(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルタに前記スラリーを通して得られる研磨液のpHを、研磨処理を行う前に、酸性に調整する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の磁気ディスク用基板の製造方法。
平均粒径が40nm以下のコロイダルシリカを含むスラリーを、疎水性高分子材料からなり、開口径が100nm以下であるフィルタに通して、前記スラリーから、前記コロイダルシリカの粒径および前記平均粒径よりも大きな粒径の大径粒子であって、最大長さが厚さの5倍以上の形状をした板状異物を取り除くことにより、シリカ砥粒を含む研磨液を作製する、ことを特徴とする研磨液の製造方法。
【背景技術】
【0002】
今日、パーソナルコンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)記録装置等には、データ記録のためにハードディスク装置が内蔵されている。特に、ノート型パーソナルコンピュータ等の可搬性を前提とした機器に用いられるハードディスク装置では、ガラス基板に磁性層が設けられた磁気ディスクが用いられ、磁気ディスクの面上を僅かに浮上させた磁気ヘッド(DFH(Dynamic Flying Height)ヘッド)で磁性層に磁気記録情報が記録され、あるいは読み取られる。この磁気ディスクの基板には、金属基板等に比べて塑性変形をしにくい性質を持つことから、ガラス基板が好適に用いられている。磁気ヘッドによる磁気記録情報の読み書きを安定して行うために、磁気ディスク用ガラス基板の表面凹凸は可能な限り小さくすることが求められる。
【0003】
磁気ディスク用ガラス基板の表面凹凸を小さくするために、ガラス基板の研磨処理が行われる。ガラス基板を最終製品とするための精密な研磨に、シリカ(SiO
2)等の微細な研磨砥粒を含む研磨剤が用いられる。このような研磨剤は、研磨処理後のガラス基板の表面品質を高めるために、フィルタリング処理や遠心分離を行なうことで所定のサイズに揃えて研磨剤として用いられる。また、研磨処理時、シリカ砥粒を含むスラリーを循環させながら研磨に用いる場合、研磨に使用したスラリーをフィルタリングしたのち、研磨に再使用する。
例えば、研磨工程の最終工程において、ガラス基板の主表面のシリカ砥粒を用いた鏡面研磨処理が行われる。この鏡面研磨処理において、最小捕捉粒子径が1μm以下のフィルタを使用してフィルタリングした後の研磨液(シリカ砥粒を含む)を用いる磁気ディスク用ガラス基板の製造方法が知られている(特許文献1)。鏡面研磨処理後のガラス基板は、表面に付着した砥粒等の異物を除去するために、洗浄液で洗浄される(最終洗浄処理)。
【0004】
また、研磨処理前に、シリカ砥粒を含むスラリーをフィルタリングすることで、スラリーから異物を除去することも試みられている。例えば、特許文献2では、ポリエーテルサルフォン(PES)を用いたフィルタでスラリーをフィルタリングすることが試みられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
研磨処理後の最終洗浄処理において、磁気ディスク用ガラス基板の表面から砥粒等の異物を除去するためにエッチング力の高い洗浄液を用いると、磁気ディスク用ガラス基板が洗浄液によりエッチングされ、主表面に僅かな凹凸が形成される。この僅かな凹凸は、従来の磁気ヘッドの浮上距離よりも充分に小さく、かつては無視できる範囲であった。
【0007】
しかし、近年、磁気ディスクの記録密度の増加に伴い、微弱な磁界の読み取りおよび記録を確実に行うために、磁気ヘッドの磁気ディスク表面からの浮上距離を極めて小さくすることが行われている。このため、エッチングによる僅かな凹凸が無視できなくなってきた。そこで、従来よりもエッチング力の低い洗浄液を用いて、磁気ディスク用基板の最終洗浄処理を行うことが試みられている。
【0008】
一方、鏡面研磨処理後の磁気ディスク用基板の主表面には、研磨処理に用いるシリカ砥粒を含むスラリーに由来する異物が付着する場合がある。この異物の中には、極めて平たい形をした板状の異物(以下、板状異物という)がある。板状異物が磁気ディスク用基板の主表面に残存した状態で主表面に磁性層を形成すると、磁気ディスクの面上に表面凹凸が形成される。この磁気ディスクの磁気記録情報の読み書きを、極めて浮上距離の短い磁気ヘッドで行うと、磁気ヘッドがこの表面凹凸に衝突するおそれがある。この板状異物は、磁気ディスク用基板との付着面積が大きいため、エッチング力の低い洗浄液では容易に除去することができない。
【0009】
上記の板状異物は、概略球形状のシリカ砥粒の平均粒子径(d50)より大きな異形状の異物であるため、フィルタにより除去できるとも考えられる。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法を用いた体積分布に基づいて測定されるメディアン径を示す。
しかし、ポリエーテルサルフォンを用いたフィルタでスラリーを濾過すると、シリカ砥粒によるフィルタの目詰まりが生じ、スラリーから効率よく異物を除去することができなかった。
【0010】
そこで、本発明は、研磨液に含まれる異物を除去することで、磁気ディスク用基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる磁気ディスク用基板の製造方法
、磁気ディスクの製造方法、このような研磨液を効率よく製造することができるフィルタリング装置、及び研磨液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、ポリエーテルサルフォンを用いたフィルタにおいて、シリカ砥粒の目詰まりがし易い原因を検討した。その結果、シリカ粒子の表面は親水性であるため、親水性のポリエーテルサルフォンにシリカ粒子が付着しやすいことを見出し、また、小さいシリカ粒子ほど付着した後に離れにくいことも見出し、以下の方法を発明した。
【0012】
上記問題を解決するために、本発明の第1の態様は、磁気ディスク用基板の製造方法であって、 一対の研磨パッドで基板を挟み、前記研磨パッドと前記基板の間に砥粒を含む研磨液を供給して、前記研磨パッドと前記ガラス基板を相対的に摺動させることにより、前記磁気ディスク用基板の両主表面を研磨する研磨処理を含み、
前記砥粒は平均粒径40nm以下のコロイダルシリカであり、
前記研磨液は、前記砥粒および前記砥粒の平均粒径よりも大きな粒径の大径粒子
であって、最大長さが厚さの5倍以上の形状をした板状異物を含むスラリーに前記
板状異物を除去する除去処理を施すことによって得られ、
前記除去処理は、疎水性高分子材料からなり、開口径が100nm以下であるフィルタに前記スラリーを通す処理である、ことを特徴とする。
【0013】
疎水性高分子材料からなるフィルタには、スラリー中に含まれる砥粒や砥粒の平均粒径よりも大きな粒子が付着しにくいため、このフィルタにスラリーを通してもフィルタの目詰まりが生じにくい。このため、砥粒の平均粒径よりも大きな粒子を濾過残渣として効率よく除去することができる。
【0014】
前記スラリー中のコロイダルシリカの濃度を30重量%以下にして前記フィルタに通すことが好ましい。
【0015】
前記スラリーのpHを8以上13以下のアルカリ性の範囲に調整して前記フィルタに通すことが好ましい。
【0016】
前記疎水性高分子材料はポリフッ化ビニリデン(PVDF)であることが好ましい。
【0017】
前記フィルタは、相転移法により多孔質膜状に形成された疎水性高分子膜であることが好ましい。
【0018】
上記の製造方法は、水ガラスとイオン交換樹脂を用いて得られるコロイダルシリカを用いて研磨処理を行う場合に最適である。
【0019】
前記フィルタに前記スラリーを通して得られる研磨液のpHを、研磨処理を行う前に、酸性に調整することが好ましい。
前記板状異物は、ケイ酸塩からなる、ことが好ましい。
前記板状異物の最大長さは、70nm〜300nmである、ことが好ましい。
本発明の第2の態様は、前記磁気ディスク用基板の製造方法によって得られた磁気ディスク用基板の表面に少なくとも磁性層を形成する、ことを特徴とする磁気ディスクの製造方法である。
本発明の第3の態様は、平均粒径が40nm以下のコロイダルシリカを含むスラリーから、前記コロイダルシリカの粒径および前記平均粒径よりも大きな粒径の大径粒子
であって、最大長さが厚さの5倍以上の形状をした板状異物を取り除くためのフィルタリング装置であって、疎水性高分子材料からなり、開口径が100nm以下であるフィルタを備える、ことを特徴とするフィルタリング装置である。
本発明の第4の態様は、平均粒径が40nm以下のコロイダルシリカを含むスラリーを、疎水性高分子材料からなり、開口径が100nm以下であるフィルタに通して、前記スラリーから、前記コロイダルシリカの粒径および前記平均粒径よりも大きな粒径の大径粒子
であって、最大長さが厚さの5倍以上の形状をした板状異物を取り除くことにより、シリカ砥粒を含む研磨液を作製する、ことを特徴とする研磨液の製造方法である。
前記板状異物は、ケイ酸塩からなる、ことが好ましい。
前記板状異物の最大長さは、70nm〜300nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
上述の磁気ディスク用基板の製造方法
、フィルタリング装置、及び研磨液の製造方法によれば、研磨処理に用いるシリカ砥粒から板状異物のような異物を除去することができる。このため、磁気ディスク用基板の主表面に板状異物が付着せず、磁気ディスク用基板の研磨処理後の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る磁気ディスク用基板の製造方法
、磁気ディスクの製造方法、フィルタリング装置、及び研磨液の製造方法について説明する。
(磁気ディスク用基板)
まず、磁気ディスク用基板について説明する。磁気ディスク用基板は、円板形状であって、外周と同心の円形の中心孔がくり抜かれたリング状である。磁気ディスク用基板の両面の円環状領域に磁性層(記録領域)が形成されることで、磁気ディスクが形成される。磁気ディスク用基板として、ガラス基板や、表面にNiP合金膜が形成されたアルミニウム合金基板等を用いることができる。
【0022】
本実施形態においては、磁性層を形成する前に、鏡面研磨処理が行われる。鏡面研磨処理では、遊星歯車機構を備えた両面研磨装置を用いて、磁気ディスク用基板の主表面に対して研磨処理を行う。具体的には、磁気ディスク用基板の外周側端面を、両面研磨装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながら磁気ディスク用基板の両側の主表面の研磨を行う。両面研磨装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。磁気ディスク用基板の主表面と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動させることで、磁気ディスク用基板と研磨パッドとが相対的に移動し、磁気ディスク用基板の両主表面が研磨される。
【0023】
本実施形態においては、鏡面研磨処理に用いる研磨液として、コロイダルシリカ(シリカ砥粒)を遊離砥粒として含む研磨液が好ましい。
鏡面研磨処理に用いる研磨液に含まれるコロイダルシリカは、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル等を原料とするゾルゲル法、水ガラスを原料とするイオン交換法により製造することができる。この中でも、コスト面からイオン交換法により製造することが好ましい。
具体的には、ケイ砂とアルカリ剤(例えばNa
2CO
3、NaHCO
3、NaOH、K
2CO
3、KHCO
3、KOH等)とを混合し、加熱して熔融することでケイ酸塩を生成する。次に、得られたケイ酸塩を、必要に応じて冷却した後、水に溶解させることでケイ酸塩水溶液(水ガラス)を生成する。この水ガラスにプロトン型陽イオン交換樹脂を混合してケイ酸塩水溶液のpHを下げる。その後、所定の時間、所定の温度の加熱処理を行うことで、ケイ酸塩水溶液中でシラノール基同士の縮重合が促進され、コロイダルシリカが生成され、コロイダルシリカを砥粒として含むスラリーが得られる。
【0024】
このように生成されたコロイダルシリカを含むスラリーには、研磨砥粒として用いるのには不適切な、粒子径が大きい大径粒子(粗大粒子、板状物質等)が含まれる場合がある。具体的には、研磨砥粒として適したコロイダルシリカの平均粒子径が60nm以下、好ましくは10〜60nm、より好ましくは20〜50nmであるのに対し、砥粒として用いるのに不適切な大径粒子の粒子径は平均粒子径の2倍以上、より不適切なものは5倍以上である。例えば、大径粒子の粒子径は200nm〜1μmである。
また、このように生成されたコロイダルシリカを含むスラリーには、原料のケイ砂に由来する、板状物質が混在している場合がある。この板状物質はアルミニウムを含むケイ酸塩の結晶であり、この結晶は層状を成す層状ケイ酸塩(例えばモンモリロナイト、サポナイト、カオリナイトなどの層状粘土鉱物)である。この板状物質は、極めて平たい形をしている。このような板状物質が精密に研磨された表面に付着した場合、密着しやすいため、洗浄することが困難になるため、この板状物質はコロイダルシリカを含むスラリーに対する異物(以下、板状異物と称する)とみなされる。
この板状異物は、ケイ砂とアルカリ剤とを混合して熔融しても熔けることなく残存し、熔融物を水に溶解させて得られる水ガラス内、水ガラスから製造されるコロイダルシリカを含むスラリー内にも残存する。
【0025】
板状異物は、大径粒子のうち、最大長さが厚さの5倍以上の粒子が板状異物である。例えば板状異物の最大長さは50nm〜1μm、好ましくは70nm〜300nm、さらに好ましくは130〜240nm厚みは1〜25nm、好ましくは1〜5nmである。
ここで、板状異物の最大長さは、板状異物に外接する直方体枠の最も長い辺の長さをいい、板状異物の厚さはこの直方体枠の最も短い辺の長さをいう。ガラス基板に付着した板状異物をSEMやAFMで観察したとき、板状異物の輪郭線と外接する長方形の長辺の長さを最大長さ、板状異物の最大高さを厚さとすることができる。
本実施形態では、あらかじめ以下に説明する除去処理を行う。
【0026】
(除去処理)
除去処理は、スラリーをフィルタに通すことで、スラリーに含まれ砥粒の平均粒径よりも大きな粒径の粒子を濾過残渣として除去する処理である。
フィルタとして、疎水性高分子材料からなり、開口径が100nm以下である精密濾過膜を用いることができる。ここで、疎水性高分子材料とは、極性が小さく、水と水素結合を形成しにくい高分子からなる材料である。疎水性高分子材料からなるフィルタには、スラリー中に含まれる砥粒や砥粒の平均粒径よりも大きな粒子が付着しにくいため、このフィルタにスラリーを通してもフィルタの目詰まりが生じにくい。このため、砥粒の平均粒径よりも大きな粒子を濾過残渣として効率よく除去することができる。
このような疎水性高分子材料として、例えば水の接触角が(85〜125°)の材料を用いることができる。
ここで、開口径とは、開口に内接する円の直径である。例えば走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning Electron Microscope)によりフィルタの開口の形状を計測し、開口の開口径を求めることができる。
【0027】
精密濾過膜に用いる疎水性高分子材料として、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素樹脂等を用いることができる。フッ素樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)等を用いることができる。この中でも、撥水性の高いフッ素樹脂を用いることが好ましい。撥水性の高いフッ素樹脂を用いることで、フィルタとスラリーとの接触面積が低減されるため、フィルタの目詰まりをさらに低減することができる。
【0028】
濾過方法として、重力による自然濾過、減圧濾過(吸引濾過)、加圧濾過、遠心濾過、クロスフロー方式の限外濾過等の任意の方法を用いることができる。
【0029】
疎水性高分子材料からなる精密濾過膜を、多孔性のメンブレンフィルタとしてもよいし、疎水性高分子繊維からなる不織布状の濾過膜としてもよい。また、膜状の濾過材を圧縮成型して板状の濾過板としてもよい。また、中空糸膜形状、スパイラル膜形状、チューブラー膜形状としてもよく、濾過方法に応じて適宜選択することができる。
【0030】
本実施形態においては、疎水性高分子膜に設けられた開口の扁平率が0.3よりも小さいことが好ましく、開口が真円(扁平率が0)であることが最も好ましい。開口の扁平率が小さい疎水性高分子膜は、例えば相転移法により作成することができる。相転移法により多孔質膜状に形成された疎水性高分子膜は、扁平率が極めて小さい開口を有する。
相転移法では、具体的には、まず、疎水性高分子膜の材料となる高分子材料を溶媒に溶解させた溶液を、支持板に塗布する。次に、溶液が塗布された支持板を水等の非溶媒に浸漬する。すると、支持板に塗布された溶液中のポリマーが支持板に析出し、固相の多孔質膜が支持板上に形成される。
【0031】
溶媒は疎水性高分子膜の材料となる高分子材料を溶解するものから適宜選択することができる。非溶媒は疎水性高分子膜の材料となる高分子材料が難溶あるいは不溶であり、かつ、溶媒と混合しないものから、適宜選択することができる。
例えば、疎水性高分子膜の材料としてPVDFを選択し、溶媒としてトリエチルホスフェート(TEP)を選択し、非溶媒として水(脱イオン水)を選択することができる。
【0032】
上記のフィルタにスラリーを通すことで、スラリーに含まれ砥粒の平均粒径よりも大きな粒径の粒子を濾過残渣として除去することができる。ここで、スラリーの濾過を効率よく行うために、スラリー中のコロイダルシリカの濃度を30重量%以下、好ましくは5〜25重量%にしてフィルタに通すことが好ましい。コロイダルシリカの濃度を調整してフィルタに通したところ、コロイダルシリカの濃度が20重量%の場合には単位時間当たりのフィルタ通過量が800リットルであるのに対して、25重量%では430リットル、30重量%では150リットル、35重量%では30リットル、40重量%では10リットルとなり、コロイダルシリカの濃度が増加するにつれて急激にフィルタの通過量が減少し、フィルタの目詰まりを生じることが確認された。このため、第2研磨処理に用いるコロイダルシリカの濃度の範囲でできるだけスラリー中のコロイダルシリカの濃度を希釈した状態でフィルタ処理を行うことが好ましい。具体的には、第2研磨処理に用いるコロイダルシリカの濃度を20重量%以下として用いる場合、スラリー中のコロイダルシリカの濃度を20〜25重量%程度に希釈した状態でフィルタ処理を行う。
【0033】
また、砥粒のスラリー中での分散性を高めるために、スラリーのpHを8以上13以下のアルカリ性の範囲に調整してフィルタに通すことが好ましい。スラリーのpHをアルカリ性側に調整することで相対的にフィルタ通過量は増加し、pHを酸性側に調整することで相対的にフィルタ透過量は減少する。そのため、フィルタの目詰まりを防止するとともに、板状異物をコロイダルシリカ砥粒の研磨スラリーから好適に除去するために、スラリーのpHを8〜13のアルカリ性の範囲に調整することが好ましい。
【0034】
上記の除去処理を行った後、得られた研磨液中のコロイダルシリカを凝集させるために、コロイダルシリカの表面電荷を減少させる処理を行うことが好ましい。コロイダルシリカを凝集させることで、研磨レートを高めるとともに、研磨処理後のガラス基板の表面凹凸を小さくすることができる。
コロイダルシリカの表面電荷を減少させる方法として、研磨液のpHを1以上5以下の酸性に調整する方法がある。
あるいは、研磨液中のコロイダルシリカの表面電荷を減少させる添加剤(例えば、K
2SO
4,Na
2SO
4等の硫酸化合物、K
3PO
4,Na
3PO
4等の燐酸化合物、NaNO
3等の硝酸化合物)を添加することが好ましい。除去処理を行う前にコロイダルシリカの表面電荷を減少させると、表面電荷が正である吸着材が粗大粒子や板状異物に付着しにくくなり、粗大粒子や板状異物をスラリーから除去することが困難になる。
【0035】
上記の板状異物は、特にガラス基板の主表面に付着すると、その後の洗浄処理等で除去することは難しくなる。このため、あらかじめ板状異物を除去したコロイダルシリカを遊離砥粒に用いて行う鏡面研磨処理は、ガラス基板の鏡面研磨処理に好適である。磁気ディスク用ガラス基板に用いるガラスとして、具体的には、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス等が挙げられる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平面度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
ここで、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について説明する。
【0036】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
先ず、磁気ディスク用ガラスブランクをプレス成形により作製する。磁気ディスク用ガラスブランク(以降、単にガラスブランクという)は、一対の主表面を有する円板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材であって、中心孔がくり抜かれる前の形態である。
次に、作製されたガラスブランクの中心部分に孔をあけ、リング形状(円環状)のガラス基板を作製する。次に、穴をあけたガラス基板に対して形状加工を行う。次に、形状加工されたガラス基板に対して端面研磨を行う。次に、端面研磨の行われたガラス基板に、固定砥粒による研削を行う。次に、ガラス基板の主表面に第1研磨を行う。次に、ガラス基板に対して必要に応じて化学強化を行う。その後、ガラス基板に対して第2研磨(鏡面研磨)を行う。第2研磨後、洗浄処理を経て、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
以下、各処理について、さらに説明する。
【0037】
(a)プレス成形処理
溶融ガラス流の先端部を切断した溶融ガラスの塊を一対の金型のプレス成形面の間に挟みこみ、プレスしてガラスブランクを成形する。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。
【0038】
(b)円孔形成処理
ガラスブランクに対してコアドリル等を用いて円孔を形成することにより円形状の中央孔があいたガラス基板を得ることができる。
【0039】
(c)形状加工処理
形状加工処理では、円孔形成後のガラス基板の端部に対する面取り加工を行う。
【0040】
(d)端面研磨処理
端面研磨処理では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の粒子を遊離砥粒として含む砥粒スラリーが用いられる。
【0041】
(e)研削処理
固定砥粒による研削処理では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。具体的には、ガラスブランクから生成されたガラス基板の外周側端面を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研削を行う。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス基板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研削することができる。
【0042】
(f)第1研磨処理
第1研磨は、例えば固定砥粒による研削を行った場合に主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。
【0043】
第1研磨処理では、両面研削装置と同様の構成を備えた両面研磨装置を用い、遊離砥粒を含んだ研磨液を両面研磨装置に与えながらガラス基板が研磨される。遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム砥粒、酸化アルミニウム砥粒あるいはジルコニア砥粒など(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス基板が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。ガラス基板の主表面と研磨パッドとの間に研磨液を供給しながら、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動させることで、ガラス基板と研磨パッドとが相対的に移動し、ガラス基板の両主表面が研磨される。
【0044】
(g)化学強化処理
化学強化処理では、ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板を化学強化する。化学強化液として、例えば硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合熔融液等を用いることができる。なお、化学強化処理は実施しなくてもよい。
【0045】
(h)第2研磨(鏡面研磨)処理
第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。第2研磨処理が第1研磨処理と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
【0046】
第2研磨処理では、上述した除去処理を行って得られた、コロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液が用いられる。
第2研磨処理を実施することで、主表面の粗さ(Ra)を0.15nm以下かつ主表面のマイクロウェービネスを0.1nm以下とすることができる。
なお、第2研磨処理において、複数種類の研磨砥粒を用いて多段階の研磨処理を行ってもよい。例えば、コロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液を用いて研磨処理を行う前に、酸化セリウム(CeO
2)を遊離砥粒として含む研磨液を用いて研磨処理を行ってもよい。また、コロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液を用いて研磨処理を行った後に、さらにコロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液を用いて仕上げの研磨処理を行ってもよい。
【0047】
(i)洗浄処理
第2研磨処理の後、ガラス基板は、アルカリ洗浄液を用いてガラス基板の表面が洗浄され、磁性層が形成される前の磁気ディスク用ガラス基板となる。
このとき、洗浄処理では、洗浄処理前後のガラス基板の表面粗さRaの差が0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いることが好ましい。ガラス基板に付着する板状異物は、除去し難いため、従来、洗浄力の高いアルカリ洗浄液を従来用いていた。このため、洗浄力の強いアルカリ洗浄液は、板状異物のないガラス基板の主表面に作用して主表面を荒らし易い。しかし、本実施形態では、上述した除去処理を施したシリカ砥粒を用いて研磨処理を行うので、ガラス基板には板状異物は付着しない。このため、本実施形態では、従来に比べて洗浄力の弱いアルカリ洗浄液、すなわち、洗浄処理前後のガラス基板の表面粗さRaの差を0.05nm以下にするアルカリ洗浄液を用いることができる。なお、Raは、JIS B0601に規定される表面粗さである。この表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて1μm×1μmの範囲を256×256ピクセルの解像度で測定したデータに基づいて得られるものである。
【0048】
また、洗浄処理は、ガラス基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄であることが、ガラス基板に傷を作らない点で好ましい。従来の洗浄処理では、ガラス基板に強固に付着した板状異物を除去するために、ブラシや洗浄パッドでガラス基板を擦って、板状異物を除去するスクラブ洗浄を行なっていた。しかし、このスクラブ洗浄では、ガラス基板の主表面に傷を付け易い。本実施形態では、上述した除去処理を施したシリカ砥粒を含んだスラリーを用いて研磨するので、ガラス基板には板状異物が付着しない。このため、従来のようにスクラブ洗浄をしなくてもよい。このため、本実施形態では、ガラス基板を洗浄液に浸すあるいは接触させる非スクラブ洗浄をすることにより、不要な傷をガラス基板の主表面に付けることがなくなる。
【0049】
以上磁気ディスク用基板としてガラス基板を用いて説明してきたが、本発明はアルミニウム合金基板にも適用することができるものである。アルミニウム合金基板の場合には、アルミニウム合金を圧延し、円板状に切り出したアルミニウム合金素板の表面にNiPめっきを成膜したアルミニウム合金基板を用い、NiPめっき膜表面を研磨パッドを用いて研磨することとなる。アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクは軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層等がアルミニウム合金基板に積層して得られるものである。
【0050】
具体的には、以下の各処理工程を経て製造されるところ、研磨処理工程において用いられる研磨パッドはガラス基板の研磨工程において用いられる研磨パッドと同じものを用いることができる。
溶解したアルミニウム合金を鋳造し、圧延した後に円板状のアルミニウム合金素板として切り出し、主表面および端面を研削処理することにより所定の寸法に加工する。その後、アルミニウム合金素板の表面に5〜30μmの厚さでNiPめっき成膜処理を施し、アルミニウム合金基板とする。続いて、NiPめっきを施したアルミニウム合金基板の主表面を研磨パッドを用いて研磨処理することで微小うねりを低減する。研磨処理は通常、研磨砥粒の種類および粒径を変えて2段階で行われ、第1研磨処理では平均粒径が0.3〜3μmの酸化アルミニウム砥粒を含有したスラリーを用い、第2研磨処理では平均粒径が40nm以下、好ましくは5〜40nmのコロイダルシリカ砥粒を含有したスラリーを用いて、それぞれ開口処理を施した研磨パッド間に挟み込み相対的に摺動させることでアルミニウム合金基板表面のNiPめっき表面の傷やうねりを低減する。さらに、第1研磨処理の後および第2研磨処理の後には研磨処理後に基板表面に付着する研磨砥粒や研磨カス等のパーティクルを除去するため洗浄処理が行われる。この第2研磨処理において、上述した除去処理を行って得られた、コロイダルシリカを遊離砥粒として含む研磨液を用いることができる。
【0051】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
(コロイダルシリカの作成)
ケイ砂と炭酸ナトリウムとを原料としてイオン交換法によりコロイダルシリカを含むスラリーを得た。コロイダルシリカの平均粒子径は表1に示す通りである。
【0052】
(除去処理)
実施例では、相転移法により作成されたポリフッ化ビニリデン(PVDF)の多孔質膜を用意し、これをフィルタとして用いた。用意した多孔質膜の開口径は表1に示す通りである。
上記のスラリー中のコロイダルシリカの濃度を30重量%以下に調整するとともに、スラリーのpHを10に調整してフィルタに通した。
【0053】
比較例では、相転移法により作成されたポリエーテルサルフォン(PES)の多孔質膜を用意し、これをフィルタとして用いた。用意した多孔質膜の開口径は表1に示す通りである。
比較例においても、上記のスラリー中のコロイダルシリカの濃度を30重量%以下に調整するとともに、スラリーのpHを10に調整してフィルタに通そうとした。しかし、フィルタの目詰まりが生じ、フィルタに通すことができなかった。
このため、比較例では以後の処理を行うことができず、実施例のみで以後の処理を行った。
【0054】
(ガラス基板の研磨処理)
次に、分離処理でフィルタを通過した濾液のpHを3に調整し、これを研磨液として用いて、ガラス基板の鏡面研磨処理を行った。ガラス基板の主表面とポリウレタン製の研磨パッドとの間に、上記の研磨液を供給しながら、研磨パッドをガラス基板の主表面に対して相対移動させることでガラス基板の主表面を研磨した。
上述した磨処理後、洗浄、乾燥したガラス基板の主表面について、レーザー式の表面検査装置を用いて異物又は欠陥の検出を行った。レーザーの閾値を異物又は欠陥の検出数が20個以下となる範囲に設定し、検出された異物又は欠陥について、SEM(走査型電子顕微鏡)又はAFM(原子間力顕微鏡)を用いて、長径が100nm以上となる異物の数をカウントした。次に断面TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、長径が100nm以上の異物に対して、層状の平板異物(層状ケイ酸塩からなる板状異物)であるか否かを確認した。フィルタによる除去処理を行っていないイオン交換法によるシリカを含んだスラリーで研磨したガラス基板では、ガラス基板の表裏の主表面に複数の層状平板異物が付着していることが確認された(2個/枚以上の層状平板異物が付着している)。一方、イオン交換法によるシリカを含んだスラリーについてフィルタによる異物の除去処理を行った後に基板を研磨した場合には、ガラス基板の表裏の主表面に付着した層状平板異物は検出されなかった(基板主表面には層状平板異物の付着がない)。
【0055】
〔ガラス基板主表面の異物の評価〕
研磨処理後、洗浄、乾燥したガラス基板の主表面について、レーザー式の表面検査装置とSEM、AFMを用いて異物の検出と同定を行った。同じ条件で製造したガラス基板100枚について、1枚あたり1ポイントずつ異物を検出、同定し、合計100ポイントにおける当たりの異物の数が0個の場合をA、1〜2個の場合をB、3〜10個の場合をC、11個以上の場合をDと評価した。評価がA、B又はCであれば研磨液として使用可能である。
結果を表1に示す。
【0057】
実施例1〜6のガラス基板についてはガラス基板100枚当たりの異物数が2個以下であり、スラリーを疎水性高分子材料からなるフィルタに通過させて得られる濾液は研磨液として好適であることがわかる。
【0058】
以上、本発明の磁気ディスク用基板の製造方法
、磁気ディスクの製造方法、フィルタリング装置、及び研磨液の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。