特許第6374662号(P6374662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374662
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】モータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20160101AFI20180806BHJP
   H02P 6/06 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H02P21/00
   H02P6/06
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-23441(P2014-23441)
(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2015-154503(P2015-154503A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228730
【氏名又は名称】日本電産サーボ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石川 理朋
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−121267(JP,A)
【文献】 特開2002−098088(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0298405(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0134823(US,A1)
【文献】 特開平11−018498(JP,A)
【文献】 特開2004−232918(JP,A)
【文献】 特開2008−202908(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/040180(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/110219(WO,A1)
【文献】 特開2008−004308(JP,A)
【文献】 特許第3653670(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
H02P 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファンをモータにより駆動して流体の搬送に供するモータ装置において、
前記モータの現在の回転角度と回転速度とを取得する位置速度推定部と、
前記位置速度推定部で取得した回転速度を流量係数で乗算して流量一定目標駆動電流を計算する乗算部と、
前記流量一定目標駆動電流を制御目標に設定してモータの駆動電流を制御する電流制御部とを備えることにより、前記流体の流量を前記流量係数に応じた一定値に保持するように制御し、
前記電流制御部は、
前記モータの駆動電流を検出する電流センサと、
前記モータの駆動電流をクラーク変換するクラーク変換部と、
前記クラーク変換部の出力を前記位置速度推定部で取得した回転角度に基づいてパーク変換して出力するパーク変換部と、
前記流量一定目標駆動電流と前記パーク変換部の出力との差分値を計算する減算部と、
前記減算部の出力により制御値を生成するコントローラと、
前記制御値を前記位置速度推定部で取得した回転角度に基づいて逆パーク変換する逆パーク変換部と、
前記逆パーク変換部の出力を逆クラーク変換する逆クラーク変換部と、
前記逆クラーク変換部の出力により前記モータを駆動するインバータとを備えるモータ装置。
【請求項2】
前記位置速度推定部は、
位置センサを用いて回転角度及び回転速度を取得する請求項1に記載のモータ装置。
【請求項3】
前記流量係数の設定を受け付けて前記流量を切り替える請求項1又は請求項2に記載のモータ装置。
【請求項4】
前記モータの回転速度を判定基準値により判定する判定部を備え、
前記判定部の判定結果に基づいて、
前記モータの回転速度が上限の判定基準値を超えると、前記流量一定目標駆動電流に代えて、上限の回転速度と前記位置速度推定部で取得した回転速度との差分値により算出される速度一定目標駆動電流を制御目標に設定することにより、前記上限の回転速度で前記モータを駆動し、
前記モータの回転速度が下限の判定基準値を下回ると、前記流量一定目標駆動電流に代えて、下限の回転速度と前記位置速度推定部で取得した回転速度との差分値により算出される速度一定目標駆動電流を制御目標に設定することにより、前記下限の回転速度で前記モータを駆動する
請求項1、請求項2、請求項3の何れかに記載のモータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダクトの送風装置等に使用されるモータ装置に関して、特に風量、流量を一定値に保持するようにモータを駆動するモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送風装置は、種々の分野で広く使用されており、例えば天井埋め込み型の換気装置においては、ダクトを介して送風機により屋内の空気を換気している。このような換気装置では、ダクトの汚れ、ダクト内に設けたフィルタの汚れ等により、送風装置の負荷が変化する。特許文献1、2には、モータの回転速度と駆動電流とから風量を計算してモータの駆動を制御することにより、負荷の変化による流量(風量)の変動を低減する構成が開示されている。また特許文献3には、回転子の回転位置を検出するためのセンサを別途、設けることなく(いわゆるセンサレスである)、駆動電流により回転子の回転位置を検出してモータを駆動する構成が開示されている。
【0003】
またこのような送風装置等のモータの制御に関して、特許文献4等には、いわゆるベクトル制御によりモータを制御する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/040180号
【特許文献2】国際公開第2009/110219号
【特許文献3】特開2008−4308号公報
【特許文献4】特許第3653670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで送風装置等におけるモータの駆動において、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動することができれば、便利であると考えられる。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動すること(以下、風量一定制御と呼ぶ)を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ベクトル制御によりモータを駆動するモータ装置であって、送風機に用いられるモータ装置において、風量Qと回転速度ωとq軸駆動電流iとの関係に着目し、回転速度ωとq軸駆動電流iとが比例するように制御すれば、風量Qを一定に維持できるとの着想により、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1) ファンをモータにより駆動して流体の搬送に供するモータ装置において、
前記モータの現在の回転角度と回転速度とを取得する位置速度推定部と、
前記位置速度推定部で取得した回転速度を流量係数で乗算して流量一定目標駆動電流を計算する乗算部と、
前記流量一定目標駆動電流を制御目標に設定してモータの駆動電流を制御する電流制御部とを備えることにより、前記流体の流量を前記流量係数に応じた一定値に保持するように制御し、
前記電流制御部は、
前記モータの駆動電流を検出する電流センサと、
前記モータの駆動電流をクラーク変換するクラーク変換部と、
前記クラーク変換部の出力を前記位置速度推定部で取得した回転角度に基づいてパーク変換して出力するパーク変換部と、
前記流量一定目標駆動電流と前記パーク変換部の出力との差分値を計算する減算部と、
前記減算部の出力により制御値を生成するコントローラと、
前記制御値を前記位置速度推定部で取得した回転角度に基づいて逆パーク変換する逆パーク変換部と、
前記逆パーク変換部の出力を逆クラーク変換する逆クラーク変換部と、
前記逆クラーク変換部の出力により前記モータを駆動するインバータとを備える。
【0009】
(1)によれば、現在の回転速度を流量係数で乗算して流量一定目標駆動電流を設定することにより、流量一定制御によるベクトル制御によりモータを駆動することができ、その結果、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動することができる。
【0010】
(2) (1)において、前記位置速度推定部は、位置センサを用いて回転角度及び回転速度を取得する。
【0011】
(2)によれば、具体的構成により回転角度及び回転速度を取得することができる。
【0012】
(3) (1)又は(2)において、前記流量係数の設定を受け付けて前記流量を切り替える。
【0013】
(3)によれば、上位のコントローラ等の制御により駆動の条件を可変することができる。
【0014】
(4) (1)、(2)又は(3)において、
前記モータの回転速度を判定基準値により判定する判定部を備え、
前記判定部の判定結果に基づいて、
前記モータの回転速度が上限の判定基準値を超えると、前記流量一定目標駆動電流に代えて、上限の回転速度と前記位置速度推定部で取得した回転速度との差分値により算出される速度一定目標駆動電流を制御目標に設定することにより、前記上限の回転速度で前記モータを駆動し、
前記モータの回転速度が下限の判定基準値を下回ると、前記流量一定目標駆動電流に代えて、下限の回転速度と前記位置速度推定部で取得した回転速度との差分値により算出される速度一定目標駆動電流を制御目標に設定することにより、前記下限の回転速度で前記モータを駆動する。
【0015】
(4)によれば、流量一定の条件によりモータを駆動して、回転速度が上限値、下限値を超えないようにモータを駆動することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来に比して一段と簡易な処理により流量を一定に維持するようにモータを駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係るモータ装置を示すブロック図である。
図2図1のモータ装置を詳細に示すブロック図である。
図3図2のブロック図の説明に供する図である。
図4】制御特性を示す特性曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
〔風量一定制御の原理〕
始めにこの実施形態に係る送風装置に関して、風量を一定値に保持するモータ制御の原理を説明する。ここで送風に係る風量(流量)をQ、送風に供するモータの回転数をN[r/min]、このモータの出力をP[W]とおくと、風量Q及び回転数Nと、出力Pとは比例関係により表され、次式の関係式により表される。
【0020】
【数1】
【0021】
これにより風量Qを一定に保持するためには、P/Nが一定値となるように制御すれば良いことが判る。ここで風量Qに比例する係数(K∝Q)を定義すると、(1)式は次式により示すように変形することができる。
【0022】
【数2】
【0023】
この回転数Nと出力Pとをベクトル制御で使用される物理量に変換する。ここで回転数Nは、電気角速度ω[rad/sec]、モータの極対数Pを使用して次式により表すことができる。
【0024】
【数3】
【0025】
またモータ出力Pは、モータが発生するトルクτと機械角速度ω[rad/sec]とにより、次式により表すことができる。
【0026】
【数4】
【0027】
またこのトルクτは、一般的なブラシレスDCモータ(表面磁石型の永久磁石型同期モータ)では、次式により示すように、極対数P、回転子磁束強度Φ[Vs/rad]、q軸駆動電流iの積により表すことができる。
【0028】
【数5】
【0029】
また機械角速度ωと電気角速度ωとの関係は、次式により表すことができる。
【0030】
【数6】
【0031】
ここで(5)式及び(6)式を(4)式に代入すると、次式の関係式を得ることができる。
【0032】
【数7】
【0033】
この(7)式と(3)式とを(2)式に代入すると、次式の関係式を得ることができ、風量Qを一定に保持するための電気角速度ωとq軸駆動電流iとの関係式を得ることができる。
【0034】
【数8】
【0035】
ここで(8)式は、流量係数K´を使用して次式により表すことができる。
【0036】
【数9】
【0037】
但し、流量係数K´は、次式により表される。
【0038】
【数10】
【0039】
これにより電気角速度ωとq軸駆動電流iとが比例関係を維持するように保持すれば、風量一定によりモータを駆動することができる。
【0040】
〔モータ装置の基本構成〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ装置の基本的な構成を示すブロック図である。モータ装置1は、3相のブラシレス直流モータ2によりファンを駆動して送風する送風装置に適用される。モータ装置1は、ダイオードD1〜D4を使用した全波整流回路による整流回路3により交流電源4を整流した後、平滑コンデンサCにより平滑化し、これにより直流電源(バス電圧)VBUSを生成してインバータ5に供給する。ここでインバータ5は、トランジスタ、FET(Field effect transistor)等の駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wによる3組の直列回路が、電流センサ11により駆動電流をそれぞれ検出可能に設定されて、直流電源VBUS及び電流センサ11間に配置され、各直列回路の接続中点がそれぞれモータ2のU相、V相、W相の巻き線に接続される。なお電流センサ11は、アースラインに接続される。またインバータ5は、各駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wのベース(ゲート)が図示しない駆動回路により駆動され、これにより駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wの出力電圧によりモータ2を駆動する。しかして電流センサ11はインバータ5及びアースライン間に設置され、モータ2の各相の駆動電流を検出する。なお各駆動素子7U、7V、7W、8U、8V、8Wには、それぞれ保護用のダイオードが設けられている。
【0041】
またモータ装置1は、図示しない電源回路により交流電源から低電圧の直流電源を生成してマイクロコンピュータ(マイコン)による制御回路9に入力する。制御回路9は、電流センサ11を介して、モータ2の駆動電流等を取得し、この電流情報に基づくベクトル制御計算によりモータ2の駆動電圧を決定し、インバータ5の動作を制御する。
【0042】
図2は、この制御回路9の処理手順の実行により構成される機能ブロックを、周辺構成と共に示すブロック図である。制御回路9は、この機能ブロックの構成によりセンサレスベクトル制御の手法を適用してモータ2を駆動する。
【0043】
すなわちモータ装置1は、電流センサ11により検出される各相の駆動電流iuvをクラーク変換部12に入力し、クラーク変換部12は、この電流センサ11による検出結果をクラーク変換することにより、2相固定座標系の駆動電流ベクトルiαβを出力する。位置速度推定部13は、この2相固定座標系の駆動電流ベクトルiαβと対応する2相固定座標系の駆動電圧ベクトルVαβとから、回転子の回転角度θ、電気角速度ωを推定算出して出力することにより、モータの現在の回転角度と回転速度とを取得する。演算部15は、この位置速度推定部13で算出された回転角度θの正弦値及び余弦値を算出して出力し、パーク変換部14は、この演算部15の算出結果を使用して2相固定座標系の駆動電流ベクトルiαβをパーク変換することにより、駆動電流ベクトルiαβを回転座標系のq軸駆動電流i、d軸駆動電流iに変換して出力する。
【0044】
モータ装置1は、上位のコントローラ等から(9)式に係る流量係数K´を風量の制御目標値として入力し、乗算部16は、この流量係数K´と位置速度推定部13で算出された電気角速度ωとを乗算する。これによりモータ装置1は、(9)式の左辺の乗算処理を実行して制御目標の駆動電流である風量一定目標駆動電流値i1を計算し、スイッチ部17を介して減算回路18に出力する。減算回路18は、パーク変換部14で算出されたq軸駆動電流iをスイッチ部17の出力値から減算して出力し、PIコントローラ(PI)19は、この減算回路18の出力値を所定利得により増幅すると共に、この減算回路18の出力値の移動積分値を算出した後、所定利得により増幅して加算し、これにより比例積分制御に係る制御値となるq軸駆動電圧Vを計算する。減算回路20は、パーク変換部14で算出されたd軸駆動電流iと対応する制御目標値i1(この例では値0である)の減算値を算出して出力し、PIコントローラ(PI)21は、この減算回路20に係る比例積分制御に係る制御値となるd軸駆動電圧Vを計算して出力する。
【0045】
逆パーク変換部22は、演算部15の計算結果を利用して、PIコントローラ19、21より出力されるq軸駆動電圧Vとd軸駆動電圧Vとを逆パーク変換処理して2相固定座標系の駆動電圧ベクトルVαβを出力し、逆クラーク変換部23は、この逆パーク変換部22から出力される2相固定座標系の駆動電圧ベクトルVαβを逆クラーク変換処理し、3相固定座標系の駆動電圧ベクトルVUVWを出力する。モータ装置1は、この逆クラーク変換部23から出力される3相固定座標系の駆動電圧ベクトルVUVWをパルス幅変調してモータ2のコイルに印加し、モータ2を駆動する。
【0046】
これによりモータ装置1は、図3により図2の構成を簡略化して示すように、上位のコントローラ等から入力される流量係数K´と電気角速度ωとの乗算値が、風量一定q軸目標駆動電流i1となり、この風量一定q軸目標駆動電流i1に駆動電流iが一致するようにフィードバック制御し、(9)式の関係式を保持するように、モータ2を駆動し、これにより風量一定制御によりモータを駆動する。
【0047】
ところでモータ2の駆動においては、回転速度の下限値及び上限値を設定することが必要である。すなわち低速回転時、軽負荷時、モータ2では、駆動電流及び駆動電圧が低いことにより位置、速度の推定精度が劣化し、安定な駆動が困難になる。これにより下限値を設定することが必要になる。また高速回転時のモータ発熱や振動から回路やモータを保護するために、上限値を設定することが必要である。
【0048】
そこでモータ装置1では(図2)、速度上限値ωmaxと速度下限値ωminとを切り替えて速度制御目標値を減算回路26に入力し、ここで位置速度推定部13で推定される電気角速度ωとの減算値を計算する。またこの計算した減算値をPIコントローラ27に入力して比例積分制御に係る速度一定q軸目標駆動電流i1を計算し、計算結果をスイッチ部17に出力する。モータ装置1は、図示しない判定部により位置速度推定部13で推定される電気角速度ωeを判定し、この判定結果によりスイッチ部17の動作、速度制御目標値を切り替え、これにより風量一定制御と速度一定制御の間とでモータ2の制御を切り替え、モータ2の回転速度が上限値、下限値を超えないようにモータ2を駆動する。
【0049】
具体的に、判定部は、スイッチ部17を介して乗算部16からの乗算値を減算回路18に出力して風量一定制御によりモータ2を駆動している状態で、位置速度推定部13で推定される電気角速度ωが上限値ωmaxを超えると、速度制御目標値を上限値ωmaxに設定すると共に、スイッチ部17の動作を切り替えてPIコントローラ27の出力値を減算回路18に出力する。これにより風量一定制御から速度一定制御にモータ2の制御を切り替え、モータ2の回転速度を上限値ωmaxに保持する。
【0050】
またこのように速度一定制御によりモータ2の回転速度を上限値ωmaxに保持するように駆動している状態で、PIコントローラ27から出力される速度一定q軸目標電流i1が、位置速度推定部13で推定される電気角速度ωと流量係数K´との乗算値K´・ω以上に立ち上がると、スイッチ部17を介して乗算部16からの乗算値を減算回路18に出力して風量一定制御によりモータ2を駆動する。すなわちスイッチ部17により速度一定制御から風量一定制御にモータ2の制御に切り替える。
【0051】
また風量一定制御によりモータ2を駆動している状態で、位置速度推定部13で推定される電気角速度ωが下限値ωminを下回ると、速度制御目標値を下限値ωminに設定すると共に、スイッチ部17の動作を切り替えてPIコントローラ27の出力値を減算回路18に出力する。これにより風量一定制御から速度一定制御にモータ2の制御を切り替え、モータ2の回転速度を下限値ωminに保持する。
【0052】
またこのように速度一定制御によりモータ2の回転速度を下限値ωminに保持するようにして、PIコントローラ27から出力される速度一定q軸目標電流i1が、位置速度推定部13で推定される電気角速度ωと流量係数K´との乗算値K´・ω未満に立ち下がると、スイッチ部17を介して乗算部16からの乗算値を減算回路18に出力して風量一定制御によりモータ2を駆動する。すなわちスイッチ部17により速度一定制御から風量一定制御にモータの制御を切り替える。
【0053】
なおこのように風量一定制御による駆動と、回転速度の上限値及び下限値による速度一定制御による駆動との切り替えにおいて、ヒステリシス特性を設けるようにしてもよい。
【0054】
図4は、このような駆動の切り替えに係るモータ装置1の特性を示す特性曲線図である。風量一定制御によりモータ2を駆動している状態では、流量係数K´に応じた比例係数による駆動電流及び回転速度の特性によりモータ2を駆動し(実線により示す範囲である)、この状態で例えば流路の静圧が大きくなると風量一定を維持するためにモータ2の回転速度が上昇する。ここでモータ2の回転速度が上限値を超えると、速度一定制御による駆動に切り替わり、上限値でモータ2を駆動する(破線により示す範囲である)。また速度一定制御により回転速度の上限値によりモータ2を駆動している状態で流路の静圧が小さくなるとモータ2の負荷が大きくなり駆動電流が上昇する。ここで駆動電流の大きさが流量係数と回転速度の乗算値を超えると、元の風量一定制御による駆動に切り替える。
【0055】
また風量一定制御による駆動において、流路の静圧が小さくなると風量一定を維持するためにモータ2の回転速度が低下する。ここでモータ2の回転速度が下限値を下回ると、速度一定制御による駆動に切り替わり、この下限値によりモータ2を駆動する。また速度一定制御により回転速度の下限値でモータ2を駆動している状態で、流路の静圧が大きくなると、モータ2の負荷が小さくなり駆動電流が低下する。ここで駆動電流の大きさが流量係数と回転速度の乗算値を下回ると、元の風量一定制御による駆動に切り替える(破線により示す範囲である)。
【0056】
この実施形態によれば、ベクトル制御によりモータを駆動するようにして、現在の回転速度を流量係数で乗算して目標駆動電流を計算し、この目標駆動電流と実際の駆動電流を一致させるようにフィードバック制御することにより、従来に比して一段と簡易な処理により風量を一定に維持するようにモータを駆動することができる。
【0057】
また流量係数の調整により、風量を所望の大きさに設定することができる。なお流量係数を調整する方法は、例えばモータ装置内にボリウム等を設置して、それらを操作することで調整する方法でも良いし、上位コントローラ等から風量の大きさを指示する方法でも良い。
【0058】
また判定部により回転速度の上限値及び下限値を判定してモータの制御を切り替えることにより、回転速度が上限値、下限値を超えないようにモータを駆動することができる。
【0059】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0060】
例えば上述の実施形態では、モータの回転角度及び回転速度を取得する手段として位置速度推定部を設け、駆動電流と駆動電圧からの推定計算により回転角度及び回転速度を取得する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、回転角度及び回転速度を取得する手段としてエンコーダ、レゾルバ等の位置センサを設けるようにし、これら位置センサの検出結果を処理して回転角度及び回転速度を取得しても良い。
【0061】
また上述の実施形態では、ファンを駆動して気体を搬送する送風装置に本発明を適用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、ファン(羽根車)を駆動して液体を搬送する場合にも広く適用して流量一定制御により駆動することができる。
【0062】
さらに上述の実施形態では、3相のブラシレスモータによるファンモータを駆動する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、各種のモータを駆動する場合に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 モータ装置
2 モータ
3 整流回路
4 商用電源
5 インバータ
7U、7V、7W、8U、8V、8W 駆動素子
9 制御回路
11 電流センサ
12 クラーク変換部
13 位置速度推定部
14 パーク変換部
15 演算部
16 乗算部
17 スイッチ部
18、20、26 減算回路
19、20、27 PIコントローラ
22 逆パーク変換部
23 逆クラーク変換部
25 電流制御部
C 平滑コンデンサ
D1〜D4 ダイオード
図1
図2
図3
図4