特許第6374633号(P6374633)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6374633
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】溶融金属浴用部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/18 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   C23C4/18
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-515328(P2018-515328)
(86)(22)【出願日】2017年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2017038187
【審査請求日】2018年3月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390030823
【氏名又は名称】日鉄住金ハード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲ユ▼
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−096204(JP,A)
【文献】 特開平08−300133(JP,A)
【文献】 特開平10−045161(JP,A)
【文献】 特開2000−054096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00−6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属に浸漬して使用される溶融金属浴用部材の製造方法であって、
基材上に形成されたサーメット溶射皮膜、又は、基材上に形成された酸化物系セラミックス溶射皮膜に対して、第1リン酸アルミニウムと六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子とをシリカゾル溶液に添加した混合溶液を、前記溶射皮膜の封孔用溶液として塗布または吹き付けし、焼成することを含み、
前記混合溶液100質量部に対して、前記無機粒子を2質量部以上25質量部以下添加することを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法。
【請求項2】
前記無機粒子が、六方晶窒化ホウ素であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属浴用部材の製造方法。
【請求項3】
前記シリカゾル溶液に含まれるシリカ100質量部に対して、前記第1リン酸アルミニウムを10質量部以上80質量部以下添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融金属浴用部材の製造方法。
【請求項4】
前記無機粒子の平均粒径が、0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の溶融金属浴用部材の製造方法。
【請求項5】
前記サーメット溶射皮膜が、WC−WB−Co系、WB−Co系又はWC-Co系のサーメット溶射皮膜であることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の溶融金属浴用部材の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物系セラミックス溶射皮膜が、Y、Ce、Er、Zr、Crからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物の溶射皮膜であることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の溶融金属浴用部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっきラインにおける溶融金属中において使用される溶融金属浴用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続溶融亜鉛めっきライン、連続溶融アルミニウムめっきラインなどのめっき浴中では、浴中ロールやその他の付帯設備などの部材が使用されている。これらの部材は、溶融金属(亜鉛やアルミなど)と接触して使用されるため、溶融金属と反応して腐食しやすい。このため、部材の表面に溶融金属に対する耐腐食性の高いサーメット又はセラミックスによる溶射皮膜を形成することが一般的である。
【0003】
溶射皮膜に気孔や割れなどがあると、溶融金属が溶射皮膜内に浸透し、部材内部の基材に到達することがある。溶融金属成分が基材に到達すると、溶融金属と基材とが反応し、溶射皮膜が早期に破壊される場合がある。そのため、溶射皮膜形成後は、溶射皮膜の気孔や割れに対して封孔処理が行われている(たとえば特許文献1〜4参照。)。
【0004】
また、溶融金属めっき浴では、めっき対象の鋼帯(鋼板)から溶出した鉄が溶融金属(例えば、亜鉛やアルミニウム)と結合して、ドロス(Fe−Al、Fe−Al−Zn系金属間化合物など)を生成する。これらドロスは、浴中ロール(シンクロール及びサポートロール)に巻き付きやすく、ロール表面のドロスが鋼帯表面にスリップ疵、押し疵等を付けて品質低下の原因となる。ドロスの巻き付き問題を解消するため、浴中ロールは浴中溶融金属との難反応性だけではなく、ドロスの付着防止が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−92719号公報
【特許文献2】特開平10−71675号公報
【特許文献3】特開2000−54095号公報
【特許文献4】特開2000−96204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1と2では、金属酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物などのセラミックスと、ケイ酸塩やリン酸塩などの結合材を含むバインダー溶液と、の混合物を溶射皮膜の表面に塗布し焼成することにより、溶射皮膜表面に封孔処理層を形成している。封孔処理層を形成することよって、溶射皮膜の気孔や割れに、セラミックスを充填し、溶融金属が溶射皮膜内に浸透することを抑制している。特許文献1や2では、封孔処理層の原料として、バインダー溶液が用いられているため、セラミックス粒子同士の接合を強化できる。しかしながら、バインダー溶液は、焼成により溶媒が蒸発するため、体積が減少し、封孔処理層に微小な割れ(以下、「ミクロ割れ」ともいう)が発生する。溶融金属は、そのミクロ割れを介して、溶射皮膜の気孔や割れまで到達する。このため、この封孔処理技術では、溶融金属が溶射皮膜内に浸透することを抑制することができず、溶射皮膜が破壊されてしまうことがある。
【0007】
特許文献3は、鋼基材表面にWC−Coサーメット溶射皮膜を被覆してなるロールにおいて、溶射皮膜の気孔や割れに金属酸化物もしくは金属酸化物と窒化物との混合物の焼成微粒子を充填する技術が開示されている。当該技術では、溶射皮膜に金属塩水溶液等を塗布して焼成することにより焼成微粒子を形成しているが、金属塩水溶液を焼成することにより溶媒が蒸発するため、形成される焼成微粒子間には隙間(つまり、気孔)が生じる。溶融金属は、焼成微粒子間に生じる気孔を介して、溶射皮膜の気孔や割れまで到達するため、この封孔処理技術でも、溶融金属が溶射皮膜内に浸透することを抑制することができず、溶射皮膜が破壊されてしまうことがある。また、金属塩水溶液に含まれる溶媒が蒸発することで生じるガスは、焼成微粒子間に生じる気孔をさらに拡大する。
【0008】
特許文献4では、溶射皮膜に対して、SiO、Al、TiO、ZrOなどのセラミックスコロイドとリン酸塩溶液からなる混合溶液を塗布、焼成し、溶射皮膜表面に封孔処理層を形成している。この封処理層を形成することにより、溶射皮膜の気孔や割れを封孔し、溶融金属が溶射皮膜内に浸透することを抑制している。セラミックスコロイドは、微細であるため、セラミックスコロイドとリン酸塩溶液からなる混合溶液は、溶射皮膜の気孔や割れに充填しやすい。また、溶射皮膜に塗布された混合溶液はゲル化し、その後の焼成により、より緻密な封孔処理層を溶射皮膜に生成することができる。ただし、セラミックスコロイドとリン酸塩溶液からなる混合溶液では、ゲル化から焼成過程において、溶液中の溶媒が蒸発する。溶液中の溶媒が蒸発すると、特許文献1〜2と同様に、体積収縮が発生して、封孔処理層にミクロ割れが発生してしまう。つまり、この封孔処理技術によっても、溶融金属が溶射皮膜内に浸透することを抑制することができず、溶射皮膜が破壊されてしまうことがある。
【0009】
また、特許文献1〜4のように、封孔処理層にミクロ割れや気孔が形成されると、溶融金属中において、ミクロ割れや気孔の内部に合金の核が生じることがある。合金の核が生じると、合金が成長し、溶射皮膜の表面に合金が付着してしまう。さらに、特許文献4に開示される封孔処理層では、溶融金属めっき浴におけるドロス(例えば、Fe−Al、Fe−Al−Znの合金)の付着に関しては大きく改善することはできない。
【0010】
そこで本発明は、封孔皮膜に微小な割れや気孔が形成されにくい、ドロスなどの合金の付着を抑制できる溶融金属浴中部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る溶融金属浴中部材の製造方法は、(1)基材上に形成されたサーメット溶射皮膜、又は、基材上に形成された酸化物系セラミックスの溶射皮膜に対して、第1リン酸アルミニウムと六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子とをシリカゾル溶液に添加した混合溶液を、前記溶射皮膜の封孔用溶液として塗布または吹き付けし、焼成することを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法である。(1)によれば、上記目的を達成することができる。
【0012】
(2)上記(1)の溶融金属浴用部材の製造方法において、前記無機粒子が、六方晶窒化ホウ素であることを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)の溶融金属浴用部材の製造方法において、前記シリカゾル溶液に含まれるシリカ100質量部に対して、前記第1リン酸アルミニウムを10質量部以上80質量部以下添加することを特徴とする融金属浴用部材の製造方法。
【0014】
(4)上記(1)から(3)のいずれか一つの溶融金属浴用部材の製造方法において、前記混合溶液100質量部に対して、前記無機粒子を2質量部以上25質量部以下添加することを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれか一つの溶融金属浴用部材の製造方法において、前記無機粒子の平均粒径が、0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法。
【0016】
(6)上記(1)から(5)のいずれか一つの溶融金属浴用部材の製造方法において、前記サーメット溶射皮膜が、WC−WB−Co系、WB−Co系又はWC-Co系のサーメット溶射皮膜であることを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法。
【0017】
(7)上記(1)から(6)のいずれかの溶融金属浴用部材の製造方法において、前記酸化物系セラミックス溶射皮膜が、Y、Ce、Er、Zr、Crからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物の溶射皮膜であることを特徴とする溶融金属浴用部材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、封孔皮膜に微小な割れや気孔が形成されにくい、ドロスなどの合金の付着を抑制できる溶融金属浴中部材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】封孔皮膜を形成した溶融金属浴中部材の断面の模式図である。
図2】実施例1の溶融金属浴用部材の光学顕微鏡画像である。
図3】比較例2の溶融金属浴用部材の光学顕微鏡画像である。
図4】実施例1の溶融金属浴用部材の走査型電子顕微鏡画像及びエネルギー分散型X線分析画像である。
図5】実施例5の溶融金属浴用部材の走査型電子顕微鏡画像及びエネルギー分散型X線分析画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。図1は、本実施形態に係る封孔皮膜13を形成した溶融金属浴用部材1の断面の模式図である。
【0021】
本実施形態の溶融金属浴用部材1は、溶融亜鉛めっきラインや溶融アルミニウムめっきラインなどのめっき浴中において、浴中ロールやその他の付帯設備として用いられる部材であり、溶融金属(亜鉛やアルミなど)と接触して用いられる。本実施形態の溶融金属浴用部材1は、図1に示すように、溶融金属浴用部材1の基材11上に溶射皮膜12が形成され、その溶射皮膜12に対して封孔処理を行い封孔皮膜13を形成して製造される。
【0022】
基材11上(表面)に形成される溶射皮膜12は、サーメット溶射皮膜や酸化物系セラミックス溶射皮膜である。そして、本実施形態ではこの溶射皮膜12に形成される気孔12aや割れ12bの封孔処理として、第1リン酸アルミニウムと、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子14と、をシリカゾル溶液に添加した混合溶液(以下、単に「混合溶液」ともいう)を、溶射皮膜12表面に塗布又は吹き付けし、焼成することで、封孔皮膜13を形成する。
【0023】
混合溶液は、第1リン酸アルミニウムとシリカゾル溶液が反応することによってゲル化し、焼成処理されることによってガラス質の封孔物質を形成する。混合溶液を焼成処理して得られるガラス質の封孔物質は、溶融金属と反応しにくく、溶融金属が浸透しにくい性質を有する。混合溶液はまず基材11上の溶射皮膜12の表面に、塗布あるいは吹き付けされ、溶射皮膜12を覆い気孔12aや割れ12bに浸透する。そして、混合溶液が焼成されることによって、ガラス質の封孔物質を含む封孔皮膜13が形成され、気孔12aや割れ12bが封孔される。なお、本明細書において、ゾルとは、コロイド粒子を含む分散媒が流動性を有している状態を指し、ゲルとは、コロイド粒子を含む分散媒が流動性を失っている状態を指す。また、ゲル化とは、コロイド粒子を含む分散媒が流動性を有している状態から流動性が失われた状態に変化することを指す。
【0024】
シリカゾル溶液は、シリカ(SiO)及び/又はその水和物からなるコロイド粒子(以下、「シリカコロイド粒子」ともいう)が分散媒に分散されているゾル溶液であり、Zn合金などの溶融金属との難反応性を得るために加えられる。封孔皮膜13の原料としてシリカゾル溶液が用いられることで、Zn合金などの溶融金属と反応しにくいガラス質の封孔物質が形成される。シリカゾル溶液は、公知の方法で製造することができるが、例えば、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸ナトリウム)と希塩酸とを混合し、得られた混合物を透析することにより得ることができる。
【0025】
シリカゾル溶液におけるシリカ(SiO)の質量分率は、20%以上45%以下であることが好ましい。45%を超えると、溶液の粘度が高くなり、第1リン酸アルミニウムや無機粒子14と混合する処理などにおいて扱いにくくなる。20%未満であると、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bを充填するためのシリカ(SiO)量が少なくなり、上述した混合溶液を溶射皮膜12に塗布あるいは吹き付ける回数が増え、支障をきたすことがある。
【0026】
シリカゾル溶液に含まれるシリカコロイド粒子は、平均粒子径が50nm以下であることが好ましい。50nmより大きいと、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bにシリカコロイド粒子が充填されにくくなる。平均粒子径の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、10nmとすることができる。なお、本明細書中において「平均粒径」とは、特記しない限り、レーザー散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわち50%体積平均粒子径(メジアン径、d50)を意味するものとする。また、シリカゾル溶液の粘度は、6.0mPa・s以下であることが好ましい。粘度が6.0mPa・sより大きいと、混合溶液が溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに充填されにくくなる。
【0027】
第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)は、シリカゾル溶液に対し、ゲル化開始剤として加えられる。第1リン酸アルミニウムは、水などの溶媒に混合され、第1リン酸アルミニウム溶液としてシリカゾル溶液に加えられてもよい。また、第1リン酸アルミニウム溶液には、リン酸が加えられてもよい。第1リン酸アルミニウムは、シリカゾル溶液と反応し、混合溶液をゲル化する。混合溶液がゲル化することで、混合溶液は、溶射皮膜12表面に保持されやすくなる。このため、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに混合溶液が充填された状態で、焼成処理を行いやすくなる。従って、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bが、封孔皮膜13により封孔されやすくなる。
【0028】
第1リン酸アルミニウムをシリカゾル溶液に加えた混合溶液は、ゲルの状態となった後、溶射皮膜12に塗布または吹き付けられてもよく、ゲル化が進行している状態(ゾルの状態)で、溶射皮膜12に塗布または吹き付けられてもよい。ゲル化が進行している状態の混合溶液は、ゲルの状態の混合溶液と比較して、溶射皮膜12に塗布または吹き付けやすく、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに充填されやすい。このため、混合溶液は、ゲル化が進行している状態で、溶射皮膜12に塗布または吹き付けることが好ましい。また、溶射皮膜12に塗布または吹き付けられた混合溶液は、ゲルの状態になった後に焼成されてもよく、ゲル化が進行している状態で焼成されてもよいが、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに混合溶液が充填された状態を維持しやすくする観点からは、混合溶液がゲルの状態になった後に焼成された方が好ましい。
【0029】
また、第1リン酸アルミニウムは、混合溶液が焼成されることで、シリカコロイド粒子に含まれるシリカの結晶転移を引き起こす。シリカの結晶転移が生じると、混合溶液に含まれるコロイド粒子同士が強固に結合するとともに結合したコロイド粒子が硬化する。これにより、溶射皮膜12を覆うガラス質の封孔物質が形成される。
【0030】
封孔皮膜13において、無機粒子14は、ガラス質の封孔物質に分散した状態で保持される。つまり、封孔皮膜13において、無機粒子14の間は、ガラス質の封孔物質で満たされている。このため、封孔皮膜13には、気孔(隙間)が形成されにくい。一方、シリカゾル溶液に代えて、シリカが分散しているだけの溶液(シリカがコロイド粒子を形成していない溶液)が用いられる場合や、シリカゾル溶液に代えて、珪酸イオンが分散しているだけの溶液が用いられる場合には、ガラス質の封孔物質が形成されにくくなる。そして、溶射皮膜12の表面には、シリカから構成される粒子や無機粒子14やそれらの焼成粒子が析出する。このような粒子が析出して形成される封孔皮膜では、粒子間に気孔(隙間)が形成される。
【0031】
本実施形態において、シリカゾル溶液と第1リン酸アルミニウムの混合比率は、シリカゾル溶液中のシリカ(SiO)100質量部に対して、第1リン酸アルミニウム(AlPO)が10質量部以上80質量部以下となるように添加することが好ましい。第1リン酸アルミニウムが10質量部未満で添加される場合、混合溶液のゲル化が起こりにくくなることがあり、混合溶液を溶射皮膜12の表面に保持しにくくなることがある。また、第1リン酸アルミニウムが10質量部未満で添加される場合、シリカの結晶転移が起こりにくくなることがあり、ガラス質の封孔物質が形成されにくくなることがある。このため、封孔皮膜13が溶融金属と反応してドロスなどの合金が付着しやすくなったり、封孔皮膜13に溶融金属が浸透しやすくなることがある。また、第1リン酸アルミニウムが80質量部より多く添加される場合、混合溶液のゲル化の進行速度が高まりやすくなり、溶射皮膜12に混合溶液を塗布または吹きつける前に、混合溶液がゲルの状態になりやすい。このため、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに混合溶液が充填されにくくなることがある。また、第1リン酸アルミニウムが80質量部より多く添加される場合、第1リン酸アルミニウムが焼成過程で封孔皮膜13に気孔を形成することがある。
【0032】
そして本実施形態では、シリカゾル溶液に対し、第1リン酸アルミニウムとともに、六方晶系層状構造を有する無機粒子14が添加される。六方晶系層状構造とは、無機粒子14を構成する元素が共有結合して形成される六員環が多数結合した二次元構造体(層)が多数積み重なった結晶構造であり、層と層の間は弱いファンデルワールス力で結合している。六方晶系層状構造を有する無機粒子14は、結晶構造における各層が広がる平面内において、混合溶液が収縮することを抑制する。つまり、無機粒子14は、混合溶液がゲル化したり焼成される過程で、ピンのように液相の移動を妨げ、混合溶液の体積の縮小を抑制(以下、「ピン止め効果」ともいう。)することができる。従って、体積収縮に伴って起こる微小な割れ(以下、「ミクロ割れ」)の発生を抑制することができる。混合溶液に無機粒子14が存在しない場合、混合溶液のゲル化や焼成過程で生じる体積縮小を抑制しにくくなるため、封孔皮膜13に多くのミクロ割れが発生する。本明細書において「ミクロ割れ」とは、封孔皮膜13表面に現れる全長が10μm以下の微小な割れを意味する。
【0033】
また、無機粒子14の結晶構造において、層と層の間は弱いファンデルワールス力で結合しているため、無機粒子14は、原子レベルでの層間のすべり、あるいは原子レベルでの劈開を生じやすい。本実施形態では、この無機粒子14が封孔皮膜13に含有されているため、ドロスなどの合金が封孔皮膜13に付着した場合には、封孔皮膜13に含有される無機粒子14において、層間のすべりあるいは劈開が生じて層がずれる。そのずれた層は、ドロスなどの合金とともに封孔皮膜13から剥離されたり、ドロスなどの合金が付着した封孔皮膜13の一部分とともに封孔皮膜13から剥離されたりする。このため、ドロスなどの合金が封孔皮膜13(溶射皮膜12)に付着することが抑制される。また、仮に、封孔皮膜13にドロスが付着した状態で維持されたとしても、容易に除去することができる。なお、ドロスは、めっき対象の鋼帯(鋼板)からメッキ浴中に溶出したFeが浴中の溶融金属(例えば、Alや亜鉛)と反応して形成される金属間化合物であり、例えば、Fe−Al系およびFe−Al−Zn系金属間化合物を挙げることができる。
【0034】
無機粒子14は、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機物質であれば特に限定されない。具体的な無機粒子14としては、グラファイト、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、二硫化モリブデン(MoS)を挙げることができ、これらの2種以上の組み合わせた混合物を用いてもよい。これらの無機粒子14のうち、グラファイトと六方晶窒化ホウ素(h−BN)は、二硫化モリブデン(MoS)と比較して溶融金属とさらに反応しにくいため、より好ましい。また、グラファイトと六方晶窒化ホウ素(h−BN)のうち、六方晶窒化ホウ素(h−BN)は、グラファイトと比較して、溶融金属とさらに反応しにくいため、特に好ましい。
【0035】
また、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子14は、粒子の平均粒径が0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。当該範囲内であれば、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに無機粒子14が入り込むことができ(充填性に優れ)、封孔皮膜13の十分な成膜性も得られる。無機粒子14の平均粒径が5μmより大きい場合には、成膜性が低下して封孔皮膜13が劣化しやすくなり、封孔皮膜13の一部が脱落(剥離)しやすくなることがある。0.1μmより小さい場合には、上記ピン止め効果が不十分となりやすく、封孔皮膜13のミクロ割れの抑制効果が十分でないことがある。
【0036】
六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子14は、混合溶液100質量部に対して、2質量部以上25質量部以下の割合(比率)で添加することが好ましい。当該範囲内であると、混合溶液のゲル化および焼成過程での封孔皮膜13のミクロ割れを抑制するピン止め効果が確実に得られるため好ましい。無機粒子14が2質量部未満で添加される場合、封孔皮膜13における無機粒子14の体積比率が少なく、ミクロ割れを抑制するピン止め効果が得られにくい。無機粒子14が25質量部より多く添加される場合、無機粒子14の間に気孔(隙間)が生じやすくなったり、封孔皮膜13の強度が低下して封孔皮膜13の一部が脱落(剥離)しやすくなったりすることがある。
【0037】
封孔皮膜13の厚みは、5μm以上25μm以下が好ましい。当該範囲内であれば、六方晶系層状構造の無機粒子14が封孔皮膜13内において分散し、ピン止め効果が封孔皮膜(混合溶液)13内においてばらつきなく得られるため好ましい。封孔皮膜13が5μm未満になると無機粒子14の分散性が低下し、ピン止め効果にバラつきが生じてミクロ割れが発生しやすくなることがある。封孔皮膜13が25μm以上になると、衝撃などによる外力により封孔皮膜13の一部が脱落(剥離)する場合がある。
【0038】
基材11は、溶射皮膜12を形成できる材料で構成されていればよく、特に限定されないが、溶融金属浴用部材1の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、溶融金属浴用部材1を、浴中ロールとして用いる場合、熱膨張係数16×10-6/k以下の耐熱鋼により構成することができる。
【0039】
溶射皮膜12は、サーメット溶射皮膜又は酸化物系セラミックス溶射皮膜である。サーメット溶射皮膜としては、たとえば、WC、WB及びCo、WCoB、WCoBを基材11に溶射して得られるWC−WB−Co系サーメット溶射皮膜や、たとえば、WB及びCo、WCoB、WCoBを基材11に溶射して得られるWB−Co系のサーメット溶射皮膜や、たとえば、WC、WC及びCoを基材11に溶射して得られるWC−Co系サーメット溶射皮膜が挙げられる。酸化物系セラミックス溶射皮膜としては、たとえば、Y、Ce、Er、Zr、Crから選択される1種以上の酸化物を溶射して得られる溶射皮膜があげられる。溶射皮膜12が、サーメット溶射皮膜や酸化物系セラミックス溶射皮膜であることにより、封孔皮膜13が溶射皮膜12と密着し、封孔皮膜13が溶射皮膜12から脱落しにくくなる。溶射皮膜12が、サーメット溶射皮膜や酸化物系セラミックス溶射皮膜でない場合には、封孔皮膜13が溶射皮膜12から脱落しやすくなる。なお、基材11上に溶射皮膜12を形成する方法としては、従来公知の方法を用いることができる。溶射皮膜12の厚みは、例えば、30μm〜300μmとすることができる。
【0040】
次に、本実施形態の溶融金属浴用部材1の製造方法をより具体的に説明する。まず、浴中ロールやその他の付帯設備の基材11(母材)の表面に、サーメット溶射又は酸化物系セラミックス溶射を行い、溶射皮膜12を形成する。形成した溶射皮膜12の表面に第1リン酸アルミニウムと、六方晶系層状構造の結晶構造を有する無機粒子14と、をシリカゾル溶液に添加した混合溶液を、塗布または吹き付けにより塗る。
【0041】
混合溶液の調製方法は、上述の条件を満たすシリカゾル溶液に、上述の第1リン酸アルミニウム(又は第1リン酸アルミニウム溶液)と上述の無機粒子14を添加する。シリカゾル溶液に第1リン酸アルミニウム(又は第1リン酸アルミニウム溶液)を添加した後に、無機粒子14を添加する場合、無機粒子14は、シリカゾル溶液がゲルの状態となった後に加えられてもよく、ゲルの状態になる前(すなわち、ゲル化が進行しているゾルの状態で)に加えられてもよい。しかしながら、シリカゾル溶液がゲルの状態になる前に無機粒子14が添加される場合、シリカゾル溶液がゲルの状態となった後に無機粒子14が添加される場合と比較して、無機粒子14をシリカゾル溶液中に分散しやすい。このため、シリカゾル溶液がゲルの状態になる前に無機粒子14が添加されることが好ましい。第1リン酸アルミニウムは、シリカゾル溶液の固形分換算で上述の比率になるように所定量添加することができる。また、無機粒子14についても、シリカゾルと第1リン酸アルミニウムの混合溶液に対して上述の比率になるように所定量添加することができる。そしてこの混合溶液を、マグネチックスターラーなどを用いて30分以上撹拌し、均一な混合溶液を作製する。
【0042】
次に、混合溶液を基材11の溶射皮膜12上に塗布する。塗布方法は特に限定されないが、スプレー塗布、刷毛塗り、溶液に含浸する方法などが好ましい。塗布ムラの少なさや膜厚の制御のしやすさなどの点から、スプレー塗布がより好ましい。
【0043】
混合溶液の溶射皮膜12への塗布後、電気炉等を用いて焼成処理を行って、溶射皮膜12の表面に封孔皮膜13を形成する。焼成処理の条件は、例えば、焼成温度を380〜480℃とし、焼成時間を3時間とすることができる。以上が、本実施形態の溶融金属浴用部材1の製造方法である。
【0044】
以上の本実施形態によれば、溶射皮膜12に塗布された混合溶液を焼成することで、溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bを封孔する封孔皮膜13を形成することができる。また、封孔皮膜13に含まれる無機粒子14の間は、ガラス質の封孔物質で満たされているため、封孔皮膜13には、気孔(隙間)が生じにくい。さらに、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子14によって、混合溶液の体積の縮小が抑制されるため、封孔皮膜13におけるミクロ割れの発生を抑制することができる。また、封孔皮膜13においてミクロ割れや気孔の発生が抑制されることで、封孔皮膜13のミクロ割れや気孔を介して、溶融金属が溶射皮膜12の気孔12aや割れ12bに到達することを抑制することができる。つまり、溶融金属浴中部材1は、優れた耐溶融金属浸透性(溶射皮膜12の内部に溶融金属が浸透することを抑制する性質)を有し、溶融金属と基材11とが反応して溶射皮膜12が破壊されてしまうことを抑制することができる。
【0045】
さらに、封孔皮膜13を構成するガラス質の封孔物質は、溶融金属と反応しにくく、ドロスなどの合金が付着しにくい。また、本実施形態の製造方法で得られる溶融金属用部材1は、封孔皮膜13にミクロ割れや気孔が形成されにくいため、ミクロ割れや気孔の内部に合金の核が生じることを抑制することができる。このため、核から成長して生成される合金が、溶融金属浴用部材1に付着することを抑制することができる。そして、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子14が封孔皮膜13に分散されていることによって、ドロスなどの合金が封孔皮膜13に付着することを抑制することができる。また、仮に、ドロスなどの合金が封孔皮膜13に付着して維持されても、容易に除去することができる。これは、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子14では、層状構造の層間の結合力が非常に弱いため、ドロスなどの合金が付着しても無機粒子14の層間にすべりが発生し、無機粒子14のずれた層と共にドロスなどの合金が容易に封孔皮膜13から剥離するためである。従って、本実施形態によれば、ドロスなどの合金が付着しにくく(巻き付きにくく)、付着したドロスなどの合金を容易に除去することができる非常に優れた溶融金属浴用部材1を提供することができる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
基材(母材)の表面に溶射皮膜を形成するとともに、溶射皮膜の表面に実施形態で説明した封孔皮膜を実際に作製して、封孔皮膜の評価を行った。各実施例及び比較例を説明する。
【0048】
(実施例1)
40gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製,高純度試薬)100gを用意した。25gの水と10gの第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製,高純度試薬)35gを用意した。シリカゾル溶液100gに、第1リン酸アルミニウム溶液35gを加えるとともに、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子として、六方晶窒化ホウ素(h−BN)(Alfa Aesar (ALF)社製,高純度試薬)6.25gを加えた。第1リン酸アルミニウム溶液及び六方晶窒化ホウ素が加えられたシリカゾル溶液を、30分間マグネチックスターラーで撹拌して、封孔処理溶液(混合溶液)を作製した。h−BNの平均粒径(メジアン径)は、2μmであった。
【0049】
直径30mm、長さ200mmのSUS316L鋼の丸棒の基材に対してWC-WB-Co系サーメット溶射皮膜を溶射し、基材の表面にサーメット溶射皮膜を形成した。封孔処理溶液を、溶射皮膜の表面にスプレー塗布し、溶射皮膜上に封孔処理溶液が塗布された基材を得た。得られた基材を室温で乾燥後、電気炉内に配置して410℃,3時間の条件で焼成し、溶射皮膜上に封孔皮膜が形成された溶融金属浴用部材を得た。なお、基材に対する封孔処理溶液の塗布は、スプレーの吐出口から溶射皮膜までの距離を400mmとして、塗出量15g/minとして行った。また、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0050】
(実施例2)
45gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製,高純度試薬)100gを用意した。10gの水と10gの第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製,高純度試薬)20gを用意した。シリカゾル溶液100gに、第1リン酸アルミニウム溶液20gを加えるとともに、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子として、グラファイト(和光純薬工業株式会社製)6.25gを加えた。第1リン酸アルミニウム溶液及びグラファイトが加えられたシリカゾル溶液を、30分間マグネチックスターラーで撹拌して、封孔処理溶液(混合溶液)を作製した。この封孔処理溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の溶融金属浴用部材を得た。なお、グラファイトの平均粒径(メジアン径)は、2μm以上であった。また、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0051】
(実施例3)
30gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製,高純度試薬)100gを用意した。15gの水と10gの第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製,高純度試薬)25を用意した。シリカゾル溶液100gに第1リン酸アルミニウム溶液25gを加えるとともに、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子として、二硫化モリブデン(MoS(和光純薬工業株式会社製))6.25gを加えた。第1リン酸アルミニウム溶液及び二硫化モリブデン(MoS)が加えられたシリカゾル溶液を、30分間マグネチックスターラーで撹拌して、封孔処理溶液(混合溶液)を作製した。この封孔処理溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の溶融金属浴用部材を得た。なお、二硫化モリブデン(MoS)の平均粒径(メジアン径)は、2μmであった。また、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0052】
(実施例4)
25gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製,高純度試薬)100gを用意した。17gの水と10gの第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製,高純度試薬)27gを用意した。シリカゾル溶液100gに第1リン酸アルミニウム溶液27gを加えるとともに、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子として、六方晶窒化ホウ素(h−BN)(Alfa Aesar (ALF)社製)12.5gを加えた。第1リン酸アルミニウム溶液及び六方晶窒化ホウ素(h−BN)が加えられたシリカゾル溶液を、30分間マグネチックスターラーで撹拌して、封孔処理溶液(混合溶液)を作製した。この封孔処理溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例4の溶融金属浴用部材を得た。なお、h−BNの平均粒径(メジアン径)は、2μmであった。また、封孔皮膜の厚みは15μmであった。
【0053】
(実施例5)
20gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製,高純度試薬)100gを用意した。25gの水と16gの第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製,高純度試薬)41gを用意した。シリカゾル溶液100gに、第1リン酸アルミニウム溶液41gを加えるとともに、六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子として、グラファイト(和光純薬工業株式会社製)12.5gを加えた。第1リン酸アルミニウム溶液及びグラファイトが加えられたシリカゾル溶液を、30分間マグネチックスターラーで撹拌して、封孔処理溶液(混合溶液)を作製した。この封孔処理溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例5の溶融金属浴用部材を得た。なお、グラファイトの平均粒径(メジアン径)は、2μmであった。なお、封孔皮膜の厚みは15μmであった。
【0054】
(実施例6)
第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)10gに代えて、第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)32.4gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例6の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0055】
(実施例7)
第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)10gに代えて、第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)3.6gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例7の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0056】
(実施例8)
h−BN(Alfa Aesar (ALF)社製)6.25gに代えて、六方晶窒化ホウ素(h−BN)(Alfa Aesar (ALF)社製)1.4gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例8の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0057】
(実施例9)
h−BN(Alfa Aesar (ALF)社製)6.25gに代えて、六方晶窒化ホウ素(h−BN)(Alfa Aesar (ALF)社製)48gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例9の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0058】
(比較例1)
30gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製社製,高純度試薬)100gを用意した。25gの水と10gの第1リン酸アルミニウム(Al(HPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製社製,高純度試薬)35gを用意した。シリカゾル溶液100gに、第1リン酸アルミニウム溶液35gを加えて混合溶液とした。この混合溶液を、封孔処理溶液に代えてスプレー塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例1の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0059】
(比較例2)
30gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製社製,高純度試薬)100gを用意した。25gの水と15gの第1リン酸アルミニウム(AlPO)混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製社製,高純度試薬)40gを用意した。シリカゾル溶液100gに第1リン酸アルミニウム溶液40gを加えて混合溶液とした。この混合溶液を、封孔処理溶液に代えてスプレー塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例2の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0060】
(比較例3)
30gのシリカ(SiO)を含むシリカゾル溶液(日産化学工業株式会社製社製,高純度試薬)100gを用意した。25gの水と7gの第1リン酸アルミニウム(AlPO)の混合物である第1リン酸アルミニウム溶液(多木化学株式会社製社製,高純度試薬)32gを用意した。シリカゾル溶液100gに第1リン酸アルミニウム溶液32gを加えて混合溶液とした。この混合溶液を、封孔処理溶液に代えてスプレー塗布したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例3の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0061】
(比較例4)
実施例1で用いたシリカゾル溶液に代えて、30gのシリカ(SiO)を70gの水に混合したスラリーを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例4の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。また、スラリーにおいて、シリカはコロイド粒子を形成していなかった。
【0062】
(比較例5)
実施例1で用いた六方晶窒化ホウ素(h−BN)に代えて、メジアン径が2μmのアルミナ(Al)を6.25g用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例5の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0063】
(比較例6)
実施例1で用いた六方晶窒化ホウ素(h−BN)に代えて、メジアン径が2μmの立方晶窒化ホウ素(c−BN)を6.25g用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例6の溶融金属浴用部材を得た。なお、封孔皮膜の厚みは10μmであった。
【0064】
実施例1〜9及び比較例1〜6で溶射皮膜に塗布した封孔処理溶液の組成、シリカゾル溶液に含まれるシリカ(SiO)100質量部に対する第1リン酸アルミニウムの割合(質量部)(以下、「Al(HPO/SiO」ともいう)、及び混合溶液100質量部に対する無機粒子の割合(質量部)(以下、「無機粒子/混合溶液」ともいう)を、表1及び表2に示す。
【0065】
[表1]

[表2]
【0066】
(気孔評価試験)
実施例及び比較例の溶融金属浴用部材それぞれについて、倍率200倍に設定した光学顕微鏡を用いて、溶融金属浴用部材表面の任意の部位について、光学顕微鏡画像(写真)を取得した。取得した画像を用いて封孔皮膜の気孔の数を計測し、以下の評価基準に従って気孔の評価を行った。
A:気孔が観察されなかった
B:気孔が封孔皮膜の一部分で観察された
C:気孔が封孔皮膜の半分ほどに観察された
D:気孔が封孔皮膜のほぼ全体に観察された
【0067】
(ミクロ割れ評価試験)
気孔評価試験と同様の方法で、光学顕微鏡画像(写真)をそれぞれ取得した。この画像を用いて、ミクロ割れの数を計測し、以下の評価基準に従ってミクロ割れの評価を行った。
A:ミクロ割れが観察されなかった
B:ミクロ割れが封孔皮膜の一部分で観察された
C:ミクロ割れが封孔皮膜の半分ほどに観察された
D:ミクロ割れが封孔皮膜のほぼ全体に観察された
【0068】
また、実施例1と比較例2について、上記評価において取得した画像を図2(実施例1)、図3(比較例2)に示す。
【0069】
(合金付着性評価試験、合金除去性評価試験、溶融金属浸透性評価試験)
実施例及び比較例の溶融金属浴用部材を、Alが0.1%(質量分率)添加された450℃の溶融亜鉛浴に30日間それぞれ浸漬した。30日後、溶融金属浴用部材を溶融亜鉛浴からそれぞれ引き上げ、各溶融金属浴用部材について、合金付着性、合金除去性、溶融金属浸透性についてそれぞれ評価試験を行った。
【0070】
合金付着性評価試験は、実施例及び比較例の各溶融金属浴用部材の表面にドロスなどの合金が付着しているか否かや、付着している場合にはその付着量を目視により確認した。評価基準は以下の通りである。
A:溶融金属浴用部材の表面に合金が付着していなかった
B:溶融金属浴用部材の表面の一部(数箇所)に合金が付着していた
C:溶融金属浴用部材の表面の半分ほどに合金が付着していた
D:溶融金属浴用部材の表面のほぼ全体に合金が付着していた
【0071】
合金除去性評価試験は、実施例及び比較例の各溶融金属浴用部材の表面に付着した合金の除去性を評価した。評価方法は、試料の表面に付着したドロス等の合金を、ピンセットでつかんで除去した場合の除去のしやすさによって行った。評価基準は以下の通りである。
A:溶融金属浴用部材に付着した合金が全て除去できた
B:溶融金属浴用部材に付着した合金のうち除去できないものが一部あった
C:溶融金属浴用部材に付着した合金のうち除去できないものが大部分であった
D:溶融金属浴用部材に付着した合金が全て除去できなかった
【0072】
溶融金属浸透性評価試験は、溶融亜鉛浴から引き上げた実施例及び比較例の各溶融金属浴用部材を、高速切断機で切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)と、エネルギー分散型X線分析(EDS)装置により、亜鉛の浸透の程度を観察した。評価基準は以下の通りである。
A:亜鉛が封孔皮膜内部に浸透していなかった
B:亜鉛が封孔皮膜内部に浸透していたが、溶射皮膜内部までは浸透していなかった
C:亜鉛が溶射皮膜内部に浸透していたが、基材に到達していなかった
D:亜鉛が溶射皮膜内部に浸透しており、基材に到達していた
【0073】
実施例1、5ついての走査型電子顕微鏡画像(SEM画像)及びエネルギー分散型X線分析画像(EDS画像)を、図4(実施例1)、図5(実施例5)に示す。比較例においては、浸漬後、溶射皮膜が溶損する結果となった。
【0074】
以上の評価試験結果を表3に示す。
【0075】
[表3]
【0076】
以上の結果より、実施例1〜9については、いずれの評価項目についても評価結果がA又はBであった。一方、比較例1〜6については、いずれの評価項目についても評価がC又はDであった。これらの評価結果から、実施例1〜9の溶融金属浴用部材の製造方法によれば、封孔皮膜にミクロ割れや気孔が形成されにくい、ドロスなどの合金の付着を抑制できる溶融金属浴中部材の製造方法を提供できることが理解できた。また、実施例1〜9の溶融金属浴用部材を用いることで、めっき対象の鋼帯(鋼板)にスリップ疵や押し疵等が形成されにくくなることが理解できた。
【0077】
また、無機粒子として六方晶窒化ホウ素(h−BN)が用いられる実施例1,4及び6〜9は、無機粒子として二硫化モリブデン(MoS)やグラファイトが用いられる実施例2,3,5と比較して、ドロスなど合金が付着しにくかった。この結果から、無機粒子としてh−BNが用いられることで、ドロスなどの合金がより付着しにくくなることが理解できた。
【0078】
また、Al(HPO/SiOが10(質量部)以上80(質量部)以下の範囲内にある実施例1〜5,8〜9は、Al(HPO/SiOが80(質量部)を超える実施例6と比較して、封孔皮膜に気孔がより形成されにくかった。また、Al(HPO/SiOが10(質量部)以上80(質量部)以下の範囲内にある実施例1〜4,8〜9は、Al(HPO/SiOが10(質量部)未満である実施例7と比較して、耐溶融金属浸透性がより向上していた。この結果から、Al(HPO/SiOを10(質量部)以上80(質量部)以下とすることで、封孔皮膜に気孔がより形成されにくくなるとともに、耐溶融金属浸透性をより向上できることが理解できた。
【0079】
また、無機粒子/混合溶液が2(質量部)以上25(質量部)以下の範囲内にある実施例1〜7は、無機粒子/混合溶液が2(質量部)未満である実施例8と比較してミクロ割れが形成されにくかった。また、無機粒子/混合溶液が25(質量部)を超える実施例9では、溶融亜鉛浴に30日間浸漬した後に、封孔皮膜が一部脱落していたことが確認できたが、無機粒子/混合溶液が2(質量部)以上25(質量部)以下の範囲内にある実施例1〜7では、封孔皮膜の脱落を一切確認することができなかった。この結果から、無機粒子/混合溶液を2(質量部)以上25(質量部)以下とすることで、ミクロ割れがより形成されにくくなるとともに、封孔皮膜13の強度がより向上できることが理解できた。
【符号の説明】
【0080】
1 溶融金属浴用部材
11 基材
12 溶射皮膜
13 封孔皮膜
14 無機粒子
【要約】
【課題】封孔皮膜に気孔や割れが形成されにくい、ドロスなどの合金の付着を抑制できる溶融金属浴中部材の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融金属浴用部材の製造方法は、基材上に形成されたサーメット溶射皮膜、又は、基材上に形成された酸化物系セラミックス溶射皮膜に対して、第1リン酸アルミニウムと六方晶系で層状構造の結晶構造を有する無機粒子とをシリカゾル溶液に添加した混合溶液を、前記溶射皮膜の封孔用溶液として塗布または吹き付けし、焼成することを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5