【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 セルロース学会第21回年次大会2014 Cellulose R&D 講演要旨集、第54頁、セルロース学会第21回年次大会運営委員会発行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーの前記カルボキシル基に、アミノ基を介して平均分子量300以上の直鎖状或いは分岐鎖状分子が結合されたセルロースナノファイバー修飾体と、セルロースエステルとが複合化されたセルロースエステル成形品であって、前記セルロースナノファイバー修飾体を0.1〜5重量%含み、波長550nmにおけるレターデーションReが2nm以下であるセルロースエステル成形品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
図1はセルロースナノファイバーの修飾態様を示す図である。
【0012】
本発明のセルロースエステル成形品は、カルボキシル基を有するセルロースナノファイバーの前記カルボキシル基に、アミノ基を介して平均分子量300以上の直鎖状或いは分岐鎖状分子が結合されたセルロースナノファイバー修飾体(以下、単に「セルロースナノファイバー修飾体」と称する場合がある)と、セルロースエステルとが複合化された成形品である。
【0013】
[セルロースナノファイバー修飾体]
本発明におけるセルロースナノファイバー修飾体は、例えば、以下の工程1A〜1Eを有する方法により製造することができる。
(1A)カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する工程
(1B)セルロースナノファイバー水分散液に酸を加え、セルロースナノファイバーのカルボン酸塩型の基をカルボン酸型の基に置換する工程、
(1C)カルボン酸型に置換されたセルロースナノファイバーのゲルを洗浄した後、エタノール分散液を調製する工程、
(1D)エタノールに溶媒置換されたセルロースナノファイバーのゲルを有機溶媒(エタノール以外)で溶媒置換し、有機溶媒分散液を調製する工程、
(1E)セルロースナノファイバーの有機溶媒分散液に、末端にアミノ基を有する平均分子量300以上の直鎖状あるいは分岐鎖状分子を混合し分散させることによりセルロースナノファーバー分散液を調製する工程
【0014】
[工程1A]
工程1Aでは、カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバーを水系溶媒に分散させてセルロースナノファイバー水分散液を調製する。
【0015】
例えば、天然セルロースを原料とし、水系溶媒中においてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)などのN−オキシル化合物を酸化触媒とし、酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化させる酸化処理工程と、酸化処理された天然セルロースを媒体に分散させる分散工程とを含む製造方法によりセルロースナノファイバー水分散液を調製することができる。
【0016】
酸化処理工程では、まず、水中に天然セルロースを分散させた分散液を調製する。天然セルロースは、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースである。具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海藻から単離されるセルロースなどを例示することができる。
【0017】
単離、精製された天然セルロースに対して、叩解等の表面積を拡大する処理を施してもよい。これにより反応効率を高めることができ、生産性を向上できる。また、天然セルロースは、単離、精製の後、未乾燥状態で保存したものを用いることが好ましい。未乾燥状態で保存することで、ミクロフィブリルの集束体を膨潤しやすい状態に保持することができるので、反応効率を高めるとともに、繊維径の細いセルロースナノファイバーを得やすくなる。
【0018】
酸化処理工程において、天然セルロースの分散媒には典型的には水が用いられる。反応液中の天然セルロース濃度は、試薬(酸化剤、酸化触媒等)の十分な溶解が可能であれば特に限定されないが、通常は、反応液の重量に対して5%程度以下の濃度とすることが好ましい。
【0019】
前記酸化触媒としては、N−オキシル化合物が用いられる。N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)、及びC4位に各種置換基を有するTEMPO誘導体を用いることができる。TEMPO誘導体としては、4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−フォスフォノオキシTEMPOなどが挙げられる。特に、TEMPO及び4−アセトアミドTEMPOが、反応速度の点で好ましい。N−オキシル化合物の添加量は触媒量で十分であり、具体的には、反応液に対して0.1〜4mmol/Lの範囲で添加すればよく、好ましくは0.1〜2mmol/Lの範囲である。
【0020】
また、酸化剤の種類によっては、N−オキシル化合物と、臭化物やヨウ化物とを組み合わせた触媒成分を用いてもよい。臭化物、ヨウ化物としては、例えば、アンモニウム塩(臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム)、臭化又はヨウ化アルカリ金属(臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどの臭化物、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物)、臭化又はヨウ化アルカリ土類金属(臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化ストロンチウムなどの臭化物、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化ストロンチウムなどのヨウ化物)などが挙げられる。これらの臭化物及びヨウ化物は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
前記酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩(次亜塩素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩、次亜ヨウ素酸又はその塩など)、亜ハロゲン酸又はその塩(亜塩素酸又はその塩、亜臭素酸又はその塩、亜ヨウ素酸又はその塩など)、過ハロゲン酸又はその塩(過塩素酸又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩など)、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO
2、Cl
2O
6、BrO
2、Br
3O
7など)、窒素酸化物(NO、NO
2、N
2O
3など)、過酸化水素、過酸(過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)などが挙げられる。これらの酸化剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。また、ラッカーゼなどの酸化酵素と組み合わせて用いることもできる。酸化剤の使用量は、例えば、反応液に対して1〜50mmol/Lの範囲とすることが好ましい。
【0022】
次亜ハロゲン酸塩としては、例えば、次亜塩素酸リチウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、次亜塩素酸アンモニウム、及びこれらに対応する次亜臭素酸塩、次亜ヨウ素酸塩などが挙げられる。
【0023】
亜ハロゲン酸塩としては、亜塩素酸リチウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩、亜塩素酸カルシウム、亜塩素酸マグネシウム、亜塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、亜塩素酸アンモニウム、及びこれらに対応する亜臭素酸塩、亜ヨウ素酸塩などが挙げられる。
【0024】
過ハロゲン酸塩としては、過塩素酸リチウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属塩、過塩素酸アンモニウム、及びこれらに対応する過臭素酸塩、過ヨウ素酸塩などが挙げられる。
【0025】
これらの酸化剤の中でも、次亜ハロゲン酸アルカリ金属塩、亜ハロゲン酸アルカリ金属塩が好ましく、次亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸アルカリ金属塩がより好ましい。なお、次亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合は、触媒として、N−オキシル化合物と、臭化物又はヨウ化物とを組み合わせた触媒成分を用いることが好ましく、亜塩素酸アルカリ金属塩を酸化剤とする場合は、触媒として、N−オキシル化合物を単独で触媒成分として用いることが好ましい。
【0026】
以下、代表的な酸化処理工程について2種類の具体例を呈示して説明する。
【0027】
<酸化処理工程の第1の例>
酸化処理工程の第1の例では、セルロース原料を水に懸濁したものに、N−オキシル化合物(TEMPO等)及びアルカリ金属臭化物(又はアルカリ金属ヨウ化物)と、酸化剤としての次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸塩)とを添加した反応液を調製し、0℃〜室温(好ましくは、10℃〜30℃)の温度条件下、必要に応じて撹拌しながら酸化反応を進行させる。
【0028】
反応終了後は、必要に応じて酸化剤(次亜塩素酸ナトリウムなど)を分解する処理を行い、その後、反応液の濾過と水洗浄とを繰り返すことで、精製した繊維状TEMPO触媒酸化セルロース(以下、「酸化セルロース」と称する場合がある)を得る。
【0029】
第1の例の酸化処理工程では、反応の進行に伴ってカルボキシル基が生成するために反応液のpHが低下する。そこで、酸化反応を十分に進行させるためには、反応系をアルカリ性領域、例えばpH9〜12(好ましくは10〜11)の範囲に維持することが好ましい。反応系のpH調整は、アルカリ(水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ金属成分を含む水溶液など)を反応系に適宜添加することにより行うことができる。なお、第1の例の酸化処理工程における反応温度は室温より高くすることもでき、高温で反応させることで反応効率を高めることができる。その一方で、次亜塩素酸ナトリウムから塩素ガスが発生しやすくなるので、高温で反応させる場合には塩素ガスの処理設備を設けることが好ましい。
【0030】
<酸化処理工程の第2の例>
酸化処理工程の第2の例では、セルロース原料を水に懸濁したのものに、N−オキシル化合物と、酸化剤としての亜塩素酸ナトリウム(亜塩素酸塩)とを添加した反応液を調製し、室温〜100℃程度の温度条件下、必要に応じて撹拌しながら酸化反応を進行させる。酸化反応終了後の酸化セルロースを抽出する処理は、上述した第1の例と同様である。
【0031】
第2の例の酸化処理工程では、反応液のpHは中性から酸性の範囲で維持される。より具体的には、4以上7以下のpH範囲とすることが好ましい。特に、反応液のpHが8以上とならないように留意すべきである。これは、セルロースのC6位に一時的に生成するアルデヒド基によるβ脱離反応が生じないようにするためである。
【0032】
また、反応液に緩衝液を添加することが好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス酸緩衝液等、種々の緩衝液を用いることができる。緩衝液を用いて反応中のpH変化を抑えるようにすることで、pHを維持するための酸やアルカリの連続的な添加が不要となり、またpHメーターの設置も不要になる。
【0033】
第2の例では、酸化剤として、水酸基の酸化によって生成するアルデヒド基も酸化することができる酸化剤を用いる。このような酸化剤としては、亜塩素酸ナトリウムなどの亜ハロゲン酸又はその塩や、過酸化水素と酸化酵素(ラッカーゼ)の混合物、過酸化水素、過酸(過硫酸水素カリウムなどの過硫酸塩、過酢酸、過安息香酸など)が挙げられる。
【0034】
アルデヒド基をカルボキシル基に酸化することができる酸化剤を用いることで、セルロースのC6位のアルデヒド基の生成を防ぐことができる。N−オキシル化合物を触媒とした酸化反応では、グルコース成分の1級水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基を含む中間体が生成する可能性がある。しかし第2の例の酸化反応では、アルデヒド基を酸化する酸化剤を用いるため、この中間体のアルデヒド基は速やかに酸化されてカルボキシル基に変換される。したがって、アルデヒド基によって引き起こされるβ脱離反応を防止することができ、高分子量のセルロースナノファイバーを得ることができる。
【0035】
また、上述の酸化剤(亜塩素酸塩)を主酸化剤として用いることを前提として、次亜ハロゲン酸又はその塩を添加することが好ましい。例えば、少量の次亜塩素酸ナトリウムを添加することで、反応速度を大きく向上させることができる。反応液に添加された次亜塩素酸ナトリウムは、TEMPOの酸化剤として機能し、酸化されたTEMPOがセルロースのC6位の1級水酸基を酸化してC6位にアルデヒド基を生成する。そして、生成したアルデヒド基は、主酸化剤である亜塩素酸ナトリウムによって迅速にカルボキシル基に酸化される。また、アルデヒド基の酸化の際に、亜塩素酸ナトリウムが次亜塩素酸ナトリウムに変化する。この生成した次亜塩素酸ナトリウムはTEMPOの酸化剤として補充される。このように、反応液に次亜塩素酸ナトリウムを添加することで、TEMPOの酸化反応を促進することができ、反応速度を高めることができる。この場合、次亜ハロゲン酸又はその塩の添加量は、1mmol/L程度以下とすることが好ましい。
【0036】
以上のような酸化処理工程を経て、
図1(a)に示すように、セルロース主鎖10にカルボン酸塩が結合した酸化セルロースを得ることができる。
図1(a)は、カルボン酸塩がカルボン酸ナトリウム塩(−COONa)である場合を示している。
【0037】
次に、分散工程では、酸化処理工程で得られた酸化セルロース又は精製工程を経た酸化セルロースを、媒体中に分散させる。
【0038】
分散に用いる媒体(分散媒)としては、水系溶媒が用いられる。水系溶媒としては、水;水と水溶性有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコールなど)との混合溶媒が挙げられる。上記分散媒としては、典型的には水が用いられる。
【0039】
分散工程により、セルロースナノファイバーが媒体に分散されたセルロースナノファイバー分散液が得られる。工程1Aで作製されるセルロースナノファイバー水分散液は、セルロースの一部のC6位の1級水酸基がカルボン酸ナトリウム塩(カルボキシル基のナトリウム塩)等のカルボン酸塩に酸化されたセルロースナノファイバーが水系溶媒中に均一に分散されたものである。
【0040】
セルロースナノファイバー分散液の濃度は、例えば、0.05〜2重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%である。このような範囲とすることで、後段の工程1Bにおける酸処理を効率的に行うことができる。セルロースナノファイバー分散液の濃度が0.05重量%未満であると、セルロースナノファイバーの処理量が少なく作業効率が低下しやすくなる。また、セルロースナノファイバー分散液の濃度が2重量%を超えると、工程1Bの酸処理において、早期にゲル化が生じてしまい、生じたゲルの内部に未処理のセルロースナノファイバーを包含してしまうおそれがある。
【0041】
分散工程において用いる分散装置(解繊装置)としては、種々のものを使用できる。例えば、前記分散装置として、家庭用ミキサー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の解繊装置を用いることができる。これらのほかにも、家庭用や工業生産用に汎用的に用いられる解繊装置で容易にセルロースナノファイバーの分散液を得ることができる。また、各種ホモジナイザーや各種レファイナーのような強力で叩解能力のある解繊装置を用いると、より効率的に繊維径の細いセルロースナノファイバーが得られる。
【0042】
[工程1B]
次に、工程1Bでは、工程1Aで調製したセルロースナノファイバー水分散液に酸を加えて、カルボン酸塩型の基をカルボン酸型の基(カルボキシル基)に変換する。カルボン酸塩型の基をカルボン酸型の基とすることにより、直鎖状あるいは分岐鎖状の分子との交換(結合)が容易になる。
【0043】
前記酸の種類は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸などの有機酸の何れであってもよい。酸によるセルロースナノファイバーの変質や損傷を回避でき、廃液処理の容易さなどの観点から、塩酸を用いることが好ましい。
【0044】
セルロースナノファイバーにおけるカルボン酸塩型の基のカルボン酸型の基への置換率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。前記カルボン酸塩型の基とカルボン酸型の基との比率は、FT−IR等の分析装置を用いて測定することができる。所定の置換率を得るため、セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えた後、所定時間酸性を保持する。通常、保持時間により前記置換率を調整することができる。
【0045】
前記カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバー水分散液では、カルボン酸イオン同士の荷電反発力によりセルロースナノファイバーが良好に分散するが、セルロースナノファイバー水分散液に酸を加えて酸性溶液にすると、カルボン酸塩型の基がカルボン酸型の基に変換され、カルボン酸イオン同士の荷電反発力が失われ、セルロースナノファイバーが凝集してゲル化する。
図1(b)に、カルボン酸型の基を有する酸化セルロース10Bを示す。
【0046】
[工程1C]
次に、工程1Cでは、カルボン酸型に置換されたセルロースナノファイバーのゲルを洗浄した後、エタノール分散液を調製する。
【0047】
より具体的には、工程1Bにおいて所定の置換率が得られる時間が経過した時点でゲル化させたセルロースナノファイバーを遠心分離により回収した後、酸(例えば1M塩酸)で洗浄する。その後、回収したセルロースナノファイバーを蒸留水で洗浄する。
【0048】
そして、次に、エタノールで溶媒置換する。具体的には、水洗浄後のセルロースナノファイバーを、0.1〜1%(g/mL)程度の濃度でエタノールに分散させる工程と、エタノール中でゲル化したセルロースナノファイバーを遠心分離により回収する工程とを、セルロースナノファイバーに含まれる水がエタノールに置換されるまで、数回(2〜10回程度)繰り返す。このような操作により、セルロースナノファイバーの細かいゲルがエタノール中に浮遊した分散液が得られる。
【0049】
なお、工程1Cは必要に応じて実施すればよい。すなわち、後段の工程1Dで用いる有機溶媒による直接の溶媒置換が可能である場合には、工程1Cを省略してもよい。
【0050】
[工程1D]
次に、工程1Dでは、エタノールに溶媒置換されたセルロースナノファイバーのゲルを有機溶媒(エタノール以外)で溶媒置換し、有機溶媒分散液を調製する。なお、上記の工程1Cを省略する場合は、カルボン酸型に置換されたセルロースナノファイバーのゲルを直接所望する有機溶媒(エタノールを含んでいてもよい)に分散させ、有機溶媒分散液を調製する。
【0051】
前記有機溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;塩化メチレン(ジクロロメタン)、クロロホルム、四塩化炭素、フルオロトリクロロメタン、クロロトリフルオロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、ヘキサフルオロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、アニソール、フェネトール等の鎖状又は環状エーテル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル又はグリコールエーテルアセテート;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、乳酸エチル等のエステル;ニトロメタン等のニトロ化合物;アセトニトリル等のニトリル;N−メチルピロリドン等のラクタム;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;炭酸プロピレン等のカーボネート;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、t−ブタノール、32−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール等のアルコールなどが挙げられる。有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
前記有機溶媒としては、セルロースナノファイバーと複合化するセルロースエステルの種類に応じて適宜選択できる。前記有機溶媒としては、前記セルロースエステルを溶解させるものを選択する。
【0053】
例えば、前記セルロースエステルがセルローストリアセテートである場合は、有機溶媒として、塩化メチレンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、N−メチルピロリドンなどのラクタム、1,3−ジオキソランなどのエーテルなどが好ましい。また、前記セルロースエステルがセルロースジアセテートである場合は、有機溶媒として、アセトンなどのケトン、酢酸エチルなどのエステル、塩化メチレンやクロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、N−メチルピロリドンなどのラクタム、テトラヒドロフランや1,3−ジオキソランなどのエーテルなどが好ましい。
【0054】
工程1Dでは、工程1Cで得られたエタノール置換後のセルロースナノファイバーを、0.1〜1%(g/mL)程度の濃度で上記の有機溶媒に分散させる工程と、有機溶媒中でゲル化したセルロースナノファイバーを遠心分離により回収する工程とを、セルロースナノファイバーに含まれるエタノールが上記の有機溶媒に置換されるまで、数回(2〜10回程度)繰り返す。このような操作により、セルロースナノファイバーの細かいゲルが上記の有機溶媒中に浮遊した分散液が得られる。
【0055】
[工程1E]
工程1Eでは、工程1Dで得られたセルロースナノファイバーの有機溶媒分散液に、末端にアミノ基を有する平均分子量300以上の直鎖状あるいは分岐鎖状分子を混合し、分散させることにより、セルロースナノファーバーを再分散させる。
【0056】
工程1Eで用いられる直鎖状あるいは分岐鎖状分子は、例えば、ポリエチレングリコールなどの分子量の大きい直鎖状分子であり、このポリエチレングリコールに対して、セルロースナノファイバーのカルボキシル基と反応して塩を形成することができるアミノ基が結合している。
【0057】
工程1Eで用いる末端にアミノ基を有する直鎖状あるいは分岐鎖状分子としては、末端にアミノ基を有するポリエチレングリコールのほか、分岐鎖状型又は直鎖状型カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド−ポリエチレングリコール共重合体、末端にアミノ基を有するポリプロピレングリコールポリエチレングリコール共重合体などが挙げられる。
【0058】
前記直鎖状あるいは分岐鎖状分子としては、平均分子量(重量平均分子量)が300以上のものが用いられ、平均分子量が500以上の直鎖状あるいは分岐鎖状分子を用いることが好ましく、さらに好ましくは上記平均分子量は1000以上である。上記平均分子量の上限は特に限定されないが、例えば50000、好ましくは10000である。
【0059】
このように分子量の大きい直鎖状あるいは分岐鎖状分子を用いてセルロースナノファイバーを修飾することで、セルロースエステルと複合化した場合に、セルロースエステルが本来有する優れた光学特性を損なうことなく機械的強度を向上させることができる。セルロースナノファイバーのカルボキシル基にアミン塩型で導入する直鎖状あるいは分岐鎖状分子の分子量が300以上でないと、セルロースエステルを溶解する溶媒中で安定に、均一ナノ分散状態が得られない。分子量が低い場合には、要求される溶媒中で解繊処理しても白濁して完全ナノ分散できないか、一旦透明ナノ分散液が得られても数時間〜数日でゲル化してしまうことが分かっている。
【0060】
工程1Dで得られたセルロースナノファイバーの有機溶媒分散液に上記の末端にアミノ基を有する平均分子量300以上の直鎖状あるいは分岐鎖状分子を添加した後、機械的な解繊処理を施すことにより、セルロースナノファイバーのカルボキシル基と直鎖状あるいは分岐鎖状分子のアミノ基とが結合して塩を形成したセルロースナノファイバー修飾体が1本1本分離した状態で分散した分散液を得ることができる。この工程で用いる解繊装置としては、工程1Aの分散工程で例示したものを用いることができる。
【0061】
以上の工程1A〜1Eにより、例えば、ポリエチレングリコールアミンで修飾されたセルロースナノファイバーを有機溶媒に分散させたセルロースナノファイバー分散液を作製することができる。得られるセルロースナノファイバー分散液は、1本1本のセルロースナノファイバーが有機溶媒中に均一に分散された透明な懸濁液である。
図1(c)は、ポリエチレングリコールアミンで修飾されたセルロースナノファイバー修飾体10Eを示す図である。
図1(c)中の「PEG」はポリエチレングリコールを指す。
【0062】
なお、上記の態様では、有機溶媒で溶媒置換した(工程1D)後に、末端にアミノ基を有する直鎖状あるいは分岐鎖状分子を添加して再分散させる(工程1E)ことをしたが、この工程順には限定されない。例えば、カルボン酸型のセルロースナノファイバーに末端にアミノ基を有する直鎖状あるいは分岐鎖状分子を添加してセルロースナノファイバーの修飾を行った後、得られたセルロースナノファイバー修飾体を有機溶媒に分散させてもよい。
【0063】
また、上記の態様では、セルロースナノファイバーのゲルを順次溶媒置換して目的の有機溶媒に分散させた分散液を得ることとしたが、カルボン酸型のセルロースナノファイバーを乾燥させたものを目的の有機溶媒に直接分散させてもよい。
【0064】
[セルロースエステル]
上記セルロースナノファイバー修飾体と複合化するセルロースエステルとしては、成形可能なものであれば特に限定されない。前記セルロースエステルとして、例えば、酢酸セルロース(セルロースアセテート);セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロース混合アシレート(例えば、セルロースアセテートC
3-10アシレート)などの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等の無機酸エステル;硝酸酢酸セルロース等の有機酸無機酸混酸エステルなどが挙げられる。上記酢酸セルロースには、セルローストリアセテート(アセチル置換度2.6〜3)、セルロースジアセテート(アセチル置換度2以上2.6未満)、セルロースモノアセテートが含まれる。セルロースエステルは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
上記のセルロースエステルの中でも、セルロース有機酸エステルが好ましく、特に、酢酸セルロース(例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート)が好ましい。また、酢酸セルロースの中でも、成形性及び光学特性等の観点から、アセチル置換度2.4〜3.0の酢酸セルロース、とりわけ、アセチル置換度2.8〜3.0の酢酸セルロースが好ましい。また、セルロースエステルを2種以上組み合わせて用いる場合、セルロースエステル全体に占める酢酸セルロースの割合は、例えば50重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0066】
なお、酢酸セルロースのアセチル置換度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定法に準じて求めた酢化度を次式で換算することにより求められる。これは、最も一般的なセルロースアセテートの置換度の求め方である。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052−42.037×AV×0.01)
DS:アセチル置換度
AV:酢化度(%)
まず、乾燥した酢酸セルロース(試料)500mgを精秤し、超純水とアセトンとの混合溶媒(容量比4:1)50mlに溶解した後、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液50mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。次に、0.2N−塩酸50mlを添加し、フェノールフタレインを指示薬として、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液(0.2N−水酸化ナトリウム規定液)で、脱離した酢酸量を滴定する。また、同様の方法によりブランク試験(試料を用いない試験)を行う。そして、下記式にしたがってAV(酢化度)(%)を算出する。
AV(%)=(A−B)×F×1.201/試料重量(g)
A:0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
B:ブランクテストにおける0.2N−水酸化ナトリウム規定液の滴定量(ml)
F:0.2N−水酸化ナトリウム規定液のファクター
【0067】
酢酸セルロースのアセチル置換度は、前記滴定法のほか、
13C−NMR、
1H−NMRにより測定することもできる。
【0068】
セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は、成形性及び成形品の機械的強度等の点から、例えば、30000〜300000、好ましくは60000〜200000である。また、セルロースエステルの分散度(Mw/Mn)は、例えば、1.5〜4、好ましくは2〜3である。セルロースエステルの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分散度(Mw/Mn)は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で求めることができる。
【0069】
[セルロースエステル成形品]
本発明のセルロースエステル成形品は、セルロースエステルと上記セルロースナノファイバー修飾体とが複合化されたもの、すなわち、セルロースエステルと上記セルロースナノファイバー修飾体との複合成形品である。
【0070】
本発明のセルロースエステル成形品は、例えば、セルロースエステルと上記セルロースナノファイバー修飾体と有機溶媒とを含む分散液を成形に付すことにより製造できる。上記分散液において、通常、セルロースエステルは溶解しており、セルロースナノファイバー修飾体は分散している。例えば、前記分散液をソルベントキャスト法(あるいは流延法)に付すことによりフィルム(シートを含む)を製造することができる。また、前記分散液を乾式紡糸に付すことにより繊維を製造することができる。
【0071】
セルロースエステルと上記セルロースナノファイバー修飾体と有機溶媒とを含む分散液は、上で説明したセルロースナノファイバー修飾体の分散液(用いるセルロースエステルを溶解可能な有機溶媒の分散液)に、セルロースエステルを溶解するか、又はセルロースエステル溶液を加えることにより調製できる。後者の場合、セルロースナノファイバー修飾体の分散液に用いる有機溶媒と、セルロースエステル溶液の有機溶媒は、同一であっても異なっていてもよい。セルロースエステル溶液の調製に用いる有機溶媒は、セルロースエステルの種類により適宜選択できる(前記[工程1D]の項参照)。
【0072】
本発明のセルロースエステル成形品において、セルロースエステルとセルロースナノファイバー修飾体との比率は、目的に応じて適宜設定できるが、光学特性を保持しつつ機械的強度を向上させるという観点から、セルロースエステル成形品中のセルロースナノファイバー修飾体の含有量を0.1〜5重量%とすることが好ましく、0.25〜5重量%とすることがより好ましく、2.5〜5重量%とすることが特に好ましい。
【0073】
セルロースエステル成形品中のセルロースエステルの含有量は、一般に80〜99.9重量%、好ましくは90〜99.75重量%、さらに好ましくは93〜97.5重量%である。セルロースエステル成形品は、実質的にセルロースエステルとセルロースナノファイバー修飾体のみで構成されていてもよい。
【0074】
セルロースエステル成形品中には、必要に応じて、種々の添加剤が添加されていてもよい。添加剤として、例えば、可塑剤、無機粉体、熱安定剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤の含有量は、それぞれ、セルロースエステル成形品に対して、例えば10重量%以下(例えば、0.1〜10重量%)、好ましくは5重量%以下(例えば、0.5〜5重量%)である。
【0075】
セルロースエステル成形品の形状、形態は特に限定されず、例えば、フィルム状(シートを含む)、繊維状等の何れであってもよい。
【0076】
セルロースエステル成形品がフィルム状の場合、波長550nmにおける光線透過率は、87%以上であるのが好ましい(例えば、厚み80μm)。また、セルロースエステル成形品がフィルム状の場合、波長550nmにおけるレターデーションReは5nm以下であるのが好ましく、より好ましくは3nm以下、特に好ましくは2nm以下である。上記レターデーションReの下限は、例えば0.5nm、好ましくは1nm程度である。
【実施例】
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0078】
調製例1
乾燥重量で1g相当分の針葉樹漂白クラフトパルプ、0.1mmolのTEMPO、1mmolの臭化ナトリウム、3.8mmolの次亜塩素ナトリウムを100mLの水に分散させ、室温で4時間穏やかに撹拌し、蒸留水で洗浄・水洗することで、TEMPO触媒酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。
その後、未乾燥のTEMPO触媒酸化パルプに蒸留水を加え、固形分濃度0.1重量%の水懸濁液を調製した。そして、この懸濁液に、家庭用ミキサーで1分間、超音波処理で2分間の解繊処理を施すことで、セルロースナノファイバー水分散液とした。その後、セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離(12000g)により未解繊部分を取り除いた。
以上により、透明な液体である濃度0.1重量%のセルロースナノファイバー水分散液を得た(工程1A)。
【0079】
次に、セルロースナノファイバー水分散液100mLに対して、1M塩酸を加えpHを2に調節し、60分間撹拌を継続した(工程1B)。その後、ゲル化したセルロースナノファイバーを遠心分離(12000g)により回収した後、セルロースナノファイバーのゲルを蒸留水を用いて遠心分離処理を繰り返すことにより洗浄した。以上の工程により、セルロース表面のカルボキシル基は90%以上がカルボン酸型に置換されていた。
【0080】
次に、回収したセルロースナノファイバーのゲルにエタノールを加えてゲル分散液[濃度0.1%(g/mL)程度]とし、続いて遠心分離(12000g)により回収する工程を5回繰り返すことで、セルロースナノファイバーをエタノールで溶媒置換した(工程1C)。
【0081】
次に、エタノールで溶媒置換したセルロースナノファイバーのゲルにクロロホルムを加えてゲル分散液[濃度0.1%(g/mL)程度]とし、続いて遠心分離(12000g)により回収する工程を5回繰り返すことで、セルロースナノファイバーをクロロホルムで溶媒置換した(工程1D)。
【0082】
次に、セルロースナノファイバーのクロロホルム分散液[濃度0.1%(g/mL)]に、セルロースナノファイバーのカルボキシル基と等モル量のポリエチレングリコールアミン(分子量2000)を添加した。その後、3分間の超音波処理を施すことで、セルロースナノファイバー修飾体の分散液を得た。
【0083】
実施例1
調製例1で調製したセルロースナノファイバー修飾体(TOCN)の0.1%(g/mL)クロロホルム分散液と、セルローストリアセテート(CTA)のジクロロメタン溶液とを用いて、セルロースエステルフィルム(複合フィルム)を作製した。
【0084】
セルローストリアセテートのジクロロメタン溶液は、セルローストリアセテート[ダイセル社製、商品名「LT−35(210)」、アセチル置換度2.9、重量平均分子量(Mw)139000、多分散度(Mw/Mn)2.5)をジクロロメタンに溶解することにより調製した[濃度2%(w/v)]。
【0085】
上記セルロースナノファイバー修飾体のクロロホルム分散液と、上記セルローストリアセテートのジクロロメタン溶液とを混合した後、30分間撹拌することで樹脂溶液試料を作製した。本実施例では、セルロースナノファイバー修飾体のクロロホルム分散液とセルローストリアセテートのジクロロメタン溶液の混合比を変えた5種類の樹脂溶液試料を調製した。また、対照試料として、セルロースナノファイバー修飾体の分散液と混合していないセルローストリアセテートのジクロロメタン溶液を用意した。
【0086】
上記の6種類の樹脂溶液試料を、それぞれ、基板(ガラス板)上に室温(25℃)で流延し、薄膜とした後、減圧乾燥(30℃、24時間)、真空乾燥(30℃、48時間)を順次施し、膜を剥離して自立フィルムを得た。このフィルムを100℃の乾燥機で20分間乾燥させて厚さ80μmのセルローストリアセテートフィルム[セルロースナノファイバー修飾体(TOCN)の含有量:0重量%、0.1重量%、0.25重量%、0.5重量%、1重量%、2.5重量%]を得た。
【0087】
評価試験
実施例で作製した6種類のセルローストリアセテートフィルムについて、以下の評価試験を行った。
【0088】
<引張試験>
各セルローストリアセテートフィルムにつき、引張試験機(島津製作所製、商品名「EZ−TEST(500Nのロードセル)」)を用いて、引張試験(温度23℃、引張速度2cm/分)を行った。
図2〜
図4は、測定結果を示すグラフである。
図2は、各フィルムの応力歪み線図であり、横軸は歪み(Strain)(%)、縦軸は応力(Stress)(MPa)である。3本の曲線のうち、一番上がTOCN含有量2.5重量%のフィルムのデータ、真ん中が TOCN含有量0.1重量%のフィルムのデータ、一番下がTOCN含有量0重量%のフィルム(CTA;対照)のデータである。
図3は、セルロースナノファイバー修飾体の含有量とヤング率の関係を示す図であり、横軸はセルロースナノファイバー修飾体の含有量(重量%)、縦軸はヤング率(GPa)である。
図4は、セルロースナノファイバー修飾体の含有量と破壊仕事の関係を示すグラフであり、横軸はセルロースナノファイバー修飾体の含有量(重量%)、縦軸は破壊仕事(MJ/m
3)である。
【0089】
図2〜
図4に示すように、セルロースナノファイバー修飾体とセルローストリアセテートを複合化したセルローストリアセテートフィルム(複合フィルム)は、対照のセルロースナノファイバー修飾体を含まないセルローストリアセテートと比較して、力学特性が向上していた。
【0090】
<光学試験>
6種類のセルローストリアセテートフィルムにつき、可視光透過率を分光光度計を用いて測定した。
図5は測定結果を示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は透過率(%)である。
図5に示されるように、セルローストリアセテートにセルロースナノファイバー修飾体を加えても透明性が保持されることが分かった。なお、TOCN0重量%のフィルム、TOCN0.1重量%のフィルム、TOCN0.25重量%のフィルム、TOCN0.5重量%のフィルム、TOCN1重量%のフィルム、TOCN2.5重量%のフィルムの波長550nmにおける光線透過率は、それぞれ、90.6%、89.2%、88.4%、89.8%、89.6%、86.5%であった。
【0091】
また、TOCN含有量2.5重量%のフィルム(厚さ80μm)、TOCN含有量0重量%のフィルム(CTA;対照)(厚さ80μm)について、下記の平行ニコル法によりリターデーションRe(複屈折性)(nm)(波長550nm)を求めた。その結果を表1に示す。表1に示されるように、セルローストリアセテートにセルロースナノファイバー修飾体を加えても低複屈折性が保持されることが分かった。
【0092】
平行ニコル法について以下に説明する(Polymer Journal, Vol. 40, No. 10, pp. 1005-1009, 2008参照)。リターデーションRe[=Δn・d(Δn:複屈折、d:膜厚)]は平行ニコル法により求めることができる。平行ニコル法の測定系は、光源/干渉カラーフィルタ(550nm)/偏光子/傾斜試料台(サンプル)/検光子/受光素子(CCDカメラ)で示される。2枚の偏光板(偏光子、検光子)の間におかれた複屈折材料(サンプル)の透過光強度は次式(1)で表される。
【数1】
式(1)において、I
tr、I
inはそれぞれ、透過光及び入射光の強度、θは偏光板の初期位置からの回転角、φは偏光板の透過軸とサンプルの屈折率の主軸の1つとの間の角度、λは光線の波長、Reはサンプルのリターデーションである。λが知られ、I
trの角度θ依存性が3つ以上の角度(例えば、0°、30°及び60°)で測定されれば、そのパラメーターを式(1)に当てはめることによりReを求めることができる。
【0093】
【表1】
【0094】
以上より、セルロースナノファイバー修飾体とセルロースエステルとを複合化することにより、透明性や低複屈折性などの優れた光学特性を保持したまま、ヤング率や靱性を向上することができた。この結果より、セルロースエステル成形品の新たな応用、薄膜化などが期待できる。