【文献】
KIMURA, M. and YAMAGUCHI, S. et al.,Screening for fatty acid beta oxidation disorders Acylglycine analysis by electron impact ionization gas chromatography-mass spectrometry,JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY B: BIOMEDICAL APPLICATIONS,NL,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS,1999年 8月 6日,Vol.731/No.1,pp.105-110
【文献】
TOMLINSON, L. et al.,Cannabinoid Receptor Antagonist-Induced Striated Muscle Toxicity and Ethylmalonic-Adipic Aciduria in Beagle Dogs,Toxicological Sciences,Oxford University Press,2012年 7月21日,Vol.129/No.2 ,pp.268-279
【文献】
NEWGARD, C.B. et al.,A Branched-Chain Amino Acid-Related Metabolic Signature that Differentiates Obese and Lean Humans and Contributes to Insulin Resistance,Cell Metabolism,米国,Cell Press,2009年 4月 8日,Vol.9/No.4,pp.311-326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
尿試料において、ヘキサノイルグリシン、トリメチルアミン−N−オキシド、ロイシン、イソブチレート、アセテート、グアニドアセテート、ショ糖、酒石酸、馬尿酸及びヒドロキシフェニルアセチルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定するステップと、
少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの対象のレベルを予め決定された基準値と比較するステップと
をさらに含み、
予め決定された基準値が、正常な健常対照集団の尿試料における少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの平均レベルに基づき、
予め決定された基準値と比較した際の、尿試料におけるヘキサノイルグリシン、ロイシン、アセテート、イソブチレートのレベルの増大、並びに/又はトリメチルアミン−N−オキシド、グアニドアセテート、ショ糖、酒石酸、馬尿酸及び/若しくはヒドロキシフェニルアセチルグリシンのレベルの低下が、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大を示す、請求項2に記載の方法。
高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の低下が、過体重及び/又は肥満と関係がある障害を発生させることに対する確度の指標である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の低下が、ミトコンドリアの酸化経路の特異的な活性化がないことの指標である、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書における先行技術文献へのいかなる参照も、そうした従来技術が広く知られていること又は本分野において共通する一般的な知識の一部を形成することを認めるものとして考慮されないものとする。
【0006】
本発明の目的は、技術水準を向上させること、特に、高脂肪の食事に対して体重増加という形で応答する可能性があるか否かについて人々を効率的に早期に層別化することを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに本発明の目的が独立請求項の主題によって達成できることを見出した。従属請求項においてさらに、本発明の概念を発展させる。
【0008】
したがって本発明は、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度を診断するためのバイオマーカー、その使用及び方法を提供する。
【0009】
本明細書で使用する場合、単語「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」及び類似の表現は、排他的又は網羅的な意味に解釈されないものとする。換言すれば、これらの表現は、「〜を含むが、限定されない」を意味することが意図される。
【0010】
本発明者らは、メタボノミクスアプローチを使用して、本発明の目的を達成した。今日では、メタボノミクスは、様々な要因、例えば環境、薬物、食事、生活様式、遺伝及びマイクロバイオームの要因の影響を含む代謝表現型を特徴づけるための、確立されたシステムアプローチと考えられている。生理的変化の可能性を示す遺伝子発現及びプロテオミクスのデータと異なり、細胞、組織及び臓器内での代謝物及び代謝物のダイナミックな濃度変化は、生理的調節プロセスの真のエンドポイントを表す。
【0011】
したがって、メタボノミクスアプローチは、様々な食事介入及び疾患発生に関連する段階的な代謝変化を調べることに適したアプローチである。最近、メタボロミクス及びリピドミクスに基づく発見は、疾患プロセスの理解を加速しており、メタボリックシンドロームに関連する無症候性障害の予防及び栄養管理に関する新規な手段を提供する。特に、「オミクス」データから、肥満及びインスリン抵抗性(IR)の発症に対する、エネルギー代謝(クレブス回路)、脂質及びアミノ酸のプロセシング並びに炎症シグナルの寄与が強く示された。
【0012】
経時的に採取した尿試料のプロトン核磁気共鳴(
1H NMR)分光法と体重増加のモニタリングの組み合わせを使用して、本発明者らは、詳細に明らかにされたC57BL/6マウスモデルにおいて、高脂肪の食事によって誘導される段階的な体重増加に関する新規な代謝性バイオマーカーを特定した。この動物モデルは、同質遺伝子的な動物、すなわち、高脂肪誘導性体重増加分布に抵抗性又は高脂肪誘導性体重増加分布の傾向がある動物の中で、極端な表現型を示すことが周知である。本発明者らは、高脂肪の食事(HFD)を与えたC57BL/6マウスの、短期(7日)及び長期(60日)の代謝適応を特徴づけし、HFDを与えたマウス、すなわち、高脂肪誘導性体重増加に抵抗性であるか又は高脂肪誘導性体重増加の傾向がある動物における表現型の変動性と関係がある特異的な代謝シグネチャーを確立した。メタボノミクスアプローチを使用して、本発明者らは、ミトコンドリアの代謝経路(脂肪酸β酸化、分枝鎖アミノ酸異化、ブタノエート代謝、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド経路及びクレブス回路)が、高脂肪給餌によって急速にアップレギュレートされることを示し、これは、ミトコンドリアの脂肪酸の飽和及びエネルギー代謝の機能障害を反映する可能性がある。
【0013】
本発明者らは、HFD下の肥満抵抗性マウスは、脂肪酸の過負荷に対する保護的な機構であり得るミトコンドリアの酸化経路(β酸化、ブタノエート代謝及びロイシン異化)の特異的な活性化と関係があることを示すことができた。
【0014】
これらの結果により、肥満の発生におけるミトコンドリアの役割が強く示され、肥満のような代謝障害を発生させる確度は、本発明者らが特定したバイオマーカーの特定のセットを使用して、早期の代謝シグネチャーから決定が可能であると結論づけることができる。
【0015】
本発明者らは、高脂肪給餌の1週間後(7日)の尿の代謝応答によって、各個体に関する最終的な体重増加の予測(60日)だけでなく、高脂肪誘導性体重増加に抵抗性であること又は高脂肪誘導性体重増加の傾向があることに対する動物の素因によって動物を層別化することも可能にすることを示すことができた。
【0016】
したがって本発明は、新規なバイオマーカーである、イソバレリルグリシンに関する。
【0017】
本発明は、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度を検出及び/又は定量化するための、尿中バイオマーカーとしてのイソバレリルグリシンの使用にさらに関する。
【0018】
同様に本発明は、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度を検出及び/又は定量化するための、尿中バイオマーカーとしてのイソバレリルグリシンの使用にも関する。
【0019】
本発明は、対象において高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度を診断する方法であって、試験対象から前もって得られた尿試料のイソバレリルグリシンレベルを測定するステップと、対象のイソバレリルグリシンレベルを予め決定された基準値と比較するステップとを含み、予め決定された基準値が、対照集団における尿の平均イソバレリルグリシンレベルに基づき、予め決定された基準値と比較した際の、試料におけるイソバレリルグリシンレベルの増大が、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大を示す方法にも関する。同様に本発明は、対象において高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度を診断する方法であって、試験対象から前もって得られた尿試料のイソバレリルグリシンレベルを測定するステップと、対象のイソバレリルグリシンレベルを予め決定された基準値と比較するステップとを含み、予め決定された基準値が、対照集団における尿の平均イソバレリルグリシンレベルに基づき、予め決定された基準値と比較した際の、試料におけるイソバレリルグリシンレベルの低下又は無変化が、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大を示す方法にも関する。
【0020】
本発明のこのバイオマーカーは、対象の体重増加の危険性に対する生活様式の変化の影響を診断及び/又はモニタリングすることにも使用できる。これについては、生活様式の変化の前にバイオマーカーレベルを評価することができ、生活様式の変化の後に、得られたレベルを前記バイオマーカーのレベルと比較することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1-1】HFDを与えたn=56のマウス集団における体重増加の変動性を示す図である。(A)実験計画。(B)7日及び60日のHFD給餌後のマウスの体重分布。(C)各時点での、肥満に対する非応答個体(NR)及び強い応答個体(SR)マウスの特定。数匹のNR及びSRマウスを実験の2つの時点で又は全過程を通して観察する。(D)食事の前(t0)、HFD給餌の7日後(t1)及び60日後(t2)での、対照(n=24)、NR(n=30)及びSR(n=29)マウスの体重のモニタリング。s(n=平均±標準誤差、ノンパラメトリックなマンホイットニー検定に対するp値
*<0.05、
**<0.001、
***<0.0001)。
【
図1-2】HFDを与えたn=56のマウス集団における体重増加の変動性を示す図である。(A)実験計画。(B)7日及び60日のHFD給餌後のマウスの体重分布。(C)各時点での、肥満に対する非応答個体(NR)及び強い応答個体(SR)マウスの特定。数匹のNR及びSRマウスを実験の2つの時点で又は全過程を通して観察する。(D)食事の前(t0)、HFD給餌の7日後(t1)及び60日後(t2)での、対照(n=24)、NR(n=30)及びSR(n=29)マウスの体重のモニタリング。s(n=平均±標準誤差、ノンパラメトリックなマンホイットニー検定に対するp値
*<0.05、
**<0.001、
***<0.0001)。
【
図2-1】食事を切り替えてから7日後及び60日後における、HFDを与えた又はLFDを与えたC57BL/6マウスの
1H NMR尿代謝プロファイルを示す図である。(A)LFDを与えたマウス又は(B)HFDを与えたマウスからの尿の平均
1H NMRスペクトル。(C)7日目におけるLFDを与えたマウス及びHFDを与えたマウスの尿代謝プロファイルのOPLS−DAスコアプロット。(D)60日目におけるLFDを与えたマウス及びHFDを与えたマウスの尿代謝プロファイルのOPLS−DAスコアプロット。(E)OPLS−DA係数プロットから得られたヒートマップから、HFDを与えたマウスとLFDを与えたマウスで有意に異なることが判明した代謝物が示された。代謝物の相関値を色コードで示す。(赤色の勾配は、HFDを与えたマウスと正に相関した代謝物に関し、青色の勾配は、負に相関した代謝物に関する)。
【
図2-2】食事を切り替えてから7日後及び60日後における、HFDを与えた又はLFDを与えたC57BL/6マウスの
1H NMR尿代謝プロファイルを示す図である。(A)LFDを与えたマウス又は(B)HFDを与えたマウスからの尿の平均
1H NMRスペクトル。(C)7日目におけるLFDを与えたマウス及びHFDを与えたマウスの尿代謝プロファイルのOPLS−DAスコアプロット。(D)60日目におけるLFDを与えたマウス及びHFDを与えたマウスの尿代謝プロファイルのOPLS−DAスコアプロット。(E)OPLS−DA係数プロットから得られたヒートマップから、HFDを与えたマウスとLFDを与えたマウスで有意に異なることが判明した代謝物が示された。代謝物の相関値を色コードで示す。(赤色の勾配は、HFDを与えたマウスと正に相関した代謝物に関し、青色の勾配は、負に相関した代謝物に関する)。
【
図3-1】NR及びSRマウスの特異的な代謝シグネチャーを示す図である。(A)NRマウス又は(B)SRマウスからの尿の
1HNMRスペクトルの平均。(C)7日目(D)及び60日目におけるNR及びSRマウスの尿代謝プロファイルのOPLS−DAスコアプロット。(E)OPLS−DA係数プロットから得られたヒートマップから、NR及びSRマウスで有意に異なることが判明した代謝物が示された。代謝物の相関値を色コードで示す。(赤色の勾配は、SRマウスと正に相関した代謝物に関し、青色の勾配は、負に相関した代謝物に関する)。
【
図3-2】NR及びSRマウスの特異的な代謝シグネチャーを示す図である。(A)NRマウス又は(B)SRマウスからの尿の
1HNMRスペクトルの平均。(C)7日目(D)及び60日目におけるNR及びSRマウスの尿代謝プロファイルのOPLS−DAスコアプロット。(E)OPLS−DA係数プロットから得られたヒートマップから、NR及びSRマウスで有意に異なることが判明した代謝物が示された。代謝物の相関値を色コードで示す。(赤色の勾配は、SRマウスと正に相関した代謝物に関し、青色の勾配は、負に相関した代謝物に関する)。
【
図4-1】BCAA、ブタノエート、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド代謝、クレブス回路及びβ酸化に関与する代謝物の尿排泄パターンのマッピングを示す図である。バープロットは、0日目に対する7日目又は0日目に対する60日目の代謝物統合物の平均比を標準誤差とともに示した。Y軸は、LF、HF、NR及びSRマウスに対する平均値(任意単位)を示す。LFとHF又はNRとSRの平均比間の有意差は、ノンパラメトリックなマンホイットニー検定を用いて計算した:
*<0.05、
**<0.001、
***<0.0001(平均値、標準誤差及びp値は補遺の表3及び4にある)。間接的な代謝反応を破線矢印で強調した。
【
図4-2】BCAA、ブタノエート、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド代謝、クレブス回路及びβ酸化に関与する代謝物の尿排泄パターンのマッピングを示す図である。バープロットは、0日目に対する7日目又は0日目に対する60日目の代謝物統合物の平均比を標準誤差とともに示した。Y軸は、LF、HF、NR及びSRマウスに対する平均値(任意単位)を示す。LFとHF又はNRとSRの平均比間の有意差は、ノンパラメトリックなマンホイットニー検定を用いて計算した:
*<0.05、
**<0.001、
***<0.0001(平均値、標準誤差及びp値は補遺の表3及び4にある)。間接的な代謝反応を破線矢印で強調した。
【
図5】ランダムフォレスト解析によって評価した時の、NR及びSRの予測における代謝物の重要性及び頑健性を示す図である。表1:高脂肪誘導性体重増加における代謝物と体重増加の関係の要約。表2:体重増加抵抗性(NR)及び体重増加傾向(SR)のそれぞれにおける、選択された代謝物の経時的な倍数変化の要約。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、部分的にバイオマーカーに関し、ここでは、バイオマーカーはイソバレリルグリシンである。
【0023】
本明細書に記載の実験では、HFDを与えたマウスは、尿のイソバレリルグリシンの経時的な増大を示した。理論に拘束されることは望まないが、本発明者らは、クレブス回路のいくつかの中間体及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド経路の最終産物がHFDマウスの尿で増大していることは、ミトコンドリア中のエネルギー過剰産生の証拠と考えることができると現在考えている。ミトコンドリア酸化経路の慢性的な増大は、ミトコンドリアにとって有害であり、酸化経路及びエネルギー代謝の機能障害につながると考えられる。さらに、過剰な遊離脂肪酸は脂肪組織及び除脂肪組織にトリグリセリドとして貯蔵され得、これは、臓器不全及び脂肪肝又は心血管疾患のような代謝疾患を促進する可能性がある。
【0024】
本発明者らは、イソバレリルグリシンが、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度を検出及び/又は定量化するための、体液のバイオマーカーとして使用できることを発見した。体液は尿でもよい。体液として尿を使用することは、定期的に、非侵襲的に、医療関係者の支持なしに尿を得ることができるという利点がある。
【0025】
この診断法はヒト又は動物の体外で行われる。典型的には、バイオマーカーの検出及び/又は定量化ステップは、試験対象から前もって得られた体液試料において行われる。
【0026】
本発明は高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度を定量化することを考慮して記載されているが、同じ方法が、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度を定量化するのに使用することもできることは当業者に明らかである。当業者であれば理解していることであるが、バイオマーカーのレベルの増大が、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大の指標であるならば、バイオマーカーのレベルの低下が、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大に対する指標であり、逆もまた同じである。
【0027】
したがって本発明は、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度を検出及び/又は定量化するための、尿中バイオマーカーとしてのイソバレリルグリシンの使用にも関していた。
【0028】
本発明は、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する対象の確度を診断する方法であって、試験対象から前もって得られた尿試料のイソバレリルグリシンレベルを測定するステップと、対象のイソバレリルグリシンレベルを予め決定された基準値と比較するステップとを含み、予め決定された基準値が、対照集団における尿の平均イソバレリルグリシンレベルに基づき、予め決定された基準値と比較した際の、試料におけるイソバレリルグリシンレベルの増大が、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大を示す方法にも関する。
【0029】
本発明は、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する対象の確度を診断する方法であって、試験対象から前もって得られた尿試料のイソバレリルグリシンレベルを測定するステップと、対象のイソバレリルグリシンレベルを予め決定された基準値と比較するステップとを含み、予め決定された基準値が、対照集団における尿の平均イソバレリルグリシンレベルに基づき、予め決定された基準値と比較した際の、試料におけるイソバレリルグリシンレベルの低下が、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大を示す方法にも関する。
【0030】
試料として尿を使用することは、十分に確立された手法を使用して非侵襲的に尿を得ることができるという利点がある。次いで、実際の診断法は体外で行われる。
【0031】
試料のイソバレリルグリシンレベルは、当技術分野で既知の任意の手段によって検出及び定量化することができる。例えば、
1H−NMR、質量分光測定法、例えばUPLC−ESI−MS/MSを使用することができる。他の方法、例えば他の分光学的な方法、クロマトグラフィー法、標識法又は定量的な化学的方法も同様に使用することができる。理想的には、試料のイソバレリルグリシンレベル及び基準値を、同じ方法によって測定する。
【0032】
予め決定された基準値は、対照集団における試験体液の平均イソバレリルグリシンレベルに基づいてもよい。対照集団は、遺伝的背景、年齢及び平均健康状態が類似した少なくとも3人、好ましくは少なくとも10人、より好ましくは少なくとも50人の群であってもよい。
【0033】
例えば本発明は、早期に、すなわち健康の危険性をもたらし得る体重増加の前に、対象を層別化することを可能にする。高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいかどうかを認識することによって、早期に、生活様式及び食事を適宜調節することができる。理想的には個別化された栄養管理を伴う適切な生活様式によって健康的な体格の維持を可能とし、その健康的な体格を取り戻すためのカロリー制限及び/又は運動療法に関して著しく努力しなければならないことを回避する。
【0034】
単独マーカーとしてのイソバレリルグリシンは、本発明の診断法のツールとして効果的であるが、診断がたった1つのマーカーではなくそれより多くのマーカーに依拠するならば、前記診断の質及び/又は予測力が向上する。
【0035】
したがって、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大を診断するための及び/又は高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大を診断するための1つ又は複数の他のマーカーをイソバレリルグリシンと組み合わせて使用することができる。
【0036】
本発明者らは、驚くべきことに、他のバイオマーカーも、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大の検出及び/又は高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大の診断に使用できることを見出した。
【0037】
そのようなものとして、本発明者らは、ヘキサノイルグリシン、ロイシン、イソブチレート、アセテートの尿中濃度の上昇、並びにトリメチルアミン−N−オキシド、グアニドアセテート、ショ糖、酒石酸、馬尿酸及びヒドロキシフェニルアセチルグリシンの尿中濃度の低下によって、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大を診断できることを確認した。
【0038】
したがって、本発明の方法は、尿試料において、ヘキサノイルグリシン、トリメチルアミン−N−オキシド、ロイシン、イソブチレート、アセテート、グアニドアセテート、ショ糖、酒石酸、馬尿酸及びヒドロキシフェニルアセチルグリシンからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるバイオマーカーのレベルを測定するステップと、少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの対象のレベルを予め決定された基準値と比較するステップとをさらに含むことができ、ここでは、予め決定された基準値が、正常な健常対照集団の尿試料における少なくとも1つのさらなるバイオマーカーの平均レベルに基づき、予め決定された基準値と比較した際の、尿試料におけるヘキサノイルグリシン、ロイシン、イソブチレート、アセテートの増大、及びトリメチルアミン−N−オキシド、グアニドアセテート、ショ糖、酒石酸、馬尿酸及び/又はヒドロキシフェニルアセチルグリシンのレベルの低下が、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大を示す。したがって、予め決定された基準値と比較した際の、尿試料におけるヘキサノイルグリシン、ロイシン、イソブチレート、アセテートのレベルの低下、並びにトリメチルアミン−N−オキシド、グアニドアセテート、ショ糖、酒石酸、馬尿酸及び/又はヒドロキシフェニルアセチルグリシンのレベルの増大は、高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大を示す。
【0039】
さらに、さらなるバイオマーカーは、
1H−NMR又は質量分光測定法、例えばUPLC−ESI−MS/MSによって検出及び定量化することができる。他の方法、例えば他の分光学的な方法、クロマトグラフィー法、標識法又は定量的な化学的方法も同様に使用することができる。
【0040】
評価するバイオマーカーは全て、同じ技術によって評価することが理想的である。これらのバイオマーカーは、同時に評価してもよい。
【0041】
例えば、イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシドとともに評価することができる。
【0042】
イソバレリルグリシンは、ヘキサノイルグリシンとともに評価することもできる。
【0043】
イソバレリルグリシンは、ロイシンとともに評価することもできる。
【0044】
イソバレリルグリシンは、アセテートとともに評価することもできる。
【0045】
イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシド及びヘキサノイルグリシンとともに評価することもできる。
【0046】
イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシド、ヘキサノイルグリシン及びロイシンとともに評価することもできる。
【0047】
イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシド、ヘキサノイルグリシン及びアセテートとともに評価することもできる。
【0048】
イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシド、ヘキサノイルグリシン、アセテート及びロイシンとともに評価することもできる。
【0049】
イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシド、ヘキサノイルグリシン、アセテート、ロイシン及びグアニドアセテートとともに評価することもできる。
【0050】
イソバレリルグリシンは、トリメチルアミン−N−オキシド、ヘキサノイルグリシン、アセテート、ロイシン、グアニドアセテート及び馬尿酸とともに評価することもできる。
【0051】
1つを超えるバイオマーカーを評価することの利点は、より多くのバイオマーカーを評価するほど、診断がより信頼できるようになることである。例えば、1、2、3、4、5、6又は7つを超えるバイオマーカーが、上記のように濃度の上昇又は低下を示す場合は、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗すること及び/又は高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度を検出及び/又は定量化するための予測力がより強い。
【0052】
イソバレリルグリシン及び場合により他のバイオマーカーに関する基準値は、試験対象から得られたイソバレリルグリシン及び場合により他のバイオマーカーのレベルを特徴づけるのに使用されるのと同じ単位を使用して測定されることが好ましい。したがって、イソバレリルグリシン及び場合により他のバイオマーカーのレベルが、μmol/l(μM)で示されるイソバレリルグリシン単位などの絶対値である場合は、基準値も、一般集団又は対象の選択対照集団における個体のμmol/l(μM)で示されるイソバレリルグリシン単位に基づく。
【0053】
さらに、基準値は単一のカットオフ値、例えば中央値又は平均でもよい。得られた体液試料のイソバレリルグリシン及び場合により他のバイオマーカーの基準値、例えば平均レベル、中央値レベル又は「カットオフ」レベルは、参照によって本明細書に組み込まれる、Knapp,R.G.及びMiller,M.C.(1992).Clinical Epidemiology and Biostatistics.William and Wilkins、Harual Publishing Co.Malvern、Pa.に記載されているように、一般集団又は選択集団の個体の大規模試料をアッセイし、統計モデル、例えば陽性判定基準を選択するための予想値法又は最適な特異性(最も高い真陰性率)及び感度(最も高い真陽性率)を定義する受信者動作特性曲線を使用して確立することができる。
【0054】
当業者であれば理解していると予想されるが、正確な基準値の割り当て方は、例えば、性別、人種、遺伝形質、健康状態又は年齢によって変化する。
【0055】
本発明の方法では、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の低下は、過体重及び/又は肥満と関係がある障害を発生させることに対する確度の指標である。
【0056】
「過体重」は、成人については、BMIが25〜30の間であると定義される。「肥満指数」又は「BMI」は、メートルでの身長の二乗で割ったkgでの体重の比を意味する。「肥満」は、動物、特にヒト及び他の哺乳動物の脂肪組織に貯蔵される天然エネルギーの蓄えが、ある種の健康状態又は死亡率の増加と関係があるポイントまで増大する状態である。「過肥」は、成人については、BMIが30を越えると定義される。
【0057】
過体重及び/又は肥満と関係がある障害は、心血管代謝疾患及び/又は代謝制御不全であってもよい。
【0058】
本発明の方法は、例えば、食事誘導性体重増加に対する対象の感受性度を測定することを可能にする。したがって本方法は、現在、患者が、低体重、正常、過体重又は過肥であるかどうかに関係なく、高カロリーの、特に高脂肪の食事によって体重が増えることに対する患者の確度に従って、患者の層別化を可能にし得る。成人は、BMIが18.5以下の場合、低体重と考えられる。
【0059】
本発明の方法は、低体重、正常、過体重又は過肥の対象において行うこともできる。特に、低体重、過体重又は過肥の対象において、本発明の方法は、対象の遺伝的素因を解明するのに役立ち得る。それに基づいて、理想的には、対象の全体的な健康状態及び生活様式のさらなる考慮の下で、健康状態を維持する又は取り戻すのに役立ち得る個別化された栄養療法を開発することができる。
【0060】
本発明の方法はヒトに限定されない。本発明の方法は、動物、例えば伴侶動物などでも使用することができる。ネコ又はイヌなどの伴侶動物を解析することができる。その解析に基づいて、良好な健康状態で伴侶動物が長生きするのに寄与する栄養療法を設計することができる。
【0061】
本出願で示される研究は、HF(高脂肪)誘導性肥満の発生に関する生理機構についての識見を提供し、特に、過肥の表現型の変動性に関連する特定の代謝適応を強調する。高脂肪の摂取は、ミトコンドリアの代謝経路の急速且つ一貫したアップレギュレーションを誘発し、エネルギーをより産生し、ミトコンドリアの脂肪酸の飽和を増大させる。HFを与えたマウスの中で、肥満抵抗性(NR)マウスを特定し、このマウスは、ミトコンドリアの特定の代謝経路(β酸化、ブタノエート代謝及びロイシン異化)を特に活性化しており、エネルギー恒常性(LFDに匹敵するクレブス回路活性)を維持するようであった。したがって、発明者の結果は、ミトコンドリアの酸化経路の特異的な活性化は、エネルギー恒常性を保存すること及び燃料過負荷からミトコンドリアを保護することを可能にし得ることを示唆する。したがって、ミトコンドリアの役割は、肥満及びその関連する代謝障害の発生に極めて重要であるようである。したがって、HFD給餌に対する不均一な適応の根底にある機構に関するこの包括的解析は、体重管理プログラム及び個別化された栄養的解決法に関して、新規且つ有望な見解を提供する。
【0062】
したがって、本発明の方法によって、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の低下又は高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の増大を特定することができるならば、これは、ミトコンドリアの酸化経路の特異的な活性化がないことの指標であり得る。
【0063】
逆に、本発明の方法によって、高脂肪食誘導性体重増加に抵抗することに対する確度の増大、又は高脂肪食誘導性体重増加を起こしやすいことに対する確度の低下を特定することができるならば、これは、ミトコンドリアの酸化経路の特異的な活性化の指標であり得る。
【0064】
ミトコンドリアの酸化経路は、β酸化、ブタノエート代謝及びロイシン異化からなる群から選択することができる。
【0065】
本発明の方法は、素因の徴候を可視化する必要なしに対象の層別化を可能にするので、例えば、小児、10代の若者、若年成人及び/又は過体重若しくは肥満になる危険性がある対象に適する。
【0066】
このような危険性は、意識することによって食事及び生活様式の点から適切に対応でき、過体重又は肥満に起因する可能性がある後年の起こり得る危険性を排除することができる。
【0067】
したがって、本方法は、対象の特定の群のための層別化した食事、又は特定の対象のための個別化された食事を考案するのに使用することができる。
【0068】
本明細書に開示される本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを、当業者なら理解するであろう。特に、本発明の使用について説明している特徴は、本発明の方法と組み合わせることができ、逆もまた同じである。さらに、本発明の異なる実施形態について説明されている特徴を組み合わせることができる。
【0069】
本発明を例として説明してきたが、特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、変形及び修正を行うことができることを理解されたい。
【0070】
さらに、特定の特徴に対して既知の均等物が存在する場合、そうした均等物は、具体的に言及されたのと同様に本明細書に組み込まれる。本発明のさらなる利点及び特徴は、図及び非限定的な例から明らかである。
【実施例】
【0071】
動物の取扱法及び試料調製
実験は、適切な国の指針の下で、Nestle研究センター(NRC、Switzerland)において行った。12時間−12時間の明暗管理下において個々のケージでマウスを維持し、全実験を通してマウスに自由に餌を与えた。合計で80匹のC57BL/6マウスに、まず標準的なCHD(ベースライン3437)を数週間与え、この処理の後に最初の尿収集を行った(t0)。次いで、マウスを2群に分けた。24匹のマウスに、タンパク質、ビタミン、ミネラル及び炭水化物の割合が最初の標準的な食事と異なるCHD(低脂肪D12450B、組成物は補遺の図を参照されたい)を与えた。56匹の他のマウスに、炭水化物と脂肪のレベルを除いて、栄養組成物が第二のCHDに匹敵するHFD(高脂肪D12492)を与えた。これらの2つの群を、それぞれ対照群及びDIO群として特徴づけた。食事を切り替えてから7日(t1)及び60日後(t2)後に、再度、尿試料を採取した。全ての試料を、解析するまで−80℃で急速凍結した。t0、t1、t2において全てのマウスの体重測定も行って、HFDと対照の両方の群において体重増加をモニターした。HFD及びLFD並びにNR及びSRにおける体重増加の違いを、ノンパラメトリック検定(ウィルコクソン−マンホイットニーのU検定)によって評価した。t1及びt2において各マウスの食物摂取量(FI)も記録した。LFDを与えたマウスと経時的に比較して、HFDを与えたマウスにおいてFIの有意な低下がある。SRマウスも、両時点においてNRマウスよりFIが高い。群間のFIの差は、ウィルコクソン−マンホイットニーのU検定によって計算した。
1H NMR分光法
【0072】
40μlの体積の尿を、アジ化ナトリウム(3mM)及びTSP(0.5mM)を含む20μl緩衝液(NaHPO
4、0.6M pH=7)に希釈した。遠心分離してから、直径が1.7mmのNMR管に注射器を使用して試料を移した。次いで、64Kのデータポイントで標準シーケンスを64回スキャンすることによって、
1H NMRスペクトルを600.13MHzの分光計で記録した。NMR実験の温度は、300Kに維持した。尿のスペクトルの処理は、TOPSPIN2.0ソフトウェア(Bruker Biospin、Rheinstetten、Germany)を使用して行った。各スペクトルについて、1Hzの線幅拡大に対応する指数関数をFIDに乗じてから、フーリエ変換器によってスペクトルに変換した。次いで、スペクトルの相及びベースラインを手動で補正した。化学シフトをδ0でのTSPシグナルを使用して較正した。スペクトルの帰属は、STOCSY(統計的全相関分光法)、スペクトルデータベース及び公表された帰属を使用して達成した。
データ処理及び多変量データ解析
【0073】
最終的に、スペクトルデータ(δ0.2〜δ9.5)をMatlabソフトウェア(バージョン、the mathworks Inc、Natwick MA)にインポートし、22Kのデータポイントに変換した。水の共鳴の前飽和に関連する変動性を排除するために、水のピーク(δ4.7〜5.05)の共鳴を各スペクトルから除去した。次いで、
1H NMRスペクトルを全範囲に対して標準化し、「単位分散」スケーリングを使用して、様々な多変量統計(PCA、OPLS及びOPLS−DA)を適用した。逆スケーリング法を使用してOPLS回帰係数を示すことができた。このようにして、モデルの群識別に関与する各NMR変数の分散の比率を推定することができる。最も高い係数値を有する代謝物を示すヒートマップを構築することによって、HFD給餌に対する短期及び長期の代謝応答の比較が容易になる。HFD/LFD又はSR/NRを識別する代謝物の相関係数値を取得することによって、ヒートマップを作成した。0.3のカットオフを超える相関係数をカラーマップ(各代謝物における共分散の値による赤から青への勾配)によって示す。したがって、ヒートマップによって、肥満の発生に対する短期及び長期の代謝応答の比較が容易になる。
一変量データ解析
【0074】
LFD、HFD、NR及びSR群において、食事を切り替えてから7日後及び60日後のこれらの代謝物の尿排泄を評価するために、尿の1H NMRスペクトルに帰属可能な、β酸化、BCAA酸化、クレブス回路及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド経路由来の中間代謝物を統合した。ベースラインに従ってこれらの代謝物の尿排泄を標準化するために、各代謝物について、7日目及び60日目での統合物を0日目(介入前の期間中)での統合物で割った。各代謝物について得られた比を、ノンパラメトリックなマンホイットニー検定を使用して、各時点のLFD、HFD、NR及びSR群の間で比較した。
主要な発見及び最重要点
HFDを与えたC57BL/6Jマウスにおける体重増加の変動性
【0075】
肥満の発生に対する食事の寄与を研究するために、60匹のC57BL/6Jマウスに、固形飼料食(CHD)を1週間の介入前期間中に与えた、続いて食事を切り替え、LFD(n=20)又はHFD(n=40)をマウスに60日間与えた。介入前の期間中及び食事を切り替えてから7日後及び60日後に体重を測定した(
図1−1 A)。体重のモニタリングによって、実験を通して、LFDを与えたマウスと比較して、HFDを与えたマウスにおいて有意な体重増加が示された。特に、HFDを与えたマウスの平均体重は、対照マウスよりも、7日目において1.5g(p=3.9×10
−7)重く、60日目において4.5g(p=2.36×10
−8)重かった。体重分布によって、7日目のHFD群の間に強い不均一性も明らかになり(変動係数CV=0.05)、これは、60日目においてさらにいっそう顕著であった(CV=0.120)(
図1−1 B)。この知見は、HFD群内に強い表現型変動性が存在することを強調し、これらの過肥の亜表現型に関連する特異的な代謝シグネチャーが存在することを示唆する。
【0076】
HF給餌に対する「強い応答個体」(SR)及び「非応答個体」(NR)を特徴づけるために、7日及び60日のHF給餌後の体重増加(BWG)に従ってマウス集団を層別化した。60日目のBWG分布の上半分にいる3匹のSRマウスを除いては、BWG分布の上3分の1及び下3分の1に一貫して存在するマウスを、それぞれNRマウス及びSRマウスと指定した。この閾値は、各群において十分な試料を得(NRマウスn=10 SRマウス=14)、強力な統計的検定を実施するために、及びこれら2群間の代謝シグネチャーの有意差を特定するために選択された。NRマウス、SRマウス及びLFを与えたマウスの経時的な平均体重曲線(
図1−2 D)により、実験を通して、SRマウスは、NRマウス及びLFを与えたマウスよりも有意に体重が増加することが明らかになった。興味深いことに、7日目において、NR群とLFD群の間の体重に有意差はなかった(p=0.10)が、60日目において、体重の有意な変動が確認された(p=7.67×10
−5)。さらに、NRマウスの体重増加曲線(回帰係数=3.85)は、LFを与えたマウスと類似しており、これは、NRマウスの体重増加の挙動は、経時的にLFマウスに匹敵し、一方SRマウスは、より速く体重が増える傾向があることを強調する。強い応答個体及び非応答個体の亜群を定義するこの早期の及び持続性の体重増加曲線の変化は、C57BL/6Jマウスにおける食事誘導性肥満(DIO)に対する差次的な素因の存在を示唆する。したがって、本発明者らは、HFDを与えたマウスの体重増加曲線を早期の代謝プロファイルに基づいて予測する性能を、本研究において試験する。
尿の代謝プロファイリングは、高脂肪誘導性肥満に関連する持続性の代謝シグネチャーを指摘する。
【0077】
食事誘導性肥満の発生と関係がある特異的な代謝シグネチャーを調べるために、
1H NMR分光法を使用して、食事介入の1週前、食事介入してから7日後及び60日後の尿代謝プロファイルを得た(
図2−2 A、B)。次いで、OPLS−DAモデルを使用して、LF及びHFを与えたマウスからの尿代謝プロファイルを各時点で比較した。1つの予測成分及びいくつかの直交成分を使用して、各モデルを計算した。R
2Y及びQ
2Y適合度統計量によって、直交成分の最適な数を決定した。7日目(
図2−2 C)及び60日目(
図2−2 D)のモデルに対するOPLS−DAスコアプロットは、HF給餌と関係がある強い代謝変動が予測成分(Tpred)に沿って強調されるが、縦軸は、第一の直交成分(Torth)が、食事非依存性の影響と関連する群内変動性を反映することを説明することを示した。
【0078】
各モデルについて、相関係数が最も高い代謝物を特定し、これらをLFマウスとHFマウスの間の尿の代謝変動を示すヒートマップ(
図2−2 E)に要約する。特に、カルニチン、ヘキサノイルグリシン及びBCAA酸化の中間体(イソバレリルグリシン、α−ケト−βメチルバレレート及びα−ケトバレレート)のレベルは、7日目及び60日目にHF群において有意に増大した。逆に、微生物のコリン代謝(トリメチルアミン(TMA)及びトリメチルアミン−N−オキシド(TMAO))から産生されるメチルアミン誘導体並びに腸内細菌によるフェニルアラニン分解の最終産物(フェニルアセチルグリシン)のレベルは、実験全体を通して、HF群間において低下した。特に、7日目と60日目の間のTMAOの尿中レベルの変動度は、HFD給餌下での、TMAからTMAOへの転換の時間依存的なシフトを示唆する。したがって、HFD処理は、腸内微生物叢活性の有意な変化を示し得る。HFD給餌に対する時間依存的な代謝適応は、7日間HFを与えたマウスの尿中インドキシルスルファートの有意な低減にも特徴づけられた。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)経路の最終産物(N1−メチル−2−ピリドン−5−カルボキサミド:2PY、及びN1−メチル−4−ピリドン−3−カルボキサミド:4PY)も60日間HFを与えたマウスと正に相関した。イソバレリルグリシン、α−ケト−β−メチルバレレート及びα−ケトイソバレレートの排泄は、LFDを与えた群と比較して、HFDを与えた群において有意に且つ一貫して経時的に増大したので、これらは、定性的且つ安定的な、DIOのバイオマーカー候補を構成する。
NR及びSRマウスの尿の代謝プロファイリングは、肥満の傾向及び肥満抵抗性表現型に関連する特定の代謝適応を強調する。
【0079】
SR及びNRマウスの代謝プロファイルを確立することによって、体重増加における最も高い逸脱と関係がある代謝物を特定することができた。NRとSRの間の
1H NMRスペクトルデータを、ペアワイズOPLS−DAモデルを使用して7日目及び60日目に比較した(
図3−1 A、B)。7日目(
図3−2 C)及び60日目(
図3−2 D)のOPLS−DAスコアプロットは、予測成分(Tpred)に沿って、NR及びSRマウスの間の良好な識別を示した。縦軸は、強い肥満関連性応答に対する直交性の変動を説明する。興味深いことに、NRとSRマウスの尿代謝プロファイルは食事の切り替え前に差がないことが確認され、これは、固形飼料食が与えられた場合、C57BL/6Jマウスは全て類似の表現型及び代謝型を有することを強調する。
【0080】
群の分離に関与する代謝物を要約するヒートマップ(
図3−2 E)は、短期間(7日)及び長期間(60日)のHF給餌中のNR及びSRマウスに関する差次的な代謝プロファイルを示す。特に、ロイシン異化、β酸化及び短鎖脂肪酸産生に関与する特異的な代謝シグネチャーは、肥満の段階的変化と関係があった。実際には、ヘキサノイルグリシン、イソバレリルグリシン、ロイシン、アセテート及びイソブチレートが、全実験を通してSRマウスと負に相関した。これらの代謝物は、SRマウスにおいて一貫してダウンレギュレートされていたので、肥満抵抗性表現型の安定的な候補マーカーを構成した。7日目及び60日目におけるSRマウスとNRマウスの間での代謝プロファイルの比較は、表現型変動性と関係がある時間依存的な代謝シグネチャーも示した。アセテートのより少ない尿排泄が、7日のHFDの後のSRマウスにおいて観察された。対照的に、ショ糖のより高い尿排泄が、同じ期間のSRマウスにおいて認められた。驚いたことに、タウリンは、HF給餌の7日後のSRマウスと正に相関し、60日後のSRマウスと負に相関した。60日のHFD後のSRマウスの尿代謝プロファイルはまた、クレアチン、グアニドアセテート、タルトレート、ヒップレート及びヒドロキシフェニルアセチルグリシンの増大を特徴とした。興味深いことに、DIOの定性的候補マーカーとして特徴づけられたヘキサノイルグリシン及びイソバレリルグリシンはまた、肥満抵抗性表現型の安定的な候補マーカーとしても特定された。これらの結果は、ミトコンドリアで起きているロイシン異化及びβ酸化はHF給餌に強く影響を受け、それらの特異的な調節が肥満の発症に寄与し得ることを指摘した。
いくつかの代謝物の尿の排泄パターンは、HFマウス及びSRマウスにおけるミトコンドリアの代謝の特異的な脱調節を指摘した。
【0081】
相補的一変量データ解析アプローチ(方法を参照)を用いて、HFDを与えたマウスにおけるミトコンドリア代謝の調節をさらに調べた。β酸化中間体:ヘキサノイルグリシン、カルニチン及びアシルカルニチンの尿排泄は、LFを与えたマウスと比較してHFを与えたマウスの尿で一貫して増大し、これは、ミトコンドリアでの脂肪酸オーバーフローの増大及びβ酸化の活性化を示唆する。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド経路の最終産物(2PY、4PY)もHFD給餌後のマウスの尿で一貫して増大し、これは、β酸化及びペルオキシゾーム増殖因子のアップレギュレーションを示す。統合することによって、HFを与えたマウスにおいて、ロイシン、バリン、イソロイシン並びにBCAA異化の中間体(イソバレリルグリシン、α−ケト−βメチルバレレート及びα−ケトバレレート)が有意に且つ一貫して増大することが確かめられ、これは、HFDに関連したBCAA異化のアップレギュレーションという仮説を支持する。LFを与えたマウスと比較して、HFDから7日後のマウスにおいて、短期の尿中スクシネートの増大を本発明者らが観察したように、クレブス回路も、HFを与えたマウスにおいてある程度調節され、HFを与えたマウスの尿において一定であった。これらの結果は、バリン及びイソロイシンの異化がアップレギュレートされ、スクシニルCoAの形成及び次のクレブス回路中間体の産生を誘導するという仮説を支持する。驚いたことに、他のクレブス回路中間体(シトレート、cis−アコニターゼ、α−ケトグルタレート)は、LFを与えたマウスとHFを与えたマウスの間で有意差がなく、これは、ロイシン異化とアセチルCoAを産生するβ酸化とクレブス回路の間の断絶を示唆する。特定の代謝調節は、他の代謝経路へのアセチルCoAの流動の進路を変え得る。特に、HFを与えたマウスの尿でのビニルアセチルグリシンレベル増大は、アセチルCoAが、ブタノエート代謝及びビニルアセチルグリシンの形成に関連するアセトアセチルCoAに再び向かうことを示唆する。これらの結果は、HFDは、エネルギー産生の増大につながり得る、ミトコンドリアの酸化経路及びクレブス回路のアップレギュレーションを誘導することを確証する。
【0082】
一変量データ解析によって、表現型変動性において、β酸化とBCAA異化とクレブス回路の間の関連をより良く理解することもできるようになった。BCAA異化の中間体の統合によって、SRマウス又はLFマウスと比較して、NRマウスの尿においてイソバレリルグリシンのみが有意に高いことが示され、これは、肥満抵抗性マウスは、ロイシン異化の乱れだけと関係があったことを示す。ヘキサノイルグリシンは、全実験を通して、SRマウスと比較してNRマウスの尿で有意に高かったが、カルニチン及びアシルカルニチンの尿排泄は、未変化のままであった。したがって、β酸化は、NRマウスにおいて影響を受けるようであったが、ミトコンドリアへの脂肪酸の流れは、NRマウスとSRマウスの間で一貫性がある。さらに、NRマウスの尿においてビニルアセチルグリシンの有意な増大が観察され、アセチルCoAがブタノエート代謝へ向けられることが示唆される。興味深いことに、7日のHFDの後に、NRマウスとSRマウスの間でクレブス回路活性の差は観察されなかった。60日目では、SRマウスの尿でスクシネートが有意に高く、これは、クレブス回路のアップレギュレーションを強調する。先に観察されたように、他のクレブス回路中間体(シトレート、α−ケトグルタレート、cis−アコニテート)の尿排泄はNRマウスとSRマウスの間で変化せず、これは、クレブス回路内での特異的な調節という仮説を支持する。本発明者らの結果は、長期間のHFDの後、肥満傾向があるマウスは、クレブス回路の脱調節に特徴づけられるエネルギー代謝の機能障害と関係があることを示す。肥満抵抗性マウスにおけるβ酸化、ロイシン異化及びブタノエート代謝の急速な活性化は、エネルギー恒常性を維持することを可能にする脂肪酸オーバーフローに対する保護的な機構であり得る。
【0083】
強調された代謝物の体重増加との関係を、(
1H NMR分光法で測定した時の)代謝物の尿中濃度、ベースライン(T0)からの倍数変化、及び(
1H NMR分光法で測定した時の)尿クレアチンとの比を使用して評価した。食事の負荷に対する短期代謝応答(すなわちT7における)に基づいて、体重増加を予測する及びNR又はSRとして個体を層別化する能力が重視された。表1に相関係数値を要約し、表2に一方倍数変化を報告する。より頑強なマーカーを選択するために、可変的な重要な特徴として、「アウトオブバッグ(out−of−bag)」の%平均減少精度データを使用した。このようにして、対象の体重増加感受性(NR及びSR表現型、
図5)に従って、より良く対象を識別する変数を決定することができ、これによって、NR又はSR表現型として対象を層別化するための最も頑強な代謝のマーカーとして、ヘキサノイルグリシン、イソバレロイルグリシン、TMAO及びアセテートが示された。