(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374718
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】電気素子
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20180806BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20180806BHJP
C23C 18/12 20060101ALI20180806BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20180806BHJP
H01H 1/04 20060101ALI20180806BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
C23C28/00 B
B32B9/00 A
C23C18/12
C25D7/00 H
H01H1/04 E
H01R13/03 D
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-144249(P2014-144249)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-20524(P2016-20524A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100192474
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100189049
【弁理士】
【氏名又は名称】花坂 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 健三
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 義貴
(72)【発明者】
【氏名】近藤 貴哉
【審査官】
祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−247388(JP,A)
【文献】
特表2003−528980(JP,A)
【文献】
特開2010−232681(JP,A)
【文献】
特開2012−113968(JP,A)
【文献】
特開2013−222659(JP,A)
【文献】
特表2005−512302(JP,A)
【文献】
特開2013−221166(JP,A)
【文献】
特開2009−084616(JP,A)
【文献】
特表2006−500759(JP,A)
【文献】
特開2005−048201(JP,A)
【文献】
特開2012−237055(JP,A)
【文献】
特開2011−003780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、Niめっき層又はNi合金めっき層と、貴金属めっき層と、元素をドープした厚さが10nm〜1μmである酸化物薄膜とをこの順で設けてなることを特徴とする電気素子。
【請求項2】
前記元素が、導電性発現に寄与する元素であることを特徴とする請求項1に記載の電気素子。
【請求項3】
前記酸化物薄膜が、SnOおよび/またはSnO2であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気素子。
【請求項4】
導電性発現に寄与する元素が、F、In、Ga、Tl、As、SbおよびBiからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の電気素子。
【請求項5】
導電性発現に寄与する元素が、Fであることを特徴とする請求項2に記載の電気素子。
【請求項6】
前記貴金属めっき層における貴金属として、Agが使用されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気素子。
【請求項7】
前記電気素子が、コネクタ用電気接点であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とくにコネクタ用電気接点として有用な電気素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にコネクタ用電気接点は、主にCu合金から形成されているが、Cu合金をそのまま用いると、表面が酸化し電気抵抗率が高くなり、製品の信頼性が低下するという問題点がある。とくに、小型かつ低接触荷重の電気接点では、高抵抗の酸化膜により接点部での金属同士が接触する面(真実接触面)が非常に小さくなってしまい、接触抵抗が上昇するという問題がある。
【0003】
そこで、通常は、Cu合金の表面に金や銀等の貴金属めっきを行って貴金属めっき層を形成し、Cu合金の表面の酸化を防止し、製品の信頼性を確保している。なお耐腐食性や耐摩耗性を確保するためには、貴金属めっき層にある程度の厚さを設けている。これとは別に、電気自動車の蓄電池の充電に使用されるような、数十〜数百アンペアという比較的大電流で使用される場合にも、貴金属めっき層を厚くする必要がある。
【0004】
しかし、貴金属めっき層を厚くすればするほど、コストが高くなるという問題点があり、当業界では使用される貴金属量を低減する技術が求められていた。
また、貴金属めっき層としてAgを用いた場合、Agは硫化等の腐食に弱く、すぐに変色するという問題点がある。そこで、Agめっき層の表面に変色防止剤を塗布しているが、得られる塗布膜は通常、非常に脆く、プラス成形や接点の嵌合等により剥がれてしまい、Agの変色を有効に防止できないという問題点もあった。
【0005】
例えば下記特許文献1には、基材上に例えばSnからなる金属層を形成し、その表面に形成された酸化物層を除去した後、該金属層上にSnO
2のような酸化物層を形成するコネクタ用電気接点材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−237055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような先行技術では、貴金属めっき層を使用した製品に比べ、コストは低くすることはできるが、当業界ではさらなる性能の向上が求められている。
【0008】
したがって本発明の目的は、低コストであり、かつ、基材の酸化による製品の信頼性の低下を防止するとともに、小型かつ低接触荷重の電気接点であっても、真実接触面を大きく保つことができ、接触抵抗の上昇の問題も解決し得る、電気素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、基材上に、特定の酸化物薄膜を設けることにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記(1)〜(
7)を特徴としている。
【0010】
(1)基材上に、Niめっき層
又はNi合金めっき層と、貴金属めっき層
と、元素をドープした厚さが10nm〜1μmである酸化物薄膜
とをこの順で設けてなることを特徴とする電気素子。
(2)前記元素が、導電性発現に寄与する元素であることを特徴とする前記(1)に記載の電気素子。
(3)前記酸化物薄膜が、SnOおよび/またはSnO2であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の電気素子。
(4)導電性発現に寄与する元素が、F、In、Ga、Tl、As、SbおよびBiからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする前記(2)に記載の電気素子。
(5)導電性発現に寄与する元素が、Fであることを特徴とする前記(2)に記載の電気素子。
(6)前記貴金属めっき層における貴金属として、Agが使用されていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の電気素子。
(7)前記電気素子が、コネクタ用電気接点であることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の電気素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電気素子は、基材上に特定の酸化物薄膜を設けているので、低コストであり、かつ、基材の酸化による製品の信頼性の低下を防止するとともに、小型かつ低接触荷重の電気接点であっても、真実接触面を大きく保つことができ、接触抵抗の上昇の問題も解決し得る、電気素子を提供することができる。
また本発明の電気素子は、基材の表面がAgでめっきされている場合であっても、実使用中のAgの変色を有効に防止することができ、電気素子の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の電気素子の一実施形態を説明するための断面図である。
【
図2】本発明のコネクタ用電気接点の一実施形態を説明するための断面図である。
【
図3】実施例で製造したコネクタ用電気接点3の断面図(a)およびその一部拡大図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の電気素子の一実施形態を説明するための断面図である。
図1に示す電気素子1は、基材12上に、元素をドープした酸化物薄膜16を設けてなる。
基材12の材質としては、とくに制限されず、用途に応じて適宜選択することができる。
酸化物薄膜16の材質としては、とくに制限されず、用途に応じて適宜選択することができる。また、酸化物薄膜16にドープされる元素としては、とくに制限されず、用途に応じて適宜選択することができる。
また、基材12および酸化物薄膜16の厚さやサイズとしては、とくに制限されず、用途に応じて適宜選択することができる。
また、電気素子1の製造方法もとくに制限されず、従来公知の手法を適宜採用することができる。
【0014】
以下、本発明の電気素子1がコネクタ用電気接点である場合を例にとり、本発明をさらに説明する。
図2は、本発明のコネクタ用電気接点の一実施形態を説明するための断面図である。
図2において、コネクタ用電気接点2は、基材122上にNiめっき層132、貴金属めっき層142、酸化物薄膜162がこの順で設けられている。また、図示していないが、Niめっき層132と貴金属めっき層142との密着性を向上するために、別のめっき層(ストライクめっき層)を設けることもできる。
【0015】
この形態において、基材122の材質としては、一般的にCuや黄銅等のCu合金を用いることができる。これとは別に、Al、Feまたはこれらの合金を用いることもできる。基材122の厚さは用途に応じて適宜決定することができ、また基材の形状は矩形型、円柱型、その他の異形型であることができる。
【0016】
基材122上には、必要に応じて、基材122に含まれる例えばCuまたはCu合金が酸化物薄膜162上に拡散するのを防止するために、Niめっき層132を設けてもよい。Niめっき層132は、Niのほか、Fe−Ni合金やSn−Ni合金等のNi合金を使用することができる。Niめっき層132の厚さは、当該目的を達成できればよく、適宜決定される。
【0017】
Niめっき層132の表面上には、貴金属めっき層142が設けられる。貴金属めっき層142における貴金属としては、Au、Ag等が挙げられる。貴金属めっき層142の厚さは、用途やコストを勘案して適宜決定すればよい。
【0018】
貴金属めっき層142上には、元素をドープした酸化物薄膜162が設けられる。
酸化物としては、SnO、SnO
2、NiO、Ni
2O
3、ZnO、CuO
2、CuAlO
2、In
2O
3、またはこれらの混合物等が挙げられる。中でも本発明の効果が向上するという観点から、酸化物は、SnOおよび/またはSnO
2であるのが好ましい。
【0019】
前記元素としては、導電性発現に寄与する元素が好ましく、例えばF、In、Ga、Tl、As、SbおよびBiからなる群から選択された少なくとも1種が挙げられる。中でも本発明の効果の観点から、また、導電性、耐摩耗性に優れるという観点から、Fが好ましく、酸化物薄膜162は、フッ素ドープ酸化錫(FTO)であるのがとくに好ましい。
【0020】
酸化物薄膜162の厚さとしては、例えば10nm〜1μmである。
【0021】
次に、コネクタ用電気接点2の製造方法について説明する。
まず、基材122を準備し、必要に応じてNiめっき層132、貴金属めっき層142を順次形成する。各めっき層は、公知のめっき法により形成できる。例えば、電解めっき法は、慣用的に行なわれている方法であり、装置構成も簡易で、また層厚の制御も比較的容易であることから好ましい。
【0022】
次に、貴金属めっき層142上に、元素をドープした酸化物薄膜162を設ける。この酸化物薄膜162は、例えばスプレー熱分解(SPD:Spray Pyrolysis Deposition)法により設けることができる。SPD法はよく知られているように、基材を成膜温度まで加熱し、そこに向けて霧化器等の噴霧手段を用いて膜の原料となる溶液を噴霧することにより、反応初期には、基材表面に付着した液滴中の溶媒の蒸発と、溶質の熱分解に続く加水分解反応および熱酸化反応することにより結晶を形成させ、反応が進むにつれその結晶上に、液滴が付着し、液滴中の溶媒蒸発と共に、溶質および下部の結晶間で結晶成長を進行させ、薄膜を形成する方法である。SPD法を採用することにより、酸化物薄膜162をピンポイントで、および/または、任意の形状で成膜することができる。なお酸化物薄膜162は、SPD法以外にも公知の方法を採用し、形成することができる。
【0023】
このようにして形成された酸化物薄膜162は、導電性(例えば比抵抗値が1×10
7Ω・cm以下)を有し、かつ、上記の本発明の効果を奏するとともに、また、耐摩耗性、耐腐食性、耐熱性等に優れる。したがって、その下層に設けられる貴金属めっき層142の厚さを薄くすることができ、製造コスト減少に寄与することができる。
【0024】
なお、上記では本発明の電気素子1として、コネクタ用電気接点2を例にとり本発明を説明したが、この用途以外にも、当業界で公知の電気素子としての各種用途に利用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0026】
図3に示すコネクタ用電気接点3を製造した。
図3は、本実施例で製造したコネクタ用電気接点3の断面図(a)およびその一部拡大図(b)である。コネクタ用電気接点3は、
図3(a)に示すように、オス端子32およびメス端子34からなり、その嵌合部は、
図3(b)の一部拡大図に示されるように、オス端子32側が基材322、Agめっき層324およびFTO薄膜326から順次形成され、メス端子34側のFTO薄膜346と接触している。また、メス端子34もオス端子32と同様の構成を有している。すなわち、メス端子34は、基材322と、Agめっき層344とを有している。
【0027】
基材322としては黄銅からなるCu合金を用い、その上に電解めっき法によりAgめっき層324を形成した。続いて、Agめっき層324上に、FTO薄膜326をSPD法により設け、オス端子32を製造した。なお、オス端子32とメス端子34の基材の材質が互いに異なっていてもよい。
【0028】
本実施例のコネクタ用電気接点3は、FTO薄膜326を設けない場合と比べ、これと同様の性能を確保するためには、Agの使用量を各段に減少させることができ、低コストであるとともに、Cu合金の酸化による製品の信頼性の低下を防止することもできる。また、コネクタ用電気接点3が小型かつ低接触荷重の電気接点であっても、真実接触面を大きく保つことができ、接触抵抗の上昇の問題も解決することができる。さらに、実使用中のAgの変色も有効に防止され得る。
【0029】
ここで、上述した本発明に係る電気素子の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[8]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 基材(12)上に、元素をドープした酸化物薄膜(16)を設けてなることを特徴とする電気素子(1)。
[2] 前記元素が、導電性発現に寄与する元素であることを特徴とする上記[1]に記載の電気素子(1)。
[3] 前記酸化物薄膜(16)が、SnOおよび/またはSnO
2であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の電気素子(1)。
[4] 導電性発現に寄与する元素が、F、In、Ga、Tl、As、SbおよびBiからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする上記[2]に記載の電気素子(1)。
[5] 導電性発現に寄与する元素が、Fであることを特徴とする上記[2]に記載の電気素子(1)。
[6] 前記基材の表面が、貴金属でめっきされていることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の電気素子(1)。
[7] 前記基材の表面が、前記貴金属としてAgでめっきされていることを特徴とする上記[6]に記載の電気素子(1)。
[8] 前記電気素子が、コネクタ用電気接点であることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載の電気素子(1)。
【符号の説明】
【0030】
1 電気素子
2,3 コネクタ用電気接点
12,122,322 基材
16,162 酸化物薄膜
132 Niめっき層
142 貴金属めっき層
32 オス端子
34 メス端子
324,344 Agめっき層
326、346 FTO薄膜