(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器の高周波数化、大電流化が進む中で、磁性素子にも同様の対応が求められているが、現在磁性体として主流のフェライト材料では材料特性そのものが限界にきており、新たな磁性体材料が模索されている。例えば、フェライト材料は、センダストやアモルファスなどの圧縮成形磁性材料やアモルファス箔帯等に置き換えられつつある。しかし、上記圧縮成形磁性材料は成形性が悪く、焼成後の機械的強度も低い。また、上記アモルファス箔帯は巻線・切断・ギャップ形成から製造コストが高くなる。このため、これら磁性材料の実用化が遅れている。
【0003】
成形性の悪い磁性粉末を使用してバリエーションのある形状や特性を有する小型で安価な磁性コア部品の製造方法を提供することを目的として、本出願人は、射出成形に用いる樹脂組成物に含まれる磁性粉末を絶縁材で被覆し、圧縮成形磁性体および圧粉磁石成形体のいずれかを上記樹脂組成物中にインサート成形し、圧縮成形磁性体あるいは圧粉磁石成形体が射出成形温度よりも低い融点を持つ結着剤を含有する、所定の磁気特性を有するコア部品を射出成形により製造する方法について特許を得ている(特許文献1)。
【0004】
また、成形性の悪い磁性粉末を使用して任意の形状とすることができ、直流重畳電流特性に優れた磁気特性を有する複合磁性コアおよびこの複合磁性コアの周囲にコイルを巻回した磁性素子の提供を目的として、本出願人は、磁性粉末を圧縮成形して得られる圧縮成形磁性体と、粉末表面が電気絶縁された磁性粉末に結着樹脂を配合して射出成形して得られる射出成形磁性体とを相互に結合させた結合体からなり、この結合体が射出成形磁性体をハウジングとし、このハウジングの内部に圧縮成形磁性体を配置した複合磁性コアについて出願している(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、磁性素子は、コイルに流れる電流値に比例して大きくなるため、大電流用の磁性素子はこれまで問題となっていた銅損による発熱に加え、鉄損による発熱も無視できない問題となる。
磁性素子を構成する磁性体として、特許文献1または2記載の磁性体を用いた場合、以下の問題が生じた。
(1)射出成形磁性体は、圧縮成形磁性体に比べて形状や大きさの点で自由度が高いため、大型化する磁性体に対応可能である。しかしながら、樹脂を含むため熱伝導度や比熱の点で圧縮成形磁性体に劣り、例えばポット形やERコアなどは放熱面から遠くコイル内径側の射出成形磁性体は高温になりやすい。
(2)圧縮成形磁性体は、射出成形磁性体よりも発熱および放熱の面で有利だが、製造において射出成形磁性体のように複雑な形状が難しく、また、大きさに比例して設備が大型になり製造コストが増加する。このため、大電流で使用する磁性体は大型になるため圧縮成形磁性体を一体で安価に成形することができない。分割して作製する場合、金型の種類が多くなり製造コストが増加する。
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、鉄損による発熱を抑えるとともに生産性に優れた磁性素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の磁性素子は、コイルと、このコイルによって生じる磁束を通す磁性体とを備え、磁性体は、鉄損による発熱が大なる箇所または放熱性の悪い箇所を圧縮成形磁性体とし、この圧縮成形磁性体以外の箇所、例えば大型または複雑な形状となる箇所を射出成形磁性体とし、上記圧縮成形磁性体と上記射出成形磁性体とが結合されていることを特徴とする。
また、上記コイルが磁性体内部に配置されており、この圧縮成形磁性体が上記コイル内径側に、上記射出成形磁性体が上記コイル外径側にそれぞれ配置され、上記圧縮成形磁性体が磁性体表面に露出していることを特徴とする。特に、少なくとも上記射出成形磁性体は、コイルの軸方向に2分割された磁性体を相互に結合させた結合体であることを特徴とする。
また、上記圧縮成形磁性体が磁性体内部で空隙部を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁性素子は、鉄損による発熱が大なる箇所または放熱性の悪い箇所を圧縮成形磁性体とすることにより、磁性素子の発熱を抑制することができ、磁性体およびコイル絶縁被膜を保護できる。
また、成形性の悪い圧縮成形磁性体であっても射出成形磁性体と組み合わせることにより、任意の形状および優れた磁気特性を有する複合磁性体が得られ、インサート成形により製造する場合に比較して、製造設備費の低減、生産性の向上、製造コストの低減および形状自由度の向上が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電気・電子機器の高周波数化、大電流化において、現在主流の圧縮成形法で得られるフェライト材料を用いた磁性素子は透磁率が優れており、インダクタンス値を得やすいが周波数特性や重畳電流特性に劣る。一方、アモルファス材料を含有する射出成形磁性材料を用いた磁性素子は、周波数特性や重畳電流特性に優れているが、透磁率が低い。また、大電流用の磁性素子は銅損による発熱に加えて、鉄損による発熱を無視できない。そこで、発熱しやすい個所または放熱が難しい個所を熱伝導性に優れた圧縮成形磁性体とし、その他の大型または複雑な形状の磁性体を射出成形磁性材料で成形して結合することにより、発熱を抑制し放熱性に優れた磁性素子が得られた。
【0012】
本発明の磁性素子は、コイルが磁性体内部に配置されているポット形の磁性素子に好適である。一般にポット形の磁性素子は、(1)コイルを覆うように磁路を設けるため漏れ磁束を小さくできる、(2)コイル内径側磁性体の半径に比べてコイル外径側磁性体の肉厚が薄くなるため、磁性体の形状を小さくできる等の利点がある。しかし、ポット形の磁性素子は、コイル内径側は構造上磁性体およびコイルにおいて発生した熱を外気へ放熱し難いとの問題がある。そこで、コイル内径側磁性体を圧縮成形磁性体で成形し、この圧縮成形磁性体が磁性体表面に露出するように磁性体を配置する。さらに、この圧縮成形磁性体を基板またはハウジング等の冷却面に当接させることにより、放熱が難しいコイル内径側の熱伝導を促進できた。
【0013】
本発明で使用できる圧縮成形磁性体は、例えば、鉄粉、窒化鉄粉等の純鉄系軟磁性材料、Fe−Si−Al合金(センダスト)粉末、スーパーセンダスト粉末、Ni−Fe合金(パーマロイ)粉末、Co−Fe合金粉末、Fe−Si−B系合金粉末等の鉄基合金系軟磁性材料、フェライト系磁性材料、アモルファス系磁性材料、微細結晶材料などの磁性材料を原料とできる。
フェライト系磁性材料としては、マンガン亜鉛フェライト、ニッケル亜鉛フェライト、銅亜鉛フェライト、磁鉄鉱等のスピネル型結晶構造を有するスピネルフェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の六方晶フェライト、イットリウム鉄ガーネットなどのガーネットフェライトが挙げられる。これらフェライト系磁性材料の中でも透磁率が高く、高周波数領域での渦電流損失が小さい軟磁性フェライトであるスピネルフェライトが好ましい。
アモルファス系磁性材料としては、鉄合金系、コバルト合金系、ニッケル合金系、これらの混合合金系アモルファスなどが挙げられる。
【0014】
原料となる軟磁性金属粉末材料の粒子表面に絶縁被覆を形成する酸化物としては、Al
2O
3、Y
2O
3、MgO、ZrO
2等の絶縁性金属または半金属の酸化物、ガラス、これらの混合物が挙げられる。
絶縁被覆の形成方法としては、メカノフュージョン等の粉末コーティング法や、無電解メッキやゾル−ゲル法等の湿式薄膜作製法、またはスパッタリング等の乾式薄膜作製法等を用いることができる。
【0015】
圧縮成形磁性体は、粒子表面に絶縁被覆が形成された上記原料粉末単体、または上記原料粉末にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が配合された粉末を加圧成形して圧粉体とし、この圧粉体を焼成して製造できる。
原料粉末の平均粒子径は1〜150μmであることが好ましい。より好ましくは5〜100μmである。平均粒子径が1μmよりも小さくなると、加圧成形時の圧縮性(粉末の固まり易さを示す尺度)が低下し、焼成後の材料強度が著しく低下する。平均粒子径が150μmよりも大きくなると、高周波数領域での鉄損が大きくなり、磁気特性(周波数特性)が低下する。
また、原料粉末の割合は、原料粉末と熱硬化性樹脂との合計量を100質量%として、96〜100質量%であることが好ましい。96質量%未満であると、原料粉末の配合割合が低下し、磁束密度や透磁率が低下する。
圧縮成形は、上記原料粉末を金型内に充填し、所定の加圧力でプレス成形する方法を用いることができる。この圧粉体を焼成して焼成体を得る。なお、原料に非晶質合金粉末を用いる場合には、焼成温度を非晶質合金の結晶化開始温度より低温とする必要がある。また、熱硬化性樹脂が配合された粉末を用いる場合には、焼成温度を樹脂の硬化温度範囲とする必要がある。
【0016】
本発明で使用できる射出成形磁性体は、上記圧縮成形磁性体の原料粉末に結着樹脂を配合して、この混合物を射出成形することにより得られる。
射出成形がし易いこと、射出成形後の形状維持が容易であること、複合磁性体の磁気特性に優れること等から、磁性粉末がアモルファス金属粉末であることが好ましい。
アモルファス金属粉末は上述した鉄合金系、コバルト合金系、ニッケル合金系、これらの混合合金系アモルファスなどを使用できる。これらアモルファス金属粉末表面に上述した絶縁被覆が形成されている。
【0017】
結着樹脂としては、射出成形が可能な熱可塑性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフタールアミド、ポリアミド、これらの混合物が挙げられる。これらの中で、アモルファス金属粉末に混合したときの射出成形時の流動性に優れ、射出成形後の成形体の表面を樹脂層で覆うことができると共に、耐熱性などに優れるポリフェニレンサルファイド(PPS)がより好ましい。
原料粉末の割合は、原料粉末と熱可塑性樹脂との合計量を100質量%として、80〜95質量%であることが好ましい。80質量%未満であると磁気特性が得られず、95質量%をこえると射出成形性に劣る。
射出成形は、例えば可動型および固定型が衝合された金型内に上記原料粉末を射出して成形する方法を用いることができる。射出成形条件としては熱可塑性樹脂の種類によっても異なるが、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)の場合、樹脂温度が290〜350℃、金型温度が100〜150℃であることが好ましい。
【0018】
圧縮成形磁性体および射出成形磁性体は、上述した方法によりそれぞれ別々に作製して相互に結合される。それぞれの形状は、磁性体を分割して組み立て易い形状であると共に、圧縮成形、射出成形に適した形状とする。例えば、中心軸孔がない円筒磁性体を作製する場合には、コイル内径側となる円柱形状を圧縮成形による圧縮成形磁性体とし、コイル外径側を射出成形による射出成形磁性体として作製する。その後、射出成形磁性体の中心部に設けられた孔部に円柱形状の圧縮成形磁性体を圧入することで円筒磁性体が得られる。また、圧縮成形磁性体を金型内に配置し、射出成形磁性体をインサート成形することにより、円筒磁性体を製造できる。
【0019】
また、相互に結合される磁性体のうち少なくとも射出成形磁性体は、コイルが挿入される軸方向に2分割された磁性体であることが好ましい。2分割の方法は、コイルを挿入できる2分割であればよく、軸方向に等分割であることが好ましい。等分割とすることにより金型点数を減らすことができる。接着剤を用いる場合、相互に密着できる無溶剤型のエポキシ系接着剤が好ましい。
【0020】
圧縮成形磁性体および射出成形磁性体の好ましい材料の組み合わせとしては、圧縮成形磁性体がアモルファスであり、射出成形磁性体がアモルファス金属粉末および熱可塑性樹脂であることが好ましい。より好ましくは、アモルファス金属がFe−Si−Cr系アモルファスであり、熱可塑性樹脂がポリフェニレンサルファイド(PPS)である。
【0021】
本発明の磁性素子は、上記圧縮成形磁性体の周囲に巻線を巻回して、コイルを形成し、インダクタ機能を有する。この磁性素子は電気・電子機器回路に組み込まれる。
巻線としては銅エナメル線を使用することができ、その種類としてはウレタン線(UEW)、ホルマール線(PVF)、ポリエステル線(PEW)、ポリエステルイミド線(EIW)、ポリアミドイミド線(AIW)、ポリイミド線(PIW)、これらを組み合わせた二重被複線、または自己融着線、リッツ線等を使用できる。耐熱性に優れるポリアミドイミド線(AIW)、ポリイミド線(PIW)等が好ましい。銅エナメル線の断面形状としては丸線や角線を使用できる。特に、平角線の断面形状の短径側を圧縮成形磁性体の周囲に接して重ね巻きすることにより、巻線密度を向上させたコイルが得られる。また、コイルの巻き方としてはヘリカル巻を好ましく採用できる。
【0022】
本発明の磁性素子の一例を
図1〜
図4に示す。
図1(a)はポット形磁性素子の平面図であり、
図1(b)はA−A断面図である。ポット形磁性素子1は、圧縮成形磁性体2と射出成形磁性体3との結合体内部にコイル4が内蔵されている。コイル4の端末は図示を省略している。圧縮成形磁性体2と射出成形磁性体3との結合体は軸方向長さの中間線5で2分割形状とされている。
圧縮成形磁性体2はコイル4の内径側となるように、射出成形磁性体3と結合されている。また、圧縮成形磁性体2の端面2aはポット形磁性素子1の表面に露出している。この露出している端面2aは基板などの冷却面に当接させる。これにより放熱が難しいコイル内径側の熱伝導を促進できる。
【0023】
図2(a)は、
図1に示す磁性素子の発熱を抑制し放熱性をさらに向上させたポット形磁性素子の平面図であり、
図2(b)はA−A断面図である。
冷却面に当接する端面2aから遠い圧縮成形磁性体2の上端面2a’の周囲に圧縮成形磁性体2bを設けることによりコイル4を積極的に冷却させることができる。
【0024】
図3(a)は、
図2に示す磁性素子の発熱を抑制し放熱性をさらに向上させたポット形磁性素子の平面図であり、
図3(b)はA−A断面図である。
冷却面に当接する圧縮成形磁性体の端面2aの周囲に圧縮成形磁性体2bを設けることにより、冷却面に当接する接触面積を増やすことで、コイル4を積極的に冷却させることができる。また、上下の射出成形磁性体の形状が同じになるため、金型点数を減らしコスト削減を図れる。
【0025】
図4(a)は、
図1に示す磁性素子において、磁気特性を調整できるポット形磁性素子の平面図であり、
図4(b)はA−A断面図である。
ポット形磁性素子1は、圧縮成形磁性体2と射出成形磁性体3との結合体内部にコイル4が内蔵されている。コイル4の端末は図示を省略している。圧縮成形磁性体2と射出成形磁性体3との結合体は軸方向長さの中間線5で2分割形状とされているが、圧縮成形磁性体2の軸方向長さは射出成形磁性体3の軸方向長さよりも短く成形されており、圧縮成形磁性体2の端面2aと射出成形磁性体3との端面3aとが同一平面の端面となるため、圧縮成形磁性体2は磁性体内部で空隙部6を有することになる。この空隙部6の長さtを調節することにより飽和磁束密度などの特性を制御できる。
【0026】
比較例の磁性素子の一例を
図5に示す。
図5は射出成形磁性体3内にコイル4を配置した例である。射出成形磁性体3は軸方向長さの中間線5で2分割され、コイル4を内蔵した後、中間線5で結合することにより、ポット形磁性素子が得られる。
【0027】
一例として、磁性素子の発熱状況を有限要素法による電磁界解析と熱解析の連成解析により解析した結果を示す。供試試料は、磁性素子の形状およびコイルの種類、巻数を同一とした。用いた磁性素子の円柱高さは30mmであり、円柱径は45mmである。結果を周方向に切断した斜視図として
図6〜
図8に示す。
図6は
図1に示した磁性素子の例であり、
図7は
図3に示した磁性素子の例であり、
図8は比較例として示した
図5に示す磁性素子の例であり、それぞれコイル部分は図示を省略してある。図面下方は冷却部に当接している。
図6〜
図8において、各部分の温度は多色で表示されるがグレースケールのため、楕円領域および周辺の温度を数字で記入してある。
コイル内径側を熱伝導性に優れた圧縮成形磁性体として、その他を射出成形磁性体とする
図6および
図7に示すポット形磁性素子は、射出成形磁性体のみで作製される
図8に示すポット形磁性素子に比較して、コイル周辺の温度を大きく下げることができる。
【0028】
本発明の磁性素子は、二輪車を含む自動車や産業用機器および医療用機器の電源回路、フィルタ回路やスイッチング回路等に使用される磁性素子、例えばインダクタ、トランス、アンテナ、チョークコイル、フィルタなどとして使用できる。また、表面実装用部品として使用できる。