特許第6374736号(P6374736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6374736-地下構造物および地下構造物の施工方法 図000002
  • 特許6374736-地下構造物および地下構造物の施工方法 図000003
  • 特許6374736-地下構造物および地下構造物の施工方法 図000004
  • 特許6374736-地下構造物および地下構造物の施工方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374736
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】地下構造物および地下構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/02 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   E02D31/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-189110(P2014-189110)
(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公開番号】特開2016-61052(P2016-61052A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】達富 賢二
(72)【発明者】
【氏名】政氏 信之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲生
(72)【発明者】
【氏名】武田 澄誉
【審査官】 西田 光宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/073538(WO,A1)
【文献】 米国特許第04367057(US,A)
【文献】 特開昭58−069923(JP,A)
【文献】 特開平03−158524(JP,A)
【文献】 特開2004−278287(JP,A)
【文献】 特開平05−247929(JP,A)
【文献】 特開2012−007371(JP,A)
【文献】 特開2007−144272(JP,A)
【文献】 特開平06−220841(JP,A)
【文献】 特開平08−165642(JP,A)
【文献】 特開平11−061808(JP,A)
【文献】 特公昭48−006206(JP,B1)
【文献】 国際公開第2010/092782(WO,A1)
【文献】 特開昭50−079932(JP,A)
【文献】 特開平08−135031(JP,A)
【文献】 実開昭59−047750(JP,U)
【文献】 英国特許出願公開第02264739(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/06
E02D 5/04
E02D 5/06
E02D 5/14
E02D 5/18
E02D 5/20
E02D 27/34
E02D 29/045
E02D 29/16
E02D 31/02
E02D 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエレメントが連設されてなる連続地中壁と、
前記連続地中壁と一体に形成された躯体本体と、
前記躯体本体の下面縁部に沿って形成された導水路と、
前記連続地中壁と前記躯体本体との境界部において前記エレメント同士の継目を覆う止水部材と、を備える地下構造物であって、
前記止水部材は、前記継目に沿って打設されたセメント系材料の硬化体を備えており、当該止水部材の下端は前記導水路に接続していることを特徴とする、地下構造物。
【請求項2】
前記止水部材は、前記エレメント同士の継目を覆うカバー部材を備えており、
前記硬化体は、前記カバー部材および前記エレメントに囲まれた空間に充填されていることを特徴とする、請求項1に記載の地下構造物。
【請求項3】
カッティング方式により連続地中壁を形成する土留工程と、
前記連続地中壁を土留壁として地盤を掘削する掘削工程と、
地盤の掘削により露出した前記連続地中壁のエレメント同士の継目をカバー部材で覆う止水準備工程と、
前記連続地中壁の表面に沿って躯体本体を形成する躯体施工工程と、
前記カバー部材および前記連続地中壁に囲まれた空間に充填材を充填する止水工程と、を備えることを特徴とする、地下構造物の施工方法。
【請求項4】
前記止水準備工程では、前記継目に沿ってグラウトホースを設置した後、前記カバー部材を設置し、
前記止水工程では、前記グラウトホースを利用して充填材を充填することを特徴とする、請求項3に記載の地下構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物および地下構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続地中壁等からなる土留壁により囲まれた地下空間内において、地下構造物を構築する地下構造物の施工方法が知られている。
このような連続地中壁の施工方法として、例えば特許文献1に示すように、先行して形成された先行エレメントの端部を切削しながら溝を形成し、この溝内に後行エレメントを形成するカッティング方式が採用される場合がある。
【0003】
連続地中壁は、エレメント同士の継手部からの地下水の浸透が懸念される。
そのため、連続地中壁の表面に沿って地下構造物(躯体本体)を施工する場合には、連続地中壁の表面(連続地中壁と躯体本体との当接面)に防水工を施すことで、地下構造物への漏水を防止するのが一般的である。
【0004】
なお、地下構造物を構築する際に、土留壁として使用した連続地中壁を躯体の一部として本体利用すれば、躯体本体の断面形状の縮小化を図ることができるとともに、用地境界に近接して地下構造物を構築することによる用地の有効利用が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−102484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続地中壁を本体利用する場合に、連続地中壁と躯体本体との間に防水工が施されていると、連続地中壁と躯体本体との一体化が阻害されてしまう。一方、防水工を省略すると、エレメント同士の継手部からの漏水を防止することができない。
そのため、連続地中壁と躯体本体との一体化を可能とし、かつ、エレメント同士の継手部からの地下水の浸透を防止することを可能とした技術が求められている。
【0007】
このような観点から、本発明は、連続地中壁を本体利用する場合において連続地中壁からの漏水を防止することを可能とした地下構造物および地下構造物の施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の地下構造物は、複数のエレメントが連設されてなる連続地中壁と、前記連続地中壁と一体に形成された躯体本体と、前記躯体本体の下面縁部に沿って形成された導水路と、前記連続地中壁と前記躯体本体との境界部において前記エレメント同士の継目を覆う止水部材とを備えるものであって、前記止水部材は前記継目に沿って打設されたセメント系材料の硬化体を備えており、当該止水部材の下端は前記導水路に接続していることを特徴としている。
【0009】
かかる地下構造物によれば、エレメント同士の継目が止水部材により止水されているため、連続地中壁からの漏水が防止されている。また、エレメント同士の継目部のみが止水部材により覆われているため、連続地中壁と躯体本体との一体化が止水部材により阻害されることもない。
【0010】
前記止水部材が前記エレメント同士の継目を覆うカバー部材を備えており、前記硬化体が前記カバー部材および前記エレメントに囲まれた空間に充填されていれば、より確実にエレメント同士の継目を止水できる。
【0011】
また、本実施形態の地下構造物の施工方法は、カッティング方式により連続地中壁を形成する土留工程と、前記連続地中壁を土留壁として地盤を掘削する掘削工程と、地盤の掘削により露出した前記連続地中壁のエレメント同士の継目をカバー部材で覆う止水準備工程と、前記連続地中壁の表面に沿って躯体本体を形成する躯体施工工程と、前記カバー部材および前記連続地中壁に囲まれた空間に充填材を充填する止水工程とを備えることを特徴としている。
【0012】
かかる地下構造物の施工方法によれば、充填材によりエレメント同士の継目からの漏水を防止し、連続地中壁を本体利用した地下構造物を高品質に施工することができる。
【0013】
前記止水準備工程では、前記継目に沿ってグラウトホースを設置した後、前記カバー部材を設置し、前記止水工程では、前記グラウトホースを利用して充填材を充填するとよい。このようにすると、充填材充填時の施工性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の地下構造物および地下構造物の施工方法によれば、連続地中壁を本体利用する場合において、連続地中壁からの漏水を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る地下構造物の一部を示す横断面図である。
図2】同地下構造物の一部を示す平断面図である。
図3】(a)は地下構造物の継目を示す拡大平断面図、(b)は同継目の正面図である。
図4】(a)は本実施形態の地下構造物の施工方法の土留工程を示す斜視図、(b)は止水準備工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の地下構造物1は、図1および図2に示すように、連続地中壁2からなる土留壁を利用して形成されたボックスカルバート(躯体本体)10であって、連続地中壁2を本体の一部として利用している。
【0017】
ボックスカルバート10は、側面が連続地中壁2に当接した状態で形成されている。
ボックスカルバート10と連続地中壁2とは、図示しない連結部材(アンカーボルトや鉄筋等)を介して一体に形成されている。
【0018】
ボックスカルバート10は、鉄筋コンクリート造であって、図1に示すように、左右の本体壁11,11(図1では左側の本体壁11のみを表示)と、本体壁11の上下に配設された本体頂版12および本体底版13とにより、断面矩形状に形成されている。
なお、ボックスカルバート10を構成する材料は限定されるものではなく、コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。また、ボックスカルバート10の形状も限定されるものではない。また、ボックスカルバート10は、プレキャスト部材により形成されていてもよい。
【0019】
本実施形態のボックスカルバート10は中階床スラブ14を備えているが、中階床スラブ14は必要に応じて形成すればよい。また、中階床スラブ14の数は限定されるものではなく、複数段備えていてもよい。
【0020】
連続地中壁2は、地上から地中に向けて形成されたコンクリート製の壁体であって、図2に示すように、複数のエレメント21,21,…が横方向に連設されることにより形成されている。
本実施形態では、地上から溝を形成し、溝内に鉄筋籠を挿入した状態でコンクリートを充填することによりエレメント21を形成している。
エレメント21同士の境界である継目22には、止水部材3が設置されている。
【0021】
止水部材3は、連続地中壁2のボックスカルバート10側の側面(連続地中壁2とボックスカルバート10との境界部)において、継目22の全長を覆っている。
本実施形態の止水部材3は、継目22に沿って打設された硬化体31を備えている。
本実施形態では、硬化体31として、グラウトを利用するが、硬化体31を構成する材料は、セメント系材料であれば限定されない。
【0022】
硬化体31の外面は、図3の(a)に示すように、カバー部材32により覆われている。
カバー部材32は、継目22を覆うように連続地中壁2に固定された樋状の部材である。カバー部材32は、断面コ字状の本体部32aと、本体部32aの両端部から側方に向かって延設された取付部32b,32bとを備えている。
【0023】
カバー部材32は、隣り合うエレメント21,21の境界部を跨いだ状態で配置されている。カバー部材32の各取付部32bは、ボルト32cを介してエレメント21に固定されている。なお、カバー部材32の固定方法は限定されない。また、カバー部材32の断面形状も限定されない。
【0024】
硬化体31は、カバー部材32およびエレメント21,21により囲まれた空間に充填されることで、継目22に沿って形成されている。
【0025】
以下、本実施形態の地下構造物1の施工方法について説明する。
地下構造物1の施工方法は、土留工程と、掘削工程と、止水準備工程と、躯体施工工程と止水工程とを備えている。
【0026】
土留工程は、図4の(a)に示すように、連続地中壁2を形成する工程である。
連続地中壁2を構成する各エレメント21は、地盤を掘削することで形成された溝内に、鉄筋籠を挿入するとともにコンクリートを打設することにより形成されている。
【0027】
本実施形態の連続地中壁2は、いわゆるカッティング方式により形成する。カッティング方式では、先行して形成されたエレメント21の端部を切削しながら掘削された溝内に後行のエレメント21を形成することにより、隣り合うエレメント21同士を連続させる。
エレメント21同士の接合部に必要に応じて凹凸を形成してもよい。
【0028】
連続地中壁2は、掘削工程において床付け面まで掘削した際に、土圧により変形することがない耐力を発現する壁厚を有しているとともに、十分な根入れ深さを有した形状とする。
【0029】
掘削工程は、連続地中壁2を土留壁として地盤を掘削する工程である。
掘削工程により、ボックスカルバート10を施工するための空間を形成する。なお、掘削工程では、連続地中壁2の表面を露出させる。
【0030】
掘削工程では、必要に応じて、連続地中壁2とボックスカルバートとを接合するためのアンカーボルトや鉄筋等の連結部材(図示せず)を、連続地中壁2に植設する。
【0031】
本実施形態では、図1に示すように、床付け面の縁部に、導水路4を形成しておく。
導水路4は、連続地中壁2に沿って形成された溝42に有孔管からなる導水管41を配管することにより形成されている。溝41内の導水管4の周囲には、砕石43が充填されている。
なお、導水路4の構成は限定されない。
【0032】
止水準備工程は、図4の(b)に示すように、カバー部材32を設置する工程である。
止水準備工程では、まず、地盤の掘削により露出した連続地中壁2のエレメント21同士の継目22に沿ってグラウトホース33を配管し、次に、継目22およびグラウトホース33を覆うようにカバー部材32を設置する。
【0033】
なお、止水準備工程は、掘削工程と並行して行ってもよい。すなわち、カバー部材32およびグラウトホース33の連続地中壁2への設置は、地盤の掘削が所定の高さだけ進行するたびに実施してもよい。
【0034】
グラウトホース33は、ボックスカルバート10の頂部(頂版12の上部)から導水路4の上面に至る長さを有している。
また、カバー部材32と連続地中壁2との接合面(当接面)には、止水コーキングを行う。
【0035】
躯体施工工程は、連続地中壁2の表面に沿ってボックスカルバート10を形成する工程である。
本実施形態では、本体底版13、本体壁11、本体頂版12の順によりボックスカルバート10を形成する。
ボックスカルバート10は、連続地中壁2の植設された連結部材を巻き込んだ状態で形成する。
【0036】
止水工程は、カバー部材32および連続地中壁2に囲まれた空間に無収縮グラウト(充填材)を充填する工程である。
グラウトの注入は、グラウトホース33を利用して、空間の底部から行う。グラウトの注入は、カバー部材32の上端からグラウトが溢れ出すまで行う。
【0037】
グラウトに所定の強度が発現したら(硬化体31が形成されたら)ボックスカルバート10に覆土(埋め戻し)5を行う。なお、覆土5は、必要に応じて行えばよく、ボックスカルバート10の上面が地上に露出させる場合には、省略してもよい。
【0038】
本実施形態の地下構造物1によれば、エレメント21同士の継目22が止水部材3により止水されているため、連続地中壁2からの漏水が防止され、ひいては、ボックスカルバート10の表面からの漏水を防止することができる。
【0039】
また、エレメント21同士の継目部22のみが止水部材3により覆われているため、連続地中壁2とボックスカルバート10との一体化が止水部材3により阻害されることがない。
したがって、連続地中壁2を地下構造物1の一部として本体利用することが可能となり、ボックスカルバート10の小断面化を図ることができる。そのため、ボックスカルバート10の施工費の低減化および工期短縮化を図ることができる。
【0040】
硬化体31は、継目22を覆うように配設されたカバー部材32の内部にグラウトを注入することにより形成されているため、継目22を確実に封鎖している。
グラウトホース33を利用してグラウトを注入するため、カバー部材32と連続地中壁2との間に形成された空間へのグラウトを簡易かつ確実に充填することができる。
【0041】
止水部材3の下端が導水路4に接続しているため、止水工程前に継目22から漏水が発生した場合であっても、当該漏水は止水部材3により導水路4に誘導される。したがって、ボックスカルバートの施工等に悪影響を及ぼすこともない。なお、導水路4に誘導された水は、所定の位置に設けられた図示しないポンプにより排水する。
【0042】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態の地下構造物1は、必ずしもボックスカルバートである必要はなく、地下構造物1の構造や形状等は限定されない。
【0043】
また、連続地中壁2は、必ずしもカッティング方式により施工する必要はない。
前記実施形態では、止水部材3を継目22の全長にわたって配設する場合について説明したが、止水部材3は、ボックスカルバート(躯体本体)10に対応する範囲に対して継目22を覆っていれば良く、必ずしも継目22の全長を覆っている必要はない。
【符号の説明】
【0044】
1 地下構造物
10 ボックスカルバート(躯体本体)
11 本体壁
12 本体頂版
13 本体底版
14 中階床スラブ
2 連続地中壁
21 エレメント
22 継目
3 止水部材
31 硬化体
32 カバー部材
33 グラウトホース
図1
図2
図3
図4