(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して、本願に係る発明を実施するための形態について説明する。
図1(a)は本発明の一実施形態である空調防護服の概略正面図、
図1(b)はその空調防護服の概略裏面図である。
図2はその空調防護服のファスナーを開いたときに見える空調防護服の内側の様子を示す図である。
【0012】
本実施形態の空調防護服1は、空調服の機能を備えた防護服であり、
図1及び
図2に示すように、服本体10と、二つのファン(送風手段)20,20と、フィルター30と、複数の空気排出部40と、電源手段50と、電源ケーブル60と、後述する間隔手段70とを備える。この空調防護服1が外観上、通常の防護服と異なる主な点は、服本体10の後側部の左右にファン20,20が取り付けられている点、及び、ファン20,20の近傍を除く服本体10の所定部位に複数の空気排出部40が設けられている点である。
【0013】
服本体10は、通気性の小さな又は通気性の無いシート状素材で作製される。ここでは、そのシート状素材として不織布を用いている。この点は、通常の防護服と同様である。また、本実施形態では、服本体10をつづき服の形状に形成している。すなわち、服本体10は、上半身及び下半身を覆うと共にフードにより頭部を覆うことができる。また、服本体10の前部には、ファスナー(開閉手段)11が設けられている。このファスナー11は、服本体10を着用する際にその前部を開閉するためのものである。
【0014】
服本体10のうち手首に相当する部分(袖口部)及び足首に相当する部分(裾部)には、例えばゴム等の伸縮性のある部材が設けられている。これにより、服本体10の袖口部及び裾部は絞り込まれて身体に密着するようになるので、袖口部及び裾部から外部の空気が服本体10内に入り込まないようにすることができる。また、服本体10の所定部位、具体的には腰に相当する部分であって左右の側部にはそれぞれ、開口孔が形成されている。かかる開口孔にファン20が取り付けられる。すなわち、開口孔の周囲における服本体10の部分はファン取付部となっている。
【0015】
ファン20は、空気を外部から取り込んで、服本体10と身体又は下着との間の空間に空気の流れを強制的に生じさせるものである。このファン20は服本体10のファン取付部に取り付けられる。
図3(a)は本実施形態の空調防護服におけるファン20の概略正面図、
図3(b)はそのファン20の概略側面図である。
図4(a)は本実施形態の空調防護服におけるファン取付部の概略正面図、
図4(b)はそのファン取付部のA−A矢視方向概略断面図である。ファン20は、
図3に示すように、空気取込部21と、フランジ22と、フォルダー部23とを備える。
【0016】
空気取込部21は、複数の棒状部や輪状部から構成され、十分な通気性を有している。この空気取込部21は、空気の取込口としての役割を果たすと共に、外部から指などが入らないようにして回転中のプロペラから指を守るフィンガーガードとしての役割とを果たす。空気取込部21の外縁にはフランジ22が連なっている。このフランジ22の外形は四角形状である。フランジ22の下部にはフォルダー部23が連なっている。フォルダー部23は、モータ(不図示)やプロペラ(不図示)を収納するものであり、円筒状の筒状部231と、この筒状部231の下側に連なる空気放出部232とを有する。プロペラはモータの回転軸に取り付けられている。空気放出部232は複数の棒状部や輪状部から構成され、十分な通気性を有している。また、フォルダー部23の下側部にはモータに電力を供給するための入力端子24が設けられている。入力端子24に電力が供給されると、プロペラが回転して、空気が空気取込部21からフォルダー部23内に取り込まれ、空気放出部232から排出される。
【0017】
また、ファン取付部13は、
図4に示すように、開口孔12の周囲における服本体10の部分に形成されている。ここで、開口孔12は、ファン20の筒状部231の外径と同じ若しくはやや大きめの外径を有する。ファン取付部13は、四角形状の枠板131と、接着テープ132とを有する。枠板131の外形はフランジ22の外形と略同じである。枠板131は、開口孔12の周囲における服本体10の部分であって服本体10の表面側に取り付けられている。そして、その枠板131の上面には接着テープ132が設けられている。この接着テープ132を用いてファン20のフランジ22の下面を枠体131に接着することにより、ファン20は服本体10に取り付けられる
【0018】
次に、ファン20をファン取付部13に取り付ける手順を説明する。
図5はファン取付部13にファン20を取り付けるときの様子を示す概略側面図である。ファン20の近傍には、
図2に示すように予め電源ケーブル60の端部が配置されている。このため、まず、その電源ケーブル60の端部に設けられた接続端子を、ファン20の入力端子24に接続する。次に、
図5に示すように、服本体10の表面側からファン20の筒状部231を開口孔12に差し込む。そして、枠板131に設けられた接着テープ132により、ファン20のフランジ22の下面を枠体131に接着する。このように、ファン20は服本体10に容易に取り付けることができる。尚、ファン20をファン取付部13に取り付ける作業は、例えば空調防護服1の製造工程のうち最後の工程で行われる。
【0019】
フィルター30は、空気中の特定の物質、例えば有害物質を除去するためのものである。本実施形態の空調防護服1がこのフィルター30を備えているということは本発明の特徴の一つである。なお、以下では、特定の物質が有害物質である場合について説明する。本実施形態では、フィルター30としてシート状のものを用いている。そして、
図2に示すように、フィルター30の周端部は、そのフィルター30が服本体10の裏側から二つのファン20,20を取り囲むようにして服本体10の裏側に固着されている。ここで、フィルター30の周端部を服本体10の裏側に固着する際に、電源ケーブル60の略中央部もフィルター30と服本体10との間に隙間なく固着されている。これにより、電源ケーブル60の一部分はフィルター30の外側に位置し、電源ケーブル60の他の部分はフィルター30と服本体10との間に位置することになる。ここで、フィルター30と服本体10との間にある電源ケーブル60は、
図2において点線で示すように、二つに分岐している。これら分岐した電源ケーブル60の各先端部には、ファン20の入力端子24と接続するための接続端子が備わっている。また、フィルター30の外側にある電源ケーブル60の先端部には、電源手段50の出力端子(不図示)と接続するための接続端子が備わっている。
【0020】
また、服本体10の裏側には、電源手段50を収納するための内ポケット14が設けられている。電源手段50は、二つのファン20,20に電力を供給するためのものである。ここでは、電源手段50として、バッテリーを内蔵した電源装置を用いている。
【0021】
次に、本実施形態の空調防護服1で使用するフィルター30について考察する。
通常の空調服では、電源手段として充電式のバッテリーを使用している。そして、バッテリーの容量の関係上、その空調服に使用するファンとしては、消費電力が少なく静圧が低いプロペラファンを使用している。したがって、本実施形態の空調防護服1においてファン30としてプロペラファンを使用する場合には、フィルター30として空気抵抗の大きなフィルターを用いると、そのフィルターを介して取り込むことができる空気の量は低下してしまう。そこで、フィルター30としては、空気抵抗があまり大きくないフィルターを用いることが好ましい。
【0022】
近年、圧力損失が少なくしかも捕集効率が高いフィルターとして、表面が正負に永久帯電しているプラスチックファイバーで作製された不織布が各種用途に使用されている。しかしながら、このようなフィルターでは微粒子を静電的にプラスチックファイバー表面に引き付けるため、フィルターを透過する時の風速が大きいと、微粒子の捕集効率が下がってしまう。また、フィルターの表面積が小さいと、フィルターの空気抵抗によりそのフィルターを介して取り込むことができる空気の量が大幅に低下してしまう。
【0023】
この二つの問題、すなわち捕集効率の低下に関する問題と空気の取り込み量の低下に関する問題とを根本的に解決するためには、有効表面積の大きなフィルターを使用する必要がある。有効表面積が非常に大きければ、フィルターによる空気抵抗が非常に小さくなり、大量の空気を何ら支障なくフィルターを介して取り込むことができる。また、同一量の空気を取り込む場合、フィルターを透過する空気の速度はその空気が実際に透過する部分のフィルターの表面積に反比例する。このため、フィルターの表面積が大きいほどフィルターを透過する時の空気の速度は小さくなり、捕集効率は向上する。表面積を大きくする一般的な方法としてプリーツ加工による方法が知られているが、プリーツ加工をある一定以上の高密度で行なうと、逆に有効表面積が小さくなってしまい、したがって、プリーツ加工では有効表面積を飛躍的に大きくすることはできない。したがって、たとえシート状のフィルター30にプリーツ加工を施し、そのフィルター30を直接、ファン20の空気取込部21に取り付けたとしても、上記二つの問題が解決できず、空調防護服1は防護服としての機能を十分に発揮することができない。
【0024】
本実施形態の空調防護服1では、フィルター30をファン20の空気取込部21に取り付けるのではなく、フィルター30を通常の衣服の裏地のように服本体10の裏側に取り付けるので、フィルター30として、ファン20の空気取込部21の面積に比べて非常に大きな表面積を有するものを用いることができる。具体的に、本実施形態では、縦約40cm、横約90cm、表面積約3600cm
2のフィルター30を使用している。一般的な空調服に使用されるファンの空気取込部の面積は約40cm
2であり、本実施形態では、かかるファンを二つ使用しているので、空気取込部21の面積は合計約80cm
2である。したがって、本実施形態の空調防護服1では、ファン20の空気取込部21の面積に比べて約45倍の表面積を有するフィルター30を使用している。これにより、フィルター30の捕集効率の向上を図ると共に、大量の空気をフィルター30を介して服本体10と身体又は下着との間に取り込むことができる。尚、一般には、フィルター30として、ファン20の空気取込部21の面積に比べて約10倍以上の表面積を有するものを用いれば、捕集効率の低下に関する問題と空気の取り込み量の低下に関する問題とを解決することができる。
【0025】
空気排出部40は、服本体10と身体又は下着との間の空間内を流通する空気を外部に排出するためのものである。かかる空気排出部40は、開口孔12の近傍を除く服本体10の所定部位に設けられている。具体的には、
図1に示すように、服本体10のうち、袖口部の近傍に相当する部位、裾部の近傍に相当する部位、鎖骨に相当する部位、後頭部に相当する部位に、空気排出部40が設けられている。具体的に、空気排出部40は、それが設けられた服本体10の部位の表面から空気を外部に排出することができるシート状のものである。特に、本実施形態では、空気排出部40として、目の細かいメッシュ状素材であって撥水性を有するものを用いている。このため、たとえ汚染された水等が空気排出部40に降りかかったとしても服本体10の内側に浸入することはない。また、ファン20,20の駆動時には、空気排出部40からは空気が勢いよく外部に放出されるので、汚染された水や空気等の浸入を完全に防止することができる。
【0026】
間隔手段70は、通気性を有し、フィルター30と身体又は下着との間に間隔を保持するためのものである。
図6(a)は本実施形態の空調防護服1における間隔手段70の概略正面図、
図6(b)はその間隔手段70の概略側面図、
図6(c)はその間隔手段70を身体に装着したときの様子を示す図である。
図7は間隔手段70とフィルター30との位置関係を説明するための図である。
【0027】
間隔手段70は、
図6(a),(b)に示すように、横長のスペーサー71と、そのスペーサー71の両端部に設けられた装着手段72とを備える。ここで、装着手段72は、スペーサー71の両端に連なるゴムベルト部721,721と、各ゴムベルト部721,721の先端部に設けられた面状ファスナー722,722とを有する。スペーサー71としては、例えば特許第4067034号公報に記載されているように、柔軟性を有し、空気抵抗がきわめて小さい構造のものが用いられる。間隔手段70は、
図6(c)及び
図7に示すように、使用者が服本体10を着用したときにフィルター30とスペーサー71とが相対するように使用者の身体に装着される。例えば、使用者は、スペーサー71を胴体に巻き付け、面状ファスナー722,722同士を貼り付けることにより、間隔手段70を容易に装着することができる。
【0028】
次に、間隔手段70の役割について説明する。フィルター30は当然、ファン20から取り込まれた空気により力を受けて、身体又は下着のある側に移動する。もし間隔手段70が無いとすると、フィルター30の表面の一部が身体又は下着に張り付き、その張り付いたフィルター30の部位では空気が透過することが困難になり、フィルター30の有効面積が著しく小さくなってしまう。間隔手段70を用いることにより、フィルター30が身体又は下着に密着するのを防止し、フィルター30と身体又は下着との間に一定の間隔を確保すると共に、フィルター30を透過した空気をスペーサー71内に逃がすことができるので、フィルター30の有効面積が小さくなってしまうのを防止することができる。尚、フィルター30が空気から受ける力はごく小さいので、スペーサー71は耐圧性を有する必要はない。したがって、スペーサー30としては、必ずしも上記特許第4067034号公報に記載されているものを用いる必要がなく、例えば、一般的な立体織布に比べて糸の数が桁違いに少ない極低密度の立体織布を使用することも可能である。
【0029】
次に、本実施形態の空調防護服1を着用する手順について説明する。
まず、使用者は、服本体10の裏側に固着されたフィルター30の外側にある電源ケーブル60の先端部に設けられた接続端子を電源手段50の出力端子に接続する。そして、その電源手段50を服本体10の内ポケット14に収納する。このように使用者は電源手段50が取り付けられた状態の服本体10を予め準備しておく。次に、使用者は、スペーサー71を胴体に巻き付け、面状ファスナー722,722同士を貼り付けることにより、間隔手段70を身体に装着する。その後、使用者は、間隔手段70の上から、電源手段50が取り付けられた状態の服本体10を着用する。
【0030】
次に、本実施形態の空調防護服1の動作を詳しく説明する。
使用者が電源手段50のスイッチ(不図示)を操作すると、電源手段50からファン20,20に必要な強さの電力が供給される。これにより、二つのファン20,20は動作を開始し、外部の空気が服本体10の内側に取り込まれる。この取り込まれた空気はフィルター30を透過して行くが、その際、その空気に含まれる有害物質はフィルター30により除去される。また、ファン20,20から空気を取り込むことにより、服本体10内の圧力は陽圧になるため、服本体10と身体又は下着との間には空気流通路が自動的に形成される。フィルター30により有害物質が取り除かれた空気はこの空気流通路内を流通する。ここで、服本体10内の圧力が陽圧になることにより、たとえ服本体10の縫い目、ファスナー、袖口部等に多少の隙間が生じているとしても、その隙間から外部の空気(有害物質)が服本体10内に浸入することはない。このように、本実施形態の空調防護服1は、防護服としての優れた性能を有している。
【0031】
一方、フィルター30により有害物質が取り除かれた空気は空気流通路内を流通し、服本体10の各部位に設けられた空気排出部40から外部に排出される。このため、空気流通路内を流通する空気が使用者の身体から出た汗を気化させ、その気化するときの気化熱により身体を冷却することができる。このように、本実施形態の空調防護服1は、通常の空調服と同様の冷却効果を奏する。
【0032】
次に、本実施形態の空調防護服1を脱ぐ手順について説明する。
使用者は、まず服本体10を脱ぎ、次に間隔手段70を取り外すことにより、本実施形態の空調防護服1を脱ぐ。ここで、空調防護服1を脱ぐときには、通常の防護服を脱ぐときと同様に、空調防護服1の表面に付着した有害物質により使用者が汚染されないようにすることが肝要である。また、空調防護服1を脱いだ後には、各部品の処理を適切に行わなければならない。間隔手段70及び電源手段50は服本体10及びフィルター30により防護されているので汚染されていない。これに対し、ファン20は汚染された外部の空気を取り込むので汚染されている。同様に、電源ケーブル60も汚染されている。汚染されているファン20及び電源ケーブル60等についてはそのまま廃棄するか、或いは、汚染された区域で使用するスコップやペンチなどの工具などと同様に洗浄して再使用することになる。
【0033】
本実施形態の空調防護服では、服本体の裏側からファンを取り囲むようにフィルターを配置し、そのフィルターの周端部を服本体の裏側に固着したことにより、フィルターとして、ファンの空気取込部の面積に比べて大きな表面積を有するものを用いることができるので、フィルターの捕集効率の向上を図ると共に、大量の空気を、フィルターを介して服本体と身体又は下着との間に取り込むことができる。また、ファンから空気を取り込むことにより、服本体内の圧力は陽圧になり、服本体と身体又は下着との間には空気流通路が自動的に形成されると共に、たとえ服本体の袖口等に隙間が生じていても、その隙間から汚染された外部の空気が服本体内に浸入することはなく、したがって、防護性能の向上を図ることができる。更に、フィルターにより有害物質が取り除かれた空気を空気流通路内に流通させて複数の空気排出部から外部に排出することにより、空気流通路内を流通する空気が身体から出た汗を気化させ、その汗が気化する際の気化熱により使用者の身体を冷却することができる。
【0034】
尚、本実施形態の空調防護服において、ファンの位置よりも少し下の位置である腰に相当する服本体の部分に、例えば適正な伸縮性を有するゴム紐を縫い込むことにより、服本体の当該部分と腰との間に生じる隙間を小さくするようにしてもよい。この場合、二つのファンにより取り込まれた外部の空気が腰より下方に流れる量を制限することができるので、使用者の上半身を重点的に冷却することができる。
【0035】
尚、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0036】
上記の実施形態では、服本体としてつづき服の形状に形成されたものを用いた場合について説明した。防護服の中には、上衣とズボンとを別々に着衣するセパレートタイプのものがある。このような防護服では、上衣にだけ本発明の空調防護服の機能を持たせるようにしてもよい。この場合、その上衣の裾部にはゴム等の伸縮性のある部材を設けることにより、裾部を身体に密着させ、その裾部から服本体と身体又は下着との間の空間内を流れる空気が外部に漏れないようにする。服本体と身体又は下着との間の空間内を流れる空気は服本体の袖口部や、首に対応する服本体の部位等に設けられた空気排出部から外部に排出されることになる。また、上記セパレートタイプの防護服においてズボンにだけ本発明の空調防護服の機能を持たせるようにしてもよい。
【0037】
上記の実施形態では、空気排出部として目の細かいメッシュ状素材を用いた場合について説明したが、空気排出部としては、例えば多数の小孔やスリット等が形成されたシート状素材を用いるようにしてもよい。
【0038】
上記の実施形態では、服本体の袖口部及び裾部をゴム等で身体に密着させ、空気排出部としてメッシュ状素材を用いた場合について説明したが、空調防護服の使用中に常にファンを駆動させておく場合には、服本体と身体又は下着との間の空間を流通する空気は空気排出部から勢いよく排出され、空気排出部から外部の空気が浸入することはないので、空気排出部としては、従来の空調服に用いられているような開放された空気排出部(襟部の周囲や袖口)を用いることもできる。
【0039】
上記の実施形態では、服本体の素材として不織布を用いた場合について説明したが、服本体の素材としては、透湿性のない安価な素材を用いることができる。例えば通気性や透湿性が全く無いビニールシートのような素材を用いてもよい。
【0040】
上記の実施形態では、服本体に二つのファンを設けた場合について説明したが、服本体に三つ以上のファンを設けるようにしてもよい。
【0041】
上記の実施形態では、ファンを開口孔の周囲における服本体の部分に接着する場合について説明したが、通常の空調服に使用されているファンのように、ファンを開口孔に着脱自在に取り付けるようにしてもよい。具体的には、ファンとして、フランジを有するファン本体と嵌合手段としての環状部材とを備えるものを用いる。まず、ファン本体のフランジの下面が開口孔の周囲における服本体の部分の表面に接するようにファン本体を配置し、次に、環状部材を服本体の裏側からファン本体に差し込み、ファン本体と環状部材とを嵌合させることにより、服本体をファン本体と環状部材とで挟み込んで、ファンを服本体に取り付けることができる。ファンを取り外すには、ファン本体と環状部材との嵌合状態を解除すればよい。但し、ファンを服本体に取り付ける際に環状部材を服本体の裏側からファン本体に差し込む必要があるため、フィルターの全周端部が予め服本体に固着されていると、ファンの取付作業を行うことができない。したがって、この場合には、フィルターの周端部の一部を服本体に固着せず、服本体とフィルターとの間に環状部材や手の入る隙間を残しておき、この隙間を利用してファンの取付作業及び電源ケーブルの取付作業を行い、その後に、接着テープ等によりフィルターの未固着部分を服本体に接着するようにすればよい。尚、ファンを服本体に取り付ける方法としては、その他種々の一般的な方法を適用することができる。
【0042】
上記の実施形態では、一枚のフィルターで二つのファンを取り囲む場合について説明したが、ファンの数と同じ数のフィルターを用意し、各ファンを一枚のフィルターで取り囲むようにしてもよい。
【0043】
上記の実施形態では、服本体として、フィルターの周端部が予め服本体の裏側に固着されているものを用いた場合について説明したが、空調防護服を使用する際に、使用者が、使用目的に応じた特性を有するフィルターを選択し、そのフィルターの周端部を接着テープ等で服本体の裏側に固着するようにしてもよい。
【0044】
上記の実施形態では、フィルターとしてシート状のものを用いた場合について説明したが、フィルターの表面積をさらに大きくする目的で、プリーツ加工等を施したフィルターを用いるようにしてもよい。
【0045】
上記の実施形態では、ファンとしてその下部に電力供給用の入力端子が設けられたものを用い、電源ケーブルを服本体の内側に配置した場合について説明したが、ファンとしてその上部に電力供給用の入力端子を設けたものを用い、電源ケーブルを服本体の外側に配置するようにしてもよい。この場合、電源装置は服本体の表面に設けたポケットに収納することになる。
【0046】
上記の実施形態では、電源手段としてバッテリーを内蔵した電源装置を用いた場合について説明したが、空調防護服の用途によっては、電源手段として、ACアダプターや太陽電池等を使用することもできる。
【0047】
上記の実施形態では、空調防護服が間隔手段を備える場合について説明したが、フィルターの表面の大部分が身体又は下着と接しないような工夫を本発明の空調防護服に施すことにより、間隔手段を省略することも可能である。以下では、本発明の変形例として間隔手段を省略した空調防護服について説明する。
【0048】
図8(a)は本発明の第一変形例である空調防護服におけるフィルターの概略正面図、
図8(b)はそのフィルターの概略平面図、
図8(c)はそのフィルターのB−B矢視方向概略断面図である。この第一変形例では、
図8に示すように、フィルター30の複数の所定箇所(点状固定部31)が点状に服本体10に留められている。これにより、フィルター30と服本体10との距離を短く制限することができる。したがって、使用者がこの空調防護服を着用し、ファン20を駆動すると、
図8(b),(c)に示すように、フィルター30は服本体10から一定距離以上離れることができない。しかも、服本体10はフィルター30を透過した空気の圧力で膨らむので、使用中にフィルター30が身体又は下着と接するのを防止することができる。この第一変形例の空調防護服は、特にフィルター30の空気抵抗が小さい場合に用いるのに適している。
【0049】
図9は本発明の第二変形例である空調防護服を着用し、ファンを駆動したときの様子を示す図である。この第二変形例では、
図9に示すように、フィルター30が取り付けられる服本体10の部分に余裕を持たせて当該部分の長さがフィルター30の長さよりも長くなるように、ファン20の周囲における服本体10の部分を弛ませている。これにより、使用者がこの空調防護服を着用し、ファン20を駆動すると、フィルター30はファン20からの風圧を受けても弛まずに張られた状態になり、しかも、服本体10はフィルター30を透過した空気の圧力で膨らむので、使用中にフィルター30が身体又は下着と接するのを防止することができる。
【0050】
尚、間隔手段を省略した空調防護服としては、上記の各変形例に限定されるものではなく、各種の方法を適用したものが考えられる。また、上記の各変形例におけるフィルターと身体又は下着との間に間隔を設けるための方法そのものを間隔手段とみなすことも可能である。
【0051】
また、上記の実施形態では、フィルターが除去する特定の物質が有害物質である場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィルターが除去する特定の物質は、空気中に含まれる物質であればどのような物質であってもよく、例えば埃や塵や花粉等であってもよい。