特許第6374193号(P6374193)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374193
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の自己放電検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20180806BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H01M10/04 Z
   H01M10/48 P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-62970(P2014-62970)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-185485(P2015-185485A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】オートモーティブエナジーサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 大輔
(72)【発明者】
【氏名】栗原 淳子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 健一
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−84346(JP,A)
【文献】 特開2014−26732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
H01M 10/48
H01M 10/058
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電後の第一の時点での電圧変化と良判定基準にもとづいて、非水電解質二次電池群の中から、良又は不良の選別を行う良品選別工程を有する非水電解質二次電池の自己放電検査方法であって、
前記第一の時点より前の第二の時点での電圧変化と分布平均変化を検出し、非水電解質二次電池群の中から、検出された電圧変化と分布平均変化との偏差の絶対値が前記良判定基準より緩やかに設定された第三の閾値よりも大きいものを選別する第三選別工程を更に有し、前記良品選別工程での選別は、前記第三選別工程で選別されなかった非水電解質二次電池の中で行うことを特徴とする非水電解質二次電池の自己放電検査方法。
【請求項2】
充電後の第一の時点での電圧変化と良判定基準にもとづいて、非水電解質二次電池群の中から、良又は不良の選別を行う良品選別工程を有する非水電解質二次電池の自己放電検査方法であって、
前記第一の時点より前の第二の時点での電圧変化と分布平均変化を検出し、非水電解質二次電池群の中から、検出された電圧変化と分布平均変化との偏差が前記良判定基準より厳しく設定された第四の閾値よりも高い値のものを選別する第四選別工程を更に有し、前記良品選別工程での選別は、前記第四選別工程で選別されなかった非水電解質二次電池の中で行うことを特徴とする非水電解質二次電池の自己放電検査方法。
【請求項3】
前記良判定基準は、電圧変化又は電圧変化と分布平均との偏差であることを特徴する請求項1または2記載の非水電解質二次電池の自己放電検査方法。
【請求項4】
前記第一の時点及び前記第二の時点で検出する電圧変化の最初の電圧測定は、充電直後又は充電から所定時間経過後であることを特徴する請求項1または2記載の非水電解質二次電池の自己放電検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の自己放電検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池(以下、省略して電池と称する)の製造工程においては、微小な内部短絡を起こしている可能性のある不良品を選別するために自己放電検査が行われる。自己放電検査は、電池のエージング前後の開路電圧の差と閾値とを比較することで良不良判定する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−250929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自己放電検査のためのエージングには、保管のために、1日あたりの生産量×保管日数に比例した空調付きのスペースが必要となる。そのため、自己放電検査の判定までに日数がかかると保管コストが増加する恐れがあった。
【0005】
以上示したようなことから、非水電解質二次電池の自己放電検査方法において、保管コストの低減を図ることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、充電後の第一の時点での電圧変化と良判定基準にもとづいて、非水電解質二次電池群の中から、良又は不良の選別を行う第一選別工程を有する非水電解質二次電池の自己放電検査方法であって、
第一の時点より前の第二の時点での電圧変化を検出し、非水電解質二次電池群の中から、検出された電圧変化が良判定基準より緩やかに設定された第一の閾値よりも大きいものを選別する第二選別工程を更に有し、第一選別工程での選別は、第二選別工程で選別されなかった非水電解質二次電池の中で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、非水電解質二次電池の自己放電検査方法において、保管コストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態における非水電解質二次電池を示す斜視図。
図2】実施形態における非水電解質二次電池を示す断面図。
図3】各電池の電圧変化を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態1〜6に係る非水電解質二次電池の自己放電検査方法を図1図3に基づいて説明する。
【0010】
[実施形態1]
まず、図1図2を参照にしながら本実施形態1に係る自己放電検査方法に投入する電池の構成を簡単に説明する。
【0011】
電池1は、例えばリチウム イオン二次電池であり、図1に示すように、偏平な長方形の外観形状を有し、長手方向の一方の端縁に、導電性金属箔からなる一対の正極端子2,負極端子3を備えている。
【0012】
図2に示すように、電池1は、長方形をなす発電要素としての電極積層体4を電解液とともにラミネートフィルムからなる外装体5の内部に収容したものである。電極積層体4は、セパレータ43を介して交互に積層された複数の正極板41および負極板42からなり、例えば、3枚の負極板42と、2枚の正極板41と、これらの間の4枚のセパレータ43と、を含んでいる。つまり、この例では、電極積層体4の両面に負極板42が位置している。
【0013】
正極板41は、長方形をなす正極集電体41aの両面に正極活物質層41b、41cを形成したものである。正極集電体41aは、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、又は、ニッケル箔等の電気化学的に安定した金属箔から構成されている。また、正極活物質層41b、41cは、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、または、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム複合酸化物からなる正極活物質と、バインダと、を混合したものを、正極集電体41aの主面に塗布することにより形成されている。
【0014】
負極板42は、長方形をなす負極集電体42aの両面に負極活物質層42b、42cを形成したものである。負極集電体42aは、例えば、ニッケル箔、銅箔、ステンレス箔、又は、鉄箔等の電気化学的に安定した金属箔から構成されている。負極活物質層42b、42cは、例えば、非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、又は、黒鉛等のような上記の正極活物質のリチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質に、バインダを混合したものを、負極集電体42aの主面に塗布することにより形成されている。
【0015】
セパレータ43は、正極板41と負極板42との間の短絡を防止すると同時に電解質を保持する機能を有するものであって、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン等から構成される微多孔性樹脂膜からなる。なお、セパレータ43としては、ポリオレフィン等の単層膜に限られず、ポリプロピレン膜をポリエチレン膜でサンドイッチした三層構造のもの等が挙げられる。
【0016】
負極集電体42aの長手方向の端縁の一部は、負極活物質層42b、42cを具備しない延長部42dとして延びており、その先端が負極端子3に接合されている。また、図2には示されていないが、同様に正極集電体41aの長手方向の端縁の一部が、正極活物質層41b、41cを具備しない延長部41dとして延びており、その先端が正極端子2に接合されている。
【0017】
また、電解液としては、特に限定されるものではないが、リチウムイオン二次電池に一般的に使用される電解質として、例えば、有機溶媒にリチウム塩が溶解した非水電解液を用いることができる。
【0018】
上記のような構成の電極積層体4を電解液とともに収容する外装体5は、図2に一部を拡大して示すように、熱融着層51と金属層52と保護層53との三層構造を有するラミネートフィルムからなる。中間の金属層52は、例えばアルミニウム箔からなり、その内側面を覆う熱融着層51は、熱融着が可能な合成樹脂例えばポリプロピレン(PP)からなり、金属層52の外側面を覆う保護層53は耐久性に優れた合成樹脂例えばポリエチレンテレフタレート(PET)からなる。
【0019】
外装体5は、一つの例では、図2の電極積層体4の下面側に配置される1枚のラミネートフィルムと上面側に配置される他の1枚のラミネートフィルムとの2枚構造をなし、これら2枚のラミネートフィルムの周囲の4辺を重ね合わせ、かつ互いに熱融着した構成となっている。図示例は、このような2枚構造の外装体5を示している。また、他の一つの例としては、外装体5は1枚の比較的大きなラミネートフィルムからなり、2つ折りとした状態で内側に電極積層体4を配置した上で、周囲の3辺を重ね合わせ、かつ互いに熱融着した構成としてもよい。
【0020】
長方形をなす電池1の短辺側に位置する一対の正極端子2、負極端子3は、ラミネートフィルムを熱融着する際に、ラミネートフィルムの接合面を通して外部へ引き出されている。
【0021】
電池1の製造手順としては、以下の通りである。まず、負極板42、セパレータ43、正極板41、セパレータ43及び負極42を順次積層し、かつ正極集電体41a,負極集電体42aの延長部41d,42dをそれぞれ正極端子2、負極端子3にスポット溶接等により取り付けて電極積層体4を構成する。次に、この電極積層体4を外装体5となるラミネートフィルムで覆い、比較的小さな充填口を残して周囲の4辺(上記の2つ折りの場合は3辺)を熱融着する。次に、充填口を通して外装体5の内部に電解液を充填し、その後、充填口を熱融着して外装体5を密閉状態とする。これにより電池1が完成する。
【0022】
次に、自己放電検査方法を図3に基づいて説明する。図3は、50個の電池群(以下、これを母集団と称する)の各電池の電圧変化を調べたデータの中から、説明のために代表的に選んだ4個の電池の電圧変化を示したものである。実際にはt1、t2とも、50個全ての電池について電圧測定を行っており、その結果から後に述べる標準偏差を算出しているが、ここでは図3の4個の電池の挙動についてのみ着目して説明する。
【0023】
まず、適宜なレベルまで、例えば、満充電を行い、開路電圧OCV(Open Circuit Voltage)1を測定する。そして、充電時からt1経過時点まで(第1エージング期間)、エージングを行い、第1エージング期間後の開路電圧OCV2を測定する。ここで、第1選別工程を行う。第1選別工程では、電池1〜電池4の各電池毎に、開路電圧OCV2と開路電圧OCV1の差から第1エージング期間前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出し、この電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が予め設定した第一の閾値よりも低い(低下が大きい)製品を先行不良品とする。この第一の閾値は後に説明する第五の閾値(良判定基準)よりも低い(緩やかに設定された)値である。本実施形態1では、図3のA点において、電池4が先行不良品となる。この先行不良品は検査から外れ、以降の工程は行わない。
【0024】
引き続き、t2経過時点迄エージングを行う。ここで、充電時点からt2までの期間を第2エージング期間という。そして、第2エージング期間後の開路電圧OCV3を測定する。ここで、良品選別工程を行う。良品選別工程では、電池1〜電池4の各電池毎に開路電圧OCV3と開路電圧OCV1の差から第2エージング期間前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出し、この電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が第五の閾値よりも低い(低下が大きい)製品を不良品とする。その他の製品は良品として選別され、その後の工程の後に出荷される。
【0025】
よって、本実施形態1は、充電してから開路電圧OCVの値が多少安定し、かつ、信用度の高い選別が行える通常の選別時よりも前の時点で開路電圧OCV2を測定し、電圧変化ΔVの低下量が他と比べて極めて大きい製品を先行不良品として選別を行うものである。この先行不良品は、第1期間t1経過時には開路電圧OCV2の値が完全に安定していないものの、電圧変化ΔVの低下量が他と比べて大きく、第2期間t2経過後も良品となる可能性が極めて低い製品である。この先行不良品は、検査から外れるため、保管コストの低減を図ることができる。
【0026】
例えば、不良品10個,良品10個の電池群を想定する。第1期間t1経過後に第一の閾値で第1選別工程を行う。その結果、例えば、不良品5個,不良品以外15個と判定されたものとする。この不良品5個については、検査から外れる。
【0027】
その後、不良品以外の15個について、第2期間t2経過後に第五の閾値で第2選別工程を行う。その結果、不良品5個,良品10個となる。
【0028】
結果としては、不良品(第1選別工程)5個+(第2選別工程)5個=10個,良品(第2選別工程)10個となり、従来のように長期間経過後に全ての製品を判定したのと同様の結果が得られるため、適切な良不良判定を行うことができる。
【0029】
[実施形態2]
実施形態1では第1期間t1経過後の第1選別工程において先行不良品を選別したが、本実施形態2は、第1期間t1経過後の第1選別工程において、先行良品を選別するものである。
【0030】
以下、本実施形態2における自己放電検査方法を詳細に説明する。
【0031】
本実施形態2は、第1期間t1経過後の開路電圧OCV2の測定までは実施形態1と同様である。そして、第二選別工程において、各電池毎に、開路電圧OCV2と開路電圧OCV1の差である第1エージング期間前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出し、この電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が第二の閾値よりも高い(低下が小さい)小さい製品を先行良品とする。本実施形態2における第二の閾値は第五の閾値(良判定基準)よりも低下量が小さい(厳しく設定された)値を設定し、第2期間t2経過時も確実に良品となる可能性が極めて高いものを先行良品とする。本実施形態2では、図3のB点において、電池2が先行良品となる。この先行良品は、この時点で自己放電検査を終了し、その後の工程の後に出荷される。
【0032】
次に、引き続き、エージングを行い、第2期間t2経過後の開路電圧OCV3を測定する。ここで、良品選別工程を行う。第2選別工程では、各電池毎に開路電圧OCV3と開路電圧OCV1の差である第二エージング期間前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出し、この電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が第五の閾値(良判定基準)よりも低い(低下が大きい)製品を不良品とする。その他の製品は良品として選別され、その後の工程の後に出荷される。
【0033】
以上示したように、本実施形態2によれば、第二選別工程で先行良品と判断された製品は自己放電検査を終了するため、保管コストの低減を図ることができる。
【0034】
また、判定結果についても、長期間経過後に全ての製品を判定したのと同様の結果が得られるため、適切な良不良判定を行うことができる。
【0035】
[実施形態3]
本実施形態3は、第1期間t1経過後の第1選別工程において、先行良品および先行不良品を選別するものである。
【0036】
本実施形態3は、第1期間t1経過後の開路電圧OCV2の測定までは実施形態1,2と同様である。そして、第一選別工程として、各電池毎に、開路電圧OCV2と開路電圧OCV1の差である第1エージング期間前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出し、この電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が第一の閾値よりも低い(低下が大きい)製品を先行不良品とする。この第一の閾値は第五の閾値(良判定基準)よりも低い(低下が大きい)値を設定し、先行不良品は第2期間t2経過時も良品となる可能性が極めて低い製品である。また、第二選別工程として、電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が第二の閾値よりも高い(低下が小さい)製品を先行良品とする。本実施形態3における第二の閾値は、第五の閾値(良判定基準)よりも高い(低下が小さい)値を設定し、第2期間t2経過時も確実に良品となる可能性が極めて高いものを先行良品とする。本実施形態3では、図3に示すように、電池4が先行不良品となり、電池2が先行良品となる。この先行不良品である電池4は検査から外れ、以降の工程は行わない。また、先行良品である電池2は、この時点で自己放電検査を終了し、その後の工程の後に出荷される。
【0037】
次に、残りの電池群に対して、更に、エージングを行い、開路電圧OCV3を測定する。ここで、良品選別工程を行う。良品選別工程では、各電池毎に開路電圧OCV3と開路電圧OCV1の差である第2エージング期間前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出し、この電圧変化ΔV1〜ΔV4の値が第五の閾値(良判定基準)よりも低い(低下が大きい)製品を不良品とする。その他の製品は良品として選別され、その後の工程の後に出荷される。
【0038】
以上示したように、本実施形態3によれば、第一、第二選別工程において、先行不良品および先行良品を選別し、この先行不良品,先行良品については、自己放電検査を終了させるため、より保管コストの低減を図ることができる。
【0039】
また、判定結果についても、長期間経過後に全ての製品を判定したのと同様の結果が得られるため、適切な良不良判定を行うことができる。
【0040】
[実施形態4]
実施形態1〜3ではエージング前後の電圧変化ΔV1〜ΔV4と閾値とを比較することによって良品と不良品とを選別していたが、本実施形態4は、電圧変化ΔVと、母集団の各電池のΔVを平均したもの(以下分布平均変化と称する)との偏差を閾値と比較することにより選別するものである。
【0041】
表1は、実際の電池50個の電圧変化を調べ、そのうち、下記の説明の都合で選んだ4個の電池の電圧挙動について、下記に説明する計算を行ってまとめたものである。なお、実際の電池50個(母集団)の、10日後の電圧変化の標準偏差(σ1)は0.0033、20日後の電圧変化の標準偏差(σ2)は0.0049であった。
【0042】
本実施形態4は、第1期間t1経過後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出するところまでは実施形態1〜3と同様である。ここで、第三選別工程を行う。まず、母集団の電池のΔVの平均値(分布平均変化)を算出する。以下これをΔVaとする。本実施形態4では、分布平均変化に最も近い電池を電池1とし、電池1の第一エージング期間前後の電圧変化をΔV1とする。さらに、例として母集団の中から選んだ電池1、電池2、電池3、および電池4の電圧変化ΔV1,ΔV2,ΔV3,およびΔV4と分布平均変化ΔVaの偏差を下記表1に示すように算出する。
【0043】
【表1】
【0044】
そして、第1期間(t1=10日)経過後の偏差ΔV1−ΔVa、ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4―ΔVaの絶対値が第三の閾値3σ1=0.0099より大きく、電圧変化ΔVの低下が大きいものを先行不良品として選別する。本実施形態4では、電池4が先行不良品として選別される。
【0045】
この第三の閾値3σ1における係数“3”は、第六の閾値(良判定基準)である2.5σの係数“2.5”よりも大きく(緩やかに設定した)、第1期間t1経過時には偏差ΔV−ΔVaの値が完全に安定していないものの、先行不良品は第2期間t2経過後も良品となる可能性が極めて低い製品である。
【0046】
次に、第2期間経過後に良品選別工程を行う。まず、この時点での母集団の電池のΔVの平均値(分布平均変化)ΔVaを再び算出する。ここで、第1期間経過時に不良としてすでに排除された電池は第2期間経過後の母集団平均算出時に含んでいなくてもよい。そして、第2期間(t2=20日)経過後の偏差ΔV1−ΔVa、ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4―ΔVaの絶対値が第六の閾値2.5σ2=0.0123以上となる、電圧変化ΔVの低下が大きいものを不良品と判定し、検査から除外する。そうでないものを良品として選別し、その後の工程の後に出荷工程に回す。母集団の中のある割合の電池はここで不良品と判定されることとなるが、表1に示した電池のうち、第3選別工程で残った電池2,3の場合は、良品選別工程においていずれも2.5σ2=0.0123よりも偏差の絶対値が小さいため、いずれも合格になる。
【0047】
以上示したように、本実施形態4では、第1選別工程で電圧変化ΔVと分布平均変化ΔVaとの偏差の絶対値が大きく、電圧変化の低下が大きいものを先行不良品として選別し、自己放電検査から除外するため、保管コストの低減を図ることができる。
【0048】
また、判定結果についても、長期間経過後に全ての製品を判定したのと同様の結果が得られるため、適切な良不良判定を行うことができる。
【0049】
[実施形態5]
本実施形態5は、実施形態4と同様に、電圧変化ΔVと分布平均変化との偏差を閾値と比較して選別するものである。第1期間t1経過後の電圧変化ΔV1〜ΔV4を算出するところまでは実施形態1〜4と同様である。本実施形態5では、下記のように第三選別工程を行う。まず、実施形態4と同様に、各電池の偏差を計算する。ここで、各電池の電圧の偏差ΔV1−ΔVa,ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4−ΔVaの値が第四の閾値0.5σ1=0.0017よりも高いものを先行良品として選別する。ここでは、電池2が先行良品の対象となる。この電池2は、この時点で次工程に回す。
【0050】
なお、ここでは閾値を正の値としており、それよりも偏差が高い値のものを選別しているので、分布平均変化よりも0.5σ以上、ΔVの高いものを選別することになる。もし閾値を負の値に設定すれば、分布平均変化よりΔVの高い電池すべてと低い電池の一部とが選別されることになる。たとえば閾値を“−0.5σ”と設定したら、分布平均変化より0.5σだけΔVが低い電池と、当該電池よりΔVが高い電池すべてが選別されることになる。ここで0.5σの係数”0.5”は、第六の閾値(良判定基準)である2.5σの係数“2.5”よりも小さい(厳しく設定されている)。
【0051】
先行良品は第1期間t1経過時には偏差ΔV−ΔVaの値が完全に安定していないものの、第2期間t2経過後も確実に良品となる可能性が極めて高い製品である。
【0052】
次に、第2期間経過後に良品選別工程を行う。まず、この時点での母集団の電池のΔVの平均値(分布平均変化)ΔVaを再び算出する。ここで、第1期間経過時にすでに次工程に回った電池は第2期間経過後の母集団平均算出時に含んでいなくてもよい。そして、第2期間(t2=20日)経過後の偏差ΔV1−ΔVa、ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4−ΔVaの絶対値が第六の閾値2.5σ1=0.0123以上となる、電圧変化ΔVの低下が大きいものを不良品と判定し、検査から除外する。そうでないものを良品として選別し、その後の工程の後に出荷工程に回す。母集団の中のある割合の電池はここで不良品と判定されることとなる。表1で示した電池のうち、第3選別工程で残った電池3,4の場合は、良品選別工程において、2.5σ=0.0123よりも偏差の絶対値が大きい電池4が、不良品と判断される。
【0053】
以上示したように、本実施形態5によれば、第1選別工程で電圧変化ΔVと分布平均変化との偏差が高い(すなわち自己放電が非常に少ない)ものを先行良品として選別し、その後の工程の後に出荷工程に移行するため、保管コストの低減を図ることができる。
【0054】
また、判定結果についても、長期間経過後に全ての製品を判定したのと同様の結果が得られるため、適切な良不良判定を行うことができる。
【0055】
[実施形態6]
本実施形態6は、実施形態4,5と同様に、電圧変化ΔVと分布平均変化との偏差を閾値と比較して選別するものである。本実施形態6では、第三選別工程として、第1期間(t1=10日)経過後のときの、偏差ΔV1−ΔVa、ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4−ΔVaの絶対値が第三の閾値3σ1=0.0099より大きいものを先行して不良品として選別する。また同時に、偏差ΔV1−ΔVa,ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4−ΔVaの値が、第四の閾値0.5σ1=0.0017よりも高いものを先行して良品として選別する。
【0056】
先行不良品は第1期間t1経過時には偏差ΔV−ΔVaの値が完全に安定していないものの、第2期間t2経過後も良品となる可能性が極めて低い製品である。また、先行良品は第1期間t1経過時には偏差ΔV−ΔVaの値が完全に安定していないものの、第2期間t2経過後も確実に良品となる可能性が極めて高い製品である。ここでは、電池2が先行良品の対象となり、電池4が先行不良品の対象となる。
【0057】
良品選別工程として、第2期間経過後にこの時点での母集団の電池のΔVの平均値(分布平均変化)ΔVaを再び算出する。第1期間経過時に不良としてすでに排除された電池は第2期間経過後の母集団平均算出時に含んでいなくてもよい。そして、第2期間(t2=20日)経過後の電圧変化ΔV1、ΔV2,ΔV3,およびΔV4と分布平均変化ΔVaとの偏差ΔV1−ΔVa,ΔV2−ΔVa,ΔV3−ΔVa,およびΔV4−ΔVaの絶対値が第六閾値2.5σ2=0.0123以上となる電圧変化ΔVの低下が大きいものを不良品と判定し、検査対象から除外する。そうでないものを良品として選別し、その後の工程の後に出荷工程に回す。母集団の中のある割合の電池はここで不良品と判定されることとなるが、表1に示した電池のうち、第3選別工程で残った電池3の場合は、良品選別工程において2.5σ2=0.0123よりも偏差の絶対値が小さいため、合格になる。
【0058】
以上示したように、本実施形態6によれば、第1選別工程で電圧変化ΔVと分布平均変化との偏差の絶対値が大きく、電圧変化の低下が大きいものを先行不良品として選別して自己放電検査から除外し、さらに同時に、電圧変化ΔVと分布平均変化との偏差が高い(すなわち自己放電が非常に少ない)ものを先行良品として選別し出荷工程に移行するため、保管コストの低減をより図ることができる。
【0059】
また、判定結果についても、長期間経過後に全ての製品を判定したのと同様の結果が得られるため、適切な良不良判定を行うことができる。
【0060】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0061】
例えば、実施形態では、積層型の非水電解質二次電池を自己放電検査の対象として説明したが、巻回型の非水電解質二次電池でも適用可能である。
【0062】
また、上述の実施の形態では、第一又は第二の選別工程と良品選別工程は共に電圧変化と閾値を比較して選別し、第三又は第四の選別工程と良品選別工程は共に電圧変化と分布平均変化との偏差と閾値とを比較して選別したが、良品選別工程は電圧変化と分布平均変化との偏差と閾値とを比較して選別し、第一又は第二の選別工程は電圧変化と閾値とを比較して選別してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…非水電解質二次電池(電池)
ΔV1〜ΔV4…電圧変化
OCV…開路電圧
図1
図2
図3