生じていた最終処理水の水質の悪化が有効に防止できるようになる。
【0014】
本発明を特徴づける分散菌槽における生物処理は、微生物の生命活動を利用していることから、中性で行うことが通常であるとされており、先に挙げた特許文献3でも、通常の生物処理をpH6〜8で行い、余剰汚泥の分解処理を、pHを5〜6に下げた条件で行っている。これに対し、本発明では、分散菌槽における生物処理をpH4.0以上5.9以下の酸性側に調整して処理を行うことを特徴とする。本発明者らの詳細な検討によれば、これまで、このような低いpHでは分散菌槽での生物処理はできないと考えられていたのに対し、驚くべきことに、通常の処理では粘度が上昇してしまうような系においては、そのpHを単に下げるだけで、粘度の上昇を抑制でき、しかも、その溶解性BODを低減できるという画期的な事実を見出した。その理由は定かでないが、本発明者らは、分散菌槽を構成する非凝集性細菌を主体とする生物群の中の、pHが4.0以上5.9以下の条件下で活発に増殖する耐酸性の菌が、その粘度の上昇の原因となっている物質を選択的に栄養源とし、その結果、粘度上昇が有効に抑制され、しかも、その溶解性BODが低減できたものと考えている。
【0015】
さらに、本発明者らは、処理した場合に分散菌槽の粘度の上昇が生じる廃水について、その性状の共通点について検討した結果、先にも述べたように、糖類が廃水に多く含まれる食品工場等からの廃水を処理した場合に、特にその傾向が強いことがわかった。現状では、このような廃水に対する処理をする場合、最終処理水の水質が劣る傾向があるため、予め、糖類分の濃い廃水を分離し、濃縮して焼却処分をしたり、通常の廃水とは別に、容積負荷を低くして時間をかけて処理するといった方法がとられている。このため、糖類が廃水に多く含まれる食品工場等からの廃水の処理を通常の処理と同様にできれば、極めて有用である。
【0016】
さらに、本発明者らは、処理した場合に分散菌槽の粘度の上昇が生じる廃水は、上記に限られるものではなく、糖類を含有しない廃水であっても粘度が上昇してしまう場合があることを確認した。この場合は、糖類が多く含有されている廃水の場合と異なり予想ができないので、現状では、粘度上昇が生じた時点で、事後的に対応するしかない。そして、その場合の対策としては、粘度が上昇した時点で処理を中断し、処理条件を変更して、処理する廃水を希釈したり、分散菌槽への通水速度を小さくしたりして、容積負荷を低くして時間をかけて処理するしかない。したがって、分散菌槽の粘度の上昇が認められた時点で、これを迅速に抑制でき、しかも溶解性BODを低減できる手段があれば、極めて有用である。
【0017】
上記した状況に対し、本発明者らは、処理した場合に分散菌槽の粘度の上昇が生じる廃水を処理する場合に、分散菌槽の廃水のpHを、4.0以上5.9以下の酸性側に調整して処理を行うことで、後述するように、容積負荷等の他の条件を何ら変更することなく、分散菌槽の廃水の粘度の上昇を抑制でき、しかも、その溶解性BODを低減できることを見出した。この方法は、分散菌槽の粘度の上昇が生じることが予想される糖類が廃水に多く含まれるような食品工場等からの廃水を処理する場合に、事前にpH調整することで効果が得られることは勿論のこと、事前に分散菌槽の粘度上昇が予想できない廃水においても効果的である。すなわち、この場合は、処理の過程で分散菌槽の廃水に粘度上昇が生じた時点で、分散菌槽の廃水のpHを、4.0以上5.9以下の酸性側に調整することで、速やかに粘度上昇を抑制することが可能になる。
【0018】
後述するが、本発明の顕著な効果は、処理する際における分散菌槽の廃水のpHを、少なくとも6未満で、4.0よりも高い範囲にすることのみで容易に得られる。より好ましくは、pHを4.5以上とすることが好ましい。具体的なpH調整の方法としては、処理の安定化のために分散菌槽に通常備えられているpHメーターを利用し、処理する際の廃水に、通常、pH調整に使用されている酸やアルカリの水溶液を、分散菌槽内にポンプを使用して添加するように構成すればよく、極めて簡便な方法で容易に達成することができる。
【0019】
その他の条件等は、通常の、有機性廃水を分散菌槽に導入し、非凝集性細菌を主体とする生物群により生物処理を行った後、この非凝集性細菌を含む処理水をさらに生物処理するように構成した有機性廃水の生物処理方法と同様に行えばよい。本発明において重要なことは、分散菌槽を利用する有機性廃水の生物処理方法において、分散菌槽で生じる粘度上昇を、簡便にかつ確実に抑制することにある。したがって、分散菌槽で処理した処理水をさらに生物処理する方法は特に限定されず、例えば、非凝集性細菌を捕食する原生動物が生育する、通常の活性汚泥槽や接触酸化槽を使用処理であればよい。これらの方式や処理条件等は特に限定されず、いずれであってもよい。例えば、担体の有無や、その形態や、等、何ら限定されるものでもない。
【0020】
本発明者らの検討によれば、後述する実施例に示したように、その容積負荷にかかわらず、処理した場合において生じる分散菌槽の廃水の粘度上昇を有効に抑制できる。分散菌槽のBOD容積負荷は、例えば、5〜10kg/m3/dayと高い。このため、例えば、BODが5000mg/Lと高い廃水の処理が可能であるが、先に述べたように、このような廃水を従来の処理方法で処理した場合に、槽内の廃水の粘度が明らかに上昇し、このことに起因して、分散菌槽から出される処理廃水のBODを十分に低減させることができず、結果として、最終処理水の水質が悪化する場合があった。これに対し、このようなBODが5000mg/Lと高い廃水を通水して連続して処理した場合であっても、分散菌槽内の廃水のpHを調整して本発明で規定するように低下させれば、上記した粘度上昇が安定して抑制され、その結果、例えば、分散菌槽から出される処理廃水のBODを300mg/L程度に安定して低減できるようになることが確認された。このため、その後にさらに行う生物処理が容易になされ、効率のよい、最終処理水の水質の悪化のない良好な処理が安定して行えるようになる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。
【0022】
<細菌槽と活性汚泥槽からなる構成で処理した場合の処理性についての検討>
まず、その前提として、実際の食品製造工場からの廃水を用い、下記のようにして、細菌槽或いは活性汚泥槽に生息する微生物による廃水の処理性能を評価した。
【0023】
(試験装置・試験条件)
細菌槽の後段に、活性汚泥槽および沈殿槽を設けた図1に示したフローの生物処理装置を用意し、そこに、後述する性状の実際の食品製造工場からの廃水を連続的に通水して試験した。細菌槽の容積は、BOD容積負荷が10kg/m3/dayとなるように設計し、活性汚泥槽の容積は、フローにおける生物処理槽全体でのBOD容積負荷が1kg/m3/dayとなるようにそれぞれ設計した。廃水をまず細菌槽に流入し、細菌によって処理された廃水と増殖した細菌とが混合した細菌槽処理水を得た。その細菌槽処理水を固液分離することなく、連続的に活性汚泥槽に流入させて、活性汚泥による生物処理を行った。活性汚泥槽の後段には沈殿槽を設け、活性汚泥を固液分離した後、上澄水を最終処理水として得た。
【0024】
試験に用いた廃水は、食品製造工場から排出されたものであって、その性状は、BOD5000mg/L、CODcr9500mg/L、ノルマルヘキサン抽出物50mg/Lのものであった。試験の際は、上記廃水に、栄養塩として、必要に応じて、尿素溶液とリン酸二水素カリウム溶液を添加した。
【0025】
処理に使用した細菌槽には、廃水のpHを調整するためのpH計と、該pH計と連動してpH調整用の薬剤が細菌槽内に混入できるようにするためのポンプを設置した。上記の試験では、ポンプを2台設置し、pH計で測定した細菌槽中の廃水のpHに対応して、それぞれのポンプを用いて硫酸と水酸化ナトリウム溶液を適宜に添加するように構成し、細菌槽中の廃水のpHを随時、特定の範囲内になるように調整できる構成とした。
【0026】
更に、試験期間中、適宜なタイミングで、細菌槽内および活性汚泥槽内の「汚泥における粘度」を下記の方法で測定した。すなわち、細菌槽処理水および活性汚泥槽内の活性汚泥を適宜なタイミングで採水し、500mLのビーカーに入れ、30℃で、粘度測定器(ブルックフィールド社製のアナログ粘度計RVT)を用いて、粘度を測定した。
【0027】
(実施例1)
図1に示すフローで、上記した条件としたことに加えて、細菌槽中の廃水のpHを5.5に調整して連続通水試験を行った。細菌槽には、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。具体的には、試験開始前に1日間、廃水に活性汚泥を添加したものを曝気し、細菌を増殖させた培養液を入れたものを細菌槽とした。活性汚泥槽には、下水処理場の返送汚泥を用いた。試験は、連続して10日間行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に、それぞれの槽からと、最終の処理水をそれぞれ採水して、得られたサンプルについて水質を分析した。各生物処理槽内から採水したサンプルの粘度についての結果をグラフ化して図2(1)に示した。また、上記した経過日数において採取した生物処理装置から排出される最終処理水のSSについての結果をグラフ化して、図2(2)に示した。実施例1の系で処理した場合のデータは、各グラフ中に黒丸で示した。
【0028】
(比較例1)
図1に示すフローで、細菌槽中の廃水のpHを7.5に調整して連続通水試験を行った以外は実施例1と同様の試験を行い、同様のタイミングでそれぞれ採水し、採水したサンプルについて同様の分析を行った。そして、実施例1の場合と同様に、各生物処理槽内から採水したサンプルの粘度についての結果をグラフ化して図2(1)に示した。また、上記した経過日数において採取した生物処理装置から排出される最終処理水のSSについての結果をグラフ化して図2(2)に示した。比較例1の系で処理した場合のデータは、各グラフ中にひし形で示した。
【0029】
(実施例1と比較例1の評価結果)
図2(1)に示した通り、実施例1の細菌槽内の廃水のpHを5.5に調整して処理した系においては、細菌槽内および活性汚泥槽内において、処理試験の開始から試験終了まで、粘度の上昇が見られなかった。さらに、図2(2)に示したように、実施例1の系で処理した場合は、最終処理水のSSは、試験開始から試験終了まで一定して低い値を示した。これに対し、比較例1の細菌槽の廃水のpHを7.5に調整して処理した系においては、図2(1)に示した通り、実施例1の系で処理した場合とは異なり、通水開始後すぐに細菌槽内の粘度が上昇し、その後、後段の活性汚泥槽内の粘度も上昇した。また、増大した粘度は、試験4日目から10日目でほとんど差異が見られず、高い粘度を安定して維持する状態となってしまうことが確認された。そして、この比較例1の系で処理した場合は、図2(2)に示したように、最終処理水のSSも、粘度の結果と同様、試験開始から徐々に値が上昇し、処理時間の経過に伴って良好な処理ができなくなることがわかった。
【0030】
以上の結果から、細菌槽内で高い粘度が発生した場合、活性汚泥槽内の粘度も上昇し、活性汚泥の固液分離性が悪化する事態となることが分かった。
【0031】
<細菌槽内のpHと細菌槽処理水の粘度との関係、粘度増大の抑制効果の検討>
先の実施例1および比較例1の試験で、細菌槽内の廃水のpHの値によって最終処理水の性状が異なる現象が生じることが確認されたことから、この点について更に詳細な検討を行った。具体的には、細菌槽のみで構成した生物処理装置を用意し、この装置を用いて食品製造工場からの実際の廃水を連続的に通水して検討試験を行った。使用した細菌槽の容積は、BOD容積負荷が10kg/m3/dayとなるように設計した。そして、廃水をこの細菌槽に流入し、細菌槽内で細菌によって処理された廃水と、槽内でBODを栄養にして増殖した細菌とが混合した細菌槽処理水を得た。
【0032】
試験に用いた廃水は、先に使用したと同様の食品製造工場からのものであり、その性状は、BOD5000mg/L、CODcr9500mg/L、ノルマルヘキサン抽出物50mg/Lのものである。試験の際には、必要に応じて、栄養塩として尿素溶液とリン酸二水素カリウム溶液を添加した。
【0033】
上記した細菌槽のみで構成した生物処理装置は、実施例1で使用したと同様に、細菌槽に、pH計と、細菌槽内の廃水のpHを随時調整する目的で、pH計と連動するポンプを2台設置し、それぞれのポンプで、硫酸と水酸化ナトリウム溶液が適宜に添加されるように構成した。そして、試験期間中、適宜なタイミングで、細菌槽内の汚泥における粘度を測定した。具体的には、各タイミングで採取した細菌槽処理水をそれぞれ、500mLのビーカーに入れ、前記した粘度測定器を用いて粘度を測定した。
【0034】
(実施例2)
上記した条件としたことに加え、細菌槽のpHを4.5に調整して、連続通水試験を行った。細菌槽には、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。より具体的には、試験開始前に1日間、廃水に活性汚泥を添加したものを曝気し、細菌を増殖させた培養液を入れて細菌槽とした。処理試験は、連続して10日間行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に、各タイミングにおける細菌槽からの排水の一部を採水して、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。図3(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果を示した。また、図3(2)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。実施例2の系で処理した場合のデータは、各グラフ中に四角で示した。
【0035】
(比較例2)
上記した条件で、細菌槽のpHを6.5に調整して連続通水試験を行った以外は実施例2と同様にして試験を行い、同様のタイミングでそれぞれ細菌槽処理水を採水した。そして、実施例2の場合と同様に、各タイミングにおける細菌槽処理水の粘度についての結果をグラフ化して図3(1)に示した。また、上記した各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水についての溶解性BODの結果をグラフ化して、図3(2)に示した。比較例2の系で処理した場合のデータは、各グラフ中に×印で示した。
【0036】
(実施例2と比較例2の評価結果)
図3(1)に示した通り、細菌槽内の廃水のpHを4.5に調整して処理した実施例2の系においては、処理試験の開始から試験終了まで、細菌槽処理水の粘度の上昇は見られなかった。さらに、図3(2)に示したように、実施例2の系で処理した場合は、細菌槽処理水の溶解性BODも試験開始から試験終了まで、一定した低い値を示した。これに対し、細菌槽内の廃水のpHを6.5に調整した比較例2の系においては、図3(1)に示した通り、通水開始後、すぐに細菌槽内の粘度が上昇した。そして、増大した粘度は、試験4日目から10日目でほとんど差異が見られず、高い粘度を安定して維持する状態となってしまうことが確認された。そして、比較例2の系で処理した場合は、図3(2)に示したように、細菌槽処理水の溶解性BODも、粘度の結果と同様、試験開始から徐々に値が上昇し、実施例2の系の場合と比較して良好な処理ができなかった。
【0037】
以上の結果から、最終処理水の水質の悪化につながる細菌槽内で生じる粘度が高くなる粘度の上昇の抑制には、細菌槽内の廃水のpHを低くするように調整して処理することが有効であることが分かった。すなわち、細菌槽内での廃水の粘度の上昇を抑制する方法としては、処理を行う場合における細菌槽内の廃水のpHを低く保つこと、少なくとも4.5程度に低くなるように調整して処理することが有効であることが確認された。
【0038】
<細菌槽のpH調整と、組み合わせる要件の違いによる粘度増大の抑制効果の検討>
実施例2で使用したと同様の、細菌槽のみで構成した生物処理装置を用意し、この装置を用いて食品製造工場からの実際の廃水を連続的に通水して検討試験を行った。具体的には、pHを一定にし、細菌槽の負荷を変更して、細菌槽中の廃水の粘度向上に及ぼす影響について検討した。この生物処理装置では、実施例2の場合と同様に、廃水を細菌槽に流入し、細菌槽内で細菌によって処理された廃水と増殖した細菌とが混合した細菌槽処理水が得られる。
【0039】
試験に用いた廃水は、実施例1、2の場合と同様に食品製造工場から排出されたものであるが、先の各試験で使用したものとは性状が異なる、BOD2500mg/L、CODcr2950mg/L、ノルマルヘキサン抽出物30mg/Lであるものを使用した。また、試験の際は、栄養塩として、必要に応じて、尿素溶液とリン酸二水素カリウム溶液を添加した。
【0040】
上記した細菌槽のみで構成した生物処理装置は、実施例2で使用したと同様に、細菌槽に、pH計と、細菌槽内の廃水のpHを随時調整する目的で、pH計と連動するポンプを2台設置し、それぞれのポンプで、硫酸と水酸化ナトリウム溶液が適宜に添加されるように構成した。そして、試験期間中、適宜なタイミングで、細菌槽内の汚泥における粘度を測定した。具体的には、細菌槽処理水をそれぞれ、500mLのビーカーに入れ、前記した粘度測定器を用いて粘度を測定した。
【0041】
(実施例3)
上記した細菌槽の容積を、実施例2の場合と同様に、BOD容積負荷が10kg/m3/dayとなるように設計した。そして、細菌槽のpHを5.5に調整して、連続通水試験を行った。細菌槽には、実施例2の場合と同様に、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。試験は10日間連続して行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目の各タイミングで細菌槽からの排水の一部を採水し、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果をグラフ化して示した。また、図4(2)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。実施例3の系で処理した場合のデータは、グラフ中に黒塗りの三角で示した。
【0042】
(実施例4)
上記した細菌槽の容積を、BOD容積負荷が5kg/m3/dayとなるように設計した。そして、細菌槽のpHを、実施例3と同様に5.5に調整して、連続通水試験を行った。細菌槽には、実施例2の場合と同様に、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。試験は10日間連続して行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目の各タイミングで細菌槽からの排水の一部を採水し、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果をグラフ化して示した。また、図4(2)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。実施例4の系で処理した場合のデータは、グラフ中に黒塗りの四角で示した。
【0043】
(比較例3)
本比較例では、先に述べた実施例3の系の処理条件では5.5に調整した細菌槽のpHを、7.5に変更した以外は実施例3の系と同様にして、連続通水試験を行った。そして、実施例3の系の場合と同様に、試験を連続して10日間処理を行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に採水を行い、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。実施例3の系と同様に、図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果を示し、図4(2)に、その際の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。比較例3の系で処理した場合のデータは、グラフ中に三角で示した。
【0044】
(比較例4)
本比較例では、先に述べた実施例4の系の処理条件では5.5に調整した細菌槽のpHを、7.5に変更した以外は実施例4の系と同様にして、連続通水試験を行った。そして、実施例4の系の場合と同様に、試験を連続して10日間処理を行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に採水を行い、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。実施例4の系と同様に、図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果を示し、図4(2)に、その際の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。比較例4の系で処理した場合のデータは、グラフ中に四角で示した。
【0045】
(実施例3、4、比較例3、4の評価結果)
図4(1)に示した通り、細菌槽内の廃水のpHを5.5に調整して処理した実施例3、4の系の比較から、細菌槽の負荷を向上させても、処理試験の開始から試験終了まで、細菌槽処理水の粘度の上昇は見られなかった。さらに、図4(2)に示したように、実施例3、4の系で処理した場合は、細菌槽処理水の溶解性BODも試験開始から試験終了まで、一定して低い値を示した。
これに対し、細菌槽内の廃水のpHを7.5に調整した比較例3、4の系では、図4(1)に示した通り、通水開始後、すぐに細菌槽内の粘度が上昇した。特に、容積負荷が高い比較例4では、その傾向が顕著であった。そして、上昇した粘度は、試験4日目から10日目でほとんど差異が見られず、高い粘性を安定して維持する状態となってしまうことが確認された。しかし、このとき粘度の大きさは、比較例2の系の場合と比較すると、およそ半分程度であった。そして、比較例3、4の系で処理した場合は、図4(2)に示したように、細菌槽処理水の溶解性BODも、粘度の結果と同様、試験開始から徐々に値が上昇し、実施例3、4の系の場合と比較して良好な処理ができなかった。
【0046】
以上の結果から、最終処理水の水質の悪化につながる細菌槽内で生じる粘度の上昇は、廃水のBODが2500mg/Lとそれほど高くない廃水であっても起こることが分かった。またその場合、比較例3で行ったように、細菌槽への流入BOD容積負荷を低くしても、細菌槽内の粘度の低減効果は、比較例4の系との比較から、その初期において若干認められると言えるものの、細菌槽内の廃水のpHを下げて5.5に調整した実施例3の系で処理した場合のような顕著な効果は得られないことを確認した。換言すれば、最終処理水の水質の悪化につながる細菌槽内の粘度の上昇を抑制する手段としては、細菌槽への流入BOD容積負荷にかかわらず、細菌槽内のpHを調整してpHを下げた状態で処理することが極めて有効であることが分かった。
図1
図2
図3
図4