【実施例1】
【0019】
本発明の第1実施形態に係る
サイレントチェーン伝動装置100のサイレントチェーン110は、
図1に示すように、複数のガイド列120と複数の非ガイド列150とを、チェーン長手方向に半ピッチずらして交互に配置し、一対のロッカーピン170によって屈曲可能に連結したものであり、
図2にその一部を示すように、サイレントチェーン110がスプロケット180に掛け回され、本発明の第1実施形態に係るサイレントチェーン伝動装置100を構成する。
サイレントチェーン110のガイド列120は、チェーン幅方向の両外側に配置された左右一対のガイドプレート130と、左右一対のガイドプレート130の間に配置された複数のミドルプレート140とから構成されている。また、非ガイド列150は、チェーン幅方向に並列配置された複数のインナープレート160から構成されている。
【0020】
一対のロッカーピン170は、長ピン171及び短ピン172から構成されている。長ピン171及び短ピン172は、長さが異なる点を除いて同一形状のピンであるが、別の例として、チェーン幅方向に直交する平面での断面形状が互いに異なるピンであってもよい。
長ピン171及び短ピン172は、ミドルプレート140のピン孔141及びインナープレート160のピン孔161に遊嵌状態で一緒に挿入され、また、長ピン171の両端は、ガイドプレート130のピン保持孔131に固定されている。
【0021】
長ピン171及び短ピン172は、
図3に示すように、チェーン長手方向内側に形成された転動面171a、172aと、チェーン長手方向外側に形成された凹状の背面とをそれぞれ有し、また、ミドルプレート140のピン孔141及びインナープレート160のピン孔161は、チェーン長手方向外側に形成されピン姿勢を規制する凸状のシート面を有している。長ピン171及び短ピン172は、各転動面171a、172aを対向させるとともに、ピン171、172の各背面をピン孔141、161のシート面に着座させた状態で、ピン孔141、161に挿入されている。
ミドルプレート140及びインナープレート160は、スプロケット180のスプロケット歯181と噛み合うための一対のV字状のリンク歯142、162をスプロケット噛合側にそれぞれ有している。
【0022】
また、
図4に示すように、インナープレート160のピン孔161は、短ピン172の背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面163を有し、ミドルプレート140のピン孔141は、長ピン171の背面を着座させてピン姿勢を規制するチェーン長手方向外側に形成されたシート面143を有している。
そして、一対のロッカーピン171、172が転動面171a、172aで互いに接触した状態で、インナープレート160のピン孔161は、インナープレート160のシート面163と短ピン172の背面との間に隙間が形成される大きさを有し、ミドルプレート140のピン孔141は、ミドルプレート140のシート面143と長ピン171の背面との間に隙間が形成される大きさを有している。
すなわち、
図4に示すように、インナープレート160のシート面163に短ピン172の背面が着座し、ミドルプレート140のシート面143に長ピン171の背面が着座した状態では、転動面171a、172aの間に隙間ができるように構成されている。
【0023】
このような構成により、短ピン172は、チェーン長手方向の大きな張力がかかっていない状態では、前述の隙間分だけチェーン長手方向に自由に移動可能となり、非ガイド列のピッチが可変となるとともに、インナープレート160のチェーン長手方向の位置も移動可能となる。
また、ガイド列の長ピン171の間隔はガイドプレート130により固定されているため、ガイド列のピッチは変化しないが、前記隙間分だけミドルプレート140のチェーン長手方向の位置が移動可能となる。
そのため、サイレントチェーンに高負荷がかかった時や摩耗伸びが生じた時においても、重量によってサイレントチェーンがスプロケットに巻き付く領域や、スプロケット上においてサイレントチェーンに作用する荷重が小さくなる領域において、スプロケットに対するサイレントチェーンの巻き付きが良くなり、チェーン走行時におけるチェーン挙動が安定し、サイレントチェーンの弦振動音や噛合い音を低減することができる。
さらに、このことで、初期状態かつ低負荷状態における転動点間ピッチを、伸びを想定してスプロケットピッチ以下に設定する必要がなく、初期状態かつ低負荷状態でも、サイレントチェーンがスプロケットから張力を受けて巻き付く高負荷の領域において、歯飛びの発生を抑制するように設定することが可能となる。
【0024】
本実施形態における転動点間ピッチとスプロケットピッチとの関係の設定は、サイレントチェーン110をスプロケット180に低負荷状態で巻き掛けた状態で、
図5の表に示すように、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIが、スプロケットピッチSに等しくなるように設定されている。
ここで、上述した転動点間ピッチIとは、
図3に示すように、サイレントチェーン110をスプロケット180に低負荷状態で巻き掛けた状態で、ミドルプレート140及びインナープレート160のピン孔141、161に挿入された一対のロッカーピン170間の転動点をピン転動点Prとした場合に、チェーン長手方向に隣接するピン転動点Pr間の間隔のことである。
上述したスプロケットピッチSとは、各ピン転動点Prを通ってチェーン長手方向に延びるピッチラインLと、スプロケット180の回転中心(図示しない)及びスプロケット180の各歯底182を通る仮想線VLとの間の交点を仮想交点Pcとした場合に、チェーン長手方向に隣接する仮想交点Pc間の間隔のことである。
【0025】
このように、サイレントチェーン伝動装置100の各部材間のピッチ関係を設定した場合、サイレントチェーン110が初期状態かつ低負荷状態にある場合に、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIがスプロケットピッチSに等しくなり、一方、サイレントチェーン110に高負荷がかかった時や摩耗伸びが生じた時においても、その重量によってサイレントチェーン110がスプロケット180に巻き付く領域や、スプロケット180上においてサイレントチェーン110に作用する荷重が小さくなる領域において、転動点間ピッチIがスプロケットピッチSに等しくなる。
【0026】
上述したように本実施形態におけるピン孔とロッカーピンの寸法関係、及び、各部材間のピッチ関係を設定するための具体的な寸法、形状の関係を列挙する。
第1の具体例は、短ピン172の大きさや形状を調整することで前述の隙間が形成されるようにするとともに、非ガイド列150における転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整するものである。
この場合、従来と同じ構成のスプロケット180をそのまま使用することができるとともに、短ピン172以外のサイレントチェーン110のパーツをそのまま使用することができる。
【0027】
第2の具体例は、短ピン172又は長ピンの少なくとも一方の大きさや形状を調整することで前述の隙間が形成されるようにし、スプロケット180の歯形を調整することで、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整するものである。
この場合、従来と同じ構成のサイレントチェーン110をそのまま利用することができるとともに、ガイド列120及び非ガイド列150の両方について、転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整することができる。
【0028】
第3の具体例は、ミドルプレート140及びインナープレート160のピン孔141、161の形状や位置、及び、ガイドプレート130のピン保持孔131の形成位置を調整することで前述の隙間が形成されるようにし、ガイド列120及び非ガイド列150における転動点間ピッチIとスプロケットピッチSとの関係を調整するものである。
この場合、従来と同じ構成のスプロケット180をそのまま使用することができるとともに、プレート130、140、160以外のサイレントチェーン110のパーツをそのまま使用することができる。
なお、これらの具体例は、それぞれ単独で採用してもよく、適宜複数組み合わせてもよく、また、上述以外の構成で実現してもよい。
【実施例2】
【0029】
本発明の第2実施形態に係るサイレントチェーンは、
図6に示すように、ミドルプレート及びインナープレートのピン孔241、261のチェーン長手方向の径が、チェーン高さ方向の径より大きく設定されており、長ピン271、短ピン272の断面形状も、チェーン長手方向に厚いものとなっている。
そして、第1実施形態と同様に、一対のロッカーピン271、272が転動面271a、272aで互いに接触した状態で、インナープレート260のピン孔261は、インナープレート260のシート面263と短ピン272の背面との間に隙間が形成される大きさを有し、ミドルプレート240のピン孔241は、ミドルプレート240のシート面243と長ピン271の背面との間に隙間が形成される大きさを有している。
すなわち、
図6に示すように、インナープレート260のシート面263に短ピン272の背面が着座し、ミドルプレート240のシート面243に長ピン271の背面が着座した状態では、転動面271a、272aの間に隙間ができるように構成されている。
なお、第2実施形態に係るサイレントチェーンのその他の構成については第1実施形態と同様なので、
図6では、ピン孔とロッカーピンの関係の拡大図のみを図示した。
【0030】
このように構成することで、第1実施形態のサイレントチェーン110と同様の作用、効果を奏するとともに、シート面263と短ピン272との間及びシート面243と長ピン271に隙間ができた際に、シート面263、243の上下にできる隙間を小さくすることができるため、ミドルプレート及びインナープレートのチェーンの高さ方向へのがたつきが小さくなり、さらにチェーン走行時におけるチェーン挙動を安定化させ、歯飛びの発生を抑制するとともに、弦振動音や噛合い音を低減することができる。
なお、本実施形態におけるピン孔とロッカーピンの寸法関係、及び、各部材間のピッチ関係を設定するための具体的な寸法、形状の関係は、前述の第1実施形態における具体例と同様の手法で設定することができる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、上述した実施形態では、サイレントチェーンをスプロケットに低負荷状態で巻き掛けた状態で、非ガイド列及びガイド列の両方において、転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなるように設定されているものとして説明したが、非ガイド列のみにおいて、転動点間ピッチがスプロケットピッチに等しくなるように設定してもよい。