(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主表面の半径方向における算術平均粗さRa_radと円周方向における算術平均粗さRa_cirとの比であるRa_rad/Ra_cirが、0.95〜1.05の範囲内である、
請求項1又は2に記載の磁気ディスク用基板。
前記うねりは、前記磁気ディスク用基板の中心から20.86mm離れた位置の一周分について取得される、請求項1、3、及び4のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、あるいはDVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、基板に磁気記録層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッドで磁気記録層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板として、金属基板(アルミニウム合金基板)等に比べて塑性変形し難い性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられる。
【0003】
また、ハードディスク装置における記憶容量の増大の要請を受けて、磁気記録の高密度化が図られている。例えば、磁気記録層における磁化方向を基板の面に対して垂直方向にする垂直磁気記録方式を用いて、磁気記録情報エリア(記録ビット)の微細化が行われている。垂直磁気記録方式の磁気ディスクは、金属基板やガラス基板上に順に、例えば、付着層、軟磁性層(SUL:Soft Under Layer)、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層などが成膜されている。垂直磁気記録方式を採ることによって、1枚のディスク基板における記憶容量を増大させることができる。さらに、記憶容量の一層の増大化のために、磁気ヘッドの記録再生素子部のみをスライダー面から磁気ディスク方向にさらに突き出すことによって磁気記録層との距離を極めて短くして、情報の記録再生の精度をより高める(S/N比を向上させる)ことも行われている。なお、このような磁気ヘッドの記録再生素子部の制御はDFH(Dynamic Flying Height)制御機構と呼ばれ、この制御機構を搭載した磁気ヘッドはDFHヘッドと呼ばれている。このDFHヘッドと組み合わされてHDDに用いられる磁気ディスク用ガラス基板は、磁気ヘッドやそこからさらに突き出された記録再生素子部との衝突や接触を避けるために、基板の表面凹凸は極めて小さくなるように作製されている。
【0004】
DFH制御機構とは、ヘッドの読み取り素子及び書き込み用素子(以降、纏めてR/W素子部という)の周りにヒータコイルを設けてヒータコイルに流す電流を制御することによりR/W素子部の膨張を制御して、ヘッド面から磁気ディスクの表面までの距離を数nmまで近づけるように制御する機構である。この場合、磁気ディスクへの書き込みあるいは読み取りが長期的に安定してできるためには、磁気ディスクの表面はR/W素子部と接触して、R/W素子部が磨耗することは好ましくない。このため、磁気ディスクの表面はうねりの小さい平滑な面であることが好ましく、特に、磁気ディスクの基板であるガラス基板には、うねりが極めて小さいことが要求される。
【0005】
このような状況下、磁気記録媒体用ガラス基板の記録再生領域の全面について、微小うねりの変化量が所定の範囲内に制御された磁気記録媒体用ガラス基板が知られている(特許文献1)。
具体的には、当該磁気記録媒体用ガラス基板の主平面は、磁気ディスクとしたときに記録再生領域となる領域の全面を含む主平面の全面に設定される格子状の各評価領域で微小うねり(nWq)を測定したとき、一の評価領域と、これに隣接する評価領域との間における微小うねりの変化量の絶対値(ΔnWq)は、一の評価領域の微小うねりに対する比率(変化率)が10%以下である。また、この格子状の各評価領域で測定した微小うねり(nWq)の平均値は0.080nm以下である。微小うねりは、0.2μm〜1.8μmの周期(波長)である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のガラス基板上に磁性層を形成して磁気ディスクを作製してDFHヘッドの特性評価を行ったところ、R/W素子部の先端に磨耗跡が確認できた。これは、磁気ディスクの表面にR/W素子部が接触してこすれたことによるものであった。
【0008】
そこで、本発明は、DFHヘッドを用いて記録、読み取りを行う際、DFHヘッドのR/W素子部の磨耗を抑制することができる磁気ディスク用基板、磁気ディスク、及び磁気ディスクドライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、一対の主表面を有する磁気ディスク用基板であって、
前記主表面において、10〜500μmの波長成分のうねりを円周方向に沿って取得し、当該うねりから50〜100μmの範囲内の間隔の傾斜を取得したとき、前記傾斜の絶対値の平均値は0.45×10
−4以下であり、
前記主表面の算術平均粗さRaは0.3nm以下である、
ことを特徴とする磁気ディスク用基板。
【0010】
本発明の他の一態様も、一対の主表面を有する磁気ディスク用基板であって、
前記主表面において、前記磁気ディスク用基板の中心から20.86mm離れた位置の一周分について、10〜500μmの波長成分のうねりを円周方向に沿って取得し、当該うねりから50〜100μmの範囲内の間隔の傾斜を取得したとき、前記傾斜の絶対値の平均値は0.45×10−4以下である、
ことを特徴とする磁気ディスク用基板。
【0011】
前記主表面の半径方向における算術平均粗さRa_radと円周方向における算術平均粗さRa_cirとの比であるRa_rad/Ra_cirが、0.95〜1.05の範囲内である、ことが好ましい。
10〜500μmの波長成分のうねりの二乗平均平方根粗さRqが0.04nm以下である、ことが好ましい。
前記うねりは、前記磁気ディスク用基板の中心から20.86mm離れた位置の一周分について取得される、ことが好ましい。
前記傾斜の絶対値の平均値は0.40×10
−4以下である、ことが好ましい。
前記磁気ディスク用基板の材料はアルミノシリケートガラスである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気ディスク用基板。
前記磁気ディスク用基板の表層部分に圧縮応力層が形成されている、ことが好ましい。
前記磁気ディスク用基板は、DFHヘッドと組み合わされてHDDに用いられる磁気ディスク用である、ことが好ましい。
【0012】
本発明のさらに他の一態様は、前記磁気ディスク用基板の前記主表面上に少なくとも磁性層を有する磁気ディスクである。
【0013】
本発明のさらに他の一態様は、前記磁気ディスクと、前記磁気ディスクを固定するためのスピンドルと、磁気ヘッドとを備えた、磁気ディスクドライブ装置である。
【発明の効果】
【0014】
上述の磁気ディスク用基板、磁気ディスク、及び磁気ディスクドライブ装置によれば、DFHヘッドを用いて記録、読み取りを行う際、DFHヘッドのR/W素子部の磨耗を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の磁気ディスク用基板、磁気ディスク、及び磁気ディスクドライブ装置について詳細に説明する。なお、以降の説明では、磁気ディスク用ガラス基板を用いて説明するが、磁気ディスク用基板は、金属製基板(例えば、アルミニウム合金基板)であってもよい。
従来、磁気ディスク用ガラス基板に代表される磁気ディスク用基板の表面のうねりは、DFHヘッド全体のサイズ同等の寸法、具体的には60μm〜500μm、あるいは60μm〜1000μmの波長におけるうねりを低減するように基板の表面の研削、研磨を行っていた。しかし、このうねりの低減ではR/W素子部先端の磨耗は低減できなかった。このため、本発明者は、DFHヘッドのR/W素子部先端の磨耗量の測定結果と磁気ディスク用基板の主表面のうねりの関係を調べたところ、基板の表面の特定範囲の波長のうねりが磨耗の発生に起因していることを知見した。具体的には、磁気ディスクと対向するR/W素子部先端の面、すなわちスライダー面から磁気ディスク方向に隆起したR/W素子部のサイズに対応した、磁気ディスク用基板の表面の波長のうねりが磨耗の発生に影響を与えていることを突き止めた。より具体的には、上記波長のうねりのうち、うねりの傾斜の平均値と、隆起したR/W素子部の磨耗の大小に大きな相関があることを本発明者は知見して、下記形態の磁気ディスク用基板を発明した。なお、上記の現象は、スライダー面のサイズ(DFHヘッド全体のサイズ)に比べて、R/W素子部の隆起部のサイズが小さいことに起因すると考えられる。
【0017】
(R/W素子部の磨耗試験)
本願明細書でいうDFHヘッドのR/W素子部の磨耗試験は以下のように行われる。
すなわち、磁気ディスクをDFHヘッドのR/W素子部を、磁気ディスクの中心から一定の距離はなれた磨耗測定位置でバックオフ量0.2nmにて定点浮上させ、磁気ディスクを回転させてR/W素子の磨耗試験を15分間行う。なお、バックオフ量とは、R/W素子部を突き出させて磁気ディスクと接触させたところから、戻す量のことである。例えばバックオフ量が0.5nmの場合、ヘッドと磁気ディスクの間の最短距離は、0.5nmになる。なお通常、ヘッドのスライダー面のR/W素子部以外の部分の磁気ディスクとの間隙は、10nm程度である。この磨耗試験の前後において、磁気ディスクの中心から所定の距離離れた、上記磨耗測定位置と異なる同一の半径位置において、R/W素子部を徐々に突き出していったときにR/W素子部が磁気ディスクの表面に接触する(タッチダウンする)ときのR/W素子部の突出量として、R/W素子部がタッチダウンするときのヒータコイルに流す電流値を測定する。したがって、磨耗試験の前後で電流の差が大きいほど磨耗量は大きいことを意味する。なお、電流値の替わりに投入電力で制御してもよい。
【0018】
(うねりの測定)
本願明細書でいううねりの測定は以下のようにして行われる。
すなわち、円形状の磁気ディスク用ガラス基板の主表面の形状を、レーザー光を用いる光学式表面分析装置を用いてガラス基板の表面の表面形状データを取得する。このとき、比較的短い波長帯域のうねりに対する測定感度が高いレーザードップラー・バイブロメータを用いることが好ましい。
以下で説明する実施形態では、成膜によってうねり形状が変化することはないため、表面形状データの取得は、成膜前の磁気ディスク用基板において行なわれる。本実施形態では、磁気ディスク用ガラス基板の円周方向のデータが取得される。データの取得の際、バンドパスフィルタを用いてフィルタリングを行うことにより、10〜500μmの波長帯域のうねりの形状を測定する。
【0019】
(うねりの傾斜の測定)
本願明細書でいううねりの傾斜は、上述したように、うねりの一次元データを取得した場合、任意の位置を開始位置として予め定めた間隔Δx毎に、例えば50μmの間隔毎に高さデータを抽出し、抽出した高さデータ間の傾斜を求める。傾斜は、抽出した2つの隣接データの値をz1,z2とした場合、傾斜は、(z2−z1)/Δxである。このような傾斜の絶対値を求め平均することにより、上述したように任意の位置を傾斜の算出の開始位置としても安定した傾斜の値を求めることができる。以降で説明するように、本実施形態では、磁気ディスク用ガラス基板の主表面におけるうねりの傾斜の絶対値の平均値を求める。特に、磁気ディスク用ガラス基板における円周方向のうねりの傾斜に関して評価する場合、磁気ディスク用ガラス基板の中心軸を中心とした円周方向の一周分のうねりのデータを用いて、一周分のデータにおける上記傾斜の絶対値の平均値を求めることが、より安定した評価を行う点で好ましい。
【0020】
(磁気ディスク用ガラス基板)
本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平坦度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板の材料に、アモルファスのアルミノシリケートガラスを用いることもできる。また、NiP系の金属膜がメッキされたアルミニウム合金基板を用いることもできる。
【0021】
図1は、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の外観形状を示す図である。
図1に示すように、本実施形態における磁気ディスク用ガラス基板1は、内孔2が形成された、円盤状の薄板のガラス基板である。磁気ディスク用ガラス基板のサイズは問わないが、例えば、公称で直径2.5インチや3.5インチの磁気ディスク用ガラス基板として好適である。
磁気ディスク用ガラス基板は、一対の主表面と、一対の主表面に対して直交する方向に沿って配置された側壁面と、一対の主表面と側壁面との間に配置された一対の面取面とを有する。側壁面及び面取面は、磁気ディスク用ガラス基板の外周側の端部及び内周側の端部に形成されている。
【0022】
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板は、アモルファスガラスの他に、結晶化ガラス(クリスタルガラス)であってもよい。結晶化ガラスとすることによって、ガラス基板の硬度を高めて耐衝撃性を高めることができる。
【0023】
このような磁気ディスク用ガラス基板において、10〜500μmの波長成分の磁気ディスク用基板の主表面のうねりを、磁気ディスク用基板の中心軸を中心とした前記主表面の円周方向に沿って取得し、当該うねりから50〜100μmの範囲内の間隔で傾斜を取得したとき、前記傾斜の絶対値の平均値は、0.45×10
−4以下である。磁気ディスク用ガラス基板の主表面のうねりを、このようにうねりの傾斜を調整することにより、この磁気ディスク用ガラス基板を用いて作製された磁気ディスクは、後述するように、DFHヘッドを用いて記録、読み取りを行う際、DFHヘッドのR/W素子部の磨耗を抑制することができる。R/W素子部の磨耗が発生する場合、R/W素子部が磁気ディスクの表面の層と接触するので、安定した記録、読み取りが困難になる他、R/W素子部の磨耗が進むと記録、読み取りができなくなり、DFHヘッド及び磁気ディスクが損傷する虞がある。このように、R/W素子部の磨耗は、従来考慮されていない程度に微細な現象である。
【0024】
本実施形態において、10〜500μmの波長成分のうねりを、50〜100μmの範囲内の間隔で取得するのは、R/W素子部の寸法が50〜100μmであり、隆起したR/W素子部のサイズに対応したうねりの傾斜を調べるためである。このような波長のうねりは、後述するように、R/W素子部が磁気ディスクの表面と接して擦れ磨耗する摩耗量あるいは摩耗するか否かの結果と強い相関を有する。さらに、10〜500μmの波長成分のうねりの二乗平均平方根粗さRqが0.04nm以下であることが、DFHヘッド自体の浮上を安定させ、ひいては隆起したR/W素子部の浮上距離を安定して確保する点で好ましい。
【0025】
(磁気ディスク)
磁気ディスクは、例えば、磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、その主表面に近いほうから順に、例えば付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層が積層された構成を有する。このうち、少なくとも磁気記録層は必要である。
付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばRu、磁気記録層としては、例えばCoCrPt系合金を用いることができる。保護層は、例えば窒素を含有するカーボン層である。
また、付着層と磁気記録層との間には、SUL(軟磁性層)、シード層などを形成してもよい。このような層構成は、例えば特開2009−110626号公報段落0027〜0032を参照できる。
磁気ディスクは、磁気ディスクを固定するためのスピンドルと、磁気ヘッドとともに、磁気ディスクドライブ装置に組み込まれる。すなわち、磁気ディスクドライブ装置は、上述した磁気ディスク用ガラス基板の主表面に磁性層を形成した磁気ディスクと、磁気ディスクを固定するためのスピンドルと、磁気ヘッドとを備える。ここで、磁気ヘッドは、DFH機構を備えた磁気ヘッドであることが好ましい。
【0026】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法の説明)
本実施形態の製造方法では、まず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクの成形処理が行われる。次に、このガラスブランクの粗研削が行われる。この後、ガラスブランクに形状加工及び端面研磨が施される。この後、ガラスブランクから得られたガラス基板に固定砥粒を用いた精研削が行われる。この後、第1研磨、化学強化、及び、第2研磨がガラス基板に施される。なお、本実施形態では、上記流れで行うが、上記処理がある必要はなく、これらの処理は適宜行われなくてもよい。以下、各処理について、説明する。
【0027】
(a)ガラスブランクの成形
ガラスブランクの成形では、例えばプレス成形法を用いることができる。プレス成形法により、円形状のガラスブランクを得ることができる。さらに、ダウンドロー法、リドロー法、フュージョン法などの公知の製造方法を用いて製造することができる。これらの公知の製造方法で作られた板状ガラスブランクに対し、適宜形状加工を行うことによって磁気ディスク用ガラス基板の元となる円板状のガラス基板が得られる。
【0028】
(b)粗研削
粗研削では、ガラスブランクの両側の主表面の研削が行われる。研削材として、例えば遊離砥粒が用いられる。粗研削では、ガラスブランクが目標とする板厚寸法及び主表面の平坦度に略近づくように研削される。なお、粗研削は、成形されたガラスブランクの寸法精度あるいは表面粗さに応じて行われるものであり、場合によっては行われなくてもよい。
【0029】
(c)形状加工
次に、形状加工が行われる。形状加工では、ガラスブランクの成形後、公知の加工方法を用いて円孔を形成することにより、円孔があいた円盤形状のガラス基板を得る。その後、ガラス基板の端面の面取りを実施する。これにより、ガラス基板の端面には、主表面と直交している側壁面と、側壁面と両側のガラス主表面との間に、ガラス主表面に対して傾斜した面取り面が形成される。
【0030】
(d)端面研磨
次にガラス基板の端面研磨が行われる。端面研磨は、例えば研磨ブラシとガラス基板の端面との間に遊離砥粒を含む研磨液を供給して研磨ブラシとガラス基板とを相対的に移動させることにより研磨を行う処理である。端面研磨では、ガラス基板の内周側端面及び外周側端面を研磨対象とし、内周側端面及び外周側端面を鏡面状態にする。
【0031】
(e)精研削
次に、ガラス基板の主表面に精研削が施される。例えば、遊星歯車機構の両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削を行う。この場合、例えば固定砥粒を定盤に設けて研削する。あるいは遊離砥粒を用いた研削を行うこともできる。
【0032】
(f)第1研磨
次に、ガラス基板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、遊離砥粒を用いて、定盤に貼り付けられた研磨パッドを用いる。第1研磨は、例えば固定砥粒による研削を行った場合に主表面に残留したクラックや歪みの除去をする。第1研磨では、主表面端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面の表面粗さ、例えば算術平均粗さRaを低減することができる。
第1研磨に用いる遊離砥粒は特に制限されないが、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒などが用いられる。
【0033】
(g)化学強化
ガラス基板は適宜化学強化することができる。化学強化液として、例えば硝酸カリウム,硝酸ナトリウム、またはそれらの混合物を加熱して得られる溶融液を用いることができる。そして、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層にあるガラス組成中のリチウムイオンやナトリウムイオンが、それぞれ化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオンやカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス基板が強化される。
化学強化を行うタイミングは、適宜決定することができるが、化学強化の後に研磨を行うようにすると、表面の平滑化とともに化学強化によってガラス基板の表面に固着した異物を取り除くことができるので特に好ましい。また、化学強化は、必要に応じて行われればよく、行われなくてもよい。
【0034】
(h)第2研磨(鏡面研磨)
次に、化学強化後のガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨と同様の構成の研磨装置を用いて研磨する。第2研磨では、第1研磨に対して遊離砥粒の種類及び粒子サイズを変え、樹脂ポリッシャの硬度が軟らかいものを研磨パッドとして用いて鏡面研磨を行う。こうすることで主表面の端部の形状が過度に落ち込んだり突出したりすることを防止しつつ、主表面の粗さを低減することができる。鏡面研磨では、例えばAFM(原子力間顕微鏡)を用いて1μm角のエリアを256×256のサンプリング数により測定して求めた表面粗さRaが0.3nm以下となるように研磨することが好ましい。
【0035】
(i)第3研磨(テープ研磨)
第3研磨では、第2研磨後の低粗さのガラス基板の主表面に対して、例えばテープポリシングを行う。テープポリシングでは、研磨スラリーを供給しつつ、円周方向に回転させた基板の主表面にテープ状の研磨布を接触させることによって、ガラス基板の主表面を円周方向に研磨する方法である。第3研磨では、研磨条件を適宜調整することにより、磁気ディスク用ガラス基板の主表面の10〜500μmの波長成分の円周方向のうねりを、50〜100μmの範囲内の間隔で主表面の円周方向に沿って取得したとき、この主表面におけるうねりの傾斜の絶対値の平均値を、0.45×10
−4以下とすることができる。また、上記平均値を0.40×10
−4以下とするとより好ましく、0.30×10
−4以下とすることが特に好ましい。なお、上記平均値の下限は、0.05×10
−4である。
また、第3研磨において、磁気ディスク用ガラス基板の主表面の10〜500μmの波長成分のうねりの二乗平均平方根粗さRqが0.04nm以下となるように研磨することが、DFHヘッドの浮上を安定させる上で、好ましい。このうねりは、例えばレーザードップラー・バイブロメータを用いて測定すればよい。
【0036】
テープ研磨は、例えば以下の方法で行われる。すなわち、テープ研磨を行う対象の磁気ディスク用ガラス基板は、回転可能なスピンドルに支持されてセットされ、所定の速度で回転駆動される。一方、ローラに巻きつけられた研磨テープに研磨材を含む研磨液が供給され、このローラが研磨テープを磁気ディスクガラス基板の両主表面に押圧する。これにより、磁気ディスク用ガラス基板の主表面が研磨テープによってガラス基板の円周方向に沿って研磨される。研磨テープは、織布、不織布、植毛布、あるいは発泡ポリウレタン等の発泡体等で構成される。このような研磨の一例は、特開2004−178777号公報に開示されている。ここで、研磨剤としては、シリカを用いることが好ましい。研磨剤としてダイヤモンドを用いると微細な溝が形成されやすいが、シリカの砥粒を用いることで、微細な溝を形成せずに基板表面のうねりを円周方向に均す(ならす)ことが可能となる。これにより、円周方向のうねりの傾斜を小さくすることができる。なお、例えば研磨テープのガラス基板に対する押圧力を変更することで、円周方向のうねりの傾斜を制御することができる。
本件のテープ研磨では、円周方向に沿って延びる微細な溝(いわゆるテクスチャ)を形成することを目的としていない。微細な溝が形成されると、後述する軟磁性層の磁気特性が劣化する恐れがある。すなわち、表面粗さは異方性を有しないことが好ましい。このとき、主表面の半径方向(円周方向と直交する方向)における粗さは、円周方向における粗さとほぼ同等であることが好ましい。具体的には、AFM(原子間力顕微鏡)で5μm角のエリアを測定したときに、半径方向における算術平均粗さである平均線粗さ(Ra_rad)と円周方向における算術平均粗さである平均線粗さ(Ra_cir)との比(Ra_rad/Ra_cir)が0.95〜1.05の範囲内となるように加工することが好ましい。このように、ガラス基板の主表面の粗さは等方的であることが好ましい。
また、テープ研磨を実施する前のガラス基板の主表面の算術平均粗さ(Ra)は0.3nm以下であることが好ましい。また、テープ研磨を実施する前のガラス基板の主表面の10〜500μmの波長成分のうねりの二乗平均平方根粗さRqは0.1nm以下であることが好ましい。このようにテープ研磨前の粗さとうねりを調整することによって、円周方向のうねりの傾斜を適切に低減することができる。本件のテープ研磨は、研磨定盤による遊星歯車機構を用いた研磨とは異なり、ランダムな方向に研磨されないため、粗さやうねりが大きいと主表面全体の研磨にムラが出て基板表面を円周方向に均すことができない場合がある。
テープ研磨の研磨条件を適宜設定することで、第2研磨後よりもさらに粗さが低下するように研磨する。磁気ヘッドが浮上して磁気ディスクに対して相対的に移動する方向と同じ円周方向にガラス基板表面を研磨するので、DFHヘッドの磨耗を抑制することが可能となる。
【0037】
(実験例)
本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の効果を調べるために、主表面に種々のうねりを持つ磁気ディスク用ガラス基板を研磨の条件を変えて作製した(実験例1〜8)。この磁気ディスク用ガラス基板に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層を形成した磁気ディスクを作製した。
【0038】
磁気ディスクの作製前の磁気ディスク用ガラス基板の主表面の、中心軸から20.86mm離れた位置(半径20.86mm)において、10〜500μmの波長成分の磁気ディスク用ガラス基板の一周分の表面形状データを、光学表面分析装置(レーザードップラー・バイブロメータ)で取得した。
このとき、一周につき、65536個のデータを取得したので、データ間のピッチ距離は略2.0μmとなる。したがって、取得したデータを5個おきに抜き取って10μm毎のデータ(ピッチ10μm)とし、同様に、10個おきにデータを抜き取って20μmごとのデータ(ピッチ20μm)とし、同様に、50個、100個おきにデータを抜き取って50μm、100μmごとのデータ(ピッチ50μm、ピッチ100μm)とした。得られたデータを用いて、うねりの傾斜の絶対値の平均値を算出した。なお、他のいくつかの半径位置についても同様にしてうねりの傾斜の絶対値の平均値を算出したところ、半径20.86mmとほぼ同じ値が得られ、うねりの傾斜の絶対値の平均値の、半径方向の位置に拠る変化は見られなかった。なお、いずれの基板も、10〜500μmの波長成分のうねりの二乗平均平方根粗さRqは0.04nm以下であった。
一方、この磁気ディスク用ガラス基板から作製した磁気ディスクを用いて、DFHヘッドのR/W素子部の磨耗試験を行った。磨耗試験は、上述した試験である。磨耗試験では、磁気ディスク用ガラス基板の主表面の、中心軸から20.86mm離れた位置で、バックオフ量を0.2nmとして定点浮上させた。R/W素子部の浮上距離は、R/W素子部がタッチダウンしたときのヒータコイルに流した電流の値と、ヒータコイルに現在流す電流の値との差を得ることにより求めた。すなわち、電流の値が減った分だけR/W素子部の熱膨張が低下するので、電流の値がタッチダウン時の電流の値から減った電流の差を用いてR/W素子部の浮上距離を求めることができる。なお、予め、使用する磁気ヘッドにおいて、電流値と突き出し量の関係をプロットして記録しておくことが可能である。プロットは通常比例関係を示す。
【0039】
また、磨耗試験の前後において、磁気ディスクの、中心軸から22.0mm離れた位置で、R/W素子部の周りに設けられたヒータコイルに電流を流してR/W素子部をタッチダウンさせた。このときのヒータコイルに流した電流の値A(磨耗試験前)、及び電流の値B(磨耗試験後)を求めた。
電流の値Aと値Bとの差がR/W素子部の摩耗試験における摩耗量に対応する。この値の差に係数掛けて摩耗量に換算した。なお、摩耗量が0.8nm以下であれば、摩耗量が実質的に問題ないレベルであることを意味する。この程度であれば、ヘッドスライダー面表面の保護膜が十分残存しているためである。
【0040】
こうして実験例1〜8のうねりの傾斜と、摩耗量をグラフに表し、うねりの傾斜と摩耗量との間に相関があるか否かを調べた。下記表1は、実験例1〜8の結果を示す。
【0042】
図2(a)〜(d)は、上記表1の実験例1〜8の摩耗量0.2nm、0.6nm、0.8nm、1.0nm、1.5nm、4.0nm、6.0nmのデータのうち、ピッチ長10μm、20μm、50μm、及び100μmにおけるうねりの傾斜と摩耗量の関係を示す図である。
図2(a)〜(d)に示すように、ピッチ長50μm、100μmにおけるうねりの傾斜の対数が、R/W素子部における摩耗量と相関がある。このとき、うねりの傾斜を小さくするほど、摩耗量は小さくなることがわかる。特に磨耗量が4nm以下程度まではほぼ直線形の相関が得られている。この関係から、磨耗量を0.8nm以下にする場合、傾斜の絶対値の平均値を、0.45×10
−4以下(表1及び
図2(a)〜(d)では、×10
−4が省略されている)にすればよいことがわかる。
なお、ピッチ長が200μm、500μmの場合についてR/W素子部における摩耗量との相関を調べたところ、バラツキが大きく、明確な相関は得られなかった。
これより、磁気ディスク用基板の主表面の円周方向における10〜500μmの波長成分のうねりを取得し、当該うねりから50〜100μmの範囲内の間隔で傾斜を取得したとき、前記傾斜の絶対値の平均値は、0.45×10
−4以下とすることにより、摩耗量を実用的にHDDの寿命に大きく影響しない程度とすることができる。より好ましくは、上記平均値を0.40×10
−4以下とする。
【0043】
以上、本発明の磁気ディスク用基板、磁気ディスク、及び磁気ディスクドライブ装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。