【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業 革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、特許文献1から3に開示された二次電池等について詳細に検討した。その結果、特許文献1に開示されたハイブリッドキャパシタでは、充電に際して電解液中のBr
-などを消費するため、そのエネルギー密度をさらに高めることは困難であることが分かった。
【0016】
また、活物質として用いる臭素イオン(Br
-)を塩素イオン(Cl
-)に置換すれば、塩素の原子量は臭素より小さいため、電気化学エネルギー蓄積デバイスのエネルギー密度を高めることができると考えられる。塩素イオン(Cl
-)と塩素(Cl
2)との間の平衡電位を計算すると式(2)のようになり、Cl
-の酸化とCl
2の還元とを利用することで、式(1)よりも高い電位を得ることができ、デバイスのエネルギー密度が高くなる。
4.0V: Cl
2+2Li⇔2LiCl・・・(2)
【0017】
しかし、この反応を利用する場合、常温で塩化リチウム(LiCl)を溶解し、塩素イオン(Cl
-)伝導性のある非水電解液を調製する必要がある。特許文献2に開示されたキャパシタは、無機溶融塩を電解質として用いているが、溶融塩中の塩素イオン(Cl
-)が充電によって酸化されて正極で塩素(Cl
2)になり、還元でCl
-に戻る反応が起きているという記載はない。また、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム・クロライド(EMI・Clと略記)のようなイオン液体を用いることも開示されているが、塩化リチウム(LiCl)がEMI・Clに溶解するかどうかについての記載もない。
【0018】
さらに、特許文献3に開示された二次電池では、Cl
2が電解液に溶解し負極に到達すると、Cl
2は負極に含まれるリチウム(Li)と反応するため、難溶性の塩化リチウム(LiCl)が生成すると考えられる。LiClを溶解できる電解液を使用しなければ、負極はLiClに覆われてしまい、充電反応が阻害される結果、充放電反応が進まなくなると考えられる。また、特許文献3では、リチウムイオン(Li
+)伝導性の電解液が使用されているため、難溶性の塩化リチウム(LiCl)を溶解できず、実際には提案どおりの充放電はできないと考えられる。
【0019】
本願発明者はこのような課題に鑑み、非水電解液の組成を見直すことによって、正極において塩素イオン(Cl
-)の酸化と塩素(Cl
2)の還元に相当する反応を可能にし、負極において難溶性の塩化リチウム(LiCl)などが蓄積しにくい、新規な電気化学エネルギー蓄積デバイスの構成を想到した。
【0020】
本願の一実施形態による電気化学エネルギー蓄積デバイスは、正極活物質を含む正極と、負極と、前記正極および前記負極に接する非水電解液とを備え、前記正極活物質は、放電状態において、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、および、4級のアルキルアンモニウム塩化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、前記非水電解液は、アルコキシアルキル基を有するカチオンを成分とするイオン液体を溶媒として含む。
【0021】
前記正極は、充電状態で、前記アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物および4級のアルキルアンモニウム塩化物のいずれかから生成した塩素(Cl
2)を吸着していてもよい。
【0022】
前記アルカリ金属塩化物は塩化リチウム(LiCl)であってもよい。
【0023】
前記アルカリ土類金属塩化物は塩化マグネシウム(MgCl
2)であってもよい。
【0024】
前記4級のアルキルアンモニウム塩化物は塩化テトラブチルアンモニウム((C
4H
9)
4NCl)であってもよい。
【0025】
前記イオン液体のカチオンはジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+)であってもよい。
【0026】
前記イオン液体のアニオンはテトラフルオロホウ酸イオン(BF
4-)であってもよい。
【0027】
前記イオン液体のアニオンは、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF
3SO
2)
2N
-)であってもよい。
【0028】
前記正極は炭素材料を含み、前記充電状態において、前記塩素は前記炭素材料に吸着されていてもよい。
【0029】
前記炭素材料はアセチレンブラックであってもよい。
【0030】
前記炭素材料は活性炭であってもよい。
【0031】
以下、本発明による電気化学エネルギー蓄積デバイスの実施形態を詳細に説明する。電気化学エネルギー蓄積デバイスは二次電池、キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ等、充電および放電によって繰り返し、電荷を蓄積することが可能なデバイスおよび一次電池を含む総称である。
【0032】
本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスは、正極活物質を含む正極と、負極と、正極および負極の間に位置し、これらに接する非水電解液とを備える。正極活物質は、放電状態において、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物および4級のアルキルアンモニウム塩化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。また、非水電解液は、アルコキシアルキル基を有するカチオンを成分とするイオン液体を溶媒として含む。
【0033】
放電状態において、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物および4級のアルキルアンモニウム塩化物である正極活物質は、充電によって、その塩素イオン(Cl
-)が酸化されて塩素(Cl
2)を生成する。また、放電によって、Cl
2は還元されてCl
-に戻る。非水電解液の溶媒はアルコキシアルキル基を有するカチオンを成分とするイオン液体によって構成されている。このイオン液体は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物および4級のアルキルアンモニウム塩化物をよく溶解する。このため、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスは、充放電の可逆性に優れ、スムーズに充放電を繰り返すことができる。以下、本実施形態の各構成要素を詳細に説明する。
【0034】
1.電気化学エネルギー蓄積デバイスの各構成要素
(1) 非水電解液
本実施形態の非水電解液は、溶媒としてアルコキシアルキル基を有するカチオンを成分とするイオン液体を含む。非水電解液は、電解質塩としてイオン液体に溶解しているハロゲン化アルカリ金属およびハロゲン化アルカリ土類金属の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0035】
ここで、イオン液体とは、カチオンおよびアニオンからなり、融点が概ね100℃以下の塩である。AlCl
4-やAl
2Cl
7-のようなアニオンを使用するクロロアルミネート系溶融塩は含まない。イオン液体は、イオン性液体または溶融塩とも呼ばれる。
【0036】
アルコキシアルキル基を有するカチオンとしては、4級のアンモニウムイオンがあげられる。より具体的には、アルコキシアルキル基を有するカチオンとして、ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+、DEMEと略記)、ジエチルメチル−2−メトキシプロピルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2CH
2)N
+)、エチルジメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)(CH
3)
2(CH
3OCH
2CH
2)N
+、MOEDEAと略記)、エチルジメチル−(2−メトキシプロピル)アンモニウムイオン((C
2H
5)(CH
3)
2(CH
3OCH
2CH
2CH
2)N
+)などがあげられる。また、環状の4級アンモニウムイオンでもよい。5員環を有する4級アンモニウムイオンとしては、メチル−2−メトキシエチルピロリジニウムイオン((CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+(CH
2)
4)、メチル−2−メトキシプロピルピロリジニウムイオン((CH
3)(CH
3OCH
2CH
2CH
2)N
+(CH
2)
4)、エチル−(2−メトキシエチル)ピロリジニウムイオン((C
2H
5)(CH
3OCH
2CH
2)N
+(CH
2)
4)、エチル−(2−メトキシプロピル)ピロリジニウム((C
2H
5)(CH
3OCH
2CH
2CH
2)N
+(CH
2)
4)などがあげられる。これらの5員環アンモニウムイオンに代わって、6員環のピペリジニウムイオンであってもよい。イオン液体はこれらのカチオンのうち少なくとも1種を含んでいる。
【0037】
アルカリ金属塩化物およびアルカリ土類金属塩化物をよりよく溶解させることができるという観点から、これらの4級アンモニウムイオンのうち、ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+、DEMEと略記)、メチル−2−メトキシエチルピロリジニウムイオン((CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+(CH
2)
4)、メチル−2−メトキシエチルピペリジニウムイオン((CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+(CH
2)
5)が好ましい。
【0038】
アルコキシアルキル基を有するカチオンとしては、上記の4級アンモニウムイオンのN原子をP原子に置き換えたホスホニウムイオンであってもよい。
【0039】
本実施形態で用いるイオン液体のアニオンは、たとえば、フルオロ錯体イオンである。フルオロ錯体イオンとして、ホウ素を核とする場合、BF
4-、BF
x(CF
3)
y-(x+y=4、ただし、xは4にならない)、BF
x(C
2F
5)
y-(x+y=4、ただし、xは4にならない)、BF
x(C
3F
7)
y-(x+y=4、ただし、xは4にならない)、BF
x(C
4F
9)
y-(x+y=4、ただし、xは4にならない)などがあげられる。また、これらのフルオロ錯体イオンにおいて、2つ以上のF、または、2つ以上のパーフルオロアルキル基、または、ひとつのFとひとつのパーフルオロアルキル基との組み合わせのひとつ以上が、ひとつ以上のシュウ酸イオン残基(O−C(=O)−C(=O)−O)に置き換わっていてもよい。ホウ素を核とするフルオロ錯体イオンの中では、式量が小さく電解液重量を軽減できるため、BF
4-がもっとも好ましい。
【0040】
イオン液体のアニオンとして、リンを核とするフルオロ錯体イオンを用いてもよい。PF
6-、PF
x(CF
3)
y-(x+y=6、ただし、xは6にならない)、PF
x(C
2F
5)
y-(x+y=6、ただし、xは6にならない;x=3のときFAPと略記)、PF
x(C
3F
7)
y-(x+y=6、ただし、xは6にならない)、PF
x(C
4F
9)
y-(x+y=6、ただし、xは6にならない)などがあげられる。また、これらのフルオロ錯体イオンにおいて、2つ以上のF、または、2つ以上のパーフルオロアルキル基、または、ひとつのFとひとつのパーフルオロアルキル基との組み合わせのひとつ以上が、ひとつ以上のシュウ酸イオン残基(O−C(=O)−C(=O)−O)に置き換わっていてもよい。リンを核とするフルオロ錯体イオン中では、PF
3(C
2F
5)
3-がもっとも好ましい。
【0041】
フルオロ錯体イオンの核種としては、上記のホウ素やリンのほかに、ヒ素やアンチモンなどであってもよい。
【0042】
また、イオン液体のアニオンは、イミドイオンであってもよい。鎖状のイミドイオンとしては、(FSO
2)
2N
-、(FSO
2)(CF
3SO
2)N
-、(CF
3SO
2)
2N
-(TFSI
-と略記)、(C
2F
5SO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)N
-、(CF
3SO
2)(CF
3CO)N
-などがあげられる。また、環状のイミドイオンとしては、(CF
2SO
2)
2N
-(5員環を形成)やCF
2(CF
2SO
2)
2N
-(6員環を形成)などがあげられる。イミドイオンの中では、(CF
3SO
2)
2N
-(TFSI
-と略記)がもっとも好ましい。
【0043】
また、(CF
3SO
2)
3C
-のようなメチドイオンであってもよい。
【0044】
アルキルホスフェートイオンも、イオン液体のアニオンとして使用できる。たとえば、(CH
3O)
2PO
2-、(C
2H
5O)
2PO
2-、(CH
3O)(C
2H
5O)PO
2-などがあげられる。ここで、アルキル基の一部のH、あるいは、すべてのHがFに置換されていてもよい。
【0045】
そのほかのアニオンとして、無機イオンでは、CN
-,NO
3-、ClO
4-、SO
32-、SO
42-、S
2O
32-、SCN
-、CO
32-、PO
43-などがあげられ、有機イオンでは、CH
3CO
2-、C
2H
5CO
2-、C
6H
5CO
2-(安息香酸イオン)、
-OOC−COO
-(シュウ酸イオン)、C
6H
4(CO
2)
2-(フタル酸イオン:オルト、メタ、および、パラ体)などがあげられる。有機イオンの一部のH、あるいは、すべてのHがFに置換されていてもよい。また、CF
3SO
3-、C
2F
5SO
3-、C
3F
7SO
3-、C
4F
9SO
3-などのスルホン酸イオンであってもよい。
【0046】
上記にあげたカチオンとアニオンとの組み合わせによっては、室温で固体となるものがある。このような場合、非水電解液は有機溶媒をさらに含んでいてもよい。しかし、有機溶媒が多くなると、正極で生成する塩素(Cl
2)が電解液へ溶解しやすくなる。このため、非水電解液が有機溶媒を含む場合、有機溶媒の含有量は、概ね、イオン液体に対して等モル以下である。
【0047】
有機溶媒としては、以下のものがあげられる。
【0048】
環状カーボネートしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などがあげられる。
【0049】
環状エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、α−メチル−γ−ブチロラクトン(MGBL)、γ−バレロラクトン(GVL)、フラノン(FL)、3−メチル−2(5H)−フラノン(MFL)、α−アンゲリカラクトン(AGL)などがあげられる。
【0050】
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPuC)、メチルブチルカーボネート(MBC)、メチルペンチルカーボネート(MPeC)などがあげられる。
【0051】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(MTHF)、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン(dMTHF)、1,3−ジオキソラン(DIOX)、2−メチル−1,3−ジオキソラン(MDIOX)、テトラヒドロピラン(THP)、2−メチル−テトラヒドロピラン(MTHP)などがあげられる。
【0052】
鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル(DEEt)、メチルブチルエーテル(MBE)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1−メトキシ−2−エトキシエタン(EME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)などがあげられる。また、ジグライム(diglyme)、トリグライム(triglyme)、テトラグライム(tetraglyme)であってもよく、両末端が非プロトン性のポリエチレングリコールも好ましい。
【0053】
ニトリル類では、アセトニトリル(AN)、プロピオニトリル(PN)、アジポニトリル(AGN)などがあげられる。
【0054】
窒素や硫黄元素を含む有機溶媒では、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシドなど(DMSO)があげられる。
【0055】
上記溶媒の中でも、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテルを用いることが好ましい。
【0056】
これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0057】
イオン液体に溶解させる電解質塩は、上記イオン液体で述べたアニオンとアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンからなる塩であってもよい。好ましくは、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物である。特に、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンが電荷移動イオンとしても働くため、塩化リチウム(LiCl)や塩化マグネシウム(MgCl
2)が好ましい。LiClやMgCl
2は単独で用いてもよく、また、混合して用いてもよい。LiClとMgCl
2を混合して用いることにより、イオン液体への溶解度が増加するという傾向がある。
【0058】
放電状態の正極活物質がアルカリ金属塩化物である場合、非水電解液は、アルカリ金属イオン伝導性であることが好ましい。これは、アルカリ金属イオンを成分とする溶質を非水溶媒に溶解することによって実現し得る。
【0059】
リチウムイオン(Li
+)を成分とする溶質は、たとえば、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム(CF
3SO
3Li)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム((CF
3SO
2)
2NLi)、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸リチウム(LiP(C
2F
5)
3F
3)、ビス(オキサレート)ホウ酸リチウム((O−C(=O)−C(=O)−O)
2BLi)など、リチウムイオン電池で使用されている電解質塩である。
【0060】
ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、セシウムイオン(Cs
+)、ルビジウムイオン(Rb
+)を成分とする溶質も、溶解度は低くなるものの、Li
+を成分とする溶質と同じように、そのアニオンを使用できる。
【0061】
放電状態の正極活物質がアルカリ土類金属塩化物である場合、非水電解液はアルカリ土類金属イオン伝導性であることが好ましい。Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+を成分とする溶質のアニオンは、Li
+を成分とする溶質と同じように、そのアニオンを使用することができる。
【0062】
放電状態の正極活物質が4級のアルキルアンモニウム塩化物である場合、非水電解液はアンモニウムイオン伝導性であることが好ましい。4級のアルキルアンモニウムイオンは、たとえば、テトラメチルアンモニウムイオン((CH
3)
4N
+)、テトラエチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
4N
+)、テトラプロピルアンモニウムイオン((C
3H
7)
4N
+)、テトラブチルアンモニウムイオン((C
4H
9)
4N
+)、テトラオクチルアンモニウムイオン((C
8H
17)
4N
+)、トリエチルメチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
3(CH
3)N
+)、トリブチルメチルアンモニウムイオン((C
4H
9)
3(CH
3)N
+)、トリオクチルメチルアンモニウムイオン((C
8H
17)
3(CH
3)N
+)、トリメチルプロピルアンモニウムイオン((CH
3)
3(C
3H
7)N
+)、ジエチルジメチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)
2N
+)、ジエチルメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+)、エチルジメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)(CH
3)
2(CH
3OCH
2CH
2)N
+)、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムイオン((C
4H
8)
2N
+)、ブチルメチルピロリジニウムイオン((C
4H
9)(CH
3)(C
4H
8)N
+)、プロピルメチルピペリジニウムイオン((C
3H
7)(CH
3)(C
5H
10)N
+)が挙げられる。これらのイオンとともに溶質をつくるアニオンには、Li
+を成分とする溶質と同じように、そのアニオンを使用することができる。放電状態の正極活物質を構成する4級のアルキルアンモニウムイオンと、非水電解液中の4級のアルキルアンモニウムイオンは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
イオン液体のカチオンがジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+、DEMEと略記)であり、アニオンがテトラフルオロホウ酸イオン(BF
4-)である場合、有機溶媒に溶解が困難であったLiClやMgCl
2の溶解度が著しく増大する。たとえば、MgCl
2のテトラヒドロフラン(THFと略記)に対する溶解度は、モル比で、高々、MgCl
2/THF=1/20である。これに対して、MgCl
2のDEME・BF
4に対する溶解度は、モル比で少なくとも、MgCl
2/DEME・BF
4=5/20である。
【0064】
(2) 正極
正極は正極活物質を含む。放電状態の正極活物質はアルカリ金属塩化物であり、たとえば、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)である。また、アルカリ土類金属塩化物であってもよく、たとえば、塩化マグネシウム(MgCl
2)、塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化ストロンチウム(SrCl
2)、塩化バリウム(BaCl
2)であってもよい。これらのうち、LiClやMgCl
2は、式量がもっとも小さく電気化学エネルギー蓄積デバイスのエネルギー密度が大きくなるという点から好ましい物質である。さらに、4級のアルキルアンモニウムイオンと塩素イオン(Cl
-)からなる塩化物であってもよい。
【0065】
正極は、充電状態でアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物および4級のアルキルアンモニウム塩化物のいずれかから生成した塩素を吸着するために、さらに炭素材料を含む。
【0066】
たとえば炭素材料として、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、10〜100nmの粒子が鎖状やぶどうの房状に集まった炭素材料であり、導電性に優れるためCl
2の生成反応を容易にし、また、高比表面積を有するため生成したCl
2を安定に捉える。カーボンブラックは、石油や天然ガスの不完全燃焼によって製造されるファーネスブラック(ケッチェンブラック)やチャネルブラック、アセチレンや天然ガスの熱分解によって製造されるアセチレンブラックやサーマルブラックなどに分類される。カーボンブラックは、非水電解液を吸液し保持する性質も大きいことから、充電によって生じたアルカリ金属イオンを正極から放出させることも容易にする。
【0067】
正極には、その他の炭素材料も使用できる。C
60、C
70、C
76などのフラーレン、単層または多層のカーボンナノチューブ、および、グラフェンなどは、導電性に優れるため、塩素(Cl
2)の生成を容易にする。C
60などが重合したフラーレンポリマーでもよい。導電性に優れる炭素材料としては、天然黒鉛や人造黒鉛も用いることができ、これらを微小球にしたものでもよい。
【0068】
活性炭やメソポーラスカーボンは、高比表面積であるため、Cl
2の保持を安定にする。ヤシ殻などの天然植物系活性炭、フェノール等の合成樹脂系活性炭、コークスなどの化石燃料系活性炭などを使用できる。また、カーボンブラックを賦活化することによって製造する超微粉末活性炭を用いてもよい。
【0069】
カーボンファイバーは、正極の機械的強度を向上させ、充放電の繰り返しによる正極の形状劣化を抑制する。PAN系炭素繊維、メソフェーズピッチ系炭素繊維、および、気相成長炭素繊維などを使用してもよい。
【0070】
上述のアルカリ金属塩化物の粉末および炭素材料の粉末は、正極合剤あるいは正極活物質層を構成していてもよい。この場合、アルカリ金属塩化物の粉末および炭素材料を、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤と一緒に混合することで正極合剤あるいは正極活物質層を作製することができる。これらの粉末を、そのまま粉体混合したあと成型してもよいし、N−メチル−2−ピロリドン(NMPと略記)などの溶媒に分散あるいは溶解してもよい。正極合剤あるいは正極活物質層は、集電体を接合させ、正極合剤あるいは正極活物質層と集電体とを含む正極を構成してもよい。集電体には、グラフェンシート、グラファイトシート、モリブデン、タングステン、白金網などを使用することができる。
【0071】
(3) 負極
負極活物質は、非水電解液中の伝導イオンに依存して、以下のようになる。
【0072】
アルカリ金属イオンが非水電解液中の伝導イオンである場合、充電状態の負極活物質は、アルカリ金属、アルカリ金属を含む合金、アルカリ金属を含む酸化物である。たとえば、リチウム金属(Li)であり、Li−Ag、Li−Au、Li−Zn、Li−Al、Li−Ga、Li−In、Li−Si、Li−Ge、Li−Sn、Li−Pb、Li−Biなどの組み合わせからなるLiを含む合金であってもよい。リチウムを含む酸化物は、たとえば、Li−SnO
x、Li−SiO
x(いずれも、0<x≦2)であり、また、Li−CoOやLi−NiOなどであってもよい。これらの酸化物は、ナノスケールまで微細化されていることが望ましい。また、リチウムを含む酸化物は、Li
5Ti
4O
12であってもよい。
【0073】
アルカリ土類金属イオンが非水電解液中の伝導イオンである場合、充電状態の負極活物質は、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含む合金である。たとえば、マグネシウム金属(Mg)であり、Mg−Co、Mg−Ni、Mg−Cu、Mg−Ag、Mg−Au、Mg−Al、Mg−Ga、Mg−In、Mg−Si、Mg−Ge、Mg−Sn、Mg−Pb、Mg−Biなどの組み合わせからなるMgを含む合金であってもよい。
【0074】
4級のアンモニウムイオンが非水電解液中の伝導イオンである場合、放電状態の負極には、たとえば、黒鉛構造を有する炭素材料を使用する。電気化学エネルギー蓄積デバイスの充電において、4級のアンモニウムイオンが黒鉛層間に侵入する。また、電気二重層キャパシタで使われる活性炭を使用してもよい。充電において、4級のアンモニウムイオンが活性炭に吸着する。負極に活性炭を使用すると本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスは従来のハイブリッドキャパシタと同じ構成になる。しかし、充電や放電で、電解液中の4級のアンモニウムイオンの濃度は変わらない。この点が、従来のハイブリッドキャパシタと異なる特徴である。
【0075】
黒鉛構造を有する炭素材料や電気二重層容量を蓄える活性炭は、負極材料として、アルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン伝導性の電解液とともに使用することもできる。
【0076】
(4) セパレータ
正極と負極とが電気的に絶縁されており、かつ非水電解液が正極及び負極と接した状態が維持される限り、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスは充放電が可能である。実用上、安定な形態で電気化学エネルギー蓄積デバイスを実現するためには、電気化学エネルギー蓄積デバイスは、二次電池などに一般的に用いられるセパレータをさらに備えていてもよい。セパレータは、電子伝導性を有しない樹脂によって構成された樹脂層であり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度および電気的絶縁性を備えた微多孔膜である。セパレータは、上述した非水電解液に対して耐性を有する材料によって構成さていることが好ましく、例えば、リチウム二次電池に一般的に用いられる。ポリプロピレン、ポリエチレンなどを単独または組み合わせたポリオレフィン樹脂を用いることができる。
【0077】
(5) 電気化学エネルギー蓄積デバイス全体の構成
電気化学エネルギー蓄積デバイスとして、二次電池を構成する一例を示す。
図7は、電気化学エネルギー蓄積デバイスの1つであるコイン形二次電池101の一例を示す断面図である。
図7に示すコイン形二次電池101は、正極31と、負極32と、セパレータ24とを備えている。正極31は、正極活物質層23および、正極活物質層23に接触している正極集電体22を含む。負極32は負極活物質層26および負極活物質層26に接触している負極集電体27を含む。正極活物質層23は上述した金属塩化物を含む。
【0078】
正極31および負極32は正極活物質層23および負極活物質層26がセパレータ24と接するようにセパレータ24を挟んで対向し、電極群を構成している。
【0079】
電極群はケース21の内部の空間に収納されている。また、ケース21の内部の空間には上述した非水電解液29が注入され、正極31、負極32およびセパレータ24は非水電解液29に含浸されている。セパレータ24は、非水電解液29を保持する微細な空間を含んでいるため、微細な空間に非水電解液29が保持され、非水電解液29が正極31と負極32との間に配置された状態をとっている。ケース21の開口は、ガスケット28を用いて封口板25により封止されている。
【0080】
図7では、コイン型の二次電池の形態を示したが、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスは、他の形状を有していてもよい。たとえば、円筒形や角形形状を有していてもよい。また、電気自動車等に用いる大型の形状を有していてもよい。
【0081】
2.電気化学エネルギー蓄積デバイスにおける電極反応
次に、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスの例である非水電解液二次電池およびハイブリッドキャパシタにおける充電反応を説明する。放電反応は、以下に説明する充電反応が逆方向(右辺から左辺の方向)に進む反応であり、具体的には示さないが同じように説明できる。
【0082】
(1)正極活物質が塩化リチウムである二次電池
アルカリ金属塩化物である塩化リチウム(LiCl)を正極活物質とする場合を例にして説明すると、以下のようになる。LiClと導電性物質とを混合して放電状態の正極を作製し、非水電解液中で酸化電流を流して充電を開始すると、式(3)にしたがってLiClを構成する塩素イオン(Cl
-)は、正極で酸化され、塩素(Cl
2)になる。
2LiCl→Cl
2+2Li
++2e・・・(3)
【0083】
正極で生成したリチウムイオン(Li
+)は、非水電解液中に放出され、負極において、式(4)にしたがってリチウム金属(Li)にまで還元される。
2Li
++2e→2Li・・・(4)
【0084】
式(3)と式(4)とを足し合わせると式(5)になる。これは、式(2)における左向きの反応と同じである。
2LiCl→Cl
2+2Li・・・(5)
【0085】
式(5)では、式(3)および式(4)に含まれていたLi
+が相殺されている。これは、この反応において非水電解液中のイオン濃度は変化しないことを意味する。したがって、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスに用いる非水電解液がLi
+伝導性を有していれば、充放電状態にかかわらず、非水電解液中のイオン濃度が理論的には一定となり、少なくとも、非水電解液中のイオン濃度の変化による充放電反応速度の低下を抑制することができる。
【0086】
ここで、式(5)の反応を続けると、正極で発生した塩素(Cl
2)は電解液に溶解し、やがて負極に到達してリチウム(Li)と反応する。これにより、式(6)にしたがって、負極において塩化リチウム(LiCl)が生成する。
Cl
2+2Li→2LiCl・・・(6)
【0087】
しかし、本実施形態で用いる非水電解液はLiClを溶解するので、式(7)の反応が起き、LiClが負極表面を覆うことが抑制される。
2LiCl→2Li
++2Cl
-・・・(7)
【0088】
LiClの解離によって生じたLi
+やCl
-は、それぞれ、式(8)にしたがって負極において還元され、また、式(9)にしたがって正極において酸化されることによって、LiやCl
2に戻る。
2Li
++2e→2Li・・・(8)
2Cl
-→Cl
2+2e・・・(9)
【0089】
式(6)から式(9)までを足すと、左辺と右辺とは相殺される。すなわち、負極において塩素(Cl
2)が還元されて塩化リチウム(LiCl)が生成しても、解離によって生成した塩素イオン(Cl
-)は、再び、正極において酸化されてCl
2に戻り、リチウムイオン(Li
+)は負極において還元されてリチウム(Li)に戻る。したがって、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスでは、LiClが負極表面を覆って反応を阻害することはなく、また、過充電状態が防止される。
【0090】
(2)正極活物質が塩化マグネシウムである二次電池
正極活物質が塩化マグネシウムである場合、正極、負極および全体の反応は以下の通りである。
(正極) MgCl
2→Cl
2+Mg
2++2e ・・・(10)
(負極) Mg
2++2e→Mg ・・・(11)
(全体) MgCl
2→Cl
2+Mg ・・・(12)
【0091】
この場合も、非水電解液がMg
2+イオン電導性を有することによって、充放電状態にかかわらず、非水電解液中のイオン濃度が理論的には一定となり、少なくとも、非水電解液中のイオン濃度の変化による充放電反応速度の低下を抑制することができる。
【0092】
(3)正極活物質が塩化マグネシウムであるハイブリッドキャパシタ
正極活物質が塩化マグネシウムであり、負極に炭素材料を用いる場合、電気化学エネルギー蓄積デバイスはハイブリッドキャパシタとなる。正極、負極および全体の反応は以下の通りである。
(正極) MgCl
2→Cl
2+Mg
2++2e ・・・(13)
(負極) (1/δ)C+Mg
2++2e→(1/δ)C
2δ-(Mg
2+)
δ ・・・(14)
(全体) MgCl
2+(1/δ)C→Cl
2+(1/δ)C
2δ-(Mg
2+)
δ・・・(15)
【0093】
この場合も、非水電解液がMg
2+イオン電導性を有することによって、充放電状態にかかわらず、非水電解液中のイオン濃度が理論的には一定となり、少なくとも、非水電解液中のイオン濃度の変化による充放電反応速度の低下を抑制することができる。
【0094】
(4)正極活物質が塩化テトラブチルアンモニウムであるハイブリッドキャパシタ
正極活物質が塩化テトラブチルアンモニウム((C
4H
9)
4NCl、以下の式では、Bu
4NClと略す)であり、負極に炭素材料を用いる場合、電気化学エネルギー蓄積デバイスはハイブリッドキャパシタとなる。正極、負極および全体の反応は以下の通りである。
(正極) 2Bu
4NCl→Cl
2+2Bu
4N
++2e ・・・(16)
(負極) (2/δ)C+2Bu
4N
++2e→(2/δ)C
δ-(Bu
4N
+)
δ ・・・(17)
(全体) 2Bu
4NCl+(2/δ)C→Cl
2+(2/δ)C
δ-(Bu
4N
+)
δ・・・(18)
【0095】
この場合、非水電解液DEME・BF
4を用いることによって、式(17)におけるBu
4N
+は、DEME
+ともなり得る。いずれの4級アンモニウムイオンが蓄電に関与する場合でも、非水電解液中の4級アンモニウムイオンの濃度は、充放電状態にかかわらず理論的には一定となる。したがって、少なくとも、非水電解液中のイオン濃度の変化による充放電反応速度の低下を抑制することができる。
【0096】
以上のように、本実施形態の電気化学エネルギー蓄積デバイスによれば、放電状態の正極活物質としてアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物または4級のアルキルアンモニウム塩化物を用いることによって、非水電解液中のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルキルアンモニウムのイオン濃度を、充放電状態にかかわらず、理論的には一定にすることができる。したがって、キャパシタやハイブリッドキャパシタでは得られない高いエネルギー密度の非水電解液二次電池を得ることができる。また、アルコキシアルキル基を有するカチオンを成分とするイオン液体を溶媒として含む非水溶媒を用いることによって、非水電解液は、アルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物および4級のアルキルアンモニウム塩化物をよく溶解する。このため、負極で生成する塩化リチウム(LiCl)を解離させて、塩素への再酸化を促進することができ、充放電の可逆性に優れた高いエネルギー密度の電気化学エネルギー蓄積デバイスを実現することができる。
【実施例】
【0097】
以下に実施例をあげ、本発明の実施形態をより具体的に説明する。なお、実験は、すべて、室温で、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0098】
(実施例1)
2種類の非水電解液を用いて、塩素イオン(Cl
-)の酸化とその酸化体である塩素(Cl
2)への還元が起きること、および、その電位を確かめた。
【0099】
塩化リチウム(LiCl、アルドリッチ製)を溶解する溶媒としてイオン液体を用い、電解液を調製した。ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N・BF
4、関東化学(株)製、DEME・BF
4と略記)を選択した。LiClとDEME・BF
4とを、モル比で、LiCl/DEME・BF
4=1/10となるように混合し、24時間、撹拌したところ、LiClはすべて溶解して透明な液体になった。
【0100】
作用極は、アセチレンブラック(電気化学工業(株)製、ABと略記)とポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)製、PTFEと略記)を、重量比で、AB/PTFE=60/40となるように混合して練り、圧延の後、幅5mmの短冊状にして作製した。
【0101】
参照極と対極は、ともに、ニッケル網((株)ニラコ製)を集電体とし、これにリチウム箔(本城金属(株)製)を貼り付けて作製した。
【0102】
3つの電極を、LiCl/DEME・BF
4=1/10溶液に浸漬し、サイクリックボルタンメトリーを行った。測定条件は、1mV/secの掃引速度、1.7〜4.2Vの掃引範囲で、4サイクルである。
【0103】
次に、Cl
-を含まない非水電解液を調製した。テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4、キシダ化学(株)製)とDEME・BF
4とを、モル比で、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10となるように混合し、24時間、撹拌したところ、LiBF
4はすべて溶けて透明な液体なった。
【0104】
上記と同じようにして、作用極、参照極、および、対極を作製し、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10溶液に浸漬して、サイクリックボルタンメトリーを行った。
【0105】
図1は、2つの電解液でサイクリックボルタンメトリーを行ったときの4サイクル目の波形を示す。
図1において、実線は、溶液中にCl
-を含む場合であり、波線は、溶液中にCl
-を含まない場合である。溶液中にCl
-を含むと、4Vを中心とする酸化波と還元波が現れている。この電位は、式(2′)で与えられる電位と一致し、作用極上で、Cl
-の酸化と生成したCl
2の還元が起きていることは明らかである。
4.0V: Cl
2+2Li⇔2LiCl・・・(2′)
【0106】
(実施例2)
塩化リチウム(LiCl)を含む正極を作製し、塩素イオン(Cl
-)を溶解していない電解液中で、Cl
-の酸化と還元が起きることを確かめた。
【0107】
LiClとアセチレンブラック(ABと略記)とポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略記)を、重量比で、LiCl/AB/PTFE=50/40/10となるように混合して練り、圧延して、正極シートを得た。この正極シートから直径2mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網((株)ニラコ製)に圧着して正極を作製した。
【0108】
参照極と対極は、ともに、ニッケル網を集電体とし、これにリチウム箔を貼り付けて作製した。
【0109】
非水電解液は、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)とジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(DEME・BF
4と略記)とを、モル比で、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10となるように混合し、撹拌して、調製した。
【0110】
3つの電極を、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10溶液に浸漬し、作用極に定電流を流して、充放電を繰り返した。測定条件は、5μAの酸化電流を5時間通電、続いて、5μAの還元電流を流して、作用極の電位が3.0Vになるまでとした。
【0111】
図2は、10サイクル目の充電と放電曲線を示す。
図2において、それぞれ、およそ4Vで、容量にかかわらず電圧がほぼ一定になっている。この電圧が一定である平坦部分は、実施例1の実線における4Vを中心とする急峻な立ち上がりと降下に対応していて、充電でCl
-の酸化、放電でCl
2の還元が起きていることがわかる。なお、3〜4Vにかけて、直線的な電位勾配が見られるが、これは、アセチレンブラックにおける電気二重層容量の形成と消滅に相当する。
【0112】
(実施例3)
ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(DEME・BF
4と略記)とは異なるイオン液体を非水電解液の溶媒に用いても、LiClを含む正極で塩素イオン(Cl
-)の酸化と生成した塩素(Cl
2)の還元が起きることを確かめた。作用極、参照極、および、負極は、実施例2と同じようにして作製した。
【0113】
非水電解液は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド・リチウム((CF
3SO
2)
2NLi、キシダ化学(株)製、LiTFSIと略記)と、ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N・(CF
3SO
2)
2N、関東化学(株)製、DEME・TFSIと略記)とを、モル比で、LiTFSI/DEME・TFSI=1/10となるように混合し、撹拌して、調製した。
【0114】
3つの電極を、LiTFSI/DEME・TFSI=1/10溶液に浸漬し、サイクリックボルタンメトリーを行った。測定条件は、1mV/secの掃引速度、1.7〜4.2Vの掃引範囲で、4サイクルである。
【0115】
図3は、そのときの4サイクル目の波形を示す。
図3において、およそ4Vからの鋭い酸化電流の立ち上がりと、これに対応する還元波が現れている。作用極上で、Cl
-の酸化と生成したCl
2の還元が起きていることがわかる。
【0116】
(実施例4)
塩化マグネシウム(MgCl
2)を含む正極を作製し、塩化リチウム(LiCl)を含む正極と同じようにして、Cl
-の酸化と還元が起きることを確かめた。
【0117】
MgCl
2(アルドリッチ製)とアセチレンブラック(ABと略記)とポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略記)を、重量比で、MgCl
2/AB/PTFE=50/40/10となるように混合して練り、圧延して、正極シートを得た。この正極シートから直径2mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網に圧着して正極を作製した。
【0118】
参照極は、多孔質ガラスを先端に設けたガラス管に、ニッケル線((株)ニラコ製)にリチウム箔を圧着したものを挿入することで作製した。ガラス管内には、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)とジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(DEME・BF
4と略記)とを、モル比で、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10となるようにして調製した溶液を満たした。
【0119】
対極には、実施例1と同様にしてアセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレン混合物の圧延シートを作製し、幅10mmの短冊状にしたものを用いた。
【0120】
非水電解液は、塩化マグネシウム(MgCl
2)とジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(DEME・BF
4と略記)とを、モル比で、MgCl
2/DEME・BF
4=1/10となるように混合し、撹拌して、調製した。
【0121】
3つの電極を、MgCl
2/DEME・BF
4=1/10溶液に浸漬し、サイクリックボルタンメトリーを行った。測定条件は、1mV/secの掃引速度、2.8〜4.4Vの掃引範囲で、4サイクルである。
【0122】
図4は、そのときの4サイクル目の波形を示す。
図4において、およそ4Vからの鋭い酸化電流の立ち上がりと、これに対応する還元波が現れている。MgCl
2を用いても、作用極上で、Cl
-の酸化と生成したCl
2の還元が起きていることがわかる。
【0123】
(実施例5)
塩化テトラブチルアンモニウム((C
4H
9)
4NCl、TBACと略記)を含む負極を作製し、塩素イオン(Cl
-)の酸化と生成した塩素(Cl
2)の還元が正極で起きることを確かめた。
【0124】
TBAC(アルドリッチ製)とアセチレンブラック(ABと略記)とポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略記)を、重量比で、TBAC/AB/PTFE=50/40/10となるように混合して練り、圧延して、正極シートを得た。この正極シートから直径2mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網に圧着して正極を作製した。
【0125】
参照極は、多孔質ガラスを先端に設けたガラス管に、ニッケル線((株)ニラコ製)にリチウム箔を圧着したものを挿入することで作製した。ガラス管内には、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)とジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(DEME・BF
4と略記)とを、モル比で、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10となるようにして調製した溶液を満たした。
【0126】
対極には、実施例1と同様にしてアセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレン混合物の圧延シートを作製し、幅10mmの短冊状にしたものを用いた。
【0127】
非水電解液には、DEME・BF
4を用いた。
【0128】
3つの電極を、DEME・BF
4溶液に浸漬し、サイクリックボルタンメトリーを行った。測定条件は、1mV/secの掃引速度、2.8〜4.4Vの掃引範囲で、4サイクルである。
【0129】
図5は、そのときの4サイクル目の波形を示す。
図5において、およそ4Vからの鋭い酸化電流の立ち上がりと、これに対応する還元波が現れている。TBACを用いても、作用極上で、Cl
-の酸化と生成したCl
2の還元が起きていることがわかる。
【0130】
(実施例6)
塩化リチウム(LiCl、アルドリッチ製)と混合する炭素材料として、実施例2で用いたアセチレンブラック(ABと略記)のほかに、3種の炭素材料を検討し、ABを使った場合との相対放電容量を調べた。ABのほかに検討した炭素材料は、アルドリッチ製メソポーラスカーボン(製品番号:699624、比表面積:70m
2/g)、アルドリッチ製メソポーラスカーボン(製品番号:699632、比表面積:200m
2/g)、および、クラレケミカル(株)製活性炭(製品番号:RP−20、比表面積:2000m
2/g)である。
【0131】
LiClと、それぞれの炭素材料と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFEと略記)を、重量比で、LiCl/炭素材料/PTFE=70/20/10となるように混合して練り、圧延して、正極シートを得た。この正極シートから直径2mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網((株)ニラコ製)に圧着して正極を作製した。
【0132】
参照極と対極は、ともに、ニッケル網を集電体とし、これにリチウム箔を貼り付けて作製した。
【0133】
非水電解液は、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)とジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム・テトラフルオロボレート(DEME・BF
4と略記)とを、モル比で、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10となるように混合し、撹拌して、調製した。
【0134】
4つの電極を、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10溶液に浸漬し、作用極の電位を4.2Vに、20時間、保った。続いて、5μAの還元電流を流して、作用極の電位が3.0Vになったところを放電容量とした。
【0135】
図6は、それぞれの正極の放電曲線を示したもので、それぞれ、A:アセチレンブラック、B:699624、C:699632、D:RP−2000であり、アセチレンブラックの放電容量を1としてプロットしてある。いずれの炭素材料においても、およそ4V付近に平坦性を有しておりCl
2の還元が起きていることがわかる。また、比表面積の大きい炭素材料を用いることで、放電容量が著しく増えることがわかる。