(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  粒径が50μm以上の金属粉、石炭粉又はコークス粉の少なくともいずれかを含む、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質と、粒径が50μmに満たない微細な懸濁物質とが共存している、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水中に、請求項1又は2に記載の懸濁物質の高分子凝集・沈降剤を、処理廃水に対する添加量が0.5mg/L以上となるように添加して、前記懸濁物質を同一の処理によって一緒に凝集沈降させることを特徴とする廃水中の懸濁物質の除去処理方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
  しかしながら、これまでの高分子凝集剤の開発は、いずれも、汚泥の脱水をより効率よく行うことや、粗大SSを除去した後の廃水中の微細SSの除去を、より効率よく行うことを目的としたものに限られていた。例えば、金属粉や石炭・コークス粉や油分等の粗大SSが含まれている製鉄工場等からの廃水中の懸濁物質の除去処理に高分子凝集剤を使用する場合には、予め粗大SSを除去処理することが必要であり、高分子凝集剤の利用は、微細SSの除去に対する点で何ら変わるものではない。これに対し、特に製鉄工場においては、処理すべき廃水の量が多量であり、その種類も多いことから、廃水中から懸濁物質を除去するための処理設備は巨大なものになっており、設備の簡略化や、凝集剤の使用量の削減を達成できれば、その経済的な効果は極めて大きい。
【0008】
  製鉄工場から生じる廃水は種々のものがある。例えば、鋳造工程や熱間圧延工程では大量の冷却水を必要としており、使用後の冷却水には、鉄粉や油分等の大量の懸濁物質が含まれる。このため廃水を冷却水として再利用(循環使用)しているが、その場合には、これらの冷却廃水中の懸濁物質を、冷却水として使用可能なレベルまで除去処理する必要がある。例えば、熱間圧延工程において生じる廃水中には、鉄粉や油分等からなる、数μm〜数十μmオーダーの50μmに満たない粒径の微細な懸濁物質(微細SS)に加えて、場合によっては、粒径が50μm以上、場合によっては1000μm程度に至る大きさの粗大な懸濁物質(粗大SS)が含まれている。このため、先に述べたように、冷却廃水中から懸濁物質を除去処理する際には、沈降分離等の方法で、予め粗大SSを除去して、大きいものが含まれるとしても粒径が50μmに満たない微細SSの状態の廃水とし、その後に、凝集剤を加えて除去処理をすることで、使用する凝集剤の量の削減を可能にし、凝集剤による処理効率の向上を図っている。また、懸濁物質を除去処理する際には、無機凝集剤と高分子凝集剤との組合せ等、複数種類の凝集剤を使用することが通常である。
【0009】
  上記した従来技術における現状に対し、本発明者らは、従来の凝集剤の使用量を増大させることなく、むしろ、より低減した使用量で、粗大SSと微細SSが共存(並存)している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって容易に取り除くことができ、しかも、より良好な処理水が得られれば、処理設備を格段に縮小でき、この点のみをもってしても、極めて経済的な処理が可能になるとの認識を持つに至った。また、凝集沈降した沈殿物を、その後の処理が容易なものにできれば、沈降・沈殿物の二次処理が容易になり、さらに有用である。
【0010】
  したがって、本発明の目的は、その使用量の増大を伴うことなく、無機凝集剤との併用を必ずしも必要とせず、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって迅速に且つ容易に取り除くことができ、しかも、その処理水が、濁りのない清澄な性状のものであり、凝集沈降した沈殿物の処理が容易となる高分子凝集剤を提供することにある。
 
【課題を解決するための手段】
【0011】
  上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、第1の発明として、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5〜60であることを特徴とする高分子凝集剤を提供する。
(上記式中の、R
1、R
2は、それぞれ独立にCH
3又はC
2H
5を表し、R
3は、H、CH
3又はC
2H
5のいずれかを表す。X
-は、アニオン性対イオンを表す。)
【0012】
  上記した本発明の高分子凝集剤は、さらに、重量平均分子量が200万〜1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.7〜4.1meq/gであること;さらに、重量平均分子量が400万〜1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.1〜3.5meq/gであること;が好ましい。
【0013】
  上記目的は、以下の本発明によって、より安定して効果的に達成される。すなわち、本発明は、第2の発明として、粗大な懸濁物質と微細な懸濁物質とが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除く際に使用される高分子凝集剤であって、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)に、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5〜60であり、且つ、該共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを特徴とする高分子凝集剤を提供する。
(上記式中の、R
1、R
2は、それぞれ独立にCH
3又はC
2H
5を表し、R
3は、H、CH
3又はC
2H
5のいずれかを表す。X
-は、アニオン性対イオンを表す。)
【0014】
  上記した本発明の高分子凝集剤は、さらに、重量平均分子量が500万〜1100万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.2〜3.4meq/gであることが好ましい。
【0015】
  上記した本発明の高分子凝集剤は、いずれも、さらに下記の構成を有するものであることが好ましい。前記粗大な懸濁物質は、少なくとも粒径が50μm以上のものであり、前記微細な懸濁物質は、粒径が50μmに満たないものであること;前記懸濁物質を同一の処理によって取り除く際における処理廃水に対する添加量が、0.5mg/L以上であること;前記廃水が製鉄工場で生じるものであり、廃水中の懸濁物質が、金属粉と油分とを含むものであること;が挙げられる。
 
【発明の効果】
【0016】
  本発明によれば、その使用量の増大を伴うことなく、無機凝集剤との併用を必要とせず、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって迅速に凝集させて容易に取り除くことができ、しかも、その処理水が目視した場合に濁りのない清澄な性状のものであり、凝集沈降した沈殿物の処理が容易となる高分子凝集剤の提供が可能になる。この結果、本発明の高分子凝集剤を使用することで、従来、製鉄工場において必要とされてきた、冷却廃水等に含まれる懸濁物質を除去するための巨大な処理設備の一部が不要になり、しかも使用する凝集剤の量を低減でき、さらに、その凝集沈降した沈殿物は取り扱い易く、その処理が極めて容易にできるようになり、これらによってもたらされる経済的な効果は極めて多大なものであり、工業上、極めて有用である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0018】
  以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明者らは、上記した従来技術における課題を解決することを目的とし、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水を同時に処理した場合に、これらのSSが迅速に凝集・凝結し、速やかに凝集物が沈降して、処理水を清澄なものにできる高分子凝集剤を見出すべく鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。本発明によって提供される高分子凝集剤は、後述する、特定の構造を有する原料モノマーを含んで誘導されるカチオン性或いは両性の共重合体を主成分としてなり、該共重合体の重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)とで規定されるN値、或いはN値及びL値が、下記の範囲内にあることを要する。
 
【0019】
  本発明の第1の発明は、共重合体の重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5〜60であることを特徴とする。すなわち、本発明者らの検討によれば、本発明の顕著な効果は、N=(Mw)×(CE)
2÷100万の値が5〜60の範囲内にある、特定の共重合体を主成分としてなる高分子凝集剤を用いた場合に得ることができる。
 
【0020】
  さらに、本発明者らの検討によれば、上記したN値の範囲内にある高分子凝集剤の中でも、本発明の第2の発明で規定する要件を満足する高分子凝集剤によれば、より効果的に、且つ、安定して本発明の顕著な効果が得られることを見出した。具体的には、本発明の第2の発明は、上記N値を満足することに加えて、共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを特徴とする。すなわち、本発明のより顕著な効果は、L=(Mw)÷(CE)÷100万の値が1.5以上である場合に得ることができる。上記したように、L値によって特定される高分子凝集剤の範囲は、N値によって特定される高分子凝集剤の範囲に含まれるものであるが、後述するように、L値をも満足する高分子凝集剤を利用することで、より安定して確実に本発明の効果の実現が可能になる。
 
【0021】
  本発明で利用する特定の原料モノマーから誘導される共重合体からなるカチオン性の高分子凝集剤は、先に挙げた特許文献3や特許文献4に記載されているように、有機汚泥の凝集を促進することができ、汚泥の脱水剤として顕著な効果が得られるものとして開発されており、汚泥の脱水剤として使用されている。さらに、特許第3352835号公報には、上記汚泥の脱水に用いられているカチオン性の高分子凝集剤の欠点を改良する目的で、本発明で利用する特定の原料モノマーに、イタコン酸を必須成分として混合した原料モノマーから誘導される共重合体からなる両性の高分子凝集剤が記載されている。しかし、この場合も汚泥の脱水剤としての利用であり、勿論、本発明が目的としている「粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水中からのSSを同時に処理」といった観点での検討は全くなされていない。
 
【0022】
  本発明者らは、製鉄工場の鋳造工程や熱間圧延工程から大量に排出される使用済みの、粗大SSと微細SSが共存して浮遊している状態の冷却水(冷却廃水)について、これらのSSを同時に凝集沈降処理できる凝集剤を見出すべく鋭意検討を行った。その結果、上記した汚泥の脱水剤として開発された高分子凝集剤の中に、驚くべきことに、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の廃水中に添加するだけで、より好ましくは、粗大SSと微細SSが併存(並存)し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の廃水の中に添加することで、添加量が少量であるにも関わらず、これらのSSが速やかに凝集し、強固に凝結するため、迅速に沈降し、しかも、その上澄みは、従来の方法で処理した処理水と比べた場合に、懸濁物質が目視では認められない程度に格段に清澄なものになることを見出した。さらに、当該高分子凝集剤を添加することで生じた、粗大SSと微細SSとが凝集し凝結して沈降した沈降・沈殿物は、従来の凝集処理によって得られている汚泥状態のものではなく、機械的な装置を用いて掴んで移動できる程度に強固に凝結したものであり、その後の処理が極めて容易になることがわかった。このことは、従来の処理では、凝集剤を添加した後、沈殿槽で凝集物を沈殿させることが必要であったが、本発明の高分子凝集剤を使用すれば、このような沈殿処理が不要となることを意味する。このため、本発明の高分子凝集剤を利用することで、予め粗大SSを除去処理するための従来の設備を使用して、当該設備で微細SSも同時に処理することができ、さらには、従来の設備で必須であった沈殿槽を不要にできる、という設備上の極めて大きな効果の実現が可能になる。
 
【0023】
  上記した従来技術では実現することができなかった種々の顕著な効果が達成できる本発明の高分子凝集剤は、下記一般式(1)、下記一般式(2)で表されるモノマーのいずれか一方又は両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなり、さらに、該共重合体が、その重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)とで規定される、N値、或いはN値及びL値が本発明で規定する特定の範囲内にあることを要する。
(上記式中の、R
1、R
2は、それぞれ独立にCH
3又はC
2H
5を表し、R
3は、H、CH
3又はC
2H
5のいずれかを表す。X
-は、アニオン性対イオンを表す。)
 
【0024】
  本発明を構成するカチオン性又は両性の共重合体は、上記式(1)及び/又は(2)で表されるモノマーを5モル%以上含む原料モノマーから誘導できるが、その際に、本発明で規定するN値、或いはN値及びL値の要件を満たすようにモノマー組成を設計することで得られる。具体的な合成方法としては、カチオン性の共重合体については、先に挙げた特許文献4に記載の合成方法が利用できる。また、両性の共重合体は、例えば、特許第3352835号公報に記載されているように、上記式(1)及び/又は(2)で表されるカチオン性モノマーに、その他のモノマーとしてイタコン酸やアクリル酸等のアニオン性モノマーを適宜混合して原料モノマーとすることで、同様の方法で得ることができる。
 
【0025】
  上記式(1)で示されるモノマーの代表的なものとしては、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩酸塩等が挙げられる。また、式(2)で示されるモノマーの代表例としては、アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリドが挙げられる。これらのモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
 
【0026】
  本発明者らは、本発明が目的とする、使用した場合に、凝集剤の使用量の増大を伴うことなく、粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって、迅速に且つ容易に取り除くことのできる凝集剤を開発する過程で、上記したような原料モノマーから得られる高分子凝集剤についての詳細な検討を行った。その際に、上記した式(1)及び/又は(2)で表されるモノマーを5モル%以上含む原料モノマー(以下、特定の原料モノマーとも呼ぶ)から誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の中に、本発明の目的を達成できる凝集剤があることを見出した。そして、本発明者らは、最初に、該共重合体の重量平均分子量が200万〜1300万であり、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.4meq/g以上である場合に、本発明が目的とする凝集性が得られるとの知見を得た。
 
【0027】
  先に述べたように、技術常識は、「粗大SSと微細SSが共存している状態の廃水から、同一の処理でこれらの懸濁物質を取り除くことは、できない」とするものであったことから、本発明者らは、上記知見の技術的価値は極めて大きいとの認識をもった。そこで、本発明者らは、より安定して高い凝集性を示す高分子凝集剤を見出して、さらに工業的価値を高めるべく、使用する高分子凝集剤についてのさらなる詳細な検討を行った。その結果、上記原料モノマーから誘導される共重合体の中でも、本発明の第1の発明で規定するN値を満足するものが有効であり、また、その中でも、本発明の第2の発明で規定するL値を満足するものが、より安定して、より確実な効果を得るために有効であることを見出して、本発明を達成した。
 
【0028】
  すなわち、本発明の第1の発明では、上記した特定の原料モノマーから誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の重量平均分子量(Mw)と、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5〜60であることを規定する。また、本発明の第2の発明では、上記N値を満足することに加えて、上記した特定の原料モノマーから誘導できるカチオン性又は両性の共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であることを規定する。上記の規定に使用するカチオンコロイド当量は、コロイド滴定法(ポリビニル硫酸カリウム溶液で滴定する方法)により高分子凝集剤中の有効成分1グラムあたりのカチオンコロイド当量を測定した値(meq/g)である。また、重量平均分子量は、ポリスチレン換算によるGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)法によって測定した値である。
 
【0029】
  本発明者らは、前記特定の原料モノマーから誘導されるカチオン性又は両性の共重合体を主成分としてなる高分子凝集剤について、本発明が目的としている「粗大SSと微細SSとが共存している状態の廃水から、これらの懸濁物質を同一の処理によって取り除くことを実現する」といった観点から、詳細な検討を行った。その結果、本発明者らは、まず、上記効果がより顕著に得られる高分子凝集剤として、その主成分である共重合体の特性において、下記の傾向があることを見出した。すなわち、(1)カチオンコロイド当量が小さい場合は、分子量が大きい共重合体の方が、上記した効果が大きい傾向にあり、(2)カチオンコロイド当量が大きい場合は、分子量が小さい共重合体の方が、上記した効果が大きい傾向があることがわかった。
 
【0030】
  本発明者らは、上記した知見に基づきさらなる検討を行った結果、共重合体のN値が5〜60である場合に、本発明の効果が安定して得られることを見出した。そして、さらに詳細に検討した結果、共重合体のL値が1.5以上である場合に、本発明の顕著な効果がより安定して得られることを見出した。具体的には、前記特定の原料モノマーから誘導した、重量平均分子量(Mw)と、pH7におけるカチオンコロイド当量(CE)とが種々に異なる共重合体を作製し、これらを用いて、粗大SSと微細SSが並存する廃水中に勢いよく添加することで、その効果の違いを観察した。前記したように、本発明の効果は、「粗大SSと微細SSが同一の処理によって迅速に凝集し、容易に取り除くことができるものとなり、しかも、その処理水が目視した場合に濁りのない清澄な性状のものとなる」という、目視することで確認できるものであるため、その検証は容易である。また、添加条件も、同一条件で高速撹拌することで達成できるため、この点でも検証は容易である。
 
【0031】
  図1は、検討に使用した前記特定の原料モノマーから誘導した、重量平均分子量と、pH7におけるカチオンコロイド当量で決定される、本発明の第1の発明で規定するN値が異なる種々の共重合体を、それぞれ高分子凝集剤として使用して廃水に添加した場合に得られた凝集・沈降効果の違いをA〜Dの4段階で評価して示したものである。A〜Dは、いずれも本発明の効果が認められるものであるが、相対的にA>B>C>Dの順で顕著な効果が認められた。Dは、全く凝集・沈降の効果が認められないわけではないが、実施化することを考えて不適と評価した。
 
【0032】
  本発明者らは、これらの結果から、本発明の顕著な効果が得られる高分子凝集剤の範囲についてさらなる検討を行った結果、本発明の第1の発明で規定する共重合体のN値が5〜60であるものが、より顕著な効果を実現できるものであるとの結論を得た。
図2中に、N値が5〜60である範囲を破線で示した。さらに、本発明者らの検討によれば、この範囲内のものの中でも、重量平均分子量が200万〜1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.7〜4.1meq/gである場合、重量平均分子量が400万〜1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.1〜3.5meq/gである場合により顕著な効果が得られる。N値でいえば、15〜55程度となる、重量平均分子量とコロイド当量の兼ね合いをもつ高分子凝集剤がより好適である。
 
【0033】
  上記のことから、使用する共重合体の重量平均分子量が小さ過ぎると、十分なSS除去効果が得難いことがわかった。一方、重量平均分子量が大き過ぎるとその粘度が上昇し、使用し難くなるので好ましくない。本発明で規定するカチオンコロイド当量は、高分子凝集剤中のカチオン密度、すなわち、カチオン性を示す官能基の量を示すものである。上記したように、本発明者らの検討によれば、本発明の目的に対しては、重量平均分子量との兼ね合いで最適なカチオンコロイド当量の範囲があり、本発明の第1の発明で規定する特性を満たす共重合体を高分子凝集剤として用いることで、本発明の顕著な効果が確実に得られることがわかった。上記した試験の詳細については後述する。
 
【0034】
  上記したように、先に述べた特有の原料モノマーから誘導される共重合体の中でも、本発明の第1の発明で規定するN値を満足するものが、本発明の目的を達成するための高分子凝集剤として有効であることがわかった。しかし、
図2に示されているように、N値を満足するものの中でも、凝集・沈殿効果に程度の差があることが認められ、また、処理対象の廃水における粗大SSと微細SSとの共存状態も種々であることから、本発明者らは、実用化に際し、より高い凝集・沈殿効果をより安定して得るためには、使用する高分子凝集剤について、さらに詳細な検討を行い、最適化を図ることが必要であるとの認識をもった。その結果、N値を満足するものの中でも、本発明の第2の発明で規定する、共重合体の重量平均分子量(Mw)を、そのpH7におけるカチオンコロイド当量(CE)で除した値を、さらに100万で除した値をLとした場合に、L値が1.5以上であるもの、より好ましくは、L値が2.0以上であるものが、より効果的な凝集剤となることを見出した。
 
【0035】
  図3は、検討に使用した前記特定の原料モノマーから誘導した、L値が異なる種々の共重合体を高分子凝集剤として、粗大SSと微細SSとが共存している廃水に添加した場合に得られた、処理水中のSS濃度を示したものである。
図3に示した結果は、同時に、廃水中の粗粒濃度の違いによって生じる、凝集・沈降効果の違いも示しているが、明らかに、L値が1.5以上となる共重合体を、高分子凝集剤に使用することで、処理水のSSは20mg/L以下となり、先の凝集・沈降効果の相対的な評価基準の「A」となることが確認された。
図3の結果から、より好ましいL値としては2以上、後述の表4の結果から6.7程度までであり、このような高分子凝集剤を使用すれば、処理水は、極めて清澄なものとなることがわかった。
 
【0036】
  本発明者らの検討によれば、上記したような共重合体を主成分とする本発明の高分子凝集剤を、例えば、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される、鉄粉等の金属や圧延油等の油分が懸濁した、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の使用済み冷却水(廃水)に、該廃水に対して0.5mg/L以上、例えば、1〜4mg/L程度と微少量添加することで、廃水中の懸濁物質が速やかに凝集沈降して、その上澄みは、目視において濁りの見られない極めて清澄(透明)なものになる。詳細については後述するが、本発明の高分子凝集剤は、従来技術のように、予め廃水中から粗大SSを除去した後に行う処理に使用した場合には、上記したような顕著な効果は得られず、微細SSが凝集沈降する傾向はみられるものの、その上澄みは、目視において濁りがあり、明らかに十分なものではなかった。このことは、本発明の高分子凝集剤によってもたらされる従来にない顕著な、凝集・凝結・沈降効果は、微細な懸濁物質と共に、粒径が50μm以上の粗大な懸濁物質が共存している場合に初めて発揮されるものであり、粗大SSと微細SSとが共存して浮遊している状態の廃水を一緒に処理することが重要であることを示している。
 
【0037】
  このことは、
図3の結果にも明確に示されている。
図3に示されているように、本発明の高分子凝集剤は、廃水中における微細SSと共存する粗大SSの存在量が500〜1000mg/L程度と少ない場合でも、本発明の凝集・凝結・沈降効果が認められたが、この場合に、より十分な効果を得るためには高分子凝集剤の添加量を増やす必要があった。これに対し、本発明の高分子凝集剤を用い、より少ない添加量で、より高い凝集・沈降効果を安定して得るためには、粗大SSの存在量が、1000mg/L超、3000〜5000mg/L程度、共存している廃水であることが好ましいことがわかった。したがって、粗大SSの存在量が少ない廃水を処理する場合には、粗大SSを多く含む廃水と混合して処理することや、場合によっては、砂などの粗粒を廃水に添加した状態で処理することも有効である。本発明者らの検討によれば、本発明の高分子凝集剤によって得られる、「粗大SSと微細SSが共存している水中から、同一の処理でこれらのSSを取り除く」効果は、処理する水中の粗大SSの存在量が、250〜80000mg/L程度でも得られるが、より好ましくは2000〜20000mg/L程度である場合に、SSがより速やかに凝集沈降し、その上澄みは極めて清澄(透明)なものになり、凝集・沈降した沈殿物は、水離れのよい脱水性に優れた良好なものとなる。また、本発明者らの検討によれば、処理対象の廃水等における粗大SSと微細SSとの存在量として、微細SS濃度に対する粗大SS濃度の比(粗/微)が、その質量比で2.0以上である場合に、少ない凝集剤の量で、より安定して顕著な効果を得ることができる。
 
【0038】
  さらに、本発明者らの検討によれば、本発明の高分子凝集剤は、例えば、製鉄工場の熱間圧延工程から大量に排出される廃水中の粗大SSを沈降分離除去するための「スケールピット」と呼ばれる水槽に添加してもよく、それなりの効果が得られるが、より好ましくは、例えば、上記熱間圧延工程で使用した使用済み冷却水(廃水)が、上記の「スケールピット」に至るまでの廃水が激しく流動している溝や液路に添加すると、より高い効果が確実に得られることがわかった。また、特に、「スケールピット」に対してより上流側に添加することが好ましいことを確認した。これらのことは、本発明の高分子凝集剤は、廃水が激しく流動している場所に添加し、高分子凝集剤と、粗大SS、微細SSを激しい混合状態で反応させる場合の方が、その凝集・凝結・沈降効果がより顕著に発揮されることを示している。このため、廃水が激しく流動している溝や液路がない場合には、廃水を急速撹拌させた状態で高分子凝集剤を添加するように構成することが、本発明の高分子凝集剤の、より高い凝集・凝結・沈降効果を得るための方法として極めて有効になる。より具体的には、本発明者らの検討によれば、粗大SSと微細SSとが並存し、且つ、流速が0.5m/秒以上で、乱流状態の水の中に、上記した高分子凝集剤が共存する状態を生じさせることで、より顕著な効果が得られることを確認した。
 
【0039】
  本発明者らは、これらの理由について、本発明の高分子凝集剤は、粗大SSに対して特に高い凝集効果、さらに強い凝結効果を示し、この速やかに生じる粗大SSの凝集・凝結の際に、共存している微細SSが、本発明の高分子凝集剤によって形成された粗大な凝集物内に取り込まれる結果、本発明の優れた凝集沈降効果が得られたものと考えている。特に、廃水が溝や液路内を流動している場合は、微細SSが廃水内を活発に動いているので、粗大な凝集物内により取り込まれやすくなったものと推論している。このため、本発明の高分子凝集剤を添加することで得られる凝集した沈降・沈殿物は、従来の、凝集剤を添加して沈殿槽内に沈降させることで得られた汚泥とは全く異なり、粗大なものになり、掴み取ることができる、水離れのよい状態のものになる。この結果、本発明の高分子凝集剤によって処理した場合に得られる凝集した沈降・沈殿物は、その後の処理が極めて容易なものになり、従来、その二次処理にかかっていたコストが大幅に低減される。
 
【実施例】
【0040】
  以下に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
[凝集試験例−1(粗大SSが共存することによる効果の確認)]
<廃水>
  製鉄工場の熱間圧延工程から排出される冷却廃水をサンプリングして、廃水中に含まれる粗大SSの粒子径の範囲がそれぞれに異なる3種類の廃水を用意した。具体的には、粗大SSの最大粒子径の範囲が、それぞれ、50μmに満たないもの、50μm以上あり且つ200μmに満たないもの、200μm以上あり且つ1,000μmに満たないものを用意した。また、比較のために用意した粗大SSの最大粒子径の範囲が50μmに満たないものは、予め、廃水を沈降分離処理して粗大SSを除去することで、懸濁物質として最大粒子径が50μmに満たない微細SSのみを含む廃水とした。なお、粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないもの、200μm以上あり且つ1,000μmに満たないものには、当然のことながら、粒径が50μmに満たない微細SSを含んでいる。
【0041】
<高分子凝集剤>
  最初に、廃水中に微細SSと共存(並存)する粗大SSの粒径による効果の違いと、試験に使用する本発明で規定する高分子凝集剤の添加量による効果の違いを、下記の凝集剤Aを用いて検証した。すなわち、凝集剤Aとして、一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、それぞれ20モル%ずつ含む原料モノマーから誘導した、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム・クロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム・クロリド共重合体(モル比=60/20/20)を主成分とするカチオン性のものを用いた。その重量平均分子量は300万であり、pH7におけるカチオンコロイド当量が2.0meq/gである。よって、この共重合体のN値は12(L値=1.5)である。
【0042】
<凝集試験方法>
  先に用意した懸濁物質の粒子径が異なる3種類の廃水に、上記した凝集剤Aの添加量を、2mg/Lと4mg/Lに変えてそれぞれ凝集試験を行った。具体的には、廃水を入れた容器内に高分子凝集剤を添加し、一定時間高速撹拌し、その後に静置して凝集沈降処理を行い、その上澄み水を処理水として、上澄み水(処理水)のSS濃度を測定し、評価した。また、比較のために、各廃水に高分子凝集剤を添加しない以外は同様にして、上澄み水(処理水)のSS濃度を測定した。そして、得られた結果を表1に示した。
【0043】
<試験結果>
  表1に示したように、各廃水に凝集剤を添加しない場合に比べて、本発明の高分子凝集剤(凝集剤A)を添加すると、いずれの場合も処理水SS濃度が低減でき、凝集剤としての効果を示すことを確認した。さらに、表1の結果から、特に、懸濁物質として粒子径が50μm以上の粗大なものが含まれている廃水に、凝集剤Aを添加して凝集試験をした場合に、処理水SS濃度の低減効果が著しく、この場合は、目標とする処理水SS<10mg/Lを容易に達成できることを確認した。さらに、この場合に得られる処理水は、目視では濁りの認められない清澄なものであった。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0044】
【0045】
[凝集試験例−2(実施例1〜4、比較例1〜4)]
<凝集試験方法>
  先の試験に用いた粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないものである廃水を使用し、高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、本発明で規定するN値が種々に異なるようにモノマー組成を設計して誘導した各高分子凝集剤を用いて、実施例1〜4、比較例1、2の凝集試験を行った。具体的には、本発明で規定する一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーを必須成分として、これらのモル%を適宜に変えた原料モノマーから誘導した、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム・クロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム・クロリド共重合体を主成分とする各高分子凝集剤を用いて試験を行った。表2に示した両性の高分子凝集剤は、本発明で規定する一般式(1)及び(2)で表される2種類のモノマーに、さらに、イタコン酸を適宜に混合した原料モノマーを用いて合成したものを用いた。さらに、比較のために、ノニオン系とアニオン系のポリアクリルアミド系高分子凝集剤を用いて同様の試験を行った比較例3、4の結果を併せて示した。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0046】
<試験結果>
  表2に、実施例及び比較例で使用した高分子凝集剤の性状と、上澄み水を処理水として、この上澄み水(処理水)のSS濃度を測定して除去性を評価し、これらをまとめて示した。なお、表2中のN値は、N=重量平均分子量(Mw)×(カチオンコロイド当量(CE))
2÷100万であり、L値は、L=重量平均分子量(Mw)÷カチオンコロイド当量(CE)÷100万である。
【0047】
【0048】
  表2に示したように、本発明で規定する性状の高分子凝集剤を用いた実施例では、本発明が最終的な目標としている処理水SS<10mg/Lを容易に達成できることを確認した。そして、得られた処理水は、目視では濁りを認めることができない清澄なものであった。従来のアクリルアミド系の凝集剤を使用した場合の比較例3、4の処理水の濁りは著しく、さらなる処理が必要であった。これに対して、一般式(1)、(2)で表されるモノマーを必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導されるカチオン性の共重合体であるものの、本発明で規定するN値を満たさない比較例1、2の高分子凝集剤は、従来のアクリルアミド系の凝集剤に比べて凝集効果が認められたものの、得られる処理水は目視で明らかな濁りが認められた。
【0049】
  また、従来のアクリルアミド系の凝集剤を使用して凝集処理した場合と、本発明で規定する要件を満たす高分子凝集剤を用いて凝集処理した場合とでは、凝集した沈降・沈殿物の性状が明らかに異なっていた。具体的には、従来のアクリルアミド系の凝集剤を使用して凝集処理した場合のものは、ふわふわとした汚泥状であり、濾過するのが難しいものであった。これに対し、本発明の高分子凝集剤を用いて処理した場合に得られる凝集沈降した沈殿物は、強固に凝結しており、水離れもよく、摘まんで移動することができるものであった。さらに、本発明の高分子凝集剤を用いて処理した場合は、その凝集沈降も極めて速やかに生じることを確認した。
【0050】
[凝集試験例−3(N値と凝集・沈降性効果のとの関係)]
<凝集試験方法>
  上記した結果を踏まえて、さらに、本発明で規定するN値が種々に異なるようにモノマー組成を設計して誘導した高分子凝集剤の種類を増やして、凝集試験例−2で行ったと同様の試験を行い、凝集・沈降性の違いを確認した。具体的には、先の試験に用いた粗大SSの最大粒子径の範囲が、50μm以上あり且つ200μmに満たないものである廃水を使用し、高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、本発明で規定するN値が種々に異なる各高分子凝集剤を用いて試験を行い、凝集試験例−2で行ったと同様に評価した。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0051】
<試験結果>
  その結果を
図1、2に示したが、使用した高分子凝集剤の重量平均分子量とコロイド当量に対し、これを使用して処理した場合の凝集・沈降効果の違いをA〜Dの4段階で評価した。A〜Dは、いずれも凝集・沈降効果が認められるものであるが、相対的に評価した場合、A>B>C>Dの順で顕著な効果が認められた。Dは、全く凝集・沈降の効果が認められないわけではないが、実施化することを考えて不適と評価した。その結果、
図2中の破線で示した、本発明で規定する「共重合体の重量平均分子量とpH7におけるカチオンコロイド当量の2乗を乗じた値を、さらに100万で除した値をNとした場合に、N値が5〜60である」とする要件を具備した共重合体を凝集剤として使用することで、良好な凝集・沈降効果を実現できることが確認された。さらに、
図2から、中でも、重量平均分子量が200万〜1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が0.7〜4.1meq/gである範囲、さらに、重量平均分子量が400万〜1300万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.1〜3.5meq/gである場合に、本発明で目的とする効果がより顕著であることがわかった。なお、
図1、2中には、凝集試験例−2で行った結果も含まれている。
【0052】
[凝集試験例−4(実施例5〜8、比較例5〜7)(従来の凝集剤を用いた場合との比較)]
  懸濁物質として、粒子径が50μm以上あり且つ200μmには満たない粗大SSと、微細SSとを含む廃水を用意し、表3に示した従来の凝集剤と本発明の高分子凝集剤とをそれぞれに用い、凝集試験例−1と同様にして凝集処理を行った。その際、比較例5ではPAC(ポリ塩化アルミニム)を用い、比較例6では、PACと、アニオン系高分子凝集剤を組み合わせて使用した。また、比較例7では、このアニオン系高分子凝集剤のみを使用した。実施例5〜8では、凝集試験例−1で使用した高分子凝集剤(凝集剤A)を使用し、その添加量を0.5〜4.0mg/Lで変化させて、凝集試験例−1で行ったと同様にして凝集試験した。そして、上澄み水を処理水として、上澄み水(処理水)のSS濃度を測定して除去性を評価した。測定結果を、表3にまとめて示した。なお、この試験では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度である廃水を使用した。
【0053】
【0054】
  表3に示したように、従来の、廃水中の懸濁物質の凝集処理に用いられている比較例の凝集剤をそれぞれに用いた処理により得られた処理水SS濃度に比べて、本発明の実施例の高分子凝集剤を用いた処理により得られた処理水SS濃度は、明らかに低い値となった。また、その際に得られた実施例の処理水は、目視では濁りを認めることができない清澄なものであった。さらに、添加量を変化させた実施例5〜8の結果から、凝集剤の添加量は、廃水中に0.5〜4.0mg/L程度で足り、経済性を考慮し、より安定した十分な処理を行うためには、例えば、1.0〜2.0mg/Lとすればよいことを確認した。このことから、本発明の高分子凝集剤を用いれば、廃水への添加量が少量であり、しかも無機凝集剤を併用するといった方法を採用することなく、従来の凝集剤の単独使用や一回の凝集処理によっては到底得ることができなかった優れた凝集・凝結・沈降の効果が得られることが確認された。
【0055】
[凝集試験例−5(L値と、廃水中における粗大SSの存在量と、効果の比較)]
  上記の試験例1−4では、いずれも粗大SSの存在量が3000mg/L程度で一定の廃水を使用して行ったが、粗大SSの存在量が低い或いは高い廃水も存在することから、この点についての検討を行った。また、同時に、凝集剤の添加量をより少なくすることについての検討も行った。具体的には、懸濁物質として、粒子径が50μm以上あり且つ200μmには満たない粗大SSと、微細SSとを含む廃水を用意したが、その際、粗大SSの存在量が、500mg/L、1000mg/L、5000mg/Lと、異なる3種類の廃水を用意した。なお、処理前の廃水の微細SS濃度は、105mg/L程度で一定にした。また、凝集剤として、前記した一般式(1)、一般式(2)で表されるモノマーの両方を必須成分として5モル%以上を含む原料モノマーから誘導した、重量平均分子量が約400万〜800万で、且つ、pH7におけるカチオンコロイド当量が1.5〜4.8meq/gである、L値が、0.9、1.1、1.6、1.9、2.6、3.5及び5.3、とそれぞれ異なる7種類のカチオン性の共重合体を主成分とするものを用いた。
【0056】
  そして、まず、各凝集剤の添加量を1.0mg/Lと少なくして、粗大SSの存在量が異なる上記3種類の廃水について凝集処理を行った。その結果、粗大SSの存在量によらず、
図3に示したように、L値が1.3以上、好ましくは、1.8以上である場合に、高い凝集・凝結・沈降の効果が認められた。また、
図3に示した結果から、微細SSと並存する粗大SSの存在量が、500〜1000mg/Lと少ないよりも、5000mg/L程度と、その存在量を多い廃水の方が、高い凝集・凝結・沈降の効果が得られることがわかった。微細SSに並存する粗大SSの存在量が少ない場合は、凝集剤の添加量を増やすことで、効果の向上が図れることも確認した。
【0057】
[凝集試験例−6(実施例9〜15、比較例8〜10)(原料モノマー、イオン性、N値、L値等についての検討)]
  
図3に示した結果から、粒子径が50μm以上あり且つ200μmには満たない粗大SSの廃水中における存在量を5000mg/Lとし、一方、粒径が50μmに満たない微細SSの濃度が50mg/Lの廃水を使用し、それぞれの高分子凝集剤の添加量を2mg/Lと処理条件を一定にして、さらなる試験を行った。その結果を表4にまとめて示した。
【0058】
【0059】
  表4に示したように、使用した高分子凝集剤のN値が5〜60の範囲において、いずれの高分子凝集剤も良好な凝集・凝結・沈降の効果が認められた。さらに、使用した高分子凝集剤のL値について検討した結果、N値が5〜60の範囲内であっても、L値が1.5よりも小さい場合は、凝集・沈降効果に劣ることを確認した。L値が1.5以上、好ましくは2.5以上で良好な凝集・凝結・沈降の効果を示す理由は不明ではあるが、重量平均分子量をカチオンコロイド当量で除した値は、高分子凝集剤において重合度を示すと考えられ、重合度の大きな高分子凝集剤ほど、排水中の粗大粒子と微細な懸濁粒子の凝集において効果的であると推察される。