特許第6374740号(P6374740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374740
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】洗浄液および洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20180806BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20180806BHJP
   C11D 1/90 20060101ALI20180806BHJP
   C11D 1/75 20060101ALI20180806BHJP
   C11D 3/04 20060101ALI20180806BHJP
   B41M 5/00 20060101ALN20180806BHJP
【FI】
   B41J2/165 401
   C11D17/08
   C11D1/90
   C11D1/75
   C11D3/04
   !B41M5/00 100
   !B41M5/00 120
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-191334(P2014-191334)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-60156(P2016-60156A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】森安 員輝
【審査官】 中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−067152(JP,A)
【文献】 特開2009−155424(JP,A)
【文献】 特開2000−127419(JP,A)
【文献】 特開2002−332442(JP,A)
【文献】 特開2004−292707(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103468055(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/1−2/215
B41M 5/00
C11D 1/75
C11D 1/90
C11D 3/04
C11D 17/08
B41M 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される前記水性インクジェットインクが付着する部位を洗浄するための洗浄液であり、
両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含み、
有機溶剤である芳香族炭化水素化合物およびケトン系化合物を含んでおらず、
pHが、9〜12であり、
前記両性界面活性剤は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種であり、洗浄液全量に対して0.1〜3質量%含有される、洗浄液。
【請求項2】
前記両性界面活性剤は、少なくともジメチルラウリルアミンオキサイドを含む、請求項1記載の洗浄液。
【請求項3】
前記塩基性化合物は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項1または2記載の洗浄液。
【請求項4】
前記顔料は、前記水性インクジェットインク全量に対して8〜12質量%含有される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項5】
前記アルカリ可溶性樹脂の酸価は、100〜200mgKOH/gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項6】
顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される前記水性インクジェットインクが付着する部位を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄方法であり、
前記洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種である両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含み、pHが、9〜12であり、有機溶剤である芳香族炭化水素化合物およびケトン系化合物を含んでおらず、
前記両性界面活性剤は、前記洗浄液の全量に対して0.1〜3質量%含有され、
前記水性インクジェットインクが付着する部位に、前記洗浄液を供給する、洗浄方法。
【請求項7】
顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される前記水性インクジェットインクが付着する部位を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄方法であり、
前記洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種の両性界面活性剤と水とを含む第1剤と、塩基性化合物と水とを含む第2剤とからなり、
前記洗浄液は、前記第1剤および前記第2剤が少なくとも前記水性インクジェットインクが付着する部位において共存し、pHが9〜12となり、供給された前記洗浄液の全量に対する前記両性界面活性剤の含有量が0.1〜3質量%となるよう供給される、洗浄方法。
【請求項8】
前記第1剤および前記第2剤は、前記水性インクジェットインクが付着する部位において混合されるように供給される、請求項7記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記第1剤および前記第2剤は、あらかじめ混合されてから前記水性インクジェットインクが付着する部位に供給される、請求項7記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記両性界面活性剤は、少なくともジメチルラウリルアミンオキサイドを含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液および洗浄方法に関する。より詳細には、本発明は、顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される水性インクジェットインクが付着する部位を洗浄するための洗浄液および洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方式は、インクジェットプリンターを利用して、非常に微細なノズルからインク液滴を印刷用基材に向けて吐出し、文字や図柄等の着色画像を形成する方式である。インクジェット印刷方式は、製版工程を必要とせず、極めて簡単な装置の構成で高品位な印刷を行うことができる。そのため、インクジェット印刷方式は、他の方式で得難い数多くの利点を有する。インクジェット印刷方式を採用したインクジェットプリンターは、個人や家庭といったパーソナルユースの分野において、圧倒的に支持されている。
【0003】
一方、産業用途では、パーソナルユースとは比較にならないほど多量の印刷物が製造され、他にも数々の性能が要求される。まず、製造効率を高めるために、高速印刷適性が、不可欠である。また、印刷された印刷物は、すぐに巻き取りや重ね合わせをされる。そのため、印刷物は、印刷面が汚損されず、かつ、印刷面と接触している印刷用紙の裏面を着色しないように、充分に乾燥されることが必要である。さらに、印刷物は、印刷コストが抑えられることも重要である。特に、産業用途における印刷物は、パーソナルユースのような専用紙を利用しなくても、充分な印刷品位が達成されなければならない。もちろん、産業用途における印刷物を作成するためのインクは、本来のインクジェット印刷方式で要求されるインク性能も備えていなければならない。その代表的な性能として、経時的な保存安定性、ノズル詰まりを起こさずに安定して吐出できる吐出信頼性、液滴が目的とする位置に正確に着弾するための飛翔性、印刷物の耐水性、耐擦過性等がある。
【0004】
以上のように、産業用途でインクジェット印刷方式を利用するためには、インクとして改善すべき性能が多く残されている。しかしながら、最近の印刷業界における印刷物の多品種少ロット化の流れ等を考慮すると、インクジェット印刷方式は、印刷速度と、低コストの印刷用紙における印刷品位とが改善されれば、他の印刷方式と競合してなお利用される価値は高い。そこで、インクジェット印刷方式を産業用途で利用する取り組みとして、印刷装置、インク、印刷方法等の種々の面から、高速印刷や低コストの印刷用紙における美粧印刷を実現する技術が積極的に開発されている。
【0005】
まず、高速印刷を実現させるためには、より短時間のうちに多くのインク液滴が、所定の場所に吐出されなければならない。そこで、インク液滴を吐出するノズルを増やす試みがされている。具体的には、固定式ラインヘッドを用いたシングルパス印刷方式が開発されている。しかしながら、インクジェット印刷方式は、ノズル内にインクを充填し終えるまで液滴として吐出できないという機構上の制約がある。そのため、インクジェット印刷方式では、次の吐出までに、少なくともノズルにインクが充填される時間分のタイムラグが発生する。そこで、さらに高速で印刷するために、インクがノズルに速く充填し終えられるよう、インク自身の性能を改善することが検討されている。たとえば、インクを低粘度化する試みがされている。
【0006】
次に、低コスト化を実現するために、印刷用紙として、印字適性を高めるような特別な処理が行われていない、安価な普通紙や通常のオフセット紙等の未コート紙を利用することが検討されている。しかしながら、このような印刷用紙は、紙の繊維が疎であり、インクの液状成分が紙(繊維)中に深く浸透しやすい。この傾向は、低粘度化されたインクが使用される場合に顕著となる。インクの液状成分とともに着色成分が紙中に浸透すると、印刷画像の濃度や鮮明性が低下する。インクの液状成分が紙の表面で繊維に沿って広がると、にじみが発生する。いずれも、印刷物の印字品位が損なわれる。したがって、普通紙や通常のオフセット紙を利用する場合、濃度や鮮明性の低下とにじみとを発生させないような対策が求められる。
【0007】
インクを低粘度化することと、着色成分の紙への浸透を抑制すること、また、乾燥性と、吐出信頼性とを同時に向上させることは、それぞれ、インクの物性を正反対の方向に変化させなければ改善し得ない課題である。そのため、これらの相反する課題を同時に向上させることは、困難である。
【0008】
そこで、水性インクにおいて、インクを低粘度化し、速乾性および着色成分の紙への浸透抑制を実現するため、紙面に着弾したときに系中から水性媒体を早期に離脱させる方法が検討されている。たとえば、顔料濃度を可能な限り高くしつつ、インクの低粘度を維持するようにバインダー樹脂として、長鎖アルキル基や芳香環等の疎水性の高い部位を分子内に導入し、低酸価に設計したアルカリ可溶性樹脂をできる限り少量で使用する技術はその一つである。さらに、この技術により低下しやすい保存安定性や吐出信頼性については、顔料の表面にこのバインダー樹脂を析出させて顔料の表面を被覆することにより維持する技術が検討されている。
【0009】
しかしながら、このような方法によれば、インクが乾燥して固化したときに、再溶解し難い。そして、長時間、インクが吐出されないまま放置されていたインクジェットプリンター等では、インクの乾燥皮膜がヘッド(ノズル口の付近)やノズルの中に形成される。乾燥皮膜は、インクの飛行曲がりやノズル詰まりの原因となりやすい。
【0010】
そこで、ヘッドやノズルの中に溜まったインクの乾燥皮膜を除去するために、インクの洗浄液を利用する方法が、提案されている。たとえば、特許文献1には、異なる界面活性剤を含む2種の洗浄水からなる2液型インクジェットヘッド洗浄液を利用する方法が開示されている。特許文献2には、界面活性剤、塩基性化合物、水を含有し、かつ洗浄液のpHが9以上であるインクジェット記録ヘッド用ノズル洗浄液が開示されている。特許文献3には、アルカリ剤、アルキルアミンオキシドおよび特定の有機溶剤を含有する水系洗浄剤を用いて硬質表面を洗浄する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−155424号公報
【特許文献2】特開2000−127419号公報
【特許文献3】特開2012−067152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の洗浄液は、洗浄効果が弱い。そのため、メンテナンスに時間がかかる。また、この洗浄液は、特に顔料濃度を高くし、バインダー樹脂として、再溶解性の乏しいアルカリ可溶性樹脂を使用する技術が適用されたインクや、ヘッドやノズルの中でインク皮膜が固化したときなど、洗浄が厳しい条件では充分な洗浄効果が得られない。特許文献2に記載の洗浄液は、洗浄能力に大きなばらつきがある。この洗浄液は、特に上記のような洗浄が厳しい条件では、相対的に洗浄能力が低い。特許文献3に記載の洗浄方法は、ベンゼンやトルエン等の芳香族炭化水素化合物や、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系化合物等の有機溶剤を含む洗浄液を使用する。そのため、特許文献3に記載の洗浄方法は、ポリマー部材を多く使用するインクジェットプリンターに適用する場合に、洗浄液の接液部が有機溶剤に侵される。
【0013】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、有機溶剤を必須とせず、水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、水性インクジェットインクが付着する部位を洗浄してインクの乾燥皮膜を溶解でき、吐出不良を改善することのできる充分な洗浄効果を有する洗浄液および洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。すなわち、本発明者らは、空気が疎水性であるため、インクの乾燥皮膜は、表面に顔料やバインダー樹脂(分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂を含む)の疎水性の部位が多く露出し、樹脂の酸基がインク皮膜の内側に向いたような構造をしているものと推測した。また、本発明者らは、インクを低粘度に維持したままで速乾性を持たせるよう、顔料濃度を高くし、かつ、バインダー樹脂として、疎水性の高い部位を分子内に導入したアルカリ可溶性樹脂を用いる場合(特に低酸価のアルカリ可溶性樹脂を少量使用する場合)、乾燥皮膜の表面においてインクを再溶解させるために作用する部位(たとえば酸基)が必然的に減少し、ますます洗浄しにくくなると推測した。
【0015】
インクの乾燥皮膜を速やかに溶解させて除去(洗浄)するためには、アルカリ可溶性樹脂の酸基と、洗浄液中に含まれる塩基性化合物との塩をより速く形成させる必要がある。そのため、上記推測に従えば、洗浄液は、顔料やバインダー樹脂の疎水性の部位が表面に多く露出した状態で、アルカリ可溶性樹脂に湿潤する機能が重要であると推測される。界面活性剤は、洗浄液の表面張力を低下させ、疎水性の表面との湿潤性を高める。
【0016】
しかしながら、本発明者らが検討を続ける中で、上記のような厳しい洗浄条件では、単に洗浄液の表面張力を低下させたからといって充分な洗浄ができず、材料の選択性があることが分かった。すなわち、たとえば乾燥皮膜が強固に形成されている場合には、界面活性剤の種類によっては何ら洗浄効果が得られず、乾燥皮膜を充分に洗浄し得ないことが分かった。そこで、本発明者らは、洗浄液中に含まれる塩基性化合物がインク皮膜の内側に向いたバインダー樹脂の酸基と塩を形成するために、さらに洗浄液が浸透できるだけのバインダー樹脂の分子間距離を広げる機能(樹脂を膨潤させる力)が必要になると推測した。そして、本発明者らは、洗浄液の成分として利用する、分子内に疎水性の部位(一般的には長鎖アルキル基や芳香環)と親水性の部位(一般的にはイオン性基やポリエチレン鎖)とを有する化合物の中でも、バインダー樹脂の疎水性の部位との間でより高い吸着力を持ち、親水性の部位では水の分子をより多く集められるという観点から、両性界面活性剤として作用する化合物を重点的に検討し、上記のような厳しい洗浄条件においても充分な洗浄性を有する洗浄液が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、上記課題を解決する本発明の洗浄液および洗浄方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0018】
(1)顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される前記水性インクジェットインクが付着する部位(以下、単に付着部位と記載することもある)を洗浄するための洗浄液であり、両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含み、pHが、9〜12であり、前記両性界面活性剤は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種であり、洗浄液全量に対して0.1〜3質量%含有される、洗浄液。なお、付着部位は、吐出されるインクが付着し得る部位であれば特に限定されない。このような付着部位としては、インクタンクに貯留されたインクがヘッドに設けられたノズルの噴射孔から吐出されるまでに、インクが通過する内部経路、ヘッドの表面、ノズルの噴射孔周囲等が例示される。
【0019】
このような構成によれば、洗浄液は、有機溶剤を必須としない。また、洗浄液は、両性界面活性剤として、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種を含む。洗浄液は、塩基性化合物を含み、pHが9〜12に調整されている。このような洗浄液は、労働衛生上の問題を発生しにくく、かつ、水性インクジェットインクの付着部位(たとえばヘッドの部材等)を腐食させにくく、付着部位を充分に洗浄してインクの乾燥皮膜を溶解でき、吐出不良を改善することができる。その結果、たとえば長期間においてインクが吐出されないまま放置されていたインクジェットプリンターにおいて付着部位にインクの乾燥皮膜が付着して吐出不良を起こし得る状態であっても、洗浄液は、その付着部位におけるインクの乾燥皮膜等を除去することができる。したがって、洗浄液が使用されたインジェットプリンターは、その後、インクを正常に吐出することができる。さらに、洗浄液は、このような両性界面活性剤が洗浄液全量に対して0.1〜3質量%含有される。このような洗浄液は、泡立ちが発生しにくく、取扱性がよい。
【0020】
(2)前記両性界面活性剤は、少なくともジメチルラウリルアミンオキサイドを含む、(1)記載の洗浄液。
【0021】
このような構成によれば、洗浄液は、インクの乾燥皮膜が強固に形成されている場合であっても、充分に溶解して除去することができる。
【0022】
(3)前記塩基性化合物は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、(1)または(2)記載の洗浄液。
【0023】
このような構成によれば、洗浄液は、pHが9〜12に調整されやすい。また、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムは、強塩基である。そのため、洗浄液は、洗浄効果が高められやすい。
【0024】
(4)前記顔料は、前記水性インクジェットインク全量に対して8〜12質量%含有される、(1)〜(3)のいずれかに記載の洗浄液。
【0025】
このような構成によれば、顔料は、水性インクジェットインク中に多く含有される。このような水性インクジェットインクは、インクをより少ない液滴の量で印字しても色濃度が維持できる。その結果として、印刷用紙への液状成分の転移が少なくなり、速乾性や着色成分の紙への浸透抑制に対しても有利になる。他方、インクを低粘度のままで維持するには、インク中の固形分の総量を一定に保つことが必要になる。したがって、不溶解成分である顔料の含有量が多くなった代わりに、溶解成分であるアルカリ可溶性樹脂の含有量を減じなければならなくなる。それらの分が相まって、このような水性インクジェットインクは、再溶解性の乏しい乾燥皮膜を形成しやすく、吐出不良を起こしやすい。しかしながら、本発明の洗浄液は、充分な洗浄性を有するため、このようなインクの乾燥皮膜であっても洗浄して除去することができる。
【0026】
(5)前記アルカリ可溶性樹脂の酸価は、100〜200mgKOH/gである、(1)〜(4)のいずれかに記載の洗浄液。
【0027】
このような構成によれば、アルカリ可溶性樹脂の酸価は、比較的低い。そのため、水性インクジェットインクは、系外への水性媒体の離脱が起こりやすくなり、乾燥性に優れる。一方、このような水性インクジェットインクは、インクの乾燥皮膜を再溶解させるために作用する部位(酸基等)が減少しやすい。しかしながら、本発明の洗浄液は、アルカリ可溶性樹脂の分子中に含まれる酸基に対して、洗浄液中に含まれる塩基性化合物の塩基性基を効率的に反応させ、塩を形成させる能力が高い。そのため、このようなインクの乾燥皮膜であっても洗浄して除去することができる。
【0028】
(6)顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される前記水性インクジェットインクが付着する付着部位を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄方法であり、前記洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種である両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含み、pHが、9〜12であり、前記両性界面活性剤は、前記洗浄液の全量に対して0.1〜3質量%含有され、前記水性インクジェットインクが付着する部位に、前記洗浄液を供給する、洗浄方法。
【0029】
このような構成によれば、洗浄方法は、有機溶剤を必須としない洗浄液を使用する。また、洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種である両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含み、pHが、9〜12である。両性界面活性剤は、洗浄液の全量に対して0.1〜3質量%含有される。このような洗浄液を用いる洗浄方法によれば、労働衛生上の問題が発生しにくく、かつ、付着部位(たとえばヘッドの部材等)が腐食されにくく、付着部位が充分に洗浄されて、インクの乾燥皮膜が溶解し、吐出不良が改善される。その結果、たとえば長期間においてインクが吐出されないまま放置されていたインクジェットプリンターにおいて付着部位にインクの乾燥皮膜が付着して吐出不良を起こし得る状態であっても、その付着部位におけるインクの乾燥皮膜等は、洗浄方法を実施することにより除去され得る。したがって、洗浄方法が実施されたインジェットプリンターは、その後、インクを正常に吐出することができる。さらに、洗浄液は、両性界面活性剤が洗浄液全量に対して0.1〜3質量%含有されている。このような洗浄液は、泡立ちが発生しにくく、取扱性がよい。
【0030】
(7)顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出される前記水性インクジェットインクが付着する付着部位を、洗浄液を用いて洗浄する洗浄方法であり、前記洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種の両性界面活性剤と水とを含む第1剤と、塩基性化合物と水とを含む第2剤とからなり、前記洗浄液は、前記第1剤および前記第2剤が少なくとも前記付着部位において共存し、pHが9〜12となり、供給された前記洗浄液の全量に対する前記両性界面活性剤の含有量が0.1〜3質量%となるよう供給される、洗浄方法。
【0031】
このような構成によれば、洗浄方法は、有機溶剤を必須としない洗浄液を使用する。また、洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種の両性界面活性剤と水とを含む第1剤と、塩基性化合物と水とを含む第2剤とからなる。このような洗浄液は、水性インクジェットインクが付着する付着部位において、第1剤と第2剤とが共存するよう供給される。付着部位に供給された状態において、洗浄液は、pHが9〜12に調整され、かつ、両性界面活性剤の含有量が0.1〜3質量%となる。このような洗浄液を用いる洗浄方法によれば、労働衛生上の問題が発生しにくく、かつ、付着部位(たとえばヘッドの部材等)が腐食されにくく、付着部位が充分に洗浄されて、インクの乾燥皮膜が溶解し、吐出不良が改善される。その結果、たとえば長期間においてインクが吐出されないまま放置されていたインクジェットプリンターにおいて付着部位にインクが付着して吐出不良を起こし得る状態であっても、付着部位におけるインクの乾燥皮膜等は、洗浄方法を実施することにより除去され得る。したがって、洗浄方法が実施されたインジェットプリンターは、その後、インクを正常に吐出することができる。さらに、洗浄液は、付着部位に供給された状態において、両性界面活性剤が洗浄液全量に対して0.1〜3質量%含有される。このような洗浄液は、泡立ちが発生しにくく、取扱性がよい。
【0032】
(8)前記第1剤および前記第2剤は、前記付着部位において混合されるように供給される、(7)記載の洗浄方法。
【0033】
このような構成によれば、第1剤および第2剤は、付着部位において混合されるように供給される。そのため、第1剤および第2剤は、付着部位における乾燥皮膜の厚みの程度等を考慮して、適切なpHや両性界面活性剤の濃度となるよう供給され得る。
【0034】
(9)前記第1剤および前記第2剤は、あらかじめ混合されてから前記付着部位に供給される、(7)記載の洗浄方法。
【0035】
このような構成によれば、第1剤および第2剤は、あらかじめ混合されてから付着部位に供給される。すなわち、第1剤および第2剤は、別々に調製された後、付着部位に供給されるまでに適宜混合される。一剤化された洗浄液は、取扱性がよい。また、洗浄方法は、乾燥皮膜の厚みの程度等を考慮して、適切なpHや両性界面活性剤の濃度となるよう第1剤および第2剤を混合してから、付着部位に供給することができる。
【0036】
(10)前記両性界面活性剤は、少なくともジメチルラウリルアミンオキサイドを含む、(6)〜(9)のいずれかに記載の洗浄液。
【0037】
このような構成によれば、洗浄方法は、ジメチルラウリルアミンオキサイドを含む洗浄液を使用する。これにより、インクの乾燥皮膜が強固に形成されている場合であっても、乾燥皮膜は、充分に溶解されて除去される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、有機溶剤を必須とせず、水性インクジェットインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、水性インクジェットインクが付着する付着部位を洗浄してインクの乾燥皮膜を溶解でき、吐出不良を改善することのできる充分な洗浄効果を有する洗浄液および洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[洗浄液]
本発明の一実施形態の洗浄液について詳細に説明する。本実施形態の洗浄液は、顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有する水性インクジェットインク(以下、単にインクともいう)を吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出されるインクが付着する付着部位を洗浄するための洗浄液である。また、本実施形態の洗浄液は、両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含む。
【0040】
<両性界面活性剤>
両性界面活性剤は、インクを溶解させて除去するために洗浄液に配合される。本実施形態の洗浄液は、界面活性剤の中でも特に、両性界面活性剤を含む。さらに、両性界面活性剤は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種である。両性界面活性剤は、これらの中でも、インクの乾燥皮膜が強固に形成されている場合であっても、充分に溶解して除去することができる点から、ジメチルラウリルアミンオキサイドが含まれるよう選択されることが好ましく、ジメチルラウリルアミンオキサイドが他の両性界面活性剤よりも多く含まれることがより好ましい。そして、ジメチルラウリルアミンオキサイドを単独で使用することはさらに好ましい。
【0041】
両性界面活性剤の含有量は、洗浄液全量に対して0.1質量%以上であればよく、0.5質量%以上であることが好ましい。また、両性界面活性剤の含有量は、洗浄液全量に対して3質量%以下であればよく、洗浄性の向上が見込めない等による費用対効果の低下が起こらない含有量にとどめることがより好ましい。両性界面活性剤の含有量が0.1質量%未満の場合、洗浄液は、洗浄性が低下する。一方、両性界面活性剤の含有量が3質量%を超える場合、洗浄液は、泡立ちが発生しやすく取扱性が劣りやすい。また、洗浄液は、両性界面活性剤の含有量が3質量%を超える場合、洗浄性の向上が見込めず、かつ、労働衛生上の取扱いに支障が出やすい。
【0042】
<塩基性化合物>
塩基性化合物は、pHを後述する範囲に調整し、両性界面活性剤による洗浄力を高めるために洗浄液に配合される。本実施形態の塩基性化合物としては特に限定されない。塩基性化合物としては、無機性または有機性の塩基性化合物が例示される。無機性の塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物が例示される。有機性の塩基性化合物としては、低分子量の1級、2級または3級の有機アミン化合物が例示される。これらの中でも、塩基性化合物は、強塩基であり、かつ、洗浄効果を充分に高め得る点から、アルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムがより好ましい。
【0043】
塩基性化合物の含有量は、洗浄液のpHを後述する範囲に調整するために必要な量であればよい。このような含有量は、塩基性化合物自体の塩基性の強さや他の材料に酸成分や塩基性成分を含むこと等により変動し得る。
【0044】
<水>
水は、上記した両性界面活性剤や塩基性化合物を溶解するために配合される。水としては、精製水、イオン交換水等が例示される。水の含有量は、両性界面活性剤や塩基性化合物を溶解し得る量であればよく、特に限定されない。
【0045】
<任意成分>
本実施形態の洗浄液は、上記した両性界面活性剤、塩基性化合物および水に加えて、インクの性能を低下させない範囲において任意成分を含んでもよい。任意成分としては、水性インクジェットプリンターの構成部品として使用されている樹脂製の部材等を溶解しない有機溶剤、防腐剤、上記した両性界面活性剤以外の界面活性剤、消泡剤等が例示される。なお、水性インクジェットプリンターの構成部品を侵す可能性のある有機溶剤は、当該部材を侵さないよう配合量が制限されることが好ましく、配合されないことがより好ましい。
【0046】
洗浄液の説明に戻り、本実施形態の洗浄液を調製する方法は、特に限定されない。洗浄液は、上記した各成分をすべて混合することにより一剤化されてもよく、上記した両性界面活性剤と水とを混合した第1剤と、上記した塩基性化合物と水とを混合した第2剤とを別々に調製してもよい。第1剤および第2剤がそれぞれ別々に調製される場合、本実施形態の洗浄液は、付着部位に供給された際にこれらが混合されていればよい。
【0047】
本実施形態の洗浄液のpH(洗浄液が第1剤および第2剤として別々に調製される場合には、混合された状態におけるpH)は、9〜12である。洗浄液は、pHが9未満の場合、洗浄性が低下しやすい。一方、洗浄液は、pHが12を超える場合、労働衛生上の問題を発生しやすく、かつ、付着部位(たとえばヘッドの部材等)を腐食させやすい。
【0048】
このように調製された洗浄液は、顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有するインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出されるインクが付着する付着部位を洗浄するために使用される。アルカリ可溶性樹脂は、顔料に対するバインダー樹脂として配合される。洗浄液を用いた洗浄方法は、後述される。
【0049】
<顔料>
インクを構成する顔料としては特に限定されない。顔料としては、各種無機顔料および有機顔料が挙げられる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、ベンガラ、黒鉛、鉄黒、酸化クロムグリーン、水酸化アルミニウム等が挙げられる。有機顔料としては、染料レーキ顔料、アゾ系、ベンズイミダゾロン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ系、チオインジゴ系、ペリレン系、ペリノン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、ニトロ系、ニトロン系、アンスラキノン系、フラバンスロン系、キノフタロン系、ピランスロン系、インダンスロン系の顔料等が挙げられる。これら顔料は、併用されてもよい。
【0050】
インク中の顔料の含有量としては特に限定されない。ここで、顔料がインク中に多く含有される場合、インクをより少ない液滴の量で印字しても色濃度が維持できる。その結果として、印刷用紙への液状成分の転移が少なくなり、速乾性や着色成分の紙への浸透抑制に対しても有利になる。他方、インクを低粘度のままで維持するには、インク中の固形分の総量を一定に保つことが必要になる。したがって、不溶解成分である顔料の含有量が多くなれば、代わりに溶解成分であるアルカリ可溶性樹脂の含有量を減じなければならなくなる。それらの分が相まって、このようなインクは、再溶解性の乏しい乾燥皮膜を形成しやすく、吐出不良を起こしやすい。しかしながら、本実施形態の洗浄液は、充分な洗浄性を有するため、このような顔料を多く含むインクの乾燥皮膜であっても洗浄して除去することができる。具体的には、洗浄液は、顔料がインク全量に対して8〜12質量%含有されたインクの乾燥皮膜であっても、充分に洗浄して除去することができる。
【0051】
<アルカリ可溶性樹脂>
アルカリ可溶性樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)マレイン酸(モノアルキルエステル)等のカルボキシル基含有単量体と、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数が8以上のアルキル基含有単量体、ドデシルビニルエーテル等の炭素数が8以上のアルキルビニルエーテル類、ビニル2−エチルヘキサノエート、ビニルラウレート、ビニルステアレート等の炭素数が8以上のアルキルビニルエステル類、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環族炭化水素基含有単量体、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−スチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素基含有単量体等の疎水性基含有単量体とを共重合して得られるアルカリ可溶性樹脂が挙げられる。
【0052】
アルカリ可溶性樹脂の含有量としては、たとえば顔料100質量部に対して10〜60質量部程度である。
【0053】
アルカリ可溶性樹脂の酸価としては特に限定されない。ここで、アルカリ可溶性樹脂の酸価が低い場合、系外への水性媒体の離脱が起こりやすくなり、乾燥性に優れるという特徴を有する。一方、このようなインクは、インクの乾燥皮膜を再溶解させるために作用する部位が減少しやすい。しかしながら、本実施形態の洗浄液は、アルカリ可溶性樹脂の分子中に含まれる酸基に対して、洗浄液中に含まれる塩基性化合物の塩基性基を効率的に反応させ、塩を形成させる能力が高いため、このようなインクの乾燥皮膜であっても洗浄して除去することができる。具体的には、洗浄液は、酸価が100〜200mgKOH/gであるアルカリ可溶性樹脂が含有されたインクの乾燥皮膜であっても、充分に洗浄して除去することができる。
【0054】
インクの説明に戻り、本実施形態のインクでは、上記した顔料は、塩基性化合物の存在下にアルカリ可溶性樹脂を水中に溶解した水性樹脂ワニスと混合され、分散機で混練された後、酸析法やイオン交換法等により顔料表面にアルカリ可溶性樹脂が析出した樹脂被覆顔料に調製されてから使用される。このようなインクは、顔料を高含有させることができ、かつ、酸価の低いアルカリ可溶性樹脂を少量配合して調製することができる。その結果として、インクは、低粘度で速乾性を有し、高速印字に適用可能になる。また、インクは、高価な専用紙を利用しなくても優れた印字品位が得られ、保存安定性や耐水性が良好である等の優れた性能を有している。
【0055】
一方、このようなインクは、顔料を高含有する場合や酸価の低いアルカリ可溶性樹脂を少量配合している場合は特に、乾燥固化したときの飛行曲がりやノズル詰まりが起こりやすい。しかしながら、本実施形態の洗浄液によれば、洗浄液は、上記した両性界面活性剤を含み、塩基性化合物によりpHが9〜12に調整されている。このような洗浄液は、労働衛生上の問題を発生しにくく、かつ、付着部位(たとえばヘッドの部材等)を腐食させにくく、付着部位を充分に洗浄してインクの乾燥皮膜を溶解でき、吐出不良を改善することができる。その結果、たとえば上記したインクが長期間において吐出されずに放置されていたインクジェットプリンターにおいて付着部位にインクが付着して吐出不良を起こし得る状態であっても、洗浄液は、付着部位におけるインクの乾燥皮膜等を除去することができる。したがって、洗浄液が使用されたインジェットプリンターは、その後、インクを正常に吐出することができる。
【0056】
[洗浄方法]
次に、本発明の一実施形態の洗浄方法について詳細に説明する。本実施形態の洗浄方法は、顔料と、分子内に酸基を有するアルカリ可溶性樹脂とを含有するインクを吐出するインクジェットプリンターにおいて、吐出されるインクが付着する付着部位を、洗浄液を用いて洗浄する方法である。このような洗浄液は、1剤であってもよく、2剤であってもよい。なお、以下の説明において、洗浄液やインクを構成する各成分は、上記洗浄液の実施形態において上記したものと同じである。そのため、詳細な説明は適宜省略される。
【0057】
<洗浄液が1剤である場合>
1剤である場合、洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種である両性界面活性剤と、塩基性化合物と、水とを含む。洗浄液は、pHが9〜12に調整されている。また、洗浄液の全量に対する両性界面活性剤の含有量は、0.1〜3質量%に調整されている。
【0058】
このような洗浄液を用いる洗浄方法によれば、労働衛生上の問題が発生しにくく、かつ、付着部位(たとえばヘッドの部材等)が腐食されにくく、付着部位が充分に洗浄されて、インクの乾燥皮膜が溶解し、吐出不良が改善される。その結果、たとえば長期間においてインクが吐出されないまま放置されていたインクジェットプリンターにおいて付着部位にインクが付着して吐出不良を起こし得る状態であっても、付着部位におけるインクの乾燥皮膜等は、洗浄方法を実施することにより除去され得る。したがって、洗浄方法が実施されたインジェットプリンターは、その後、インクを正常に吐出することができる。さらに、洗浄液は、両性界面活性剤が洗浄液全量に対して0.1〜3質量%含有される。このような洗浄液は、泡立ちが発生しにくく、取扱性がよい。
【0059】
1剤化された洗浄液を付着部位に供給する方法は、特に限定されない。たとえば、洗浄液を、布等に含浸させれば、洗浄方法は、洗浄液を、付着部位に付着したインクやその乾燥皮膜を直接拭き取るように供給することができる。作業者は、このような布を用いて付着部位に付着したインクを拭き取ってもよい。また、洗浄液を吸収し得る部位(たとえばスポンジ等)を備える洗浄機構が、水性インクジェットプリンターに付設されてもよい。この場合、インクジェットプリンターは、スポンジ等に洗浄液を適宜吸収させ、付着部位に付着したインクを拭き取るよう(ワイピング)構成されてもよい。この場合、乾燥皮膜は、乾燥皮膜を溶解させて除去する化学的手法に加え、付着部位からインクを剥がし取る物理的手法により除去され得る。さらに、たとえば洗浄液を容器に貯留すれば、洗浄方法は、貯留した洗浄液中に、付着部位(ヘッドの部材等)を浸漬させることにより、付着部位に洗浄液を連続的に供給することができる。他にも、洗浄液は、インクと同様にノズル内に充填されて使用されてもよい。また、洗浄液は、付着部位に対して吹き付けて供給されてもよい。なお、付着部位として、特にインクの乾燥皮膜が形成されやすいノズル内およびノズルの噴射孔周囲は、洗浄が重点的に行われる部位である。また、洗浄方法は、洗浄すべき付着部位の場所に応じて適宜選択される。たとえば、ノズル内とノズル噴射孔の周辺を洗浄する場合には、ノズルから洗浄液を吐出させる洗浄方法が好適に採用される。他方、ノズル噴射孔の周辺を含むヘッドの吐出孔側のほぼ全面を洗浄する場合には、ワイピングが好適に採用される。
【0060】
<洗浄液が2剤である場合>
2剤である場合、洗浄液は、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインおよび2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインからなる群から選択される少なくとも1種の両性界面活性剤と水とを含む第1剤と、塩基性化合物と水とを含む第2剤とからなる。洗浄液は、第1剤および第2剤が少なくとも付着部位において共存し、pHが9〜12となり、供給された洗浄液の全量に対する両性界面活性剤の含有量が0.1〜3質量%となるよう供給される。
【0061】
このように、本実施形態の洗浄方法は、少なくとも付着部位において第1剤および第2剤が共存すればよい。そのため、第1剤および第2剤は、付着部位に別々に供給されてもよく、あらかじめ混合された状態で付着部位に供給されてもよい。以下、それぞれの場合について説明する。
【0062】
(第1剤および第2剤が付着部位に別々に供給される場合)
この場合、第1剤および第2剤は、付着部位において混合されるように供給される。そのため、第1剤および第2剤は、付着部位において、混合割合を調整することができる。そのため、洗浄方法は、インクの乾燥皮膜の厚みの程度等を考慮して、適切なpHや両性界面活性剤の濃度となるよう第1剤および第2剤を付着部位に供給することができる。
【0063】
別々に供給される第1剤および第2剤を付着部位に供給する方法は、特に限定されない。第1剤および第2剤は、たとえば同じノズルに供給されることにより、そのノズルを洗浄することができる。この場合、ノズル内に付着したインクの乾燥皮膜等は、供給された洗浄液により溶解されて除去される。また、第1剤および第2剤は、付着部位に対して別々に吹き付けて供給されてもよい。ほかにも、第1剤および第2剤は、たとえば繊維状の部材や容器にpHや両性界面活性剤の含有量が分かるように定量吐出し、繊維状の部材や容器の中で混合したのち、付着部位をワイピング(拭き取り)したり、付着部位を洗浄液中に浸漬することにより付着部位に供給されてもよい。
【0064】
(第1剤および第2剤があらかじめ混合された状態で付着部位に供給される場合)
この場合、第1剤および第2剤は、あらかじめ混合されてから付着部位に供給される。一剤化された洗浄液は、取扱性がよい。また、洗浄方法は、乾燥皮膜の厚みの程度等を考慮して、適切なpHや両性界面活性剤の濃度となるよう第1剤および第2剤を混合してから付着部位に供給することができる。
【0065】
あらかじめ混合された第1剤および第2剤を付着部位に供給する方法は、特に限定されない。第1剤および第2剤は、たとえばあらかじめ混合されてから同じノズルに供給されることにより、そのノズルを洗浄することができる。この場合、ノズル内に付着したインクの乾燥皮膜等は、供給された洗浄液により溶解されて除去される。また、第1剤および第2剤は、あらかじめ混合されてから付着部位に対して吹き付けて供給されてもよい。
【0066】
以上、本実施形態の洗浄方法によれば、洗浄液が、インクが付着する付着部位に適宜供給される。洗浄液は、労働衛生上の問題を発生しにくく、付着部位(たとえばヘッドの部材等)を腐食させにくく、かつ、付着部位におけるインクの乾燥皮膜を充分に洗浄して除去することができる。そのため、たとえば長期間においてインクが吐出されないまま放置されていたインクジェットプリンターにおいて付着部位にインクの乾燥皮膜が強固に付着して吐出不良を起こし得る状態であっても、付着部位におけるインクの乾燥皮膜等は、本実施形態の洗浄方法を実施することにより除去される。その結果、洗浄方法が実施されたインジェットプリンターは、その後、インクを正常に吐出することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0068】
(水性インクジェットインク組成物Aの製造)
以下の原料等を使用し、水性インクジェットインク組成物Aを製造した。
(カーボンブラックA)
商品名:プリンテックス90(平均粒子径14nm、比表面積300m2/g、pH9.0)、デグサ社製
(アルカリ可溶性樹脂A)
ガラス転移温度40℃、質量平均分子量20,000、酸価100mgKOH/gのアクリル酸/n−ブチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/スチレン共重合体
(ワックスエマルジョンA)
ノニオン乳化ポリエチレンワックス、商品名:ハイテックE−6314(固形分35%、平均粒子径100nm)、東邦化学(株)製
(界面活性剤A)
アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、商品名:アセチレノールE100、川研ファインケミカル(株)製
(陽イオン交換樹脂)
商品名:DOWEX MONOSPHERE (H)650C、ダウケミカル社製
(高圧乳化分散装置)
ゴーリンホモジナイザー、A.P.V. GAULIN INC社製
【0069】
アルカリ可溶性樹脂A25質量部を、水酸化ナトリウム3.2質量部と水71.8質量部との混合溶液に溶解させ、水性樹脂ワニスA(アルカリ可溶性樹脂濃度25質量%)を得た。得られた水性樹脂ワニスA32質量部、水48質量部、カーボンブラックA20質量部を攪拌混合し、湿式サーキュレーションミルで練肉して水性インクジェット用ベースインクAを得た。得られた水性インクジェット用ベースインクAを水で4倍に希釈し、希釈液Aを得た。得られた希釈液A100質量部に陽イオン交換樹脂5質量部を添加し攪拌して、pHが4未満となるまでイオン交換し、樹脂被覆顔料Aを得た。その後、イオン交換樹脂をメッシュフィルターで濾過した後、水を吸引濾過し、樹脂被覆顔料Aを含有する含水ケーキを得た。
【0070】
得られた含水ケーキに、樹脂被覆顔料A中のアルカリ可溶性樹脂の酸価の80%を中和する量の水酸化ナトリウムを加え、顔料濃度が20%となるよう水で希釈し、高圧乳化分散装置で攪拌し、水性顔料分散液Aを得た。
【0071】
得られた水性顔料分散液A60質量部、ワックスエマルジョンA5質量部、グリセリン15質量部、ジエチレングリコール15質量部、界面活性剤A1質量部、水4質量部を攪拌混合して、顔料濃度12質量%、顔料/アルカリ可溶性樹脂(質量)=10/4の水性インクジェットインク組成物Aを得た。
【0072】
<実施例1〜9および比較例1〜5>
以下の表1に示される配合に従い、各原料をビーカーに仕込み、攪拌装置で攪拌混合して実施例1〜9および比較例1〜5の洗浄液をそれぞれ作製した。なお、本発明で特定する両性界面活性剤の含有量が3質量%を超える場合およびpHが12を超える場合は洗浄性の面では有利になるが、ともに労働衛生上の面では好ましくないという理由から、今回は洗浄液を作製しなかった。得られた洗浄液を用いて、以下の評価方法に従って、水性インクジェットインク組成物Aの乾燥皮膜の溶解性評価と、吐出不良の改善性評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
<水性インクジェットインク組成物Aの乾燥皮膜の溶解性評価>
水性インクジェットインク組成物A5gを容器にとり、開放系にて50℃のオーブン中で3ヵ月間放置した。得られたインクの乾燥皮膜0.1gを実施例1〜9および比較例1〜3のそれぞれの洗浄液5g中に浸漬し、乾燥皮膜の溶解性を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬されてすぐに溶解を始め、全て溶解した。
○:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬された後、軽くかき混ぜると溶解し始め、全て溶解した。
△:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬された後、軽くかき混ぜると溶解し始め、一部が溶解した。
×:乾燥皮膜は、洗浄液に浸漬された後、激しくかき混ぜても溶解しなかった。
【0074】
<吐出不良の改善性評価>
インクジェットプリンター(PX−105 セイコーエプソン(株)製)に水性インクジェットインク組成物Aを充填し、A4サイズの紙に10枚連続でベタ印字を行ってインクが充填されていることを確認した。その後、水性インクジェットインク組成物Aが記録ヘッドの中に充填された状態で50℃のオーブンに3ヵ月間放置した。放置後、ノズルチェック印字を行うと、インクの吐出不良が起こるノズルが複数確認された(ピン抜け)。インクの吐出不良が起こった記録ヘッドに、初期充填モードで実施例1〜9および比較例1〜5のそれぞれの洗浄液を充填し、吐出不良の改善性を以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
◎:初期充填シーケンスのみで全ノズルが回復し、吐出不良が改善した。
○:初期充填シーケンス後にクリーニング操作を1〜2回行うことにより、全ノズルが回復し、吐出不良が改善した。
△:初期充填シーケンス後にクリーニング操作を3回行うことにより、全ノズルが回復し、吐出不良が改善した。
×:初期充填シーケンス後にクリーニング操作を3回行っても、ピン抜けが起こり、吐出不良が改善されなかった。
【0075】
【表1】
*1 ジメチルラウリルアミンオキサイド(有効成分35%)、
*2 ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(有効成分26%)、
*3 2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン(有効成分40%)、
*4 ポリオキシエチレンアセチレニック・グリコールエーテル(有効成分100%)、
*5 2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(有効成分100%)、
*6 Proxel GXL(S)、ロンザジャパン(株)製
【0076】
表1に示されるように、実施例1〜9において作製された洗浄液は、インクの乾燥皮膜の溶解性および吐出不良の改善性のいずれにおいても結果が良好であった。
【0077】
一方、塩基性化合物を含まず、pHが低い比較例1および比較例3の洗浄液は、乾燥皮膜を溶解することができず、かつ、吐出不良を改善することができなかった。特に、比較例3の洗浄液は、両性界面活性剤を有効成分換算で3.00質量%含むにもかかわらず、乾燥皮膜を溶解することができず、かつ、吐出不良を改善することができなかった。本発明の両性界面活性剤を含まない比較例2の洗浄液は、乾燥皮膜を溶解することができず、かつ、吐出不良を改善することができなかった。本発明の両性界面活性剤以外の界面活性剤を代用した比較例4および比較例5の洗浄液は、乾燥皮膜を溶解することができず、かつ、吐出不良を改善することができなかった。特に、比較例4の洗浄液は、特許文献2の実施例1として挙げられた洗浄液において、有効成分であるオルフィンE1010(ポリオキシエチレンアセチレニック・グリコールエーテル)の含有量はそのままに、pHを9.2から10.5に引き上げたものである。したがって、この比較例4の洗浄液は、特許文献2の実施例1の洗浄液と比較して、pHが高い分だけ洗浄能力が向上していると考えられる。それにもかかわらず、特許文献2で記載されているのと同じ操作と評価基準で、上記2種の洗浄液の吐出不良の改善性を評価したところ、特許文献2の実施例1の洗浄液は○の評価結果であったものが、比較例4の洗浄液では×と極めて低い評価結果になっている。
【0078】
この評価結果の差は、評価に用いた水性インクジェットインク組成物の差である。すなわち、顔料濃度が12質量%であり、酸価が100mgKOH/gであるアルカリ可溶性樹脂を利用し、その含有量も顔料の質量の40%に抑え、さらに塩基性化合物をアルカリ可溶性樹脂の酸価の80%を中和する量しか含まない水性インクジェットインク組成物Aが乾燥したときに、吐出不良を改善させることが如何に困難であるかを如実に示すものと言える。そして、裏を返せば、既知の洗浄液は、全ての水性インクジェットインクに対して利用できるわけではなく、少なくとも、水性インクジェットインク組成物Aのような吐出不良を改善させることが困難なインクには利用できないということである。
【0079】
また、比較例5の洗浄液に含まれるサーフィノール485(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール)は、系自体の表面張力を最も低下させる能力を有するにもかかわらず、1.00質量%となるよう含有させた場合であっても、インクの乾燥皮膜が全く溶解せず、吐出不良も改善されなかった。
【0080】
以上、本実施例および比較例によれば、吐出不良を改善させることが困難な水性インクジェットインク組成物になると、既知の洗浄剤がたちまち洗浄効果を喪失してしまうのに対して、本発明の洗浄剤は、それらとは明らかに一線を画す優れた洗浄性を有することが分かった。これは、本発明の洗浄液が既知の洗浄剤と比較して格段に広いインクのタイプに亘り高い実用性を有することを表すものである。