【実施例】
【0081】
1.
測定法
用語及び測定法に関する下記定義は、別途記載のない限り、以下の実施例のみならず本発明の上記一般的説明にも適用される。
【0082】
分子量、分子量分布(Mn、Mw、MWD)−GPC
屈折率(RI)、オンライン4キャピラリーブリッジ粘度計(PL−BV 400−HT)、及び角度15°と90°のデュアル光散乱検出器(PL−LS 15/90光散乱検出器)を備えたPL 220(Agilent社)のGPCを使用した。Agilent社の3×Olexis及び1×Olexis Guardカラムを固定相として、1,2,4−トリクロロベンゼン(TCB、250mg/Lの2,6−ジtertブチル−4−メチル−フェノールで安定化)を移動相として、160℃及び一定流量1mL/分を適用した。200μLのサンプル溶液を分析ごとに注入した。すべてのサンプルは、8.0〜12.0mgのポリマーを10mL(160℃)の安定化TCB(移動相と同じ)中に、PPの場合2.5時間又はPEの場合3時間、160℃で連続的に穏やかに振盪しながら溶解することにより調製した。160℃におけるポリマー溶液の注入濃度(c160℃)は、以下のように決定した。
【0083】
【数5】
【0084】
式中、w
25はポリマー重量、V
25は25℃におけるTCBの体積。
対応する検出器定数ならびに検出器間の遅延容量(ディレイボリューム)は、モル質量132900g/mol及び粘度0.4789dl/gを持つ狭いPS標準(MWD=1.01)を用いて決定した。使用されたTCB中PS標準の対応するdn/dcは0.053cm
3/gである。計算は、Cirrus Multi−Offline SEC−Software Version 3.2(Agilent社)を用いて実施した。
【0085】
各溶出スライス(elution slice)におけるモル質量は、15°の光散乱角を用いることにより計算した。データ収集、データ処理及び計算は、Cirrus Multi SECSoftware Version 3.2を用いて実施した。分子量は、Cirrusソフトウェアの“sample calculation options subfield slice MW data from”のフィールド内の“use LS 15 angle”のオプションを用いて計算した。分子量決定のために使用されたdn/dcは、RI検出器の検出器定数、サンプルの濃度c及び分析サンプルの検出器応答の面積から計算した。
【0086】
各スライスにおけるこの分子量は、C.Jackson及びH.G.Barthによる(C.Jackson及びH.G.Barth,“Molecular Weight Sensitive Detectors”:Handbook of Size Exclusion Chromatography and related techniques,C.−S.Wu,第2版,Marcel Dekker,ニューヨーク,2004,p.103)に記載されているようにして低角度で計算する。LS検出器又はRI検出器のシグナルがそれぞれ少ない低分子及び高分子領域については、線形近似(linear fit)を用いて溶出体積を対応する分子量に相関させた。サンプルによって線形近似の領域を調整した。
【0087】
分子量平均(M
z、M
w及びM
n)、分子量分布(MWD)及び多分散度指数PDI=Mw/Mn(式中、Mnは数平均分子量であり、Mwは重量平均分子量である)によって説明されるその幅広さは、ISO 16014−4:2003及びASTM D 6474−99に従ってゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により、下記計算式を用いて決定した。
【0088】
【数6】
【0089】
一定の溶出体積区間ΔV
iについて、Ai及びMiは、GPC−LSによって決定されたクロマトグラフィーピークスライス面積及びポリオレフィン分子量(MW)である。
動的剪断測定(周波数掃引測定)
動的剪断測定による溶融ポリマーの特徴付けは、ISO標準6721−1及び6721−10に準拠する。測定は、25mmのパラレルプレートの配置を備えたAnton Paar MCR501応力制御回転式レオメーターで実施した。測定は、圧縮成形プレート上で、窒素雰囲気を用い、線形の粘弾性領域(linear viscoelastic regime)内の歪を設定して実施した。振動剪断試験は、190℃で、0.01〜600rad/sの周波数範囲を適用し、1.3mmのギャップを設定して実施した。
【0090】
動的剪断実験では、プローブは、正弦波的に変動する剪断歪又は剪断応力(それぞれ歪及び応力制御モード)で均一な変形に付される。制御された歪実験では、プローブは、
γ(t)=γ
0sin(ωt) (1)
によって表すことができる正弦波歪に付される。印加された歪が線形の粘弾性領域内であれば、得られる正弦波応力応答は、
σ(t)=σ
0sin(ωt+δ) (2)
[式中、
γ
0及びσ
0は、それぞれ応力及び歪の振幅であり、
ωは、角周波数であり、
δは、位相シフト(印加された歪及び応力応答間の損失角)であり、
tは、時間である]によって与えられる。
【0091】
動的試験の結果は、典型的には、いくつかの異なるレオロジー関数、すなわち剪断貯蔵弾性率G’、剪断損失弾性率G”、複素剪断弾性率G
*、複素剪断粘度η
*、動的剪断粘度η’、複素剪断粘度の異相成分η”、及び損失正接tanδによって表される。これらは以下のように表すことができる。
【0092】
【数7】
【0093】
上記レオロジー関数のほかに、いわゆる弾性指数EI(x)などのその他のレオロジーパラメーターも決定することができる。弾性指数EI(x)は、xkPaの損失弾性率G”の値に対して決定される貯蔵弾性率G’の値で、等式(9)によって記載できる。
【0094】
EI(x)=(G”=xkPa)に対するG’[Pa] (9)
例えば、EI(5kPa)は、5kPaに等しいG”の値に対して決定された貯蔵弾性率G’の値によって定義される。
【0095】
ゼロ剪断速度粘度η0は、以下のように計算される:
関数f’及びf”は以下のように定義される:
f’(ω)=G”(ω)
*ω/[G’(ω)
2+G”(ω)
2]
及び
f”(ω)=G’(ω)
*ω/[G’(ω)
2+G”(ω)
2]
f”に対するf’のプロットは、5個の最低測定周波数に対応するf’の点をf”のそれぞれの点に対してプロットすることにより作成される(f’はy軸上、f”はx軸上)。次に、点を通る最良適合直線を引き、その線をf”=0に外挿する。こうして、ゼロ剪断速度粘度は、切片値の逆数、すなわち、η
0=1/f’(f”=0)と見なされる。
【0096】
参考文献
[1] Rheological characterization of polyethylene fractions” Heino, E.L., Lehtinen, A., Tanner J., Seppala, J., Neste Oy, Porvoo, Finland, Theor. Appl. Rheol., Proc. Int. Congr. Rheol, 11
th (1992), 1, 360-362
[2] The influence of molecular structure on some rheological properties of polyethylene”, Heino, E.L., Borealis Polymers Oy, Porvoo, Finland, Annual Transactions of the Nordic Rheology Society, 1995.).
[3] Definition of terms relating to the non-ultimate mechanical properties of polymers, Pure & Appl. Chem., Vol. 70, No. 3, pp. 701-754, 1998.
NMR分光法による微細構造の定量化
定量的核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて、ポリマー中に存在する不飽和基の含量を定量した。定量的1H NMRスペクトルを、400.15MHzで運転するBruker Advance III 400 NMR分光計を用い、溶液状態で記録した。すべてのスペクトルは、13C最適化10mm選択励起プローブヘッドを用い、125℃で、全空気圧について窒素ガスを用いて記録された。
【0097】
約200mgの材料を、約3mgのHostanoxを安定剤として使用し、1,2−テトラクロロエタン−d2(TCE−d2)中に溶解した。30度のパルス、10sの緩和遅延及び10Hzのサンプル回転を利用する標準的シングルパルス励起を使用した。4回のダミースキャンを用い、各スペクトルあたり合計128のトランジェントを得た。この設定が選ばれたのは、主に不飽和の定量及びビニリデン基の安定に高分解能が必要とされたためであった。{he10a,busico05a}すべての化学シフトは、5.95ppmの残留プロトン化溶媒に由来するシグナルに対して内部参照された。
【0098】
末端ビニル基(R−CH=CH2)の存在に対応する特徴的シグナルが観察され、ビニリデン基の量が、官能基あたりのレポーティング部位の数を説明するそれぞれ4.95、4.98及び5.00、5.05ppmにおける連結末端Va及びVbプロトンの積分を用いて定量された:
Nvinyl=(IVa+IVb)/2
ビニル基の含量は、存在する炭素の総数に対するポリマー中のビニル基の割合として計算された:
Uvinyl=Nvinyl/Ctotal
内部ビニリデン基(RR’C=CH2)の存在に対応する特徴的シグナルが観察され、ビニリデン基の量が、官能基あたりのレポーティング部位の数を説明する4.74ppmにおける2個のD末端プロトンの積分を用いて定量された:
Nvinylidene=ID/2
ビニリデン基の含量は、存在する炭素の総数に対するポリマー中のビニリデン基の割合として計算された:
Uvinylidene=Nvinylidene/Ctotal
内部シス−ビニレン基(ERCH=CHR’)の存在に対応する特徴的シグナルが観察され、シス−ビニレン基の量が、官能基あたりのレポーティング部位の数を説明する5.39ppmにおける2個のCプロトンの積分を用いて定量された:
Ncis=IC/2
シス−ビニレン基の含量は、存在する炭素の総数に対するポリマー中のシス−ビニレン基の割合として計算された:
Ucis=Ncis/Ctotal
内部トランス−ビニレン基(Z−RCH=CHR’)の存在に対応する特徴的シグナルが観察され、トランス−ビニレン基の量が、官能基あたりのレポーティング部位の数を説明する5.45ppmにおける2個のTプロトンの積分を用いて定量された:
Ntrans=IT/2
トランス−ビニレン基の含量は、存在する炭素の総数に対するポリマー中のトランス−ビニレン基の割合として計算された:
Utrans=Ntrans/Ctotal
炭素の全量は、レポーティング核の数を説明する2.85〜−1.00の間のバルク脂肪族の積分に、この領域に含まれない不飽和に関連する部位を補って計算した:
Ctotal=(1/2)*(Ialiphatic+Nvinyl+Nvinylidene+Ncis+Ntrans)
不飽和基の全量は、個別に観察された不飽和基の合計として計算され、これも存在する炭素の総数に対して報告された:
Utotal=Uvinyl+Uvinylidene+Ucis+Utrans
不飽和含量は、不飽和基の量/100kCとして与えられる。ここで、100kCは100000個の炭素を意味する。
【0099】
特定の不飽和基(x)の相対含量は、不飽和基全量に対する所与の不飽和基の割合又はパーセンテージとして報告される:
[Ux]=Ux/Utotal
参考文献
he10a
He, Y., Qiu, X, and Zhou, Z., Mag. Res. Chem. 2010, 48, 537-542.
busico05a
Busico, V. et. al. Macromolecules, 2005, 38 (16), 6988-6996
メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、190℃で2.16kgの荷重を用いて測定される(MFR
2)。メルトフローレートは、ISO 1133に標準化された試験装置が2.16kgの荷重下、190℃の温度で10分以内に押し出すポリマーの量(グラム数)である。
【0100】
コーティング層のMFRは以下のようにして決定した。
コーティング層を支持体から剥ぎ取り、収集した。次に、コーティングをはさみで細かく切り刻み、細片を自動プレス機に入れた。自動プレス機を使用したのは、サンプルから空気を除去するためであった。自動プレス機内でポリマーフィルムの細片を溶融し、サンプルプレートにした。次にプレート(気泡を含まない)を小片にカットし、これらの小片を上記のようなMFR測定に使用した。自動プレス機によるサンプルプレートの製造は、ISO 293に準拠して実施した。
【0101】
密度
低密度ポリエチレン(LDPE):密度は、ISO 1183−2に従って測定した。サンプルの調製は、ISO 1872−2 表3 Q(圧縮成形)に従って実施した。
【0102】
引落速度DD(10g/m
2)は、試験中、コーティング重量を一定(10g/m
2)に維持することにより決定した。開始時のライン速度は100m/分で、それを5秒間で100m/分ずつ、フィルムが破断するか又は600m/分に達するまで、段階的に増大させた。
【0103】
ネックインは、ダイ開口部の幅と支持体上のコーティングの幅との差として決定した。
接着試験は、支持体とコーティング間の接着を評価するために行われる。コーティングと支持体を互いから手で引き剥がした。同じオペレーターが比較例及び実施例のサンプルを試験した。以下のように1〜5のランク付けを行った。
1 コーティングは支持体から非常に容易に剥離する。分離中、コーティングは支持体を全く引き裂かない。
2 コーティングは支持体から容易に分離できるが、支持体の一部は分離されたコーティングに付いてくる。
3 コーティングは支持体にほぼ完全に接着しているが、まだ狭い領域からは剥離することができる。
4 コーティングは支持体によく接着している。ゆっくり引き裂くことにより、狭い領域からコーティングを剥がすことも可能でありうる。
5 コーティングと支持体を分離することはできない。分離しようとすると支持体を引き裂いてしまう。
【0104】
熱間粘着力:
最大の熱間粘着力、すなわち力/温度図の最大値が決定され、報告される。
熱間粘着性の測定は、J&B熱間粘着性試験機を用い、方法ASTM F 1921に従って実施された。標準法では、サンプルを15mm幅の切片に切断することが求められる。サンプルを熱間粘着性試験機に垂直方向に入れ、両端を機械的ロックに取り付ける。次に、試験機により、シールし、ホットシールを引っ張り、抵抗力を測定する。
シール圧、1.5N/mm
2
シール時間、0.5秒
冷却時間、0.2秒
剥離速度、200mm/s
各サンプルの熱間粘着性は、90℃から、測定された熱間粘着力が1N未満の温度までの温度範囲で熱間粘着力を試験することにより確立された。標準法では、少なくとも3個の平行測定を実施することが求められる。温度は10℃ずつ上げた。
【0105】
実施例
PE1 は、Borealis AG社の市販の低密度ポリエチレン(LDPE)CA7230で、密度923kg/m
3及びメルトフローレートMFR
2(190℃)4.5g/10分を有する。さらに、4600Pasのη
0も有する。
【0106】
PE2 は、Borealis AG社の市販の低密度ポリエチレン(LDPE)CA8200で、密度920kg/m
3及びメルトフローレートMFR
2(190℃)7.5g/10分を有する。さらに、2600Pasのη
0も有する。
PE1とPE2はオートクレーブ反応器を用いて製造された。
【0107】
PE3 は、管型反応器で製造されたLDPEで、密度918kg/m
3及びメルトフローレートMFR
2(190℃、2.16kg、ISO 1133)5.7g/10分を有する。さらに、Mw:203000g/mol、ビニリデン含量:32/100kC、Mw/Mn:14.5、G’(G”=5kPa):3500Pa及びη
0:5200Pasを有する。これは、国際特許公開第WO−A−2013178242号の材料Aに関する記載のようにして製造された。
【0108】
MFRの低下
上記ポリマーPE1〜PE3を、ライン速度100m/分、コーティング重量20g/m
2、下表に記載の温度で押出コーティングに付し、MFR
2(190℃、2.16kg荷重)[g/10分]を決定した。結果を以下の表に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
接着性
コーティング重量30g/m
2を有するコーティングを、下表に示された温度で、UGクラフト紙にライン速度100m/分で適用し、接着性を上で概説したようにして決定した。
【0111】
【表2】
【0112】
第二の試験で、コーティング重量30g/m
2を有するコーティングを、315℃で、下表に示された支持体上にライン速度100m/分で適用した。
【0113】
【表3】
【0114】
このように、本発明の物品は改良された接着性を示す。
熱間粘着性試験でシール開始温度が決定された。結果を
図1に示す。ライン速度は100m/分、UGクラフト紙へのコーティング重量は20g/m
2であった。PE3は、高いゼロ剪断粘度も示す。すなわち、シールバーの下から散逸する溶融物の量が少なくなる。結果を
図2及び3に示す。
【0115】
PE3は、PE1と同じDSC融点、すなわち110℃を有する。
図から分かるように、PE3の熱間粘着性試験におけるシール開始温度は、PE1と比べて、DSC融点が同一であるにも関わらず著しく高い。さらに、PE3のシール開始温度は、PE2と比べて、融点が高い(110℃⇔108℃)にも関わらず同様である。さらに、PE3の接着性は、PE2と比べて、シール開始温度が同様であるにも関わらず著しく改良されている。