【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構助成事業「次世代送電システムの安全性・信頼性に係る実証研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フォーマの外周に超電導導体層を有する超電導導体部が断熱管内に収納された超電導ケーブルと、前記断熱管内に前記超電導導体層を冷却する液体冷媒を供給し、前記断熱管と共に冷媒流路を構成する冷却システムと、を備える超電導ケーブルシステムであって、
前記冷媒流路に設けられ、前記冷媒流路からの前記液体冷媒が流入する圧力調整タンクと、
前記冷媒流路と前記圧力調整タンクとの間に介在され、前記冷媒流路の冷媒圧力に応じて開閉する逃し弁と、
前記冷媒流路に接続され、前記冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超えると開き、前記冷媒流路から前記液体冷媒を外部に放出する放出弁と、を備え、
通常時は、前記逃し弁が閉じられて、前記圧力調整タンクが前記冷媒流路と分離され、前記圧力調整タンク内に気相が確保されており、
前記冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超える異常時は、前記逃し弁が前記放出弁の作動圧力より低い圧力で作動して開き、前記冷媒流路から前記液体冷媒を前記圧力調整タンク内に逃して、前記冷媒流路の冷媒圧力を下げる超電導ケーブルシステム。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは、既存の常電導ケーブル(例、OFケーブルやCVケーブル)と比較して、大容量の電力を低損失で送電できることから、送電線路を構成する電力ケーブルとして期待されている。最近では、超電導ケーブルを布設して超電導ケーブルシステムを構築し、実際に送電を行う実証試験が行われている。
【0003】
超電導ケーブルは、フォーマの外周に超電導導体層を有する超電導導体部が断熱管内に収納され、この断熱管内に液体冷媒(例、液体窒素など)を流通させることで、超電導導体部(超電導導体層)を冷却する構造が代表的である。
【0004】
一般に、フォーマは、絶縁被覆を施した複数の銅素線を撚り合わせた撚り線導体で形成されている。また、超電導導体層は、フォーマの外周に複数の超電導線材を螺旋状に巻回して形成されている。
【0005】
超電導ケーブルシステムは、超電導ケーブルに冷却システムを接続し、冷却システムから断熱管内に超電導導体層を冷却する液体冷媒を供給して流通させることで運用を行う。冷却システムは、液体冷媒を冷却する冷凍機、液体冷媒を圧送するポンプ、液体冷媒を貯留するリザーバタンクなどを備え、超電導ケーブルの断熱管と共に液体冷媒が流通する冷媒流路を構成する。一般に、超電導ケーブルシステムの冷却は、冷凍機で冷却された液体冷媒を直接断熱管内に送る直接冷却方式が採用され、ポンプにより液体冷媒を循環させることで行う。
【0006】
また、超電導ケーブルシステムを構築する場合、送電線路の途中に超電導ケーブル同士を接続する中間接続部や、送電線路の終端で超電導ケーブルと他の電力機器(例、常電導ケーブル)とを接続する終端接続部が設けられる(以下、中間接続部及び端末接続部を、単に接続部と呼ぶ場合がある)。これら接続部は、通常、超電導導体部の端部を収容する接続箱を備える(例えば、特許文献1を参照)。接続箱も断熱管と同様に冷媒流路の一部を構成することがあり、接続箱内も液体冷媒が充填される。
【0007】
ところで、超電導ケーブルシステムにおいて、近隣の架空線路に短絡などの事故が起きると、フォーマや超電導導体層に過電流が流れ、フォーマや超電導導体層が発熱して超電導導体部の温度が上昇する場合がある。その際、フォーマを構成する銅素線間や超電導導体層を構成する超電導線材間に存在する液体冷媒の温度が上昇し、温度上昇に伴う液体冷媒の体積膨張によって冷媒流路の冷媒圧力が上昇することにより、超電導ケーブルや冷媒流路を構成する部材(例、断熱管や接続箱、並びに冷却システム)がダメージを受ける可能性がある。
【0008】
例えば特許文献1には、接続部を構成する接続箱内に、接続箱内の圧力変化に追従して変形することにより圧力を調整可能な圧力調整部を配置することで、事故時、圧力上昇により超電導ケーブルや接続箱の破壊を防止する技術が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の実施形態の説明]
本発明者らは、超電導ケーブルシステムにおいて、冷媒流路の冷媒圧力が上昇した異常時に、圧力上昇を抑制する技術について検討した。冷媒流路の圧力上昇を抑制する方法としては、例えば、冷媒流路の一部に気相を設けることで、気相により圧力上昇を緩和することが考えられる。具体的には、超電導ケーブルの接続箱内に気相を形成することが挙げられる。しかし、冷媒流路には液体冷媒を圧送するため、接続箱内に気相を形成することは難しい。接続箱内に気相を確保するには、接続箱内に液体冷媒を気化したガス冷媒(例、窒素ガス)を加圧して供給する装置が別途必要であり、構成が複雑化する虞がある。更に、ガス冷媒を供給しても、ガス冷媒は接続箱内で液体冷媒によって冷却され液化することもあり、接続箱内に気相を維持することが難しい。一方で、接続箱内の気相が増加すると、超電導導体層が液体冷媒に浸漬されず、電気絶縁性の低下が懸念される。したがって、超電導ケーブルシステムでは、冷媒流路となる接続箱内に気相を形成することなく、冷媒流路に液体冷媒を満たした状態で流通(循環)させることが好ましい。
【0017】
また、超電導ケーブルシステムでは、通常、安全性を確保するため、冷媒流路を構成する接続箱やリザーバタンクなどには安全弁が取り付けられており、万が一、接続箱内やリザーバタンク内の冷媒圧力が危険域(許容圧力)を超えると、安全弁が自動的に開いて減圧するように構成されている。しかし、安全弁は高圧で作動するため、安全弁が開くと、液体冷媒が気化したガスと共に液体冷媒が噴出することがある。
【0018】
以上の知見を踏まえ、本発明者らは、冷媒流路からの液体冷媒が流入する圧力調整タンクを冷媒流路に設けることで、冷媒流路の圧力上昇を抑制することを考えた。最初に、本発明の実施態様を列記して説明する。
【0019】
(1)本発明の一態様に係る超電導ケーブルシステムは、フォーマの外周に超電導導体層を有する超電導導体部が断熱管内に収納された超電導ケーブルと、断熱管内に超電導導体層を冷却する液体冷媒を供給し、断熱管と共に冷媒流路を構成する冷却システムとを備える。上記超電導ケーブルシステムは、冷媒流路に設けられ、冷媒流路からの液体冷媒が流入する圧力調整タンクと、冷媒流路と圧力調整タンクとの間に介在され、冷媒流路の冷媒圧力に応じて開閉する逃し弁とを備える。そして、上記超電導ケーブルシステムは、通常時は、逃し弁が閉じられて、圧力調整タンクが冷媒流路と分離され、圧力調整タンク内に気相が確保されている。また、冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超える異常時は、逃し弁が開き、冷媒流路から液体冷媒を圧力調整タンク内に逃して、冷媒流路の冷媒圧力を下げる。
【0020】
上記超電導ケーブルシステムによれば、冷媒流路に逃し弁を介して圧力調整タンクが接続されていることで、冷媒流路の冷媒圧力が上昇した異常時に、圧力上昇を抑制でき、超電導ケーブルや冷媒流路の損傷を回避できる。上記超電導ケーブルシステムにおいて、通常時は、逃し弁が閉じられていることから、圧力調整タンクが冷媒流路と分離されており、冷媒流路から圧力調整タンク内に液体冷媒が流入することが阻止され、圧力調整タンク内に気相が確保される。一方、短絡などの事故により、冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超えると、逃し弁が開き、冷媒流路から液体冷媒を圧力調整タンク内に逃すことで、冷媒流路の冷媒圧力を下げる。上記超電導ケーブルシステムは、液体冷媒を圧力調整タンク内に貯留することから、液体冷媒を外部に直接放出する場合に比較して安全性も高い。
【0021】
圧力調整タンクは、通常時、逃し弁によって冷媒流路と隔離されており、液体冷媒の流通の妨げになり難く、通常時における冷媒流路での圧力損失の増加の原因となり難い。また、圧力調整タンクは、冷媒流路の任意の位置に設けることができるため、設置スペースを確保することも容易である。
【0022】
更に、上記超電導ケーブルシステムにおいて、接続箱などに安全弁を備える場合、逃し弁の作動圧力は、安全弁の作動圧力(例えば、冷媒流路を構成する部材の許容圧力)より低く設定することが挙げられる。そうすれば、安全弁が作動する前に、逃し弁が開いて冷媒流路から圧力調整タンク内に液体冷媒を逃し、冷媒流路を減圧することができる。よって、緊急避難的な措置として液体冷媒を外部に放出する安全弁の作動を抑制でき、安全弁から液体冷媒が噴出することを抑制できる。
【0023】
(2)上記超電導ケーブルシステムの一形態として、上記逃し弁は、上記圧力調整タンクへの方向にのみ開く逆止弁であることが挙げられる。
【0024】
逃し弁が逆止弁であれば、圧力調整タンク内の液体冷媒や液体冷媒が気化したガスが冷媒流路に流入することを防止できる。
【0025】
(3)上記超電導ケーブルシステムの一形態として、更に、上記冷媒流路に接続され、上記冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超えると開き、上記冷媒流路から上記液体冷媒を外部に放出する放出弁を備えることが挙げられる。上記逃し弁は、放出弁の作動圧力より低い圧力で作動する。
【0026】
放出弁を備えることで、冷媒流路の圧力上昇に対して圧力調整タンクによる冷媒流路の減圧が追い付かなかったとしても、放出弁が開いて冷媒流路から液体冷媒(液体冷媒が気化したガスも含む)を外部に放出することで、冷媒流路の冷媒圧力を下げることができる。また、逃し弁の作動圧力が放出弁の作動圧力より低いことから、放出弁が作動する前に、逃し弁が開いて冷媒流路から圧力調整タンク内に液体冷媒を逃し、冷媒流路を減圧できる。そのため、冷媒流路の冷媒圧力が上昇した際に、先に、圧力調整タンクによる冷媒流路の圧力上昇の抑制を図ることができ、液体冷媒を外部に放出する放出弁の作動を低減できる。
【0027】
放出弁は安全弁として機能できる。放出弁は、従来の安全弁としてもよいし、安全弁とは別に設けてもよい。
【0028】
(4)上記放出弁を備える超電導ケーブルシステムの一形態として、上記放出弁の開放端に、上記放出弁から放出される上記液体冷媒を気化する熱交換器を備えることが挙げられる。
【0029】
熱交換器を備えることで、放出弁から放出される液体冷媒を気化して外部に放出できることから、液体冷媒を外部に直接放出する場合に比較して安全性が高い。
【0030】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る超電導ケーブルシステムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0031】
[実施形態1]
まず、
図1を参照して、超電導ケーブルシステムを構成する超電導ケーブルの一例を説明する。
【0032】
〈超電導ケーブル〉
超電導ケーブル1は、超電導導体層102を有する超電導導体部10と、超電導導体部10を収納する断熱管20とを備える。
図1に示す超電導ケーブル1は、3本の超電導導体部10が撚り合わされた状態で断熱管20内に一括に収納された3心一括型である。超電導ケーブル1は、断熱管20内に液体冷媒(例、液体窒素)を流通させることで、この液体冷媒により超電導導体部10(超電導導体層102)を冷却して超電導状態とし、例えば3相交流送電に利用される。以下、超電導ケーブル1の構成をより詳しく説明する。
【0033】
(超電導導体部)
超電導導体部10は、フォーマ101の外周に超電導導体層102を有する。この例では、超電導導体部10(以下、「ケーブルコア」と呼ぶ場合がある)は、中心から順に、フォーマ101、超電導導体層102、
電気絶縁層103、シールド層104、保護層105が同心状に配置されている。
【0034】
(フォーマ)
フォーマ101は、銅やアルミニウムなどの常電導材料で形成されており、超電導ケーブル1(ケーブルコア10)では、短絡などの事故による過電流をフォーマ101に分流させることができる。この例では、フォーマ101は、エナメルなどの絶縁被覆を施した複数の銅素線を撚り合わせた撚り線導体で形成されている。
【0035】
(超電導導体層)
超電導導体層102は、フォーマ101の外周に複数の超電導線材を単層又は多層に螺旋状に巻回することで形成されている。超電導線材には、例えば、Bi系銀シース線材やRE123系薄膜線材などの公知のテープ状線材が利用できる。
【0036】
(電気絶縁層)
電気絶縁層103は、超電導導体層102と、その外側に配置された部材(この例では、シールド層104)との間の電気的絶縁を確保するためのものである。電気絶縁層103は、超電導導体層102の外周に、例えばPPLP(登録商標;PolyPropylene Laminated Paper)に代表される半合成絶縁紙を多層に螺旋状に巻回することで形成されている。
【0037】
(シールド層)
シールド層104は、超電導導体層102の外側、具体的には電気絶縁層103の外周に導電線材を巻回することで形成されている。導電線材には、例えば、銅やアルミニウムなどの常電導線材を利用したり、超電導線材を利用できる。シールド層104は、例えば、銅やアルミニウムなどの常電導材料からなる素線やテープ、或いは超電導線材を単層又は多層に螺旋状に巻回することで形成したり、常電導材料からなる編組線を巻回することで形成することが挙げられる。
【0038】
(保護層)
保護層105は、ケーブルコア10の最外周に配置され、その内側に配置された部材(この例では、シールド層104)と断熱管20との間の電気的絶縁を確保すると共に、内側に配置された部材を機械的に保護するためのものである。保護層105は、例えばPPLPやクラフト紙などの絶縁紙をシールド層104の外周に螺旋状に巻回することで形成されている。
【0039】
(断熱管)
断熱管20は、内管21と外管22とを有する二重管であり、内管21と外管22との間の空間が真空引きされ、この空間に真空断熱層が形成されている。真空断熱層には、断熱性を高めるためにスーパーインシュレーション(商品名)などの断熱材(図示せず)が配置されている。この例では、内管21及び外管22がステンレス鋼製のコルゲート管である。断熱管20内(ケーブルコア10と断熱管20(内管21)との間の空間)には液体冷媒が流通する。断熱管20(外管22)の外周にはビニルやポリエチレンなど
で防食層25が形成されている。
【0040】
〈超電導ケーブルシステム〉
図2を参照して、実施形態1に係る超電導ケーブルシステムの概要を説明する。実施形態1の超電導ケーブルシステムSは、
図1を参照して説明した上述の超電導ケーブル1と冷却システム40とを備える。そして、超電導ケーブルシステムSは、冷媒流路からの液体冷媒Lが流入する圧力調整タンク50と、冷媒流路と圧力調整タンク50との間に介在される逃し弁51とを備える点を特徴の1つとする。
図2では、超電導ケーブル1における3本のケーブルコア10のうち、1本のケーブルコアのみを図示し、他のケーブルコアについては図示を省略している。以下、超電導ケーブルシステムSの構成をより詳しく説明する。
【0041】
超電導ケーブル1の両端にはそれぞれ、終端接続部3A,3Bが設けられている。終端接続部3A,3Bは、ケーブルコア10の端部を収容する接続箱30A,30Bを備える。接続箱30A,30Bには断熱管20が接続され、接続箱30A,30B内の空間は断熱管20内と連通しており、液体冷媒Lが充填される。ここでは、終端接続部の具体的構成の説明は省略するが、終端接続部の構成については、例えば、特開2005−32698号公報や特開2006−196628号公報などに記載の公知の構成が利用できる。
【0042】
(冷却システム)
冷却システム40は、超電導ケーブル1の断熱管20内に、ケーブルコア10を冷却する液体冷媒Lを供給する。冷却システム40は、液体冷媒Lを冷却する冷凍機41と、液体冷媒Lを圧送する循環ポンプ42と、液体冷媒Lを貯留するリザーバタンク43とを備える。
図2に示す超電導ケーブルシステムSでは、超電導ケーブル1に冷却システム40を接続し、液体冷媒Lを循環させる(
図2中、白抜き矢印は液体冷媒Lの流通方向を示す)。冷却システム40は、超電導ケーブル1の終端接続部3A(接続箱30A)と冷媒配管34Aを介して接続され、終端接続部3B(接続箱30B)と冷媒配管34Bを介して接続されている。接続箱30A,30B内の空間と冷媒配管34A,34B内とは連通しており、冷媒配管34A,34B内には液体冷媒Lが流通する。そして、超電導ケーブルシステムSにおいて、液体冷媒Lは、循環ポンプ42により圧送され、冷凍機41で冷却された後、冷却システム40から冷媒配管34Aを介して接続箱30Aに供給されて、断熱管20内を流通する。断熱管20内を流通した液体冷媒Lは、接続箱30Bから排出され、冷媒配管34Bを介して冷却システム40に戻されて、リザーバタンク43を通って再び冷凍機41に送られる。つまり、断熱管20、接続箱30A,30B、冷媒配管34A,34B及び冷却システム40が冷媒流路を構成し、液体冷媒Lが冷媒流路を循環する。
【0043】
(圧力調整タンク)
圧力調整タンク50は、冷媒流路に設けられ、冷媒流路からの液体冷媒Lが流入する。冷媒流路と圧力調整タンク50との間には、冷媒流路の冷媒圧力に応じて開閉する逃し弁51が介在されている。通常時、逃し弁51は閉じられており、圧力調整タンク50は冷媒流路と分離され、圧力調整タンク50内に気相が確保されている。よって、通常時には、冷媒流路から圧力調整タンク50内に液体冷媒Lが流入することが阻止される。一方、短絡などの事故により、冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超える異常時には、逃し弁51が自動的に開き、冷媒流路から圧力調整タンク50内に液体冷媒Lが流入することが可能になる。そのため、異常時は、逃し弁51が開くことで、冷媒流路から液体冷媒Lを圧力調整タンク50に逃すことができる。
【0044】
圧力調整タンク50の設置箇所は、特に限定されない。圧力調整タンク50は、冷媒流路を構成する、例えば、冷媒配管34A,34B、終端接続部3A,3B(接続箱30A,30B)、リザーバタンク43、断熱管20に設けることが挙げられる。圧力調整タンク50の好ましい設置箇所は、接続箱30A,30B、或いは接続箱30A,30B近傍の冷媒配管34A,34Bであり、より好ましくは、断熱管20から見て下流側(終端接続部3B側)に位置する接続箱30B、或いは接続箱30B近傍の冷媒配管34Bである。この例では、圧力調整タンク50は、接続箱30B近傍の冷媒配管34Bに設けられている。
【0045】
ここで、圧力調整タンク50を、終端接続部(接続箱)、或いはその近傍に設けることが好ましい理由を説明する。まず、超電導ケーブル1は、管路や洞道に布設することが想定され、断熱管20に圧力調整タンク50を設けることは、設置スペースを確保することが困難な場合がある。更に、断熱管20に圧力調整タンク50を設けると、断熱性能が低下して熱侵入が増加することが考えられる。断熱管20内にはケーブルコア10が収納され、液体冷媒Lによりケーブルコア10を冷却して低温に保持する必要があるため、断熱管20において熱侵入の増加は好ましくなく、この点からも、接続箱30A,30Bや冷媒配管34A,34Bに設けることが好ましい。上述したように、圧力調整タンク50の設置は熱侵入の原因となり得ることから、断熱管20から見て下流側に圧力調整タンク50を設けることが好ましい。
【0046】
また、冷媒流路の圧力上昇は、短絡などの事故によりケーブルコア10に過電流が流れることでケーブルコア10が温度上昇し、ケーブルコア10の周囲に存在する液体冷媒Lが体積膨張することで起きる。つまり、事故時における冷媒流路の圧力上昇は、基本的に超電導ケーブル1(断熱管20)側で起きる。超電導ケーブル1から遠く離れた位置に圧力調整タンク50を設けた場合、圧力上昇の起点から圧力調整タンク50までの流路距離が長くなることから、圧力調整タンク50の逃し弁51までの圧力伝播に時間がかかる。そのため、超電導ケーブル1での圧力上昇に対する逃し弁51の応答性が低下することで、圧力調整タンク50が効果的に機能しない虞があり、超電導ケーブル1での短時間の圧力上昇を緩和することが困難になる可能性がある。したがって、圧力調整タンク50は、超電導ケーブル1の近傍、具体的には、接続箱30A,30B、或いは接続箱30A,30B近傍の冷媒配管34A,34Bに設けることが好ましいと考えられる。冷却システム40を超電導ケーブル1の近傍に設置するのであれば、リザーバタンク43に圧力調整タンク50を設けてもよい。ここでいう「終端接続部(接続箱)の近傍」とは、終端接続部(接続箱)の近くのうち、超電導ケーブル1(断熱管20)側を除き、超電導ケーブル1での圧力上昇に対して圧力調整タンク50が効果的に圧力上昇抑制機能を発揮できる範囲をいい、例えば、冷媒流路における流路距離が終端接続部(接続箱)から30m以内、好ましくは10m以内である。
【0047】
(逃し弁)
逃し弁51は、冷媒流路と圧力調整タンク50との間に介在され、冷媒流路の冷媒圧力に応じて開閉する。この例では、逃し弁51は、圧力調整タンクへの方向にのみ開く逆止弁である。逃し弁51を逆止弁とすることで、圧力調整タンク50内の液体冷媒Lや液体冷媒Lが気化したガスが冷媒流路に逆流することを防止できる。また、逃し弁51の作動圧力は、適宜設定すればよく、例えば、循環ポンプ42による液体冷媒Lの圧送圧力より高く、冷媒流路を構成する部材の許容圧力より低く設定することが挙げられる。
【0048】
(排気弁)
圧力調整タンク50は、異常時、逃し弁51が開いて、冷媒流路から液体冷媒Lが流入することで、液体冷媒Lを圧力調整タンク50内に一時的に貯留する。
図2に示す圧力調整タンク50には排気弁52が取り付けられており、排気弁52は、圧力調整タンク50内で液体冷媒が気化したガスを排気する。圧力調整タンク50内に貯留された液体冷媒Lを回収し、事故から復帰後、冷媒流路に戻して再利用することも可能である。
【0049】
(移動隔壁)
図3を参照して、圧力調整タンク50の構成例の1つを説明する。
図3に示す圧力調整タンク50は、気相50Gと液相50Lとを分離する移動隔壁55を圧力調整タンク50内に有する。移動隔壁55は、異常時に圧力調整タンク50内に逃した液体冷媒Lによる浮力により上下動し、液体冷媒Lの量に応じて位置が変化する。圧力調整タンク50内で液体冷媒が気化したガスは、圧力調整タンク50と移動隔壁55との隙間を通って気相50Gに溜まる。これにより、排気弁52(
図2参照)から液体冷媒が気化したガスのみを排気し易い。
【0050】
〈圧力上昇抑制メカニズム〉
上述の超電導ケーブルシステムSにおける圧力調整タンク50による冷媒流路の圧力上昇を抑制するメカニズムを説明する。
【0051】
通常時は、逃し弁51が閉じられており、圧力調整タンク50が冷媒流路と分離され、圧力調整タンク50内に気相が確保されている。一方、短絡などの事故により、冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超えると、逃し弁51が作動して開き、冷媒流路から液体冷媒Lを圧力調整タンク50内に逃して、冷媒流路の冷媒圧力を下げる。したがって、超電導ケーブルシステムSは、冷媒流路の冷媒圧力が上昇した異常時に、圧力上昇を抑制でき、超電導ケーブルや冷媒流路の損傷を回避できる。また、異常時に圧力調整タンク50内に逃した液体冷媒Lを圧力調整タンク50内に貯留し、圧力調整タンク50内で液体冷媒が気化したガスを排気することから、冷媒流路から液体冷媒を外部に直接放出する場合に比較して安全性が高い。
【0052】
(放出弁)
図2に示す超電導ケーブルシステムSは、更に、放出弁60を備える。この放出弁60は、冷媒流路に接続され、冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超えると開き、冷媒流路から液体冷媒Lを外部に放出する。放出弁60は、通常時、閉じられており、冷媒流路の冷媒圧力が所定の圧力を超えると、自動的に開く。
【0053】
放出弁60の設置箇所は、特に限定されない。放出弁60は、冷媒流路を構成する、例えば、冷媒配管34A,34B、終端接続部3A,3B(接続箱30A,30B)、リザーバタンク43、断熱管20に取り付けることが挙げられる。放出弁60は、圧力調整タンク50と同様の理由から、接続箱30A,30B、或いは接続箱30A,30B近傍の冷媒配管34A,34Bに設置することが好ましく、断熱管20から見て下流側(終端接続部
3B側)に位置する接続箱30B、或いは接続箱30B近傍の冷媒配管34Bに設置することがより好ましい。この例では、放出弁60は、接続箱30Bに取り付けられている。
【0054】
この例に示す放出弁60は、安全弁として機能する。放出弁60の作動圧力は、上述の逃し弁51の作動圧力より高く設定されており、例えば、冷媒流路を構成する部材の許容圧力に設定することが挙げられる。つまり、逃し弁51は、放出弁60の作動圧力より低い圧力で作動する。また、放出弁60は、冷媒流路から液体冷媒(液体冷媒が気化したガスも含む)を外部に放出する方向にのみ開く逆止弁である。
【0055】
上記放出弁60を備える超電導ケーブルシステムSは、冷媒流路の圧力上昇に対して圧力調整タンク50による冷媒流路の減圧が追い付かなかったとしても、放出弁60が開いて冷媒流路から液体冷媒Lを外部に放出することで、冷媒流路の冷媒圧力を下げることができる。また、逃し弁51の作動圧力が放出弁60の作動圧力より低いことから、放出弁60が作動する前に、逃し弁51が開いて冷媒流路から圧力調整タンク50内に液体冷媒Lを逃し、冷媒流路を減圧できる。そのため、冷媒流路の冷媒圧力が上昇した際に、先に、圧力調整タンク50による冷媒流路の圧力上昇の抑制を図ることができ、液体冷媒Lを外部に放出する放出弁60の作動を低減できる。
【0056】
(熱交換器)
図2に示す超電導ケーブルシステムSは、上述の放出弁60の開放端に、放出弁60から放出される液体冷媒Lを気化する熱交換器61を備える。「放出弁の開放端」とは、放出弁60の両端部のうち、冷媒流路と接続される側とは反対側の端部を指す。熱交換器61内で液体冷媒が気化したガスは、熱交換器61の出口から放出される。熱交換器61を備えることで、放出弁60から放出される液体冷媒Lを熱交換器61で気化して、熱交換器61の出口から外部に放出できることから、液体冷媒Lを外部に直接放出する場合に比較して安全性が高い。
【0057】
(消音器)
図2に示す超電導ケーブルシステムSでは、上述の熱交換器61の出口に消音器(サイレンサ)62を備える。液体冷媒Lが熱交換器61内で気化すると爆発的に体積膨張して、高圧のガスが熱交換器61の出口から放出される。そして、高圧のガスが熱交換器61の出口で解放されると、出口で大きな爆発音が発生することがある。そこで、熱交換器61の出口に消音器62を取り付けることで、熱交換器61の出口で発生する爆発音を低減できる。消音器62の構成については、種々の公知の構成が利用できる。例えば、自動車のマフラーに用いられている公知の構成を採用できる。
【0058】
(その他)
図2に示す超電導ケーブルシステムSにおいて、放出弁60とは別に安全弁(図示せず)を備えてもよい。安全弁は、接続箱30A,30Bやリザーバタンク43に設けることが挙げられる。安全弁を備える場合、放出弁60の作動圧力は、安全弁より低く設定するとよい。逃し弁51の作動圧力をP
1、放出弁60の作動圧力をP
2、安全弁の作動圧力をP
mとするとき、各弁の作動圧力は、P
1<P
2<P
mとすることが挙げられる。
【0059】
上述した実施形態1の超電導ケーブルシステムSでは、圧力調整タンク50を接続箱30B近傍の冷媒配管34Bに設ける場合を例に挙げて説明したが、圧力調整タンク50は、接続箱30Bに設ける他、接続箱30Aやその近傍の冷媒配管34A、リザーバタンク43に設けることも可能である。また、実施形態1の超電導ケーブルシステムSにおいて、放出弁60の設置箇所を変更してもよく、放出弁60は、接続箱30B近傍の冷媒配管34Bに設けたり、接続箱30Aやその近傍の冷媒配管34A、リザーバタンク43に設けることも可能である。圧力調整タンク50及び放出弁60をそれぞれ複数備えてもよい。更に、超電導ケーブルシステムSが超電導ケーブル同士を接続する中間接続部(図示せず)を備える場合、中間接続部に圧力調整タンク50や放出弁60を設けることも可能である。
【0060】
実施形態1では、3心一括型超電導ケーブルを用いた超電導ケーブルシステムを例に挙げて説明したが、超電導ケーブルの構成は適宜変更することが可能である。例えば、超電導ケーブルには、1本の超電導導体部が断熱管内に収納された単心型超電導ケーブルであってもよい。超電導ケーブルは、交流送電を行うものであってもよいし、直流送電を行うものであってもよい。また、超電導ケーブルとしては、断熱管内に電気絶縁層が設けられた低温絶縁方式と、断熱管外に電気絶縁層が設けられた常温絶縁方式とがあり、超電導ケーブルシステムを構成する超電導ケーブルには、いずれの方式も採用できる。