特許第6374579号(P6374579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6374579環状ジペプチドを有効成分とする皮膚保湿機能改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374579
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】環状ジペプチドを有効成分とする皮膚保湿機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20180806BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180806BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20180806BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20180806BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20180806BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   A61K8/64
   A61Q19/00
   A61K38/05
   A61P17/16
   A23L33/18
   A23L2/00 F
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-144952(P2017-144952)
(22)【出願日】2017年7月26日
(62)【分割の表示】特願2016-555249(P2016-555249)の分割
【原出願日】2015年10月21日
(65)【公開番号】特開2018-21030(P2018-21030A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2017年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-215362(P2014-215362)
(32)【優先日】2014年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-215365(P2014-215365)
(32)【優先日】2014年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】富貴澤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】三澤 いづみ
【審査官】 田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−327575(JP,A)
【文献】 特開2010−024200(JP,A)
【文献】 特表2012−517998(JP,A)
【文献】 特表2006−525968(JP,A)
【文献】 特開2010−166911(JP,A)
【文献】 特開平07−247475(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0185866(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 38/00−38/58
A61P 1/00−43/00
A23L 5/40− 5/49
A23L 31/00−33/29
A23L 2/00− 2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の総量が1.0×10〜1.0×10ppmである皮膚の保湿機能改善用組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕及びシクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕を含むものであり、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:1.0×10〜6.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物であって、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:1.0×10〜6.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の組成物であって、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:5.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:4.0×10〜6.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、さらにシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される一以上のものを含むものであり、
組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩の含有量が、
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:1.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物であって、
組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩の含有量が、
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:1.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の組成物であって、
組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩の含有量が、
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:6.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項7】
アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の総量が1.0×10〜1.0×10ppmである皮膚の保湿機能改善用組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕を含むものであり、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:5.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:4.0×10〜6.0×10ppm
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:6.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
である、前記組成物。
【請求項8】
アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩が、コラーゲンから得られたものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
皮膚の保湿機能改善により発揮される機能の表示を付した、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
飲食品である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
皮膚の保湿機能改善作用が、セラミドの産生量の増大に起因するものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
セラミドの産生量の増大が、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)遺伝子の発現促進に起因するものである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
皮膚の保湿機能改善作用が、フィラグリン遺伝子の発現促進に起因するものである、1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
皮膚の保湿機能改善作用が、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現促進に起因するものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
皮膚の保湿機能改善作用が、トランスグルタミナーゼ3遺伝子の発現促進に起因するものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
肌荒れ防止作用を有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の環状ジペプチド又はその塩を有効成分として含有する皮膚の保湿機能改善剤に関する。さらに詳しくは、アミノ酸を構成単位とする特定の環状ジペプチド又はその塩を有効成分とする皮膚の保湿機能改善剤、皮膚の保湿機能を改善するための当該剤の使用、及び皮膚の保湿機能を改善する方法に関する。また本発明は、特定の環状ジペプチドを含有する組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸が二つ結合した「ジペプチド」が機能性物質として注目されている。ジペプチドは、単体アミノ酸にない物理的性質や新たな機能を付加することが可能であり、アミノ酸以上の応用範囲を有するものとして期待されている。牛乳、小麦、ゴマ、大豆、豚肉及びイワシ等に含まれるジペプチドが示す生理活性がこれまでに報告されている。トリプトファンとヒスチジンが結合したジペプチド(Trp-His)を動物に投与することにより、動脈硬化の進展が抑制されるという報告(非特許文献1)がある。また、美容に関連した成分として、コラーゲンペプチドの経口摂取後に高濃度に血中で検出されるジペプチドであるプロリルヒドロキシプロリン(Pro-Hyp)やロイシルヒドロキシプロリン(Leu-Hyp)にはコラーゲン合成促進作用が報告されており、コラーゲンペプチドの摂取が肌弾力の維持、増進に寄与することが期待される(特許文献1)。このようなジペプチドは、医薬品等の有効成分として、健康の維持や生活習慣病の予防・改善を目的に活用されている。
【0003】
近年、ジペプチドの末端に存在するアミノ基とカルボキシル基とが脱水縮合することにより生成した環状構造を有する環状のジペプチドであるジケトピペラジン誘導体が開発されている。当該環状ジペプチドは、様々な生理活性を有することが報告されており、医療・薬理分野において需要が拡大することが予想されている。例えば、特許文献2には、2,5−ジケトピペラジン構造を有する環状ジペプチドが、抗うつ作用や学習意欲改善作用等を有することが報告されている。また、非特許文献2には、環状ジペプチド〔Cyclo(His-Pro)〕が、体温を低下させたり、食欲を抑制させるなどの中枢神経系作用や、プロラクチン分泌を抑制したり、成長ホルモン分泌を促進するなどのホルモン様作用など多くの生理活性を示すことが記載され、環状ジペプチド〔Cyclo(Leu-Gly)〕が記憶機能改善作用を示すことや、環状ジペプチド〔Cyclo(Asp-Pro)〕が脂肪嗜好性抑制作用を示すことが報告されている。また、非特許文献3には、環状ジペプチド〔Cyclo(Trp-Pro)〕に抗ガン作用、環状ジペプチド〔Cyclo(His-Pro)〕や〔Cyclo(Gly-Pro)〕に抗菌作用、環状ジペプチド〔Cyclo(His-Pro)〕に神経保護作用、環状ジペプチド〔Cyclo(Gly-Pro)〕に記憶機能改善作用、環状ジペプチド〔Cyclo(Tyr-Pro)〕や〔Cyclo(Phe-Pro)〕に生物性除草剤としての作用があることが記載されている。しかし、環状ジペプチドの生理活性に関しては、依然として未解明の機能も多いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−024200号公報
【特許文献2】特表2012−517998号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】British Journal of Nutrition, 103(3), 309-313, 2010
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリー, 60(7), 454-457, 2002
【非特許文献3】Chemical Reviews, 112, 3641-3716, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、皮膚の保湿機能改善作用を有する剤、皮膚の保湿機能を改善するための当該剤の使用、及び皮膚の保湿機能を改善する方法を提供すること等にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、環状ジペプチドは直鎖状のジペプチドと比較して脂溶性が高く、消化管透過性や膜透過性に優れることを見出した。さらに、特定の環状ジペプチドがセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)遺伝子発現の促進作用、フィラグリン遺伝子発現の促進作用、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子発現の促進作用、及びトランスグルタミナーゼ3遺伝子発現の促進作用を有することを見出し、その結果、皮膚の保湿機能を顕著に改善すると考えられ、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下のものに関するが、これらに限定されない。
(1).アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩を有効成分として含有する、皮膚の保湿機能改善剤であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸を構成単位として含むものである、前記剤。
(2).(1)に記載の剤であって、前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含むものである、前記剤。
(3).皮膚の保湿機能改善作用が、セラミドの産生量の増大に起因するものである、(1)又は(2)に記載の剤。
(4).セラミドの産生量の増大が、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)遺伝子の発現促進に起因するものである、(3)に記載の剤。
(5).皮膚の保湿機能改善作用が、フィラグリン遺伝子の発現促進に起因するものである、(1)又は(2)に記載の剤。
(6).皮膚の保湿機能改善作用が、ヒアルロン酸合成酵素3遺伝子の発現促進に起因するものである、(1)又は(2)に記載の剤。
(7).皮膚の保湿機能改善作用が、トランスグルタミナーゼ3遺伝子の発現促進に起因するものである、(1)又は(2)に記載の剤。
(8).肌荒れ防止作用を有する、(1)〜(7)のいずれかに記載の剤。
(9).アトピー性皮膚炎改善作用を有する、(1)〜(8)のいずれかに記載の剤。
(10).(1)〜(9)のいずれかに記載の剤を含む組成物。
(11).皮膚の保湿機能改善により発揮される機能の表示を付した(10)に記載の組成物。
(12).アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の総量が1.0×10〜1.0×10ppmである組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕及びシクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕を含むものであり、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:1.0×10〜6.0×10ppm
である、前記組成物。
(13).(12)に記載の組成物であって、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:1.0×10〜6.0×10ppm
である、前記組成物。
(14).(12)に記載の組成物であって、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:5.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:4.0×10〜6.0×10ppm
である、前記組成物。
(15).(12)〜(14)のいずれかに記載の組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、さらにシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される一以上のものを含むものであり、
組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩の含有量が、
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:1.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm
である、前記組成物。
(16).(15)に記載の組成物であって、
組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩の含有量が、
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:1.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
である、前記組成物。
(17).(15)に記載の組成物であって、
組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩の含有量が、
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:6.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
である、前記組成物。
(18).アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の総量が1.0×10〜1.0×10ppmである組成物であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕を含むものであり、
組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が、
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:5.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:4.0×10〜6.0×10ppm
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:6.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
である、前記組成物。
(19).アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩が、コラーゲンから得られたものである、(12)〜(18)のいずれかに記載の組成物。
(20).皮膚の保湿機能改善により発揮される機能の表示を付した、(12)〜(19)のいずれかに記載の組成物。
(21).飲食品である、(12)〜(20)のいずれかに記載の組成物。
(22).皮膚の保湿機能を改善するための、アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の使用であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含むものである、前記使用。
(23).アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩を有効成分として使用する、皮膚の保湿機能を改善する方法であって、
前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含むものである、前記方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、特定の環状ジペプチド又はその塩を、皮膚の保湿機能の改善を目的とした剤に利用することが可能になる。本発明では、特定の環状ジペプチド又はその塩の有するSPT遺伝子の発現促進作用に起因するセラミド産生の増大効果、及び特定の環状ジペプチド又はその塩の有するフィラグリン遺伝子の発現促進作用に伴うフィラグリン産生の増大効果を利用することで、優れた保湿効果が得られ、乾燥肌や肌荒れの改善効果を奏する。本発明による皮膚の保湿機能の改善は、アトピー性皮膚炎や尋常性魚鱗癬の症状の改善に資する新たな手段を提供することに繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1には、環状ジペプチドがセラミド合成に関与するSPT遺伝子発現に与える影響を示す。
図2図2には、環状ジペプチドがフィラグリン遺伝子発現に与える影響を示す。
図3図3には、直鎖状ジペプチド及び環状ジペプチドのCaco−2細胞膜の透過性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、特定の環状ジペプチド又はその塩を有効成分とする皮膚の保湿機能の改善剤である。尚、本明細書において、環状ジペプチド又はその塩をまとめて、単に、環状ジペプチドと称する場合がある。
【0012】
<環状ジペプチド>
本明細書でいう環状ジペプチドとは、アミノ酸を構成単位とすることを特徴とし、アミノ酸のアミノ基とカルボキシル基とが脱水縮合することにより生成したジケトピペラジン構造を有するジペプチドのことをいう。尚、本明細書において、環状ジペプチドのアミノ酸の構成が同じであれば、それらの記載順序はいずれが先でも構わなく、例えば、〔Cyclo(Pro-Hyp)〕と〔Cyclo(Hyp-Pro)〕は同じ環状ジペプチドを表すものである。
【0013】
環状ジペプチドはアミド結合を介して二個のアミノ酸の末端部分が結合しているため、分子末端部分に極性基であるカルボキシル基やアミノ基が露出している直鎖状ジペプチドと比較して脂溶性が高いという特徴を有する。そのため、特に皮膚外用剤として使用する場合に直鎖状ジペプチドと比較してより高い皮膚透過性が期待できる。
【0014】
本発明は、プロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸を構成単位として含む環状ジペプチドあるいはその塩を有効成分とするものである。より好ましくは、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上のものを含む環状ジペプチド又はその塩を有効成分とするものである。
【0015】
中でも、セラミド産生の増大効果の観点から、有効成分である環状ジペプチドとしては、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕が特に好ましい。また、フィラグリン遺伝子の発現促進効果の観点から、有効成分である環状ジペプチドとしては、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕が特に好ましい。
【0016】
本明細書において、環状ジペプチドの塩とは、前記環状ジペプチドの薬理学的に許容される任意の塩(無機塩及び有機塩を含む)をいい、例えば、前記環状ジペプチドのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、燐酸塩、有機酸塩(酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、プロピオン酸塩、蟻酸塩、安息香酸塩、ピクリン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩等)等が挙げられるが、これらに限定されない。環状ジペプチドの塩は、当該分野で公知の任意の方法により、当業者によって容易に調製され得る。
【0017】
本発明で用いる環状ジペプチドは、当該分野で公知の方法に従って調製することができる。例えば、化学合成方法や酵素法、微生物発酵法により製造されてもよく、直鎖状ペプチドを脱水及び環化させることにより合成されてもよく、特開2003−252896号公報やJournal of Peptide Science, 10, 737-737, 2004に記載の方法に従って調製することもできる。例えば、コラーゲン、又はコラーゲンの酵素処理や熱処理によって得られるコラーゲンペプチドを、さらに熱処理して得られる処理物を有効成分を含むものとして用いることができる。即ち、本発明において、アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチドはコラーゲンから得られたものであってもよい。また、コラーゲン処理物中の特定の環状ジペプチドが特定の含有量に満たなければ、不足する特定の環状ジペプチドを適宜追加することもできる。
【0018】
コラーゲン又はコラーゲンペプチドを含有する溶液を熱処理して得られる処理物とは、具体的には、例えば、コラーゲンペプチドを水に20〜500g/mLの濃度で溶解させ、好ましくは100℃より高温の条件で、5分〜120時間、好ましくは3〜10時間加熱して調製することができる。また、より好ましくは100〜170℃、さらに好ましくは110〜150℃、さらにより好ましくは120〜140℃で加熱することができる。さらに、加熱時間は30〜600分がより好ましく、180〜600分程度がさらにより好ましい。よって、好ましい具体例としては、コラーゲンペプチドを水に20〜500g/mLの濃度で溶解させ、100〜170℃の条件で、3〜10時間加熱して調製することが挙げられる。得られた処理物に対して、所望により、ろ過、遠心分離、濃縮、限外ろ過、凍結乾燥、粉末化等の処理を行ってもよい。
【0019】
以上のようにして得られた環状ジペプチド又はその塩は、セラミド及び/又はフィラグリンの産生量を増大することで、皮膚の保湿機能を改善する。
【0020】
<セラミド及びセリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)>
本明細書においてセラミドとは、スフィンゴ脂質の一種であり、スフィンゴ脂質、スフィンゴ糖脂質、又はこれらの混合物からなる。セラミドは、皮膚の最外層である角層において、皮膚の保湿機能やバリア機能に重要な役割を果たしている。またセラミドは、表皮細胞中で産生及び分泌された後に、角層中の細胞間ラメラ構造を構築することで皮膚の保湿効果を発揮し、皮膚の保護作用や肌荒れ防止の効果を有することが知られている。乾燥肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症及び乾癬等の皮膚疾患においては、セラミドの正常な代謝が妨げられ、角層中のセラミド量が減少し、皮膚の保湿機能やバリア機能の低下等を引き起こしていることが数多く報告されている。従って、表皮細胞におけるセラミド産生を増大し、角層中のセラミド量を増加させることができれば、皮膚の保湿機能やバリア機能を高めることができ、角層中のセラミド量の低下に伴う皮膚疾患、例えば、乾燥肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症及び乾癬等の予防や改善に有用である。
【0021】
本明細書において、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)とは、セラミドの合成に関与する酵素のことをいう。セラミド合成の第一段階では、SPTによってパルミトイルCoAと非必須アミノ酸L−セリンが縮合し、3−ケトスフィンガニンが生成されることが知られている。セラミド合成酵素欠損マウス(SPTノックアウトマウス)においては、野生型マウスと比較して表皮のセラミドレベルが低下し、その結果保湿機能が悪化する(Journal of Investigative Dermatology, 133(11), 2555-2565, 2013)。従って、SPT遺伝子の発現を促進することで、体内のセラミド産生が増大し、皮膚の保湿機能の改善効果を得ることができる。
【0022】
<フィラグリン>
本明細書においてフィラグリンとは、フィラメント凝集タンパク質(Filament aggregating protein)のことをいい、角質層の形成に重要な役割を果たす、分子量約40kDaのタンパク質である。特に、表皮分化の促進や皮膚のバリア機能の維持に重要な役割を果たすことが知られている。フィラグリンは種々の皮膚疾患に関与し、フィラグリン遺伝子の変異がアトピー性皮膚炎や尋常性魚鱗癬発症の主要因子であることが報告されている(Nature Genetics, 38, 441-446, 2006)。また、ノシセプチン拮抗薬JTC801がフィラグリンタンパク質の発現を促進し、アトピー性皮膚炎の症状を改善させることが知られている(Journal of Allergy and Clinical Immunology, 133(1), 139-146.e1-10, 2014)。さらに、マタタビ、ノニ、檸条及び油茶等の植物の水性溶媒抽出物がフィラグリンの産生量を増大することが報告されている。
【0023】
<ヒアルロン酸合成酵素3>
本明細書においてヒアルロン酸合成酵素3(hyaluronan synthase 3, HAS3)とは、哺乳動物に存在するヒアルロン酸合成酵素の3種類のアイソフォーム(HAS1、HAS2、HAS3)の一つであり、主に表皮におけるヒアルロン酸合成に関与する。ここで、ヒアルロン酸とは生体内に存在するムコ多糖類の一種である。このヒアルロン酸は高い保水力を有するため、皮膚の保湿機能改善、シワやたるみの予防、肌や関節軟骨機能維持、老眼や眼精疲労の改善、細胞活性化による各種栄養素の運搬機能の改善、生理痛の緩和や更年期障害の改善等に重要な役割を果たしている。従って、HAS3の発現を促進することで、生体内のヒアルロン酸量が増大し、皮膚の保湿機能の改善効果を得ることができる。
【0024】
<トランスグルタミナーゼ3>
本明細書においてトランスグルタミナーゼ3とは、主にタンパク質同士を架橋形成に関与する酵素の一種であり、微生物から哺乳類に至る多種多様な生物内に存在する。特に、皮膚に多く存在し、皮膚に存在するタンパク質間に架橋を形成することで皮膚のバリア機能を高めたり、保湿機能を高めたりする役割を担っている。従って、トランスグルタミナーゼ3の発現を促進することで、バリア機能や保湿機能の改善効果等を得ることができる。
【0025】
<皮膚の保湿機能の改善剤>
本明細書でいう皮膚の保湿機能の改善とは、角層水分量の上昇、経表皮水分喪失量(Transepidermal water loss:TEWL)の低下、皮膚所見及び痒みの程度などの客観的に評価可能な指標に基づいて、皮膚の保湿機能が向上することをいう。
【0026】
本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、セラミドの産生量を増大する。具体的には、本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、セラミドの合成に関与するSPT遺伝子の発現を促進する。従って、本発明の剤による皮膚の保湿機能改善効果は、セラミドの合成に関与するSPT遺伝子の発現促進作用、及びそれに続くセラミドの産生量の増大に起因するものである。
【0027】
また、本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、角質層の形成に重要な役割を果たすフィラグリンの産生量を増大する。具体的には、本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、フィラグリン遺伝子の発現を促進する。従って、本発明の剤による皮膚の保湿機能改善効果は、フィラグリン遺伝子の発現促進作用、及びそれに続くフィラグリン産生の増大効果に起因するものである。
【0028】
本発明の皮膚の保湿機能改善剤における環状ジペプチド又はその塩の含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、本発明の所望の効果の発現が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。例えば、コラーゲンエキスを用いる場合、本発明における環状ジペプチド又はその塩の含有量の総量は、1.0×10ppm以上、好ましくは5.0×10ppm以上、より好ましくは1.0×10ppm以上であり、好ましくは1.0×10ppm以下、より好ましくは1.0×10ppm以下である。また、皮膚の保湿機能改善剤における、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕、又はそれぞれ対応する塩の含有量としては、以下の通りである。
(1)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜3.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜3.0×10ppm、より好ましくは5.0×10〜3.0×10ppm、さらにより好ましくは5.7×10〜2.4×10ppm
(2)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:1.0×10〜6.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜6.0×10ppm、より好ましくは4.0×10〜6.0×10ppm、さらにより好ましくは4.7×10〜5.6×10ppm
(3)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:1.0×10〜8.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜8.0×10ppm、より好ましくは6.0×10〜8.0×10ppm、さらにより好ましくは6.1×10〜7.6×10ppm
(4)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜1.0×10ppm、より好ましくは1.0×10〜1.0×10ppm、さらにより好ましくは1.5×10〜8.5×10ppm
(5)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm、好ましくは1.5×10〜1.0×10ppm、より好ましくは1.5×10〜1.0×10ppm、さらにより好ましくは1.9×10〜7.1×10ppm
環状ジペプチド又はその塩として、合成品又は精製品を用いる場合、本発明の皮膚の保湿機能改善剤における環状ジペプチド又はその塩の含有量の総量は、特に限定されるものではないが、例えば、1.0×10ppm以上、好ましくは5.0×10ppm以上、より好ましくは2.0×10ppm以上であり、2.5×10ppm以下、好ましくは2.5×10ppm以下、より好ましくは2.5×10ppm以下である。また、環状ジペプチド又はその塩として合成品又は精製品を用いる場合に、本発明の皮膚の保湿機能改善剤に含まれる、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕、又はそれぞれ対応する塩の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、1.0×10ppm以上、好ましくは5.0×10ppm以上、より好ましくは2.0×10ppm以上であり、5.0×10ppm以下、好ましくは5.0×10ppm以下、より好ましくは5.0×10ppm以下、さらにより好ましくは4.4×10ppm以下である。
【0029】
環状ジペプチド又はその塩の含有量は、公知の方法に従って測定することができ、例えば、LC-MS/MSに供することで測定することができる。
【0030】
尚、本明細書において、環状ジペプチド又はその塩をまとめて、単に、環状ジペプチドと称する場合がある。また、特に断りがない限り、本明細書において用いる「ppm」は、重量/容量(w/v)のppmを意味し、1.0ppmは1.0×10−3mg/mLと換算され、1.0×10−4重量%と換算されるものである。
【0031】
本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、前述の環状ジペプチド又はその塩を有効量含有するという特徴を有することにより、セラミドの産生量を増大して、皮膚の保湿機能改善効果を得ることができる。また、フィラグリンの産生量を増大して、皮膚の保護効果や肌荒れ防止効果を得ることもできる。それらの効果を要する疾患としては、乾燥肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症、尋常性魚鱗癬及び乾癬等が挙げられ、それらの疾患の予防及び治療に好適に使用され得る。
【0032】
本発明は、例えば、肌荒れ防止やアトピー性皮膚炎の改善、皮膚の保湿機能改善のために用いられるものである旨を明示的又は暗示的に示して提供することができ、乾燥肌、肌荒れ及びアトピー性皮膚炎の対象等にとって極めて有用である。
【0033】
本発明は、一例として、剤の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、当該剤を含む組成物として提供することもできる。一例として、医薬等の形態で提供することができるが、本形態に限定されるものではない。
【0034】
本発明の剤は、その形態に応じて、環状ジペプチド又はその塩の他に、任意の添加剤、通常の剤に用いられる任意の成分を含有することができる。これらの添加剤および/または成分の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分、香料などの生理活性成分の他、製剤化において配合される賦形剤、結合剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、凝固剤、コーティング剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、治療的用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。具体的には、医薬品、医薬部外品及び化粧料等や薬事法上はこれらに属さないが、保湿改善効果を明示的又は暗示的に訴求する組成物としての使用が挙げられ、皮膚外用剤や投与形態で使用することができる。
【0036】
本発明の皮膚の保湿機能の改善剤は、その形態に応じた適当な方法で投与される。例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤及びカプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤、外用剤、坐剤及び経皮吸収剤等の非経口用製剤などの形態とすることができるが、これらに限定されない。
【0037】
<皮膚外用剤>
本発明の皮膚の保湿機能改善剤は、皮膚の保湿機能改善効果、肌荒れ防止効果等を得るために、皮膚外用剤として皮膚に塗布して使用できるほか、パップ剤、化粧料、浴用剤及び皮下注射用剤としての剤形も目的に応じて任意に選択することができる。特に、好適には化粧料として広く利用することが可能で、クリーム、軟膏、乳液、溶液、ゲル、粉剤及び顆粒剤等の剤形やパック、ローション、パウダー及びスティック等の形態とすることができる。その製剤形態も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系及び水−油−粉末3層系等の幅広い形態とすることができる。すなわち、基礎化粧料であれば、洗顔料、化粧水、ローション、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク、マッサージ剤、ファンデーション、口紅、入浴剤、シャンプー、ヘアコンディショナー、ヘアトニック、軟膏、ペースト及びシート状製品(サニタリー用品等の吸収性物品、おしり拭き、ウェットティッシュ等)等の形態に広く利用可能である。そして、本発明の剤形及び形態は、これらに限定されるものではない。
【0038】
また、これらの剤型とするにあたって、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、水、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素及び香料等を適宜配合することができる。
【0039】
本発明の皮膚の保湿機能改善剤の投与量は、その形態、投与方法、使用目的及び投与対象である患者または患獣の年齢、体重及び症状によって適時設定され、特に限定されるものではない。本発明における本発明の環状ジペプチド又はその塩の有効ヒト摂取量としては、一定ではないが、例えば、体重50kgのヒトで一日当たり、好ましくは10mg以上、より好ましくは100mg以上である。また、投与は所望の投与量範囲内において、1日内において単回又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。尚、ここで本発明の環状ジペプチド又はその塩の有効ヒト摂取量とは、ヒトにおいて有効な効果を示す環状ジペプチド又はその塩の合計摂取量のことであり、環状ジペプチドの種類は特に限定されない。
【0040】
動物を対象に投与する場合、マウス1個体当たり約20gに対して1日あたりの使用量は、剤中の有効成分の含有量、適用対象者の状態、体重、性別及び年齢等の条件により異なるが、通常、環状ジペプチド又はその塩の総配合量として、好ましくは10mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上を摂取できる量にするとよい。
【0041】
<環状ジペプチド含有組成物>
本発明の一態様は、アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩を含有する組成物である。本発明の組成物における環状ジペプチド又はその塩の含有量の総量は、1.0×10ppm以上、好ましくは5.0×10ppm以上、より好ましくは1.0×10ppm以上であり、1.0×10ppm以下、好ましくは1.0×10ppm以下である。
【0042】
本発明の一態様は、環状ジペプチド又はその塩として、少なくともシクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕及びシクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕を含有する組成物である。より好ましくは、さらに前記環状ジペプチド又はその塩として、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含有する組成物である。
【0043】
本発明の環状ジペプチド含有組成物は、少なくともシクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕及びシクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕を含有する組成物であって、当該組成物中の各々の含有量が以下の範囲であることに特徴を有する。
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜3.0×10ppm、より好ましくは5.0×10〜3.0×10ppm、さらにより好ましくは5.7×10〜2.4×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:1.0×10〜6.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜6.0×10ppm、より好ましくは4.0×10〜6.0×10ppm、さらにより好ましくは4.7×10〜5.6×10ppm
好ましくは、本発明の環状ジペプチド含有組成物は、少なくともシクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕及びシクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕を含有する組成物に、さらにシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕からなる群から選択される1つ又は2つ以上を含有するものであり、当該組成物中のシクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕、及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕の含有量が以下の範囲であることに特徴を有する。
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:1.0×10〜8.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜8.0×10ppm、より好ましくは6.0×10〜8.0×10ppm、さらにより好ましくは6.1×10〜7.6×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm、好ましくは1.0×10〜1.0×10ppm、より好ましくは1.0×10〜1.0×10ppm、さらにより好ましくは1.5×10〜8.5×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.0×10〜9.0×10ppm、好ましくは1.5×10〜1.0×10ppm、より好ましくは1.5×10〜1.0×10ppm、さらにより好ましくは1.9×10〜7.1×10ppm
最も好ましくは、本発明の環状ジペプチド含有組成物は、アミノ酸を構成単位とする環状ジペプチド又はその塩の総量が1.0×10〜1.0×10ppmである組成物であって、前記環状ジペプチド又はその塩が、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕を含むものであり、組成物中の前記環状ジペプチド又はその塩の各々の含有量が以下の範囲である組成物である。
(i)シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕又はその塩:5.0×10〜3.0×10ppm
(ii)シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕又はその塩:4.0×10〜6.0×10ppm
(iii)シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕又はその塩:6.0×10〜8.0×10ppm
(iv)シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕又はその塩:1.0×10〜1.0×10ppm
(v)シクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕又はその塩:1.5×10〜1.0×10ppm
本発明の組成物における環状ジペプチドのうち、シクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕の割合は、セラミド産生の増大効果の観点から、0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、可溶化性能の観点から、90重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下がさらにより好ましい。また、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕の合計量の割合は、フィラグリン遺伝子の発現促進効果の観点から、0.002重量%以上が好ましく、0.02重量%以上がより好ましく、0.2重量%以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、可溶化性能の観点から、90重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下がさらにより好ましい。
【0044】
本発明の組成物は、様々な生理作用を有する。特に、前述の特定の環状ジペプチド又はその塩を有効量含有するという特徴を有することにより、セラミド産生を増大して、皮膚の保湿機能改善効果を得ることができる。また、フィラグリン遺伝子の発現促進及びフィラグリンの産生量の増大により、皮膚の保護効果や肌荒れ防止効果を得ることもできる。それらの効果を要する疾患としては、乾燥肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症、尋常性魚鱗癬及び乾癬等が挙げられ、それらの疾患の予防及び治療に好適に使用され得る。
【0045】
本発明の組成物は、例えば、皮膚の保湿機能改善効果のため、また、乾燥肌や肌荒れ、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は改善のために用いられるものであることを明示的又は暗示的に訴求することが可能になり、乾燥肌の方、皮膚が弱い方、アトピー性皮膚炎の方、等にとって極めて有用である。
【0046】
本発明の一態様は、前記特定の環状ジペプチド又はその塩を含有するエキス組成物である。エキス組成物とは、例えば、前記特定の環状ジペプチド又は当該環状ジペプチドの構成アミノ酸を含む材料に処理を行って調製したものをそのまま、あるいは該調製物を公知の方法に従って希釈又は濃縮、精製したものを含有する組成物のことであり、そのまま製剤化したり、医薬品、医薬部外品や、薬事法上はこれらに属さないが、医薬品や医薬部外品と同様に、例えば、乾燥肌や肌荒れ、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は改善効果を期待して購入される組成物や、これらの予防及び/又は改善効果を明示的または暗示的に訴求する組成物の原材料として用いることができる。前記エキス組成物における各環状ジペプチド又はその塩の含有量は、上記記載を参照されたい。
【0047】
本発明の組成物は、例えば、前記特定の環状ジペプチド又はその塩を含有する原料に、任意の添加剤、通常の剤に用いられる任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分及び香料などの生理活性成分の他、製剤化において配合される溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤等が挙げられる。これらの添加剤等を加え、公知の方法に従って、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤及びシロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤、外用剤、坐剤及び経皮吸収剤等の非経口用製剤に製剤化することができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの組成物はそのまま水等と共に服用することができる。また、容易に配合することが出来る形態(例えば、粉末形態や顆粒形態)に調製後、例えば、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の原材料として用いることができる。
【0048】
本発明の組成物は、パップ剤、化粧料などの香粧料、浴用剤及び皮下注射用剤としての剤形も目的に応じて任意に選択することができる。特に、好適には化粧料として広く利用することが可能で、クリーム、軟膏、乳液、溶液、ゲル、粉剤及び顆粒剤等の剤形やパック、ローション、パウダー及びスティック等の形態とすることができる。その製剤形態も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系及び水−油−粉末3層系等、幅広い形態とすることができる。すなわち、基礎化粧料であれば、洗顔料、化粧水、ローション、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク、マッサージ剤、ファンデーション、口紅、入浴剤、シャンプー、ヘアコンディショナー、ヘアトニック、軟膏、ペースト及びシート状製品(サニタリー用品等の吸収性物品、おしり拭き及びウェットティッシュ等)等の形態に広く利用可能である。そして、本発明の剤形及び形態に限定されるものではない。
【0049】
また、これらの剤型とするにあたって、各種油剤、界面活性剤、ゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶剤、アルコール、水、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素及び香料等を適宜配合することができる。
【0050】
本発明の組成物は特に限定されるものではないが、例えば、前記環状ジペプチド又はその塩を含有する医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品(飲料、食品等)等が挙げられる。これらの組成物における前記環状ジペプチド又はその塩の含有量は前述の通りである。
【0051】
本発明の飲料は、例えば、公知の飲料を調製する際に、その原材料に前記環状ジペプチド又はその塩を所定量混合して、公知の飲料の製造方法に従って調製してもよく、また、既製の公知の飲料組成物に、前記環状ジペプチド又はその塩を前記所定量となるように添加して、溶解及び/又は懸濁することで調製してもよい。なお、公知の飲料が、前記環状ジペプチド又はその塩を元来含有するものであってもよく、本発明の環状ジペプチドが所定量となるのであれば、適宜配合して調製することができる。
【0052】
本発明の飲料の具体例としては、烏龍茶飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、果汁飲料、野菜ジュース、スポーツドリンク、アイソトニック飲料、エンハンスドウォーター、ミネラルウォーター、ニアウォーター、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤、各種アルコール飲料等を挙げることができる。また、当該飲料には、必要に応じて、酸化防止剤、香料、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、ガム、油、ビタミン、アミノ酸、果汁エキス類、野菜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独で又は併用して配合してもよい。
【0053】
本発明の一態様は、前記環状ジペプチド又はその塩を含有する食品である。食品とは、主に食事やおやつによる摂取のために用いられる組成物のことである。本発明の食品における前記環状ジペプチド又はその塩の含有量は前記の通りである。
【0054】
本発明の食品は、例えば、公知の食品を調製する際に、その原材料に前記環状ジペプチド又はその塩を所定量混合して、公知の食品の製造方法に従って調製してもよく、また、既製の公知の食品に、前記環状ジペプチド又はその塩を前記所定量となるように添加することで調製してもよい。なお、公知の食品が、前記環状ジペプチド又はその塩を元来含有するものであってもよく、本発明の環状ジペプチドが所定量となるのであれば、適宜配合して調製することができる。
【0055】
本発明の食品の具体例としては、例えば、健康食品、機能性食品(特定保健用食品、条件付き特定保健用食品、栄養機能食品が含まれる)、特別用途食品、健康補助食品等が挙げられる。
【0056】
本発明の組成物は、その形態に応じた適当な方法で適用することができる。適用方法は特に限定されないが、例えば、摂取、服用、飲用、塗布等の全態様を含むものである。
【0057】
本発明の組成物は、例えば、皮膚の保湿機能改善効果のため、また、乾燥肌や肌荒れ、アトピー性皮膚炎の予防及び/又は改善のために用いられるものであることを明示的又は暗示的に訴求することが可能になり、乾燥肌の方、皮膚が弱い方、アトピー性皮膚炎の方、等にとって極めて有用である。
【0058】
本発明は、別の側面では、皮膚の保湿機能改善により発揮される機能の表示を付した、前記組成物に関する。このような表示又は機能表示は特に限定されないが、例えば、「皮膚の保湿性を改善する」、「皮膚の保湿性を維持する」、「肌の潤いを保つ」、「肌の美しさを保つ」、「乾燥肌を予防する」、「乾燥肌を改善する」、「肌荒れを予防する」、「肌荒れを改善する」、「アトピー性皮膚炎を予防する」、又は「アトピー性皮膚炎を改善する」等が挙げられる。本発明において、当該表示及び機能表示のような表示は、組成物自体に付されてもよいし、組成物の容器又は包装に付されていてもよい。
【0059】
本明細書中において本発明の組成物の摂取対象とは、好ましくはヒトであるが、ウシ、ウマ、ヤギ等の家畜動物、イヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物、又は、マウス、ラット、モルモット、サル等の実験動物であってもよい。
【0060】
本発明の組成物の摂取量は、その形態、投与方法、使用目的及び当該組成物の摂取対象である患者又は患獣の年齢、体重、症状によって適宜設定され、特に限定されるものではない。本発明における前記特定の環状ジペプチド又はその塩の有効ヒト摂取量としては、一定ではないが、例えば、体重50kgのヒトで一日当たり、好ましくは10mg以上、より好ましくは100mg以上である。また、投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。なお、ここで前記特定の環状ジペプチド又はその塩の有効ヒト摂取量とは、ヒトにおいて有効な効果を示す環状ジペプチド又はその塩の合計摂取量のことである。
【0061】
動物を対象に投与する場合(マウス1個体当たり約20gに対して)、1日あたりの使用量は、組成物中の有効成分の含有量、適用対象者の状態、体重、性別、年齢等の条件により異なるが、通常、環状ジペプチド又はその塩の総配合量として、好ましくは10mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上を摂取できるような量にするとよい。
【0062】
<皮膚の保湿機能を改善するための使用>
本発明の一態様は、アミノ酸を構成単位とする特定の環状ジペプチド又はその塩を皮膚の保湿機能を改善するために使用するものである。好ましくはプロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸を含む環状ジペプチド又はその塩を、より好ましくはシクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕のうち、1つ又は2つ以上の環状ジペプチド又はその塩を、皮膚の保湿機能を改善するために使用するものである。例えば、乾燥肌、肌荒れ、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症、尋常性魚鱗癬及び乾癬等の予防又は処置するための使用が含まれるが、これらに限定されない。当該使用は、ヒトまたは非ヒト動物における使用であり、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。ここで、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処理行為を含まない概念である。
【0063】
<皮膚の保湿機能を改善する方法>
本発明はまた、皮膚の保湿機能の改善を必要とする個体に、特定の環状ジペプチド又はその塩の有効量を投与することを含む、皮膚の保湿機能を改善する方法を提供する。好ましくはプロリン、ヒドロキシプロリン、アラニン及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1つ以上のアミノ酸を含む環状ジペプチド又はその塩を、より好ましくはシクログリシルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Gly-Hyp)〕、シクロヒドロキシプロリルグルタミン酸〔Cyclo(Hyp-Glu)〕、シクログリシルグリシン〔Cyclo(Gly-Gly)〕、シクロプロリルヒドロキシプロリン〔Cyclo(Pro-Hyp)〕及びシクロプロリルアラニン〔Cyclo(Pro-Ala)〕のうち、1つ又は2つ以上の環状ジペプチド又はその塩を、あるいはこれらの成分を含有する組成物の治療有効量を投与することを含む、皮膚の保湿機能を改善する方法を提供するものである。尚、皮膚の保湿機能の改善を必要とする個体とは、本発明の皮膚の保湿機能改善剤の前記投与対象と同様である。
【0064】
また、本明細書中において治療有効量とは、本発明の環状ジペプチド又はその塩を上記個体に投与した場合に、投与していない個体と比較して、皮膚保湿が改善する量のことである。具体的な有効量としては、投与形態、投与方法、使用目的及び個体の年齢、体重、症状等によって適時設定され一定ではない。
【0065】
本発明の方法においては、前記治療有効量となるよう、前記特定の環状ジペプチド又はその塩をそのまま、或いは、特定の環状ジペプチド又はその塩を含有する組成物として投与してもよい。
【0066】
本発明の方法によれば、副作用を生じることなく皮膚の保湿機能を改善することが可能になる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明の方法を種々変更、修飾して使用することが可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
実施例1:環状ジペプチドがヒト表皮角化細胞においてセラミド合成経路に関与するSPT遺伝子(SPTLC1)発現に与える影響(図1
正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を12 well plate(Corning)に1.0×105cells/mL/wellとなるように播種し、専用培地であるKGM(Lonza)で24時間培養した後、最終濃度が500μMとなるように環状ジペプチドを添加した。尚、環状ジペプチドは神戸天然物化学株式会社で受託合成した。さらに24時間後、isogen(ニッポンジーン)を用いて細胞からRNAを抽出し、RNeasy Mini Kit(Quiagen)を用いてRNAを精製した。High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Lifetechnologies)を使用してcDNAを合成し、Fast Universal PCR Master Mix(Lifetechnologies)を用いた定量的PCRにより当該遺伝子の発現を調べた。解析には内部標準遺伝子としてGapdh遺伝子を用いた比較Ct法を適用した。当該遺伝子の発現量は、試料非添加群に対する相対発現量で示した。データは平均値±標準誤差で表示し、統計学的検定はStudent’s t-testを用いてp<0.05で有意差ありとした。
【0068】
図1に示す通り、NHEK細胞に対してCyclo(Gly-Hyp)を添加して24時間培養した結果、試料非添加群と比較して、細胞内のSPT遺伝子(SPTLC1)発現量が有意に増加することが示された。
実施例2:環状ジペプチドがヒト表皮角化細胞においてフィラグリン遺伝子発現に与える影響(図2
実施例1に準じて試験を実施した。
【0069】
試験の結果、図2に示す通り、NHEK細胞に対してCyclo(Gly-Gly)、Cyclo(Pro-Hyp)、Cyclo(Pro-Ala)及びCyclo(Hyp-Glu)を添加して24時間培養した結果、非添加群と比較して、細胞内のフィラグリン遺伝子発現量が有意に増加することが示された。また、フィラグリン遺伝子発現の増加の程度は、Cyclo(Hyp-Glu)を添加した場合に最も大きくなることも示された。
実施例3:直鎖状ジペプチド及び環状ジペプチドのCaco-2細胞膜透過性の評価(図3
消化管モデル細胞として化合物の吸収性評価に汎用されるCaco-2細胞単層膜を介した膜透過性を評価した。トランスウェル(Corning,24well、直径6.5mm)上で25〜35日間培養したCaco-2細胞を試験に供した。試験は管腔側(Apical side)に直鎖状Pro-Hyp(Bachem Feinchemikalien AG)又は環状Pro-Hypを30μg/mLの濃度で含有するbufferを添加することにより開始した。基底膜側(basal side)より60分後、120分後にbufferを回収してLC-MS/MSにより化合物濃度を定量し、膜透過性を解析した。膜透過性は総透過量(ng)を初濃度(μg/mL)で割ることで得られる値(単位:μL)で評価した。
【0070】
実験の結果、図3に示す通り、直鎖状Pro-HypはCaco-2細胞単層膜に対する膜透過性が著しく低く、ほとんど膜透過しないことが示された。その一方で、環状Pro-HypはCaco-2細胞単層膜の管腔側に添加後、時間経過に伴い基底膜側に透過することが示され、環状Pro-Hypの膜透過性は高いことが実証された。本結果により、環状Pro-Hypの消化管透過性および膜透過性が直鎖状Pro-Hypに比べて高いことが示された。
実施例4:環状ジペプチドが正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)においてヒアルロン酸合成酵素3(HAS3)遺伝子発現に与える影響
正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)を10%FBS含有DMEM培地(37℃、5%CO2条件下)を用いて6ウェルマイクロプレートに5.0×105 cells/wellの濃度で播種し、サブコンフルエントまで前培養した。次に、環状ジペプチド(4濃度)及び陽性対象(N-アセチルグルコサミン、1濃度)を添加してさらに24時間の培養を行った後、PBS(-)で1回洗浄し、NucleoSpin(R) RNA(タカラバイオ)によりRNAを抽出した。抽出したRNAを用いて、PrimeScript(R) RT Master Mix(タカラバイオ)により逆転写反応を行い、cDNAを作成した。その後、SYBR(R) Premix Ex Taq II(タカラバイオ)を用いて定量的PCRにより当該遺伝子の発現を調べた。解析には内部標準遺伝子としてGapdh遺伝子を用いた比較Ct法を適用した。当該遺伝子の発現量は、試料非添加群に対する相対発現量で示した。試料非添加群の遺伝子発現量を1としたときの相対値(発現比、標準偏差)を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
実験の結果、複数の環状ジペプチド標品及び陽性対照について、肌のバリア機能及び保湿機能の維持に関わるヒアルロン酸合成酵素(HAS)3のmRNA発現量が上昇した。
実施例5:環状ジペプチドが正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)においてトランスグルタミナーゼ3(TGM3)遺伝子発現に与える影響
正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を10%FBS含有Epilife-KG2培地(37℃、5%CO2条件下)を用いて6ウェルマイクロプレートに5.0×105cells/wellの濃度で播種し、サブコンフルエントまで前培養した。次に、試験品(4濃度)及び陽性対象(プロラクチン、1濃度)を添加してさらに24時間の培養を行った後、PBS(-)で1回洗浄し、NucleoSpin(R) RNA(タカラバイオ)によりRNAを抽出した。抽出したRNAを用いて、PrimeScript(R) RT Master Mix(タカラバイオ)により逆転写反応を行い、cDNAを作成した。その後、SYBR(R) Premix Ex Taq II(タカラバイオ)を用いて定量的PCRにより当該遺伝子の発現を調べた。解析には内部標準遺伝子としてGapdh遺伝子を用いた比較Ct法を適用した。当該遺伝子の発現量は、試料非添加群に対する相対発現量で示した。試料非添加群の遺伝子発現量を1としたときの相対値(発現比、標準偏差)を表2に示す。尚、表2中の「Hylys」は「ヒドロキシリシン」の略語を意味する。
【0073】
【表2】
【0074】
実験の結果、複数の環状ジペプチド標品及び陽性対照について、肌のバリア機能及び保湿機能の維持に関わるトランスグルタミナーゼ(TGM)3のmRNA発現量が上昇した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、特定の環状ジペプチドが有するセラミド及びフィラグリン産生の増大効果を利用した、皮膚の保湿機能の改善剤を提供するものである。環状ジペプチドは、脂溶性が高く、消化管透過性および膜透過性に優れるため、内服又は外用剤として使用する際に、高い保湿効果が得られる。従って、本発明は、乾燥肌や肌荒れ、アトピー性皮膚炎などの症状の改善に資する、効果的かつ新たな手段を提供することができるため、産業上の利用性が高い。
図1
図2
図3