レンズの幾何学中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、処方度数に基づいて決定される屈折面のz座標値に、焦点深度延長のために、Ar3(但し、rはz軸からの距離、Aは定数)で表される焦点深度延長成分を付加する視力矯正用眼鏡レンズの設計方法であって、
rの単位をmmとしたときに、前記定数Aの絶対値が1.73×10-6〜1.96×10-5の範囲内となるように、前記定数Aを設定し、
前記定数Aを正としてレンズの前面に前記焦点深度延長成分を付加し、又は、前記定数Aを負としてレンズの後面に前記焦点深度延長成分を付加することを特徴とする視力矯正用眼鏡レンズの設計方法。
レンズの幾何学中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、処方度数に基づいて決定される屈折面のz座標値に、焦点深度延長のために、Ar3(但し、rはz軸からの距離、Aは定数)で表される焦点深度延長成分を付加する視力矯正用眼鏡レンズの設計方法であって、
rの単位をmmとしたときに、前記定数Aの絶対値が1.73×10-6〜1.96×10-5の範囲内となるように、前記定数Aを設定し、
前記視力矯正用眼鏡レンズが、前記屈折面に遠用屈折面と近用屈折面とを備える累進レンズ又は二焦点レンズであり、
前記遠用屈折面の処方度数のS度数に+0.25Dを加えて前記遠用屈折面を設計し、前記遠用屈折面のz座標値に前記焦点深度延長成分を付加することを特徴とする視力矯正用眼鏡レンズの設計方法。
レンズの幾何学中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、処方度数に基づいて決定される屈折面のz座標値に、焦点深度延長のために、Ar3(但し、rはz軸からの距離、Aは定数)で表される焦点深度延長成分が付加され、
rの単位をmmとしたときに、前記定数Aの絶対値が1.73×10-6〜1.96×10-5の範囲内にあり、
前記定数Aが正とされてレンズの前面に前記焦点深度延長成分が付加され、又は、前記定数Aが負とされてレンズの後面に前記焦点深度延長成分が付加されていることを特徴とする視力矯正用眼鏡レンズ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、レンズを用いた眼鏡を装用した装用者にとっての前後、左右、上下を、それぞれ、当該レンズにおける前後、左右、上下とする。
【0017】
〈第1実施形態〉
図1に示すように、第1実施形態に係るレンズ1は、装用者の視力を矯正するための視力矯正用レンズであり、具体的には、眼鏡に用いられる眼鏡レンズである。レンズ1は、後面2が式(i)で定義される凹面とされ、前面3が式(ii)で定義される凸面とされている。なお、レンズ1の幾何学中心(後面2では基点O
1、前面3では基点O
2)を通る前後方向の軸をz軸とし、レンズ1の後方に向かう方向をz軸の正方向とする。z軸はレンズ1の光軸に一致する。
【0018】
z=r
2/(R
1+(R
12−Kr
2)
1/2)+Ar
3 …(i)
z=r
2/(R
2+(R
22−Kr
2)
1/2) …(ii)
【0019】
式(i)、(ii)のrはz軸からの距離である。すなわち、後面2では基点O
1、前面3では基点O
2を中心として、z軸に直交する上下方向、左右方向の軸をそれぞれx軸、y軸とする直交座標系を考えた場合、r=(x
2+y
2)
1/2である。R
1、R
2は面の頂点における曲率半径、Kは1、Aは正の定数である。したがって、レンズ1の前面3は球面、後面2は非球面となる。なお、R
1、R
2は、処方度数(詳しくは、S度数、C度数、及び、乱視軸AX)によって決まる。レンズ1は、近視者のための遠用レンズであるため、R
1<R
2である。
【0020】
式(i)に示すように、後面2は、処方度数に基づいて次の式(iii)で定義される屈折面のz座標値に、rの3次の項Ar
3が付加されている。
z=r
2/(R
1+(R
12−Kr
2)
1/2) …(iii)
【0021】
項Ar
3は、焦点深度延長のために付加された焦点深度延長成分である。基点からの距離rの3次の冪関数に比例させて厚さを変化させた光学板に光を通すことにより、焦点深度を延長可能であることは、上記特許文献1に記載されている。レンズ1はこれを応用したものであり、処方度数に基づいて決定される屈折面(実施形態では、曲率半径R
1の球面。以下、元の球面ともいい、
図1の(b)に符号Sで示す。)に、z軸からの距離(すなわち、後面2では、
図1に示すz軸と後面2との交点である基点O
1からの距離)rの3次の冪関数に比例して厚さが変化する部分(焦点深度延長成分)を付加して後面2を形成したものである。上記式(i)及び(iii)から、後面2は、曲率半径R
1の球面と、Ar
3で表される非球面とを合成したものといえ、換言すれば、後面2は、
図2に模式的に示すように、処方度数を実現するための度数成分と、焦点深度を延長するための焦点深度延長成分(非球面成分)とが合成されて形成さている。
【0022】
定数Aは、1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲内から選択される。通常のサイズの眼鏡レンズ(直径50〜80mm)において定数Aがこの範囲であれば、焦点深度延長効果が適度に得られ、かつ、非点収差の発生が抑制できるからである。すなわち、定数Aが大きい程、焦点深度延長効果は大きくなるが、非点収差の発生が大きくなる。それらのバランスを考慮した範囲が、上記範囲である。
【0023】
本実施形態では、A=7.68×10
-6とされている。これは、
図1の(b)に示すように、Δを元の球面Sを基準とする半径aでのz軸方向の高さ(すなわち、元の球面Sからの厚みの増加分)とすると、aが25mmのとき、Δは120μmとなる値である。なお、A=Δ/1000/a
3が成り立つ(但し、aの単位:mm、Δの単位:μm)。ちなみに、aが25mm、Δが27μmのとき、A=1.73×10
-6となり、aが15mm、Δが66μmのとき、A=1.96×10
-5となる。
【0024】
次に、レンズ1の設計方法について説明する。
【0025】
まず、処方度数に基づいてレンズ1の前面3の屈折面及び後面2の屈折面を決定する。この決定方法については、周知であるため、ここでは詳述しない。そして、決定した前面3の屈折面及び後面2の屈折面のいずれかのz座標値に、Ar
3(但し、rはz軸からの距離、Aは定数)で表される焦点深度延長成分を付加する。
【0026】
実施形態では、処方度数に基づいてレンズ1の前面3の屈折面及び後面2の屈折面を、それぞれ、上記式(ii)及び(iii)で表される球面として決定し、後面2の屈折面のz座標値に焦点深度延長成分Ar
3(但し、A=7.68×10
-6)を付加した。
【0027】
次に、焦点深度延長の効果について説明する。
【0028】
図3の(a)は、処方度数に基づいて前面及び後面の屈折面が決定された通常のレンズ10による光束22の集束状態の模式図であり、レンズ10に入射した光軸に平行な光束22は、焦点位置P
3に集中的に集まるため、焦点位置P
3では、信号強度が高く鮮明に対象物が見えるが、例えば位置P
4のように焦点を少しずれた位置では、急激にぼやけて見えなくなる。すなわち、焦点深度(換言すれば、被写界深度)は浅い。なお、図の下部に示す点の集合は、それぞれ位置P
1、P
2、P
3、P
4、P
5における光束22の集束の具合を模式的に表したものである。
【0029】
図3の(b)は、レンズ1による光束22の集束状態の模式図であり、レンズ1に入射した光軸に平行な光束22は、焦点位置P
3を含むある程度の範囲に分散して集まり、焦点深度は深くなる。したがって、焦点位置P
3でも若干のぼけは残るが、例えば位置P
4のように焦点を少しずれた位置でも、中心部の信号強度がある程度高いため、対象物の識別が可能となる。なお、定数Aを正の数とした場合、焦点深度は、元の焦点位置P
3の後側(奥側)に延長される。
【0030】
焦点深度延長の効果は、特に夜間など照度が低い暗所で大きい。以下、
図4を用いて説明する。
図4は、虹彩21を含む眼球20の状態を示したものである。なお、
図4における符号F
1、F
2、F
3は、焦点深度の深さ(長さ)を表している。
【0031】
図4の(a)は、昼間など照度が高い明所での状態を示したものであり、虹彩21が閉じて、入射する光束22が細くなるため、光が集中する範囲が長くなり、焦点深度F
1が深く(長く)なる。したがって、比較的長い距離で焦点が合う。
【0032】
図4の(b)は、暗所での状態を示したものであり、虹彩21が開いて、入射する光束22が太くなるため、光が集中する範囲が短くなり、焦点深度F
2が浅く(短く)なる。したがって、焦点の合う距離が短くなる。
【0033】
図4の(c)は、暗所でレンズ1を用いた状態を示したものであり、虹彩21が開いて、入射する光束22が太くなるが、焦点深度F
3は深いため、比較的長い距離で焦点が合う。したがって、レンズ1によれば、特に暗所での対象物の識別が容易となる。
【0034】
また、
図5〜8に、カメラのレンズの前側に、焦点深度延長成分を付加していない通常の単焦点レンズ(但し、度は入っていない。)を取り付けた場合と、その単焦点レンズと同じ設計の単焦点レンズに上記のように焦点深度延長成分を付加した焦点深度延長レンズを取り付けた場合とで、それぞれ視標を撮影し、被写界深度の比較を行った実験の結果を示す。この実験に用いたレンズの詳細なデータを、表1、2に示す。なお、表1に示すサグ値(z座標値)は、中心からの距離r=35mm(すなわち、レンズの縁)での値である。視標は複数個を等間隔(前後方向の間隔は、
図5、6では15cm、
図7、8では10cm)でカメラに対して斜めに並べた。
【0037】
図5は単焦点レンズ、
図6は焦点深度延長レンズを用いて、いずれも明所で撮影したものであり、焦点距離135mm、F値4.5、シャッタースピード1/25、ISO400、カメラから最も手前の視標までの距離は約200cm、照度はカメラ付近で80lx、最も手前の視標付近で90lxである。
【0038】
図7は単焦点レンズ、
図8は焦点深度延長レンズを用いて、いずれも暗所で撮影したものであり、焦点距離135mm、F値8.0、シャッタースピード1/10、ISO400、カメラから最も手前の視標までの距離は約100cm、照度はカメラ付近で48lx、最も手前の視標付近で55lxである。
【0039】
図5と
図6、
図7と
図8を比較すると、焦点深度延長レンズを用いた
図6、
図8の方が、通常の単焦点レンズを用いた
図5、
図7よりも、奥の視標まで見え、被写界深度が深くなっていることが分かり、また、明所よりも暗所の方が、両レンズの被写界深度の差が大きいことが分かる。
【0040】
次に、被験者7名につき、処方度数に応じて前面を上記式(ii)により後面を上記式(iii)により決定した通常の単焦点レンズ、及び、その後面に焦点深度延長成分Ar
3(但し、A=7.68×10
-6)を付加した焦点深度延長レンズすなわちレンズ1を作成し、被験者に装用させてコントラスト感度の測定を行った結果について説明する。各被験者の年齢、処方度数及び作成されたレンズの度数を、表3に示す。なお、作成されたレンズは試作品であることから処方度数とレンズの度数とには若干の差がある。表3中のRは右眼、Lは左眼、レンズの屈折率はいずれも1.60である。コントラスト感度の測定は、Vitech社のビジョンコントラストテスター6500を用いて行った。
【0042】
測定結果を表4に示す。Vitech社のビジョンコントラストテスター6500は、視標A〜Eの各々につき複数枚の視標が並べられており、どの視標まで識別できたかによってコントラスト感度を測定するものであり、表4は、各被験者が、視標A〜Eの各々について、どの視標まで識別できたかを示している。なお、表4で、レンズAは通常の単焦点レンズを、レンズBはレンズ1を示す。また、各被験者につき、右眼、左眼、両眼を測定するとともに、明所と暗所とで測定を行った。表4には、測定場所の照度を記載している。被験者から視標までの距離はいずれも3.00mである。
【表4】
【0043】
コントラスト感度は、例えば視標Bで測定結果が「6」であればコントラスト感度「85」、測定結果が「7」であればコントラスト感度「170」というように、所定の換算表により換算される。表5は、表4の測定結果から得られたコントラスト感度に基づいて、各被験者の右眼、左眼、両眼について明所と暗所のそれぞれにおける、通常の単焦点レンズを用いたときのコントラスト感度に対する、レンズ1を用いたときのコントラスト感度の比、すなわち、(レンズ1を用いたときのコントラスト感度)/(通常の単焦点レンズを用いたときのコントラスト感度)を、視標A〜Eについて求め、視標を通じた平均を算出したものである。
【0045】
表5から、例えば被験者Aは、明所で両眼視する場合、レンズ1を用いたときのコントラスト感度は通常の単焦点レンズを用いたときの100%であり、レンズ1を用いても通常の単焦点レンズを用いてもコントラスト感度は変わらないが、暗所で両眼視する場合、レンズ1を用いたときのコントラスト感度は通常の単焦点レンズを用いたときの220%であり、レンズ1を用いたときは、通常の単焦点レンズを用いたときの2倍以上、コントラスト感度が良くなっている。このように、暗所(照度50lx以下)では、16眼中12眼でコントラスト感度の向上が見られた。すなわち、レンズ1によれば、夕方や夜間等コントラストが落ちる暗所でのコントラスト感度が向上し、特に、コントラスト感度が急激に低下する中高年者において、暗所でのコントラスト感度の向上効果が高いことが分かる。
【0046】
また、定数Aを1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲内から選択すれば、焦点深度延長効果が適度に得られるとともに、非点収差の発生が抑制できる。すなわち、周辺の歪みが抑制されつつ焦点深度が延長されるため、眼の調節が補助されて、眼が楽に感じ疲れ難くなる。
【0047】
〈第2実施形態〉次に、第2実施形態について説明するが、第1実施形態の構成要素と共通する構成要素については、同じ符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0048】
第2実施形態に係るレンズも眼鏡レンズであり、前面3はレンズ1と同じく上記式(ii)で定義される凸面とされるが、後面2のz座標値に、レンズの縁厚を薄くするための縁厚縮小成分Dr
10(但し、Dは負の定数)が付加される。すなわち、第2実施形態のレンズの後面2は、次の式(iv)で定義される凹面とされている。
【0049】
z=r
2/(R
1+(R
12−Kr
2)
1/2)+Ar
3+Dr
10 …(iv)
第2実施形態のレンズにおいて、縁厚縮小成分Dr
10を付加したのは、焦点深度延長成分Ar
3(但し、Aは正の定数)の付加により、レンズの縁厚が厚くなって、見た目や重さの点で問題が生じる虞があるところ、かかる虞を低減するためである。また、縁厚縮小成分におけるrの指数を10と大きくしたのは、レンズの縁部での影響を大きくして、縁厚の減少を図るためである。なお、物を見るときに使用される後面2の中央部では、rが小さいことから、縁厚縮小成分Dr
10は小さいものとなり、焦点深度延長効果に対して負の影響を及ぼすことはない。
【0050】
第1実施形態で述べたように、定数Aは、1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲から選択することが好ましいが、定数Aをかかる範囲から選択するとき、定数Dは、−1.88×10
-16〜−1.65×10
-17の範囲から選択し、かつ、定数Aが大きい程定数Dの絶対値が大きくなるように選択することが好ましい。このように選択すれば、レンズの縁厚が通常の単焦点レンズと同等になるからである。
【0051】
なお、定数Dの範囲は、定数Aが上記範囲内にあるときの第1実施形態のレンズ1の、通常の単焦点レンズに比しての縁厚の増加分(眼鏡レンズによく用いられる75mm径のレンズとしたときの縁厚の増加分)を算出し、その増加分をΔとして、D=Δ/a
10で算出した(但し、a=37.5mm、Δの単位:mm)。
【0052】
表6に、A=1.73×10
-6、D=−1.65×10
-17としたときの、表7に、A=1.96×10
-5、D=−1.88×10
-16としたときの第1実施形態のレンズ1、第2実施形態のレンズ、及び、通常の単焦点レンズ(レンズ径はいずれも75mm)の縁厚を、S度数を変えて計算したものを示す。
【0055】
表6及び表7から分かるように、縁厚縮小成分Dr
10を付加することにより、第2実施形態のレンズは縁厚が通常の単焦点レンズと同等となっている。
【0056】
第2実施形態のレンズによれば、レンズ1と同様に、暗所でのコントラスト感度が向上し、特に、中高年者の暗所でのコントラスト感度が向上するとともに、レンズの縁厚を通常のレンズと同等とすることができる。
【0057】
〈第3実施形態〉第1実施形態及び第2実施形態は近視者用の単焦点レンズ(遠用レンズ)であったが、第3実施形態は、遠視者用の単焦点レンズ(近用レンズ)である。以下、第3実施形態について説明するが、第1実施形態の構成要素と共通する構成要素については、同じ符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0058】
第3実施形態のレンズでも、後面2が上記式(i)、前面3が上記式(ii)で定義され、レンズの凹面(後面2)に焦点深度延長成分Ar
3が付加されているが、定数Aは負の数とされており、−1.96×10
-5〜−1.73×10
-6の範囲から選択される。通常のサイズの眼鏡レンズにおいてこの範囲であれば、焦点深度延長効果が適度に得られ、かつ、非点収差の発生が抑制できるからである。また、R
1>R
2である。
【0059】
図9に、第3実施形態のレンズの全体の概略図(a)、上半分を拡大した概略図(b)を示す。
図9の(b)に示すように、第3実施形態のレンズの場合、二点鎖線で示される元の球面Sから厚みが減少され、その厚みの減少量がレンズの縁に近い程大きくなる。
【0060】
表8にS度数が+1.00D、+2.00D、+3.00Dの場合の第3実施形態のレンズの例を示す。定数Aは−7.68×10
-6とした。
【0062】
第3実施形態のように、定数Aを負の数にすることにより、焦点深度は、焦点深度延長前の焦点の前側に延長される。レンズの縁厚は、焦点深度延長前よりも薄くなるため、縁厚縮小成分を付加する必要がない。
【0063】
第3実施形態のレンズによれば、元の球面Sからの高さが基点O
1からの距離rの3次の冪関数に比例して減少するため、レンズの縁に行く程、焦点は前方にずれる。したがって、延長深度が延長され、暗所でのコントラスト感度が向上する。しかも、縁厚縮小成分を付加する必要がない。
【0064】
〈第4実施形態〉第4実施形態は、遠視者用の単焦点レンズ(近用レンズ)であるが、第3実施形態と異なり、定数Aを正の数としている。以下、第4実施形態について説明するが、第1実施形態の構成要素と共通する構成要素については、同じ符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0065】
第4実施形態のレンズは、後面2が上記式(i)、前面3が上記式(ii)で定義され、レンズの凹面(後面2)に焦点深度延長成分Ar
3が付加されている。定数Aは正の数とされており、1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲内から選択される。通常のサイズの眼鏡レンズにおいてこの範囲内であれば、焦点深度延長効果が適度に得られ、かつ、非点収差の発生が抑制できるからである。また、R
1>R
2である。定数Aを正の数とした場合には、焦点深度は、焦点深度延長前の焦点の後側に延長される。
【0066】
表9にS度数が+1.00D、+2.00D、+3.00Dの場合の第4実施形態のレンズの例を示す。定数Aは7.68×10
-6とした。
【0068】
なお、定数Aを正の数とした場合には、焦点深度は、焦点深度延長前の焦点の後側に延長される。また、縁厚が厚くなるため、縁厚縮小成分Dr
10を付加してもよい。定数Aを1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲内から選択するとき、定数Dは、−1.88×10
-16〜−1.65×10
-17の範囲内から選択し、かつ、定数Aが大きい程定数Dの絶対値が大きくなるように選択することが好ましい。
【0069】
第4実施形態のレンズによれば、元の球面Sからの高さが基点O
1からの距離rの3次の冪関数に比例して増加するため、レンズの縁に行く程、焦点は後方にずれる。したがって、延長深度が延長され、暗所でのコントラスト感度が向上する。
【0070】
〈変形例〉以下、変形例について説明する。
【0071】
(1)第1実施形態のレンズのような遠用レンズで定数Aを負の数としてもよい。定数Aを負の数とした場合には、焦点深度は、焦点深度延長成分を付加しないときの焦点の前側に延長される。また、焦点深度延長成分を付加しないときに比して縁厚が薄くなる。
【0072】
(2)焦点深度延長成分Ar
3を付加する前の屈折面の式は、上記式(ii)に限らず、例えば、上記式(ii)に、ΣA
ir
iで表される多項式が付加された式とすることもできる(すなわち、焦点深度延長成分Ar
3を付加する前の屈折面は、球面とは限らない)。その場合には、その式にさらに焦点深度延長成分Ar
3を付加することとなる。焦点深度延長成分を付加しない方の面(上記各実施形態では前面3)の式も、上記式(iii)に限られないことは勿論である。
【0073】
(3)上記各実施形態では後面2(凹面)に焦点深度延長成分を付加したが、レンズの前面3(凸面)に焦点深度延長成分を付加してもよい。
【0074】
すなわち、焦点深度延長成分は後面2に付加される場合と前面3に付加される場合とがあり、それぞれの場合について、定数Aは正の場合と負の場合とがある。これら4通りのケースを図示したものが
図10であり、
図10の(a)は第1実施形態及び第4実施形態と同じく、定数Aを正の数として、後面2に焦点深度延長成分を付加した状態、(b)は、定数Aを負の数として、前面3に焦点深度延長成分を付加した状態、(c)は、第3実施形態と同じく、定数Aを負の数として、後面2に焦点深度延長成分を付加した状態、(d)は、定数Aを正の数として、前面3に焦点深度延長成分を付加した状態を示す。図中、二点鎖線は焦点深度延長成分付加前の面を示す。定数Aは絶対値が1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲であることが好ましい。かかる範囲であれば、焦点深度延長効果が適度に得られ、かつ、非点収差の発生が抑制できることが、計算上分かるからである。
【0075】
また、(a)及び(b)のケースでは、縁厚が増加するため、縁厚縮小成分を付加してもよい。(c)及び(d)のケースでは、縁厚は減少するため、縁厚縮小成分を付加する必要はない。縁厚縮小成分を付加する場合には、(a)のように定数Aが正の数の場合には、定数Dは負の数とし、(b)のように定数Aが負の数の場合には、定数Dは正の数とする。また、定数Aの絶対値が1.73×10
-6〜1.96×10
-5の範囲内の場合、定数Dの絶対値は1.65×10
-17〜1.88×10
-16の範囲内とし、かつ、定数Aの絶対値が大きい程定数Dの絶対値が大きくなるように設定することが好ましい。通常のサイズの眼鏡レンズにおいて定数A及び定数Dをこのように定めれば、焦点深度延長効果が適度に得られ、かつ、非点収差の発生を抑制できるとともに、縁厚を焦点深度延長成分の付加前のレンズと同等にできることが、計算上分かるからである。
【0076】
(4)縁厚縮小成分におけるrの指数は10でなくてもよく、例えば8として、縁厚縮小成分としてDr
8を付加してもよい。
【0077】
(5)上記各実施形態は単焦点レンズであったが、累進レンズ、又は、二重焦点レンズ等の多焦点レンズに焦点深度延長成分を付加してもよい。単焦点レンズの場合と同様に、焦点深度延長効果が得られるからである。その場合、凹面を累進屈折力面又は多焦点面とし、凸面に焦点深度延長成分を付加したり、凸面を累進屈折力面又は多焦点面とし、凹面に焦点深度延長成分を付加したりする等、焦点深度延長成分は、累進屈折力面又は多焦点面に付加してもよいし、その反対面に付加してもよい。
【0078】
(6)累進レンズや二焦点レンズに焦点深度延長成分を付加する場合、遠用部(遠用屈折面)と近用部(近用屈折面)とを含む全体(累進レンズの場合には、遠用部と近用部と累進部を含む全体)に付加してもよいし、遠用部と近用部のそれぞれに別個に付加してもよいし、遠用部のみ又は近用部のみに付加してもよい。遠用部と近用部のそれぞれに別個に付加する場合、定数Aは遠用部と近用部とで異なり得る。焦点が2つより多い場合も同様である。
【0079】
(7)累進レンズや多焦点レンズの場合、遠用部の処方度数のS度数を+0.25Dして設計し(すなわち、遠用部の度を0.25D弱くし)、遠用部に焦点深度延長成分を付加することにより、度を弱くした分の見え難さを補うようにすれば、加入度が0.25D分低減されるため、その分、歪み等の発生が抑制される。
【0080】
(8)本発明を、コンタクトレンズに適用してもよい。