特許第6374652号(P6374652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374652
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】排ガス用放射性物質測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 7/02 20060101AFI20180806BHJP
   G01T 1/167 20060101ALI20180806BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   G01T7/02 B
   G01T1/167 B
   G01T1/20 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-237674(P2013-237674)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-99028(P2015-99028A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000161932
【氏名又は名称】京都電子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 和也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健士
(72)【発明者】
【氏名】神田 博明
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−078319(JP,A)
【文献】 特開2009−180660(JP,A)
【文献】 特開2003−010629(JP,A)
【文献】 特開2001−337167(JP,A)
【文献】 特開2001−221865(JP,A)
【文献】 特開2000−131443(JP,A)
【文献】 実開昭63−099286(JP,U)
【文献】 特公昭50−000949(JP,B1)
【文献】 米国特許第3531639(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T1/00−1/16、1/167−7/12
G01N1/00−1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却施設の煙道から引き込まれた排ガスを液体に接触させるバブリング処理を所定の捕集期間にわたって連続的に実行することにより前記排ガス中の放射性物質が取り込まれた試料液体を生成する直列接続された複数のバブリング槽を有する試料液体生成部と、
前記試料液体生成部から送られる前記試料液体を凝縮処理及び冷却処理する凝縮冷却部と、
前記凝縮冷却部から送られる前記凝縮処理後及び前記冷却処理後の液体試料が入れられる測定槽と、前記測定槽内の試料液体から出る放射線を検出するシンチレータ部材を備える検出器と、前記測定槽の内部に配置され前記検出器を収容する遮光空間としての内部空間を有するケースと、を有する測定部と、
前記測定槽に前記液体試料が貯留された静的状態において所定の検出期間にわたって前記検出器から出力される検出信号に基づいて、前記排ガスに含まれる放射性物質について放射能を演算する演算部と、
を含むことを特徴とする排ガス用放射性物質測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記測定槽は、
前記液体試料を収容する貯留空間の外側を画定する外容器と、
前記貯留空間の内側を画定すると共に前記検出器の一部又は全部を収容する検出空間を画定する内容器と、
を含み、
前記外容器及び前記内容器が組み合わされた状態において前記貯留空間が形成される、
ことを特徴とする排ガス用放射性物質測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記内容器は、前記外容器に対して上方から挿入される部分であって前記検出空間を画定する円筒状部分と、前記円筒状部分の上端から水平方向外側に広がった鍔状部分と、有し、
前記鍔状部分が前記外容器の上部によって支持される、
ことを特徴とする排ガス用放射性物質測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記外容器の上部と前記内容器の前記鍔状部分とに跨がって前記外容器に対して前記内容器を位置決めるための係合構造が設けられた、
ことを特徴とする排ガス用放射性物質測定装置。
【請求項5】
請求項2記載の装置において、
前記外容器及び前記内容器はいずれも耐酸性を有する材料により構成された、
ことを特徴とする排ガス用放射性物質測定装置。
【請求項6】
直列接続された複数のバブリング槽を用いて焼却施設の煙道から引き込まれた排ガスを液体に接触させるバブリング処理を所定の捕集期間にわたって連続的に実行することにより前記排ガス中の放射性物質が取り込まれた試料液体を生成する工程と、
前記試料液体に対して凝縮処理及び冷却処理を施す工程と、
前記凝集処理後及び前記冷却処理後の液体試料を耐酸性材料で構成された測定槽に貯留し、前記測定槽の外側周囲を外来放射線遮蔽部材で取り囲んだ状態において前記測定槽内部の遮光空間に配置されたシンチレータ部材を備える検出器により前記放射性物質から出る放射線を検出する工程と、
前記測定槽に前記液体試料が貯留された静的状態において前記検出器からの放射線検出信号を所定の検出期間にわたって計数することにより、前記放射性物質について放射能を演算する演算部と、
を含むことを特徴とする排ガス用放射性物質測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス用放射性物質測定装置に関し、特に、焼却施設から排出される排ガス中に含まれる放射性物質を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
清掃工場、焼却場等の焼却施設においては可燃物の焼却により生じた排ガスが大気へ放出される。そのような焼却施設において、放射性物質取扱施設で生じた可燃物を焼却した場合や一般的な可燃性廃棄物を焼却した場合に、排ガス中に含まれる放射性物質の濃度(単位体積当たりの放射能)を測定する必要がある。特に、それが法令等で定められている安全値を超えていないことを確認する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−337167号公報
【特許文献2】特開平3−73884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の焼却施設では、煙道を流れる高温の排ガスを採取しつつそれについて放射性物質の濃度を定常的に測定することまでは行われていない。焼却施設において手作業でサンプリングを行った上でサンプルを持ち帰り、それをゲルマニウム半導体検出器で測定しているのが実情である。一方、原子力発電所、核燃料処理施設等の放射性物質取扱施設においては通常、ガスモニタが設置されており、施設内を流通するガス(エア)について放射性物質の濃度が測定されているが、それで測定できるのは比較的高い濃度であり、換言すれば、その検出限界濃度は比較的高い。よって、通常のガスモニタにより、焼却施設から出る排ガス中に含まれる放射性物質について放射能を測定することは困難である。なお、シンチレータ部材を利用して放射線を測定する場合、そもそもシンチレータ部材は熱に弱いので高温状態にある排ガスをそのまま測定対象とすることはできない。
【0005】
特許文献1には、 排ガス中の粒子状放射性物質を捕集する捕集用液体を収容するダスト捕集槽と、このダスト捕集槽に接続された中空系カセットと、を備える排ガスモニタが開示されている。中空系カセットは、捕集用液体を通流させ粒子状放射性物質をトラップする中空系と、この中空系の近傍に配置された放射線測定器と、を有している。しかし、この特許文献1に記載された排ガスモニタは、原子力発電所から放出される135Xeや85Krを測定対象とするものであり、一般の焼却施設から出る排ガスを測定するものではない。すなわち、排ガス中における極めて低い濃度の放射性物質を測定するものではない。
【0006】
特許文献2にはサンプリングガスを水中に通し、つまりバブリングさせ、サンプリング中の放射性物質を液体に捕集させ、その液体からの放射線を測定する装置が開示されている。しかし、その装置は原子力施設に設置されたトリチウム捕集装置であり、一般の焼却施設から出る高温の排ガスを測定対象とするものではない。
【0007】
本発明は、焼却施設に設置される排ガス用の放射性物質測定装置を提供することにある。あるいは、本発明は、排ガス中にごく微量に存在する放射性物質の測定を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る排ガス用放射性物質測定装置は、焼却施設の煙道から引き込まれた排ガスを液体に接触させるバブリング処理を所定の捕集期間にわたって連続的に実行することにより前記排ガス中の放射性物質を捕集した試料液体を生成する試料液体生成部と、前記試料液体を冷却処理する冷却部と、前記冷却処理後の液体試料が入れられる測定槽と、前記測定槽内の試料液体から出る放射線を検出するシンチレータ部材を備える検出器と、を有する測定部と、前記検出器からの検出信号に基づいて、前記排ガスに含まれる放射性物質について放射能を演算する演算部と、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
上記構成によれば、煙道からの高温の排ガスが試料液体生成部に導入される。試料液体生成部においては、排ガスを液体に接触させるバブリング処理を連続的に行うことにより、試料液体(望ましくは試料水)を生成する。その試料液体は排ガス中の放射性物質をその濃度を高めつつ捕集した液体である。望ましくは、生成された試料液体に対する凝縮処理が適用される。これにより排ガス中に含まれる比較的多量の水分による影響を解消又は軽減できる。冷却部は、試料液体の温度を下げる冷却処理を実行する。冷却処理は、試料液体を測定槽へ送り込む直前に、あるいは、前処理の過程で、実行される。いずれにしても、シンチレータ部材の保護等のために、冷却された試料液体を測定槽に導入するのが望ましい。測定槽に試料液体が貯留された状態で、検出器によって試料液体中の放射性物質から出る放射線が検出される。具体的には、シンチレータ部材で放射線が光に変換される。その光は通常、電気信号に変換される。それが検出信号を構成する。その検出信号に基づいて排ガスについて放射能が演算される。
【0010】
排ガスそのものではなく、排ガス中の放射性物質が捕集された液体を測定対象にできるので、しかも比較的に長時間にわたってバブリング処理を行って放射性物質の濃度を高めることができるので、排ガス中に微量に存在する放射性物質を濃縮して効果的に測定することが可能である。感度を高めるために、所定の捕集期間をより長くするようにしてもよい。また、検出期間を長くするようにしてもよい。冷却処理後の試料液体を測定槽に導入すれば、シンチレータ部材を熱的に保護できる。なお、検出器の退避状態で比較的高温の試料液体を測定槽に導入し、導入された試料液体を冷却処理した上で、測定槽に対して検出器を配置することも可能である。あるいは、測定槽における検出器周囲に冷却設備を設けることも可能である。但し、それらの場合には構成がかなり複雑になる。よって、測定槽へ試料液体を導入する前に冷却処理を施すのが望ましい。
【0011】
望ましくは、前記測定槽は、前記液体試料を収容する貯留空間の外側を画定する外容器と、前記貯留空間の内側を画定すると共に前記検出器の一部又は全部を収容する検出空間を画定する内容器と、を含み、前記外容器及び前記内容器が組み合わされた状態において前記貯留空間が形成される。この構成によれば、外容器と内容器の組み合わせにより測定槽が構成される。試料液体は一般に高い酸性を示すので、測定槽において少なくとも試料液体と接する部分を構成する材料には制約がある。そのような前提の下、上記構成によれば、比較的簡易に測定槽を構成することが可能である。
【0012】
望ましくは、前記内容器は、前記外容器に対して上方から挿入される部分であって前記検出空間を画定する円筒状部分と、前記円筒状部分の上端から水平方向外側に広がった鍔状部分と、有し、前記鍔状部分が前記外容器の上部によって支持される。この構成によれば、内容器を外容器に挿入することにより内容器が外容器によって支持され、同時に、両者の隙間として貯留空間が構成される。
【0013】
望ましくは、前記外容器の上部と前記内容器の前記鍔状部分とに跨がって前記外容器に対して前記内容器を位置決めるための係合構造が設けられる。これにより内容器を挿入配置した時点で外容器に対する内容器の位置決めが完了するので作業性がよい。
【0014】
望ましくは、前記外容器及び前記内容器はいずれも耐酸性を有する材料により構成される。望ましくは、前記耐酸性を有する材料は例えばガラス、合成樹脂である。
【0015】
本発明に係る方法は、焼却施設の煙道から引き込まれた排ガスを液体に接触させるバブリング処理を所定の捕集期間にわたって連続的に実行することにより前記排ガス中の放射性物質が取り込まれた試料液体を生成する工程と、前記試料液体に対して冷却処理を施す工程と、前記冷却処理後の液体試料を耐酸性材料で構成された測定槽に貯留し、前記測定槽の外側周囲を外来放射線遮蔽部材で取り囲んだ状態において前記測定槽内部に配置されたシンチレータ部材を備える検出器により前記放射性物質から出る放射線を検出する工程と、前記検出器からのβ線検出信号を所定の検出期間にわたって計数することにより、前記放射性物質について放射能を演算する演算部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、焼却施設に設置される排ガス用の放射性物質測定装置を提供できる。あるいは、排ガス中にごく微量に存在する放射性物質を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る排ガス用放射性物質測定装置の好適な実施形態を示す全体構成図である。
図2】排ガスの放射能濃度の演算を説明するための図である。
図3】排ガスの放射能濃度についての具体的な演算パラメータを説明するための図である。
図4】測定ユニットの斜視図である。
図5】測定ユニットの上面図である。
図6】測定槽の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1には、本発明に係る排ガス用放射性物質測定装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示す図である。排ガス用放射性物質測定装置20は、図1に示す例において焼却施設としての清掃工場10に設置されている。一般的な清掃工場の他、放射性廃棄物を処理する焼却場に本実施形態に係る排ガス用放射性物質測定装置20を設置することも可能である。この排ガス用放射性物質測定装置20は、可燃物の焼却により生じた高温の排ガスに含まれる放射性物質を測定するものであり、本実施形態においては、特に134Cs及び137Csが測定されている。
【0020】
図1において、焼却設備12は、可燃物14に対する焼却を行う部分であり、これにより生じた排ガスが浄化機構16を経由して煙突17内に送り込まれている。煙突17の内部が煙道18を構成している。
【0021】
導入管26は排ガスを本実施形態に係る排ガス用放射性物質測定装置20に取り込むものであり、この導入管26は、本実施形態において、煙道18における例えば中間部に接続されているが、煙道における上部あるいは下部に導入管26が接続されてもよい。導入管26の全体に亘って加温器27が設けられている。この加温器27により、配管内面への汚れの付着を低減でき、また、周囲温度が摂氏0度以下となった場合における配管内の凍結を防止できる。よって、そのような問題が生じない場合には加温を行わなくてもよい。
【0022】
導入管26を経由して送り込まれた排ガスは第1バブリング槽28及び第2バブリング槽30に順次送り込まれる。それらのバブリング槽28,30は前処理部22の一部を構成するものである。後に説明する凝縮冷却部32も前処理部22の一部を構成している。
【0023】
第1バブリング槽28は液体を収容しており、その液体に対して排ガスを接触させることにより、すなわち液体中において排ガスのバブリングを行うことにより、排ガス中に含まれている放射性物質が液体によって捕集される。第1バブリング槽28における上部に出た排ガスは次に第2バブリング槽30に送られる。第2バブリング槽30は、本実施形態において、第1バブリング槽28と同様の構成を有しており、その第2バブリング槽30においても排ガスのバブリングにより、そこに含まれている液体によって放射性物質が捕集される。
【0024】
このように2つのバブリング槽28,30が直列接続されているのは排ガス中に含まれる放射性物質を効率的に捕集するためである。よって、捕集をほぼ完全に行える限りにおいて、1つのバブリング槽だけを設けてもよく、あるいは捕集をより効果的に行うため3つ以上のバブリング槽を直列的にあるいは並列的に設けるようにしてもよい。複数のバブリング槽28,30の後段(又は前段)には流量を測定する流量計が設けられている。
【0025】
本実施形態において、第1バブリング槽28及び第2バブリング槽30に収容されている液体は例えば第1族元素アルカリ金属イオンを含む酸性溶液であり、第1族元素アルカリ金属を含むものとして例えばNaClが挙げられる。以上のようなバブリング処理により、放射性物質が取り込まれた酸性の溶液、すなわち試料水が生成される。なお、上記の液体としてアルカリ性溶液を利用すると、水酸基とセシウムにより化合物が生成される。上記の溶液として純水を利用すると、容器へセシウムが吸着してしまうおそれがある。よって、上記のような酸性溶液を用いるのが望ましい。測定を適切に行える限りにおいて、ガスの成分、前処理条件、その他に応じて液体の成分を変えてもよい。
【0026】
なお、図1においては、ポンプ、電磁バルブ、センサ等が図示省略されている。また洗浄システムについても図示省略されている。試料水は上記のように酸性を有するため、試料水に接する材料を耐酸性をもった材料で構成するのが望ましい。このことは、後に説明する測定ユニット34についても同様に指摘できる。
【0027】
上記のバブリング処理は例えば一日以上二週間以内の期間、望ましくは一週間に亘って連続的に実行される。すなわち、排ガス中に含まれる放射性物質の量は極めて微量であり、それに対して測定を行うためには、放射性物質を高濃度に凝縮させる必要があり、このため、前処理部22においては例えば一週間の期間をもってガス流通状態でのバブリング処理が連続的に実行される。もっとも、後に説明する測定ユニット34において超高感度検出器を用いる等の対策を取ることにより、バブリング処理等の前処理の期間を短縮化することも可能である。
【0028】
上述したように、前処理部22は、凝縮冷却部32を備えている。凝縮冷却部32は、第1バブリング槽28及び第2バブリング槽30から導入される試料水に対して加熱蒸発処理(凝縮処理)を実行すると共に、その過程において及び試料水の排出にあたって冷却処理を実行するものである。排ガス中には比較的多量の水分が含まれており(気体体積比で例えば10〜40%の水分が含有されている)、上記のバブリング処理に際してはそのような水分が結露すなわち液化することになる。すなわち試料水が連続的に増量するという現象が生じる。そのような増量分あるいはバブリング槽内の試料水における一部又は全部が凝縮冷却部32に送られており、凝縮冷却部32においては、試料水の加熱蒸発を利用して試料水を凝縮している。具体的には、凝縮冷却部32は、試料水を収容する凝縮槽、凝縮槽内の試料水を加熱するヒータ、加熱された試料水を取り出して凝縮槽の上部内においてスプレー噴射する噴射機構、濃縮槽からの蒸気及び試料水を冷却する冷却設備、等を備えている。凝縮槽内でスプレー噴射を行いつつ、凝縮槽の高い位置から水蒸気が取り出され、その水蒸気が冷却設備へ送られている。凝縮処理として、上記で挙げたものの他、各種の手法を用いることが可能である。いずれにおいても、放射性物質を外部に逃さずに、それを取り込んだ状態を維持したまま、試料水の総量を少なくする処理が実行される。
【0029】
以上のような、凝縮処理の実行により、第1バブリング槽28及び第2バブリング槽30において試料水が増加してそれが溢れ出てしまうという問題を未然に防止することができる。また上述したバブリング処理によって生成された試料水中の放射性物質濃度をより高められるという利点が得られる。更に、凝縮冷却部32は、そこにおいて生成された凝縮処理後の試料水をその排出に先立って冷却する機能も有している。これにより冷却後の試料水を後述する測定ユニット34へ送り込めるという利点が得られる。例えば、40度以下あるいは室温レベル、更にはそれよりも低い温度をもった試料水が測定ユニット34へ送り込まれる。
【0030】
本実施形態に係る排ガス用放射性物質測定装置20は、上述した前処理部22と共に、測定演算部24を備えている。この測定演算部24は、水モニタを構成するものであり、具体的には、測定演算部24は本実施形態において測定ユニット34及び演算ユニット36により構成されている。
【0031】
測定ユニット34は、測定槽38を有している。この測定槽38は、後に図6を用いて説明するように、試料水46を収容する貯留空間を有し、その貯留空間内に試料水46を入れた状態において、検出器40によって試料水46からの放射線、特にγ線を検出するものである。後に説明するように、測定槽38は、外容器としての本体と、内容器としての挿入体とからなるものである。その中央部には井戸が形成されており、その井戸内に検出器40における先端部分(図1において下端部分)が挿入されている。測定槽38は本実施形態において耐酸性を有する材料で構成されており、具体的にはポリ塩化ビニル樹脂やガラスにより構成されている。それがポリテトラフルオロエチレン等の材料によって構成されてもよい。いずれにしても酸性を有する試料水によって浸食されない材料により測定槽38を構成するのが望ましい。このことは試料水を流す配管についても同様に言えることである。
【0032】
検出器40は、本実施形態においてシンチレータ部材42と、光電子増倍管(PMT)44とにより構成されている。それらはケース内に収容されており、その内部は遮光空間である。シンチレータ部材42としては例えばNaIシンチレータ部材を挙げることができる。収容槽38における貯留空間は例えば1リットルの試料水を収容するものである。試料水46から出たγ線がシンチレータ部材42に到達すると、そこでγ線が光に変換される。その光が光電子増倍管44の受光面に到達すると、光電子増倍管44において光が電気的パルスに変換される。そのパルスが検出信号として後に説明する演算ユニット36へ出力される。
【0033】
検出槽38の外側周囲には放射線遮蔽部材34Aが設けられている。すなわち、放射線遮蔽部材34Aは、中空容器状の形態を有し、それによって外来放射線が検出槽38に達することが防止されている。外来放射線としては、宇宙線、大地からの放射線、空気中に浮遊する放射性物質からの放射線等を挙げることができる。高感度の測定を行うため、外来放射線を効果的に遮蔽できる遮蔽構造を設けるのが望ましい。遮蔽部材の他、例えば同時計数方式、ガードカウンタ方式等の電気的な処理を利用して外来放射線によるノイズの除去を行うようにしてもよい。なお、場合によっては液体シンチレータを利用してβ線等の測定を行うことも可能である。その場合においては検出器における1つの要素として液体シンチレータが機能することになる。
【0034】
後に説明するように、測定槽38は、液面検出センサ等を備えている。この他、そこに温度センサ等を設けるようにしてもよい。すなわち、一般に、シンチレータ部材42は熱に弱いために、試料水の温度を管理できるように構成するのが望ましい。
【0035】
演算ユニット36は、本実施形態において信号処理モジュール50及び演算部52を有している。信号処理モジュール50は、検出器40から出力されるパルス信号に対して処理を実行する回路であり、それはカウンタを備えている。所定の検出期間の全体に亘ってそのカウンタが計数を行ってもよいが、一定の時間間隔でカウンタが計数を行った上で、それらの計数結果を演算部52へ出力し、演算部52において積算計数値を演算するようにしてもよい。ノイズによる影響をできる限り排除するため、信号処理モジュール50を放射線遮蔽部材34A内に配置することも可能である。演算部52は、本実施形態において、情報処理装置により構成され、排ガス単位体積当たりの放射性物質の濃度として放射能(放射能濃度)を演算している。その単位はBq/cm3である。演算部52を外部システムと接続し、外部システムにおいて測定結果のモニタリングを行うようにしてもよい。清掃工場10における各部において測定された放射線測定値を排ガスについての測定結果と付き合わせて、放射性物質の管理あるいは分析を行うようにしてもよい。
【0036】
図1に示した実施形態によれば、段階的なバブリング処理及び濃縮処理により放射性物質の濃度を高めた上で、それを含む試料水を測定槽内に導入し、その試料水中の放射性物質からのγ線を精度良く検出することが可能である。特に、本実施形態においては、例えば1週間程度の期間に亘って前処理が連続的に実行されており、それにより生成された試料水が測定槽38内に導入されるから、排ガス中の微量な放射性物質の濃度を高めた上で、そこからのγ線を測定できる。測定ユニット34での所定の検出時間は、例えば1分以上16時間以内であり、望ましくは1時間以上である。すなわち、かなり長期の前処理を行った上で比較的長時間の検出を行うことにより、結果として、高感度の測定を実現することが可能である。
【0037】
次に、図1に示した排ガス用放射性物質測定装置の動作について説明する。
【0038】
前処理部22において、所定の捕集期間に亘って液体に対して排ガスを接触させる、つまりバブリングさせる処理が連続的に実行される。その際においては、上述したように凝縮冷却部32が機能し、必要な凝縮処理が連続的にあるいは断続的に実行される。所定の捕集期間の経過後、凝縮冷却部32に蓄えられたあるいは導入された試料水が冷却処理され、その冷却処理後の試料水が測定ユニット34内に導入される。
【0039】
具体的には、測定槽38内に所定量の試料水が収容される。その状態において、所定の検出期間、例えば1時間に亘って試料水46で生じるγ線が検出される。すなわち1時間に亘って信号処理モジュール50において検出パルスの計数が実行される。それにより得られた総計数値に基づき演算部52が排ガス単位体積中における放射性物質の濃度を演算する。必要に応じて、その演算結果が演算部52上において解析され、あるいは外部のシステムにおいて解析される。
【0040】
図2には、演算方法の一例が概念的に示されている。符号54は演算モジュールを示している。その演算モジュール54においては、試料水の放射能濃度W、試料の水量V及びサンプリングガス(排ガス)の積算流量Sに基づき、排ガスの放射能濃度Nが演算される。具体的には、N=(W・V)/Sの演算式が実行される。ここで、試料の水量Vは、濃縮処理した試料水の総量であり、サンプリングガスの積算流量Sは図1において二段目のバブリング槽を通過した後の排ガスの流量である。その流量として、本装置に導入される排ガスの流量を用いるようにしてもよい。その場合においては、所定の換算係数を用いてもよい。
【0041】
図3には、より具体的な演算パラメータが示されている。符号56は演算モジュールを示している。その演算モジュール56には、所定の検出期間に亘る計数値C、測定時間(検出期間)T、試料の水量V、サンプリングガスの積算流量S等が入力されており、更に必要な換算係数Kが入力されている。そのような各数値に基づき排ガスの放射能濃度Nが演算される。もちろん、状況に応じて他の演算式を用いることも可能である。
【0042】
本実施形態においては、測定対象となる放射性物質が134Cs及び137Csであり、それを測定するための信号処理条件が用いられている。一方、例えば、検出パルスをマルチチャンネルアナライザに入力し、スペクトルを得て、そのスペクトル中における対象放射性物質のピークを特定し、そのピークから放射能を求めるようにしてもよい。そのようなスペクトル演算によれば、多核種を同時に測定することも可能である。
【0043】
次に、図4乃至図6を用いて図1に示した測定ユニットの具体例について説明する。
【0044】
図4には、測定ユニット34の一例が斜視図として示されている。測定ユニット34は、上述したように測定槽38と検出器40とを有している。検出器40は、下側に設けられたシンチレータ部材と、上側に設けられた光電子増倍管とを有しており、それらの外側がケースである。
【0045】
測定槽38は、本実施形態において、外側構造体あるいは外容器を構成する本体54と、それに対して組み合わせて利用される内側構造体あるいは内容器としての挿入体56とからなるものである。本体54によって挿入体56が支持されている。本体54は試料水の貯留空間の外側を画定するものであり、挿入体56は、貯留空間の内側を画定するものである。すなわち両者間の隙間として貯留空間が構成される。挿入体56には、井戸が形成されており、その井戸内に検出器40の一部分が挿入される。
【0046】
本体54は、図示されるように導入口58及び排出口60を有している。導入口58には試料水を送る配管が接続され、排出口60には排水用の配管が接続される。本体54には更にガス抜き用の開放口63が設けられ、それは上方に起立したパイプ状の部材である。その途中には満水センサ64が設けられている。これは液面センサを構成するものである。ちなみに、図4においては、測定ユニット34の全体を包み込む外来放射線遮蔽部材については図示省略されている。
【0047】
図5には、測定ユニット34の上面図が示されている。そこに示されているA−A’線上の断面が図6に示されている。
【0048】
図6は測定槽38の垂直断面図である。測定槽38は、上述したように本体54と挿入体56とにより構成されている。それらはいずれも耐酸性を有する材料により構成され、本実施形態においては合成樹脂又はガラスにより構成されている。それが、上述したようにポリテトラフルオロエチレン等の材料により構成されてもよい。透明性を有する材料を用いれば外部から容器内を視認できる。
【0049】
本体54は、円筒形状を有する側面板54aと、その下部に連結された底面板54bと、側面板54aの上端部から内側に突き出た円板状の上面板54cと、を有している。この本体54によって試料水66の貯留空間における外側が画定されている。
【0050】
挿入体56は、本体54によって支持されている部材である。挿入体56は、円板状の底面板56aと、円筒形状を有する側面板56bと、その上部から水平方向外側へ広がった鍔部56cと、を有している。鍔部56cは、円環状の水平板を構成し、それが本体54の上面板54c上に積載されている。上面板54cは上方に開いた開口を有し、その開口を通じて挿入体56における円筒部分が挿入されている。鍔部56cと上面板54cとに跨がって位置決め用の構造が構成されており、具体的には、上面板54cにはリング状の凸部58が形成されており、鍔部56cにはリング状の凹部が形成されている。凸部58と凹部60とが係合することにより、本体54に対して挿入体56の水平方向の位置が規定されている。その状態では、側面板56bは上面板54cの開口縁に対して非接触である。上記の係合構造は一例であり、他の構造を採用することもできる。
【0051】
図示されるように、本体54に対して挿入体56が離脱可能に配置されている。測定槽38のメンテナンス等にあたっては挿入体56を本体54から取り外し、両者に対して洗浄等の処理を行うことも可能である。本体54及び挿入体56はいずれも上記のように合成樹脂やガラスにより構成されている。それを透明性を有する材料で構成すれば、組み立て後に必要に応じて測定槽38の内部を外部から視認することが可能である。
【0052】
挿入体56の中央部には上下方向に伸びた空洞としての井戸62が構成されている。その井戸62の中に検出器の下端部分が挿入される。その下端部分はシンチレータ部材を含むものである。
【0053】
ちなみに、貯留空間の容積は例えば1リットルである。本体54の内径は例えば140mmであり、挿入体56の外径は例えば90mmである。貯留空間における底面から上面までの距離は120mmである。ただし、最上液面レベルは、天井レベルよりも所定距離下がったレベルである。側面板56bの外周面と側面板54aの内周面との間の距離は24mmである。井戸の内径は例えば80mmである。もちろん本願明細書に挙げられている各数値は一例に過ぎないものである。本実施形態においては、貯留状態すなわち静的な状態において所定の検出期間に亘ってγ線の検出が行われているが、フロー状態においてγ線の検出を行うことも可能である。
【0054】
図6に示されるように貯留空間の上部に連通して開放口63が設けられ、それはガス抜き用の通路である。その途中には満水センサ64が設けられ、そこに液面レベルが到達すると、満水信号が出力される。したがって、そのセンサがオンになるまで測定槽38内に試料水が導入される。満水センサ64を利用することにより測定槽38内に導入された試料水の液量を確実に設定することが可能である。温度センサ等を設けるようにしてもよい。本実施形態においては、本体54及び挿入体56がおよそ円筒形状を有しており、井戸62内においてシンチレータ部材により効率的にγ線の検出を行える。上述したように、導入される試料水は冷却後のものであるため、シンチレータ部材に対して熱的な影響が及ぶことが効果的に防止されている。また、本体54及び挿入体56がいずれも耐酸性材料により構成されているため、試料水による腐食等のおそれもない。また、本体54に対して挿入体56を挿入するだけで、両者の相対的な位置決めを行えるという利点が得られる。更に、井戸62の内径は検出器における外径にほぼ対応しており、井戸62に検出器の下端部分を挿入するだけで両者の適正な位置決めを実現することが可能である。本実施形態においては、上向きの井戸が採用されているが、下向きの井戸等の変形も考えられる。ただし、そのような場合には構造が複雑になってしまう可能性があり、これに対し、本実施形態によれば極めてシンプルな形態及び作業により検出槽38を構成できるという利点が得られる。
【0055】
なお、測定槽38を洗浄する場合には、導入口58及び排出口を利用して洗浄水の流通を行わせるようにしてもよいし、別途、洗浄用の経路を設けるようにしてもよい。洗浄時においては、満水センサ64が検出する液面レベルよりも高い位置まで洗浄水が導入されるように構成するのが望ましい。あるいは、開放口63を経由して洗浄水を内部に送り込むことも考えられる。
【0056】
本実施形態においては、図6に示したように、上面板54cと鍔部56cとに跨がって係合構造が設けられている。図6には、上面板54cが示されていたが、側面板54aの上端部に上述した凸部58を設ける等の変形も考えられる。凸部と凹部を入れ換えてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 清掃工場、20 排ガス用放射性物質測定装置、22 前処理部、24 測定演算部、34 測定ユニット、36 演算ユニット、38 測定槽、40 検出器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6