特許第6374342号(P6374342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374342
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】エンジンの冷却装置
(51)【国際特許分類】
   F01P 7/16 20060101AFI20180806BHJP
   F01P 11/16 20060101ALI20180806BHJP
   F01P 3/20 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   F01P7/16 505B
   F01P7/16 504E
   F01P11/16 E
   F01P7/16 502M
   F01P7/16 502P
   F01P3/20 H
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-79195(P2015-79195)
(22)【出願日】2015年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-200032(P2016-200032A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 陽平
(72)【発明者】
【氏名】小室 健一
【審査官】 種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−108398(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/190619(WO,A1)
【文献】 特開2014−009668(JP,A)
【文献】 特開2012−021422(JP,A)
【文献】 特開2013−070468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F01P 3/20
F01P 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却媒体をエンジンとラジエータとにこの順に循環させる第1流路と、
前記第1流路を流通する冷却媒体を分流させて前記エンジンと前記ラジエータとをバイパスさせて前記第1流路に合流させる第2流路と、
前記エンジンを流通した冷却媒体を前記ラジエータをバイパスさせて前記第2流路に流通させる第3流路と、
前記第3流路に取り付けられた第1切替弁と、
前記第1流路に取り付けられた第2切替弁と、
前記第1流路に取り付けられ、前記冷却媒体を圧送する電動ウォータポンプと、
少なくとも冷却媒体の温度に基づく要求駆動デューティ比の駆動信号で前記電動ウォータポンプを制御する制御手段と、
を備えるエンジンの冷却装置であって、
前記第1切替弁は、弁座と、前記第1流路側の面の一部が前記弁座に当接することにより前記第3流路を遮断すると共に前記第1流路側の面の一部が前記弁座から離間することにより前記第3流路を流通させる弁体と、前記弁体を前記弁座の方向へ付勢する付勢部材と、前記弁体を駆動するコイルと、を有し、
前記制御手段は、前記第1切替弁の開弁要求がなされたときには、前記コイルを非通電にして、前記要求駆動デューティ比と下限ガード値とのうち大きいほうの値をデューティ比とする駆動信号で前記電動ウォータポンプを制御し、
更に、前記制御手段は、前記第2切替弁の開度が大きくなるほど前記下限ガード値を大きくする、
エンジンの冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの冷却装置に関し、詳しくは、冷却媒体をエンジンとラジエータとに循環させる第1流路と、第1流路を流通する冷却媒体を分岐させてエンジンとラジエータとをバイパスさせて第1流路に合流させる第2流路と、エンジンを流通した冷却媒体をラジエータに流通させることなく第2流路に流通させる第3流路と、第3流路に取り付けられた切替弁と、第1流路に取り付けられ冷却媒体を圧送する電動ウォータポンプと、を備えるエンジンの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジンの冷却装置としては、第1の流路と、第2の流路と、第3の流路と、電動式ポンプと、第1の弁と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。第1の流路は、冷媒をエンジンとラジエータとに循環させる循環流路を構成している。第2の流路は、第1の流路のエンジンより上流で冷媒を分流して、分流した冷媒をヒータに流通させた後に第1の流路に合流させる。第3の流路は、エンジンからの冷媒をラジエータをバイパスさせて第2の流路のヒータの上流に流通させる。電動式ポンプは、冷媒を第1の流路へ吐出する。第1の弁は、第3の流路に取り付けられている。第1の弁は、弁座と、弁体と、付勢部材と、ソレノイドと、を備えている。第1の弁は、ソレノイドが通電し、磁力と付勢部材の付勢力とにより弁体が弁座に当接することにより閉弁し、ソレノイドが非通電となり、冷媒によって弁体が受ける圧力が付勢部材の付勢力を超えたときに弁体が弁座から離間することにより開弁する。このエンジンの冷却装置では、第1の弁を開弁させる際には、閉弁している第1の弁に対して電動式ポンプによる冷媒の流通量を所定量まで増加させて第1の弁を開弁させた後に冷媒の流通量を減少させる。第1の弁を開弁させた後に冷媒の流通量を減少させることにより、冷媒がエンジンに過度に流入してエンジンの内部温度が過度に低下するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−108398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のエンジンの冷却装置では、電動式ポンプからの冷媒の流通量を所定量まで増加させても、第1の弁を開弁させることができない場合がある。エンジンの冷却装置では、第3の流路とは異なる位置に取り付けられた他の弁の開閉状態や冷媒の温度などによって冷媒の圧力損失が変化する。そのため、冷媒の圧力損失に拘わらず電動式ポンプからの冷媒の流通量を一律の値とすると、弁体に作用する冷媒の圧力が付勢部材の付勢力を超えることができず、第1の弁を開弁させることができない場合がある。
【0005】
本発明のエンジンの冷却装置は、切替弁の開弁が必要なときにより確実に切替弁を開弁させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジンの冷却装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジンの冷却装置は、
冷却媒体をエンジンとラジエータとにこの順に循環させる第1流路と、
前記第1流路を流通する冷却媒体を分流させて前記エンジンと前記ラジエータとをバイパスさせて前記第1流路に合流させる第2流路と、
前記エンジンを流通した冷却媒体を前記ラジエータをバイパスさせて前記第2流路に流通させる第3流路と、
前記第3流路に取り付けられた切替弁と、
前記第1流路に取り付けられ、前記冷却媒体を圧送する電動ウォータポンプと、
少なくとも冷却媒体の温度に基づく要求駆動デューティ比の駆動信号で前記電動ウォータポンプを制御する制御手段と、
を備えるエンジンの冷却装置であって、
前記切替弁は、弁座と、前記第1流路側の面の一部が前記弁座に当接することにより前記第3流路を遮断すると共に前記第1流路側の面の一部が前記弁座から離間することにより前記第3流路を流通させる弁体と、前記弁体を前記弁座の方向へ付勢する付勢部材と、前記弁体を駆動するコイルと、を有し、
前記制御手段は、前記切替弁の開弁要求がなされたときには、前記コイルを非通電にして、前記要求駆動デューティ比と下限デューティ比とのうち大きいほうのデューティ比の駆動信号で前記電動ウォータポンプを制御し、
更に、前記制御手段は、前記冷却媒体の圧力損失が大きいほど前記下限デューティ比を大きくする、
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明のエンジンの冷却装置では、切替弁の開弁要求がなされたときには、コイルを非通電にして、要求駆動デューティ比と下限デューティ比とのうち大きいほうのデューティ比の駆動信号で電動ウォータポンプを制御する。そして、冷媒の圧力損失が大きいほど下限デューティ比を大きくする。これにより、冷媒の圧力損失が大きいほど電動ウォータポンプの出力の下限値を高くすることができ、弁差圧を所定値以上にすることができる。よって、弁体を弁座からより確実に離間させることができ、開弁すべき切替弁をより確実に開弁させることができる。
【0009】
こうした本発明のエンジンの冷却装置において、前記下限デューティ比は、前記弁差圧が前記切替弁を開弁可能な開弁圧以上となるデューティ比として予め定めた値である、ものとしてもよい。こうすれば、より確実に切替弁を開弁させることができる。
【0010】
また、本発明のエンジンの冷却装置において、前記第1流路に取り付けられた第2切替弁を備え、前記制御手段は、前記第2切替弁の開度が大きくなるほど前記下限デューティ比を大きくする、ものとしてもよい。電動ウォータポンプの出力が一定の場合、第2切替弁の開度が大きくなるほど冷媒の圧力損失が大きくなる。そのため、第2切替弁の開度が大きくなるほど下限デューティ比を大きくすることにより、第2切替弁の開度が大きくなるほど電動ウォータポンプの出力の下限値を高くすることができ、弁差圧を所定値以上にすることができる。これにより、弁体を弁座からより確実に離間させることができ、開弁すべき切替弁をより確実に開弁させることができる。
【0011】
さらに、本発明のエンジンの冷却装置において、前記第2流路から分岐して前記第2流路に合流する第4流路と、前記第4流路に取り付けられた第3切替弁と、を備え、前記制御手段は、前記第3切替弁の開度が小さくなるほど前記下限デューティ比を大きくする、ものとしてもよい。電動ウォータポンプの出力が一定の場合、第3切替弁の開度が小さくなるほど冷媒の圧力損失が大きくなる。そのため、第3切替弁の開度が小さくなるほど下限デューティ比を大きくすることにより、第3切替弁の開度が小さくなるほど電動ウォータポンプの出力の下限値を高くすることができ、弁差圧を所定値以上にすることができる。これにより、弁体を弁座からより確実に離間させることができ、開弁すべき切替弁を確実に開弁させることができる。
【0012】
そして、本発明のエンジンの冷却装置において、冷却媒体の温度が低くなるほど下限デューティ比を大きくする、ものとしてもしてもよい。電動ウォータポンプの駆動デューティ比が一定の場合、冷却媒体の温度が低くなるほど冷却媒体の粘性が増加するから、冷却媒体の圧力損失が大きくなる。そのため、冷却媒体の温度が低くなるほど下限デューティ比を大きくすることにより、冷却媒体の温度が低くなるほど電動ウォータポンプの出力の下限値を高くすることができ、弁差圧を所定値以上にすることができる。弁体を弁座から確実に離間させることができ、開弁すべき切替弁を確実に開弁させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例としての冷却装置20の構成の概略を示す構成図である。
図2】切替弁30が閉弁しているときの様子を示す説明図である。
図3】切替弁30が開弁しているときの様子を示す説明図である。
図4】電子制御ユニット50により実行される電動W/P制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】実施例の冷却装置20における目標駆動デューティ比D*と切替弁30の前後弁差圧と切替弁40のリフト量(弁体34の弁座32からの移動量)との時間変化の一例を示す説明図である。
図6】変形例の電動W/P制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図7】冷却水温Twと補正後の下限ガード値Dminとの関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としてのエンジン10を冷却する冷却装置20の構成の概略を示す構成図である。冷却装置20は、エンジン10や空調装置12と共に自動車に搭載され、図示するように、循環流路22と、バイパス流路24,25と、連絡流路26と、ラジエータ27と、電動ウォータポンプ(W/P)28と、切替弁30,40と、サーモスタット42と、電子制御ユニット50と、を備える。
【0016】
循環流路22は、冷却水を、電動W/P28,エンジン10,ラジエータ27,サーモスタット42,電動W/P28の順に循環させる流路として構成されている。
【0017】
バイパス流路24は、電動W/P28とエンジン10との間で循環流路22から分岐して、循環流路22から分流した冷却水を空調装置12のヒータコア14に流通させた後サーモスタット42と電動W/P28との間で循環流路22に合流させている。バイパス流路24は、循環流路22より圧力損失が大きくなるよう設計されている。したがって、連絡流路26を冷却水が流通する際には、循環流路22からパイパス流路24に流通する。
【0018】
バイパス流路25は、ヒータコア14の上流でバイパス流路24から分岐して、ヒータコア14の下流でバイパス流路24に合流している。
【0019】
連絡流路26は、エンジン10とラジエータ27との間で循環流路22から分岐し、ヒータコア14より上流でバイパス流路24に合流している。
【0020】
電動ウォータポンプ(W/P)28は、循環流路22のサーモスタット42とエンジン10との間に取り付けられており、循環流路22に冷却水を圧送している。電動ウォータポンプ(W/P)28は、電子制御ユニット50により制御されている。
【0021】
切替弁30は、磁性体により形成されており、連絡流路26に取り付けられている。図2は、切替弁30が閉弁しているときの様子を示す説明図であり、図3は、切替弁30が開弁しているときの様子を示す説明図である。切替弁30は、弁座32と、弁体34と、付勢部材36と、コイル38とから構成されている。弁座32は、弁体34を収納するハウジング31に形成されている。弁体34は、バイパス流路24側の面の一部が弁座32に当接することにより連絡流路26を遮断し、弁座32から離間することにより連絡流路26を流通させる。付勢部材36は、弁体34を弁座32の方向に付勢している。コイル38は、通電により弁体34を駆動する。切替弁30は、弁体34を吸引する(弁体34を弁座32に押しつける)方向の磁界が発生するようコイル38が通電されると、図2に示すように、発生した磁力と付勢部材36の付勢力とにより弁体34が弁座32に当接されることにより閉弁する。切替弁30は、コイル38が非通電となると、弁体34の循環流路22側に作用する冷却水の圧力からバイパス流路24側に作用する冷却水の圧力を減じた弁差圧Dpが付勢部材36による圧力より大きくなったときに、図3に示すように、弁体34が弁座32から離間して開弁する。コイル38の通電は、電子制御ユニット50により行なわれている。
【0022】
切替弁40は、バイパス流路25に取り付けられている。切替弁40は、電子制御ユニット50により制御されている。
【0023】
サーモスタット42は、冷却水がバイパス流路24から循環流路22のサーモスタット42よりも下流側(電動W/P28側)に流通するのを常時許容すると共に、循環流路22のラジエータ27を通過した冷却水がサーモスタット42よりも下流側に流通するのを許容または禁止する。具体的には、サーモスタット42は、バイパス流路24からサーモスタット42に流通する冷却水の温度が所定水温T1以上のときには、開弁して、循環流路22のラジエータ27を通過した冷却水がサーモスタット42よりも下流側に流通するのを許容する。また、サーモスタット42は、バイパス流路24からサーモスタット42に流通する冷却水の温度が所定水温T1未満のときには、閉弁して、循環流路22のラジエータ27を通過した冷却水がサーモスタット42よりも下流側に流通するのを規制する。ここで、所定水温T1は、エンジン10の暖機完了時にバイパス流路24からサーモスタット42に流通する冷却水の温度、例えば、80℃,82℃,84℃などとされている。
【0024】
電子制御ユニット50は、CPU(図示せず)を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、いずれも図示しないが、処理プログラムを記憶するROMやデータを一時的に記憶するRAM,入出力ポートなどを備える。電子制御ユニット50には、電動W/P28や切替弁30,40を制御するのに必要なセンサなどからの各種信号が入力されている。各種信号としては、以下のものを挙げることができる。循環流路22のエンジン10の出口付近に取り付けられ冷却水の温度を検出する水温センサ60からの冷却水温Tw。空調装置12からの暖房要求信号。電子制御ユニット50からは、電動W/P28や切替弁30,40を制御するための各種制御信号が出力されている。各種制御信号としては、以下のものを挙げることができる。電動W/P28への駆動信号。切替弁30のコイル38を通電するための通電信号。切替弁40をオンオフするための制御信号。
【0025】
こうして構成された実施例の冷却装置20では、電動W/P28で冷却水を循環流路22に圧送しながら、サーモスタット42へ流通する冷却水温に応じてサーモスタット42が開閉される。サーモスタット42が閉弁しているときには、ラジエータ27への冷却水の流通を規制してエンジン10を暖機する。また、サーモスタット42が開弁しているときには、ラジエータ27へ冷却水を循環させてエンジン10で暖められた冷却水をラジエータ27で放熱しながら循環流路22に冷却水を循環させてエンジン10を冷却する。
【0026】
サーモスタット42が閉弁しているときには、さらに、水温センサ60からの冷却水温Twに応じて切替弁30を開閉させる。サーモスタット42が閉弁しているとき、つまり、サーモスタット42へ流通する冷却水温が所定水温T1であるときにおいて、冷却水温Twが所定水温T1より低い所定水温T2(例えば、70℃,72℃,74℃など)未満であるときには、切替弁30のコイル38の通電信号をオンにしてコイル38を通電させて切替弁30を閉弁させる。このように、サーモスタット42が閉弁しているときに切替弁30を閉弁することにより、冷却水がエンジン10およびラジエータ27をバイパスして、バイパス流路24を通り電動W/P28,ヒータコア14,電動W/P28の順に循環する。このときエンジン10の内部には冷却水が滞留するから、エンジン10を暖機運転することにより、エンジン10の内部の冷却水の昇温を促進できる。これにより、エンジン10の暖機を促進することができる。
【0027】
また、切替弁30を閉弁した状態でエンジン10を暖機運転して冷却水温Twが所定水温T2以上となったときには、通電信号をオフとしてコイル38を非通電として切替弁30を開弁させる。サーモスタット42が閉弁しているときには、冷却水はラジエータ27をバイパスして、連絡流路26を通り、エンジン10,ヒータコア14,電動W/P28の順に循環する。冷却水がラジエータ27をバイパスして循環するから、エンジン10の暖機が継続される。
【0028】
さらに、エンジン10の暖機を継続すると、さらに、冷却水の温度が上昇する。そして、サーモスタット42へ流通する冷却水の温度が所定水温T1以上になると、サーモスタット42が開弁する。サーモスタット42が開弁すると、冷却水が循環流路22,バイパス流路24,連絡流路26を通り、エンジン10,ラジエータ27,サーモスタット42,電動W/P28,切替弁40,ヒータコア14を循環する。これにより、暖められた冷却水をラジエータ27で放熱しながら冷却水を循環させてエンジン10を冷却する。
【0029】
また、電子制御ユニット50は、空調装置12の必要吹き出し温度が所定値以上であるときには、切替弁40を閉弁し、必要吹き出し温度が所定値未満であるときには、切替弁40を開弁させる。これにより、ヒータコア14を流通する冷却水量を調整して空調装置12を適正に作動させることができる。
【0030】
さらに、電子制御ユニット50は、冷却水温Twに応じた目標流量で冷却水が吐出されるよう電動W/P28を制御する。より具体的には、冷却水温Twが高いほど大きくなる傾向に電動W/P28の目標吐出量を設定し、電動W/P28が目標吐出量に応じた目標ポンプ回転数で回転させるための駆動信号の要求駆動デューティ比Dr(駆動信号の周期に対する駆動信号が立ち上がっている時間)を設定する。そして、設定した要求駆動デューティ比Drを目標駆動デューティ比D*として、目標駆動デューティ比D*の駆動信号を用いて電動W/P28を駆動する。
【0031】
次に、こうして構成された実施例の冷却装置20の動作、特に、切替弁30を開弁させるときに電動W/P28の駆動制御する際の動作について説明する。図4は、電子制御ユニット50により実行される電動W/P制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。本ルーチンは、切替弁30のコイル38を通電するための通電信号がオンからオフに切り替わったとき、すなわち、切替弁30を開弁させるときに実行される。
【0032】
本ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50は、サーモスタット42の開閉の状態を調べると共に(ステップS100)、切替弁40の開閉の状態を調べる処理を実行する(ステップS110,S120)。
【0033】
サーモスタット42が閉弁していて切替弁40が開弁しているときには(ステップS100,S110)、下限ガード値Dminに値D1を設定する(ステップS130)。また、サーモスタット42が閉弁していて切替弁40が閉弁しているときには(ステップS100,S110)、下限ガード値Dminに値D2を設定する(ステップS140)。さらに、サーモスタット42が開弁していて切替弁40が開弁しているときには(ステップS100,S120)、下限ガード値Dminに値D3を設定する(ステップS150)。そして、サーモスタット42が開弁していて切替弁40が閉弁しているときには(ステップS100,S120)、下限ガード値Dminに値D4を設定する(ステップS160)。こうして下限ガード値Dminを設定したら、要求駆動デューティ比Drおよび下限ガード値Dminとのうち大きいほうの値を目標駆動デューティ比D*に設定して目標駆動デューティ比D*の駆動信号で電動W/P28を制御する(ステップS170)。こうした制御により、電動W/P28を下限ガード値Dmin以上の範囲内の目標駆動デューティ比D*の駆動信号で制御することができる。
【0034】
値D1は、サーモスタット42が閉弁していて切替弁40が開弁しているときにおいて、弁差圧Dpを切替弁30が確実に開弁する弁差圧とする電動W/P28の駆動信号の駆動デューティ比より大きい値とし、実施例では、例えば、電動W/P28が定格最大出力で駆動するときの駆動信号の最大駆動デューティ比Dmaxの50%の値とした。また、値D2は、サーモスタット42が閉弁していて切替弁40が閉弁しているときにおいて、弁差圧Dpを切替弁30が確実に開弁する弁差圧とする電動W/P28の駆動信号の駆動デューティ比より大きい値とし、例えば、最大駆動デューティ比Dmaxの55%の値など、値D1より大きい値とした。さらに、値D3は、サーモスタット42が開弁していて切替弁40が開弁しているときにおいて、弁差圧Dpを切替弁30が確実に開弁する弁差圧とする電動W/P28の駆動信号の駆動デューティ比より大きい値とし、例えば、最大駆動デューティ比Dmaxの60%の値など、値D2より大きい値とした。そして、値D4は、サーモスタット42が開弁していて切替弁40が閉弁しているときにおいて、弁差圧Dpを切替弁30が確実に開弁する弁差圧とする電動W/P28の駆動信号の駆動デューティ比より大きい値とし、例えば、最大駆動デューティ比Dmaxの65%の値など、値D3より大きい値とした。次に、値D1〜D4を上述したように設定する理由と、要求駆動デューティ比Drおよび下限ガード値Dminとのうち大きいほうの値を目標駆動デューティ比D*に設定する理由とについて説明する。
【0035】
最初に、要求駆動デューティ比Drおよび下限ガード値Dminとのうち大きいほうの値を目標駆動デューティ比D*に設定する理由について説明する。図5は、実施例の冷却装置20における目標駆動デューティ比D*と切替弁30の弁差圧Dpと切替弁40のリフト量(弁体34の弁座32からの移動量)との時間変化の一例を示す説明図である。図中、破線は、比較例における目標デューティ比D*と弁差圧と切替弁40のリフト量との時間変化の一例を示している。比較例では、下限ガード値Dminを用いずに要求駆動デューティ比Drをそのまま目標駆動デューティ比D*に設定するものとした。比較例では、要求デューティ比Drをそのまま目標駆動デューティ比D*に設定しているから、要求デューティ比Drが小さい場合、切替弁30の弁差圧Dpが切替弁30を開弁できる開弁圧Dopenに至らず、切替弁30を開弁できない。切替弁30が開弁できないと、サーモスタット42が閉弁している場合には、エンジン10で暖められた冷却水が滞留して冷却水温が必要以上に上昇してしまう。また、切替弁30が開弁できないと、エンジン10で暖められた冷却水がヒータコア14へ流通しないから、空調装置12の暖房性能が低下してしまう。実施例では、要求駆動デューティ比Drおよび下限ガード値Dminとのうち大きいほうの値を目標駆動デューティ比D*に設定するから、下限ガード値Dmin以上の目標駆動デューティ比D*の駆動信号で電動W/P28を駆動する。これにより、切替弁30の弁差圧Dpが切替弁の開弁圧Dopenより低くなることを抑制できる。これにより、切替弁30を確実に開弁させることができる。
【0036】
次に、上述した値D1〜D4を下限ガード値Dminに設定する理由について説明する。今、電動W/P28からの冷却水の流量が一定の場合を考える。実施例では、電動W/P28からの駆動デューティが一定である場合、切替弁30が閉弁しているときの弁差圧Dpは、(1)サーモスタット42が閉弁していて切替弁40が開弁しているとき、(2)サーモスタット42が閉弁していて切替弁40が閉弁しているとき、(3)サーモスタット42が開弁していて切替弁40が開弁しているとき、(4)サーモスタット42が開弁していて切替弁40が閉弁しているとき、の順で小さくなる。これは、切替弁30が閉弁しているときには、サーモスタット42が閉弁しているときよりサーモスタット42が開弁しているときのほうが冷却水の圧力損失が大きくなること、切替弁40が開弁しているときより切替弁40が閉弁しているときのほうが冷却水の圧力損失が大きくなること、切替弁40の開閉よりサーモスタット42の開閉のほうが圧力損失に大きく影響すること、に基づく。冷却水の冷却損失が大きくなるほど弁差圧Dpを開弁圧Dopenにするためにより高い電動W/P28の出力が要求されることから、下限ガード値Dminへ設定する値を、値D1,値D2,値D3,値D4の順に大きくする、つまり、冷却水の冷却損失が大きいほど電動W/P28の出力の下限値を高くすることにより、より確実に切替弁30を開弁させることができる。また、サーモスタット42の開閉の状態や切替弁40の開閉の状態に応じて下限ガード値Dminを変更するから、サーモスタット42の開閉の状態や切替弁40の開閉の状態に拘わらず目標駆動デューティ比D*を駆動デューティ比の最大値とするものなど目標駆動デューティ比D*を一律に大きくするものと比較すると、消費電力の低減を図ることができる。
【0037】
こうして電動W/P28を制御したら、コイル38を通電するための通電信号がオンからオフに切り替わったときからの経過時間tと所定時間trefとを比較する(ステップS180)。所定時間trefは、後述する下限ガード値Dminを用いて電動W/P28の目標駆動デューティ比D*を設定するか否かを判定するための閾値であり、例えば、2sec,3sec,4secなどに設定されるものとした。
【0038】
経過時間tが所定時間trefを超えていないときには(ステップS180)、ステップS100の処理に戻り、ステップS100〜S180の処理を繰り返す。そして、経過時間tが所定時間trefを超えたときには(ステップS180)、本ルーチンを終了する。経過時間tが所定時間trefを超えるまでの間のみ下限ガード値Dminと要求駆動デューティ比D*とのうち大きいほうの値を目標駆動デューティ比D*に設定して電動W/P28を駆動するから、経過時間tに拘わらず下限ガード値Dminを目標駆動デューティ比D*に設定して目標駆動デューティ比D*の駆動信号で電動W/P28を駆動するものと比較すると、消費電力の低減を図ることができる。
【0039】
なお、本ルーチンを終了した後には、上述したように、要求駆動デューティ比Drを目標駆動デューティD*に設定して、設定した目標駆動デューティD*の駆動信号で電動W/P28を駆動する。このとき、図5に示すように、電動W/P28の駆動デューティ比が小さくなることがある。切替弁30は、一旦開弁すると弁体34の循環流路22側の冷却水の圧力を受ける面積が開弁前より大きくなるから、冷却水の圧力が低くなっても開弁した状態を維持できる。そのため、電動W/P28の駆動デューティ比が小さくなっても、差し支えない。
【0040】
以上説明した実施例の冷却装置20では、切替弁30を開弁させるときには、コイル38を非通電にして、要求駆動デューティ比Drと下限ガード値Dminとのうち大きいほうを目標駆動デューティ比D*に設定し、目標駆動デューティ比D*の駆動信号で電動W/P28を制御する。そして、切替弁40やサーモスタット42の開閉状態に応じて、冷却水の圧力損失が大きいほど下限ガード値Dminを大きくする。これにより、弁体34を弁座32から確実に離間させて、切替弁30を確実に開弁させることができる。
【0041】
実施例の冷却装置20では、ステップS100〜S160の処理を実行するものとしたが、ステップS110,S120の処理を実行せずに、ステップS100の処理と、ステップS130またはステップS140の処理と、ステップS150またはステップS160の処理とを実行するものとしてもよい。この場合、ステップS100の処理でサーモスタット42が開弁していると判定されたときにはステップS130またはステップS140の処理を実行し、ステップS100の処理でサーモスタット42が閉弁していると判定されたときには、ステップS150またはステップS160の処理を実行すればよい。
【0042】
実施例の冷却装置20では、ステップS100〜S160の処理を実行するものとしたが、ステップS100,S120,S150,S160の処理を実行せずにステップS110,S130,S140の処理を実行するものとしてもよい。
【0043】
実施例の冷却装置20では、サーモスタット42が閉弁しているときより開弁しているときのほうが下限ガード値Dminを大きくしたが、サーモスタット42を開度を変更可能な調整弁として、調整弁の開度が大きいほど下限ガード値Dminを大きくするものとしてもよい。また、切替弁40が開弁しているときより閉弁しているときのほうが下限ガード値Dminを大きくしたが、切替弁40を開度を変更可能な調整弁とし、調整弁の開度が小さいほど下限ガード値Dminを大きくしてもよい。
【0044】
実施例の冷却装置20では、図4に例示した電動W/P制御ルーチンで、サーモスタット42,切替弁40の開閉状態に応じて下限ガード値Dminを設定するものとしたが、冷却水温Twに応じて下限ガード値Dminを設定するものとしてもよい。図4の電動W/P制御ルーチンに代えて、図6の変形例の電動W/P制御ルーチンを実行して、下限ガード値Dminを冷却水温Twに基づいて補正してもよい。変形例の電動W/P制御ルーチンは、ステップS100の処理の前にステップS50の処理を実行する点、ステップ170の処理の前にステップS165の処理を実行する点を除いて、図4の電動W/P制御ルーチンと同一の処理となっている。そのため、電動W/P制御ルーチンと同一の処理には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0045】
変形例の電動W/P制御ルーチンでは、最初に、水温センサ60からの冷却水温Twを入力する処理を実行する(ステップS50)。続いて、ステップS100〜S160の処理を実行する。
【0046】
そして、ステップS50の処理で入力した冷却水温Twを用いて下限ガード値Dminを補正する(ステップS165)。ここで、下限ガード値Dminの補正は、ステップS130〜S160の処理のいずれかで設定した下限ガード値Dminに対して冷却水温Twが低いほど高くなる係数fを乗じることにより行われるものとした。図7は、冷却水温Twと補正後の下限ガード値Dminとの関係の一例を示す説明図である。冷却装置20では、冷却水温Twが低いほど冷却水の粘性が高く、圧力損失が大きくなる。そのため、冷却水温Twが低いほど補正gの下限ガードDminを大きくしたのである。
【0047】
こうして下限ガード値Dminを補正したら、ステップS180の処理を実行し、経過時間tが所定時間trefを超えていなければステップS50の処理に戻り、経過時間tが所定時間trefを超えているときには本ルーチンを終了する。このように、冷却水温Twが低いほど下限ガード値Dminを大きくすることにより、より確実に切替弁30を開弁させることができる。
【0048】
実施例の冷却装置20では、バイパス流路24は、冷却水を空調装置12のヒータコア14に流通させるものとしたが、エンジンがEGRシステムを備える場合にはEGRクーラにも冷却水を流通させるものとしてもよい。
【0049】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、循環流路22が「第1流路」に相当し、バイパス流路24が「第2流路」に相当し、連絡流路26が「第3流路」に相当し、切替弁30が「切替弁」に相当し、電動W/P28が「電動ウォータポンプ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御手段」に相当し、弁座32が「弁座」に相当し、弁体34が「弁体」に相当し、付勢部材36が「付勢部材」に相当し、コイル38が「コイル」に相当する。
【0050】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0051】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、エンジンの冷却装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジン、12 空調装置、14 ヒータコア、20 冷却装置、22 循環流路、24,25 バイパス流路、26 連絡流路、27 ラジエータ、28 電動W/P、30 切替弁、31 ハウジング、32 弁座、34 弁体、36 付勢部材、38 コイル、40 切替弁、42 サーモスタット、50 電子制御ユニット、60 水温センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7