特許第6374727号(P6374727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社椿本チエインの特許一覧

<>
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000002
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000003
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000004
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000005
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000006
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000007
  • 特許6374727-サイレントチェーン伝動装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374727
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】サイレントチェーン伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/04 20060101AFI20180806BHJP
   F16G 13/02 20060101ALI20180806BHJP
   F16G 13/06 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   F16G13/04
   F16G13/02 E
   F16G13/06 B
   F16G13/06 E
   F16G13/06 F
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-160841(P2014-160841)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-38004(P2016-38004A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健雄
(72)【発明者】
【氏名】浜口 秀史
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−064269(JP,A)
【文献】 特開2000−009190(JP,A)
【文献】 特開平06−207643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のガイドプレート及び前記左右一対のガイドプレート間に配置されたミドルプレートから成るガイド列と、複数のインナープレートから成る非ガイド列とを、前記ミドルプレート及びインナープレートに設けられた前後一対のピン孔に挿入される長ピン及び短ピンからなる一対のロッカーピンによってチェーン長手方向に交互に連結したサイレントチェーンと、スプロケットとから構成されるサイレントチェーン伝動装置であって、
前記各ロッカーピンは、チェーン長手方向外側に形成された背面と、チェーン長手方向内側に形成された転動面とを有し、
前記インナープレートのピン孔は、前記短ピンの背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面を有し、
前記インナープレートのピン孔と前記一対のロッカーピンが、前記一対のロッカーピンが転動面で互いに接触した状態で、前記インナープレートのシート面と前記短ピンの背面との間に隙間が形成される大きさで構成され、
前記サイレントチェーンを前記スプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、前記非ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、前記スプロケットピッチ以上となるように設定され、
前記サイレントチェーンを前記スプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、前記ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、前記スプロケットピッチに等しくなるように設定されていることを特徴とするサイレントチェーン伝動装置
【請求項2】
前記ミドルプレートのピン孔は、前記長ピンの背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面を有し、
前記ミドルプレートのピン孔と前記一対のロッカーピンが、一対のロッカーピンが転動面で互いに接触した状態で、前記ミドルプレートのシート面と前記長ピンの背面との間に隙間が形成される大きさで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のサイレントチェーン伝動装置
【請求項3】
前記短ピンのチェーン長手方向の厚さが、長ピンのチェーン長手方向の厚さと異なることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサイレントチェーン伝動装置
【請求項4】
前記ミドルプレート及びインナープレートのピン孔のチェーン長手方向の径が、チェーン高さ方向の径より大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のサイレントチェーン伝動装置
【請求項5】
前記非ガイド列の前後のピン孔位置が、前記ガイド列の前後のピン孔位置と異なることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のサイレントチェーン伝動装置。
【請求項6】
前記非ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、前記ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチと異なることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のサイレントチェーン伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイレントチェーンとスプロケットとから構成されるサイレントチェーン伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右一対のガイドプレート及び前記左右一対のガイドプレート間に配置されたミドルプレートから成るガイド列と、複数のインナープレートから成る非ガイド列とを、前記ミドルプレート及びインナープレートに設けられた前後一対のピン孔に挿入される長ピン及び短ピンからなる一対のロッカーピンによってチェーン長手方向に交互に連結されることで構成されたサイレントチェーンが知られている(例えば特許文献1参照。)。
そして、サイレントチェーンを複数のスプロケットに掛け回すことで、複数のスプロケットの間で、回転を確実に伝達するサイレントチェーン伝動装置が公知である。
【0003】
一般に、サイレントチェーンとスプロケットとから構成されるサイレントチェーン伝動装置において、スプロケットの標準のピッチラインと各歯底を通る仮想線との交点の間隔が、スプロケットピッチと規定される。
そして、サイレントチェーンの各ピン孔に挿入された一対のロッカーピンの転動点のチェーン長手方向の間隔である転動点間ピッチとスプロケットピッチとが一致している状態で、サイレントチェーンがスプロケットに対して最適に巻き付くようにスプロケットの歯型及びサイレントチェーンの各プレートの形状が設計されている。
【0004】
特許文献1に記載されたような公知のサイレントチェーンは、弾性伸びや摩耗伸びが生じることを予め想定し、図7の表に示すように、弾性伸びがほとんど生じない程度の荷重がサイレントチェーンにかかる低負荷状態において、少なくとも非ガイド列における転動点ピッチがスプロケットピッチよりも小さくなるように設計されている。
これは、実使用時、弾性伸びや摩耗伸びが生じた時に、スプロケットピッチと転動点間ピッチの差が小さくなり、スプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなることを考慮したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−130384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したようにピッチ関係を設定した場合、摩耗伸びが生じていない初期状態かつ低負荷状態でスプロケットに掛け回されたサイレントチェーンは、少なくとも非ガイド列における転動点間ピッチがスプロケットピッチより短くなるため、スプロケットに対する巻き付きが悪くなる。
その結果、チェーン挙動が安定せず、サイレントチェーンの弦振動音が大きくなったり、サイレントチェーンとスプロケットとの間の噛合い音が悪化するという問題が生じていた。
【0007】
また、弾性伸びが生じる程度の高負荷がサイレントチェーンにかかった時においても、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けずに巻き付く領域、すなわち、その重量によってサイレントチェーンがスプロケットに巻き付く領域や、スプロケット上においてサイレントチェーンに作用する荷重が小さくなる領域があるため、その領域では、少なくとも非ガイド列における転動点間ピッチがスプロケットピッチより短くなり、同様に、スプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが悪くなり、チェーン挙動が安定せず、サイレントチェーンの弦振動音が大きくなったり、サイレントチェーンとスプロケットとの間の噛合い音が悪化するという問題が生じていた。
【0008】
また、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けて巻き付く高負荷の領域では、強い弾性により転動点間ピッチが小さくなる方向の力が加わり、スプロケットの歯から外れる方向の力が発生してスプロケット歯からインナープレートのリンク歯が乗り上げ易くなり、いわゆる歯飛びが生じるおそれがあった。
さらに、ガイド列においても、サイレントチェーンに伸びが生じることを予め想定し、図5の表に示すように、伸びが生じた時にスプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなるように、低負荷状態において、転動点間ピッチをスプロケットピッチと同等以下としていたため、上述した非ガイド列と同様の問題が生じる。
【0009】
なお、上述した「転動点間ピッチ」及び「スプロケットピッチ」を詳しく説明すると、「転動点間ピッチ」は、サイレントチェーンをスプロケットに低負荷状態で巻き掛けた状態で、ミドルプレート及びインナープレートのピン孔に挿入された一対のロッカーピン転動面が当接する点をピン転動点とした場合に、チェーン長手方向に隣接するピン転動点間の間隔である。
また、「スプロケットピッチ」は、各ピン転動点を通ってチェーン長手方向に延びるピッチラインと、スプロケットの回転中心及びスプロケットの各歯底を通る仮想線との間の交点を仮想交点とした場合に、チェーン長手方向に隣接する仮想交点間の間隔である。
【0010】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡素な構成で、チェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減するサイレントチェーン伝動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るサイレントチェーン伝動装置は、左右一対のガイドプレート及び前記左右一対のガイドプレート間に配置されたミドルプレートから成るガイド列と、複数のインナープレートから成る非ガイド列とを、前記ミドルプレート及びインナープレートに設けられた前後一対のピン孔に挿入される長ピン及び短ピンからなる一対のロッカーピンによってチェーン長手方向に交互に連結したサイレントチェーンと、スプロケットとから構成されるサイレントチェーン伝動装置であって、前記各ロッカーピンは、チェーン長手方向外側に形成された背面と、チェーン長手方向内側に形成された転動面とを有し、前記インナープレートのピン孔は、前記短ピンの背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面を有し、前記インナープレートのピン孔と前記一対のロッカーピンが、一対のロッカーピンが転動面で互いに接触した状態で、前記インナープレートのシート面と前記短ピンの背面との間に隙間が形成される大きさで構成され、前記サイレントチェーンを前記スプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、前記非ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、前記スプロケットピッチ以上となるように設定され、前記サイレントチェーンを前記スプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、前記ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、前記スプロケットピッチに等しくなるように設定されていることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係るサイレントチェーン伝動装置によれば、インナープレートのピン孔と一対のロッカーピンが、一対のロッカーピンが転動面で互いに接触した状態で、インナープレートのシート面と短ピンの背面との間に隙間が形成される大きさで構成されていることにより、チェーン長手方向の大きな張力がかかっていない状態では、インナープレートのピン孔内で一対のロッカーピンがチェーン長手方向に移動可能となり、移動分だけ非ガイド列のピッチが可変となる。
このことで、サイレントチェーンに弾性伸びや摩耗伸びが生じ、非ガイド列の転動点間ピッチが大きくなっても、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けずに巻き付く領域、すなわち、重量によってサイレントチェーンがスプロケットに巻き付く領域や、スプロケット上においてサイレントチェーンに作用する荷重が小さくなる領域において、非ガイド列のインナープレートのピン孔内で一対のロッカーピンがスプロケットピッチに対応してチェーン長手方向に移動し、スプロケットに対する巻き付きを良好に保つことができる。
その結果、チェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減することができる。
また、摩耗伸びが生じていない初期状態かつ低負荷状態でのサイレントチェーンの転動点間ピッチを、スプロケットピッチ以上に設定することも可能となる。
また、サイレントチェーンをスプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、非ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、スプロケットピッチ以上となるように設定されていることにより、サイレントチェーンが初期状態かつ低負荷状態にある場合に、非ガイド列における転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなる。
これにより、スプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなり、チェーン走行時におけるチェーン挙動が安定し、サイレントチェーンの弦振動音や噛合い音を低減することができる。
また、サイレントチェーンに高負荷がかかった時や摩耗伸びが生じた時においても、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けずに巻き付く領域、すなわち、重量によってサイレントチェーンがスプロケットに巻き付く領域や、スプロケット上においてサイレントチェーンに作用する荷重が小さくなる領域において、非ガイド列における転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなる。
これにより、スプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなり、チェーン走行時におけるチェーン挙動が安定し、サイレントチェーンの弦振動音や噛合い音を低減することができるとともに、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けて巻き付く高負荷の領域でも、歯飛びの発生を抑制することができる。
さらに、サイレントチェーンをスプロケットに低負荷で巻き掛けた状態で、ガイド列における転動点間ピッチが、スプロケットピッチに等しくなるように設定されていることにより、サイレントチェーンが初期状態かつ低負荷状態にある場合に、ガイド列における転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなる。
このことにより、ガイド列においても非ガイド列と同様の作用を生じ、サイレントチェーン全体としてスプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなり、さらに、チェーン走行時におけるチェーン挙動が安定し、サイレントチェーンの弦振動音や噛合い音を低減することができるとともに、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けて巻き付く高負荷の領域でも、歯飛びの発生を抑制することができる。
【0013】
本請求項2に記載の構成によれば、ミドルプレートのピン孔と一対のロッカーピンが、一対のロッカーピンが転動面で互いに接触した状態で、ミドルプレートのシート面と長ピンの背面との間に隙間が形成される大きさで構成されていることにより、ガイド列の中でミドルプレートがチェーン長手方向に移動可能となる。
このことで、サイレントチェーンに弾性伸びや摩耗伸びが生じ、ガイド列の転動点間ピッチが大きくなっても、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けずに巻き付く領域、すなわち、重量によってサイレントチェーンがスプロケットに巻き付く領域や、スプロケット上においてサイレントチェーンに作用する荷重が小さくなる領域において、ミドルプレートが最適な位置に移動し、スプロケットに対する巻き付きを良好に保つことができる。
その結果、さらにチェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減することができる。
【0014】
本請求項3に記載の構成によれば、一対のロッカーピンの短ピンのチェーン長手方向の厚さが、長ピンのチェーン長手方向の厚さと異なることにより、各プレートのピン孔を従来のものと変更することなく、転動点間ピッチをスプロケットピッチに等しくなるように設定することが可能となる。
本請求項4に記載の構成によれば、ミドルプレート及びインナープレートのピン孔のチェーン長手方向の径が、チェーン高さ方向の径より大きいことにより、インナープレートのピン孔内で一対のロッカーピンがチェーン長手方向に移動したり、ガイド列の中でミドルプレートがチェーン長手方向に移動する際に、ピン孔とロッカーピンチェーンとの高さ方向の隙間の発生を小さくすることが可能となる。
このことで、ミドルプレート及びインナープレートのチェーンの高さ方向へのがたつきが小さくなり、さらにチェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減することができる。
【0015】
本請求項5に記載の構成によれば、サイレントチェーンをスプロケットに低負荷で巻き掛けた状態で、ガイド列における転動点間ピッチが、スプロケットピッチに等しくなるように設定されていることにより、サイレントチェーンが初期状態かつ低負荷状態にある場合に、ガイド列における転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなる。
このことにより、ガイド列においても非ガイド列と同様の作用を生じ、サイレントチェーン全体としてスプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなり、さらに、チェーン走行時におけるチェーン挙動が安定し、サイレントチェーンの弦振動音や噛合い音を低減することができるとともに、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けて巻き付く高負荷の領域でも、歯飛びの発生を抑制することができる。
本請求項6に記載の構成によれば、非ガイド列の前後のピン孔位置が、ガイド列の前後のピン孔位置と異なることにより、一対のロッカーピン、ガイドプレート及びミドルプレートを従来のものと変更することなく、非ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチをスプロケットピッチに等しくなるように設定することが可能となる。
本請求項8に記載の構成によれば、ガイド列と非ガイド列で転動点間ピッチが異なることで、ミドルプレートとインナープレートでスプロケットとの接触のタイミングや接触位置が変化し、周期的な騒音や振動が抑制され、さらに弦振動音や噛合い音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態のサイレントチェーン伝動装置のサイレントチェーンの断面説明図。
図2】本発明の第1実施形態のサイレントチェーン伝動装置の一部側面図。
図3】本発明の第1実施形態のサイレントチェーン伝動装置のサイレントチェーンとスプロケットの関係説明図。
図4】本発明の第1実施形態のサイレントチェーン伝動装置のサイレントチェーンのピン孔とロッカーピンの関係の拡大図。
図5】本発明の第1実施形態のサイレントチェーン伝動装置の各ピッチの関係表。
図6】本発明の第2実施形態のサイレントチェーン伝動装置のサイレントチェーンのピン孔とロッカーピンの関係の拡大図。
図7】従来のサイレントチェーン伝動装置の各ピッチの関係表。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るサイレントチェーン伝動装置は、左右一対のガイドプレート及び左右一対のガイドプレート間に配置されたミドルプレートから成るガイド列と、複数のインナープレートから成る非ガイド列とを、ミドルプレート及びインナープレートに設けられた前後一対のピン孔に挿入される長ピン及び短ピンからなる一対のロッカーピンによってチェーン長手方向に交互に連結したサイレントチェーンと、スプロケットとから構成されるサイレントチェーン伝動装置であって、各ロッカーピンは、チェーン長手方向外側に形成された背面と、チェーン長手方向内側に形成された転動面とを有し、インナープレートのピン孔は、短ピンの背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面を有し、インナープレートのピン孔と一対のロッカーピンが、一対のロッカーピンが転動面で互いに接触した状態で、インナープレートのシート面と短ピンの背面との間に隙間が形成される大きさで構成され、サイレントチェーンをスプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、非ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、スプロケットピッチ以上となるように設定され、サイレントチェーンをスプロケットに低荷重で巻き掛けた状態で、ガイド列の前後のピン孔のロッカーピンの転動点間ピッチが、前記スプロケットピッチに等しくなるように設定され、簡素な構成で、チェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0018】
本発明のサイレントチェーン伝動装置の各構成部材の具体的な素材は、チェーンの張力を適正に保持するための強度を有するものであれば如何なるものでも良く、強度、加工性、経済性の観点から鋼材や鋳鉄等の鉄系材料を用いるのが好ましく、特にガイドプレート、ミドルプレート及びインナープレートは、鋼鈑を打ち抜いて形成するのが好ましい。
以下に、本発明の実施形態であるサイレントチェーン伝動装置について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の第1実施形態に係るサイレントチェーン伝動装置100のサイレントチェーン110は、図1に示すように、複数のガイド列120と複数の非ガイド列150とを、チェーン長手方向に半ピッチずらして交互に配置し、一対のロッカーピン170によって屈曲可能に連結したものであり、図2にその一部を示すように、サイレントチェーン110がスプロケット180に掛け回され、本発明の第1実施形態に係るサイレントチェーン伝動装置100を構成する。
サイレントチェーン110のガイド列120は、チェーン幅方向の両外側に配置された左右一対のガイドプレート130と、左右一対のガイドプレート130の間に配置された複数のミドルプレート140とから構成されている。また、非ガイド列150は、チェーン幅方向に並列配置された複数のインナープレート160から構成されている。
【0020】
一対のロッカーピン170は、長ピン171及び短ピン172から構成されている。長ピン171及び短ピン172は、長さが異なる点を除いて同一形状のピンであるが、別の例として、チェーン幅方向に直交する平面での断面形状が互いに異なるピンであってもよい。
長ピン171及び短ピン172は、ミドルプレート140のピン孔141及びインナープレート160のピン孔161に遊嵌状態で一緒に挿入され、また、長ピン171の両端は、ガイドプレート130のピン保持孔131に固定されている。
【0021】
長ピン171及び短ピン172は、図3に示すように、チェーン長手方向内側に形成された転動面171a、172aと、チェーン長手方向外側に形成された凹状の背面とをそれぞれ有し、また、ミドルプレート140のピン孔141及びインナープレート160のピン孔161は、チェーン長手方向外側に形成されピン姿勢を規制する凸状のシート面を有している。長ピン171及び短ピン172は、各転動面171a、172aを対向させるとともに、ピン171、172の各背面をピン孔141、161のシート面に着座させた状態で、ピン孔141、161に挿入されている。
ミドルプレート140及びインナープレート160は、スプロケット180のスプロケット歯181と噛み合うための一対のV字状のリンク歯142、162をスプロケット噛合側にそれぞれ有している。
【0022】
また、図4に示すように、インナープレート160のピン孔161は、短ピン172の背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面163を有し、ミドルプレート140のピン孔141は、長ピン171の背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面143を有している。
そして、一対のロッカーピン171、172が転動面171a、172aで互いに接触した状態で、インナープレート160のピン孔161は、インナープレート160のシート面163と短ピン172の背面との間に隙間が形成される大きさを有し、ミドルプレート140のピン孔141は、ミドルプレート140のシート面143と長ピン171の背面との間に隙間が形成される大きさを有している。
すなわち、図4に示すように、インナープレート160のシート面163に短ピン172の背面が着座し、ミドルプレート140のシート面143に長ピン171の背面が着座した状態では、転動面171a、172aの間に隙間ができるように構成されている。
【0023】
このような構成により、短ピン172は、チェーン長手方向の大きな張力がかかっていない状態では、前述の隙間分だけチェーン長手方向に自由に移動可能となり、非ガイド列のピッチが可変となるとともに、インナープレート160のチェーン長手方向の位置も移動可能となる。
また、ガイド列の長ピン171の間隔はガイドプレート130により固定されているため、ガイド列のピッチは変化しないが、前記隙間分だけミドルプレート140のチェーン長手方向の位置が移動可能となる。
そのため、サイレントチェーンに高負荷がかかった時や摩耗伸びが生じた時においても、重量によってサイレントチェーンがスプロケットに巻き付く領域や、スプロケット上においてサイレントチェーンに作用する荷重が小さくなる領域において、スプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなり、チェーン走行時におけるチェーン挙動が安定し、サイレントチェーンの弦振動音や噛合い音を低減することができる。
さらに、このことで、初期状態かつ低負荷状態における転動点間ピッチを、伸びを想定してスプロケットピッチ以下に設定する必要がなく、初期状態かつ低負荷状態でも、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けて巻き付く高負荷の領域において、歯飛びの発生を抑制するように設定することが可能となる。
【0024】
本実施形態における転動点間ピッチとスプロケットピッチとの関係の設定は、サイレントチェーン110をスプロケット180に低負荷状態で巻き掛けた状態で、図5の表に示すように、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIが、スプロケットピッチSに等しくなるように設定されている。
ここで、上述した転動点間ピッチIとは、図3に示すように、サイレントチェーン110をスプロケット180に低負荷状態で巻き掛けた状態で、ミドルプレート140及びインナープレート160のピン孔141、161に挿入された一対のロッカーピン170間の転動点をピン転動点Prとした場合に、チェーン長手方向に隣接するピン転動点Pr間の間隔のことである。
上述したスプロケットピッチSとは、各ピン転動点Prを通ってチェーン長手方向に延びるピッチラインLと、スプロケット180の回転中心(図示しない)及びスプロケット180の各歯底182を通る仮想線VLとの間の交点を仮想交点Pcとした場合に、チェーン長手方向に隣接する仮想交点Pc間の間隔のことである。
【0025】
このように、サイレントチェーン伝動装置100の各部材間のピッチ関係を設定した場合、サイレントチェーン110が初期状態かつ低負荷状態にある場合に、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIがスプロケットピッチSに等しくなり、一方、サイレントチェーン110に高負荷がかかった時や摩耗伸びが生じた時においても、その重量によってサイレントチェーン110がスプロケット180に巻き付く領域や、スプロケット180上においてサイレントチェーン110に作用する荷重が小さくなる領域において、転動点間ピッチIがスプロケットピッチSに等しくなる。
【0026】
上述したように本実施形態におけるピン孔とロッカーピンの寸法関係、及び、各部材間のピッチ関係を設定するための具体的な寸法、形状の関係を列挙する。
第1の具体例は、短ピン172の大きさや形状を調整することで前述の隙間が形成されるようにするとともに、非ガイド列150における転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整するものである。
この場合、従来と同じ構成のスプロケット180をそのまま使用することができるとともに、短ピン172以外のサイレントチェーン110のパーツをそのまま使用することができる。
【0027】
第2の具体例は、短ピン172又は長ピンの少なくとも一方の大きさや形状を調整することで前述の隙間が形成されるようにし、スプロケット180の歯形を調整することで、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整するものである。
この場合、従来と同じ構成のサイレントチェーン110をそのまま利用することができるとともに、ガイド列120及び非ガイド列150の両方について、転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整することができる。
【0028】
第3の具体例は、ミドルプレート140及びインナープレート160のピン孔141、161の形状や位置、及び、ガイドプレート130のピン保持孔131の形成位置を調整することで前述の隙間が形成されるようにし、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整するものである。
この場合、従来と同じ構成のスプロケット180をそのまま使用することができるとともに、プレート130、140、160以外のサイレントチェーン110のパーツをそのまま使用することができる。
なお、これらの具体例は、それぞれ単独で採用してもよく、適宜複数組み合わせてもよく、また、上述以外の構成で実現してもよい。
【実施例2】
【0029】
本発明の第2実施形態に係るサイレントチェーンは、図6に示すように、ミドルプレート及びインナープレートのピン孔241、261のチェーン長手方向の径が、チェーン高さ方向の径より大きく設定されており、長ピン271、短ピン272の断面形状も、チェーン長手方向に厚いものとなっている。
そして、第1実施形態と同様に、一対のロッカーピン271、272が転動面271a、272aで互いに接触した状態で、インナープレート260のピン孔261は、インナープレート260のシート面263と短ピン272の背面との間に隙間が形成される大きさを有し、ミドルプレート240のピン孔241は、ミドルプレート240のシート面243と長ピン271の背面との間に隙間が形成される大きさを有している。
すなわち、図6に示すように、インナープレート260のシート面263に短ピン272の背面が着座し、ミドルプレート240のシート面243に長ピン271の背面が着座した状態では、転動面271a、272aの間に隙間ができるように構成されている。
なお、第2実施形態に係るサイレントチェーンのその他の構成については第1実施形態と同様なので、図6では、ピン孔とロッカーピンの関係の拡大図のみを図示した。
【0030】
このように構成することで、第1実施形態のサイレントチェーン110と同様の作用、効果を奏するとともに、シート面263と短ピン272との間及びシート面243と長ピン271に隙間ができた際に、シート面263、243の上下にできる隙間を小さくすることができるため、ミドルプレート及びインナープレートのチェーンの高さ方向へのがたつきが小さくなり、さらにチェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減することができる。
なお、本実施形態におけるピン孔とロッカーピンの寸法関係、及び、各部材間のピッチ関係を設定するための具体的な寸法、形状の関係は、前述の第1実施形態における具体例と同様の手法で設定することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、上述した実施形態では、サイレントチェーンをスプロケットに低負荷状態で巻き掛けた状態で、非ガイド列及びガイド列の両方において、転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなるように設定されているものとして説明したが、非ガイド列のみにおいて、転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなるように設定してもよい。
【符号の説明】
【0032】
100 ・・・ サイレントチェーン伝動装置
110 ・・・ サイレントチェーン
120 ・・・ ガイド列
130 ・・・ ガイドプレート
131 ・・・ ピン保持孔
140 ・・・ ミドルプレート
141、 241 ・・・ ピン孔
142 ・・・ リンク歯
143、 243 ・・・ シート面
150 ・・・ 非ガイド列
160 ・・・ インナープレート
161、 261 ・・・ ピン孔
162 ・・・ リンク歯
163、 263 ・・・ シート面
170 ・・・ ロッカーピン
171、 271 ・・・ 長ピン
171a、271a・・・ 転動面
172、 272 ・・・ 短ピン
172a、272a・・・ 転動面
180 ・・・ スプロケット
181 ・・・ スプロケット歯
182 ・・・ 歯底
I ・・・ 転動点間ピッチ
S ・・・ スプロケットピッチ
Pr ・・・ ピン転動点
Pc ・・・ 仮想交点
L ・・・ ピッチライン
VL ・・・ 仮想線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7