(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
給水器材の接液面積と、この給水器材を成す黄銅合金のアンチモン含有量との相関関係から、当該給水器材から水道水中に浸出するアンチモンによる水質許容限界値を示すアンチモン限界特性をその給水器材に要求される固有の特性として求め、前記接液面積とアンチモン含有量との少なくとも一方を抑制して、前記給水器材から水道水に浸出するアンチモンを水質許容限界値以下に抑えるようにしたことを特徴とする水栓金具又はバルブにおける銅合金製給水器材の製造方法。
前記給水器材の接液面積とアンチモン含有量との双方を水質許容限界値を設定するための要素とし、これら接液面積とアンチモン含有量との関係を二次曲線特性となる相関関係とし、当該給水器材に要求される固有の水質許容限界値に応じて前記接液面積と前記アンチモン含有量との積の値を設定するようにした請求項1に記載の水栓金具又はバルブにおける銅合金製給水器材の製造方法。
前記給水器材の接液面積とアンチモン含有量との相関関係により当該給水器材に固有の接液面積に対応するアンチモン含有量を求め、このアンチモン含有量で水質許容限界値以下に抑制するアンチモン浸出低減処理を施すようにした請求項2に記載の水栓金具又はバルブにおける銅合金製給水器材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明における
水栓金具又はバルブとそれらの接液部品における銅合金製給水器材の製造方法と銅合金給水器材の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
ここで、給水装置とは、バルブ等の給水用具と、水栓等の末端給水用具とを含み、これらを以下、給水器材と称するものとする。
本発明の銅合金製給水器材の製造方法は、給水器材から水道水に浸出するアンチモン(Sb)を水質許容限界値以下の浸出量に抑えつつ、耐脱亜鉛性や耐応力腐食割れ(耐SCC)性を向上させるようにしたものである。
【0025】
先ず、Sbの浸出量を抑制するにあたって、Sbが含有された給水器材をサンプルとして浸出試験を実施し、この試験結果からSbが水道水中に溶解するときの浸出量に影響を与える因子(要素)を調べた。
【0026】
黄銅合金のサンプルとして、Cu:61.6%、Sn:1.5%、Pb:0.2%、Al:0.6%、Ni:0.2%、Zn:残部の黄銅素材を用い、これに異なるSb含有量とした直径10mm、長さ45mmの円柱を製作し、これらをJIS S3200−7(コンディショニング無し浸出試験23℃による)に基づく水道水100mL中に浸漬させ、各黄銅合金におけるSb含有量とSb浸出量の関係を導いた。浸出試験における各Sb含有量を含有した黄銅に対するSb浸出量を示した結果を表1に示す。表1の結果より、Sb浸出量は、銅合金中のSb含有量にほぼ比例して増加するといえる。
【0028】
続いて、JIS S3200−7において、常温の23℃と95℃とにおける異なるSb含有量の銅合金中に対するSb浸出量を測定した。この浸出試験の結果を表2に示す。表2の結果より、95℃におけるSb浸出量は、23℃におけるSb浸出量の約1.6倍に増加している。このことから、Sb浸出量は、温度の上昇にほぼ比例して増加するといえる。
【0030】
上記のことから、Sb浸出量を所定の水質許容限界値にコントロールするためには、温度一定の状態でSb含有量をコントロールするか、或はSb含有量が一定の状態で温度をコントロールすればよいことになるが、実際にはSb浸出量を減らすために水道水の温度をコントロールすることはないため、本件発明では、給水器材を成す黄銅合金を表面処理することでSb浸出量を制御するものとする。
【0031】
これにより、このSb浸出量と比例関係にあるSb含有量について、給水器材において許容可能なSb浸出量の限界を一定値に定めたときの接液面積との関係とを求め、これらSb含有量と接液面積との相関関係から、給水器材から水道水中に浸出するSbによる水質許容限界値を示すSb限界特性をその給水器材に要求される固有の特性として求める。
【0032】
この場合、Sb浸出値の具体的な限界値となるSbの水質基準の値は定められておらず、給水装置浸出性能基準(水栓等の末端給水用具、及びバルブ等の給水用具)の値は未定である。このため、Sbの浸出基準を厚生労働省の水質管理目標設定項目の目標値である0.015mg/Lに準じるものとした。この値を一般的なバルブや水栓金具の接液面積値を用いたときには、以下の関係が得られる。
【0033】
バルブ・水道メータ等の給水用具(給水器材)の場合、Sbの水質管理目標設定項目:0.015mg/Lとして給水装置浸出性能基準(バルブ等の給水用具):0.015mg/Lとした場合、バルブ等の給水用具に適用する場合、この給水用具の補正計算として、分析で得られる実測値×4%補正が0.015mg/L以下と定められている。これにより、バルブ等の給水用具では、分析で得られるSb浸出値の実測値は、0.015÷0.04=0.375mg/Lが水質許容限界値となる。
【0034】
この仮定をもとに限界となるSb浸出量を0.375mg/Lに設定し、接液面積と銅合金中のSb含有量の関係を導くと、JIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験23℃の場合には、
図2のグラフの関係となり、JIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験95℃の場合には、
図3のグラフの結果となる。
図2、
図3のグラフ中の斜線の部分は、Sb浸出量の限界を超える領域となるため、この斜線部分に関して、Sb浸出低減処理を施す必要がある。
【0035】
さらに、バルブのような給水器材の容量を変えた場合のSb含有量と接液面積との関係を導く。
Sb浸出量をバルブ等の給水用具の水質管理目標設定項目:0.015mg/Lの値に準じた場合、水栓等の末端給水用具は通例として1/10の0.0015mg/Lとなる。さらに、水栓等の末端給水用具の補正計算として、分析で得られる実測値×1L/内容量により補正するものとする。
これにより、分析によって得られた実測値は、
容量50mL品の場合:0.0015×1000/50=0.03mg/L
容量75mL品の場合:0.0015×1000/75=0.02mg/L
容量100mL品の場合:0.0015×1000/100=0.015mg/L
容量150mL品の場合:0.0015×1000/150=0.01mg/L
容量200mLの場合:0.0015×1000/200=0.0075mg/L
となり、この仮定のもとに接液面積と銅合金中のSb含有量の関係を導くと、JIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験23℃の場合には
図4のグラフの結果となり、JIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験95℃の場合には
図5のグラフの結果となる。これらのグラフについても、斜線部分はSb浸出低減処理を施す必要がある領域となる。
【0036】
前記の各グラフに示されるとおり、給水器材の接液面積とSb含有量とを、水質許容限界値を設定するための要素としたときに、これら接液面積とSb含有値との関係は、
接液面積とアンチモン含有量との積が略一定となる相関関係ではなく、二次曲線的な関係(二次曲線特性)になる。この関係は、給水器材の容量が異なる場合に、当該給水器材に要求される固有の水質許容限界値に応じて設定される。
【0037】
給水器材から水道水に浸出するSbを水質許容限界値以下に抑えるためには、上記の各グラフの相関関係に基づいて、接液面積とSb含有量との少なくとも一方を抑制すればよい。この場合、接液面積を抑制するためには、例えば、Sbを含有する銅合金の接液面積に占める割合を減じる設計をおこなうなどの給水器材で用いる黄銅部品の調整や、或は各部品の形状変更などにより実施し、一方、Sb含有量を抑制するためには、後述するSb浸出低減処理を施すようにすればよい。
【0038】
図1においては、本発明の製造方法で製作される銅合金製給水器材の一例である水栓金具1を示しており、この水栓金具1について、Sbを含有する銅合金の接液面積に占める割合を減じる設計を施す場合を説明する。この水栓金具1は複数の部品から構成され、図中に示される(1)〜(13)までは、水栓金具1を構成する各部品に対応している。なお、銅合金製給水器材として、図に示した水栓金具1以外の各種の水栓金具・バルブとその接液部品を用いた場合にも同様にしてSbを減じることができる。
【0039】
表3においては、
図1の水栓金具1について、丸付き数字の各部品の実測値による接液面積及びその説明を示している。
【0041】
この水栓金具1において、仮に、容積が100mLであり、全ての部品の材質がSb含有黄銅である場合、接液面積は、399.74cm
2×1L/100mL=3997.474cm
2/Lとなり、この場合、
図4、
図5のグラフからSbの浸出低減処理が必要になる。
【0042】
この水栓金具1において、仮に容積が100mLであり、接液面積の大きい部品である(1)のみを、Sbを含有しないステンレスや純銅、あるいは樹脂などの別材質に替えることにより、Sbを含有する黄銅が占める接液面積比を288.06cm
2/Lに減じることができる。この場合、例えば、
図4のグラフから、Sb浸出低減処理を施さず、Sb含有を0.2wt%未満にコントロールされたSb含有銅合金を採用する、あるいはSb含有0.2wt%以上のSb含有銅合金を採用しつつSb浸出低減処理も施す2通りの選択が可能である。
【0043】
また、この水栓金具1において、仮に容積が100mLであり、接液面積の大きい部品である(1)及び(5)を、Sbを含有しないステンレスや純銅、あるいは樹脂などの別材質に替えることにより、Sbを含有する黄銅が占める接液面積比を170.32cm
2/Lに減じることができる。この場合、例えば、
図4のグラフから、Sb浸出低減処理を施さず、Sb含有を0.4wt%未満にコントロールされたSb含有銅合金を採用する、あるいはSb含有0.4wt%以上のSb含有銅合金を採用しつつSb浸出低減処理も施す2通りの選択が可能である。
【0044】
一方、この水栓金具1で接液面積の割合が大きい部品である(1)〜(6)までの部品を、Sbを含有しないステンレスや純銅、或は樹脂などの別材料に替えることにより、その接液面積を大きく減ずることが可能になる。例えば、表3において、Sb含有黄銅の接液面積を最大8.22cm
2/Lまで減じた場合には、Sb含有銅合金の接液面積が8.22cm
2×1L/100mLとなり、
図3、
図4のグラフから浸出低減処理を施す必要がなくなる。
【0045】
このように、Sbを含有する銅合金の接液面積に占める割合を減じる設計で水栓金具を製造することもできる。しかし、代わりとなるステンレスは非常に強靭な素材ゆえ加工しにくくコストアップになり、一方、純銅はやわらかく強度不足に陥りやすく、樹脂の場合にはフェノールなど規制有機物質の増大につながるなど、別材質に替える際には新たな課題が生じることになる。
【0046】
このことから、Sbを含有する銅合金の接液面積に占める割合を減じる設計を施す場合
は、これに加えてSbの含有量を抑えるための浸出低減処理をおこなって給水器材から水道水に浸出するSbを水質許容限界値以下に抑えるようにするとよく、これらの接液面積とSb含有量とをバランスをとりながら抑制してSbの浸出量を抑えた給水器材を設けるようにすれば、市場にも受け入れられやすくなる。
この場合、
図4、
図5のグラフに示した給水器材の接液面積とSb含有量との相関関係により、当該給水器材に固有の接液面積に対応するSb含有量を求め、このSb含有量において水質許容限界値以下に抑制するSb浸出低減処理を施すようにする。
【0047】
続いて、Sbの含有量を抑制するための処理を説明する。
ここで、SbはCuよりは卑な金属で、濃硫酸、濃硝酸に溶けるともいわれているが、実際には濃硫酸、濃硝酸に溶けることはなく、本来、Cuならば溶解する条件である、酸化性の酸成分であるH
2O
2を加えた濃硫酸+H
2O
2、及び酸化性の酸である硝酸中でも溶解できない。
【0048】
表4においては、金属Sb粒を用いた薬液溶解試験の結果を示している。この薬液溶解試験では、金属Sb粒を薬液中に5分浸漬させることにより薬液溶解試験を実施した。表4の結果より、金属Sb粒の重量に全く変化は見られず、このことから、Sbは各薬液に溶解しないといえる。
【0050】
一方、耐脱亜鉛黄銅材料中に含まれるSbは単体で存在することはなく、主にSnを多く含むγ相に固溶、又は金属間化合物として多く存在しているため、上記のSb単体の場合とは状況が異なる。
【0051】
そこで、先ず、耐脱亜鉛黄銅材料中のSbを各種の酸で溶かし出すことを検討した。その際、使用する酸として、濃硝酸60%、薄硝酸4.8%、薄硝酸2.4%、濃硫酸95%、薄硫酸23%、薄硫酸23%+H
2O
2を用いた。
【0052】
このときの金属の溶解に際しての金属のイオン化傾向を検討する。Sbは、水素のE
0=0Vに対しE
0=0.1504Vのため非酸化性の酸には溶解しないが、Sbは単体で存在しているのではなく、主にSnを多く含むγ相に固溶、又は金属間化合物として多く存在しているために上述のSb単体とは状況が異なっている。ただし、Sbを多く含むγ相は、Cu47.8%〜52.7%、Zn37.8%〜43.3%、Sn6.2%〜10.0%など、Sbよりも貴な金属に固溶、又は金属間化合物として存在しているため、塩酸のような非酸化性の酸では対応できないものと思われる。そのため、酸化性の酸である硝酸と、非酸化性の酸であるが硫酸を条件に加えると共に、この硫酸に酸化性の酸として作用するH
2O
2を加えるものとした。
【0053】
金属が薬液に溶解する場合に際しては、一般的には薬液濃度が高まれば金属は素早く溶解するが、高濃度薬液と低濃度薬液では異なる挙動を示す場合もある。例えば、濃酸では厚い酸化皮膜を形成しそれ以上溶解が進まないが、薄酸であれば連続的に反応が進み溶解に至る場合が示される。そこで、硫酸、硝酸濃度として、高濃度と低濃度に別けて考えるものとし、それぞれの酸を用いて耐脱亜鉛黄銅材料中のSbを処理した。
【0054】
耐脱亜鉛黄銅材料中のSbを各種の酸で溶かし出す状況について、肉眼観察、金属顕微鏡観察、並びにEPMA観察した結果を示す。
図6、
図7においては、未処理の黄銅材料の観察結果を示している。
図6の金属顕微鏡(倍率500倍)の写真において、矢印に示した部分はそれぞれβ相、γ相を示している。一方、
図7のEPMA観察の写真は、金属顕微鏡で観察した部分と同じ位置を示しており、図に示した部分は、それぞれCu、Zn、Sn、Sb、Pbを示している。これらを比較すると、SnとSbとのマッピングに相関関係があり、γ相に多く分布していることが確認された。なお、以降のEPMA観察においても、上記の場合と同様に肉眼観察、金属顕微鏡写真でのそれぞれの観察部分に該当する位置を示し、このEPMA観察写真中にCu、Zn、Sn、Sb、Pbをそれぞれ示すものとする。
【0055】
図8において、濃硝酸60%で処理した場合、肉眼観察した結果、処理面と未処理面とで約1mmの段差が発生するほど激しくエッチングされていることが確認された。金属顕微鏡(倍率50倍)において、このエッチングの状態をより詳細に確認できる。但し、
図7の未処理のEPMA観察と
図9の濃硝酸60%での処理のEPMA観察とを比較した場合、濃硝酸による処理後には、激しくエッチングされている割にはSnとSbのマッピングが濃くなる結果となった。これは、Pb、α相、β相のエッチングが激しくなり、γ相の残存が多くなった結果である。
【0056】
図10において、薄硝酸4.8%で処理した場合、金属顕微鏡観察(倍率500倍)によると主にβ相を侵食しているようではあるが、
図11に示したEPMA観察の結果と合わせて検討すると、Pbは選択的に除去されているが、その他の成分については、Znがやや浸食されているといえる結果となった。
【0057】
図12において、薄硝酸2.4%で処理した場合、金属顕微鏡観察(倍率500倍)、EPMA観察ともにα相、β相、γ相に未処理との違いはみられない。但し、
図13のEPMA観察によると、鉛が選択的に除去されていることが確認された。
【0058】
図14において、濃硫酸95%で処理した場合、肉眼観察によると激しく変色していることが確認され、さらに、金属顕微鏡観察(倍率500倍)では主にβ相が浸食されている結果となった。
図15のEPMA観察と合わせてみると、β相のZnを侵食していると思われる。このように、濃硫酸の処理であるにも関わらず、非酸化性の酸であることから銅リッチな相への影響はない。なお、
図7の未処理時のEPMA観察と
図14の濃硫酸95%での処理時のEPMAとを比較した場合、硝酸の場合とは異なって鉛も除去することは難しいことが確認された。
【0059】
図16において、薄硫酸23%で処理した場合、肉眼観察と金属顕微鏡観察(倍率500倍)では未処理との違いは見られない。
図17に示したEPMA観察と合わせてみると、Znをやや浸食しているものと思われる。一方、鉛については、
図14、
図15の濃硫酸95%での処理の場合と同様に除去されていないことが確認された。
【0060】
図18において、薄硫酸23%+H
2O
2で処理した場合、酸化性の酸であるH
2O
2が加わることで、薄硫酸23%での処理と状況が一変した。肉眼観察と金属顕微鏡観察(倍率500倍)より、約0.2mmのエッチングが観察された。なお、
図19において、薄硫酸23%+H
2O
2での処理のEPMA観察と、同じく表層を激しくエッチングした
図9の濃硝酸60%での処理のEPMA観察を比較してみると、薄硫酸23%+H
2O
2での処理では、α相、β相、γ相がほぼ等しくエッチングされていることが確認された。なお、鉛については、
図7の未処理のEPMA観察と
図19の薄硫酸23%+H
2O
2での処理のEPMA観察との比較より、鉛の残存が多くなったことが確認された。
【0061】
以上のように、
図6〜
図19までの肉眼観察と顕微鏡観察、及びEPMA観察の結果を比較検討した結果より、耐脱亜鉛黄銅材料中のSbを酸にて溶かし出すことは難しいと判断される。
【0062】
次に、耐脱亜鉛黄銅材料中のSbを被覆方法にて浸出低減させることを検討した。その際のサンプルとして、Cu:61.5%、Sn:1.5%、Pb:0.2%、Al0.6%、Sb:0.09%、Zn:残部の黄銅素材であり、外径24mm、内径15mmで長さ4mmの穴の開いた円柱を製作し、これに表5に示す表面処理を実施し、JIS S3200−7に基づく水道水100mL中に浸漬させて23℃によるコンディショニング無し浸出試験でのSb浸出量を測定した。このとき、67%濃硝酸4wt%、36%濃塩酸0.4wt%からなる混酸を用い、皮膜を形成するベンゾトリアゾール0.5mass%、オレイン酸0.8mass%を含んだ皮膜形成剤を原液とし、任意で希釈して皮膜形成処理を施すものとした。この試験結果を表5に示す。
【0064】
表5の結果より、十分なSb浸出量は得られなかった。その理由としては、この酸処理における混酸が67%濃硝酸4wt%、36%濃塩酸0.4wt%では、マトリックスに全く影響を与えることがなく、金属表面が活性化されずに皮膜が結合できないためと考えられる。
【0065】
そこで、Sbを多く含むγ相も含め黄銅が等しくエッチングできる薄硫酸+H
2O
2処理後に、皮膜を形成するベンゾトリアゾール0.5mass%、オレイン酸0.8mass%を含んだ皮膜形成剤を原液とし、任意で希釈し皮膜形成処理をおこなった。このときのサンプルは、Cu:61.5%、Sn:1.5%、Pb:0.2%、Al0.6%、Sb:0.09、Zn:残部の黄銅素材で、直径20mm、内径15mmで長さ10mmの円柱を製作し、表7に示した表面処理を実施し、JIS S3200−7に基づく水道水100mL中に浸漬させてSb浸出量を測定した。このときの温度をJIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験時の温度とし、皮膜を形成するベンゾトリアゾール0.5mass%、オレイン酸0.8mass%を含んだ皮膜形成剤を原液とし、任意で希釈し皮膜形成処理を施した。各サンプルにおける未処理時の浸出量を表6、試験結果を表7に示す。
【0068】
表6、表7の結果より、この処理によりSb浸出低減効果が得られたといえる。さらに、10倍希釈の皮膜形成処理でも効果が確認された。
【0069】
この結果より、Sb含有量の抑制により給水器材から水道水に浸出するSbを水質許容限界値以下に抑える場合には、Sb浸出低減処理として、Sbを固溶するγ相を含む給水器材の黄銅表面を薄硫酸+過酸化水素でエッチング処理して活性化し、このエッチング処理後の黄銅表面に皮膜形成することで効果的にSbの浸出を低減できる。
【0070】
この場合、上記のように、薄硫酸+H
2O
2の処理によるとSbを多く含むγ相も含め黄銅が等しくエッチングできるが、表8に示すように、銅合金中の鉛を選択的に除去することはできない。
【0072】
そして、配管器材の浸出性能は、前記のSbのみならず、銅合金を構成するCu、Zn、Pb、さらにはめっき工程で付加されるNiの水質基準、又は水質管理目標設定項目を同時に満足する必要がある。
そのため、銅合金としてこれらの基準を満足するために、皮膜形成する際に、給水器材の黄銅表面に前処理として硝酸+塩酸の混酸処理を施して鉛を除去することが望ましい。
【0073】
この混酸処理としては、硝酸と、インヒビターとして塩酸を添加した洗浄液によって、鉛を含有する銅合金製給水器材の少なくとも接液部を洗浄して、塩酸で接液部表面に皮膜を形成した状態とすることで接液部表面層を脱鉛化するものである。
【0074】
その際、Sbに加えてCu、Zn、Pb、さらにはめっき工程で付加されるNiも同時に浸出低減を図るためには、硝酸と塩酸とによる混酸処理工程、皮膜形成処理工程と、薄硫酸+過酸化水素によるエッチング処理工程とをおこなう際の順序が重要となる。
【0075】
すなわち、
図20に示した銅合金の表面状態において、
図20(a)では銅合金10の鉛Pbは、銅や亜鉛中に固溶することなく単体で偏析して存在しており、この状態で、薄硫酸+H
2O
2による処理をおこなって破線で示した皮膜11を形成した際には、
図20(b)に示すように、Sbを多く含むγ相も含めて黄銅は等しくエッチングされるが、銅合金10中の鉛Pbを選択的に除去することは難しい。これは、前述した薄流酸23%で+H
2O
2の処理における
図19のEPMA観察でも明らかである。このため、図に示すように鉛Pbが残存し、表8に示したとおり鉛Pbの浸出が増大することになる。
【0076】
図20(c)において、薄硫酸+H
2O
2処理後に硝酸+塩酸による混酸処理を実施した場合には、結果として表5の場合と同様に銅合金10の表面に皮膜を形成することができないため、Sb、Cu、Znの低減を図ることはできない。
【0077】
これらのことから、
図21において、硝酸+塩酸の混酸処理を皮膜形成の前処理としておこなって、
図21(a)から
図21(b)に示すように接液部表面層を脱鉛化し、その後、
図21(c)において、薄硫酸+H
2O
2による処理によってSbを多く含むγ相も含めて黄銅を等しくエッチングし、最後にエッチング処理後の黄銅表面を
図21(d)に示すように皮膜形成処理すれば、銅合金にSbとともにSnを添加して耐脱亜鉛性や耐応力腐食割れ性を確保できる。これにより、銅合金の機能性を向上した上で、Sbに加えて銅合金を構成するCu、Zn、Pb、さらにはめっき工程で付加されるNiの同時浸出低減を図って水道水への悪影響を抑えることができる。
【0078】
一方、前述した
図6〜
図19における肉眼観察と顕微鏡観察、及びEPMA観察からも、これらの結果が示されていることから、この実験においても上記の処理による効果が証明された。
【0079】
ところで、耐脱亜鉛黄銅材料中のSbの被覆方法としては、上述の薄硫酸+過酸化水素でのエッチング処理後に皮膜形成する以外にも、金属めっき処理によるものがある。以下に、金属めっき処理によるSbの浸出低減方法を述べる。
【0080】
ここで、これまで金属めっきは、一般的に、バルブにおいては耐摩耗性向上のために利用され、水栓金具の場合には装飾性を保つために利用され、何れの場合にも被覆物の外表面にめっきが施される。
一方、接液部のSb浸出低減を目的としためっき処理はこれまで一般的ではないため、Sb浸出低減を目的としためっき処理は、その目的やめっき処理の箇所がこれまでとは異なることになる。さらに、めっき処理時には、膜厚の調整に加えてめっき中のピンホール頻度のレイティング管理も必要になる。
【0081】
そのため、この例では、Sbの浸出低減を目的として、接液部に銅めっき(Cuめっき)或はNiめっきを施すようにしたものである。
【0082】
表9、表10においては、黄銅合金によるサンプルのSb浸出量を測定し、その結果を示したものである。サンプルとしては、Cu:61.5%、Sn:1.5%、Pb:0.2%、Al:0.6%、Sb:0.09、Zn:残部の黄銅素材で、直径20mm、内径15mmで長さ10mmの円柱により製作した。表9においては、銅めっき未処理時のSb浸出量を示しており、表10においては、所定のめっき膜厚による銅めっき表面処理後のSb浸出量を示している。その際、JIS S3200−7に基づく水道水100mL中に浸漬させてSb浸出量を求め、水道水の温度をJIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験時の温度の95℃とした。
【0085】
表9と表10とを比較した場合、銅めっき処理によりSb浸出低減効果が得られたといえる。この場合、銅めっき被覆によるめっき処理のためにCuの浸出も発生するが、このCuに加えてZnの浸出も簡単に防ぐことができる。
【0086】
Cu、Znの浸出を防ぐためには、例えば、給水器材の少なくとも接液部に不飽和脂肪酸からなる有機物質により皮膜を形成し、この給水器材の接液部表層の銅と亜鉛の双方を被覆してこれらの浸出を抑制すればよい。その際、不飽和脂肪酸は、モノ不飽和脂肪酸又はジ不飽和脂肪酸を含有した有機物質であり、さらに、モノ不飽和脂肪酸がオレイン酸を含有した有機物質であり、又はジ不飽和脂肪酸がリノール酸を含有した有機物質であるとよい。
【0087】
一方、Niめっきに関しては、浸出性能基準遵守が求められる給水装置の中には、NiCrめっきされた部品を含むものがある。
以降に示す例では、Sbの浸出低減を目的として、接液部にNiめっきを施すようにしたものである。
【0088】
表11、表12においては、黄銅合金によるサンプルのSb浸出量を測定し、その結果を示したものである。サンプルとしては、Cuめっきの場合と同様にCu:61.5%、Sn:1.5%、Pb:0.2%、Al:0.6%、Sb:0.09、Zn:残部の黄銅素材で、直径20mm、内径15mmで長さ10mmの円柱により製作した。表11においては、Niめっき未処理時のSb浸出量を示しており、表12においては、所定のめっき膜厚によるNiめっき表面処理後のSb浸出量を示している。その際、JIS S3200−7に基づく水道水100mL中に浸漬させてSb浸出量を求め、水道水の温度をJIS S3200−7 コンディショニング無し浸出試験時の温度の95℃とした。
【0091】
表11と表12とを比較した場合、Niめっき処理によりSb浸出低減効果が得られたといえる。
【0092】
この場合、Niめっき被覆によるめっき処理のためにNiの浸出も発生する。Niの浸出を防ぐためには、例えば、Niめっき処理を施した給水器材の接液部表面層に付着しているNi塩を、硝酸とインヒビターとして塩酸を添加した洗浄液によって効果的に処理する処理温度(10℃〜50℃)と処理時間(20秒〜30分)のもとで酸洗浄工程を経て、Ni塩を洗浄除去するとともに、塩酸で接液部表面に皮膜を形成した状態により、接液部表面層を効果的に脱Ni化処理を施すようにすればよい。この場合、Ni塩は、給水器材の接液部表面層の決勝粒界位置のくぼみ部に偏析した鉛の上面に付着したものである。
【0093】
或は、例えば、Niめっき処理後に、給水器材の少なくとも接液面に回りこんで付着したNiめっき部分に保護膜形成剤を施して保護膜を形成し、この保護膜を、複素環式化合物と撥水性を有する直鎖脂肪酸とから成るようにして、この保護膜により、Ni浸出を抑制すればよい。この場合、複素環式化合物は、ベンゾトリアゾール、
ベンゾトリアゾール誘導体、またはチアゾールとするとよい。
【0094】
上述のめっき被覆によりSb浸出低減を図る場合には、前記したように、めっき膜厚以外に、ピンホールなどのめっき処理による欠陥の有無などのめっきの仕上がりも必要になる。
図22(a)、
図22(b)においては、同じNiめっき厚(8μm)で上記めっき処理を施したときの仕上がりの異なるめっき表面の顕微鏡写真(倍率25倍)を示している。
めっき処理を施すときには、JIS 5 H 8502内のレイティングナンバー標準図表において、
図22(a)に示すように、下地の銅合金を完全に被覆した「レイティングナンバー10」の状態となることが好ましいが、実際の生産上では程度下地の銅合金が露出するため、これを許容する上で
図22(b)に示すような「レイティングナンバー5」以上のめっき欠陥であることが好ましい。
【0095】
さらに、めっき処理により表10、表12のめっき膜厚に設けた場合であっても、給水装置(水栓等の末端給水用具、及びバルブ等の給水用具)は、このめっきされた部品を組み立てて製品化するため、組立工程時に傷が生じるおそれがある。この傷により下地の銅合金が露出することを防ぐ必要があり、そのためにはある程度の膜厚の大きさが必要になる。
【0096】
図23においては、銅合金のめっき表面の傷の顕微鏡写真(70倍)を示しており、
図23(a)では0.5μm膜厚のめっき表面の傷、
図23(b)では2μm膜厚のめっき表面の傷、
図23(c)では3μm膜厚のめっき表面の傷をそれぞれ示している。
これらの写真より、めっき膜厚を2μm以上とすることが望ましいといえる。
【0097】
これらのめっき処理は、特に、給水器材が著しく高温になるときに皮膜を保護する場合に有効になる。例えば、水栓の種類には、ねじ込み接続やかしめ以外にロウ付け接続があり、このロウ付け接続は、通常ろう剤を400℃以上に熱して給水器材の部品同士を接合する方法であるため、その熱によってSb溶出低減用として形成した有機薄膜が耐えきれずに失われてしまう可能性がある。一方、皮膜形成後に上記のめっき処理することにより、このめっきによってロウ付け時に皮膜が失われることがない。