(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374681
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】飛行装置
(51)【国際特許分類】
B64C 39/02 20060101AFI20180806BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20180806BHJP
B64C 25/32 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
B64C39/02
B64C27/08
B64C25/32
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-55817(P2014-55817)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178294(P2015-178294A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】503132280
【氏名又は名称】特定非営利活動法人 国際レスキューシステム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】大野 和則
(72)【発明者】
【氏名】田所 諭
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0146010(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102910275(CN,A)
【文献】
特開昭57−155200(JP,A)
【文献】
特開2015−101168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
B64C 25/32
B64C 27/08 − 27/10
B64C 29/00 − 29/04
B64D 1/08 − 1/14
B64F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後左右上下方向に移動可能な飛行本体と、複数の固着装置とを有し、
各固着装置は、固着対象に固着および離脱可能な固着部材と、前記飛行本体を吊り下げるための前記固着部材に先端が取り付けられた紐と、前記飛行本体に設けられて前記紐を巻取り、繰出しおよび固定可能な巻取り装置とを、
有することを特徴とする飛行装置。
【請求項2】
前記固着装置は3個以上から成り、前記固着部材は前記飛行本体にそれぞれ異なる方向に向けて設けられていることを、特徴とする請求項1記載の飛行装置。
【請求項3】
前記固着部材は先端部材と筒状の後端部材とを有し、前記先端部材は筒体の後端開口から突出するオルタネイト式の押しボタンの操作により前記筒体の先端開口から永久磁石を進退可能な構成を有し、前記後端部材は内部に前記先端部材の後端側を挿入可能であって前記後端側を挿入したとき前記押しボタンを押付け可能な内底部を有し、前記紐は前記先端部材に先端側が取り付けられ、前記後端部材の内部を通って前記巻取り装置に後端側が巻取り可能に取り付けられていることを、特徴とする請求項1または2記載の飛行装置。
【請求項4】
前記固着部材は永久磁石、電磁石、吸盤、粘着パッド、接着剤、静電吸着部材または爪部材から成ることを、特徴とする請求項1、2または3記載の飛行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固着装置を有する飛行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの配管、原子力発電所の外観と内部、被災建物の内部といった、人間が容易に確認できない場所の調査に飛行ロボット(MAV)が有効である。
屋内探査には、機体が小型・軽量で、火災などの事故を起こしづらい電動式のMAVが適している。電動式のMAVは搭載できるバッテリの重さに限界があり、10〜15分程度の時間しか飛行することができない。定点観測のためにホバリングを行うと、飛行時間がその半分になる。MAVを屋内探査に用いるには、より長時間の探査が行える必要がある。
【0003】
MAVの探査時間が短いのは、揚力を得るためにモータで大きな電力を消費しているのが原因である。搭載している機器の消費電力はモータの消費電力と比べて小さい。したがって、プロペラを回す時間を短くすることで探査時間を延ばすことができる。特に、ホバリングの時間を短くすることで、探査時間を大きく延ばすことができる。
そこで、プロペラを回さずに空中静止して観測するのに適したMAVが、本発明者らにより開発されている。そのMAVは、磁石により鉄骨などの吸着対象に吸着し、吸着装置から伸びるワイヤを巻取り装置により繰り出して、吊り下がることが可能である(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】No.13-2 Proceedings of the 2013 JSME Conference on Robotics and Mechatronics、 Tsukuba、 Japan、 May 22-25、2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のMAVは、観測対象を観測後、前後左右方向に離れた他の観測対象を観測するには、磁石を吸着対象から脱着させてから、プロペラを回して他の観測対象の上方まで飛行する必要があった。このため、飛行に電力を消費し、探査時間が短くなるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、飛行する動力を止めた状態でも前後左右上下方向に移動可能で、それによりエネルギー消費を抑制できる飛行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る飛行装置は、前後左右上下方向に移動可能な飛行本体と、複数の固着装置とを有し、各固着装置は、固着対象に固着および離脱可能な固着部材と、
前記飛行本体を吊り下げるための前記固着部材に先端が取り付けられた紐と、前記飛行本体に設けられて前記紐を巻取り、繰出しおよび固定可能な巻取り装置とを、有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る飛行装置は、複数の固着装置の固着部材により複数の固着対象に固着し、各固着対象から吊り下がることができる。各巻取り装置により各紐を繰り出したり巻き取ったり固定したりすることで、各紐の長さを変え、各固着対象を結ぶ領域内で移動することができる。複数の観測対象が各固着対象を結ぶ領域の下方に位置するように固着対象を選択すれば、各観測対象の上方の任意の高さの位置まで移動することができる。これにより、飛行本体の飛行する動力を止めてエネルギー消費を抑制し、探査時間を延ばすことができる。固着部材を固着対象から離脱させれば、容易に回収可能である。
【0009】
本発明において、紐は、細長く、飛行装置を吊下げ可能であって、巻取り、繰出しおよび固定可能であれば、糸、ピアノ線、ロープ、ワイヤ、ケーブル、チェーン、テープ、その他から成ってもよい。巻取り装置による紐の巻取りは、巻取り装置の動力で行っても、バネにより行ってもよい。紐の繰出しは、巻取り装置の動力で行っても、飛行装置の推進力で行っても、飛行装置の自重で行ってもよい。紐の固定は、バネによりテンションがかかるよう弾力的に固定されることが好ましい。固着装置は、2個以上、何個であってもよいが、前後左右上下方向の移動と姿勢制御のために5個有することが好ましい。
【0010】
本発明に係る飛行装置において、前記固着装置は3個以上から成り、前記固着部材は前記飛行本体にそれぞれ異なる方向に向けて設けられていることが好ましい。この場合、3つ以上の固着対象を結ぶ領域内で、各巻取り装置により各紐を繰り出したり巻き取ったりして前後左右上下方向に移動することができる。固着部材がそれぞれ異なる方向に向けられているため、各固着部材をそれぞれ離れた固着対象に固着させて、観測領域を広く設定するのが容易である。
【0011】
本発明に係る飛行装置において、前記固着部材は先端部材と筒状の後端部材とを有し、前記先端部材は筒体の後端開口から突出するオルタネイト式の押しボタンの操作により前記筒体の先端開口から永久磁石を進退可能な構成を有し、前記後端部材は内部に前記先端部材の後端側を挿入可能であって前記後端側を挿入したとき前記押しボタンを押付け可能な内底部を有し、前記紐は前記先端部材に先端側が取り付けられ、前記後端部材の内部を通って前記巻取り装置に後端側が巻取り可能に取り付けられていることが好ましい。
【0012】
この場合、永久磁石が先端部材の筒体の先端開口から後退した状態で、先端部材の押しボタンを後端部材の内底部に押し付ければ、永久磁石を筒体の先端開口から突出させて、永久磁石により鉄骨などの固着対象に吸着することができる。再度、押しボタンを後端部材の内底部に押し付ければ、永久磁石を筒体の先端開口から後退させ、固着対象から離脱することができる。紐は、後端部材の内部で案内されるため、絡まりにくい。
【0013】
前記固着部材は永久磁石、電磁石、吸盤、粘着パッド、接着剤、静電吸着部材または爪部材から成ることができる。固着部材には、固着対象に固着および離脱可能な種々の手段を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飛行する動力を止めた状態でも前後左右上下方向に移動可能で、それによりエネルギー消費を抑制できる飛行装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態の飛行装置の動作を示す説明図である。
【
図3】固着装置の先端部材の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本発明の実施の形態の飛行装置1は、飛行本体2と複数の固着装置3a〜3eとを有している。飛行本体2は、飛行ロボット(MAV)から成る。飛行本体2は、電池駆動で4つの回転翼により離陸・推進可能な電動クアッドロータを有し、リモートコントローラの操作により前後左右上下方向に飛行して移動可能である。
【0017】
固着装置3a〜3eは、2個以上、何個でもよいが、以下、5個の例で説明する。
図2に示すように、各固着装置3a〜3eは、固着部材4と、紐5と、巻取り装置6とを有している。固着部材4は、先端部材7と筒状の後端部材8とを有している。
図3(a)〜(c)に示すように、先端部材7は、コイルバネ7aで付勢されて筒体11の後端開口11aから突出するオルタネイト式の押しボタン12の操作により、筒体11の先端開口11bから永久磁石13を進退可能な構成を有している。これにより、永久磁石13は、鉄骨などの固着対象に固着および離脱可能となっている。後端部材8は、内部に先端部材7の後端側を挿入可能であって後端側を挿入したとき押しボタン12を押付け可能な突出した内底部8aを有している。固着部材4は、飛行本体2にそれぞれ異なる方向に向けて設けられている。
【0018】
図3(a)〜(c)に示すように、固着部材4は、永久磁石13が先端部材7の筒体11の先端開口11bから後退した状態で、先端部材7の押しボタン12を後端部材8の内底部8aに押し付ければ、永久磁石13を筒体11の先端開口11bから突出させて、永久磁石13により鉄骨などの固着対象に吸着することができる。再度、押しボタン12を後端部材8の内底部8aに押し付ければ、永久磁石13を筒体11の先端開口11bから後退させ、固着対象から離脱することができる。
【0019】
紐5は、先端部材7の筒体11の先端部に二股に分かれた先端側が取り付けられ、後端部材8の内部を通って巻取り装置6に後端側が巻取り可能に取り付けられている。紐5は、例えば、細くて軽く、強度が強いポリエチレン製の糸またはピアノ線から成る。紐5は、後端部材8の内部で案内されるため、絡まりにくくなっている。
【0020】
巻取り装置6は、後端部材8の後端および飛行本体2に固定されている。巻取り装置6は、電池駆動の電動アクチュエータ6aにより回転可能なローラ6bを有している。ローラ6bは、周縁部に紐5の後端側が巻取り可能に取り付けられ、周縁部で紐5を巻き取るようになっている。ローラ6bは、リモートコントローラの操作により正逆回転および固定が可能となっている。これにより、巻取り装置6は、紐5を巻取り、繰出しおよび任意の長さで固定可能である。
【0021】
次に、作用について説明する。
飛行装置1は、5個の固着装置3a〜3eの固着部材4により、鉄骨製の梁や壁などの複数の固着対象に吸着し、各固着対象から吊り下がることができる。
図1に示すように、まず、電動クアッドロータの4つの回転翼を回転させ、飛行して固着対象の壁に近づく(
図1(a))。次に、壁に近い固着装置3aの先端部材7を壁に押し付けて後端の押しボタン12を操作し、先端開口11bから突出した永久磁石13を壁に吸着させる。ローラ6bを回転させて紐5を繰り出しながら、飛行装置1を壁から離す方向に移動させ、前述と同様の操作で、反対側の壁に他の固着装置3bの永久磁石13を吸着させる(
図1(b))。
【0022】
残る固着装置3c〜3eの永久磁石13を他の壁に前述と同様の操作で吸着させた後、各固着装置3a〜3eのローラ6bを回転停止させて紐5の長さを固定し、回転翼を停止させる(
図1(c))。5個の固着装置3a〜3eを協調させて各ローラ6bを回転させ、各紐5を繰り出したり巻き取ったりして各紐5の長さを変えれば、電動クアッドロータを停止させた状態でも、5つの固着対象を結ぶ領域内で前後左右上下方向に移動することができる(
図1(d))。
【0023】
飛行装置1は、各固着装置3a〜3eの固着部材4がそれぞれ異なる方向に向けられているため、固着対象に固着するとき、各固着部材4をそれぞれ離れた固着対象に固着させて、観測領域を広く設定することができる。
【0024】
飛行装置1は、複数の固着装置3a〜3eにより固着対象に固着したとき、電動クアッドロータを作動させてもよい。この場合、2本以上の紐5で自重の一部を支えることで、少ない推力でホバリングすることができ、位置・姿勢の制御が容易である。3本以上の紐5で自重の一部を支えた場合、紐5の数と紐5の向き、張り方に応じて制御できる自由度が変わる。紐5で制御できない分の自由度は、少ない推力を発生させることで制御可能である。さらに、7本以上の紐5で支えれば、電動クアッドロータの推力を用いずに風などの外力があっても位置・姿勢を制御可能である。
【0025】
複数の観測対象が各固着対象を結ぶ領域の下方に位置するように固着対象を選択すれば、各観測対象の上方の任意の高さの位置まで移動することができる。これにより、飛行本体2の飛行する動力を止めてエネルギー消費を抑制し、探査時間を延ばすことができる。飛行装置1は、複数の固着装置3a〜3eにより複数の固着対象に吸着して各紐5で吊り下がり、巻取り装置6により各紐5の長さを変えることで移動できるため、飛行やホバリングが困難な強風下でも移動が可能である。固着部材4を固着対象から離脱させれば、容易に回収して、飛行装置1を再利用可能である。
【0026】
固着装置3a〜3eにより固着対象に固着した後、観測対象を観察するだけでなく、軽量な物体やケーブル類を、運搬することもできる。特に、人間では容易に届かない場所に、繰り返し、物を運搬することが可能になる。
【0027】
なお、固着部材4が永久磁石13を用いる例で説明したが、固着部材4は電磁石、吸盤、粘着パッド、接着剤、静電吸着部材、爪部材、その他、固着対象に対して固着および離脱可能な他の手段を用いてもよく、それらの手段を2以上用いてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 飛行装置
2 飛行本体
3a〜3e 固着装置
4固着部材
5 紐
6 巻取り装置
7 先端部材
8 後端部材
11 筒体
12 押しボタン
13 永久磁石