【実施例】
【0064】
<変色防止効果の評価>
以下の表1に示す組成で実施例のはんだ合金を調合し、表2に示す組成で比較例のはんだ合金を調合し、表3に示す組成で参考例のはんだ合金を調合して、変色防止効果について検証した。なお、表1、表2及び表3における組成率は質量%である。
【0065】
変色防止効果の評価は以下の手順で行った。
【0066】
(1)試料の作製
調合したはんだ合金を鋳造、圧延して板材を作成した。この板材を小片状(2mm(縦)×2mm(横)×0.1mm(厚み))に打ち抜きして試料を作成した。
【0067】
(2)検証方法
以上のように作成された実施例と比較例及び参考例の各試料を高温環境及び高温高湿環境に保管して、変色の有無を確認した。保管条件は、高温高湿環境では、温度125℃、湿度100%RHで試料を24時間置いた。高温放置では、温度150℃で試料を7日間放置した。変色の確認は、KEYENCE製DESITAL MICROSCOPE VHX−500Fを使用して行った。確認の結果、変色が全く見られなかったものを◎、若干の光沢の変化が確認されたものを○、やや変色が見られたものを△、変色したものを×と評価した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表1、表2及び表3に示すように、実施例と比較例及び参考例の何れも、初期状態では変色が見られなかった。0.005質量%以上0.1質量%以下のMnと0.001質量%以上0.1質量%以下のGeを含み、更に0質量%超1質量%以下のCu、または、0質量%超4質量%以下のAgを含み、残部をSnとした実施例において、MnとGeの含有量の比率が等量である実施例1、2、5〜6では、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。
【0072】
MnとGeの含有量の比率が等量であり、かつ、Cuの含有量を所定の範囲で増やした実施例3でも同様に、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られず、Cuの含有量が1質量%以下であれば、変色防止効果が阻害されないことが判った。また、Agの含有量を所定の範囲で増やした実施例7でも同様に、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られず、Agの含有量が4質量%以下であれば、変色防止効果が阻害されないことが判った。MnとGeの含有量の比率がMn>Geである実施例4、8では、高温高湿環境及び高温放置で若干の光沢の変化が確認された。
【0073】
上述した所定量のMnとGeを含み、残部をSnとした参考例において、MnとGeの含有量の比率が等量である参考例5、9では、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。一方、MnとGeの含有量の比率がMn>Geである参考例1〜3、6では、高温高湿環境及び高温放置で若干の光沢の変化が確認された。これに対し、MnとGeの含有量の比率がMn<Geである参考例4、7、8では、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。
【0074】
また、所定量のMnとGeを含み、更にCu及びAgを含み、残部をSnとした参考例においても、MnとGeの含有量の比率がMn>Geである参考例10では、高温高湿環境及び高温放置で若干の光沢の変化が確認された。一方、MnとGeの含有量の比率がMnとGeで等量である参考例11、12では、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。
【0075】
更に、MnとGeの含有量の比率が等量であり、かつ、Ag及びCuの含有量を所定の範囲で増やした比較例13でも同様に、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られず、AgとCuを含む場合においても、Agの含有量が4質量%以下、及び、Cuの含有量が1質量%以下であれば、変色防止効果が阻害されないことが判った。
【0076】
これにより、Snを主成分としたはんだ合金に、所定量のMnとGeを含む場合において、CuまたはAgを含む場合、Cu及びAgを含まない場合、Cu及びAgを含む場合の何れも、変色抑制効果に同様に傾向を示すことが判った。特に、MnとGeの含有量の比率がMn≦Geの場合、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が抑制できることが判った。
【0077】
所定量のMnとGeを含み、更にCuまたはAgを含み、MnとGeの含有量の比率が等量であり、更にP、Ga、Ni、Co、Fe、Bi、In、Sbの何れかあるいは全てを含み、残部をSnとした実施例9〜26では、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。
【0078】
また、所定量のMnとGeを含み、MnとGeの含有量の比率が等量であり、更にP、Ga、Ni、Co、Fe、Bi、In、Sbの何れかあるいは全てを含み、残部をSnとした参考例14〜22も同様に、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。
【0079】
これに対し、Mn及びGeを含まないSnのみの比較例1、Mn及びGeを含まず、Ag及びCuを含み、残部をSnとした比較例2では、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が見られた。Mnを含みGeを含まない比較例3〜7でも同様に、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が見られた。Geを含みMnを含まない比較例8、10、12では、Geの含有量を増やすことで、高温放置では変色抑制効果が得られるが、高温高湿環境では変色が見られた。Mn及びGeを含む比較例9、11、13〜20では、MnあるいはGeの何れか、または両方を本発明の範囲外で過剰に含む場合でも、比較例9では若干の光沢の変化が確認されたものの、比較例11,13〜20では高温高湿環境でも高温放置環境でも変色が全く見られなかった。
【0080】
以上の結果から、Snを主成分としたはんだ合金に、所定量のMnとGeと、更にCuまたはAgを含むことで、高温高湿環境でも高温放置環境でも変色防止効果が得られることが判り、MnとGeの含有量の比率がMn≦Geであれば、より良好な変色防止効果が得られることが判った。
【0081】
<酸化物の分布>
次に、上述した表1に示す高温高湿環境及び高温放置環境での変色防止効果を検証した実施例のはんだ合金について、酸化膜中でのSn酸化物、Mn酸化物及びGe酸化物の分布について検証した。
【0082】
図1は、Snを主成分とし、MnとGeを含む場合の主たる元素の分布を示す。
図1のグラフにおいて、縦軸に含有量、横軸に元素が分布する最表面からの深さを示す。なお、酸素、炭素等の他の含有元素については図示しない。
【0083】
Snを主成分とし、MnとGeを含む参考例1では、Ge酸化物が酸化膜の最表面から10nm程度の範囲に多く分布していることが判り、Ge酸化物が酸化膜の最表面側に多く分布していることが判る。また、Mnが最表面から略均一に分布していることが判る。これに対し、最表面のSnが減少していることが判る。なお、Snを主成分とし、MnとGeを含み、更にAgまたはCuを含む実施例1〜26の場合も、同様の分布を示す。
【0084】
図1に示す元素の分布から、Snを主成分とし、所定量のMnとGeを含むはんだ合金では、Ge酸化物が、酸化膜の最表面側に偏って分布し、最表面にSn酸化物が生成されることが抑制されることが判る。
【0085】
このように、変色防止効果のあるGe酸化物が最表面側に多く分布することで、変色が抑制される。また、Mn酸化物が酸化膜の厚さ方向に対してほぼ均等に分布するので、Sn酸化物の生成が抑制される。
【0086】
<融合性の評価>
上述した表1、表2及び表3に示す高温高湿環境及び高温放置環境での変色防止効果を検証した各実施例と比較例及び参考例のはんだ合金について、融合性を検証した。検証方法は、各実施例と比較例及び参考例の組成で調合したはんだ合金を鋳造、圧延したものを、打ち抜きして小片状の部材(2mm(縦)×2mm(横)×0.1mm(厚み))を作成した。この小片を所定の大きさの板状に成形し、フラックスを塗布したOSP(水溶性プリフラックス(Organic Solderability Presevation)処理が施されたCu板上に置き、リフローを行った後、表面を洗浄し、温度125℃、湿度100%RHの環境に24時間置いた。さらに、Agが3.0質量%、Cuが0,5質量%、残部がSnからなるはんだ合金(Sn−3.0Ag−0.5Cu)を用いて作製したはんだボール(本例の場合、直径300μm)を、小片部材と同様に温度125℃、湿度100%RHの環境に24時間置いた。次に、実施例と比較例及び参考例のはんだ合金からなる試料上にフラックスを塗布し、はんだボールを所定個数置いた。本例では、はんだボールの数は9個とし、それぞれ5枚用意した。そして、リフローを行った後、未融合のはんだボールの数を計数して、融合不良発生率を算出した。未融合とは、Cu板とはんだボールが接合されていない状態をいう。
【0087】
所定量のMnとGeを含み、更にCuまたはAgを含み、残部をSnとした実施例1〜8では、融合不良発生率は0であった。特に、Cuの含有量を所定の範囲で増やした実施例3でも、融合不良発生率は0であり、Cuの含有量が1質量%以下であれば、融合性が阻害されないことが判った。また、Agの含有量を所定の範囲で増やした実施例7でも、融合不良発生率は0であり、Agの含有量が4質量%以下であれば、融合性が阻害されないことが判った。
【0088】
また、所定量のMnとGeを含み、更にCuまたはAgを含み、更にP、Ga、Ni、Co、Fe、Bi、In、Sbの何れかあるいは全てを含み、残部をSnとした実施例9〜26でも、融合不良発生率は0であった。
【0089】
更に、所定量のMnとGeを含み、残部をSnとした参考例1〜9、所定量のMnとGeを含み、更にCu及びAgを含み、残部をSnとした参考例10〜13でも、融合不良発生率は0であった。
【0090】
また、所定量のMnとGeを含み、更にP、Ga、Ni、Co、Fe、Bi、In、Sbの何れかあるいは全てを含み、残部をSnとした参考例14〜22でも、融合不良発生率は0であった。
【0091】
Mn及びGeを含まないSnのみの比較例1、Mn及びGeを含まず、Ag及びCuを含み、残部をSnとした比較例2、Snを主成分とし、Mnを含みGeを含まない比較例2〜7、Snを主成分とし、Geを含みMnを含まない比較例8、10、12では、何れも融合不良が発生した。なお、Mn及びGeを含む比較例9、11、13〜18では、Mnを本発明の範囲外で過剰に含む比較例9、11、13、Ge、またはGeとMnの両方を本発明の範囲外で過剰に含む比較例14〜18の何れの場合も、融合不良が発生した。また、GeとMnの両方を本発明の範囲外で過剰に含み、更にCuを本発明の範囲外で過剰に含む比較例19、GeとMnの両方を本発明の範囲外で過剰に含み、更にAgを本発明の範囲外で過剰に含む比較例20でも、融合不良が発生した。
【0092】
<濡れ性の評価>
上述した表1、表2及び表3に示す高温高湿環境及び高温放置環境での変色防止効果を検証した各実施例と比較例及び参考例のはんだ合金について、濡れ性を検証した。検証方法は、各実施例と比較例及び参考例の組成で調合したはんだ合金を鋳造、圧延したものを、打ち抜きして小片状の部材(2mm(縦)×2mm(横)×0.1mm(厚み))を作成した。この小片を温度125℃、湿度100%RHの環境に24時間置いた。次に、OSP処理されたCu板と、Cu板にNiめっきし、このNiめっきにさらにAuめっきしたNi/Auめっき板の各板の上にフラックスを塗布し、高温高湿処理した小片を載せリフローを行った。はんだ合金の濡れ広がった面積を測定し、OSP処理されたCu板では5.0mm
2、Ni/Auめっき板では11.0mm
2以上に広がったものを合格とした。
【0093】
所定量のMnとGeを含み、更にCuまたはAgを含み、残部をSnとした実施例1〜8では、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも、低下は見られなかった。
【0094】
特に、Cuの含入量を所定の範囲で増やした実施例3でも、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも、低下は見られず、Cuの含有量が1質量%以下であれば、濡れ性が阻害されないことが判った。
【0095】
また、Agの含有量を所定の範囲で増やした実施例7でも、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも、低下は見られず、Agの含有量が4質量%以下であれば、濡れ性が阻害されないことが判った。
【0096】
更に、所定量のMnとGeを含み、更にCuまたはAgを含み、更にP、Ga、Ni、Co、Fe、Bi、In、Sbの何れかあるいは全てを含み、残部をSnとした実施例9〜26でも、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも、低下は見られなかった。
【0097】
また、所定量のMnとGeを含み、残部をSnとした参考例1〜9、所定量のMnとGeを含み、更にCu及びAgを含み、残部をSnとした参考例10〜13でも、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも、低下は見られなかった。
【0098】
更に、所定量のMnとGeを含み、更にP、Ga、Ni、Co、Fe、Bi、In、Sbの何れかあるいは全てを含み、残部をSnとした参考例14〜22でも、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも、低下は見られなかった。
【0099】
Mn及びGeを含まないSnのみの比較例1、Mn及びGeを含まず、Ag及びCuを含み、残部をSnとした比較例2では、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも低下した。
【0100】
Mnを含みGeを含まない比較例3〜7では、Mnの含有量が増えると、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも低下した。Mn及びGeを含む比較例9、11、13〜18では、Mnを本発明の範囲外で過剰に含む比較例9、11、13、Ge、またはGeとMnの両方を本発明の範囲外で過剰に含む比較例14〜18の何れの場合も、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも低下した。
【0101】
また、GeとMnの両方を本発明の範囲外で過剰に含み、更にCuを本発明の範囲外で過剰に含む比較例19、GeとMnの両方を本発明の範囲外で過剰に含み、更にAgを本発明の範囲外で過剰に含む比較例20でも、OSP処理されたCu板に対する濡れ性、Ni/Auめっき板に対する濡れ性とも低下した。Ge、Mnを本発明の範囲外で過剰に含む場合には、濡れ性が低下することが見て取れる。
【0102】
以上の結果から、Snを主成分とし、Mnを0.005質量%以上0.1質量%以下、Geを0.001質量%以上0.1質量%以下、更に、Agを0質量%超4質量%以下、または、Cuを0質量%超1質量%以下で含むはんだ合金では、MnとO
2が反応してSnとO
2の反応が抑制され、経時変化による酸化膜の最表面側へのSn酸化物の分布が抑制され、変色防止効果を有するGe酸化物を含む酸化膜が最表面側に残存することで、高温高湿環境でも変色防止効果が得られることが判った。好ましくは、MnとGeの含有量の比率をMn≦Geとすれば、高温高湿環境でも高温放置環境でもより良好な変色防止効果が得られることが判った。
【0103】
また、Snを主成分とし、上述した所定量のMnとGe、更にCuまたはAgを含むはんだ合金では、MnとO
2が反応してSnとO
2の反応が抑制され、Sn酸化物の成長が抑制されるので、酸化膜厚の増加を抑制できることが判った。酸化膜厚の増加を抑制することで、はんだ付け時にフラックスで酸化物の除去が十分に行え、融合性が向上する。
【0104】
<はんだ合金の適用例>
図2は、本発明のはんだ合金の適用例を示す構成図である。Snを主成分とし、Mnを0.005質量%以上0.1質量%以下、Geを0.001質量%以上0.1質量%以下、更に、Agを0質量%超4質量%以下、または、Cuを0質量%超1質量%以下で含むはんだ合金は、球状のはんだボール10としても良い。はんだボール10の直径は、1〜1000μmであることが好ましい。この範囲にあると、球状のはんだボールを安定して製造でき、また、端子間が狭ピッチである場合の接続短絡を抑制することができる。ここで、はんだボールの直径が1〜50μm程度である場合、「はんだボール」の集合体は「はんだパウダ」と称されてもよい。
【0105】
図3は、本発明のはんだ合金の他の適用例を示す構成図である。Snを主成分とし、Mnを0.005質量%以上0.1質量%以下、Geを0.001質量%以上0.1質量%以下、更に、Agを0質量%超4質量%以下、または、Cuを0質量%超1質量%以下で含むはんだ合金は、チップソルダ11としても良い。チップソルダ11は、例えば、直方体形状に構成される。
【0106】
他の適用例としては、Snを主成分とし、Mnを0.005質量%以上0.1質量%以下、Geを0.001質量%以上0.1質量%以下、更に、Agを0質量%超4質量%以下、または、Cuを0質量%超1質量%以下で含むはんだ合金を、所定の大きさの粉末状とし、フラックスと混合させたはんだペーストとしても良い。
【0107】
本発明によるはんだ合金、はんだボール、チップソルダ、はんだペーストは、半導体チップとの接合や電子部品とプリント基板の接合に使用され形成されるはんだ継手となる。
【0108】
また、本発明に用いられる核、被覆層に使用される材料、および本発明のα線量が0.0200cph/cm
2以下であってもよい。α線量が0.0200cph/cm
2以下の場合、電子機器のソフトエラーを防止できる。