(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
酸化鉄は多くの産業分野で採用されている。したがって、それらは、たとえば、セラミックス、建築材料、プラスチックス、ペイント、表面コーティング、および紙における着色顔料として使用され、各種の触媒または担体物質のベースとして役立ち、かつ汚染物質を吸着または吸収することができる。磁性酸化鉄は、磁性記録媒体、トナー、磁性流体に採用されており、または医療分野において、たとえば磁気共鳴断層撮影法のための造影剤に採用されている。
【0003】
酸化鉄は、鉄塩を水性で沈殿および加水分解反応させることによって得ることができる(非特許文献1)。沈殿プロセスによって得られる酸化鉄顔料は、空気の存在下、鉄塩溶液およびアルカリ性化合物から製造される。目標に合わせて反応を調節すると、この方法で、微粉状のゲータイト、マグネタイト、およびマグヘマイトの粒子を調製することが可能である。しかしながら、このプロセスによって製造された赤色顔料は、彩度(colour saturation)が比較的低く、そのため、主として建築材料産業で使用されている。
【0004】
しかしながら、微粉状のヘマタイト(これは、変態形(modification)α−Fe
2O
3に相当する)を水系で製造するのは、かなり複雑である。熟成工程を使用し、核として、微粉状の酸化鉄であるマグヘマイト変態形γ−Fe
2O
3、またはレピドクロサイト変態形γ−FeOOHを使用することにより、直接水性沈殿法でヘマタイトを製造することが可能となる[(特許文献1);(特許文献2);(特許文献3)]。
【0005】
酸化鉄赤色顔料を製造するためのさらなる方法は、Pennimanプロセスである((特許文献4);(特許文献5);(特許文献6);(特許文献7);(特許文献8))。この場合、酸化鉄顔料は、金属の鉄を溶解させ、鉄塩および核としての酸化鉄を添加して酸化させることによって製造される。したがって、(非特許文献2)には、高温で鉄に希硝酸を作用させるプロセスが開示されている。これによって、ヘマタイト核懸濁液(haematite nucleus suspension)が生成する。それ自体が公知の方法でこれを析出させる(built up)と、赤色顔料の懸濁液が得られ、必要に応じて、慣用される方法を用いてその懸濁液から顔料を単離させる。しかしながら、このプロセスで製造された赤色顔料は、市販されている130標準(130 standard)の彩度と同程度の比較的低い彩度のみを有し、そのため、主として建築産業で使用されている。130標準とは、酸化鉄顔料の色の測定で慣用的に使用されている、参照標準のバイフェロックス(Bayferrox)(登録商標)130に相当する。
【0006】
(特許文献7)には、Pennimanプロセスの変法が開示されており、それには、高温で希硝酸を鉄に作用させて、核、すなわち100nm以下の粒径を有する微粉状の酸化鉄を作成させることが含まれている。鉄と硝酸とのその反応は、複雑な反応であり、その実験条件に依存して、鉄を不動態化させることにより反応を停止させるか、または鉄を溶解させて溶解された硝酸鉄を形成させるかのいずれかの反応を起こさせることができる。それらのいずれの反応経路も望ましいものではなく、限られた実験条件下でのみ微粉状のヘマタイトの製造が成功する。(特許文献7)には、微粉状のヘマタイトを製造するためのそのような条件が記載されている。その場合、90〜99℃の範囲の温度で鉄を希硝酸と反応させている。(特許文献9)には、酸化鉄赤色顔料を製造するためのプロセスが記載されており、そこでは、核、すなわち100nm以下の粒径を有する微粉状のヘマタイトを製造するための反応工程が改良されていた。
【0007】
従来技術によるPennimanプロセスは、今日までのところ、単一の反応剤を使用して工業的スケールで実施されてきた。たとえば、顔料の析出(buildup)、すなわち、ヘマタイト核懸濁液と鉄との反応および空気の導入は、機械的混合または水力学的混合なしで実施される。この場合、空気の導入のみで、反応混合物を強力に混合している。工業的スケール(10m
3より大きいバッチサイズ)では、従来技術による硝酸を使用したPennimanプロセスは、典型的には、1時間あたり懸濁液1m
3あたり7〜10m
3の容積の空気を導入しながら実施され、その結果、反応混合物中に強い対流と、生成される反応混合物の表面に液体の沸騰に匹敵する強い気泡の生成とが起きる。Pennimanプロセスによって製造されたヘマタイト顔料は、通常、チキソトロピー効果を有する長鎖のアルキド樹脂中で酸化鉄顔料のために通常実施される表面コーティング試験において、25CIELAB単位よりも高い原色(full shade)の
*値を有している(DIN EN ISO 11664−4:2011−07およびDIN EN ISO 787−25:2007をベースとする方法を使用)。
【0008】
しかしながら、それ自体が効率的であり、極めて多様な色値(colour value)を有する高品質の赤色酸化鉄を直接製造することが可能なこれらのプロセスでも、以下のような欠点を有している:
1.窒素酸化物の放出。窒素酸化物(たとえば、酸化窒素系(nitorous)ガスのNO、NO
2、およびN
2O
4、一般的に「NO
x」と呼ばれる)は有毒であり、スモッグの原因となり、UV光の照射により大気中のオゾン層を破壊し、かつ温室効果ガスである。一酸化二窒素は特に、二酸化炭素よりも約300倍も強い温室効果ガスである。それに加えて、一酸化二窒素は、最も強力なオゾン破壊ガスであると今や考えられている。硝酸を使用するPennimanプロセスでは、酸化窒素系ガスのNOおよびNO
2、さらには一酸化二窒素もかなりの量で生成する。
2.硝酸を使用するPennimanプロセスは、窒素含有廃水も生成し、それには、顕著な量の硝酸塩、亜硝酸塩、およびアンモニウム化合物が含まれる。
3.硝酸を使用するPennimanプロセスは、エネルギーの消費も極めて高く、なぜなら、外部の熱エネルギーを加えて、大容量の水溶液を60℃〜120℃の温度に上げなければならないからである。それらに加えて、その反応混合物中に酸化剤としての酸素含有ガスを導入することによって(スチームストリッピング)、その反応混合物からエネルギーが除去され、これは、熱として再び導入されなければならない。
【0009】
本発明の目的において、窒素酸化物は窒素−酸素化合物である。この群には、一般式NO
xの酸化窒素系ガスが含まれ、その中で窒素は、+1〜+5の範囲の各種の酸化数を取ることができる。例は、NO(一酸化窒素、酸化数+2)、NO
2(二酸化窒素、酸化数+4)、N
2O
5(酸化数+5)である。NO
2は、その二量体であるN
2O
4(いずれも酸化数は+IV)と温度依存および圧力依存の平衡状態で存在している。以下において、「NO
2」という用語には、NO
2そのものと、その二量体であるN
2O
4との両方が含まれる。N
2O(一酸化二窒素、笑気ガス、酸化数+1)も窒素酸化物の群には含まれるが、酸化窒素系ガスと見なされない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1において、符合は以下の意味を有する。
A:酸素含有ガス
Fe:鉄
AQ−Fe(NO
3)
2:硝酸鉄(II)溶液
S−Fe
2O
3:ヘマタイト核懸濁液
PAQ−Fe
2O
3:ヘマタイト顔料の懸濁液
H
2O:水
NOX:窒素酸化物含有ストリーム(ヘマタイト顔料の懸濁液の製造からのオフガス)
1:ヘマタイト顔料の懸濁液を製造するための反応器
11:反応容器
12:鉄のための支持体(support)
13:ガス導入ユニット
111:硝酸鉄(II)溶液、ヘマタイト核懸濁液の入口
112:NOXの出口
113:ヘマタイト顔料の懸濁液の出口
114:液相の出口
115:液相の入口
2:撹拌装置
21:駆動部
22:駆動部と攪拌機との接続部
23:攪拌機
31:ポンプ
【0025】
反応器1は、典型的には、出発物質に対する抵抗性を有する材料で作成された1つまたは複数の反応容器を含む。個々の反応容器は、たとえば、鉱物質のれんが張りまたはタイル張りの容器であってよい。反応器は、たとえば、ガラス、耐硝酸性のプラスチックス、たとえばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、鉄鋼、たとえば、エナメル被覆鋼、プラスチック被覆鋼、またはペイント被覆鋼、材料番号1.44.01のステンレス鋼などから作られて容器をさらに含む。それらの反応容器は、開放式であっても、密閉式であってよい。本発明の好ましい実施形態では、それらの反応容器が密閉式である。それらの反応容器は、典型的には、0〜150℃の範囲の温度および0.05MPa(0.05メガパスカルは0.5barに相当する)〜1.5MPa(1.5メガパスカルは15barに相当する)の圧力に耐えられるように設計されている。
【0026】
反応器1の好ましい実施形態を
図1に示す。反応器1は、少なくとも、反応容器11、鉄のための支持体12、少なくとも1種の酸素含有ガスAのためのガス導入ユニット13、少なくとも硝酸鉄(II)溶液およびヘマタイト核懸濁液のための入口111、窒素酸化物含有ストリームNOXのための出口112、ヘマタイト顔料の懸濁液のための出口113、液相のための出口114、液相のための入口115、撹拌装置2(駆動部21、駆動部と攪拌機との接続部22、攪拌機23およびポンプ31を含む)を有している。出口114、入口115およびポンプ31は、導管を介して相互に接続されていて、液相が反応容器11から導管を通過して反応容器11に戻って循環できるようになっている。
【0027】
反応器1のさらに好ましい実施形態は、少なくとも、反応容器11、鉄のための支持体12、少なくとも1種の酸素含有ガスAのためのガス導入ユニット13、少なくとも硝酸鉄(II)溶液およびヘマタイト核懸濁液のための入口111、窒素酸化物含有ストリームNOXのための出口112、ヘマタイト顔料の懸濁液のための出口113、撹拌装置2(駆動部21、駆動部と攪拌機との接続部22、および攪拌機23を含む)を有している。
【0028】
反応器1のさらに好ましい実施形態は、少なくとも、反応容器11、鉄のための支持体12、少なくとも1種の酸素含有ガスAのためのガス導入ユニット13、少なくとも硝酸鉄(II)溶液およびヘマタイト核懸濁液のための入口111、窒素酸化物含有ストリームNOXのための出口112、ヘマタイト顔料の懸濁液のための出口113、液相のための出口114、液相のための入口115、およびポンプ31を有している。
【0029】
以下において、本発明のプロセスをさらに詳しく説明する。本発明のプロセスで使用されるヘマタイト核水性懸濁液およびその中に存在しているヘマタイト核は、従来技術からも公知である。その主題に関しては、従来技術の記述を参照されたい。水含有ヘマタイト核懸濁液中に存在しているヘマタイト核は、100nm以下の粒径および40m
2/g〜150m
2/gのBET比表面積(DIN 66131に従って測定される)を有する核を含んでいる。そのヘマタイト核の少なくとも90%が、100nm以下、特に好ましくは30nm〜90nmの粒径を有する場合、粒径のその判定基準が満たされる。本発明のプロセスで使用されるヘマタイト核水性懸濁液は、典型的には、球形、卵形、または六方晶系の粒子形状を有するヘマタイト核を含んでいる。微粉状のヘマタイトは、典型的には、高純度を有している。ヘマタイト核懸濁液を製造するために使用される鉄スクラップ中に存在している異物金属は、一般的には、各種の濃度のマンガン、クロム、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルトおよび/またはチタンであり、酸化物またはオキシ水酸化物として沈殿させることも可能であり、かつ硝酸との反応時に微粉状のヘマタイト中に取り込ませることも可能である。水含有ヘマタイト核懸濁液中に存在しているヘマタイト核は、典型的には、0.1〜0.7重量%、好ましくは0.4〜0.6重量%のマンガン含量を有している。この品質の核を使用すれば、強く着色した赤色酸化鉄顔料を製造することができる。
【0030】
本発明のプロセスで使用される硝酸鉄(II)溶液は、従来技術から公知である。その主題に関しては、従来技術の記述を参照されたい。これらの硝酸鉄(II)溶液は、典型的には、(無水の場合を基準にしたFe(NO
3)
2として)50〜150g/lのFe(NO
3)
2濃度を有している。Fe(NO
3)
2とは別に、硝酸鉄(II)溶液には、0〜50g/lの量のFe(NO
3)
3を含むことも可能である。しかしながら、Fe(NO
3)
3が極めて少量であるのが有利である。
【0031】
本発明のプロセスにおいて、通常、鉄として線状、シート状、釘状、粒状、または粗い削り屑の形状の鉄が使用される。個々の鉄片は、いかなる形状であってもよく、通常、(たとえば、線材の直径またはシートの厚みとして測定して)約0.1ミリメートル〜約10mmの厚みを有している。プロセスで使用される線材の束またはシートのサイズは、通常、その実用性に依存する。したがって、反応器は、なんらの困難もなく、この出発物質を充填することができなければならず、充填は、一般的には、マンホールを通して実行される。そのような鉄は、特に、スクラップとして、または金属加工産業における副生物、たとえば打ち抜きシート片として得られる。
【0032】
本発明のプロセスで使用される鉄は、一般的には、90重量%より高い鉄含量を有している。この鉄中に存在している夾雑物は、通常、たとえばマンガン、クロム、ケイ素、ニッケル、銅、およびその他の元素などの異物金属である。しかしながら、より高い純度を有する鉄も、なんらの問題もなく使用することができる。鉄は、典型的には、本発明における反応の開始時に、反応混合物の容積を基準にして、20〜150g/lの量で使用される。さらに好ましい実施形態では、好ましくは打ち抜きシートまたは線材の形態の鉄は、鉄支持体の上にその面積全体に分散され、その嵩密度は好ましくは2000kg/m
3未満、特に好ましくは1000kg/m
3未満である。その嵩密度は、たとえば、少なくとも1種の鉄グレードのシートを曲げるか、および/または目標を定めて鉄を積み重ねることによって達成することができる。これにより、典型的には、容積で90%を超える酸素含有ガスを鉄支持体の下に吹き込んで、鉄支持体の下に酸素含有ガスが滞留することなく、鉄支持体を通過させることが可能となる。
【0033】
鉄支持体、たとえば支持体12によって、その鉄支持体に存在している開放部において、懸濁液とガスとの交換をさせることが可能となる。鉄支持体の典型的な実施形態は、網目トレー、多孔板トレー、またはメッシュとすることができる。1つの実施形態では、開口部を合計した面積の、支持体の全面積に対する比率が、0.1〜0.9、好ましくは0.1〜0.3である。懸濁液の交換に必要とされる孔、すなわち開口は、典型的には、鉄支持体からの鉄の落下がほとんど防止できるように選択される。鉄支持体、たとえば支持体12は、反応器の内径の径、たとえば反応容器11の内径に対応させるか、またはそれより小さくすることも可能である。後者の場合、その鉄支持機器の側面に壁を立てて、鉄が落下するのを防止するのが好ましい。この壁は、懸濁液を通過させることができるように、たとえばメッシュとしてもよく、または懸濁液が通過できないように、たとえば、チューブ、または上が開いている直方体の形状としてもよい。
【0034】
本発明のプロセスでは、少なくとも1種の酸素含有ガスの存在下における少なくとも鉄と、ヘマタイト核懸濁液と、硝酸鉄(II)溶液との反応を70〜99℃の温度で実施する。
【0035】
その少なくとも1種の酸素含有ガスは、空気、酸素、周囲温度より高い温度に加熱した空気、またはスチームを用いて富化させた空気から選択するのが好ましい。
【0036】
本発明のプロセスの1つの実施形態では、支持体の上に鉄が置かれ、次いでこの鉄にヘマタイト核懸濁液が添加される。本発明のプロセスのさらなる実施形態では、鉄と水との混合物が最初に仕込まれ、および次いでその鉄と水との混合物にヘマタイト核懸濁液が添加される。さらなる実施形態では、得られた混合物の温度を10〜99℃とすることもできる。
【0037】
本発明のプロセスのさらなる実施形態では、ヘマタイト核懸濁液の添加の後、または添加と同時に、少なくとも鉄およびヘマタイト核懸濁液の混合物に対して、硝酸鉄(II)の濃度が無水Fe(NO
3)
2を基準に計算して0.1〜25g/液相(l)、好ましくは1〜20g/液相(l)であるように、硝酸鉄(II)溶液が添加される。本発明のプロセスのさらなる実施形態では、ヘマタイト核懸濁液の添加の前に、少なくとも鉄に対して硝酸鉄(II)の濃度が無水Fe(NO
3)
2を基準に計算して0.1〜25g/液相(l)、好ましくは1〜20g/液相(l)であるように、、硝酸鉄(II)溶液が添加される。好ましい実施形態では、硝酸鉄(II)溶液の添加時の反応混合物の温度が70〜99℃である。硝酸鉄(II)の含量は、典型的には、塩酸を用いて酸性化させた液相のサンプルを、硫酸セリウム(III)を用いて電位差滴定することによって、その液相のサンプルの鉄(II)含量を測定することにより、間接的に求める。液相を基準にした硝酸鉄(II)の最大濃度は、少なくとも鉄およびヘマタイト核懸濁液の混合物に対する硝酸鉄(II)溶液の添加速度によって決まる。本発明のプロセス中、硝酸鉄(II)は、鉄との反応で消費される。好ましい実施形態では、無水Fe(NO
3)
2を基準に計算して0.1〜25g/液相(l)、好ましくは1〜20g/液相(l)の硝酸鉄(II)の濃度が、全反応時間の70〜100%、より好ましくは80〜100%であるように本発明のプロセスが実施される。さらに好ましい実施形態では、無水Fe(NO
3)
2を基準に計算して0.1〜25g/液相(l)、好ましくは1〜20g/液相(l)の硝酸鉄(II)の濃度が、0〜50時間の範囲の全反応時間の70〜100%、より好ましくは80〜100%であるように本発明のプロセスが実施される。本発明において、反応の開始時間は、硝酸鉄(II)溶液の添加の開始として定義され、反応の終了時間は、少なくとも1種の酸素含有ガスの導入の最後と定義される。本発明において、硝酸鉄(II)溶液の添加の開始は、少なくとも鉄およびヘマタイト核懸濁液の混合物に対して、硝酸鉄(II)の全量の1重量%が添加された時点と定義される。少なくとも1種の酸素含有ガスの導入の最後は、本発明において、少なくとも1種の酸素含有ガスの導入速度が0.1m
3未満のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間となった時点と定義される。
【0038】
本発明のプロセス中、液相中に存在しているヘマタイト核の上に顔料が析出して、ヘマタイト顔料の懸濁液が生成し、その色値、表面コーティング試験における好ましくはa
*値およびb
*値は、顔料析出時に粒径および/またはモルホロジーが変化した結果として、反応の間に変化する。本発明のプロセスを停止させる時点は、ヘマタイト顔料の懸濁液中に存在しているヘマタイト顔料の色値を測定することによって決める。ヘマタイト顔料が、所望の色合い、好ましくは表面コーティング試験における原色または退色における所望のa
*値およびb
*値を有するようになったら、本発明のプロセスを停止させる。これは、ガスの導入を停止することによって実施され、任意選択的に、反応混合物を冷却して70℃未満の温度とする。本発明における反応での典型的な反応時間は、所望の色合いに応じて、10〜150時間である。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明における反応後、慣用される方法、好ましくは濾過法および/または沈降法および/または遠心分離法によって、ヘマタイト懸濁液からヘマタイト顔料を分離する。分離後の得られたフィルターケーキの洗浄およびその後のフィルターケーキの乾燥も同様に実施するのが好ましい。ヘマタイト顔料の懸濁液からヘマタイト顔料を分離する前に、1段または複数段の篩別工程、特に好ましくは異なった開き度で、開き度を小さくしながらの篩別を実施するのが同様に好ましい。これにより、そうしないとヘマタイト顔料中に混ざり込んでしまう異物、たとえば金属片が、それによってヘマタイト顔料の懸濁液から分別されるという利点が得られる。
【0040】
ヘマタイト顔料の懸濁液からのヘマタイト顔料の分離は、当業者に公知のあらゆる方法、たとえば、沈降させてから水相を除去する方法、またはフィルタープレス、たとえば膜フィルタープレスによる濾過法などで実施することができる。
【0041】
本発明のプロセスの好ましい実施形態では、少なくとも1種の硫酸塩、たとえば硫酸鉄(II)および/またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の硫酸塩、好ましくは硫酸鉄(II)および/または硫酸ナトリウムを、篩別の前もしくは途中、および/または分離の前もしくは途中に、ヘマタイト顔料の懸濁液に添加することができる。これによって、ヘマタイト顔料の懸濁液からのヘマタイト顔料の沈降が加速されるという利点が得られる。これにより、その次のヘマタイト顔料の単離がより容易となる。
【0042】
任意選択的に、このようにして分離された沈降物またはフィルターケーキに、次いで少なくとも1回の洗浄を実施する。分離および/または洗浄後、任意選択的に、このようにして分離されたヘマタイト顔料の乾燥を、たとえばフィルタードライヤー、ベルトドライヤー、ニーディングドライヤー、スピンフラッシュドライヤー、乾燥オーブン、またはスプレードライヤーによって実施する。ベルトドライヤー、プレートドライヤー、ニーディングドライヤーおよび/またはスプレードライヤーによって乾燥を実施するのが好ましい。
【0043】
驚くべきことに、顔料の析出開始時に硝酸鉄(II)溶液が一度に全量添加される従来技術のプロセスと比較して、本発明のプロセスで使用されるFe(NO
3)
2の単位量あたりで製造されるヘマタイト顔料の量が顕著に多いことが見出された。従来技術のプロセスと比較すると、本発明のプロセスにおいて、ヘマタイト顔料中に存在するFe
3+の大部分が鉄に由来しており、ヘマタイト顔料中に存在するFe
3+のわずかな部分がFe(NO
3)
2に由来している。ヘマタイト核懸濁液、鉄、および水の混合物に対して硝酸鉄(II)溶液が一度に全量添加され、導入されるガスの量がたとえば10m
3の空気/バッチ容積(m
3)/時間である、従来技術によるプロセスにおいて、通常、1kgのFe(NO
3)
2あたり1.7kg未満のFe
2O
3が生成する。しかしながら、導入されるガスの量を、たとえば2m
3の空気/バッチ容積(m
3)/時間まで減らすと、1kgのFe(NO
3)
2あたりわずか0.6kg未満のFe
2O
3のみを生成する。しかしながら、本発明において、機械的混合および/または水力学的混合を用いて、かつ導入するガス量を同様に2m
3の空気/バッチ容積(m
3)/時間として顔料析出を実施し、顔料の析出開始時に硝酸鉄(II)溶液を一度に全量添加したとすると、1kgのFe(NO
3)
2あたり1.2kg以上のFe
2O
3、好ましくは1kgのFe(NO
3)
2あたり1.2〜2.2kgのFe
2O
3が生成する。
【0044】
さらなる実施形態では、本発明のプロセスは、少なくとも1種の酸素含有ガスの存在下、70〜99℃の温度での鉄と、100nm以下の粒径および40m
2/g〜150m
2/gのBET比表面積(DIN 66131に従って測定される)を有するヘマタイト核を含むヘマタイト核懸濁液と、硝酸鉄(II)溶液との反応を含み、その反応が、機械的混合および/または水力学的混合による液相の混合を用いて実施され、および少なくとも1種の酸素含有ガスの導入が、6m
3以下のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、好ましくは0.2〜6m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、特に好ましくは0.2〜5m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、極めて特に好ましくは0.2〜3m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間のガス導入容積で実施されることを特徴とする。
【0045】
以下において、本発明のプロセスをさらに詳しく説明する。本発明の目的において、機械的混合および/または水力学的混合は、適切な装置による液相混合である。本発明において、その液相には、その中に懸濁されている固体物質、たとえばヘマタイト核もしくはヘマタイト顔料またはその他のさらなる固体物質、たとえば鉄粒子も含まれている。機械的混合のために好適な装置としては、たとえば軸方向攪拌機、半径方向攪拌機、および接線方向攪拌機などの撹拌装置が挙げられる。たとえば
図1における撹拌装置2などの撹拌装置は、液相に流動を起こさせる、たとえば
図1における攪拌機23、たとえばプロペラ、らせん、またはブレードなどの少なくとも1つの攪拌機を有している。撹拌装置には、典型的には、たとえば
図1における駆動部21、たとえばモーター、攪拌機と駆動部との間の接続部22、たとえば、シャフトまたは磁性カップリングなどの駆動部も有している。攪拌機のタイプに依存して、半径方向、すなわち攪拌機の軸に対して直角方向に、または軸方向、すなわち攪拌機の軸に平行な方向に、またはそれらを合わせた方式で流れを作る。たとえば、ブレード攪拌機は、好ましくは半径方向の流れを作り、傾斜ブレード攪拌機またはプロペラ攪拌機は軸方向の流れを作る。軸方向の流れは、上向き、下向きいずれにすることもできる。本発明の目的において、液相の機械的混合は、軸方向に向け、鉄の上に、下から上へと向かわせるのが好ましい。これにより、鉄片の間のボイドの内側にある液相が、鉄片の間のボイドの外側にある液相とも混合されるようになる。その少なくとも1つの攪拌機は、鉄の上および/または下に位置させるのが好ましい。軸方向の攪拌機、特に好ましくは傾斜ブレード攪拌機またはプロペラ攪拌機も同様に攪拌機として好ましい。
【0046】
1つの実施形態において、半径方向に作用させる攪拌機の場合、反応容器1の内壁にバッフルがさらに存在する。したがって、液相の共回転およびそれに伴う渦の発生が回避できる。
【0047】
機械的混合の程度は、攪拌機、たとえば攪拌機23の外側周速度で定義される。好ましい周速度は、攪拌機の直径で決まる円周で測定して、0.5〜15m/sである。攪拌機の動力消費から計算することが可能な液相への入力は、本発明において、バッチ容積1m
3あたり0.1〜5kW、好ましくはバッチ容積1m
3あたり0.4〜3kWである。反応器の内径に対する攪拌機直径の比率が0.1〜0.9であるのが好ましい。液相への入力は、攪拌機の動力消費量に攪拌機の効率(単位、パーセント)を乗じることによって得られる。本発明のプロセスで使用される攪拌機の効率は、典型的には、70〜90%の範囲である。
【0048】
本発明の目的において、1〜15m/sの周速度およびバッチ容積1m
3あたり少なくとも0.4kWの入力が特に好ましい。
【0049】
水力学的混合は、ポンプ、たとえばポンプ31によって達成され、ポンプは、出口、たとえば出口114で反応器から液相を抜き出し、別の箇所で入口、たとえば入口115により反応器へ戻す。入口および出口、かつさらにはその反応混合物全体で流動が生じる。本発明の目的において、0.1〜20バッチ容積/時間のポンプ循環容積が好ましい。たとえば、30m
3のバッチ容積において5バッチ容積/時間の値でポンプ循環される量は、150m
3/時間である。さらなる実施形態では、入口、たとえば入口115で少なくとも0.05m/s、好ましくは少なくとも0.06〜15m/sの流速を生じさせるポンプ循環量とするのが好ましい。この場合、流速は、入口において、反応器の内側のポンプ輸送された液相が反応混合物中に流れ込む配管の境目で直接測定する。さらなる実施形態では、その流れを、入口、たとえば入口115から、鉄支持体、たとえば鉄支持体12の上に向かわせ、2m未満、好ましくは1m未満の距離で、鉄支持体の下から鉄支持体の上へと向かわせるのが好ましい。さらなる実施形態では、その入口、たとえば入口115をパイプ、または二液スプレー、またはノズルの形状にする。
【0050】
この時点で、本発明の範囲は、ここまでおよび以後において、成分、値の範囲、またはプロセスパラメーターに関する記述の一般的な範囲または好ましい範囲の可能な限りあらゆる組み合わせを包含すると述べることができる。
【0051】
本発明のプロセスにおいて、少なくとも鉄と、ヘマタイト核懸濁液と、硝酸鉄(II)溶液との反応は、反応時に機械的混合および/または水力学的混合によって混合されている少なくとも液相の存在下で実施される。その液相中には懸濁されたヘマタイトが存在しているため、機械的混合および/または水力学的混合は、その液相中に懸濁されているヘマタイトが、液相中に均質に分散されたままで維持されて、液相の下の方に蓄積することがないようにして実施するのが好ましい。
【0052】
本発明のプロセスにおいて、少なくとも鉄と、ヘマタイト核懸濁液と、硝酸鉄(II)溶液との反応は、6m
3以下のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、好ましくは0.2〜6m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、特に好ましくは0.2〜5m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、極めて特に好ましくは0.2〜3m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間のガス導入容積で、少なくとも1種の酸素含有ガスを導入しながら実施される。本発明において、その反応混合物には、すべての出発物質と、それらから形成される固体、液体または気体の反応生成物とが含まれる。反応時には窒素酸化物含有ストリームNOXも形成される。好ましい実施形態では、その窒素酸化物含有ストリームNOXが反応器から、たとえば反応器1の出口112を通して排出される。本発明において、「バッチ容積」とは、反応時のある特定の時点において、その反応容器、たとえば反応器1内に存在している反応混合物の液体成分と固体成分とを合計した容積と定義される。バッチ容積は、たとえば、反応時のいかなる時点であっても、その中で反応が実施されている反応器の充填レベル指示器から知ることができる。
【0053】
少なくとも1種の酸素含有ガスの導入は、反応混合物の液相中に、鉄支持体、たとえば支持体12の下から、少なくとも1種の酸素含有ガスを導入することによって実施するのが好ましい。ガスの導入は、ガス導入ユニット、たとえばガス導入ユニット13、たとえば、反応混合物中に位置させたスパージリング、ノズル、二流体スプレーヤー、または穴を開けたパイプリングを使用して実施するのが好ましい。この目的のためには、その少なくとも1種の酸素含有ガスは、その反応混合物の液柱の静水圧を克服する十分な圧力を有していなければならない。
【0054】
驚くべきことに、機械的混合および/または水力学的混合なしで、少量の導入ガスで顔料を析出させる従来技術のプロセスと比較して、本発明のプロセスで使用されるFe(NO
3)
2の単位量あたりで顕著に多量のヘマタイト顔料が生成されることが見出された。従来技術のプロセスと比較すると、本発明のプロセスにおいて、ヘマタイト顔料中に存在するFe
3+の大部分が鉄に由来しており、ヘマタイト顔料中に存在するFe
3+のわずかな部分がFe(NO
3)
2に由来している。使用されるガス導入量が6m
3以下のガス容積/バッチ容積(m
3)/反応時間であるが、機械的混合および/または水力学的混合を使用しない従来技術のプロセスにおいて、1kgのFe(NO
3)
2あたり1.0kg以下のFe
2O
3のみを生成するのが普通である。しかしながら、本発明のプロセスにおいて、1kgのFe(NO
3)
2あたり1.2kg以上のFe
2O
3、好ましくは1kgのFe(NO
3)
2あたり1.2〜2.5kgのFe
2O
3が生成する。その結果、そのプロセスは、より低コストになり、なぜなら、その製造プロセスでは、使用される鉄とは対照的に、別途に生成しなければならない硝酸鉄(II)溶液の必要量が少ないからである。さらに、本発明のプロセスにおいて、従来技術と比較してガス導入容積が小さいため、気相に排出される窒素酸化物の量が顕著に少ない。6m
3を超えるガス容積/バッチ容積(m
3)/反応時間の酸素含有ガスの大量の導入ガスが使用され、機械的混合および/または水力学的混合なしの従来技術によるプロセスにおいて、反応混合物から、製造される顔料1キログラムあたり80g以上の酸化窒素系ガス、たとえばNOおよびNO
2(常に、NO
2として計算)ならびに製造される顔料1キログラムあたり40g以上の一酸化二窒素が、典型的には周辺大気中に放出される。さらに、液相中に溶解している窒素酸化物そのものが、少なくとも1種の酸素含有ガスのような酸化剤として作用して、鉄を酸化させてFe
3+とする。この場合、その中の窒素が+1〜+5の酸化数を有している窒素酸化物が還元されて、酸化数が0である窒素、すなわちN
2、またはその中の窒素が−3の酸化数を有するアンモニウム化合物のいずれかになる。その結果、本発明のプロセスにおいて、ガススクラビング法またはその他のガスもしくは廃水精製法による複雑な方式で除去しなければならない窒素酸化物および/またはアンモニウム化合物の生成量が極めて少量となる。さらに、従来技術と比較してガス導入容積が少ないため、70〜99℃に加熱された反応混合物から気相に持ち出されるエネルギーも顕著に少ない。同量の導入ガスでは、1kgのFe(NO
3)
2あたりで生成するFe
2O
3の量が顕著に多くなるため、したがって、ヘマタイト顔料の収率を下げることなく、顔料を析出させるために使用される硝酸鉄の量を同程度に減らすことができる。
【0055】
さらなる実施形態では、その酸化鉄赤色顔料を製造するためのプロセスは、少なくとも1種の酸素含有ガスの存在下、70〜99℃の温度での、鉄と、100nm以下の粒径および40m
2/g〜150m
2/gのBET比表面積(DIN 66131に従って測定される)を有するヘマタイト核を含むヘマタイト核懸濁液と、硝酸鉄(II)溶液との反応を含み、その反応が、
・機械的混合および/または水力学的混合による液相の混合を用いて実施され、および
・少なくとも1種の酸素含有ガスの導入が、6m
3以下のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、好ましくは0.2〜6m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、特に好ましくは0.2〜5m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間、極めて特に好ましくは0.2〜3m
3のガス容積/バッチ容積(m
3)/時間のガス導入容積を用いて実施され、および
・ヘマタイト核懸濁液が少なくとも鉄に添加され、および
・ヘマタイト核懸濁液の添加の前、添加の後、または添加と同時に、少なくともヘマタイト核懸濁液および鉄の混合物に対して、硝酸鉄(II)の濃度が無水Fe(NO
3)
2を基準に計算して0.1〜25g/液相(l)、好ましくは1〜20g/液相(l)であるように、硝酸鉄(II)溶液が添加されて、ヘマタイト顔料の懸濁液を製造することを特徴とする。
【0056】
本発明のプロセスのこの実施形態では、驚くべきことに、1kgのFe(NO
3)
2あたり1.5kg以上のFe
2O
3、好ましくは1kgのFe(NO
3)
2あたり1.8〜3kgのFe
2O
3が生成する。さらに、この実施形態では、典型的には、生成するヘマタイト顔料1キログラムあたり20g未満の酸化窒素系ガス、たとえばNOおよびNO
2(常に、NO
2として計算)、および生成するヘマタイト顔料1キログラムあたり20g未満の一酸化二窒素が反応混合物から周辺大気に放出される。
【実施例】
【0057】
例および方法:
鉄(II)および鉄(III)の定量滴定:
硝酸鉄(II)の含量は、塩酸を用いて酸性化させたサンプル溶液を、硫酸セリウム(III)を用いて電位差滴定することにより、鉄(II)含量を測定することによって間接的に求めることができる。
【0058】
NO
xの測定
NO
xの測定は、堀場製のガス分析計PG 250(化学ルミネセンス法)を用いて実施した。NO
x生成についての情報は、顔料収量に対する比率として報告した(NO
2として計算、NO
2(g)/顔料(kg))。出発物質のヘマタイト核および硝酸鉄の製造で発生するNO
x放出は含まれていない。
【0059】
N
2Oの測定
笑気ガスの測定は、定量的ガスクロマトグラフィー測定によるか、および/または赤外測定法によって実施した。N
2O生成についての情報は、顔料収量に対する比率として報告した(N
2O(g)/顔料(kg))。出発物質のヘマタイト核および硝酸鉄の製造で発生するN
2O放出は含まれていない。
【0060】
例1〜8:
例1〜8は、同一の反応器において相当のスケール(使用した鉄の量、55〜60kg)で、同一の条件および同一の、出発物質の量対設定溶液の容積の相対比で実施した。使用された鉄は、一般的に過剰に存在する。変化させたパラメーターは次のものであった:単位体積あたりの導入したガスの量;撹拌(あり、なし);攪拌機速度;ポンプ循環(あり、なし);ポンプ輸送による循環量;流速。それぞれの例におけるこれらのパラメーターを表1に示す。
【0061】
実験の詳細については、以下に、例7について説明する。
【0062】
約1mmの厚みを有する鉄のシート55kgを、網目トレー(目開き、約10mm)、スパージリング(反応器の底部)、ポンプ循環、および傾斜ブレード攪拌機を備えた1m
3の反応器に入れた。スパージリングおよび攪拌機は網目トレーより下に設置し、ポンプ循環の出口は、鉄ベッドの側面に位置させ、ポンプ循環の取り入れ口は、反応器の底部に位置させる。鉄のシートは、網目トレーの上に、0.6〜0.8kg/lの嵩密度で均質に分散させた。次いで、水、硝酸鉄(II)溶液(25.2kgのFe(NO
3)
2に相当(無水Fe(NO
3)
2として計算、Fe(NO
3)
2濃度=120g/l)およびヘマタイト核懸濁液(16.1kgのFe
2O
3に相当、濃度=130g/l)を、バッチ容積が700リットルに達し、核の濃度が(無水Fe
2O
3として計算して)23g/lとなり、硝酸鉄の濃度(無水Fe(NO
3)
2として計算して)が36g/lになるように添加した。攪拌機の電源を入れ(140rpm、3.7m/s、傾斜ブレード攪拌機、直径50cm)、ポンプ循環の電源を入れて、その混合物を加熱して85℃とし、その温度に達したところで2m
3の空気/バッチ容積/時間を70時間スパージして、反応混合物の硝酸鉄(II)濃度を0.1g/l未満に到達させた。反応時間を通じて、撹拌およびポンプ循環を続けた。ガスの導入が終了してから、硝酸鉄(II)濃度が0.1g/液相(l)未満であることを測定した。次いでその反応混合物を、フィルタープレスを通して濾過し、得られたヘマタイト顔料を、水を用いて洗浄した。次いでそのヘマタイト顔料を、80℃で乾燥させて、残存湿分含量を5重量%とした。次いでその乾燥させたフィルターケーキを、シュレッダーにより機械的に破砕した。この方法では、ヘマタイト顔料が粉体の形態で67.0kgの収量において得られた。使用したFe
2O
3核の量は16.1kgであり、新規に形成されたFe
2O
3の量は50.9kgである(67.0kg−16.1kg)。反応した硝酸鉄(II)の量は、25.2kgである。これから計算すると、1kgのFe(NO
3)
2あたり50.9kg/25.2kg=2.0kgのFe
2O
3となる。
【0063】
表1は、例1〜3(比較例)および例4〜8(本発明実施例)で、変化させたプロセスパラメーターと、さらには1kgのFe(NO
3)
2あたりのFe
2O
3の生成比(kg)とを示す。表2に、生成したオフガスのNO
xおよびN
2Oの量についての結果を示す。
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
例9〜12:
例9〜12は、同一の反応器において相当のスケール(使用した鉄の量、55〜60kg)で、同一の条件および同一の、出発物質の量対設定溶液の容積の相対比で実施した。使用された鉄は、一般的に過剰に存在する。変化させたパラメーターは次のものであった:単位体積あたりの導入ガス量;撹拌(あり、なし);ポンプ循環(あり、なし);硝酸鉄(II)溶液の導入(あり、なし)。それぞれの例におけるこれらのパラメーターを表1に示す。
【0066】
実験の詳細については、以下に、例11について説明する。
【0067】
約1mmの厚みを有する鉄のシート55kgを、網目トレー(目開き、約10mm)、スパージリング(反応器の底部)、ポンプ循環、および傾斜ブレード攪拌機を備えた1m
3の反応器に入れた。スパージリングおよび攪拌機は網目トレーより下に設置し、ポンプ循環の出口は、鉄ベッドの側面に位置させ、ポンプ循環の取り入れ口は、反応器の底部に位置させる。その鉄シートは、網目トレーの上に均質に分散させた。次いで、水およびヘマタイト核懸濁液(無水Fe
2O
3として計算して、16.1kgのFe
2O
3に相当)を添加して、490リットルの容積になるようにする。攪拌機(140rpm、3.7m/s、傾斜ブレード攪拌機、直径50cm)の電源を入れ、ポンプ循環(12m
3/バッチ容積(m
3)/時間)の電源を入れて、その混合物を加熱して85℃とし、その温度に達したところで2m
3の空気/バッチ容積(m
3)/時間を用いてスパージさせた。温度が85℃に達してから、硝酸鉄(II)溶液(210リットル、濃度=120g/l、無水Fe(NO
3)
2を基準に計算して)を24時間かけて導入し、Fe(NO
3)
2の添加が終わるまで、常にFe(NO
3)
2濃度が20g/液相(l)を超えないようにした。導入終了後の硝酸鉄(II)溶液の容積は、700リットルであった。硝酸鉄(II)溶液の添加中、およびさらにその後の46時間にわたりスパージを続けたため、ガスは合計して70時間導入したことになる。反応時間を通じて、撹拌およびポンプ循環を続けた。ガスを70時間導入した後では、反応混合物の硝酸鉄(II)濃度が0.1g/l未満となった。次いでその反応混合物を、フィルタープレスを通して濾過し、得られたヘマタイト顔料を、水を用いて洗浄した。次いでそのヘマタイト顔料を、80℃で乾燥させて、残存湿分含量を5重量%とした。次いでその乾燥させたフィルターケーキを、シュレッダーにより機械的に破砕した。この方法で、ヘマタイト顔料が、粉体の形態で78.9kgの収量で得られた。
【0068】
使用したFe
2O
3核の量は16.1kgであり、新規に形成されたFe
2O
3の量は59.9kgであった(76kg−16.1kg)。反応した硝酸鉄(II)の量は、25.2kgであった。これから計算すると、1kgのFe(NO
3)
2あたり59.9kg/25.2kg=2.4kgのFe
2O
3となる。
【0069】
表3は、例7の場合における1kgのFe(NO
3)
2あたりのFe
2O
3(kg)の比率と、さらには生成したオフガスのNO
xおよびN
2Oの量とを示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
12m
3/時間のポンプ輸送で循環される量は、この試験反応器において、17バッチ容積/時間のポンプ輸送での循環量、および出口での流速1.4m/sに相当する。6m
3/時間のポンプ輸送で循環される量は、この試験反応器において、8.5バッチ容積/時間のポンプ輸送での循環量、および出口での流速0.7m/sに相当する。