(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374178
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】機械部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/04 20060101AFI20180806BHJP
C23C 8/26 20060101ALI20180806BHJP
C23C 22/62 20060101ALI20180806BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20180806BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20180806BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20180806BHJP
C22C 38/12 20060101ALN20180806BHJP
C22C 38/24 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
C23C28/04
C23C8/26
C23C22/62
C21D1/06 A
C21D9/40 A
!C22C38/00 301Z
!C22C38/12
!C22C38/24
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-29559(P2014-29559)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-151621(P2015-151621A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】藤田 工
(72)【発明者】
【氏名】井手 晃嗣
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−237062(JP,A)
【文献】
特開昭62−141497(JP,A)
【文献】
特開2010−121177(JP,A)
【文献】
特開平10−195678(JP,A)
【文献】
特開2005−029808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼からなる部材を準備する工程と、
前記部材を黒染め液に浸漬させて酸化反応させることにより、前記部材の表面にバナジウムを含む膜を形成する工程と、
前記膜が形成された前記部材を、窒素ガスを含みアンモニアガスを含まない熱処理ガス雰囲気中において加熱することにより、前記表面に窒素富化層を形成する工程とを備え、
前記部材を準備する工程では、0.1質量%以上のバナジウムを含む鋼からなる前記部材が準備され、
前記膜を形成する工程では、500℃未満の温度で前記部材を酸化することにより前記膜が形成され、
前記膜は四酸化三鉄を含む、機械部品の製造方法。
【請求項2】
前記膜を形成する工程では、150℃以下の温度で前記部材を酸化することにより前記膜が形成される、請求項1に記載の機械部品の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理ガスは吸熱型変性ガスを含む、請求項1または2に記載の機械部品の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理ガスは窒素ガスおよび還元性ガスの混合ガスである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の機械部品の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理ガスは、窒素ガスを含み、酸素分圧が1×1016Pa以下となっている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の機械部品の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理ガスは、還元性ガスを含むことにより酸素分圧が1×1016Pa以下となっている、請求項5に記載の機械部品の製造方法。
【請求項7】
前記還元性ガスは水素ガスである、請求項6に記載の機械部品の製造方法。
【請求項8】
前記窒素富化層が形成された前記部材を、A1変態点以上の温度からMs点以下の温度に冷却することにより前記部材を焼入硬化する工程をさらに備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の機械部品の製造方法。
【請求項9】
転がり軸受の構成部品が製造される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の機械部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械部品の製造方法に関し、より特定的には、表層部に窒素富化層を有する機械部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品の疲労強度の向上や耐摩耗性の向上を目的として、浸炭窒化などの方法により機械部品の表層部に内部に比べて窒素濃度が高い窒素富化層が形成される場合がある。一般に浸炭窒化処理においては、プロパン、ブタンあるいは都市ガスと空気とを1000℃以上の高温で混合して搬送ガス(吸熱型変成ガス;以下、RXガスという)を作製し、これに少量のプロパン、ブタン、アンモニアを加えた雰囲気ガスが用いられる場合が多い。そして、この雰囲気ガス中において被処理物を加熱することにより、被処理物の表層部に窒素富化層が形成される。RXガスを搬送ガスとして用いた浸炭窒化処理では、窒化反応は未分解のアンモニアによって生じる。
【0003】
一般に、アンモニアガスの分解は高温になるほど進行する。そのため、未分解のアンモニアによる窒化処理は、900℃以上の温度域において実施されることは少ない。その結果、厚みの大きい窒化層が必要な製品を処理する場合でも、処理温度を高くして浸炭窒化時間を短縮することは困難であり、処理時間が長くなるという問題があった。またアンモニアガスを用いた浸炭窒化処理では、熱処理炉にアンモニアガスを導入するための設備を設置する必要があること、熱処理炉内において使用される部品(たとえば製品搬送用バスケット)の消耗が早いことなどに起因して、設備の維持管理コストが高くなるという問題もあった。
【0004】
これに対して、特開2012−237062号公報(特許文献1)には、アンモニアガスを使用せずに高温での窒化処理を可能とする方法が開示されている。この方法では、窒化処理前にバナジウム(V)を含む膜を鋼の表面に形成する前処理が実施され、当該前処理ではバナジウムを含む鋼を大気中で高温加熱することにより酸化膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−237062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1において提案されている方法では、前処理において製品を高温加熱する必要があり、省エネルギー化の観点からは必ずしも望ましいものではなかった。そこで、本発明の目的は、アンモニアガスを使用しない窒化処理を含み、より省エネルギーな機械部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った機械部品の製造方法は、鋼からなる部材を準備する工程と、上記部材を処理液を用いて反応させることにより、上記部材の表面にバナジウムを含む膜を形成する工程と、上記膜が形成された上記部材を、窒素ガスを含みアンモニアガスを含まない熱処理ガス雰囲気中において加熱することにより、上記表面に窒素富化層を形成する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従った機械部品の製造方法によれば、アンモニアガスを使用しない窒化処理を含み、より省エネルギーな機械部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る機械部品の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図2】実施の形態1に係る機械部品の製造方法における工程(S20)を説明するための概略図である。
【
図3】実施の形態1に係る機械部品の製造方法における工程(S30)を説明するための概略図である。
【
図4】実施の形態2に係る機械部品の製造方法を説明するための概略図である。
【
図5】試験片の深さ方向における窒素濃度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0011】
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1に係る機械部品の製造方法について説明する。
図1を参照して、本実施の形態に係る機械部品の製造方法では、まず工程(S10)として鋼部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、たとえば転がり軸受の構成部品(外輪、内輪、転動体)の概略形状に成型された鋼部材が準備される。より具体的には、たとえば0.1質量%以上のバナジウムを含有する鋼であるAMS2315(航空宇宙材料規格;米国)の鋼材やJIS規格SUJ2に0.1質量%以上のバナジウムを添加した成分組成を有する鋼材などが準備され、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより上記鋼部材が準備される。
【0012】
次に、工程(S20)として酸化工程が実施される。この工程(S20)では、
図2を参照して、まず黒染め液4(処理液)が満たされた処理容器3が準備される。そして、上記工程(S10)において準備された鋼部材90が脱脂などが施された後に黒染め液4中に浸漬される。黒染め液4は、たとえば水酸化ナトリウム(55〜60重量%)と、硝酸ナトリウム(20〜25重量%)と、亜硝酸ナトリウム(10〜15重量%)と、炭酸ナトリウム(1〜5重量%)と、塩化ナトリウム(1〜5重量%)とを成分として含んでいる。これにより、鋼部材90が酸化されて当該鋼部材90の表面に四酸化三鉄(Fe
3O
4)被膜が形成される。当該Fe
3O
4被膜には鋼中のバナジウムが含まれる。そして、上記酸化処理が完了した後に鋼部材90が処理容器3から取り出され、水洗処理が施される。このように工程(S20)では、鋼部材90を黒染め液4を用いて酸化反応させることにより、当該鋼部材90の表面にバナジウムを含む酸化膜(Fe
3O
4被膜)が形成される。なお「バナジウムを含む膜」は、黒染め液4を用いた酸化処理により形成される酸化膜(Fe
3O
4被膜)だけでなく、所定の処理液を用いて鋼部材90を反応させることにより当該鋼部材90の表面に形成され得るバナジウム含有膜も含まれ得る。
【0013】
この工程(S20)では、鋼部材90の黒染め処理は500℃未満の温度で実施されることが好ましく、150℃以下の温度で実施されることがより好ましい。また黒染め処理の時間は1分以上120分以下であることが好ましく、3分以上40分以下であることがより好ましい。また、鋼部材90の表面に形成される酸化膜の厚みは、0.1μm以上3μm以下であることが好ましく、1μm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0014】
この工程(S20)では、上記酸化膜が鋼部材90の表面全体に形成されてもよいが、鋼部材90の表面の一部に形成されてもよい。すなわち、上記酸化膜は、鋼部材90の表面全体に形成される場合に限られず、後述する工程(S30)において窒素富化層が形成されるべき領域にのみ形成されてもよい。なお上記酸化膜を部分的に形成するためには、たとえば鋼部材90の表面の一部にマスキング材(図示しない)などを配置した後、当該鋼部材90を黒染め液4中に浸漬して酸化処理を行ってもよい。
【0015】
次に、工程(S30)として浸炭窒化工程が実施される。この工程(S30)では、上記工程(S20)において酸化処理された鋼部材90が浸炭窒化処理される。より具体的には、
図3を参照して、まずバッチ炉1の熱処理室11の底壁上に設置された保持部12の上に鋼部材90が設置される。次に、変成炉においてプロパン(C
3H
8)ガスと空気とを混合し、触媒の存在下において1000℃以上の温度に加熱することにより得られた吸熱型変成ガス(RXガス)と、エンリッチガスとしてのプロパンガスとが給気口13から熱処理室11内に供給される。これにより、熱処理室11内において所望のカーボンポテンシャルに調整された熱処理ガス雰囲気が形成される。上記熱処理ガス雰囲気は、RXガス中の窒素ガスを含み、アンモニアガスを含まない。なお「アンモニアガスを含まない」とは、アンモニアガスを実質的に含まないことを意味し、不純物としてのアンモニアガスの混入を排除するものではない。そして、上記熱処理ガス雰囲気中において、鋼部材90がたとえばA
1変態点以上の温度域である750℃以上1000℃以下の温度域、好ましくは850℃以上950℃以下の温度域に加熱される。これにより、鋼部材90の表層部に炭素が侵入する。また鋼部材90の表面にはバナジウムを含む酸化膜が形成されており、かつRXガスには窒素ガスが含まれることから、鋼部材90の表層部には窒素も侵入する。その結果、鋼部材90は浸炭窒化処理され、鋼部材90の表面に窒素富化層が形成される。
【0016】
次に、工程(S40)として焼入硬化工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において窒素富化層が形成された鋼部材90が焼入硬化される。より具体的には、A
1変態点以上の温度域にて浸炭窒化された鋼部材90がバッチ炉1から取り出され、たとえば油漕内に浸漬される。これにより、鋼部材90がA
1変態点以上の温度域からM
S点以下の温度域にまで冷却されて焼入硬化される。これにより、窒素富化層を含む鋼部材90全体が焼入硬化され、鋼部材90に高い疲労強度および耐摩耗性が付与される。なお「A
1変態点」とは、鋼を加熱した場合に鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また「M
s点(マルテンサイト変態点)」とは、オーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
【0017】
次に、工程(S50)として焼戻工程が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)において焼入硬化処理された鋼部材90が焼戻処理される。より具体的には、工程(S50)では、工程(S40)において焼入硬化処理された鋼部材90が、A
1変態点以下の温度に加熱され、その後冷却されることにより焼戻処理が実施される。
【0018】
次に、工程(S60)として仕上げ加工工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S10)〜(S50)までが実施されて得られた鋼部材90に対して仕上げ加工が実施されることにより、転がり軸受の構成部品(外輪、内輪、転動体)が完成する。より具体的には、工程(S60)では、焼戻処理された鋼部材90に対して研磨処理などが実施されて上記軸受部品が完成する。以上のプロセスにより、本実施の形態に係る機械部品の製造方法は完了する。
【0019】
以下、本実施の形態に係る機械部品の製造方法における特徴的な構成および作用効果について説明する。本実施の形態に係る機械部品の製造方法は、鋼からなる部材(鋼部材90)を準備する工程(S10)と、上記部材を処理液(黒染め液4)を用いて反応させることにより、上記部材の表面にバナジウムを含む膜を形成する工程(S20)と、上記バナジウムを含む膜が形成された上記部材を、窒素ガスを含みアンモニアガスを含まない熱処理ガス雰囲気中において加熱することにより、上記部材の表面に窒素富化層を形成する工程(S30)とを備えている。上記バナジウムを含む膜を形成する工程(S20)では、上記部材を酸化することにより上記バナジウムを含む膜が形成される。上記バナジウムを含む膜は四酸化三鉄(Fe
3O
4)を含んでいる。
【0020】
上記機械部品の製造方法では、表面にバナジウムを含む膜が形成された鋼部材90が、窒素ガスを含みアンモニアガスを含まない雰囲気中において加熱され、窒素富化層を有する機械部品(軸受部品)が製造される。上記機械部品の製造方法においては、窒素富化層の形成が未分解のアンモニアによって進行するものではない。そのため、上記機械部品の製造方法においては、窒素富化層を形成する処理を高温で実施することにより熱処理時間を短縮することができる。また、上記機械部品の製造方法ではアンモニアが使用されないため、熱処理炉11内において使用される部品の消耗を抑制し、設備の維持管理コストを低減することができる。さらに、上記機械部品の製造方法では、窒素富化層の形成前に黒染め液4を用いた酸化処理により鋼部材90の表面にバナジウムを含む酸化膜(Fe
3O
4被膜)が形成される。そのため、大気中での高温加熱によって鋼部材の表面にバナジウムを含む酸化膜が形成される場合に比べて製造プロセスをより省エネルギー化することができる。
【0021】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法において、上記部材(鋼部材90)を準備する工程(S10)では、0.1質量%以上のバナジウムを含む鋼からなる上記部材が準備される。これにより、鋼部材90を酸化処理することで当該鋼部材90の表面において容易にバナジウムを含む膜を形成することができる。
【0022】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法において、上記バナジウムを含む膜を形成する工程(S20)では、500℃未満の温度で上記部材(鋼部材90)を反応させることにより上記バナジウムを含む膜が形成される。これにより、製造プロセスをより省エネルギー化することができる。
【0023】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法において、上記熱処理ガスは吸熱型変性ガス(RXガス)を含んでいる。これにより、上記熱処理ガス雰囲気中におけるカーボンポテンシャルを容易に調整することができる。
【0024】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法において、上記熱処理ガスは、窒素ガスおよび還元性ガスの混合ガスであってもよい。これにより、窒素供給源として安価かつ入手が容易な窒素を含む還元性の上記熱処理ガスを用いて窒素富化層を形成することができる。その結果、熱処理コストを低減することができる。なお還元性ガスとしては、たとえば水素ガス、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス、一酸化炭素ガスなどを採用することができる。
【0025】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法において、上記熱処理ガスは、窒素ガスを含み、酸素分圧が1×10
16Pa以下となっていてもよい。上記熱処理ガスは、上記還元性ガスを含むことにより酸素分圧が10
−16Pa以下となっていてもよい。還元性ガスとしては、水素ガス、メタンガス、プロパンガス、ブタンガス、一酸化炭素ガスなどを採用することができる。これにより、窒素供給源として安価かつ入手が容易な窒素を含み、かつ酸化性を低いレベルに抑制した熱処理ガスを用いることができる。その結果、熱処理コストを低減することができる。
【0026】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法は、窒素富化層が形成された部材(鋼部材90)を、A
1変態点以上の温度からM
s点以下の温度に冷却することにより上記部材を焼入硬化する工程(S40)を備えている。これにより、窒素富化層が形成されるとともに焼入硬化された耐久性の高い機械部品を容易に製造することができる。
【0027】
上記本実施の形態に係る機械部品の製造方法では、たとえば外輪や内輪などの軌道輪あるいは転動体などの転がり軸受の構成部品が製造される。転がり軸受を構成する部品は、高い疲労強度や耐摩耗性を要求される場合が多いため、上記機械部品の製造方法は転がり軸受の構成部品の製造において好適である。なお、本発明の機械部品の製造方法は転がり軸受の構成部品を製造する場合に限定されず、疲労強度や耐摩耗性の向上が要求される他の機械部品の製造においても同様に適用することができる。
【0028】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。本実施の形態に係る機械部品の製造方法は、基本的には上記実施の形態1に係る機械部品の製造方法と同様の工程により実施され、かつ同様の効果を奏する。しかし、上記実施の形態1ではバッチ炉1を用いて浸炭窒化工程(S30)が実施されるのに対し、本実施の形態では連続炉2を用いて上記工程が実施される。
【0029】
図4を参照して、連続炉2は、窒化処理炉22と、当該窒化処理炉22に接続され、焼入油を保持する焼入油漕23とを備えている。焼入油漕23には、焼入油漕23内の被処理物を搬出するコンベア26が設置されている。本実施の形態では、この連続炉2を用いて浸炭窒化工程(S30)および焼入硬化工程(S40)が実施される。
【0030】
まず工程(S30)では、工程(S20)において酸化処理された鋼部材90がコンベア25の上に載置される。これにより、鋼部材90はコンベア25により矢印αに沿って搬送される。窒化処理炉22内は、たとえばエンリッチガスが添加されたRXガスあるいは窒素ガスおよび水素ガスの混合ガスなどの熱処理ガス雰囲気に調整されている。そして、この窒化処理炉22内において鋼部材90がA
1変態点以上の温度域に加熱される。これにより、鋼部材90の表層部に窒素富化層が形成される。
【0031】
次に、窒素富化層が形成された鋼部材90は、コンベア25により搬送されることにより、矢印βに沿って焼入油漕23内に落下する。これにより、鋼部材90は急冷されて、焼入硬化される。そして、焼入硬化された鋼部材90は、コンベア26により、焼入油漕23から搬出される。以上の手順により、連続炉2を用いた工程(S30)および(S40)が完了する。このように、本実施の形態に係る機械部品の製造方法では、連続炉2を用いることにより工程(S30)および(S40)を効率よく実施し、機械部品の生産効率を向上させることができる。
【実施例】
【0032】
黒染め処理により鋼の表面にバナジウムを含む酸化膜を形成し、当該鋼を窒素ガスを含みアンモニアガスを含まない熱処理ガス雰囲気中において加熱することにより窒素富化層の形成が可能となることを確認する実験を行った。まず、表1に示す成分組成を有する鋼からなる試験片、および表2に示す成分組成を有する黒染め液をそれぞれ準備した。表1中、「SUJ2+V1.94」とはJIS規格SUJ2の成分組成に加えて1.94質量%のバナジウムを含む鋼を意味する。また、表1中に記載された組成の残部は鉄および不純物である。次に、試験片を黒染め液中に浸漬し、130℃の温度で5分間黒染め処理を行った。次に、窒素ガスが50体積%、水素ガスが50体積%の熱処理ガス雰囲気中において試験片を950℃の温度で14時間加熱した。その後、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)により、上記窒化処理後の試験片の深さ方向における窒素濃度分布を調査した。
【0033】
図5は上記調査結果を示すグラフであり、横軸が深さ(mm)を示し、縦軸が窒素濃度(重量%、wt.%)を示している。
図5から明らかなように、窒化処理前に黒染め処理により試験片を酸化した場合でも、当該試験片の表層部に1重量%以上の濃度で窒素が侵入することが分かった。これにより、窒化処理前に高温加熱により鋼表面に酸化膜を形成する場合に限られず、省エネルギー化の観点から黒染め処理により鋼表面に酸化膜を形成した場合でも、同様にアンモニアガスを使用せずに窒素富化層を形成可能であることが分かった。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の機械部品の製造方法は、省エネルギー化が要求される機械部品の製造方法において、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0038】
1 バッチ炉、2 連続炉、3 処理容器、4 黒染め液、11 熱処理室、12 保持部、13 給気口、14 排気口、22 窒化処理炉、23 焼入油漕、25,26 コンベア、90 鋼部材。