特許第6374176号(P6374176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6374176植物体に用いる組換えベクター及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374176
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】植物体に用いる組換えベクター及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/65 20060101AFI20180806BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C12N15/65 ZZNA
   A01H1/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-25910(P2014-25910)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-149933(P2015-149933A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 理枝
(72)【発明者】
【氏名】島谷 善平
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−507446(JP,A)
【文献】 国際公開第03/020940(WO,A1)
【文献】 特開2000−083680(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/145757(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物体に用いる相同組換えベクターであって、
相同組換え体であることを肯定するポジティブ選択マーカーを発現するための領域と、
非相同組換え体であることを肯定するネガティブ選択マーカーを発現するための領域と、
部位特異的酵素をコードする領域を有する部位特異的酵素領域と前記部位特異的酵素の識別部位とを含む部位特異的組換え系と、
を備え、
前記ポジティブ選択マーカーを発現するための領域及び前記部位特異的組換え系は、相同組換え可能に構成されるとともに、前記部位特異的酵素のコード領域は、組織分化誘導性プロモーターの制御下に配置されており、前記組織分化誘導性プロモーターが作動することにより前記ポジティブ選択マーカーを発現するための領域及び前記部位特異的酵素領域が削除されるように構成されている、相同組換えベクター。
【請求項2】
前記組織分化誘導性プロモーターは、光誘導型プロモーターである、請求項1に記載の相同組換えベクター。
【請求項3】
前記組織分化誘導性プロモーターは、緑化組織分化誘導性プロモーターである、請求項1又は2に記載の相同組換えベクター。
【請求項4】
前記組織分化誘導性プロモーターは、LP2遺伝子プロモーターである、請求項1〜3のいずれかに記載の組換えベクター。
【請求項5】
前記識別部位が、前記部位特異的酵素領域と前記ポジティブ選択マーカー領域とを挟むように構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の組換えベクター。
【請求項6】
相同組換え植物体の作製方法であって、
前記植物体が未分化状態を維持できかつ前記組織分化誘導性プロモーターを活性化しない未分化環境下で、所望の導入領域を組換え可能に保持する請求項1〜5のいずれかに記載の相同組換えベクターを前記植物体に導入し、前記ネガティブ選択マーカー及び前記ポジティブ選択マーカーを利用して第1の相同組換え植物体を取得する工程と、
前記第1の相同組換え植物体を、前記植物体の分化を誘導できかつ前記組織分化誘導性プロモーターを活性化できる分化誘導環境下で培養して第2の相同組換え植物体を取得する工程と、
を備える、作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、植物体に用いる組換えベクター及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物において染色体における遺伝子の相同組換え、すなわち、意図した染色体上の部位における外来遺伝子の導入は生じうるが、その確率は低いとされている。意図した遺伝子の組み込み状態及び遺伝子発現を得るには、相同組換え体を得ることが必要である。また、こうした相同組換え体を効率的に選択できるとともに、本来的に植物体に必要でない選択マーカー遺伝子が染色体上から排除されるべきである。
【0003】
そこで、植物体において、組換え体を選択するための選択マーカーの除去と相同組換えの効率向上を意図した手法が種々試みられている。
【0004】
相同組換え用のターゲティングベクターに、組換え体を選択できるポジティブ選択マーカーと、非相同組換え体を高頻度にて致死させることで削除できるネガティブ選択マーカーとを組み込むことで、効率的に相同組換え体を選択できる手法が開示されている(特許文献1)。また、ポジティブ選択マーカーを導入した組換え植物体を部位特異的組換え系を導入した組換え植物体と交配させることで、交配植物体の細胞内で部位特異的組換え酵素を発現させることでポジティブ選択マーカーを染色体から排除することが開示されている(特許文献1)。さらに、こうしたポジティブ選択マーカーの除去を効率化するために、部位特異的組換え系を化学的誘導系プロモーター等で誘導発現させることも開示されている(特許文献2)。
【0005】
なお、相同組換えを意図したものではないが、組換え用のベクターに組換え体を選択できるポジティブ選択マーカーとして、光誘導型プロモーターの制御下で不定芽を形成する遺伝子を用いることで組換えの安全性を確保するとともに効率化することも記載されている(特許文献3)。このベクターには、化学的誘導系プロモーターの制御下に連結された部位特異的組換え系遺伝子を保持することで、外部からの発現誘導によりポジティブ選択マーカーを削除することも開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/020940
【特許文献2】特開2008−253254号公報
【特許文献3】特開2000−83680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、依然として、植物体における相同組換え体を取得する効率は必ずしも十分ではなかった。本発明者らが、種々検討したところ、特許文献2記載のCreリコンビナーゼなどの部位特異的組換え系の発現誘導系では、誘導前のプロモーター活性の十分な抑制ができずに、部位特異的組換え酵素が発現してしまうことがわかった。意図せず部位特異的組換え系が発現してしまうため、相同組換え体を選択するのに不可欠なポジティブ選択マーカーがポジティブ−ネガティブ選択工程の途中で失われる可能性が推測された。すなわち、相同組換えに成功したにも関わらず、組換え細胞の選択・増殖の前にポジティブ選択マーカーが失われていることが推測された。加えて、確率の低い相同組換えが生じる以前に細胞に導入された相同組換えベクターからもポジティブ選択マーカーが失われ相同組換えの成功の確率がさらに低下することも予測された。
【0008】
そして、こうしたポジティブ選択マーカーの意図しない除去により、結果として、相同組換え体を効率的に取得できないことの原因になっていることが予測された。
【0009】
本明細書は、相同組換え体などの組換え植物体をより効率的に作製する技術を提供する。より具体的には、相同組換え体を取得するためのポジティブ−ネガティブ選択システムにおいて、ポジティブ選択マーカーを除去するための部位特異的組換え系の発現の制御等を改善して、簡便かつ高頻度にて相同組換えからポジティブ−ネガティブ選択までのプロセスをより効果的に実施できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、組換え体の作製プロセスにおいて、部位特異的組換え系の発現の抑制と促進のスイッチングに着目して検討したところ、カルスの未分化状態では抑制され再分化に近い状態において活性化するプロモーターの制御下に部位特異的組換え酵素遺伝子を保持するようにベクターを構築することで、ポジティブ選択マーカーを必要時において確実に保持すること及びその後は高効率にて除去できるという知見を得た。また、この結果、相同組換え体作製効率の低下を回避しつつ部位特異的組換え系によるポジティブ選択マーカーの削除効率を飛躍的に高めることができるという知見を得た。本明細書は、これらの知見に基づき以下の教示を提供する。
【0011】
(1)植物体に用いる相同組換えベクターであって、
組換え体であることを肯定するポジティブ選択マーカー領域と、
非相同組換え体であることを肯定し削除するネガティブ選択マーカー領域と、
部位特異的組換え酵素領域と、
前記ポジティブ選択マーカー領域及び前記部位特異的組換え酵素領域を除去するための部位特異的組換え系と、
を備え、
前記部位特異的組換え系を組織分化誘導性プロモーターの制御下に備える、相同組換えベクター。
(2)前記組織分化誘導性プロモーターは、光誘導型プロモーターである、(1)に記載の相同組換えベクター。
(3)前記組織分化誘導性プロモーターは、緑化組織分化誘導性プロモーターである、(1)又は(2)に記載の相同組換えベクター。
(4)前記組織分化誘導性プロモーターは、LP2遺伝子プロモーターである、(1)〜(3)のいずれかに記載の組換えベクター。
(5)植物体に用いるランダム組換えベクターであって、
組換え体であることを肯定するポジティブ選択マーカーを発現するための領域と、
前記ポジティブ選択マーカー領域及び部位特異的組換え酵素領域を除去するための部位特異的組換え系と、
を備え、
前記部位特異的組換え系を組織分化誘導性プロモーターの制御下に備える、組換えベクター。
【0012】
(6)相同組換え植物体の作製方法であって、
前記植物体が未分化状態を維持できかつ前記組織分化誘導性プロモーターを活性化しない未分化環境下で、所望の導入領域を組換え可能に保持する(1)に記載の相同組換えベクターを前記植物体に導入し、前記ネガティブ選択マーカー及び前記ポジティブ選択マーカーを利用して第1の相同組換え植物体を取得する工程と、
前記第1の相同組換え植物体を、前記植物体の分化を誘導できかつ前記組織分化誘導性プロモーターを活性化できる分化誘導環境下で培養して部位特異的組換えが生じた第2の相同組換え植物体を取得する工程と、
を備える、作製方法。
(7)ランダム組換え植物体の作製方法であって、
前記植物体が未分化状態を維持できかつ前記分化誘導性プロモーターを活性化しない未分化環境下で、所望の導入領域を組換え可能に保持する(5)に記載のランダム組換えベクターを前記植物体に導入し、前記ポジティブ選択マーカーを利用して第1のランダム組換え植物体を取得する工程と、
前記第1のランダム組換え植物体を、前記植物体の分化を誘導できかつ前記組織分化誘導性プロモーターを活性化できる分化誘導環境下で培養して部位特異的組換えが生じた第2のランダム組換え植物体を取得する工程と、
を備える、作製方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】相同組換えベクターの概要を示す図である。
図1B】相同組換えベクターを用いた組換えの概要を示す図である。
図2A】ランダム組換えベクターの概要を示す図である。
図2B】ランダム組換えベクター用いた組み換えの概要を示す図である。
図3】エストラジオール誘導型Cre発現ユニットの構築を示す図である。
図4】光及び緑化組織誘導型Cre発現ユニットの構築を示す図である。
図5】Cre−loxP部位特異的組換え評価用ベクターの構造を示す図である。
図6】Cre−loxP部位特異的組換え評価用ベクター(ポジティブコントロールベクター)の構造とイネ培養細胞における評価試験結果を示す図である。
図7】Cre−loxP部位特異的組換え評価用ベクター(ネガティブコントロールベクター)の構造とイネ培養細胞における評価試験結果を示す図である。
図8】エストラジオール誘導型Cre発現ユニットの評価試験を示す図である。
図9】エストラジオール誘導型Cre発現ユニットの誘導条件の検討結果を示す図である。
図10】PCR解析によるpZEN21を導入したイネカルスにおけるCre−loxP組換えの検出を示す図である。
図11】光及び緑化組織誘導型LP2プロモーターによるCre発現ベクターの構造とCre発現を示す図である。
図12】ターゲティング遺伝子改変用基本ベクターを示す図である。
図13】OsRacGEF1遺伝子改変用ベクター及びコントロールベクターを示す図である。
図14】セルフマーカーフリー型OsRacGEF1遺伝子改変用ターゲティングベクター及びコントロールベクターを示す図である。
図15】セルフマーカーフリーターゲティングシステムによるOsRacGEF1遺伝子の改変を示す図である。
図16】OsRacGEF1遺伝子改変用のセルフマーカーフリー型遺伝子改変ターゲティングベクターを持つT−DNA領域のランダム挿入を示す図である。
図17】PCR解析によるOsRacGEF1ターゲティング改変体の選抜を示す図である。
図18】PCR解析によるマーカー遺伝子削除の成否判定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書の開示は、植物体に用いる組換えベクター及びその利用に関する。詳しくは、相同組換え体などの組換え植物体をより効率的に作製する技術に関する。より具体的には、相同組換え体を取得するためのポジティブ−ネガティブ選択システムにおいて、ポジティブ選択マーカーを除去するための部位特異的組換え系の発現の制御を改善して、確実にポジティブ−ネガティブ選択を介した相同組換え遺伝子領域からポジティブ選択マーカー遺伝子削除までのプロセスをより効果的に実施できる技術に関する。
【0015】
本明細書の開示は、植物体から組換えに用いた選択マーカーを排除するにあたり、部位特異的組換え系を組織の分化誘導により活性化する組織分化誘導性プロモーターの制御下に備えることを特徴とする。
【0016】
部位特異的組換え系を誘導するスイッチとしては、従来、化学誘導系プロモーターが主として用いられてきたが、このプロモーターの発現抑制が相同組換え工程において不十分であって選択マーカーが意図せず喪失していること、及びその結果、効率的に相同組換え体が得られないことは、知られていなかった。すなわち、本発明者らは、効率的に組換え植物体、特に相同組換え植物体を得るには、部位特異的組換え系の確実な抑制と活性化の確実なスイッチングの実現をすることが予想以上に重要であることを見出した。
【0017】
そして、本発明者らは、さらに、組換え植物体の作製プロセスは、未分化状態の植物体に遺伝子を導入して組換えを生じさせた後、組織分化を誘導することにも着目し、こうしたプロセスを利用して部位特異的組換え系の発現抑制と活性化のスイッチングを行うことが有利であることを見出したのである。
【0018】
本明細書は、こうした知見を具現化する手段として、植物体用の組換えベクターと、組換え植物体の作製方法等を提供する。
【0019】
本明細書において「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、葉緑体、硬い細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在、および運動する能力がない生物により特徴付けられる。典型的には、植物体は、細胞壁の形成・葉緑体による同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。単子葉植物としては、イネ科植物が挙げられる。好ましい単子葉植物としては、トウモロコシ、コムギ、イネ、エンバク、オオムギ、ソルガム、ライムギ及びアワが挙げられ、さらに好ましくは、トウモロコシ、コムギ、イネが挙げられるが、これらに限定されない。コムギには、従来法では形質転換体を得ることが困難であったコムギ品種農林61号も含まれる。
【0020】
双子葉植物としては、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物が挙げられるが、これらに限定されない。アブラナ科植物としては、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワーが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいアブラナ科植物は、ハクサイおよびナタネである。特に好ましいアブラナ科植物は、ナタネである。マメ科植物としては、ダイズ、アヅキ、インゲンマメ、ササゲが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいマメ科植物は、ダイズである。ナス科植物としては、トマト、ナス、バレイショが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいナス科植物は、トマトである。ウリ科植物としては、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいウリ科植物は、マクワウリである。ヒルガオ科植物としては、アサガオ、カンショ、ヒルガオが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいヒルガオ科植物は、アサガオである。
【0021】
さらに、植物種の例としては、ナス科、イネ科、アブラナ科、バラ科、マメ科、ウリ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、セリ科、ヒルガオ科、キク科などの植物が挙げられる。さらに、本発明において使用され得る植物種の例としては、任意の樹木種、任意の果樹種、クワ科植物(例えば、ゴム)、およびアオイ科植物(例えば、綿花)が挙げられる。
【0022】
アブラナ科の植物の例としては、Raphanus、Brassica、Arabidopsis、Wasabia、またはCapsellaに属する植物が挙げられ、例えば、大根、アブラナ、シロイヌナズナ、ワサビ、ナズナなどを含む。
【0023】
イネ科の植物の例としては、Oryza、Triticum、Hordeum、Secale、Saccharum、Sorghum、またはZeaに属する植物が挙げられ、例えば、イネ、オオムギ、ライムギ、サトウキビ、ソルガム、トウモロコシなどを含む。
【0024】
植物体は、植物個体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。なお、第1の相同組換え植物体、第1のランダム組換え植物体等の表現においては、植物体は、当業者の技術常識に基づいて植物細胞、植物組織、植物器官等として理解される。
【0025】
本明細書において、単に組換えとは、特に特定されない場合、相同組換え及びランダム組換えの双方を含んでいる。
【0026】
本明細書において、「領域」の語は、所定のタンパク質をコードするDNA等の核酸領域、所定のタンパク質をコードする領域と当該領域の翻訳等によりタンパク質として発現させることができるような他の領域とを備える核酸領域、それ自体で相同組換えを実行させることができる核酸領域、意図的な遺伝子改変や外来性タンパク質などをコードする核酸領域、所定の機能を持つRNAの転写配列を含むDNA等の核酸領域など、本明細書における組換えにおいて、それ自体で機能的でありうる核酸領域に対して用いる。
【0027】
(植物に用いる組換えベクター)
本明細書に開示される、植物に用いる組換えベクターは、植物ゲノムへのランダムな外来性核酸(導入領域)の導入を意図したランダム組換えベクターと、ゲノム上の特定の標的部位への外来性核酸(導入領域)の導入を意図した相同組換えベクター(ターゲティングベクター)とを包含している。図1A及び図2Aに、相同組換えベクター及びランダム組換えベクターの概要をそれぞれ示す。後述するように、両者の相違は、相同組換えベクターにはゲノムの標的部位に当該ベクター上の外来性の導入領域を相同組換えを介して挿入するための相同組換え領域を有しているのに対し、ランダム組換えベクターは、ターゲティングのための相同組換え領域を有していない点、ターゲティングベクターは、は組換えを肯定するポジティブ選択マーカー領域と非相同組換えを肯定するネガティブ選択マーカー領域とを有しているのに対し、ランダム組換えベクターは、組換えを肯定するポジティブ選択マーカー領域のみを有する点において少なくとも相違する。さらに、相同組換えベクターは、ネガティブ選択マーカー領域を備えているのに対し、ランダム組換えベクターは、ネガティブ選択マーカー領域を備えていない点においても相違する。
【0028】
以下、図1に示す相同組換えベクターについてまず説明し、その後、図2に示すランダム組換えベクターについて説明する。
【0029】
図1Aに示すように、相同組換えベクターは、相同組換えカセットを備えている。相同組換えカセットは、概して、公知のベクター上の一部に備えられている。例えば、相同組換えベクターがアグロバクテリウム媒介性のベクターの場合には、T−DNAの右側境界であるRB及び左側境界であるLBの間に備えられる。
【0030】
(ポジティブ選択マーカー領域)
図1Aに示すように、相同組換えベクターは、組換え体であることを肯定するポジティブ選択マーカー領域を備えている。
【0031】
選択マーカーは、一般に、ベクターなどの核酸構築物を含む宿主細胞を選択する指標として機能する遺伝子をいう。選択マーカーとしては、例えば、蛍光マーカー、発光マーカー、および薬剤耐性選択マーカーが挙げられるが、これらに限定されない。「蛍光マーカー」としては、緑色蛍光プロテイン(GFP)、青色蛍光プロテイン(CFP)、黄色蛍光プロテイン(YFP)および赤色蛍光プロテイン(dsRed)のような蛍光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「発光マーカー」としては、ルシフェラーゼのような発光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。「薬剤耐性選択マーカー」としてはヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、グルタミンシンセターゼ遺伝子、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、メタロチオネイン(MT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アデノシンデアミナーゼ(AMPD1,2)、キサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ、UMPシンターゼ、P−グリコプロテイン、アスパラギンシンテターゼ、およびオルニチンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子が挙げられる。
【0032】
ポジティブ選択マーカーとしては、概して、当該ポジティブ選択マーカーが、植物細胞の染色体に導入され発現させることが、その細胞の増殖の必須及び/又は増殖を促進するマーカーであることが好ましい。ポジティプ選択マーカーとしては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、イミダゾリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子のような薬剤耐性遺伝子、グリフォセート耐性遺伝子、フォスフォマンノースイソメラーゼ遺伝子、ブラストタイジンS耐性遺伝子、Bar遺伝子及びグリフォシネート耐性遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
ポジティブ選択マーカー領域は、適当なプロモーター領域やターミネーター領域等を伴って、相同組換えカセット内に備えられる。また、ポジティブ選択マーカー領域は、最終的には植物体ゲノムから部位特異的組換え系により除去されるため、除去により、染色体等に組み込もうとする導入領域の機能発現を妨げない位置に備えられる。例えば、図1A,Bに示すように、相同組換えカセットにおいては、標的ゲノムのイントロンなどに配置されるように構成されることが好ましい。
【0034】
(ネガティブ選択マーカー領域)
図1A,Bに示すように、相同組換えベクターは、さらに、非相同組換え体であることを肯定するネガティブ選択マーカー領域を備えている。ネガティブ選択マーカー領域は、概して、相同組換えベクターの相同組換えによりゲノムへの導入が予定されている領域(導入領域)が意図した染色体上の標的領域以外に導入されたとき、細胞の増殖を阻害および/または抑制することによって、相同組換えベクターの導入領域が標的領域に導入された細胞の選択を可能とするマーカーを意味している。典型的には、ネガティブ選択マーカー領域は、標的領域での相同組換えによらずに相同組換えベクターがゲノム中に挿入されたとき、その細胞の増殖を阻害および/または抑制する。これに対して、相同組換えベクター内の導入領域が意図した相同組換えによって標的領域に導入される場合には、例えば、導入領域の外側にある付加配列としてのネガティブ選択マーカーは、ゲノム中に挿入されることがない。このため、細胞の増殖を、阻害・抑制しない。
【0035】
ネガティブ選択マーカーとしては、ジフテリア毒素タンパク質A鎖遺伝子(DT−A)、Exotoxin A遺伝子、Ricin toxin A遺伝子、codA遺伝子、シトクロムP−450遺伝子、RNase T1遺伝子およびbarnase遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
ネガティブ選択マーカー領域は、適当なプロモーター及びターミネーターを伴って、相同組換えカセット片端又は図1A,Bに示すように両端に備えられる。ネガティブ選択マーカー領域は、カセットの両端にそれぞれ備えられていることが好ましい。こうすることで、ネガティブ選択マーカー領域によって非相同組換え体が確実に排除されることになる。2つのネガティブ選択マーカー領域は逆方向で備えられていてもよい。
【0037】
ポジティブ選択マーカー領域やネガティブ選択マーカー領域が伴うプロモーターやターミネーター、あるいはエンハンサー等は、当該分野において周知であり、当業者であれば、公知の要素から適宜選択して選択マーカーを機能的に保持させることができる。
【0038】
(相同領域)
図1A,Bに示すように、相同組換えベクターは、植物体の染色体の標的領域と相同組換えを可能とする相同領域を備えることができる。相同組換えベクターが相同領域を備えるとき、相同領域は、本ベクターの他の要素の機能発現を許容し、かつ他の要素により自身の機能発現が許容されるような部位に備えられる。相同領域は、概して、カセットの両端近傍に備えられる。ネガティブ選択マーカー領域をカセット両端に備える場合には、各ネガティブ選択マーカー領域のすぐ内側に備えられる。こうすることで、標的領域に対して相同組換えが適切に実行されると、ネガティブ選択マーカー領域は染色体に組み込まれないことになる。
【0039】
(導入領域)
図1A,Bに示すように、相同組換えベクターは、導入領域(例えば塩基置換などを含む改変遺伝子や全く異種の遺伝子など)を備えていてもよい。導入領域は、相同領域と同様、植物体の染色体の一部を置換するものである。相同組換えベクターが導入領域を備えるとき、導入領域は、本ベクターの他の要素の機能発現を許容し、かつ他の要素により自身の機能発現が許容されるような部位に備えられる。例えば、導入領域は、図1A,Bに示すようにカセットの両側にある2つの相同領域のそれぞれの内側に、あるいは一方の相同領域の内側に備えられる。
【0040】
図1A,Bに示すように、導入領域又は相同領域は、後述する部位特異的組換え系及びポジティブ選択マーカー領域を標的ゲノム上のイントロン内に配置されるように構成されていることが好ましい。こうすることで、相同組換えベクターの構築が容易になる。
【0041】
なお、図12に示すように、相同組換えベクターは、導入領域や相同領域を備えない形態であってもよい。すなわち、標的ゲノムに特異的な導入領域や相同領域を挿入可能に、ネガティブ選択マーカー領域とポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え系とを備えている形態であってもよい。この場合、図1A,B及び図12に示すように、導入領域及び相同領域を相同組換えベクターに組み込むための制限酵素部位を、部位特異的組換え系の識別部位の外側に備えることができる。図1A,Bに示す場合においては、制限酵素部位を、3’側のネガティブ選択マーカー領域とその上流側の識別部位との間と、5’側のネガティブ選択マーカー領域のすぐ下流側の識別部位との間の2箇所に備えることができる。
【0042】
(部位特異的組換え系)
図1A,Bに示すように、相同組換えベクターは、ポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え酵素領域とを除去するための部位特異的組換え系を備えることができる。
【0043】
部位特異的組換え系とは、部位特異的組換え酵素領域と当該酵素の識別部位からなる系であり、当業者において周知である。例えばバクテリオファージPI由来のCre/loxP組換え系は、CreリコンビナーゼとloxPの組合せにより不要な部分を削除する方法である。R/RS組換え系は、R遺伝子がコードするリコンビナーゼとRS配列の組合わせにより、2つのRS配列に囲まれたDNA領域の欠失を誘導する方法である。また、2μ環状プラスミド由来のFLP−FRT組換え系は、FLPリコンビナーゼとFRT配列の組合わせにより、2つのFRT配列に囲まれたDNA領域の欠失を誘導する方法である。こうした組換え系としては、代表的には、部位特異的組換え酵素としてCreリコンビナーゼ、部位特異的組換え酵素の認識配列としてloxPを使用するCre/loxP系であるが、これに限定はされず、また、トランスポゾン両末端のトランスポザーゼによる認識配列とトランスポザーゼをコードする遺伝子の組み合わせであっても良く、上述のように種々の生物由来の組換え系であって植物体に適用可能な系が使用され得る。なお、各種組換え系における部位特異的組換え酵素及びその識別部位の塩基配列等の情報は、当業者において周知であり、当業者であれば周知の情報に基づき、植物に適用可能な公知の部位特異的組換え酵素及び識別部位を適宜選択して本明細書の開示に適用できる。
【0044】
部位特異的組換え系を使用することにより、組換えによって一旦はゲノム中に挿入されたDNAなどの領域を削除することができる。すなわち、例えば、Cre−loxPを用いる系では、2つのloxPなどの認識部位で挟んだ領域をCreリコンビナーゼなどの部位特異的組換え酵素により相同組換えを生じさせてloxP間領域が除去される。
【0045】
本明細書の開示によれば、相同組換えベクターは、ポジティブ選択マーカー領域に加えて部位特異的組換え系の一部である部位特異的組換え酵素領域自身を除去するように、部位特異的組換え系を備えている。こうすることで、相同組換えベクターを導入して形質転換した植物細胞において部位特異的組換え酵素を発現させることにより、ポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え酵素領域とが自律的に除去されることになる。例えば、Cre−loxP系を用いる場合には、図1Bに示すように、部位特異的組換え系の識別部位でポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え酵素領域とを挟むことで、これらの自律的除去が可能となる。
【0046】
(組織分化誘導性プロモーター)
部位特異的組換え系は、組織分化誘導性プロモーターの制御下に備えられている。すなわち、部位特異的組換え酵素領域が組織分化誘導性プロモーターによって発現が制御されるように備えられ、識別部位間において部位特異的組換えを実行可能となっている。組織分化誘導性プロモーターは、そのプロモーターの種類に応じた組織の分化によって誘導されて活性化し、制御下にある遺伝子の発現を促進するプロモーターである。組織分化誘導性プロモーターの制御下に部位特異的組換え系を備えることで、植物体を分化誘導できかつ組織分化誘導性プロモーターを活性化できる分化誘導環境下に置くことで組織分化誘導性プロモーターが活性化して、部位特異的組換え系の発現を促進する。すなわち、組織分化誘導性プロモーターは、組織の分化誘導により活性化し、部位特異的組換え酵素を発現させ、識別部位間において部位特異的組換えを実行させることができる。特に、カルスに対してはこうした組織分化誘導性プロモーターを用いることで、その抑制と活性化の制御を精度よく行うことができる。
【0047】
各種の化学誘導性プロモーターが周知であるが、本発明者らによれば、遺伝子導入操作が行われるカルス状態では、このプロモーターは、特定の誘導条件がない状態であっても活性化し制御下にある遺伝子を発現することがあることがわかった。すなわち、このプロモーターでは、遺伝子発現を誘導的に活性化できたとしても、誘導前のプロモーター活性の抑制が不十分であることがわかった。
【0048】
組織分化誘導性プロモーターとしては、例えば、組織特異的プロモーターが挙げられる。組織特異的プロモーターは、その組織特異性ゆえにターゲティングが生じる未分化状態のカルスでは活性が抑制されており、分化した特定組織において特異的に活性化するからである。組織特異的プロモーターとしては、例えば、葉などの緑化組織に特異的な緑化組織誘導型プロモーターが挙げられる。こうした緑化組織誘導型プロモーターは、概して光によっても誘導されうる。緑化組織光誘導型プロモーターとしては、例えば、リブロース2リン酸カルボキシラーゼ小サブユニット遺伝子(rbcs)プロモーター(R. Fluhr et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:2358, 1986)が挙げられる。また、他の緑化組織光誘導型プロモーターとしてはフルクトース−1,6−ビスホスファターゼ遺伝子のプロモーター(特表平7−501921号公報)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子のプロモーター(特開平5−89号公報)等が挙げられる。
【0049】
さらに、緑化組織光誘導型プロモーターとしては、イネのLP2ロイシンリッチリピートレセプターキナーゼ遺伝子プロモーターが挙げられる(Plant Biotechnology Journal (2009)7, pp.1-16)。同様の遺伝子のプロモーターが、他の植物種においても存在し、同様の組織特異的光誘導的に発現することから、他の植物種でも同様の遺伝子のプロモーターを同種の目的に用いることができる(Plant Biotechnology Journal (2009)7, pp.1-16)。イネの緑化組織光誘導型プロモーターとして利用できるDNAの塩基配列の一例が配列番号1で表される。
【0050】
部位特異的組換え系において、識別部位は、組織分化誘導性プロモーターとその制御下の部位特異的組換え酵素領域と、ポジティブ選択マーカー領域と、を挟むように、順方向で備えられている。こうすることで、組織分化誘導性プロモーターにより作動された部位特異的組換え酵素が、部位特異的組換え系とポジティブ選択マーカー領域とを一挙に除去する。
【0051】
識別部位間にある被除去領域は、既に説明したように、相同組換え領域や導入領域に挟まれた状態で相同組換えカセット内に備えられている。こうした被除去領域自身、すなわち、組織分化誘導性プロモーターの制御下にある部位特異的組換え酵素領域と適当なプロモーターの制御下にあるポジティブ選択マーカー領域との配列からなる被除去領域は、被除去カセットとして独立して用いることができる。被除去カセットは、さらに、その両端に識別部位を備えることもできる。
【0052】
こうした被除去領域は、好ましくは、相同組換えベクターは、このような被除去領域が最終的に置換される遺伝子内のイントロンまたはUTR領域内に配置される。これらの領域内であれば、除去後において導入領域の機能発現を阻害することがないからである。
【0053】
(ランダム組換えベクター)
次に、図2に示すランダム組換えベクターについて説明する。ランダム組換えベクターは、組換えカセットを備えている。組換えカセットは、概して、公知のベクター上に備えられる。ランダム組換えベクターが、例えば、アグロバクテリウム媒介性のベクターの場合には、T−DNAの右側境界であるRB及び左側境界であるLBの間に備えられる。
ランダム導入用ベクターは、図2に示すように、ポジティブ選択マーカー領域と、部位特異的組換え系と、を備えている。ランダム組換えベクターは、これら2つの領域に関しては、相同組換えベクターと同様、ポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え系の一部である部位特異的組換え酵素領域とが酵素の働きにより除去されるように配置されている。すなわち、部位特異的組換え系の一部である2つの識別部位に挟まれるようにポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え酵素領域とを備えている。
【0054】
ランダム組換えベクターは、図2Aに示すように、導入領域を備えることができる。ランダム組換えベクターは、部位特異的組換え系の外側であれば、導入領域をどの領域に備えていてもよい。なお、相同組換えベクターと同様、ランダム組換えベクターは、導入領域を必ずしも備えていなくてもよい。すなわち、導入領域を挿入可能に、ポジティブ選択マーカー領域と部位特異的組換え系とを備えていればよい。この場合、図2Aに示すように、導入領域をランダム組換えベクターに組み込むための制限酵素部位を、部位特異的組換え系の識別部位の外側に備えることができる。図2Aに示す場合においては、制限酵素部位を、3’側の識別部位の下流側か、あるいは、5’側の識別部位の上流側かのいずれかに備えることができる。
【0055】
以上説明した相同組換えベクター及びランダム組換えベクターは、当業者に周知の植物用のベクターやプラスミドとして構築できる。また、これらの組換えベクターに用いる各種要素は、当業者であれば、周知の遺伝子組換え技術により取得することができる。また、相同組換えを意図して、植物ゲノム中の標的遺伝子と相同組換えさせる遺伝子を選択し、その5’領域および3’領域をそれぞれ適切な部位に導入することも当業者が通常の遺伝子工学技術で容易に行うことができる。
【0056】
例えば、図1及び図2に示す各組換えカセットは、適当な制限酵素部位によって、アグロバクテリウム法による植物形質転換用のベクターのT−DNA領域またはRBからLBまでの間の領域に置き換えることができる。
【0057】
以上説明した組換えベクターによれば、ポジティブ選択マーカー領域等を除去する部位特異的組換え系の抑制と発現を確実に制御可能となっている。このため、このベクターを用いることで効率的に組換え植物体を取得できる。
【0058】
(組換え植物体の作製方法)
(相同組換え植物体の作製方法)
本明細書に開示される相同組換え植物体の作製方法は、組換え体であることを肯定するポジティブ選択マーカーを発現するための領域と、前記ポジティブ選択マーカー領域及び部位特異的組換え酵素領域を除去するための部位特異的組換え系と、を備え、前記部位特異的組換え系を組織分化誘導性プロモーターの制御下に備えるように相同組換えされた第1の相同組換え植物体を前記植物体が未分化状態を維持できかつ前記分化誘導性プロモーターを活性化しない未分化環境下において取得する工程と、前記第1の相同組換え植物体を、前記植物体の組織分化を誘導できかつ前記分化誘導性プロモーターを活性化できる分化誘導環境下で培養して前記ポジティブ選択マーカー及び前記部位特異的組換え系を保持しない第2の相同組換え植物体(すなわち、ポジティブ選択マーカー及び部位特異的組換え系が脱落した第1の相同組換え体である。)を得る工程と、を備えることができる。第2の相同組換え植物体においては、概して、第1の相同組換え植物体からさらに部位特異的組換えによりポジティブ選択マーカー及び部位特異的組換え酵素領域が削除され、痕跡となる1つのloxP配列のみが残された第2の相同組換え体となることになる。
【0059】
この方法によれば、組織分化誘導性プロモーターの制御下に部位特異的組換え系を備えるために、前記未分化環境下では部位特異的組換え系の発現が十分に抑制されている。その一方で、前記未分化環境下であるため、植物体ゲノムに対する相同組換えが生じやすくなっている。このため、ポジティブ選択マーカーが確実に発現された改変の生じた相同組換え植物体である第1の相同組換え植物体を効率的に取得できる。その後、第1の相同組換え植物体を組織分化誘導環境下に置くことで、部位特異的組換え系の発現が促進された結果、ポジティブ選択マーカーを確実に除去されたさらなる改変の生じた第2の組換え植物体を効率的に得ることができる。
【0060】
この方法は、既に説明した相同組換えベクターを前記未分化環境下で植物体に導入し、ネガティブ選択マーカー及びポジティブ選択マーカーを利用して第1の相同組換え植物体を得る工程と、この第1の相同組換え植物体を得る工程と、この第1の相同組換え植物体を前記組織の分化誘導環境下で培養して相同組換え配列内部での部位特異的組換えによる改変の生じた第2の相同組換え植物体を得る工程と、として実施できる。この方法によれば、効率的に標的遺伝子配列を改変した相同組換え植物体を得ることができる。
【0061】
(ランダム組換え植物体の作製方法)
また、本明細書に開示されるランダム組換え植物体の作製方法は、組換え体であることを肯定するポジティブ選択マーカーを発現するための領域と、前記ポジティブ選択マーカー領域及び部位特異的組換え酵素領域を除去するための部位特異的組換え系と、を備え、前記部位特異的組換え系を分化誘導性プロモーターの制御下に備えるように改変された第1のランダム組換え植物体を前記植物体が未分化状態を維持できかつ前記組織分化誘導性プロモーターを活性化しない未分化環境下において取得する工程と、前記第1のランダム組換え植物体を、前記植物体の組織分化を誘導できかつ前記分化誘導性プロモーターを活性化できる分化誘導環境下で培養して前記ポジティブ選択マーカー及び前記部位特異的組換え系を保持しないように改変された第2のランダム組換え植物体を得る工程と、を備えることができる。この方法によれば、植物体ゲノムに対してランダムな組換えを生じさせることによるランダム組換え体を得ることができる。
【0062】
この方法においても、相同組換え植物体の作製方法と同様、意図したランダム組換え植物体(第2のランダム組換え植物体)を効率的に得ることができる。
【0063】
上記方法は、既に説明したランダム組換えベクターを未分化環境下の植物体に導入し、ポジティブ選択マーカーを利用して選択して第1のランダム組換え植物体を得る工程と、この第1のランダム組換え植物体を組織分化誘導環境下で培養して第2のランダム組換え植物体を得る工程と、として実施できる。
【0064】
以下、相同組換え植物体の作製方法について説明する。ランダム組換え植物体に関しても、上記工程において相同組換えベクターに替えてランダム組換えベクターを使用する以外は、同様に操作することで、第1のランダム組換え植物体を取得し、第2のランダム組換え植物体を取得することができる。
【0065】
(第1の相同組換え植物体の取得工程)
本工程では、植物体に対して、相同組換えベクターを導入して、第1の相同組換え植物体を取得する。こうした第1の相同組換え植物体は、周知の遺伝子組換え植物体の取得方法に基づいて実施することができる。
【0066】
植物体は、好ましくは、植物細胞又は植物組織である。植物細胞としては、カルスのほか、懸濁培養細胞が挙げられる。また、植物組織としては、完熟種子、未熟種子、冬芽、及び根茎を含む休眠組織のほか、生殖質、生長点及び花芽等が挙げられる。
【0067】
植物細胞へのベクターの導入は、カリフラワーモザイクウィルス、ジェミニウィルス等のウィルスや、A.ツメファシエンス、A.リゾジェネス等の細菌を介して間接的に導入する方法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法等の物理的・化学的手法により直接的に導入する方法のいずれをも用いることができる。
【0068】
相同組換えベクターの導入は、典型的には、アグロバクテリウム菌を用いてT−DNAを介して実施できる。T−DNAとは、Agrobacterium内で保持されているTiプラスミドの一部であり、植物がAgrobacteriumに感染すると、菌体自身は植物細胞に侵入しないが、菌体内に存在するTiプラスミドの一部であるT−DNA領域が植物細胞内に転移される。T−DNAは、BR(右ボーダー配列)とBL(左ボーダー配列)によって、区切られている。各ボーダー配列は、約25bpの不完全な反復配列からなる。
【0069】
植物体への遺伝子導入は、当該分野において周知の常法に従うことができる。例えば、アグロバクテリウムを用いる場合には、相同組換えベクターをTiプラスミドを含むアグロバクテリウム中に存在させ、当該アグロバクテリウムを植物の細胞、組織又はカルス等に感染させ、ポジティブ−ネガティブ選択により第1の相同組換え体を選択する。形質転換及び選択の方法についても、当業者であれば周知技術及び用いるポジティブ選択マーカーに応じて適宜選択し実施できる。
【0070】
本工程は、植物体が未分化状態を維持できる環境下で実施される。遺伝子組換えの効率を確保するとともに、組織分化誘導性プロモーターを活性化しないためである。植物体を未分化状態で維持する環境条件(培養条件)は、当業者に周知である。概して、遺伝子導入後の植物体組織の培養は、その組織に応じて選択される適当な基本培地や遺伝子導入組織選択用培地を用い、その組織の生育に適した温度(通常は20℃〜30℃、暗所)条件の下、行うことができる。組織分化誘導性プロモーターを用いて、当該分化誘導性プロモーターを活性化させないようにする培養条件は、当該プロモーターを使用する以上、容易に取得できる。例えば、緑化特異的光誘導型プロモーターを用いる場合、光条件は、分化誘導性プロモーターの種類に応じ、その活性化抑制に適した条件が適宜設定される。こうした培養条件を組み合わせることで、植物細胞等の未分化状態が維持される。
【0071】
(第2の相同組換え植物体の取得工程)
先の工程で選択した第1の相同組換え植物体を組織分化誘導環境下において、当該第1の相同組換え植物体を分化誘導するとともに、分化誘導により活性化する組織分化誘導性プロモーターによって部位特異的組換え系を発現させる。これにより、第1の植物体を分化誘導すると同時に、ポジティブ選択マーカーと部位特異的組換え酵素領域を保持しない第2の相同組換え植物体を取得できる。
【0072】
組織分化誘導環境は、再分化培地あるいは再生培地として当業者において周知である。典型的には、植物体の種類に応じた基本培地に植物ホルモン(概して、0〜10mg/lのオーキシンと0〜10mg/lのサイトカイニン)を添加した再分化用培地が適用される。さらに、分化誘導性プロモーターを活性化する条件は、当該分化誘導性プロモーターの種類に応じて決定される。例えば、緑化組織特異的光誘導型プロモーターの場合、一般的な緑化組織の分化誘導可能な培養条件に加えて所定の光照射が条件となる。当業者であれば、用いる分化誘導性プロモーターの種類に応じて適切な分化誘導環境を選択できる。
【0073】
分化誘導環境下での培養によるポジティブ選択マーカーの除去及び部位特異的組換え系の除去は、例えば、これらの領域の除去後の相同組換え体に特異的な領域等に対するPCR、サザンブロット、塩基配列解析等により確認することができる。こうして、第2の相同組換え植物体を得ることができる。第2の相同組換え植物体は、ポジティブ選択マーカー及び部位特異的組換え系がいずれも除去された相同組換え体でありうる。
【0074】
取得した第2の相同組換え植物体は、周知の方法によって植物にまで再生させることができる。ポジティブ選択マーカー及び部位特異的組換え系の除去が確認できた第2の相同組換え植物体を植物個体にまで生長させ、その後、次世代種子での分離遺伝等によりホモ型組換え植物個体等を取得できる。
【実施例】
【0075】
以下、本明細書の開示をより具体的に記述する実施例を示すが、これらの実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、本明細書の開示を限定するものではない。
【実施例1】
【0076】
(イネ遺伝子ターゲティングセルフマーカーフリーシステムに組み込む誘導型Cre-loxP部位特異的組換えユニットの評価)
本実施例では、イネのポジティブ-ネガティブ選抜ターゲティングにおいて、一工程にてカルスのゲノム中でターゲティング相同組換えを引き起こし、さらにゲノム上の余剰配列を削除するシステムを構築するため、誘導型プロモーターにより制御されたCre-loxP部位特異的組換え (Cre-loxPシステム) を利用することとした。セルフマーカーフリーターゲティングによる遺伝子改変を実現するためには、標的遺伝子の相同組換えターゲティングが成立した後にCre-loxPシステムによる部位特異的組み換えが起こるよう、Cre-loxPシステム起動の適切な制御が不可欠となる。そのため、loxP配列間を組換える酵素遺伝子Creを誘導型プロモーターと組み合わせて評価用ベクターに組み込み、Cre-loxP組換えの適切な起動制御条件を検討して最適なプロモーターを選出した。
【0077】
(1) 誘導型Cre発現ユニットの構築
Cre-loxP部位特異的組換えによる余剰配列削除機構を起動するための誘導型プロモーターとして、本件ではエストラジオール誘導型プロモーター (Zuo et al. 2001, Usuda et al. 2009)、及びイネの光合成関連組織にて特異的に発現するLeaf Panicle 2遺伝子 (Thilmony et al. 2009) のプロモーター領域 (pLP2) を評価した。また、Cre発現遺伝子として、pCKF1 (Terada et al. 2010) の配列をもとに、遺伝子領域内にシロイヌナズナKORRIGAN1遺伝子の第5イントロンを組み込んだ人工遺伝子 (Cre-int) を作製した。なお、Cre-intの作製および誘導型プロモーターとの連結は、PCRを介したOverlap extension法により進めた。
【0078】
(エストラジオール誘導型Cre発現ユニットの構築)
はじめに、1st PCRとして下記の条件により以下の4つのDNAフラグメントを作製した。
フラグメント1 (OLexA領域, 463bp): pBIMFN (Usuda et al. 2009) を鋳型とし、プライマーセットとして、OLexA-FおよびOLexA-Cre 1st-Rを用いた。
フラグメント2 (Cre遺伝子5’領域, 473bp): pCKF1 (Terada et al. 2010) を鋳型とし、プライマーセットとして、OLexA-Cre 1st-FおよびCre-iKOR1-Rを用いた。
フラグメント3 (iKOR1領域, 210bp): pBIMFNを鋳型とし、プライマーセットとしてCre-iKOR1-FおよびiKOR1-Cre-Rを用いた。
フラグメント4 (Cre遺伝子3’-t35S, 892bp): pCKF1を鋳型として、プライマーセットとして、iKOR1-Cre-FおよびCre-t35S-Rを用いた。
【0079】
続いて、2nd PCRとして下記の条件により以下の2つのDNAフラグメントを合成した。
フラグメント5 (OLexA- Cre遺伝子5’領域, 896bp): フラグメント1および2を1/1000希釈の上、等量ずつ混合して鋳型とし、プライマーセットとして、OLexA-FおよびCre-iKOR1-Rを用いた。
フラグメント6 (iKOR1- Cre遺伝子3’-t35S領域, 1062bp): フラグメント3および4を1/1000希釈の上、等量ずつ混合して鋳型とし、プライマーセットとして、Cre-iKOR1-F、Cre-t35S-Rを用いた。
【0080】
最後に3rd PCRとして、フラグメント5および6を1/1000希釈、等量ずつ混合して鋳型とし、OLexA-FとCre-t35S-Rをプライマーセットとした反応を行った。これらの操作により誘導型Cre発現ユニット、OLexA-Cre(iKOR1)-t35Sを合成した。このDNAフラグメントは、5’側末端にattB1、3’側末端にattB2サイトが付加されているため、Gatewayクローニングシステム (Life Technologies社) のBP組み換え反応によりpDONR/Zeoベクターへクローニングした。さらに、Cre(iKOR1)遺伝子とt35S間の制限酵素認識サイト (EcoRI, SalI, SbfI, SphI)を削除した後、全長の塩基配列をDNAシークエンサー (Applied Biosystems社製 3130xl DNA Analyzer) により解析し、正確な塩基配列を持つクローンを選抜してOLexA-Cre(iKOR1)-t35S/pDONR Zeoを作製した(図3B) 。
【0081】
一方、大腸菌内での相同組換え機構を利用して、pBIMFNからヒトエストロゲン受容体とLexAへの結合ドメインをコードする合成転写活性因子であるXVEの発現ユニットをサブクローニングした。まず、鋳型としてpBlueScript SK(-)、プライマーセットにXVE cloning-FおよびXVE cloning-Rを用いたPCRにより、線状のベクターを合成した。このベクターの両端にはそれぞれ、XVE発現ユニットの5’および3’側の相同領域が50bpずつ存在し、さらにクローニング時に制限酵素認識サイトが追加される設計とした。Red/ET Recombination System BAC Subcloning Kit (Gene Bridges社)により、XVE発現ユニットをpBlueScriptにクローニングし、pAct-XVE-tE9/pBSを作製した(図3A)。次いで、pAct-XVE-tE9をXhoI-SbfIで切り出し、OLexA-Cre(iKOR1)-t35S/pDONR Zeoに組み込んでXVE-OLexA-Cre(iKOR1)-t35S/pDONR Zeoを作製した (図3C)。
【0082】
このベクターでは、誘導型Cre発現ユニットの5’側にattL1、3’側にattL2が位置するため、LR組み換え反応におけるエントリークローンとして機能し、誘導型Cre発現ユニットをデスティネーションベクターとして改良したターゲティングベクターpGEF1-S549D-DおよびpGEF1-Con-D内へ組み込む際に利用することができる。
【0083】
(光誘導型Cre発現ユニットの構築)
イネの光誘導型プロモーター、pLP2とCre発現遺伝子の連結は、Overlap extension法により進めた下記の手法に従い行った。まず、1st PCRとして下記の条件により2つのDNAフラグメントを作製した。
【0084】
フラグメント1 (pLP2領域, 2329bp): pGPro1-LP2 (Thilmony et al. 2009)を鋳型とし、プライマーセットとして、pLP2-FおよびpLP2-Cre 1st-Rを用いた。
フラグメント2 (Cre(iKOR1) 領域, 1468bp): OLexA-Cre(iKOR1)-t35S/pDONR Zeo (前述) を鋳型とし、プライマーセットとして、pHSP-Cre 1st-FおよびCre-t35S-Rを用いた。
【0085】
続く2nd PCRにて、フラグメント1および2を1/1000希釈、等量ずつ混合して鋳型とし、pLP2-FとCre-t35S-Rをプライマーセットとした反応で光誘導型Cre発現ユニットを合成し、GatewayクローニングシステムのBP組み換え反応によりエントリークローン、pLP2-Cre(iKOR1)-t35S/pDONR Zeoを作製した (図4)。
【0086】
(制限酵素サイトおよび転写終止領域の追加)
上記の誘導型Cre発現ユニットをCre-loxP部位特異的組換え評価用基本ベクター、pZEN20 (後述) に組み込むため、下記の操作を行った。pBlueScript SK(-)をテンプレートに、pBS for Cre-loxP-FおよびpBS for Cre-loxP-Rをプライマーセットに用いたPCRにより認識サイトを追加した線状のベクターを合成し、AvrII-KpnI間にエストラジオール誘導型Cre発現ユニットを組み込み、XVE-OLexA-Cre(iKOR1)-t35S/pBSを作製した(図4)。同様に、光誘導型Cre発現ユニットを組み込み、pLP2-Cre(iKOR1)-t35S/pBSを作製した。さらに、PCRを介してpINA134 (Terada et al. 2002) から転写終止領域En/spmに制限酵素認識サイトを付加しつつクローニングし、pLP2-Cre(iKOR1)-t35S/pBSのAbsI-SbfIサイト間に挿入し、En-pLP2-Cre(iKOR1)-t35S/pBSを作製した(図4)。
【0087】
(2)Cre-loxP部位特異的組換え評価用ベクターシリーズの構築
セルフマーカーフリーターゲティングを成立させるためには、イネのカルスのゲノムに於いてターゲティング相同組換えがおきた細胞がある程度増殖した後の段階で、誘導型プロモーターによりCre-loxP部位特異的組換えが適切な頻度で生じる様に制御する事が不可欠である。この実験系に適した誘導型Cre発現ユニットを選ぶため、レポーター遺伝子 (GUSPlus) を利用した評価用ベクターを構築した。基本ベクターpZEN20は、pZEN11 (Shimatani et al. 2009) から派生したベクターで、T-DNA内の35SプロモーターとGUSPlus遺伝子間に順方向に並んだ2コピーのloxPサイトが存在し、さらにloxPサイト間に位置する制限酵素サイトに各誘導型Cre発現ユニットを組み込むことで、評価用ベクターを構築することが出来る。XVE-OLexA-Cre(iKOR1)-t35S/pBSからAbsI-PmeIにて誘導型Cre発現ユニットを切り出し、pZEN20に組み込んだものをpZEN21とした(図5A)。同様に、En-pLP2-Cre(iKOR1)-t35Sを組み込んだものをpZEN24Eとした(図5B)。これらのベクターでは、35SプロモーターとGUSPlus遺伝子間に誘導型Cre発現ユニットが挿入されてGUSPlusの発現が抑制されているが、Cre遺伝子に連結したエストラジオール誘導型(XVE-OLexA)、および光及び緑化組織誘導型(pLP2)の各プロモーターの誘導によりCre-loxP部位特異的組換え反応が生じて、挿入領域が脱離するとGUSPlusの発現が回復する仕組みとなっている(図5C)。すなわち、植物細胞内におけるGUSPlus遺伝子の発現を元に、各誘導型プロモーターによるCre-loxP部位特異的組換えの時期と頻度を目視化し、評価することが可能となる。また、T-DNA上の特異的配列を利用し、Cre-loxP部位特異的組換えをPCRおよび塩基配列解読などのDNAレベルで検証することも可能となる。なお、loxP間が脱離した際は35SプロモーターとGUSPlus遺伝子間に1コピーのloxPサイトが残されるのみで、GUSPlusは常に発現可能な状態となるが、この状態を人為的に再現したポジティブコントロールベクターをpZEN20PCとした(図6A)。また、loxP間に転写終止領域であるEn/spmを組み込み、35SプロモーターによるGUSPlusの発現が抑制されたネガティブコントロールベクターpZEN20NCEGを作製し、本評価試験における指標として用いた(図7A)。
【0088】
(3)Cre-loxP部位特異的組換え評価用ベクターのアグロバクテリウム菌への導入
pZEN21、pZEN24E、pZEN20PCおよびpZEN20NCEGは、エレクトロポレーション (Bio Rad 社MicroPulserエレクトロポレーションシステム) によってアグロバクテリウム菌 (Agrobacterium tumefaciens EHA105株) へ導入することとした。まず、下記の手順にてアグロバクテリウム菌のコンピテントセル作製を行った。アグロバクテリウム菌株をYEB寒天培地 (Beef Extract 5g/L, Yeast Extract 1g/L, Bacto Pepton 1g/L, Sucrose 5g/L, MgSO42mM, Bacto Agar 12g (1.2%)) に塗布し、28℃・暗所で2日間培養した。得られたシングルコロニーをYEB液体培地5mLに植菌後、28℃・暗所で12時間振とう培養し、懸濁液200μLを200mLのYEB液体培地に加え28℃・暗所で振とう培養し、OD600=0.2-0.4に増殖させた。次いで菌体を遠心して (3000rpm、4℃・10分間) 集菌し、20mLの10mM HEPES (pH8.0) に懸濁、遠心を2-3回繰り返した。遠心により回収した菌体を滅菌10%グリセロール水溶液2mLに懸濁し、コンピテントセルとした。次に、以降に記す手順にて各ベクターをアグロバクテリウムへ導入した。各ベクターを1μg/μL濃度で滅菌水に溶解し、上記のアグロバクテリウム菌懸濁液50μLに混合し、マイクロパルサーキュベット (0.1cmギャップ, BioRad社) に移し、エレクトロポレーション (2.2kV, 5.8ms) を行った。次いで、この液に800μLのYEB液体培地を加えて28℃・暗所で2時間振とう培養し50mg/L カナマイシンを含むYEB寒天培地に塗布し28℃・暗所で36〜48時間培養した。得られた菌コロニーを50mg/L カナマイシンを含むYEB液体培地5mLで増殖させグリセロール (最終濃度35%) ストックとして微小管に分注し、-80℃で保存した。
【0089】
(4)イネ培養細胞へのCre-loxP部位特異的組換え評価用ベクターシリーズの導入
イネの形質転換は、Teradaら(2002)の手法に従って行った。
【0090】
(形質転換用のイネカルスの準備)
イネ (Oryza sativa.L Japonica品種;日本晴) の種子約100粒の籾を取り除き、70%エタノール中にて1分間振とうした後、2.5%次亜塩素酸ナトリウムに20-30分間浸漬して滅菌した。その後、滅菌水ですすぎ2N6培地 (N6培地用混合塩 (Sigma-Aldrich社) 4.0g/L,Casamino acid 300mg/L, Myo-inocitol 100mg/L, Nicotinic acid 0.5mg/L, Pyridoxine HCl 0.5mg/L, Thiamine HCl 0.5mg/L, L-Proline 2878mg/L, Sucrose30.0g/L, Gelrite 4.0g/L, pH5.8) の上に置床し、暗所・31.5℃にて4週間培養し、胚盤細胞由来のカルスを十分量誘導した。
【0091】
(形質転換用のアグロバクテリウム菌の準備)
Cre-loxP部位特異的組換え評価用の各ベクターを導入したアグロバクテリウム菌液を氷上で溶解し、うち300μLを50mg/L カナマイシンを加えたAB培地 (NH4Cl 1g/L,MgSO4・7H2 0.3g/L, KCl 0.15g/L, CaCl2・2H2O 0.012 g/L, FeSO4・7H2O 0.0025g/L, K2HPO43g/L, NaH2PO4・H2O 1.15g/L, Sucrose5.5g/L, アガロース6.0g/L,pH7.2) に塗布し、28℃・暗所で3日間培養した。その後、増殖したアグロバクテリウム菌を40mg/LのAcetosyringone (3', 5'-Dimethoxy-4'-hydroxy-acetophenone, Aldrich, Cat No.D13, 440-6) を加えたAAI液体培地 (MgSO4・7H2O 5g/L, CaCl2・2H2O 1.5g/L, NaH2PO4・H2O 1.5/L g, KCl 29.5g/L, MnSO4・4H2O 10g/L, ZnSO4・7H2O 2g/L, H3BO33g/L, KI 0.75g/L, Na2MoO4・2H2O 0.25g/L, CoCl2・6H2O 25mg/L ,CuSO4・5H2O 25mg/L, FeSO4・7H2O 13.9g/L, Na2 EDTA 18.7g/L, Myo-inocitol 100mg/L, Thiamine HCl 0.01g/L, Nicotinic acid 1mg/L, Pyridoxine HCl 1mg/L) に懸濁して25℃で2時間振とう培養し、この懸濁液を40mg/mlのAcetosyringoneを含むAAI液体培地で希釈しOD600=0.1とした懸濁液120mlを調整した。
【0092】
(イネカルスへのアグロバクテリウム菌接種と共存培養と除菌)
イネ種子の胚盤から誘導したカルス約5-40gを滅菌したガラスビーカーに集め、各ベクターを導入したアグロバクテリウム菌懸濁液 (先述)を加え、3-5分間振とうしながら接種を行った。懸濁液をステンレスメッシュ (目地開き1.5 mm)で濾過し、余分なアグロバクテリウム菌を除去した。次いで、N6共存培地 (N6培地用混合塩 (Sigma社製) 4.0g/L,Casamino acid 300mg/L, Myo-inocitol 100mg/L, Nicotinic acid 0.5mg/L, Pyridoxine HCl 0.5mg/L, Thiamine HCl 0.5mg/L, Sucrose 30.0g/L, Glucose 10g/L, 2,4-D 2mg/L, Gelrite 4.0g/L, Acetosyringone 40mg/L, pH5.2) にろ紙を置き、その上にカルスをピンセットで等間隔に並べ、25℃暗所で3日間共存培養した。その後、共存培養後のカルスからアグロバクテリウム菌を除菌するため、カルスを500mlのビーカーに集めて、バンコマイシン100mg/Lを加えた滅菌水300mLを用いて攪拌しながら20分間洗浄した。その後、カルスをステンレスメッシュに集め、ペーパータオルでカルス周辺の水分を取り除いた後、上記と同様のバンコマイシンを含む滅菌水を用いて同様の除菌操作を再度繰り返した。次いで除菌後のカルスをハイグロマイシン (Hygromycin) 50mg/Lを含む選抜培地 N6SE (N6培地用混合塩[Sigma社製] 4.0g/L,Casamino acid 300mg/L, Myo-inocitol 100mg/L, Nicotinic acid 0.5mg/L, Pyridoxine HCl 0.5mg/L, Thiamine HCl 0.5mg/L, L-Proline 2878mg/L, Sucrose 30.0g/L, Gelrite 4.0g/L, Vancomycin 100mg/L, Claforan 400mg/L, pH5.8)の上に等間隔に並べ、31.5℃の暗所で約4週間培養した。pZEN21、pZEN24E、pZEN20PCおよびpZEN20NCEGを導入する形質転換では、選抜培養開始から30日目にはハイグロマイシン耐性を示す複数のカルスの増殖が確認された。pZEN24Eに関する上記の形質転換からカルス選抜の全ての作業はLP2プロモーター活性の抑制を保持するため微弱な光環境下(150-200ルクス)で行い、カルスは全て暗所で培養した。
【0093】
ランダム形質転換では、T-DNAが挿入されるゲノム領域や外来遺伝子のコピー数を制御できないため、形質転換体ごとに外来遺伝子の発現量が異なる場合が多い。一方、カルスの各コロニーは、それぞれ異なる形質転換細胞に由来した独立の細胞系譜である可能性が高い。そのため、出来るだけ多くの系統を解析に用い独立事象の反復試行数を増やすことで、誘導型プロモーターによるCre-loxP部位特異的組換え頻度の調査をより正確に行うことが可能になる。以上の理由から、増殖した60-100のカルスのコロニーからそれぞれ一片ずつカルスを取り、ハイグロマイシン(Hygromycin) 50mg/Lを含むN6SE選抜培地を分注した24穴プレートに継代し、系統ごとに隔離培養した。得られた形質転換カルスは、pZEN21を導入したものが82系統、pZEN24Eを導入したものが22系統、pZEN20NCEGを導入したものが96系統、そしてpZEN20PCを導入したものが24系統得られた。
【0094】
(4)誘導型Cre発現ユニットの評価
セルフマーカーフリーターゲティングに適した誘導型Cre発現ユニットを選別するとともに、その誘導・抑制条件の最適化行うため、前述の評価用ベクターシリーズを導入したカルスについてX-Gluc染色およびPCR解析により、Cre-loxP部位特異的組換えの発生頻度を評価した。
【0095】
はじめに、ポジティブコントロールベクターpZEN20PCを導入した24系統の個別形質転換カルスについてX-Gluc染色を行った結果、23系統のカルスでGUSPlusの発現による青いシグナルを確認した(図6B)。青色の発色の無い1系統では遺伝子サイレンシングが生じたと推測される。一方、X-Gluc染色とPCR解析の結果、ネガティブコントロールベクターpZEN20NCEGを導入したカルス96系統のうち89系統では、loxP間に挿入されたEn/spmによりGUSPlusの発現が抑制されていた(図7B)。残り7系統は、PCR解析の結果loxP間の脱離が認められなかったものの、何らかの理由によりごくわずかなGUSPlusの発現が検出された(図7C〜E)。以上より、Cre-loxP部位特異的組換えの発生有無を鋭敏に検出するPCR解析と、組換えの発生時期と頻度を検出可能な目視マーカー (GUSPlus)を組み合わせた本実験系が、各誘導型Cre-loxPシステムの評価と最適条件の設定に有効であると判断した。
【0096】
エストラジオール誘導型ベクターpZEN21が導入された独立82系統の形質転換カルスについて、エストラジオール未処理のカルスをX-Gluc染色した結果、46系統 (56%)では既にカルスの一部、あるいは全体が青色に染色された(図8A、B)。こうしたGUSPlusの発現はCre-loxP組換え以外に、ランダム形質転換においてpZEN21上のGUSPlus遺伝子が偶発的にイネゲノム内在性のプロモーターを獲得することで生じる可能性も否定できない。そのため、GUSPlusレポーター発現が確認された系統のうち32系統について、カルスの一部から自動核酸抽出装置(クラボウ株式会社PX-80)によってDNAを抽出し、プライマーセットpCAM-nDart No.2-F およびpCAM-nDartNo.2-Rを用いたPCR解析を行った結果、それらの全てにおいてCre-loxP組換えが生じた場合に増幅される666bpのDNA断片が得られた(図10)。そのため、この誘導型Cre発現ユニットでは、エストラジオール未処理にも関わらずCre-loxP組換えが生じたと考えられる。
【0097】
次に、プロモーター活性強度を適切に誘導するための条件検討として、Cre-loxP組換えによるGUSPlusの発現を指標に、エストラジオール処理濃度の評価試験を行った。pZEN21を導入した82系統の形質転換カルスを系統ごとにN6SE培地上に置床して31.5℃で2週間増殖させた後、0μM、25μMまたは50μM濃度のエストラジオールを含むN6SE選抜培地にそれぞれ等量ずつ移植し、31.5℃条件下で一週間培養した。続いて、これらのカルスの一部をX-Gluc染色し、GUSPlusの発現状況を調べた。その結果、19系統 (23%) のカルスにおいて、エストラジオール濃度に比例してGUSPlusを発現する細胞の割合の増加が確認された(図9)。一方、各系統のカルスの一部から抽出したDNAを鋳型としてPCR解析を行った結果、エストラジオール未処理、および25μM、50μMでの処理に関わらず、Cre-loxP組換えによる666bpが検出された(図10)。以上から、エストラジオール誘導型Cre発現ユニットは、エストラジオール処理時の濃度によりCre-loxP組換えの発生頻度を調節できる可能性が示されたものの、エストラジオール未処理に関わらず半数以上の系統のカルスでloxP間の脱離が確認されたことから、不要時にCre-loxP組換えを抑制できず、セルフマーカーフリーターゲティングへの応用には難点が明らかとなった。なお、17系統 (20%) のカルスでは、エストラジオール処理濃度に関わらずGUSPlusの発現が認められず、PCR解析でもloxP間の脱離がほとんど検出されなかった。こうした結果は、ランダム形質転換時のT-DNA破損による誘導型Cre発現ユニットの機能喪失、またはT-DNAのヘテロクロマチン領域への挿入による不活性化や導入遺伝子のサイレンシング等の理由により、本ユニットが十分に機能しなかったものと推測される。
【0098】
光及び緑化組織誘導型プロモーター(pLP2)プロモーターを含むpZEN24E(図11A)が導入された独立22系統の形質転換カルスについて培養カルスをX-Gluc染色した結果、5系統 (23%)でカルスの一部にスポット状の青色および小さなセクター状の青色染色が観察されたが、エストラジオール誘導型ベクターpZEN21による青色細胞セクター数を比較した場合、光及び緑化組織誘導型 (pLP2)プロモーターの発現活性はエストラジオール誘導型ベクターpZEN21の半分程度に抑制されていると推測された。pZEN24Eの緑化組織誘導型 (pLP2)プロモーターには光によってプロモーター活性が誘導されるシス因子の領域が含まれるため、形質転換及びカルス選抜のそれぞれの作業過程で、必要最小限に抑えつつ蛍光灯の照射下での作業が必要であったため、低レベルでの光に反応してCre発現ユニットが機能したと推定される。発現抑制が見られたカルスの再分化反応の状態では光及び緑化組織誘導型 (pLP2)プロモーターは、根や葉が再分化する培養時期に急速に発現が誘導されることが確認できた(図11B)。
【0099】
以上の評価試験から、イネポジティブ-ネガティブ選抜ターゲティングにおいて、イネカルスのゲノム内にてターゲティング相同組換えが生じた後、Cre-loxP部位特異的組換えによりloxP間に配置されたポジティブ選抜マーカー等の余剰配列を削除するためには、光及び緑化組織プロモーターであるpLP2が効果的に機能すると予測した。
【実施例2】
【0100】
(イネの遺伝子ターゲティング改変後セルフマーカーフリー技術の開発)
本実施例では、イネゲノム中のいもち病耐性遺伝子OsRacGef1について、イネポジティブ-ネガティブ選抜ターゲティングにより相同組換えを介した塩基置換を導入し、その後、光及び緑化組織プロモーター (pLP2) を利用した誘導型Cre-loxP部位特異的組換えシステムにより、改変OsRacGef1遺伝子領域内に挿入されたポジティブ選抜マーカー等を削除する「セルフマーカーフリーターゲティング遺伝子改変技術」を確立した。
【0101】
用例としてAkamatsu A et al. (2013) An OsCEBiP/OsCERK1-OsRacGEF1-OsRac1 Module is an essential early component of chitin-induced rice immunity. Cell Host Microbe 13: 465-476の報告に従いイネ品種「金南風(キンマゼ)」のOsRacGef1において「セルフマーカーフリーターゲティング遺伝子改変技術」によって一塩基置換を誘導し、活性型OsRacGEF1 (OsRacGEF1 S549D)への変異を誘導できれば、「いもち病」等の多様な耐病性機能を付与したイネの実用種を10ヶ月〜1年ほどの短時間で作出する可能性が高い。
【0102】
(1)ターゲティング遺伝子改変用基本ベクターの構築
本件における、ポジティブ-ネガティブ選抜によるイネ・ターゲティングでは、pINA135D(図12)を基本ベクターとして用いた。pINA135DはpINA134(JPW02003-020940)の発展型であり、GatewayクローニングシステムのLR組み換え反応に対応したデスティネーションベクターとしての機能が追加されている。
【0103】
pINA135Dは、大腸菌 (Escherichia coli) とアグロバクテリウム菌 (Agrobacterium tumefaciens) の両方で複製できる複製開始点 (Ori)とスペクチノマイシンspectinomycin、アンピシリンampicillinに耐性となる選抜マーカーを持つpVS1ベクターとT-DNA領域から構築される。T-DNA領域のRB (図12; RB)とLB (図12; LB) の内側にはネガティブ選抜マーカーのDT-A (Diphtheria toxin A fragment;図12; DT-A) 遺伝子2つが相互に逆向きに配置されている。これらのDT-A遺伝子は、35Sターミネーター (図12; t35S) を持ち、それぞれユビキチンプロモーターとユビキチンイントロン (図12; pUbi-iUbi)、および35Sプロモーターとヒマカタラーゼイントロン(図12; p35S-iCat) に連結させた。T-DNA中央には、植物細胞におけるポジティブ選抜マーカーとしてhpt (ハイグロマイシンリン酸化転移酵素(図12; hpt) 遺伝子がアクチンプロモーターとアクチンイントロン (図12; pAct) および35Sターミネーター (図12 t35S) に連結している。ポジティブ選抜マーカーの下流にはトウモロコシトランスポゾン由来の転写終止配列 (図12; En/Spm)が連結している。さらにその下流には、Gateway vector conversion system(Life Technologies社)のReading frame A由来の配列が組み込まれ、内部のattR1およびattR2配列がLR組み換え反応時の標的配列として機能する。ポジティブ選抜マーカーとEn/Spm配列の両末端にCre-loxP部位特異的組換えシステムの2つのloxP (34bp) 配列(図12; loxP)が順向きに連結し、loxPとネガティブ選抜マーカーの間には、ターゲティング相同組換え配列を挿入するための2つのマルチプルクローニングサイト(図12; I-CeuI, PacI, HindIII, SrfI)と(図12; PmeI, SpeI, AscI, AvrII, I-SceI)が配置されている。
【0104】
(2)ターゲティング基本ベクター(pINA135D)を用いたOsRacGEF1遺伝子改変用ベクターpGEF1-S549D-Dの構築
図13Aに示すとおり、pZEN-LP2の2つのマルチプルクローニングサイト、PmeIとSrfIにOsRacGef1および周辺領域に相同な配列を組み込むことでpGEF1-S549D-Dを構築した。5’および3’側の相同組換え領域はイネ品種「金南風 (キンマゼ)」及び「日本晴」で共通するゲノムDNAを鋳型とし、nested PCR法により作製した。なお、いずれのPCRにおいてもDNA polymeraseにPrimeStar GXL (タカラバイオ) を用い、反応条件は製造元のプロトコールに従った。
【0105】
5'側の相同組換え領域は、OsRacGef1の5’UTRから3’UTRに相当する領域で構成され、さらに第5エキソン内の塩基配列を改変することにより、GT改変体が変異型OsRacGEF1 (S549D) を発現するようデザインされている。さらに、pINA135Dへの組み込み時に利用するPacIサイト (5’側末端)とSrfIサイト (3’側末端)が付加されている。5'側の相同組換え領域は、まず1st PCRとしてプライマーセットGEF1 5’1st-FおよびGEF1 5’1st-Rを用いてOsRacGEF1遺伝子と近隣領域を含む配列を増幅した。得られた増幅産物は1/1000希釈し、PCRによる部位特異的変異導入法 (Site-Directed mutagenesis)によりDNA配列改変の鋳型とした。プライマーセットGEF1 5’-F、GEF1 S549D-Rにより得られた約3000bpの増幅産物と、GEF1 S549D-F、GEF1 5’-Rにより得られた約90bpの増幅産物をそれぞれ1/1000希釈後混合し、3rd PCRの鋳型とした。続く3rd PCRにて、プライマーセットGEF1 5’-F、GEF1 5’-Rを用いて得られた3024bpのDNAフラグメントをpCR BluntII TOPO (Zero Blunt TOPO PCR cloning kit, Life Technologies) にクローニングし、DNAシークエンサーにて塩基配列を確認し、設計通りの配列を持つクローンを選抜した。
【0106】
3'側の相同組換え領域は、OsRacGef1の3’UTRから下流の領域から成り、さらにpINA135Dへの組み込み時に利用するPmeIサイト (5’側末端) とAscIサイト (3’側末端) が付加されている。3'側の相同組換え領域は、まず1st PCRとしてプライマーセットGEF1 3’1st-FおよびGEF1 3’1st-Rを用いてOsRacGEF1遺伝子の3’末端側と近隣領域を含む配列を増幅した。得られた増幅産物は1/1000希釈し、nested PCRの鋳型として用いた。プライマーセットGEF1 3'-F、GEF1 3'-Rを用いたnested PCRにより増幅された3270bpのDNAフラグメントは、PCR BluntII TOPOにクローニングし、塩基配列解析により、「金南風」及び「日本晴」のゲノム配列と一致するクローンを選抜した。得られた5’および3’側相同組換え領域は、pINA135DのPacI-SrfIサイト間およびPmeI-AscIサイト間に組み込み、pGEF1-S549D-Dを構築した (図13A)。
【0107】
(3)コントロール基本ベクターpGEF1-Con-Dの構築。
ターゲティング相同組換え変異配列をPCR法で同定するためには、ターゲティング挿入配列領域と相同組換え領域に連結するゲノム配列領域をプライマーで増幅した相同組換え断片を指標にターゲティング相同組換えを確認する必要がある。この様なPCR法では人為的に相同組換え領域を持たせた鋳型ベクターをPCR反応のポジティブコントロールとして用いる。そのため、ターゲティングベクターpGEF1-S549D-Dの5'と3’の相同組換え配列の外側のゲノム配列数百bp分を延長したコントロールベクター、pGEF1-Con-Dを構築した。本ベクターの作製は、先述のpGEF1-S549D-D作製手順に準じて行い、5’および3’側の相同領域クローニング時の1st PCR産物作製までの工程を共通とした。pGEF1-Con-Dに組み込む5'側配列は、GEF1 5’1st-FおよびGEF1 5’1st-Rを用いた1st PCR産物を1/1000希釈して鋳型とし、プライマーセットGEF1 5' Con-FとGEF1 5'-Rを用いたnested PCRにより増幅した。3'側配列は、GEF1 3’1st-FおよびGEF1 3’1st-Rを1/1000希釈して鋳型とし、プライマーセットGEF1 3’-FとGEF1 3’Con-Rを用いたnested PCRにより増幅した。得られた5'側配列3820bp、および3'側配列4360bp のDNAフラグメントはpCR BluntII TOPOにクローニングして塩基配列を確認し、クローンを選抜した。続いて、それぞれの相同組換え領域は、pINA135DのPacI-SrfIサイト間およびPmeI-AscIサイト間に組み込み、pGEF1-Con-Dを構築した。このベクターは、pGEF1-S549D-Dに対し、約400bp延長された5’側配列と約660bp延長された3’側配列を持つため、これらの延長領域にPCRプライマーを設定して、ターゲティング相同組換え変異配列を検出するためのPCR反応条件の最適化を行う(図13B)。
【0108】
(4)セルフマーカーフリー型遺伝子改変ターゲティングベクターpGEF1-S549D-pLP2-Cre、およびコントロールベクターpGEF1-Con-pLP2-Creの作製
pGEF1-S549D-DおよびpGEF1-Con-Dは、En/Spmの下流にattR1およびattR2配列が位置するデスティネーションベクターであり、GatewayクローニングシステムのLR組み換え反応により、エントリークローンであるattL1およびattL2配列間のDNAフラグメントを組み込むことが可能である。これにより、pLP2-Cre(iKOR1)-t35S/pDONR Zeo (前述 [実施例1]) から誘導型Cre発現ユニットを組み込むことで、pGEF1-S549D-pLP2-CreおよびpGEF1-Con-pLP2-Creを作製した(図14A、B)。
【0109】
(5)アグロバクテリウム菌へのpGEF1-S549D-pLP2-Creベクターの導入
pGEF1-S549D-pLP2-Creは、[実施例1]に記述した手法に従いエレクトロポレーションによってアグロバクテリウム菌へ導入した。pGEF1-S549D-pLP2-Creを持つクローンを選抜した上で、それらを125mg/Lのスペクチノマイシンを含むYEB液体培地5mLで増殖させグリセロールストック (最終濃度35%)として微小管に分注し、-80℃で保存した。
【0110】
(6)ターゲティングによるOsRacGEF1遺伝子の改変
(形質転換用のイネカルスの準備)
イネ(Oryza sativa.L Japonica品種)日本晴の種子約800粒、及び金南風「キンマゼ」の種子約500粒を用いて[実施例1]と同様に滅菌処理後、2N6培地の上に置床し、暗所・31.5℃にて4週間培養し、胚盤細胞由来のカルスを十分量誘導した。
【0111】
(形質転換用のアグロバクテリウム菌の準備)
pGEF1-S549D-pLP2-Creを導入したアグロバクテリウム菌を125mg/Lのスペクチノマイシンを加えたAB培地にストリークして3日間増殖し、[実施例1]と同様にアセトシリンゴンを含むAAI液体培地に懸濁して接種に用いる菌液を作成した。
【0112】
(イネカルスへのアグロバクテリウム菌接種と共存培養と除菌)
全ての形質転換及びカルス移動の作業はLP2プロモーター活性の抑制を保持するため微弱な光環境下(150-200ルクス)で行い、カルスは全て暗所で培養した。
「日本晴」及び金南風「キンマゼ」の胚盤から誘導したカルスそれぞれ194.72g、及び145.09g(新鮮重、FWg)を滅菌ビーカーに集め、[実施例1]と同様にアグロバクテリウム菌の接種、N6共存培地による共存培養を行った。カルスからアグロバクテリウム菌を除菌するため、バンコマイシン100mg/Lを加えた滅菌水2Lを用いてビーカー内で混合しながら20分間洗浄した。その後、カルスをステンレスメッシュに集め、ペーパータオルでカルス周辺の水分を取り除いた後、上記と同様のバンコマイシンを含む滅菌水を用いて同様の除菌操作を再度繰り返した。次いで、除菌後のカルスを[実施例1]と同様にハイグロマイシン(Hygromycin) 50mg/Lを含む選抜培地 N6SEの上に置き、暗所、31.5℃で7週間培養した。
【0113】
ポジティブ・ネガティブ選抜開始から50日後には、増殖あるいは致死カルスが目視で区別できるようになった。「日本晴」の増殖カルス812個を個別に選抜し、ハイグロマイシン50mg/Lを含むN6SE選抜培地を分注した24穴プレートに移動した。812個のうち486個のカルスが24穴プレートで継続して増殖したので、これらのカルスに系統番号を付けて、各系統カルスの一部から自動核酸抽出装置 (PX-80, 倉敷紡績株式会社)によってDNAを抽出した。金南風「キンマゼ」では増殖カルス192個を得たので同様にDNAを抽出した。これら組み換え体カルスは、主に以下の4通りのゲノム改変体のいずれかに相当すると予測される。
1) ターゲティング目的遺伝子OsRacGef1の位置でターゲティングベクターpGEF1-S549D-pLP2-Creと相同組換えが生じたもの (図15C
2) OsRacGef1の位置でターゲティングベクターpGEF1-S549D-pLP2-Creと相同組換えが生じた後に、さらに光及び再分化誘導によってLP2プロモーターが活性化しCre遺伝子が発現し、pGEF1-S549D-pLP2-CreのloxPの内部配列が削除されたもの (図15E)
3) 両末端のネガティブ選抜マーカーが変異失活したターゲティングベクターpGEF1-S549D-pLP2-Creがゲノムのランダムな位置に挿入されたもの(図16A
4) 上記の3) の様なランダム挿入が起きた後、LP2プロモーター下流のCre遺伝子が発現し、それによりpGEF1-S549D-pLP2-CreのloxPの内部配列が削除されたもの (図16B)
これらのうち、1)と2)がOsRacGEF1遺伝子のターゲティングに成功し、S549D変異の導入に成功した可能性が高い改変体である。また、2) と4) はpGEF1-S549D-pLP2-Creに由来する2つのloxP間が削除され、ハイグロマイシン耐性から感受性に変化するため、ハイグロマイシン選抜培地N6SEで増殖できない細胞が出現すると予測される。
【0114】
さらに、低頻度ではあるが以下のゲノム改変体も得られると予測される。
5) ターゲティングベクターpGEF1-S549D-pLP2-Creの5’または3’の一方の相同領域のみがゲノム中の標的領域と相同組換えを生じる一方、ベクター上のもう一方の末端では非相同末端結合が生じる組換え (OSI; One sided invasion) の発生も予測された。
6) さらに、イネゲノムのOsRacGef1および塩基配列が類似した領域が相同組換えによりpGEF1-S549D-pLP2-Creに取り込まれた後、ゲノムのランダムな位置に挿入される、異所的組換え (Ectopic targeting) も極まれに含まれると予測された。
【0115】
ポジティブ・ネガティブ選抜開始から50日後以降に24穴プレートに移動した「日本晴」由来の増殖カルス486個、及び「金南風」由来の増殖カルス192個を観察した結果、白化して細胞分裂速度が低下したり、完全に細胞分裂を停止した細胞が観察された。これらの変化は上記の2) と4) に示した通り、OsRacGEF1遺伝子ターゲティングに成功した、あるいはpGEF1-S549D-pLP2-CreのT-DNA領域上のネガティブ選抜マーカーが何らかの形で失活した状態で、イネゲノム中へランダム挿入された改変体から、Cre-loxP部位特異的組み換えにより、loxP間のhpt配列が削除されハイグロマイシン感受性への変化を反映していることが推測された。イネカルスは再分化能力が高く、カルス増殖を継続した場合、植物ホルモンが無い状態でも再分化が起きることが知られている。LP2プロモーターの活性化が引き起こされた理由は、上記の様に培地量が少ない24穴プレートでカルス増殖を継続した結果、オーキシン等の培地成分がカルス増殖に伴い代謝分解され、カルスの生理状態が増殖から再分化に変化したためと考えられる。そのため、この様な状態のカルスを区別して「増殖再分化カルス」と呼ぶこととした。
【0116】
次いで、OsRacGEF1ターゲティング改変体を選抜するため、PCR選抜の条件設定を行った。まず、ターゲティングに成功したカルス (図18B)、そしてCre-loxP 組み換えによりhpt遺伝子等の余剰配列が削除されたカルス(図18C)の双方を選抜できるように設計したプライマーを数セット作製した(図17B)。次に、コントロールベクターpGEF1-Con-pLP2-Creを鋳型にし、上記プライマーセットを用いてPCRを行い、最も適したプライマーセットとPCR反応条件を決定した。その結果、5’側での相同組換え検出には、プライマーセットGEF1 5-Junction No.1-F およびGEF1 5-Junction No.1-Rを用いることとし、ターゲティング改変体では3324bpのDNAフラグメントが増幅されると予測された(図17B)。一方、3’側での相同組換え検出には、GEF1 3-Junction No.1-F およびGEF1 3-Junction No.1-R を用い、3884bpのDNAフラグメントが増幅されると予測された(図17B)。なお、いずれの選抜PCRにおいても、DNA polymerase にはTks Gflex (タカラバイオ) を用いることとし、PCR反応条件は、初期変性として98℃にて2分間処理後、98℃ 30秒ディネイチャー・68℃15秒アニーリング・68℃4分エクステンションを40サイクルとした。
【0117】
「日本晴」由来の増殖再分化カルス486系統、及び「金南風」由来の増殖再分化カルス192系統から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、上記PCR条件により5’側の相同組換えを検出した結果、「日本晴」由来の増殖再分化カルスからは30系統(6.2%) で3324bpのバンドが検出された。次いで、それら30系統について3’側の相同組換えを検出するPCRを行った結果、5’側および3’側の双方にて相同組換えが生じたと思われる増殖再分化カルスが18系統 (3.7%)選抜された (図17C、表3)。これら18系統について、loxP間内部hpt配列等の削除の成否をプライマーセット、GEF1 3' 1st-FとGEF1 5' 1st-Rを用いたPCR解析で確認した。その結果、6系統 (6/486; 1.2%) は[上記1]の様にターゲティングが生じ、hpt等loxP間の配列を保持した6924bpの領域は反復配列等が原因となりPCRによる増幅産物が得られない一方、OsRacGef1野生型を示す369bpのバンドのみが検出されたため、これらがOsRacGEF1のターゲティングに成功したヘテロ接合体であることが示された (図18A、B、C、D)。一方、12系統 (12/486; 2.5%)では[上記2]]の様にターゲティングが生じた後にhpt等loxP間の配列が削除され3'UTRに1つのloxP (34bp)配列が残されたことを示す419bpとOsRacGef1野生型を示す369bpのバンドを検出した(図18A、B、C、D)。さらに、419bp のPCR産物については、pCR4 Blunt TOPO (Life Technologies社) にクローニングし、複数クローンについてDNAシークエンサーにて塩基配列を解析して、Cre-loxP部位特異的組換えによるマーカー遺伝子削除の成功を確認した。そのため、これら14系統は、OsRacGEF1のターゲティングとそれに続くCre-loxP部位特異的組換えに成功したヘテロ接合体であることが示された。同様に、「金南風」由来の増殖再分化カルス192系統からは5’側および3’側の双方にて相同組換えが生じたと思われる44系統 (23.0%) 選抜され、このうち20系統(20/192;10%)でターゲティングが生じた後にhpt等loxP間の配列が削除され3'UTRに1つのloxP (34bp)配列が残されたことを示す419bpとOsRacGef1野生型を示す369bpのバンドを検出した(表3)。
【0118】
以上の結果から、セルフマーカーフリーターゲティングベクターpGEF1-S549D-pLP2-Creを「日本晴」の種子808個から誘導した194.72g新鮮重のイネカルスにアグロバクテリウムによるターゲティング形質転換し、ポジティブ・ネガティブ選抜した増殖再分化カルス486系統を得てPCRスクリーニングを行った結果、OsRacGef1遺伝子領域でターゲティングが生じ、さらにカルス培養を継続した結果、光及び再分化誘導により活性誘導されるLP2プロモーターの制御下でCreが発現し、loxP内部hpt配列削除に成功した12系統の増殖再分化カルスを得た。同様に「金南風」の種子500個から誘導した145.09g新鮮重のイネカルスのターゲティング形質転換でも、192系統のポジティブ・ネガティブ選抜した増殖再分化カルスを得て、OsRacGef1遺伝子領域でターゲティングが生じ、LP2プロモーターの制御下でCreが発現し、loxP内部hpt配列削除に成功した20系統の増殖再分化カルスを得た。これらの「日本晴」由来12系統、及び「金南風」由来20系統の増殖再分化カルスは更に再分化を誘導するMSRE培地(MS mix (Sigma) 4.4g/L、カザミノ酸 2000mg/L、シュクロース 30.0g/L、ソルビトール30.0g/L、NAA 0.02mg/L、Kinetin 2mg/L、4.0g/L、pH5.8)に移動して25℃、11時間明(8000lux)/13時間暗で3-4週間培養することで、実験が先行した「日本晴」由来12系統全ての増殖再分化カルスからの植物体再分化に成功し、正常な稔性をもったOsRacGEF1改変イネ植物体を得た。
【0119】
以上の実施例で用いたプライマー等の配列を以下の表に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
本明細書には、以下に示す文献の全内容が参照により援用される。
(1)Zuo J, Niu QW, Moller SG, Chua NH (2001) Chemical-regulated, site-specific DNA excision in transgenic plants. Nature Biotechnology 19: 157-161
(2)Usuda K, Wada Y, Ishimaru Y, Kobayashi T, Takahashi M, Nakanishi H, Nagato Y, Mori S, Nishizawa NK (2009) Genetically engineered rice containing larger amounts of nicotianamine to enhance the antihypertensive effect. Plant Biotechnology Journal 7: 87-95
(3)Guan JC, Jinn TL, Yeh CH, Feng SP, Chen YM, Lin CY (2004) Characterization of the genomic structures and selective expression profiles of nine class I small heat shock protein genes clustered on two chromosomes in rice (Oryza sativaL.). Plant Molecular Biology 56: 795-809
(4)Thilmony R, Guttman M, Thomson JG, Blechl AE (2009) The LP2leucine-rich repeat receptor kinase gene promoter directs organ-specific, light-responsive expression in transgenic rice. Plant Biotechnology Journal 7: 1-16
(5)Terada R, Nagahara M, Furukawa K, Shimamoto M, Yamaguchi K, Iida S (2010) Cre-loxPmediated marker elimination and gene reactivation at the waxy locus created in rice genome based on strong positive-negative selection. Plant Biotechnology 27: 29-37
(6)Terada R, Urawa H, Inagaki Y, Tsugane K, Iida S (2002) Efficient gene targeting by homologous recombination in rice. Nature Biotechnology 20: 1030-1034
(7)Itoh H, Nonoue Y, Yano M, Izawa T (2010) A pair of floral regulators sets critical day length for Hd3a florigen expression in rice. Nature Genetics 42: 635-638
(8)Shimatani Z, Takagi K, Eun CH, Maekawa M, Takahara H, Hoshino A, Qian Q, Terada R, Johzuka-Hisatomi Y, Iida S, Tsugane K (2009) Characterization of autonomous Dart1 transposons belonging to the hAT superfamily in rice. Molecular Genetics and Genomics 281: 329-344
(9)Akamatsu A et al. (2013) An OsCEBiP/OsCERK1-OsRacGEF1-OsRac1 Module is an essential early component of chitin-induced rice immunity. Cell Host Microbe 13: 465-476
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
図18
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]