【実施例1】
【0025】
まず、実施例1に係るラダー型フィルタに用いられる圧電薄膜共振子について説明する。
図1(a)は、実施例1に係るラダー型フィルタに用いられる圧電薄膜共振子の上面図、
図1(b)及び
図1(c)は、
図1(a)のA−A間の断面図である。
図1(b)は、ラダー型フィルタの並列共振子、
図1(c)は、ラダー型フィルタの直列共振子の断面を示している。
【0026】
図1(a)及び
図1(b)のように、並列共振子Pは、例えばシリコン(Si)基板である基板10上に、高音響インピーダンス膜12が設けられている。高音響インピーダンス膜12上に、温度補償膜14が設けられている。温度補償膜14は、後述する共振領域32の全体を覆い、共振領域32から共振領域32の外側に延在して設けられている。温度補償膜14及び高音響インピーダンス膜12上に、下部電極16が設けられている。
図1(b)では、温度補償膜14は、高音響インピーダンス膜12及び下部電極16と形状が異なり、共振領域32から延びる下部電極16の引き出し部の少なくとも一部に設けられていない場合を示したが、高音響インピーダンス膜12及び下部電極16と同じ形状であってもよい。つまり、下部電極16の引き出し部にも温度補償膜14が設けられている場合でもよい。
【0027】
高音響インピーダンス膜12は、温度補償膜14よりも高い音響インピーダンスを有する。高音響インピーダンス膜12は、例えばクロム(Cr)膜である。温度補償膜14は、後述する圧電膜18の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数の弾性定数を有する。温度補償膜14は、例えばフッ素(F)がドープされた酸化シリコン(SiOF)膜である。下部電極16は、例えばルテニウム(Ru)膜である。
【0028】
基板10の平坦上面と高音響インピーダンス膜12との間に高音響インピーダンス膜12側にドーム形状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム形状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが低く、空隙30の内部ほど空隙30の高さが高くなるような形状の膨らみである。
【0029】
下部電極16及び基板10上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜18が設けられている。高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、及び下部電極16の端面は、例えば同一面を形成しており、圧電膜18は、高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、及び下部電極16の端面を覆って設けられている。
【0030】
圧電膜18を挟み下部電極16と対向する領域(共振領域32)を有するように、圧電膜18上に上部電極20が設けられている。上部電極20は、下層20aと上層20bとを含む。下層20aは、例えばRu膜であり、上層20bは、例えばCr膜である。共振領域32は、例えば楕円形形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。
【0031】
上部電極20及び圧電膜18上に、共振領域32を含むようにパッシベーション膜22が設けられている。パッシベーション膜22は、例えば酸化シリコン膜である。共振領域32内の積層膜は、高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、下部電極16、圧電膜18、上部電極20、及びパッシベーション膜22を含む。パッシベーション膜22は、周波数を調整する膜として機能してもよい。
【0032】
下部電極16及び高音響インピーダンス膜12には、犠牲層をエッチングするための導入路34が形成されている。犠牲層は、空隙30を形成するための層である。導入路34の先端付近は、圧電膜18で覆われておらず、孔部36が形成されている。
【0033】
図1(a)及び
図1(c)のように、直列共振子Sは、並列共振子Pと比較し、温度補償膜14が設けられてなく、代わりに、下部電極16と圧電膜18との間に、付加膜24が設けられている。付加膜24は、温度補償膜14と同様に、共振領域32の全体を覆うと共に、共振領域32から共振領域32の外側に延在して設けられている。付加膜24は、例えば温度補償膜14と同じ大きさ、同じ形状をしている。また、付加膜24は、例えば高音響インピーダンス膜12及び下部電極16と同じ形状であってもよい。高音響インピーダンス膜12、下部電極16、及び付加膜24の端面は、例えば同一面を形成しており、圧電膜18は、高音響インピーダンス膜12、下部電極16、及び付加膜24の端面を覆って設けられている。付加膜24は、例えば圧電膜18と同じ圧電材からなり、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする膜である。共振領域32内の積層膜は、高音響インピーダンス膜12、下部電極16、付加膜24、圧電膜18、上部電極20、及びパッシベーション膜22を含む。その他の構成は、並列共振子Pの
図1(b)と同じであり説明を省略する。
【0034】
直列共振子Sの共振領域32には、圧電膜18と同じ圧電材からなる付加膜24が設けられている。このため、直列共振子Sの共振領域32における圧電材(圧電膜18+付加膜24)の厚さは、並列共振子Pの共振領域32における圧電材(圧電膜18)よりも厚くなっている。
【0035】
直列共振子Sと並列共振子Pの両方の共振周波数の調整は、例えばパッシベーション膜22の膜厚によって行うことができる。直列共振子Sと並列共振子Pとの間の共振周波数の差は、例えば付加膜24の膜厚によって調整することができる。これにより、並列共振子Pと直列共振子Sとの間に所望の共振周波数差を設けることができ、ラダー型フィルタにおいて所望のバンドパス特性を得ることができる。
【0036】
図1(a)から
図1(c)において、並列共振子Pには温度補償膜14が設けられているが、直列共振子Sには設けられていない。これは、以下のためである。即ち、ラダー型フィルタの並列共振子Pは、主に通過帯域の低周波側のスカート特性に影響を及ぼし、直列共振子Sは、主に高周波側のスカート特性に影響を及ぼす。並列共振子P及び直列共振子Sの両方に温度補償膜14を設けることで、通過帯域の低周波側及び高周波側の両方の周波数温度係数を改善することができる。
【0037】
しかしながら、上述したように、周波数温度係数と電気機械結合係数とはトレードオフの関係にあるため、温度補償膜14を設けると、電気機械結合係数が小さくなってしまう。例えば、
図1(a)から
図1(c)に示す並列共振子P及び直列共振子Sを用いたラダー型フィルタを作製した場合を例に説明する。並列共振子Pを、高音響インピーダンス膜12に厚さ100nmのCr膜、温度補償膜14に厚さ210nmのSiOF膜、下部電極16に厚さ160nmのRu膜、圧電膜18に厚さ1170nmのAlN膜、上部電極20の下層20aに厚さ220nmのRu膜、上層20bに厚さ30nmのCr膜、パッシベーション膜22に厚さ50nmのSiO
X膜を用いて作製した。直列共振子Sを、高音響インピーダンス膜12、下部電極16、圧電膜18、上部電極20、パッシベーション膜22には上記と同じ膜厚及び材料を用い、付加膜24に厚さ180nmのAlN膜を用いて作製した。この場合、並列共振子Pの周波数温度係数は−10ppm/℃で、電気機械結合係数は6%であった。一方、直列共振子Sの周波数温度係数は−30ppm/℃で、電気機械結合係数は7.2%であった。
【0038】
このように、温度補償膜14を有する並列共振子Pは、周波数温度係数は良好だが、電気機械結合係数が小さくなってしまう。一方、温度補償膜14を有さない直列共振子Sは、周波数温度係数は並列共振子Pに比べて悪くなるが、電気機械結合係数は大きくなる。そこで、電気機械結合係数を大きくしつつ、周波数温度係数を改善する方法として、通過帯域の低周波側及び高周波側のうち周波数温度係数を改善したい側(例えばガードバンド側)に影響を及ぼす共振子に温度補償膜を設け、その他の共振子には温度補償膜を設けない構成が考えられる。したがって、
図1(a)から
図1(c)では、通過帯域の低周波側の周波数温度係数を改善するために並列共振子Pに温度補償膜14を設け、電気機械結合係数を大きくするために直列共振子Sに温度補償膜14を設けない構成としている。
【0039】
基板10としては、Si基板以外にも、例えば石英基板、ガラス基板、セラミック基板、又はGaAs基板等を用いることができる。高音響インピーダンス膜12は、温度補償膜14よりも音響インピーダンスが高い膜を用いることができ、Cr膜以外にも、例えばRu膜、AlN膜、又は窒化シリコン(SiN)膜等を用いることができる。
【0040】
温度補償膜14は、圧電膜18の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数の弾性定数を有する膜を用いることができ、SiOF膜以外にも、酸化シリコン又は窒化シリコンを主成分とする膜を用いることができる。温度補償膜14は、SiOF膜のように、酸化シリコンを主成分とし、弾性定数の温度係数を大きくするために、フッ素等の他の元素を含んでもよい。温度補償膜14の弾性定数の温度係数が大きい方が、同じ周波数温度係数を得るための温度補償膜14の厚さを薄くできるため、電気機械結合係数を大きくすることができるためである。
【0041】
下部電極16及び上部電極20としては、Ru及びCr以外にも、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、又はイリジウム(Ir)等の単層金属膜又はこれらの積層金属膜を用いることができる。圧電膜18は、窒化アルミニウム以外にも、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、又はチタン酸鉛(PbTiO
3)等を用いることができる。圧電膜18は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上又は圧電性の向上のために、他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、スカンジウム(Sc)等を用いることにより、圧電膜18の圧電性を向上でき、圧電薄膜共振子の実効的電気機械結合係数を向上できる。
【0042】
パッシベーション膜22は、酸化シリコン膜以外にも、例えば窒化シリコン膜又は窒化アルミニウム膜等の絶縁膜を用いることができる。付加膜24は、絶縁膜や金属膜を用いてもよいが、特性を考慮すると、圧電材からなる場合が好ましく、例えば圧電膜18と同じ圧電材からなる場合が好ましい。
【0043】
図2は、実施例1に係るラダー型フィルタの上面図である。なお、
図2では、パッシベーション膜22等を透視して図示している。
図2のように、実施例1のラダー型フィルタは、同一の基板10(
図2では不図示)上に、複数の直列共振子S1〜S4と複数の並列共振子P1〜P3とが形成されている。複数の直列共振子S1〜S4は、入力端子(不図示)と出力端子(不図示)との間に直列に接続され、複数の並列共振子P1〜P3は、入力端子と出力端子との間に並列に接続される。複数の直列共振子S1〜S4は、
図1(c)に示す圧電薄膜共振子Sと同様の構成をしていて、複数の並列共振子P1〜P3は、
図1(b)に示す圧電薄膜共振子Pと同様の構成をしている。圧電膜18には開口38が形成されていて、これにより下部電極16と電気的に接続することが可能となっている。なお、直列共振子及び並列共振子の個数、共振領域の形状及び大きさ、共振子を構成する材料及び膜厚等は、仕様に応じて適宜変更することができる。
【0044】
次に、実施例1に係るラダー型フィルタの製造方法について説明する。
図3(a)から
図4(c)は、実施例1に係るラダー型フィルタの製造方法を示す断面図である。なお、
図3(a)から
図4(c)では、
図2のA−A間に相当する箇所の断面を示している。
図3(a)のように、基板10の平坦上面に、空隙30を形成するための犠牲層40を形成する。犠牲層40は、例えばスパッタリング法又は真空蒸着法を用いて成膜される。犠牲層40は、例えば酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、ゲルマニウム(Ge)、又は酸化シリコン(SiO
X)等のエッチング液又はエッチングガスに容易に溶解する材料を用いることができる。犠牲層40の厚さは、例えば10nm〜100nmである。その後、犠牲層40を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。犠牲層40の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域32となる領域を含む。
【0045】
図3(b)のように、犠牲層40及び基板10上に、高音響インピーダンス膜12を形成する。高音響インピーダンス膜12は、例えばスパッタリング法又は真空蒸着法を用いて成膜される。
【0046】
図3(c)のように、高音響インピーダンス膜12上に、温度補償膜14を形成する。温度補償膜14は、例えばスパッタリング法又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて成膜される。その後、温度補償膜14を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。例えば、温度補償膜14を、並列共振子Pの犠牲層40上に、犠牲層40よりも少し大きい形状(即ち、共振領域32よりも少し大きい形状)で残存するようにパターニングし、直列共振子S側の温度補償膜14は除去する。温度補償膜14を共振領域32よりも少し大きい形状で残存させるのは、位置合わせ精度を考慮したものである。
【0047】
図3(d)のように、高音響インピーダンス膜12及び温度補償膜14上に、下部電極16を形成する。下部電極16は、例えばスパッタリング法又は真空蒸着法を用いて成膜される。
【0048】
図3(e)のように、下部電極16上に、付加膜24を形成する。付加膜24は、例えばスパッタリング法又はCVD法を用いて成膜される。その後、付加膜24を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。例えば、付加膜24を、直列共振子Sの犠牲層40上に、犠牲層40よりも少し大きい形状(即ち、共振領域32よりも少し大きい形状)で残存するようにパターニングし、並列共振子P側の付加膜24は除去する。付加膜24は、温度補償膜14と同じ大きさ、同じ形状とすることが好ましい。
【0049】
図4(a)のように、高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、下部電極16、及び付加膜24を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて一体加工で成形し、所望の形状にパターニングする。これにより、並列共振子Pにおいては、高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、及び下部電極16の端面が同一面を形成する。直列共振子Sにおいては、高音響インピーダンス膜12、下部電極16、及び付加膜24の端面が同一面を形成する。このエッチング技術には、イオンミリング法を用いることが好ましい。これは、高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、下部電極16、及び付加膜24の複数種の材料に対してエッチングをするためである。イオンミリング法は物理的なエッチングであるため、並列共振子Pと直列共振子Sとで膜厚差が大きいと、膜厚が薄い方において基板10がエッチングされてしまい、下部電極16等の先端付近で大きな段差が生じてしまう。例えば、直列共振子Sに付加膜24が設けられていない場合、並列共振子Pと直列共振子Sとでは温度補償膜14の厚さ分の膜厚差が生じるため、直列共振子S側の基板10がエッチングされてしまい、下部電極16等の先端付近に大きな段差が生じる。この場合、基板10と高音響インピーダンス膜12との間に空隙30を形成した際に、この段差部分を基点として圧電膜18等にクラックが発生し易くなり、信頼性が損なわれてしまう。そこで、直列共振子Sに付加膜24を形成し、並列共振子Pと直列共振子Sとの間の膜厚差を緩和させることで、基板10がエッチングされることを抑制している。
【0050】
図4(b)のように、下部電極16、付加膜24、及び基板10上に、圧電膜18を形成する。圧電膜18は、例えばスパッタリング法又はCVD法を用いて成膜される。圧電膜18上に、上部電極20として下層20a及び上層20bを形成する。上部電極20は、例えばスパッタリング法又は真空蒸着法を用いて成膜される。その後、上部電極20及び圧電膜18それぞれを、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。
【0051】
図4(c)のように、上部電極20上に、パッシベーション膜22を形成する。パッシベーション膜22は、例えばスパッタリング法又はCVD法を用いて成膜される。その後、パッシベーション膜22を、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて所望の形状にパターニングする。
【0052】
パッシベーション膜22を形成した後、孔部36及び導入路34(
図1(a)参照)を介し、犠牲層40のエッチング液を、高音響インピーダンス膜12下の犠牲層40に導入する。これにより、犠牲層40が除去される。犠牲層40をエッチングする媒体としては、犠牲層40以外の共振子を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。例えば、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する高音響インピーダンス膜12等がエッチングされない媒体であることが好ましい。並列共振子Pの高音響インピーダンス膜12、温度補償膜14、下部電極16、圧電膜18、及び上部電極20を含む積層膜の応力を圧縮応力となるように設定することで、並列共振子Pにおける犠牲層40が除去されると、積層膜が基板10の反対側に基板10から離れるように膨らむ。同様に、直列共振子Sの高音響インピーダンス膜12、下部電極16、付加膜24、圧電膜18、及び上部電極20を含む積層膜の応力を圧縮応力となるように設定することで、直列共振子Sにおける犠牲層40が除去されると、積層膜が基板10の反対側に基板10から離れるように膨らむ。これにより、基板10と高音響インピーダンス膜12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上の工程を含んで、実施例1のラダー型フィルタが形成される。
【0053】
実施例1のラダー型フィルタによれば、並列共振子Pは、
図1(b)のように、共振領域32において、下部電極16の圧電膜18に対して反対側の面に温度補償膜14が設けられている。直列共振子Sは、
図1(c)のように、共振領域32において、下部電極16の圧電膜18に対して反対側の面に温度補償膜は設けられてなく、圧電膜18よりも下部電極16側又は上部電極20側のうち並列共振子Pの温度補償膜14が設けられた側と同じ側(即ち、下部電極16側)に付加膜24が設けられている。このような構成とすることで、
図4(a)で説明したように、直列共振子Sと並列共振子Pとの間の膜厚差による基板10へのエッチングを抑制することができる。よって、圧電膜18等にクラックが生じることを抑制でき、その結果、信頼性を改善することができる。
【0054】
下部電極16と圧電膜18との間に設けられた付加膜24は、特性を考慮すると、圧電材からなる場合が好ましい。この場合、直列共振子Sの共振領域32における圧電材の厚さは、並列共振子Pの共振領域32における圧電材よりも厚くなる。
【0055】
図1(b)及び
図1(c)のように、圧電膜18が下部電極16等の端面を覆うように下部電極16上から基板10上に延在して設けられている場合に、下部電極16等の先端付近の基板10がエッチングされると、圧電膜18等にクラックが生じ易くなる。したがって、このような構成の場合に、付加膜24を設けることが好ましい。
【0056】
図1(b)のように、温度補償膜14の圧電膜18に対して反対側の面に、高音響インピーダンス膜12が設けられていることが好ましい。以下の理由により、Q値を改善させることができるためである。即ち、高音響インピーダンス膜12が設けられていないと、弾性波エネルギーは、温度補償膜14とパッシベーション膜22との間に閉じ込められ、その強度は、温度補償膜14及びパッシベーション膜22に向かうに連れて弱くなる。したがって、温度補償膜14は、弾性波エネルギーが小さい部分に設けられることになり、周波数温度係数を改善するためには、膜厚を厚くすることになる。一方、高音響インピーダンス膜12が設けられている場合は、弾性波エネルギーが、高音響インピーダンス膜12とパッシベーション膜22との間に閉じ込められる。よって、温度補償膜14は、高音響インピーダンス膜12が設けられていない場合と比べて、弾性波エネルギーがより大きい部分に設けられ、その結果、周波数温度係数を改善するための膜厚を薄くすることができる。このように、高音響インピーダンス膜12を設けることで、周波数温度係数を改善するための温度補償膜14の膜厚を薄くすることができ、その結果、共振周波数及び反共振周波数のQ値を改善することができる。
【0057】
図1(b)のように、共振領域32から延びる下部電極16の引き出し部の少なくとも一部には、温度補償膜14が設けられていないことが好ましい。温度補償膜14と下部電極16との密着はあまり良くないため、例えば下部電極16の上面に対してボンディングを行う場合に、下部電極16が剥離してしまうことが生じるためである。
【実施例3】
【0062】
実施例3に係るラダー型フィルタの上面図は、実施例1の
図2と同じであるため説明を省略する。
図6(a)は、実施例3に係るラダー型フィルタに用いられる圧電薄膜共振子の上面図、
図6(b)及び
図6(c)は、
図6(a)のA−A間の断面図である。
図6(b)は、ラダー型フィルタの並列共振子、
図6(c)は、ラダー型フィルタの直列共振子の断面を示している。
【0063】
図6(a)から
図6(c)のように、下部電極16は、例えばCr膜からなる下層16aと、例えばRu膜からなる上層16bと、を含む。並列共振子Pにおいて、温度補償膜14は、上部電極20の上面、即ち、上部電極20の圧電膜18に対して反対側の面に設けられている。高音響インピーダンス膜12は、温度補償膜14及び上部電極20の上面、即ち、温度補償膜14の圧電膜18に対して反対側の面に設けられている。上部電極20は、例えばRu膜からなり、温度補償膜14は、例えばSiOF膜からなり、高音響インピーダンス膜12は、例えばCr膜からなる。直列共振子Sにおいて、付加膜24bは、上部電極20の上面と高音響インピーダンス膜12の下面との間に設けられている。付加膜24bは、例えばCr膜からなるが、実施例2の付加膜24aとして挙げた材料を用いることができる。その他の構成は、実施例1の
図1(a)から
図1(c)と同じであるため説明を省略する。
【0064】
実施例3のラダー型フィルタによれば、並列共振子Pは、
図6(b)のように、共振領域32において、上部電極20の圧電膜18に対して反対側の面に温度補償膜14が設けられている。直列共振子Sは、
図6(c)のように、共振領域32において、圧電膜18よりも下部電極16側又は上部電極20側のうち並列共振子Pの温度補償膜14が設けられた側と同じ側(即ち、上部電極20側)に付加膜24bが設けられている。例えば、直列共振子Sに付加膜24bが設けられていない場合、並列共振子Pと直列共振子Sとで温度補償膜14の厚さ分の膜厚差が生じるため、高音響インピーダンス膜12、上部電極20、及び温度補償膜14をパターニングする際に、直列共振子S側の圧電膜18がエッチングされることが生じてしまう。これにより、信頼性が損なわれてしまう。しかしながら、実施例3によれば、並列共振子Pと直列共振子Sとの膜厚差が付加膜24bによって緩和されるため、圧電膜18がエッチングされることを抑制でき、その結果、信頼性を改善することができる。
【0065】
付加膜24bは、上部電極20の上面に設けられる場合に限らず、上部電極20の下面に設けられていてもよいし、例えば上部電極20が下層と上層とで構成される場合、上部電極20の層間に設けられていてもよい。つまり、付加膜24bは、上部電極20に接して設けられた金属からなる場合でもよい。この場合、直列共振子Sの共振領域32における圧電膜18上の金属からなる膜の合計の厚さ(上部電極20+付加膜24b+高音響インピーダンス膜12の厚さ)は、並列共振子Pの共振領域32における圧電膜18上の金属からなる膜の合計の厚さ(上部電極20+高音響インピーダンス膜12の厚さ)よりも厚くなる。
【0066】
付加膜24bが上部電極20の下面、即ち、上部電極20と圧電膜18との間に設けられている場合では、良好な特性を得るために、付加膜24bは圧電材(例えば、圧電膜18と同じ圧電材)からなる場合が好ましい。この場合、直列共振子Sの共振領域32における圧電材の厚さは、並列共振子Pの共振領域32における圧電材よりも厚くなる。
【0067】
実施例1から実施例3では、並列共振子Pが温度補償膜を有し、直列共振子Sが付加膜を有する場合を例に示したが、逆の場合、即ち、並列共振子Pが付加膜を有し、直列共振子Sが温度補償膜を有する場合でもよい。上述したように、並列共振子は主に通過帯域の低周波側のスカート特性に影響を及ぼし、直列共振子は主に高周波側のスカート特性に影響を及ぼすことから、周波数温度係数を改善したい側の共振子に温度補償膜を設け、反対側の共振子に付加膜を設ければよい。したがって、直列共振子及び並列共振子の一方は、共振領域において、下部電極又は上部電極の圧電膜に対して反対側の面に温度補償膜を備え、他方は、共振領域において、圧電膜よりも下部電極側又は上部電極側のうち前記一方において温度補償膜が設けられた側と同じ側に付加膜を備える。このような構成とすることで、信頼性を改善することができる。