【実施例】
【0021】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の単なる例示であって、本発明の限定を意図するものではない。
【0022】
<細菌槽と活性汚泥槽からなる構成で処理した場合の処理性についての検討>
まず、その前提として、実際の食品製造工場からの廃水を用い、下記のようにして、細菌槽或いは活性汚泥槽に生息する微生物による廃水の処理性能を評価した。
【0023】
(試験装置・試験条件)
細菌槽の後段に、活性汚泥槽および沈殿槽を設けた
図1に示したフローの生物処理装置を用意し、そこに、後述する性状の実際の食品製造工場からの廃水を連続的に通水して試験した。細菌槽の容積は、BOD容積負荷が10kg/m
3/dayとなるように設計し、活性汚泥槽の容積は、フローにおける生物処理槽全体でのBOD容積負荷が1kg/m
3/dayとなるようにそれぞれ設計した。廃水をまず細菌槽に流入し、細菌によって処理された廃水と増殖した細菌とが混合した細菌槽処理水を得た。その細菌槽処理水を固液分離することなく、連続的に活性汚泥槽に流入させて、活性汚泥による生物処理を行った。活性汚泥槽の後段には沈殿槽を設け、活性汚泥を固液分離した後、上澄水を最終処理水として得た。
【0024】
試験に用いた廃水は、食品製造工場から排出されたものであって、その性状は、BOD5000mg/L、COD
cr9500mg/L、ノルマルヘキサン抽出物50mg/Lのものであった。試験の際は、上記廃水に、栄養塩として、必要に応じて、尿素溶液とリン酸二水素カリウム溶液を添加した。
【0025】
処理に使用した細菌槽には、廃水のpHを調整するためのpH計と、該pH計と連動してpH調整用の薬剤が細菌槽内に混入できるようにするためのポンプを設置した。上記の試験では、ポンプを2台設置し、pH計で測定した細菌槽中の廃水のpHに対応して、それぞれのポンプを用いて硫酸と水酸化ナトリウム溶液を適宜に添加するように構成し、細菌槽中の廃水のpHを随時、特定の範囲内になるように調整できる構成とした。
【0026】
更に、試験期間中、適宜なタイミングで、細菌槽内および活性汚泥槽内の「汚泥における粘度」を下記の方法で測定した。すなわち、細菌槽処理水および活性汚泥槽内の活性汚泥を適宜なタイミングで採水し、500mLのビーカーに入れ、30℃で、粘度測定器(ブルックフィールド社製のアナログ粘度計RVT)を用いて、粘度を測定した。
【0027】
(実施例1)
図1に示すフローで、上記した条件としたことに加えて、細菌槽中の廃水のpHを5.5に調整して連続通水試験を行った。細菌槽には、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。具体的には、試験開始前に1日間、廃水に活性汚泥を添加したものを曝気し、細菌を増殖させた培養液を入れたものを細菌槽とした。活性汚泥槽には、下水処理場の返送汚泥を用いた。試験は、連続して10日間行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に、それぞれの槽からと、最終の処理水をそれぞれ採水して、得られたサンプルについて水質を分析した。各生物処理槽内から採水したサンプルの粘度についての結果をグラフ化して
図2(1)に示した。また、上記した経過日数において採取した生物処理装置から排出される最終処理水のSSについての結果をグラフ化して、
図2(2)に示した。実施例1の系で処理した場合のデータは、各グラフ中に黒丸で示した。
【0028】
(比較例1)
図1に示すフローで、細菌槽中の廃水のpHを7.5に調整して連続通水試験を行った以外は実施例1と同様の試験を行い、同様のタイミングでそれぞれ採水し、採水したサンプルについて同様の分析を行った。そして、実施例1の場合と同様に、各生物処理槽内から採水したサンプルの粘度についての結果をグラフ化して
図2(1)に示した。また、上記した経過日数において採取した生物処理装置から排出される最終処理水のSSについての結果をグラフ化して
図2(2)に示した。比較例1の系で処理した場合のデータは、各グラフ中にひし形で示した。
【0029】
(実施例1と比較例1の評価結果)
図2(1)に示した通り、実施例1の細菌槽内の廃水のpHを5.5に調整して処理した系においては、細菌槽内および活性汚泥槽内において、処理試験の開始から試験終了まで、粘度の上昇が見られなかった。さらに、
図2(2)に示したように、実施例1の系で処理した場合は、最終処理水のSSは、試験開始から試験終了まで一定して低い値を示した。これに対し、比較例1の細菌槽の廃水のpHを7.5に調整して処理した系においては、
図2(1)に示した通り、実施例1の系で処理した場合とは異なり、通水開始後すぐに細菌槽内の粘度が上昇し、その後、後段の活性汚泥槽内の粘度も上昇した。また、増大した粘度は、試験4日目から10日目でほとんど差異が見られず、高い粘度を安定して維持する状態となってしまうことが確認された。そして、この比較例1の系で処理した場合は、
図2(2)に示したように、最終処理水のSSも、粘度の結果と同様、試験開始から徐々に値が上昇し、処理時間の経過に伴って良好な処理ができなくなることがわかった。
【0030】
以上の結果から、細菌槽内で高い粘度が発生した場合、活性汚泥槽内の粘度も上昇し、活性汚泥の固液分離性が悪化する事態となることが分かった。
【0031】
<細菌槽内のpHと細菌槽処理水の粘度との関係、粘度増大の抑制効果の検討>
先の実施例1および比較例1の試験で、細菌槽内の廃水のpHの値によって最終処理水の性状が異なる現象が生じることが確認されたことから、この点について更に詳細な検討を行った。具体的には、細菌槽のみで構成した生物処理装置を用意し、この装置を用いて食品製造工場からの実際の廃水を連続的に通水して検討試験を行った。使用した細菌槽の容積は、BOD容積負荷が10kg/m
3/dayとなるように設計した。そして、廃水をこの細菌槽に流入し、細菌槽内で細菌によって処理された廃水と、槽内でBODを栄養にして増殖した細菌とが混合した細菌槽処理水を得た。
【0032】
試験に用いた廃水は、先に使用したと同様の食品製造工場からのものであり、その性状は、BOD5000mg/L、COD
cr9500mg/L、ノルマルヘキサン抽出物50mg/Lのものである。試験の際には、必要に応じて、栄養塩として尿素溶液とリン酸二水素カリウム溶液を添加した。
【0033】
上記した細菌槽のみで構成した生物処理装置は、実施例1で使用したと同様に、細菌槽に、pH計と、細菌槽内の廃水のpHを随時調整する目的で、pH計と連動するポンプを2台設置し、それぞれのポンプで、硫酸と水酸化ナトリウム溶液が適宜に添加されるように構成した。そして、試験期間中、適宜なタイミングで、細菌槽内の汚泥における粘度を測定した。具体的には、各タイミングで採取した細菌槽処理水をそれぞれ、500mLのビーカーに入れ、前記した粘度測定器を用いて粘度を測定した。
【0034】
(実施例2)
上記した条件としたことに加え、細菌槽のpHを4.5に調整して、連続通水試験を行った。細菌槽には、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。より具体的には、試験開始前に1日間、廃水に活性汚泥を添加したものを曝気し、細菌を増殖させた培養液を入れて細菌槽とした。処理試験は、連続して10日間行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に、各タイミングにおける細菌槽からの排水の一部を採水して、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。
図3(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果を示した。また、
図3(2)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。実施例2の系で処理した場合のデータは、各グラフ中に四角で示した。
【0035】
(比較例2)
上記した条件で、細菌槽のpHを6.5に調整して連続通水試験を行った以外は実施例2と同様にして試験を行い、同様のタイミングでそれぞれ細菌槽処理水を採水した。そして、実施例2の場合と同様に、各タイミングにおける細菌槽処理水の粘度についての結果をグラフ化して
図3(1)に示した。また、上記した各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水についての溶解性BODの結果をグラフ化して、
図3(2)に示した。比較例2の系で処理した場合のデータは、各グラフ中に×印で示した。
【0036】
(実施例2と比較例2の評価結果)
図3(1)に示した通り、細菌槽内の廃水のpHを4.5に調整して処理した実施例2の系においては、処理試験の開始から試験終了まで、細菌槽処理水の粘度の上昇は見られなかった。さらに、
図3(2)に示したように、実施例2の系で処理した場合は、細菌槽処理水の溶解性BODも試験開始から試験終了まで、一定した低い値を示した。これに対し、細菌槽内の廃水のpHを6.5に調整した比較例2の系においては、
図3(1)に示した通り、通水開始後、すぐに細菌槽内の粘度が上昇した。そして、増大した粘度は、試験4日目から10日目でほとんど差異が見られず、高い粘度を安定して維持する状態となってしまうことが確認された。そして、比較例2の系で処理した場合は、
図3(2)に示したように、細菌槽処理水の溶解性BODも、粘度の結果と同様、試験開始から徐々に値が上昇し、実施例2の系の場合と比較して良好な処理ができなかった。
【0037】
以上の結果から、最終処理水の水質の悪化につながる細菌槽内で生じる粘度が高くなる粘度の上昇の抑制には、細菌槽内の廃水のpHを低くするように調整して処理することが有効であることが分かった。すなわち、細菌槽内での廃水の粘度の上昇を抑制する方法としては、処理を行う場合における細菌槽内の廃水のpHを低く保つこと、少なくとも4.5程度に低くなるように調整して処理することが有効であることが確認された。
【0038】
<細菌槽のpH調整と、組み合わせる要件の違いによる粘度増大の抑制効果の検討>
実施例2で使用したと同様の、細菌槽のみで構成した生物処理装置を用意し、この装置を用いて食品製造工場からの実際の廃水を連続的に通水して検討試験を行った。具体的には、pHを一定にし、細菌槽の負荷を変更して、細菌槽中の廃水の粘度向上に及ぼす影響について検討した。この生物処理装置では、実施例2の場合と同様に、廃水を細菌槽に流入し、細菌槽内で細菌によって処理された廃水と増殖した細菌とが混合した細菌槽処理水が得られる。
【0039】
試験に用いた廃水は、実施例1、2の場合と同様に食品製造工場から排出されたものであるが、先の各試験で使用したものとは性状が異なる、BOD2500mg/L、COD
cr2950mg/L、ノルマルヘキサン抽出物30mg/Lであるものを使用した。また、試験の際は、栄養塩として、必要に応じて、尿素溶液とリン酸二水素カリウム溶液を添加した。
【0040】
上記した細菌槽のみで構成した生物処理装置は、実施例2で使用したと同様に、細菌槽に、pH計と、細菌槽内の廃水のpHを随時調整する目的で、pH計と連動するポンプを2台設置し、それぞれのポンプで、硫酸と水酸化ナトリウム溶液が適宜に添加されるように構成した。そして、試験期間中、適宜なタイミングで、細菌槽内の汚泥における粘度を測定した。具体的には、細菌槽処理水をそれぞれ、500mLのビーカーに入れ、前記した粘度測定器を用いて粘度を測定した。
【0041】
(実施例3)
上記した細菌槽の容積を、実施例2の場合と同様に、BOD容積負荷が10kg/m
3/dayとなるように設計した。そして、細菌槽のpHを5.5に調整して、連続通水試験を行った。細菌槽には、実施例2の場合と同様に、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。試験は10日間連続して行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目の各タイミングで細菌槽からの排水の一部を採水し、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。
図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果をグラフ化して示した。また、
図4(2)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。実施例3の系で処理した場合のデータは、グラフ中に黒塗りの三角で示した。
【0042】
(実施例4)
上記した細菌槽の容積を、BOD容積負荷が5kg/m
3/dayとなるように設計した。そして、細菌槽のpHを、実施例3と同様に5.5に調整して、連続通水試験を行った。細菌槽には、実施例2の場合と同様に、予め培養しておいた細菌混合液を入れたものを使用した。試験は10日間連続して行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目の各タイミングで細菌槽からの排水の一部を採水し、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。
図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果をグラフ化して示した。また、
図4(2)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。実施例4の系で処理した場合のデータは、グラフ中に黒塗りの四角で示した。
【0043】
(比較例3)
本比較例では、先に述べた実施例3の系の処理条件では5.5に調整した細菌槽のpHを、7.5に変更した以外は実施例3の系と同様にして、連続通水試験を行った。そして、実施例3の系の場合と同様に、試験を連続して10日間処理を行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に採水を行い、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。実施例3の系と同様に、
図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果を示し、
図4(2)に、その際の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。比較例3の系で処理した場合のデータは、グラフ中に三角で示した。
【0044】
(比較例4)
本比較例では、先に述べた実施例4の系の処理条件では5.5に調整した細菌槽のpHを、7.5に変更した以外は実施例4の系と同様にして、連続通水試験を行った。そして、実施例4の系の場合と同様に、試験を連続して10日間処理を行い、処理の開始前、1日目、2日目、4日目、10日目に採水を行い、採水した細菌槽処理水の水質をそれぞれ分析した。実施例4の系と同様に、
図4(1)に、各タイミングでサンプリングした細菌槽処理水の粘度についての結果を示し、
図4(2)に、その際の溶解性BODについての結果をグラフ化して示した。比較例4の系で処理した場合のデータは、グラフ中に四角で示した。
【0045】
(実施例3、4、比較例3、4の評価結果)
図4(1)に示した通り、細菌槽内の廃水のpHを5.5に調整して処理した実施例3、4の系の比較から、細菌槽の負荷を向上させても、処理試験の開始から試験終了まで、細菌槽処理水の粘度の上昇は見られなかった。さらに、
図4(2)に示したように、実施例3、4の系で処理した場合は、細菌槽処理水の溶解性BODも試験開始から試験終了まで、一定して低い値を示した。
これに対し、細菌槽内の廃水のpHを7.5に調整した比較例3、4の系では、
図4(1)に示した通り、通水開始後、すぐに細菌槽内の粘度が上昇した。特に、容積負荷が高い比較例4では、その傾向が顕著であった。そして、上昇した粘度は、試験4日目から10日目でほとんど差異が見られず、高い粘性を安定して維持する状態となってしまうことが確認された。しかし、このとき粘度の大きさは、比較例2の系の場合と比較すると、およそ半分程度であった。そして、比較例3、4の系で処理した場合は、
図4(2)に示したように、細菌槽処理水の溶解性BODも、粘度の結果と同様、試験開始から徐々に値が上昇し、実施例3、4の系の場合と比較して良好な処理ができなかった。
【0046】
以上の結果から、最終処理水の水質の悪化につながる細菌槽内で生じる粘度の上昇は、廃水のBODが2500mg/Lとそれほど高くない廃水であっても起こることが分かった。またその場合、比較例3で行ったように、細菌槽への流入BOD容積負荷を低くしても、細菌槽内の粘度の低減効果は、比較例4の系との比較から、その初期において若干認められると言えるものの、細菌槽内の廃水のpHを下げて5.5に調整した実施例3の系で処理した場合のような顕著な効果は得られないことを確認した。換言すれば、最終処理水の水質の悪化につながる細菌槽内の粘度の上昇を抑制する手段としては、細菌槽への流入BOD容積負荷にかかわらず、細菌槽内のpHを調整してpHを下げた状態で処理することが極めて有効であることが分かった。