特許第6374196号(P6374196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6374196電解コンデンサ用アルミニウム箔およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374196
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】電解コンデンサ用アルミニウム箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20180806BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20180806BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20180806BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
   C22C21/00 H
   C22F1/04 K
   H01G9/055 100
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-66445(P2014-66445)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-189994(P2015-189994A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】石上 穂乃香
(72)【発明者】
【氏名】吉井 章
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 昌也
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−319794(JP,A)
【文献】 特開2002−097538(JP,A)
【文献】 特開2002−057075(JP,A)
【文献】 特開2007−067052(JP,A)
【文献】 特開平07−297089(JP,A)
【文献】 特開2006−152363(JP,A)
【文献】 特開2005−179719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
H01G 9/04 − 9/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量比で、Si:5〜30ppm、Fe:5〜30ppm、Cu:30〜70ppm、Pb:0.3〜2.0ppm、Mn、Zn、Ga、Sn、Inの内一種または二種以上合計で15〜30ppm、REM:1〜10ppmを含有し、残部が不可避不純物と99.99%以上のAlからなる組成を有し、箔厚が120〜160μm、箔表面の酸化皮膜厚さが30〜70Åであり、酸化皮膜に対するバリアー膜の割合D(D=バリアー膜厚さ/酸化皮膜厚さ)が次式を満たし、さらに、アルミニウム箔表層から100Åの深さの範囲で、C量がAl、C、Oの合計に対して質量%で10〜60%であり、アルミニウム箔表層から50nmの深さの範囲で、深さ方向においてPb量の濃縮ピークが存在し、該濃縮ピークにおけるピーク量が質量比で2500〜5000ppmであることを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム箔。
0.3≦D≦0.6 … (式)
【請求項2】
請求項1記載の電解コンデンサ用アルミニウム箔を製造する方法であって、質量比で、Si:5〜30ppm、Fe:5〜30ppm、Cu:30〜70ppm、Pb:0.3〜2.0ppm、Mn、Zn、Ga、Sn、Inの内一種または二種以上合計で15〜30ppm、REM:1〜10ppmを含有し、残部が不可避不純物と99.99%以上のAlからなる組成を有し、厚さ120〜160μmのアルミニウム箔を、最終圧延終了後に、不活性ガスまたは水素ガスもしくは不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気中で、300〜500℃で2〜24時間保持し、その後該保持温度から50℃以上高い、500℃〜580℃で4〜24時間の保持を行う最終焼鈍を実施することを特徴とする電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電解コンデンサの電極に用いられる電解コンデンサ用アルミニウム箔およ
びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサの電極に用いられるアルミニウム箔は、表面に酸化皮膜を形成してコンデンサ用電極としての機能を与えている。この電解コンデンサ用アルミニウム箔に対しては、電極として用いたときの単位面積当たりの静電容量を大きくするために、電解又は無電解によるエッチング処理を施してその表面積を拡大する粗面化処理が一般に行われている。
この粗面化処理では、アルミニウム箔の表面に微小なピットが多数形成されることで表面積が増大するので、ピットを高密度、かつ均一に分散させて粗面化率を向上させる種々の工夫がなされている。その一つの手法としてアルミニウム箔にピットの形成を促進する成分を微量添加することが提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、粗面化処理に供されるアルミニウムは、製造過程を経ることによって表面が酸化皮膜で覆われており、この酸化皮膜の性状は、初期エッチング性への影響が大きく、ひいては最終でのピット分布に影響し、静電容量を左右する重要な因子である。特に、500℃以上の高温で焼鈍され、その立方晶率を80%以上に高めて使用されている箔においては、酸化皮膜の影響が強いため、その焼鈍の際、皮膜の成長を抑制することが各種提案されている。過度に成長した酸化皮膜は、強酸溶液中でバリアーの役目を果たし、エッチングの進行を抑制する。そのため、表面酸化皮膜の形状を適切に調整することで高い粗面化率を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−249668号公報
【特許文献2】特開2007−067052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のように、微量元素の添加や酸化皮膜厚の制御、立方晶率の向上処理を行っても、十分に満足できる粗面化率を得るには至っておらず、さらに粗面化率の改善によって単位面積当たりでの高い静電容量を得ることができるアルミニウム箔の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、アルミニウム箔の粗面化率を向上させ、優れた静電容量を有する電解コンデンサ用アルミニウム箔およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔のうち、第1の本発明は、質量比で、Si:5〜30ppm、Fe:5〜30ppm、Cu:30〜70ppm、Pb:0.3〜2.0ppm、Mn、Zn、Ga、Sn、Inの内一種または二種以上合計で15〜30ppm、REM:1〜10ppmを含有し、残部が不可避不純物と99.99%以上のAlからなる組成を有し、箔厚が120〜160μm、箔表面の酸化皮膜厚さが30〜70Åであり、酸化皮膜に対するバリアー膜の割合D(D=バリアー膜厚さ/酸化皮膜厚さ)が次式を満たし、さらに、アルミニウム箔表層から100Åの深さの範囲で、C量がAl、C、Oの合計に対して質量%で10〜60%であり、アルミニウム箔表層から50nmの深さの範囲で、深さ方向においてPb量の濃縮ピークが存在し、該濃縮ピークにおけるピーク量が質量比で2500〜5000ppmであることを特徴とする。
0.3≦D≦0 .6 … (式)
【0010】
の本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法は、第1の発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔を製造する方法であって、質量比で、Si:5〜30ppm、Fe:5〜30ppm、Cu:30〜70ppm、Pb:0.3〜2.0ppm、Mn、Zn、Ga、Sn、Inの内一種または二種以上合計で15〜30ppm、REM:1〜10ppmを含有し、残部が不可避不純物と99.99%以上のAlからなる組成を有し、厚さ120〜160μmのアルミニウム箔を、最終圧延終了後に、不活性ガスまたは水素ガスもしくは不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気中で、300〜500℃で2〜24時間保持し、その後該保持温度から50℃以上高い、500℃〜580℃で4〜24時間の保持を行う最終焼鈍を実施することを特徴とする。
【0011】
以下に、本発明で規定するアルミニウム箔の組成および製造条件について説明する。なお、アルミニウム純度は質量%で示され、それ以外の成分量は、質量比で示される。
【0012】
Si:5〜30ppm
Fe:5〜30ppm
Si、Fe含有量が5ppm未満の場合、純度が高く精製コストが増加するため、工業的には望ましくない。一方、Si、Fe含有量が30ppm超の場合、立方晶率が低下し、また過剰溶解による静電容量低下となるため望ましくない。このため、Si、Fe含有量を上記範囲に定める。同様の理由により、望ましくは、下限8ppm、上限15ppmである。
【0013】
Cu:30〜70ppm
Cuは、箔の溶解性向上およびピット密度増加の作用がある。Cu含有量が30ppm未満の場合、その作用が十分に発揮されない。Cu含有量が70ppmを超えると、立方晶率が低下し、また漏れ電流が増大し製品中におけるスパークのリスクが高まる。このため、Cu含有量を上記範囲に定める。同様の理由により、望ましくは、下限40ppm、上限60ppmである。
【0014】
Pb:0.3〜2.0ppm
Pbは、表面の溶解性を向上させ、ピット分散性を向上させる作用がある。Pb含有量が0.3ppm未満の場合、分散性が低下するためエッチングピットの合体が生じ、静電容量が低下する。一方、Pb含有量が2.0ppmを超えると、表面溶解性が過剰となり、表面の崩落が生じて静電容量が低下する。このため、Pb含有量を上記範囲に定める。同様の理由により、望ましくは下限0.4ppm、上限1.5ppmである。
【0015】
(Mn、Zn、Ga、SnおよびIn)のうち一種または二種以上:合計で15〜30ppm
Mn、Zn、Ga、Sn、Inはいずれもマトリックスの電位を低下させ、材料内部の溶解性を向上させる作用があるため、一種以上を含有させる。ただし、合計含有量が15ppm未満の場合、その作用が十分発揮されない。一方、合計含有量が30ppmを超える場合、マトリックスが過剰溶解となり、静電容量低下となる。このため、上記成分の合計含有量を上記範囲に定める。同様の理由により、望ましくは下限18ppm、上限25ppmである。
【0016】
REM:1〜10ppm
REMはFeの析出を促進し、バルクのアルミニウム純度を上げることで立方晶率を高める元素である。ただし、1ppm未満ではその作用が十分発揮されず、10ppmを超えるとFeの析出が過剰となり、結晶粒が異常成長し易く、立方晶率が低下する。このため、REMの含有量を上記範囲に定める。望ましくは下限2ppm、上限8ppmである。なお、REMは、La、Ce、Pr、Nd、等の希土類元素の単独、または二種以上でもよく、さらにミッシュメタルの形態で添加されるものであってもよい。
【0017】
アルミニウム純度:99.99%以上
アルミニウム箔のアルミニウム純度が99.99%未満の場合、立方晶率が低下するため望ましくない。残部の不可避不純物としては地金特有の成分が含まれていてもよい。三層地金、偏析地金を用いても、Si、Fe、Cu、Pb、Cr、Mn、Zn、Ga、Sn、Inを調整後のアルミニウム純度として99.99%以上が確保されれば問題はない。
【0018】
箔厚:120〜160μm
アルミニウム箔は、厚さ120μm以上、160μm以下のものである。箔厚が120μm未満の場合、Pbが十分に静電容量を増加させる効果が十分に発揮されない。一方、箔厚が160μmを超える場合、結晶粒の異常成長が発生しやすい。このためアルミニウム箔の厚さを上記に定める。同様の理由により、望ましくは下限130μm、上限150μmである。
【0019】
(最終焼鈍)
不活性ガスまたは水素ガスもしくはこれらの混合ガス雰囲気中で最終焼鈍
上記雰囲気中で焼鈍処理を行うことで、アルミニウム箔表面の酸化皮膜厚を調整することができる。また、アルミニウム箔表面に付着している油分が還元され高温加熱状態で分解、ガス化し、アルミニウム箔から容易に離脱する。
なお、上記ガスは、不活性ガスまたは水素ガスもしくはこれらの混合ガスが体積%で99%以上とするのが望ましい。
【0020】
第1加熱保持:300〜500℃、2〜24時間
第1加熱保持は、均一な酸化皮膜、特にアモルファス層を形成・成長させ、元素を表面に均一に濃化させる。また、箔表面に付着した圧延油を揮発除去することができ、第2加熱保持のバリヤー層形成において妨げとなる残油成分(C)の悪影響を極力抑えることができる。さらに、残油の低減により箔ブロッキング(密着)や残油に起因する外観不良も防ぐことができる。
加熱温度が300℃未満または保持時間が2時間未満であると、酸化皮膜の成長、元素の表面濃化が不十分である。一方、焼鈍温度が500℃を超え、または保持時間が24時間を超えると酸化皮膜、元素の表面濃化の均一性が失われる。同様の理由により、望ましくは、焼鈍温度は下限320℃、上限490℃であり、望ましくは、焼鈍時間は下限4時間、上限20時間である。
【0021】
第2加熱保持:500〜580℃以上、4〜24時間
第2加熱保持では、第1加熱保持で形成したアモルファス層よりバリヤー層を形成・成長させる。加熱温度が500℃未満または加熱時間が4時間未満であると、酸化皮膜の成長、元素の表面濃化が不十分である。一方、加熱温度が580℃を超え、または保持時間が24時間を超えると、酸化皮膜が厚くなり過ぎ、エッチング性が低下する。また、元素が表面に濃化し過ぎ、ピットの起点が過剰となりピット同士の合体が生じ、静電容量が低下する。同様の理由により、望ましくは、焼鈍温度は下限520℃、上限570℃であり、焼鈍時間は下限5時間、上限20時間である。また、第1加熱保持温度との差は50.0℃以上であることが望ましい。第1加熱保持温度での加熱から第2加熱保持温度での加熱へはそのまま昇温してもよく、一旦冷却し、その後昇温するものであってもよい。
【0022】
アルミニウム箔表面の酸化皮膜厚さ:30〜70Å
最終焼鈍後の表面酸化皮膜は、30〜70Åに制御するのが望ましい。30Å未満の場合、箔の耐食性が低下してエッチング処理の際、無効溶解が増加する。一方、箔の厚さが70Åを超える場合、エッチングの際、均一性が低下し、容量低下原因となる。このため、最終焼鈍後の表面酸化皮膜厚さは上記範囲とするのが望ましい。同様の理由により、酸化皮膜厚さは、より望ましくは下限35Å、上限50Åである。
【0023】
0.3≦D(バリアー膜厚さ/全酸化皮膜厚さ)≦0.6
エッチングに際し、箔生地が表面溶解することなく、最表面からトンネルピットが成長した形態が理想であり、酸化皮膜の耐食性はある程度必要である。ここで、上記比率が0.6を超えると、バリアー皮膜が厚すぎて耐食性過大となり、エッチングピット不均一となる。また、上記比率が0.3未満であると、バリアー膜が薄くなりエッチング早期に表面溶解(全面溶解)を起こし、ピット分布が不均一となる。よって、上記比率Dを0.3以上0.6以下とする。なお、同様の理由により、上記比率Dは、望ましくは下限を0.4、上限を0.55とする。
【0024】
アルミニウム箔表層から100ÅにかけてのC量がAl、C、Oの合計に対して質量%で10〜60%
表面の酸化皮膜中のC量が、10%未満であると、皮膜の耐食性が低下する。一方、60%以上であるとエッチングの際に均一性が低下し容量低下の原因となる。このため表面の酸化皮膜中のC量を上記に定める。同様の理由により、望ましくは下限20%、上限40%である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の電解コンデンサ用アルミニウム箔によれば、質量比で、Si:5〜30ppm、Fe:5〜30ppm、Cu:30〜70ppm、Pb:0.3〜2.0ppm、Mn、Zn、Ga、Sn、Inの内一種または二種以上合計で15〜30ppm、REM:1〜10ppmを含有し、残部が不可避不純物と99.99%以上のAlからなる組成を有し、厚さが120〜160μmのアルミニウム箔からなり、最終圧延終了後に不活性ガスまたは水素ガスもしくは不活性ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気中で、300〜500℃で2〜24時間保持し、その後該保持温度から50℃以上高い、500℃〜580℃で4〜24時間の保持を行う最終焼鈍が実施されるので、アルミニウム箔表面に均一な酸化皮膜を形成させ、また、Pbの表面偏析状態を均一にすることでピット分散性が向上し、静電容量の増加を可能とする。
【0026】
また、これまでの厚箔(≧120μm)では、通常の1段焼鈍では困難であった高容量化を、最終焼鈍にて2段階の保持を実施することで、酸化皮膜とPb偏析状態をバランスよく達成することが可能となる。
第1加熱保持にて酸化皮膜のアモルファス層を形成・成長させ、その後、第2加熱保持を行うことで成長したアモルファス層からバリヤー層が形成される。つまり、加熱保持を2段階にしてアモルファス層の形成・成長とバリヤー層の形成工程を分けることで均一な酸化皮膜を形成させることが可能となった。
また、第1加熱保持での別の効果として、箔表面に付着した圧延油を揮発除去することができ、第2加熱保持でのバリヤー層形成において妨げとなる残油成分(C)の悪影響を極力抑えることができる。また、残油の低減により箔ブロッキング(密着)や残油に起因する外観不良も防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。
純度99.99%以上で本発明の成分となるように調製された高純度アルミニウム材を用意する。該アルミニウム材は、好適には純度99.992%以上とする。
該アルミニウム材は常法により得ることができ、本発明としては特にその製造方法が限定されるものではない。例えば、半連続鋳造によって得たスラブを熱間圧延したものを用いることができ、その他に連続鋳造により得られる高純度アルミニウム材を用いるものであってもよい。上記熱間圧延または連続鋳造圧延によって例えば数mm厚程度のシート材とする。このシート材に対し冷間圧延を行い、120μm以上160μm以下の厚さを有するアルミニウム合金箔を得る。なお、冷間圧延途中あるいは冷間圧延終了後に適宜脱脂を加えてもよく、また冷間圧延の途中で適宜、200〜300℃、2〜10時間の中間焼鈍を1回以上実施しても差し支えない。
【0028】
最終冷間圧延後には、2段階での加熱保持による最終焼鈍熱処理を行う。最終焼鈍の加熱条件は、Hなどを用いた還元性雰囲気または、Ar、N等の不活性雰囲気もしくはこれらの混合ガス雰囲気中で、300〜500℃で2〜24時間保持した後に昇温し、500℃〜580℃で4〜24時間の保持することで平均厚さで30〜70Åの酸化皮膜を有するアルミニウム合金箔を得る。
上記行程における最終焼鈍での調整によって、前記D値を0.3〜0.6の値に調整することができ、また、Pbの濃縮量をピーク値で2500〜5000ppmに調整する事ができる。
【0029】
上記各工程を経て得られたアルミニウム箔には、その後、エッチング処理がなされる。エッチング処理は、例えば塩酸を主体とする電解液を用いた電解エッチング等によって行われる。本発明としてはこのエッチング処理の具体的条件等について特に限定されるものではなく、常法に従って行うことができるが、主として直流エッチングが適用される。
エッチング処理においては、好適な酸化皮膜の性状によって箔にピットが高密度かつ均等に形成され、高い粗面化率が得られる。この箔を常法により電解コンデンサに電極として組み込むことにより静電容量の高いコンデンサが得られる。また、無電解エッチングを採用することも可能である。
【0030】
本発明は中高圧電解コンデンサの陽極として使用するのが好適であるが、本発明としてはこれに限定されるものではなく、より化成電圧の低いコンデンサ用としても使用することができ、また電解コンデンサの陰極用の材料として使用することもできる。
【実施例1】
【0031】
表1に示す組成のアルミニウム合金をDC鋳造によって溶製し、熱間圧延、冷間圧延を経て120μm厚の高純度アルミニウム箔を製造した。このアルミニウム箔に対し、冷間圧延終了後に、表1に示す条件で1段階あるいは2段階の加熱保持による最終焼鈍を行なった。
【0032】
得られた供試材についてESCAの定量分析によって表面酸化皮膜の厚さおよび表面から100Åの深さにおける酸化皮膜中のC量(Al、C、Oの合計に対する質量%)を測定した。測定結果を表1に示す。また、Hunter−Fowle法(*Hunter−Fowle法:0.5M−ホウ酸、0.05M−ホウ砂水溶液(22℃±2℃)、掃引速度0.7V/min)により酸化皮膜の破壊電圧を測定し、その結果から、14Å/Vとしてバリヤー膜厚を算出し、D値を表1に示した。
【0033】
さらに、得られた箔Pb表面濃縮度を調べるために、GD−MS(グロー放電質量分析)法を用いて、表面からアルゴンスパッタリングで深さ方向にエッチングしながら、5nmおきにPbの深さ方向分布を調べた。これにより、Pbの深さ方向における濃縮ピーク位置および、濃縮ピーク量を把握する事ができる。
【0034】
これらのアルミニウム箔に、さらに、以下の条件でエッチングを行いアルミニウム箔を粗面化した。
すなわち、75℃のHCl 1M、HSO 3M溶液中で200mA/cmの直流電流を120秒印加後、80℃のHCl 2M溶液中で50mA/cm直流電流を600秒印加した。
【0035】
次いで、前記各エッチング箔を1cm×5cmのサイズに切り出し、80℃ホウ酸80g/l溶液にて300Vの化成を行い、150g/lアジピン酸溶液中にて静電容量を測定した。
No.1の静電容量を基準にして相対的な評価(百分率)をし、その結果を表1に示した。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から明らかなように、本願発明のアルミニウム箔は、コンデンサ用電極として用いた際に良好な静電容量が得られている。