【実施例】
【0059】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明の実施形態に係る有機発光素子について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る有機発光素子のあくまでも一例であって、本発明の実施形態に係る有機発光素子が下記の例に限定されるものではない。
【0060】
(合成例1:前駆体3の合成)
「Chem.Eur.J.2011、17、10871−10878」を参考に前駆体3を合成した。
【0061】
(合成例2:前駆体5の合成)
窒素導入管、ジムロート(dimroth)、メカニカルスターラー(mechanical stirrer)を装着した300mL4つ口フラスコ(flask)にジクロロフェニルトリアジン 11.5g (50.9mmol)、ジクロロフェニルボロン酸 21.4g (112mmol)、CH
3CN 600mL、1M Na
2CO
3aq 200mLを加え、2時間N
2バブリング(bubbling)を行った。次にPdCl
2(PPh
3)
2 1.79g (2.55mmol)を加え加熱還流撹拌を行った。20時間経過後、原料の消失を確認し放冷した。反応溶液を2000mL三角フラスコに移し、水500mLを加えて撹拌し塩を取り除いた。ガラスフィルター(glass filter)を用いて吸引濾過にて濾物と濾液に分け、濾物をカラム精製することで目的物を得た(収量8.2g、収率57%)。
【0062】
また、目的物の
1H−NMR(400MHz、CDCl3)を測定したところ、以下の化学シフト(chemical shift)を得た(単位はppm。以下同様。)。8.73−8.70(m、2H)、8.58(d、J=2.0Hz、4H)、7.69−7.52(m、5H)。
図2及び
図3にNMRスペクトルを示す。
図3は
図2の低磁場側のスペクトルを示す。また、目的物のマススペクトルを測定したところ、m/z=447[M]
+の結果を得た。マススペクトルを
図4に示す。これらの結果により、目的物がたしかに前駆体5であることを確認した。
【0063】
(合成例3:B3PyPTZの合成)
窒素導入管、ジムロート、マグネチックスターラー(magnetic stirrer)を装着した200mL3つ口フラスコに前駆体5 1.14g(2.55mmol)、3−ピリジンボロン酸エステル 2.63g(12.8mmol)、1、4−dioxane 40mL、1.35M K
3PO
4aq 13mLを加え、3時間N
2バブリングを行った。次にPd
2(dba)
3 0.048g(0.052mmol)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2'、6'−ジメトキシビフェニル(S−Phos)0.044g(0.107mmol)を加え強撹拌下、加熱還流を行った。32時間経過後、TLC(薄膜クロマトグラフィー)にて原料の消失を確認放冷した。吸引濾過にて濾物と濾液に分け、水を用いて濾物から塩を取り除いた。濾物を溶解し、カラムクロマトグラフィーによって目的物を得た(収量1.42g、90%)。
【0064】
目的物の
1H−NMR(400MHz、CDCl3)を測定したところ、以下の化学シフトを得た。9.07(d、4H、J=2.4Hz)、9.02(s、4H)、8.83(d、2H、J=7.6Hz)、8.72(d、4H、J=4.4Hz)、8.10(d、4H、J=8.4Hz)、8.03(s、2H)、7.69−7.64(m、3H)、7.51(dd、4H、J=5.2、5.2Hz)。
図5及び
図6にNMRスペクトルを示す。
図6は
図5の低磁場側のスペクトルを示す。また、目的物のマススペクトルを測定したところ、m/z=618[M]
+(Anal.Calcd for C
41H
28N
7:C 79.72;H、4.41;N、15.87%。Found:C、79.52;H、4.25;N、15.90%)の結果を得た。マススペクトルを
図7に示す。これらの結果により、目的物がたしかにB3PyPTZであることを確認した。
【0065】
(合成例4:B4PyPTZの合成)
窒素導入管、ジムロート、マグネチックスターラーを装着した100mL3つ口フラスコに前駆体5 1.20g(2.68mmol)、4−ピリジンボロン酸エステル2.75g(13.4mmol)、1、4−dioxane 40mL、1.35M K
3PO
4aq(K
3PO
4 3.82gをH
2O 13.3mLに溶解)を加え、1.5時間N
2バブリングを行った。次にPd
2(dba)
3 0.050g(0.055mmol)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2'、6'−ジメトキシビフェニル(S−Phos)0.046g(0.112mmol)を加え強撹拌下、加熱還流を行った。43時間経過後TLCにて原料の消失を確認、塩を溶解するために水を50mL加え撹拌し放冷した。析出固体を回収、水を用いて濾物から塩を取り除いた。濾物を溶解し、カラムクロマトグラフィーによって目的物を得た(収量1.40g、85%)。
【0066】
目的物の
1H−NMR(400MHz、CDCl3)を測定したところ、以下の化学シフトを得た。9.09(d、4H、J=1.6Hz)、8.86−8.75(m、10H)、8.13(d、2H、J=3.6Hz)、7.73−7.63(m、11H)。
図8及び
図9にNMRスペクトルを示す。
図9は
図8の低磁場側のスペクトルを示す。また、目的物のマススペクトルを測定したところ、m/z=617[M]
+(Anal.Calcd for C
41H
28N
7:C、79.72;H、4.41;N、15.87%。Found:C、79.81;H、4.36;N、15.97%。)の結果を得た。マススペクトルを
図10に示す。これらの結果により、目的物がたしかにB4PyPTZであることを確認した。
【0067】
(合成例5:B2PyPTZの合成)
合成例3で3−ピリジンボロン酸エステルの代わりに2.63gの2−ピリジンボロン酸エステルを使用した他は合成例3と同様の処理を行うことで、目的物を得た(収量1.40g、89%)。
【0068】
目的物のマススペクトルを測定したところ、m/z=618[M]
+(Anal.Calcd for C
41H
28N
7:C、79.72;H、4.41;N、15.87%。Found:C、79.52%;H、4.25%;N、15.90の結果を得た。これらの結果により、目的物がたしかにB2PyPTZであることを確認した。
【0069】
(合成例6:B2QPyTZの合成)
合成例1でフェニルマグネシウムブロマイドを用いる代わりに3−ピリジンマグネシウムブロマイドを用いることで、前駆体6を合成した。
【0070】
ジクロロフェニルトリアジンの代わりに前駆体6を11.6g用いた他は合成例2と同様の処理を行うことで、前駆体7を得た(収量7.10g、31%)。次に、前駆体5の代わりに1.14gの前駆体7を用い、3−ピリジンボロン酸エステルの代わりに3.26gの3−キノリンボロン酸エステルを用いた他は合成例3と同様の処理を行うことで、B2QPyTZを得た。(収量1.71g、82%)
【0071】
目的物のマススペクトルを測定したところ、m/z=819[M]
+(Anal.Calcd for C
56H
34N
8:C、82.12;H、4.19;N、13.69%。Found:C、82.12;H、4.19;N、13.69%。)の結果を得た。
【0072】
(有機発光素子の作製)
つぎに、有機発光素子を以下の製法により作製した。まず、予めパターニング(patterning)して洗浄処理を施したITO−ガラス基板に、紫外線オゾン(O
3)による表面処理を行った。なお、かかるITO膜(第1電極)の膜厚は、130nmであった。オゾン処理後、基板を洗浄した。洗浄済基板を有機層成膜用ガラスベルジャー型蒸着機にセットし、真空度10
−4〜10
−5Pa下で、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の順に蒸着を行った。つづいて、金属成膜用ガラスベルジャー型蒸着機に基板を移し、真空度10
−4〜10
−5Pa下で電子注入層、陰極材料を蒸着した。
【0073】
ここで、正孔注入材料としては、TPAPEK及びPPBIを用いた。すなわち、これらの材料をITO上に共蒸着することで、正孔注入層を作製した。正孔注入層の厚さは20nmとした。正孔輸送材料としては、TAPCを用いた。正孔輸送層の厚さは30nmとした。発光材料のホストはCBP(実施例1〜4、比較例1〜3)またはB3PyPTZ(実施例5)とした。ドーパントは(Ir(ppy)
3)とした。ドーパントのドープ量は、ホストの質量に対して8質量%とした。すなわち、これらの材料を正孔輸送層上に共蒸着することで、発光層を作製した。発光層の厚さは、10nmとした。電子輸送材料としては、B3PyPTZ(実施例1、5)、B4PyPTZ(実施例2)、B2PyPTZ(実施例3)、B2QPyTZ(実施例4)、TPBi(比較例1)、ETM1(比較例2)、またはETM2(比較例3)を用いた。電子輸送層の厚さは50nmとした。ETM1、ETM2の構造は以下の化学式(6)、(7)でそれぞれ示される。
【0074】
【化9】
・・・(化学式6)
【0075】
【化10】
・・・(化学式7)
【0076】
なお、ETM1、2は、「Chem.Eur.J.2011、17、10871−10878」の記載を参照し、かつ、上述した反応スキーム中の各材料を変更することで合成された。電子注入材料としては、LiFを用いた。電子注入層の厚さは0.5nmとした。第2電極材料としては、Alを用いた。第2電極の厚さは100nmとした。
【0077】
有機化合物の成膜は抵抗加熱式蒸着法により、蒸着速度0.1〜5.0Å/secにて行った。LiFは同蒸着法により、蒸着速度0.01〜0.1Å/secで行った。Alの成膜は同蒸着法で、蒸着速度5.0〜20.0Å/secで行った。また膜厚の制御は水晶発振式成膜コントローラーを使用し制御した。これにより、有機発光素子(緑色燐光素子)を作製した。
【0078】
(輝度測定)
Keithley Instruments社製2400シリーズのソースメーター(source meter)、色彩輝度計CS−200(株式会社コニカミノルタホールディングス(Konica Minolta Holdings)製、測定角1°)、測定用PCプログラムLabVIEW8.2(株式会社日本ナショナルインスツルメンツ(National Instruments)製)を使用し、暗室内にて輝度測定を行った。測定条件は、「電圧設定モード、DCモード」、電圧ステップ幅0.2V、発光面積4.0mm
2にて行った。測定結果に基づいて、電流密度−電圧特性、輝度−電圧特性、電力効率−輝度特性、電流効率−輝度特性、外部量子効率−輝度特性を評価した。結果を
図11〜
図15及び表1に示す。なお、B2PyPTZ、B2QPyTZ、及びB4PyPTZの特性はB3PyPTZとほぼ同様であったため、
図11〜
図15では、B2PyPTZ、B2QPyTZ、及びB4PyPTZの特性を示していない。また、
図11〜
図15では、ETM1、2の特性も示していないが、いずれもTPBiと同程度の特性を示した。
【0079】
【表1】
【0080】
(エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトル測定)
分光器とマルチチャンネル(multi channel)検出素子を一体化した分光測光装置であるフォトマルチチャンネルアナライザー(photo multi channel analyzer)PMA−11(株式会社浜松ホトニクス(photonics)製)、Keithley Instruments社製2400シリーズのソースメーターを使用し、ELスペクトルを測定した。測定用PCプログラム(program)はPMA用基本ソフトウエア(software)U6039−01version8.2(株式会社浜松ホトニクス製)、測定条件は検出器の露光時間は任意(19ms〜)、波長299.6〜800.4nm、電流値は任意値(mA)にて行った。結果を
図16に示す。なお、B2PyPTZ、B2QPyTZ、及びB4PyPTZのスペクトルはB3PyPTZとほぼ同様であったため、
図16では、B2PyPTZ、B2QPyTZ、及びB4PyPTZのスペクトルを示していない。
【0081】
B3PyPTZを用いた有機発光素子は、一般的な素子構造を有しているにも関わらず、高い外部量子効率と極めて低い駆動電圧を実現した。具体的には、100cdm
−2時では駆動電圧2.3V、外部量子効率20%、電流効率71cdA
−1、電力効率96lmW
−1の効率を示した。TPBiを電子輸送材料に用いた同構造の有機発光素子(比較例1)と比べると、外部量子効率は同程度であるが、0.7Vの大幅な駆動電圧の低減効果がある。また、ETM1、2を用いた有機発光素子と比べても、0.5〜0.6Vの大幅な駆動電圧の低減効果がある。他の実施例に係るトリアジン誘導体を用いた有機発光素子もB3PyPTZとほぼ同様の特性を示した。
【0082】
この理由として、第1に、トリアジン部位の高い電子受容性により、第2電極(陰極)からの電子注入性が向上したことが考えられる。第2に、トリアジン誘導体は、フェニレン基が有する2つのアジン環によって他のトリアジン誘導体と水素結合によって結合することが考えられる。すなわち、トリアジン誘導体同士は、水素結合によって強固なネットワークを形成し、このネットワークが電子輸送性の向上に寄与していると考えられる。また、実施例1〜3を比較すると、フェニレン基がピリジル基の3位または4位に結合している実施例1、2は、フェニレン基がピリジル基の2位に結合している実施例3よりも駆動電圧が低い。したがって、トリアジン誘導体同士のネットワークは、フェニレン基がピリジル基の3位または4位に結合している場合に、特に強固になることがわかる。
【0083】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。