(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行技術が有する課題は、耐久性に向上の余地があることである。通常、シース管および発熱体は、互いに異なる材料によって形成される。よって、シース管と発熱体とを溶接することによって形成される溶融部には、シース管にも発熱体にも含まれていない新たな化合物が生成する場合がある。化合物は、靱性が弱い場合があり、溶融部における耐久性低下の原因となることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、先述した課題を解決するためのものであり、以下の形態として実現できる。
【0006】
(1)本発明の一形態によれば、通電によって発熱する発熱体と;前記発熱体の外周に配置され、軸線方向に延びる筒部と、少なくとも前記筒部の主成分と前記発熱体の主成分とを含有し、前記筒部の先端を閉塞する溶融部とを備えるシース管と;を備えるグロープラグが提供される。このグロープラグは、前記筒部と前記発熱体との少なくとも一方は、アルミニウムを含み;前記溶融部は、前記筒部との境界付近において、アルミニウムの含有率が5質量%未満であることを特徴とする。この形態によれば、溶融部の耐久性が向上する。筒部との境界付近において、アルミニウムの含有率が5質量%未満であることによって、アルミニウムと他の金属との金属間化合物の生成が抑制されるからである。
【0007】
(2)上記形態において、前記発熱体はアルミニウムを含んでもよい。この形態によれば、発熱体がアルミニウムを含む場合に、上記形態の効果を得ることができる。
【0008】
(3)上記形態において、前記筒部は、アルミニウムの含有率が1.7質量%より多くてもよい。この形態によれば、筒部のアルミニウムの含有率が1.7質量%よりも多い場合に、上記形態の効果を得ることができる。
【0009】
(4)上記形態において、前記筒部は、クロムの含有率が24〜26質量%であり、アルミニウムの含有率が1.8〜2.4質量%でもよい。この形態によれば、筒部におけるクロムの含有率が24〜26質量%であり、筒部におけるアルミニウムの含有率が1.8〜2.4質量%である場合に、上記形態の効果を得ることができる。
【0010】
(5)上記形態において、前記発熱体の主成分は、ニッケルでもよい。この形態によれば、発熱体の主成分がニッケルである場合に、上記形態の効果を得ることができる。
【0011】
(6)上記形態において、前記溶融部は、前記境界付近において、アルミニウムの含有率が2質量%以下でもよい。この形態によれば、溶融部の耐久性が更に向上する。
【0012】
(7)上記形態において、前記溶融部は、前記境界付近において、アルミニウムの含有率が1質量%以下でもよい。この形態によれば、溶融部の耐久性が更に向上する。
【0013】
本発明は、上記以外の種々の形態でも実現できる。例えば、グロープラグの製造方法等として実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、グロープラグ10を示す。
図1は、軸線Oから紙面右側に外観構成を示し、軸線Oから紙面左側に断面構成を示す。グロープラグ10は、ディーゼルエンジンの始動時における点火を補助する熱源として機能する。
【0016】
グロープラグ10は、中軸部材200と、主体金具500と、通電によって発熱するシースヒータ800とを備える。これらの部材は、グロープラグ10の軸線Oに沿って組み付けられている。なお、本明細書では、グロープラグ10におけるシースヒータ800側を「先端側」と呼び、その反対側を「後端側」と呼ぶ。
【0017】
主体金具500は、炭素鋼を筒状に成形した部材である。主体金具500は、先端側の端部においてシースヒータ800を保持する。主体金具500は、後端側の端部において絶縁部材410とオーリング460とを介して中軸部材200を保持する。絶縁部材410は、絶縁部材410の後端に接するリング300が中軸部材200に加締められることで、軸線O方向の位置が固定される。絶縁部材410によって、主体金具500の後端側が絶縁される。主体金具500は、絶縁部材410からシースヒータ800に至る中軸部材200の部位を内包する。主体金具500は、軸孔510と、工具係合部520と、雄ネジ部540とを備える。
【0018】
軸孔510は、軸線Oに沿って形成された貫通孔であり、中軸部材200よりも大きな径を有する。軸孔510に中軸部材200が位置決めされた状態で、軸孔510と中軸部材200との間には、両者を電気的に絶縁する空隙が形成される。軸孔510の先端側には、シースヒータ800が圧入されて接合されている。雄ネジ部540は、内燃機関(図示しない)に形成された雌ネジに嵌り合う。工具係合部520は、グロープラグ10の取り付けと取り外しとに用いられる工具(図示しない)に係合する。
【0019】
中軸部材200は、導電材料で円柱状に成形されている。中軸部材200は、主体金具500の軸孔510に挿入された状態で軸線Oに沿って組み付けられる。中軸部材200は、先端側に形成された中軸部材先端部210と、後端側に設けられた接続部290とを備える。中軸部材先端部210は、シースヒータ800の内部に挿入される。接続部290は、主体金具500から突出した雄ネジである。接続部290には、係合部材100が嵌り合う。
【0020】
図2は、シースヒータ800の詳細な構成を示す断面図である。シースヒータ800は、シース管810と、発熱体としての発熱コイル820と、制御コイル830と、絶縁粉末840とを備える。
【0021】
シース管810は、軸線O方向に延び、先端が閉塞した筒状部材である。シース管810は、発熱コイル820と、制御コイル830と、絶縁粉末840とを内包する。シース管810は、シース管先端部811とシース管後端部819とを備える。シース管先端部811は、シース管810の先端側において、外側に向けて丸く形成された端部である。シース管後端部819は、シース管810の後端側において開口した端部である。後端部819からシース管810の内部に中軸部材200の中軸部材先端部210が配置されている。シース管810は、パッキン600と絶縁粉末840とによって、中軸部材200から電気的に絶縁される。パッキン600は、中軸部材200とシース管810との間に挟まれた絶縁部材である。シース管810は、主体金具500とは電気的に接続されている。
【0022】
制御コイル830は、発熱コイル820を形成する材料よりも電気比抵抗の温度係数が大きい導電材料で形成されたコイルである。この導電材料としては、ニッケルが好ましく、この他、例えば、コバルトやニッケルを主成分とする合金でもよい。制御コイル830は、シース管810の内側に設けられ、発熱コイル820に供給される電力を制御する。制御コイル830は、先端側の端部である制御コイル先端部831と、後端側の端部である制御コイル後端部839とを備える。制御コイル先端部831は、発熱コイル820の発熱コイル後端部829に溶接されることによって、発熱コイル820と電気的に接続される。制御コイル後端部839は、中軸部材200の中軸部材先端部210に接合されることによって中軸部材200と電気的に接続される。
【0023】
絶縁粉末840は、電気絶縁性を有する粉末である。絶縁粉末840としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)の粉末が用いられる。絶縁粉末840は、シース管810の内側に充填され、シース管810と、発熱コイル820と、制御コイル830と、中軸部材200との各隙間を電気的に絶縁する。
【0024】
発熱コイル820は、導電材料で形成されたコイルである。発熱コイル820は、シース管810の内側に軸線O方向に沿って配置され、通電によって発熱する。発熱コイル820は、先端側の端部である発熱コイル先端部821と、後端側の端部である発熱コイル後端部829とを備える。発熱コイル先端部821は、シース管810の先端付近に溶接されることによってシース管810と電気的に接続される。
【0025】
図3は、シース管810と発熱コイル820との溶接前における先端付近の断面図である。シース管810は、発熱コイル820と溶接される前は、先端が開口している。発熱コイル820は、溶接の前に、その開口端を貫通するように配置される。溶接前における発熱コイル820の先端は、
図3に示されるように、軸線Oに対して斜めに延びるように形成されている。この配置で、シース管810と発熱コイル820とが溶接されることによって、先端付近は、
図2に示された形状になる。本実施形態における溶接は、アーク溶接によって実現する。
【0026】
図4は、シース管810と発熱コイル820との溶接後における溶融部850付近の断面図である。溶融部850は、発熱コイル820とシース管810とが溶融した状態で混ざり合い、その後、固まって形成された部位であり、
図4ではハッチングで示されている。溶融部850の外表面は、シース管先端部811を形成する。
図4に示された筒部860は、シース管810から溶融部850を除いて残った部位である。溶融部850は、このように溶接によって形成されるので、発熱コイル820の主成分と、筒部860の主成分とを少なくとも含有する。
【0027】
図4を用いて、溶融部850の成分分析について説明する。この分析は、後述する実験の準備として実施され、溶融部850と筒部860との境界付近を対象とする。
【0028】
分析対象の部位は以下のように決定する。
図4における軸線Oの左側において、溶融部850と筒部860との界面上の最先端側の点A、最後端側の点Bをとり、点Aと点Bとを通過する直線Wを引く。よって、直線Wが溶融部850と筒部860との界面であるとは限らない。軸線Oの左側とは、軸線OをXY平面におけるY軸とした場合に、先端側をY軸の正の向き、後端側をY軸の負の向きとしたとき、X軸の負の向きに相当する。
【0029】
溶融部850と筒部860との界面は、例えば、断面を鏡面仕上げした後、シュウ酸二水和物による電解エッチングを行い、拡大した画像に基づき目視で決定する。
【0030】
直線Wを軸線O側に0.3mm並進させた直線Xを引く。溶融部850上の直線Xに沿って10μm間隔でライン状に分析する。この分析によって得られた各点におけるアルミニウムの含有率の平均値を、境界付近のアルミニウムの含有率として算出する。ただし、溶融部850の表面から0.03mmまでは酸化被膜が含まれる可能性が高いため、分析結果から除外する。
【0031】
同様に、
図4における軸線Oの右側において、溶融部850と筒部860との界面上の最先端側の点C、最後端側の点Dをとり、点Cと点Dとを通過する直線Yを引く。直線Yを軸線O側に0.3mm並進させた直線Zを引く。溶融部850上の直線Zに沿って10μm間隔でライン状に分析する。ただし、溶融部850の表面から0.03mmまでは酸化被膜が含まれる可能性が高いため、分析結果から除外する。
【0032】
上記のように分析部位を決定したのは、この部位にクラックが発生しやすいと考えられるからである。ここでいうクラックとは、界面に生じる亀裂のことである。靱性が低い金属間化合物は、溶融部850と筒部860との境界付近に発生しやすく、且つ、熱膨張特性が元の金属と異なる。加えて、境界付近は機械的にも弱い。このため、熱膨張と熱収縮とが繰り返し発生すると、境界付近の界面にクラックが発生する場合がある。本実施形態では、その境界付近の一例として上記の部位を採用する。
【0033】
分析の手順を説明する。第1のステップとして、EPMAとWDSとを用いて、溶融部850における定性分析を実施する。この分析によって、溶融部850に含まれる元素を特定し、最大質量%の元素を主成分とする。EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)とは、電子線マイクロアナライザのことである。WDS(Wavelength Dispersive X-ray Spectrometer)とは、波長分散型X線分光器のことである。
【0034】
第2のステップとして、EPMAの測定条件を決定する。この決定は、分析精度を高めるために実施される。この条件は、第1のステップで特定した主成分の検出において、X線の大量入射による数え落としが起こらないビーム電流量で、測定カウント数が1万カウント以上得られることが満たされるように決定される。
【0035】
第3のステップとして、第1のステップで特定した元素を第2のステップで決定した条件で定量分析し、先述した複数の分析対象点の平均値をアルミニウムの含有率として算出する。加速電圧は20kV、プローブ電流2.5×10
-8A、ビームの照射径10μmで主ピークを10秒、バックグラウンドを高角、低角側それぞれ5秒ずつ取り込む。正味の強度から各元素のCPS(Count Per Second)を得て、同条件で分析した比較試料(ASTIMEX社製標準試料)のCPSを用いてZAF法によって定量計算を実施する。この比較試料は、アルミニウムの含有率が予め分析されている。ZAFとは、原子番号効果(Z effect)と、吸収効果(Absorption effect)と、蛍光励起効果(Fluorescence excitation effect)とに基づく頭字語である。この定量計算の際、含有率の合計が100%となるようにノーマライズ(規格化)する。
【0036】
図5は、先述した境界付近におけるアルミニウムの含有率と、クラックの発生との関係を調べた実験結果をテーブルによって示す。
【0037】
実験No.1の場合、発熱コイル820は、ニッケルを主成分とし、クロムも含む一方、アルミニウムを含まない材質によって形成されたものを使用した。本願で「アルミニウムを含まない」という場合、アルミニウムが誤差程度の含有率で含まれていてもよい。実験No.1の場合、筒部860は、アルミニウムが含まれない材質(例えばSUS310S)によって形成されたものを用いた。この結果、実験No.1における溶融部850のアルミニウムの含有率は、0.00質量%であった。
【0038】
No.2〜10の場合、発熱コイル820は、鉄を主成分とし、クロム及びアルミニウムも含む材質によって形成されたものを使用し、筒部860は、Alloy602によって形成されたものを用いた。Alloy602とは、本願出願時におけるドイツ工業規格(DIN)で規定されたDIN2.4633の合金のことである。Alloy602は、クロムの含有率が24〜26質量%であり、アルミニウムの含有率が1.8〜2.4質量%である。この結果、溶融部850におけるアルミニウムの含有率は、3.00〜5.50質量%となった。アルミニウムの含有率は、溶融前の発熱コイル820の先端形状や、発熱コイル820に含まれるアルミニウムの含有率を調整することによって、変化させた。
【0039】
耐久性を判定する実験として、熱衝撃を繰り返し負荷した場合に、溶融部850にクラックが発生するか否かを確認した。熱衝撃の負荷として、グロープラグ10に対して、8000サイクルの加熱と冷却とを施した。加熱は、グロープラグ10の表面が1150℃になるように20秒間、実施した。冷却は、冷却開始から1秒後に149℃低下することを条件に、60秒間、実施した。なお、これら実験条件としての数値は、全て例示であり、再現実験の際には、どのように変更してもよい。例えば、冷却開始から1秒後に低下する温度は139〜159℃であってもよいし、加熱時におけるグロープラグ10の表面温度は1140〜1160℃であってもよい。
【0040】
図5に示されるように、実験No.1〜6の場合、クラックは発生しなかった。実験No.7〜10の場合、クラックが発生した。よって、アルミニウムの含有率は、5.00質量%未満が好ましく、4.95質量%以下が更に好ましい。
【0041】
さらに、アルミニウムと他の金属(例えば、Alloy602に含まれるニッケルとの化合物であるNi
3Al)との金属間化合物の生成を抑制するためには、アルミニウムの含有率は小さければ小さいほど好ましい。例えば、2.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以下が更に好ましい。
【0042】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。例えば、以下のものが例示される。
【0043】
図6は、他の実施形態として、シース管810と発熱コイル820aとの溶接前の形状を示す。発熱コイル820aは、実施形態における発熱コイル820を代替するものである。発熱コイル820aの先端は、
図6に示されるように、軸線Oとほぼ平行に延びるように形成されている。
【0044】
図7は、さらに他の実施形態として、シース管810と発熱コイル820bとの溶接前の形状を示す。発熱コイル820bは、実施形態における発熱コイル820を代替するものである。発熱コイル820bの先端は、
図7に示されるように、開口端から突き出た部位が密巻きに形成されている。この他、溶接前の発熱コイルの形状は、
図3,
図6,
図7に示されたものとは異なる形状であってもよい。
【0045】
発熱コイルと筒部との一方のみがアルミニウムを含んでもよい。
筒部は、アルミニウムの含有率が0〜1.7質量%でもよい。例えばインコネル601(INCONELは登録商標)を用いてもよい。インコネル601のアルミニウムの含有率は、1.0〜1.7質量%である。
【0046】
溶融部のアルミニウムの含有率を測定する手法は、実施形態に示したものに限られない。測定に用いる機器を変更してもよいし、測定する部位を変更してもよい。例えば、クラックが発生しやすい部位を選定して、その部位を測定対象としてもよい。例えば、アルミニウムが最も凝集している部位を、クラックが発生しやすい部位として選定してもよい。アルミニウムが最も凝集している部位は、例えば、アルミニウムの含有率の分布を示した画像に基づき、観察者が選定してもよい。この画像の倍率は、例えば、30倍であってもよい。測定点の数および間隔は、耐久性を評価するのに適切なものとなるように、適宜、変更してもよい。
【0047】
発熱コイルに用いる材料は、ニッケルを主成分とするものを用いてもよい。
本願における溶融部とは、発熱体の外周に配置され、軸線方向に延びる筒部と、少なくとも筒部の主成分及び発熱体の主成分を含有し、筒部の先端を閉塞する部位のことを指し、溶接を用いて製造される部位に限られない。