特許第6374741号(P6374741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人大阪府立大学の特許一覧

特許6374741全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池
<>
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000002
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000003
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000004
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000005
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000006
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000007
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000008
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000009
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000010
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000011
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000012
  • 特許6374741-全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374741
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20180806BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20180806BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20180806BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20180806BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M10/054
   H01B1/06 A
   H01B1/10
   H01B13/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-192845(P2014-192845)
(22)【出願日】2014年9月22日
(65)【公開番号】特開2016-66405(P2016-66405A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】林 晃敏
(72)【発明者】
【氏名】辰巳砂 昌弘
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−076710(JP,A)
【文献】 特開昭51−040530(JP,A)
【文献】 特開昭58−034571(JP,A)
【文献】 特開昭50−071598(JP,A)
【文献】 特開昭50−094447(JP,A)
【文献】 特開昭60−084772(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/010169(WO,A1)
【文献】 特開2014−093261(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0019169(US,A1)
【文献】 PREPARARION OF MAGNESIUM ION CONDUCTING MgS-P2S5-MgI2 GLASSES BY A MECHANOCHEMICAL TECHNIQUE,Solid State Ionics,2013年11月14日,Vol.262,pp.601-603
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 13/00
H01M 10/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):MgS−MgX2(XはF、Cl、Br及びIから選択されるハロゲン原子である)で示される物質と、任意にMgS及びMgX2以外のマグネシウム塩やイオン伝導性材料(但し、P25を除く)とから構成される全固体二次電池用固体電解質。
【請求項2】
前記MgX2が、MgBr2である請求項1に記載の全固体二次電池用固体電解質。
【請求項3】
前記MgX2が、MgS及びMgX2の合計に対して、50〜60モル%含まれる請求項1又は2に記載の全固体二次電池用固体電解質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の全固体二次電池用固体電解質の製造方法であって、
前記一般式(I):MgS−MgX2を与えるMgSとMgX2とを所定割合で含む原料混合物又はMgX2を所定割合で含む原料混合物をメカニカルミリング処理に付して処理物を得る工程と、前記処理物を200℃以上の温度で熱処理することで前記一般式(I):MgS−MgX2を得る工程とを含むことを特徴とする全固体二次電池用固体電解質の製造方法。
【請求項5】
正極、負極、及び前記正極と前記負極間に位置する固体電解質層とを少なくとも備え、前記固体電解質層が、請求項1〜3のいずれか1つに記載の全固体二次電池用固体電解質を含むことを特徴とする全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池に関する。更に詳しくは、本発明は、低コストで全固体二次電池を与え得る高い導電率を有する固体電解質、その製造方法及びそれを含む全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高電圧、高容量を有するため、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ノートパソコン、電気自動車等の電源として多用されている。一般に流通しているリチウム二次電池は、電解質として、電解塩を非水系溶媒に溶解した液状電解質を使用しているリチウムイオン二次電池である。非水系溶媒には、可燃性の溶媒が多く含まれているため、安全性の確保が望まれている。
安全性を確保するために、非水系溶媒を使用せずに、電解質をガラスセラミックス製の固体材料であるLi2S−P25から形成する、いわゆるリチウム−硫黄系固体電解質を使用した全固体二次電池が提案されている(非特許文献1)。
【0003】
近年、電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車、太陽電池、風力発電等の発電装置等において、電力を貯蔵するためにリチウム二次電池の需要が増大している。しかし、リチウム二次電池は、埋蔵量が少なく、かつ産出地が偏在しているリチウムを使用するため、需要に供給が追いつかないという懸念があると共に、高コストであるという課題があった。
上記課題の観点から、Liに代えて資源量が豊富なMgを使用する全固体二次電池が提案されている(非特許文献2)。資源量の豊富さに加えて、それぞれの金属を負極に用いる場合に、二価のMgは一価のLiよりも単位体積当たりの充放電の理論容量を大きくできるという利点がある。この文献では、リチウム系固体電解質での知見を踏まえ、ガラスセラミックス製のMgS−P25−MgI2からなるマグネシウム−硫黄系固体電解質の物性が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Tatsumisago et.al., Funct.Mater.Lett., 1 (2008) 31
【非特許文献2】T. Yamanaka et.al., Solid State Ionics 262 (2014) 601-603
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2では、200℃において、10-7Scm-1オーダーの比較的高い導電率が得られている。しかしながら、この導電率でも十分ではなく、更なる導電率の向上が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
非特許文献1でのリチウム−硫黄系固体電解質であるガラスセラミックス製のLi2S−P25は、比較的高い導電率が得られている。この知見を踏まえて、非特許文献2では、MgSにP25を添加し、次いで熱処理してガラスセラミックス状態とすることで、高い導電率の実現が試みられている。ところで、全固体二次電池用のマグネシウム−硫黄系固体電解質は、最近研究され出した新しい材料であるため、非特許文献1の知見を適用すること自体が適切であるかどうか定かではないのが現状である。
そこで、本発明の発明者等は、マグネシウム−硫黄系固体電解質用の材料を一から見直したところ、P25の不存在下において、MgSとハロゲン化マグネシウムとを組み合わせることで、非特許文献2で報告されている10-7Scm-1オーダーを超える10-6Scm-1オーダーの高い導電率が得られることを意外にも見い出すことで本発明に至った。
【0007】
かくして本発明によれば、一般式(I):MgS−MgX2(XはF、Cl、Br及びIから選択されるハロゲン原子である)で示される物質と、任意にMgS及びMgX2以外のマグネシウム塩やイオン伝導性材料(但し、P25を除く)とから構成される全固体二次電池用固体電解質が提供される。
更に、本発明によれば、上記全固体二次電池用固体電解質の製造方法であって、
前記一般式(I):MgS−MgX2を与えるMgSとMgX2とを所定割合で含む原料混合物又はMgX2を所定割合で含む原料混合物をメカニカルミリング処理に付して処理物を得る工程と、前記処理物を200℃以上の温度で熱処理することで前記一般式(I):MgS−MgX2を得る工程とを含むことを特徴とする全固体二次電池用固体電解質の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、正極、負極、及び前記正極と前記負極間に位置する固体電解質層とを少なくとも備え、前記固体電解質層が、上記全固体二次電池用固体電解質を含むことを特徴とする全固体二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムの資源量に依存せず、高い導電率を有し、高容量の全固体二次電池を提供し得る固体電解質を提供できる。
また、MgX2が、MgBr2である場合、より高い導電率を有する全固体二次電池用固体電解質を提供できる。
また、MgX2が、50〜60モル%含まれる場合、より高い導電率を有する全固体二次電池用固体電解質を提供できる。
本発明の全固体二次電池用固体電解質の製造方法によれば、メカニカルミリング処理と熱処理という簡便な方法で、リチウムの資源量に依存しない、高い導電率を有する固体電解質を提供できる。
本発明の全固体二次電池は、高い導電率を有するマグネシウムを含む固体電解質層を使用するため、高容量化を、リチウムの資源量に依存せず、実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の50MgS−50MgBr2の熱処理前のXRDパターンである。
図2】実施例1のMgBr2の熱処理前のXRDパターンである。
図3】実施例1の50MgS−50MgBr2の熱処理前のラマンスペクトルである。
図4】実施例1の50MgS−50MgBr2の熱処理後のXRDパターンである。
図5】実施例1の50MgS−50MgBr2とMgBr2の熱処理後のインピーダンスプロットである。
図6】実施例1の50MgS−50MgBr2とMgBr2の加熱及び冷却サイクル中の導電率を示すグラフである。
図7】実施例1の50MgS−50MgBr2とMgBr2の熱処理後の直流分極時の電流値のプロットである。
図8】実施例2のMgS−MgBr2とMgBr2の熱処理前のXRDパターンである。
図9】実施例2のMgS−MgBr2の熱処理前のラマンスペクトルである。
図10】実施例2のMgS−MgBr2の熱処理後のXRDパターンである。
図11】実施例2のMgS−MgBr2の熱処理後のラマンスペクトルである。
図12】実施例2のMgS−MgBr2のモル比と導電率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(全固体二次電池用固体電解質)
本発明の固体電解質は、一般式(I):MgS−MgX2(XはF、Cl、Br及びIから選択されるハロゲン原子である)又はMgX2で表される。具体的には、MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2、MgS−MgF2、MgS−MgCl2、MgS−MgBr2、MgS−MgI2が挙げられる。この内、MgS−MgBr2が特に好ましい。更にMg(CF3SO3)2 やMg[N(SO2CF3)2]等の他のマグネシウム塩やイオン伝導性材料を加えてもよい。
【0011】
MgS−MgX2は、MgS及びMgX2の合計に対して、40モル%より大きく、100モル%未満のMgX2を含む。この範囲であれば、より導電率を向上できる。また、MgX2は、50モル%、60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、100モル%未満で含みうる。
【0012】
固体電解質は、メカニカルミリング処理後においてMgBr2に由来するXRDパターン中のピークがブロードとなっていることが好ましい。ブロードとなる原因は不明であるが、導電率が向上した固体電解質のこれらピークは、ブロードとなっているため、向上に寄与する何らかの成分が発生していることが予想される。ブロードの程度は、例えば、2θで表される14°付近の(001)面、28°付近の(002)面、及び48°付近の(110)面のピークが、0.7°〜7.0°程度の半値幅を示す程度であることが好ましい。より好ましい半値幅は、1.2°〜4.5°である。メカニカルミリング処理後の試料を熱処理して最終品を得るが、その際得られた固体電解質の上記XRDピークの半値幅は、0.2°〜1.0°である。
【0013】
更に、(002)面のピークの強度Aと(110)面のピークの強度Bとの比A/Bが、0.5〜2.5であることが好ましい。比A/Bがこの範囲となる原因は不明であるが、上記半値幅と同様、導電率の向上に寄与する何らかの成分が発生していることが予想される。原料のMgBr2の比A/Bが約25であることから、固体電解質中の比A/Bは導電率を向上させるための指標として利用可能であると推測される。より好ましい比A/Bは0.9〜2.0である。
【0014】
(固体電解質の製造方法)
固体電解質の製造方法は、
(i)一般式(I):MgS−MgX2を与えるMgSとMgX2とを所定割合で含む原料混合物又はMgX2を所定割合で含む原料混合物をメカニカルミリング処理に付して処理物を得る工程
(ii)処理物を200℃以上の温度で熱処理することで一般式(I):MgS−MgX2を得る工程
とを含んでいる。
【0015】
(1)工程(i)
工程(i)におけるメカニカルミリング処理は、原料を十分混合できさえすれば、処理装置及び処理条件には特に限定されない。
処理装置としては、通常ボールミルが使用できる。ボールミルは、大きな機械的エネルギーが得られるため好ましい。ボールミルの中でも、遊星型ボールミルは、ポットが自転回転すると共に、台盤が公転回転するため、高い衝撃エネルギーを効率よく発生させることができるので、好ましい。
【0016】
処理条件は、使用する処理装置に応じて適宜設定できる。例えば、ボールミルを使用する場合、回転速度が大きいほど及び/又は処理時間が長いほど、原料を均一に混合・反応できる。なお、「及び/又は」は、A及び/又はBで表現すると、A、B又は、A及びBを意味する。具体的には、遊星型ボールミルを使用する場合、50〜700回転/分の回転速度、0.1〜50時間の処理時間、1〜100kWh/原料混合物1kgの条件が挙げられる。より好ましい処理条件としては、200〜600回転/分の回転速度、1〜20時間の処理時間、6〜50kWh/原料混合物1kgが挙げられる。
【0017】
(2)工程(ii)
上記工程(i)で得られた処理物を、熱処理に付すことで、固体電解質を得る。この熱処理は、200℃以上の温度で行われる。この温度以上で行えば、導電率の良好な固体電解質を得やすいという利点がある。熱処理の温度は、200〜500℃の範囲であることが好ましい。なお、熱処理の温度は、XRDにおける結晶相の存在状態を考慮して決めることができる。
熱処理時間は、導電率の向上に十分な時間であり、熱処理温度が高いと短く、低いと長くなる。熱処理時間は、通常、0.1〜10時間の範囲である。
【0018】
(全固体二次電池)
全固体二次電池は、特に限定されないが、通常、正極、負極、及び正極と負極間に位置する固体電解質層とを少なくとも備えている。
(1)固体電解質層
固体電解質層には、上記固体電解質(MgS−MgX2)が含まれる。固体電解質層の厚さは、1〜1000μmであることが好ましく、1〜200μmであることがより好ましい。固体電解質層は、例えば、その原料をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。
【0019】
(2)正極
正極は、特に限定されない。負極は、負極活物質のみからなっていてもよく、結着剤、導電剤、電解質等と混合されていてもよい。
正極活物質としては、V25、MnO2、MgFeSiO4、MgCo24、Mo68、NiS等の種々の遷移金属化合物等が挙げられる。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン等が挙げられる。
【0020】
導電剤としては、天然黒鉛、人工黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、カーボンブラック、気相成長カーボンファィバ(VGCF)等が挙げられる。
電解質としては、固体電解質層に使用される電解質が挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質及び、任意に結着剤、導電剤、電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。
正極は、アルミニウム又は銅等の集電体の上に形成されていてもよい。
【0021】
(3)負極
負極は、特に限定されない。負極は、負極活物質のみからなっていてもよく、結着剤、導電剤、電解質等と混合されていてもよい。
負極活物質としては、Mg、In、Sn等の金属、Mg合金、ハードカーボン、TiO2、SnO等の種々の遷移金属酸化物等が挙げられる。
結着剤、導電剤及び電解質は、上記正極の欄で挙げた物をいずれも使用できる。
【0022】
負極は、例えば、負極活物質及び、任意に結着剤、導電剤、電解質等を混合し、得られた混合物をプレスすることで、ペレット状として得ることができる。また、負極活物質として金属又はその合金からなる金属シート(箔)を使用する場合、をそのまま使用可能である。
負極は、アルミニウム又は銅等の集電体の上に形成されていてもよい。
(4)全固体二次電池の製造法
全固体二次電池は、例えば、正極と、電解質層と、負極とを積層し、プレスすることにより得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
実施例1
工程(i):メカニカルミリング処理
MgS(アルドリッチ社製純度99%)及びMgBr2(アルドリッチ社製純度99%)を50:50のモル比で遊星型ボールミルに投入した。投入後、メカニカルミリング処理することで、50MgS−50MgBr2を得た。メカニカルミリング処理時間を5時間、10時間及び20時間とした3試料を用意した。加えて、MgS及びMgBr2を乳鉢にて混合し、メカニカルミリング処理に付さない試料を用意した。
【0024】
また、MgBr2のみを50MgS−50MgBr2と同じ条件で20時間のメカニカルミリング処理に付した試料を用意した。MgBr2のみについても、メカニカルミリング処理に付さない試料を用意した。
遊星型ボールミルは、Fritsch社製Pulverisette P−7を使用し、ポット及びボールはZrO2製であり、45mlのポット内に直径4mmのボールが500個入っているミルを使用した。メカニカルミリング処理は、510rpmの回転速度、室温、乾燥窒素グローブボックス内で行った。
【0025】
なお、上記メカニカルミリング処理は、Akitoshi Hayashi et al., Journal of Non−Crystalline Solids 356 (2010) 2670−2673のExperimentalの記載に準じている。
上記6種の試料をプレス(圧力370MPa/cm2)することで直径10mm、厚さ約1mmのペレットとした。
【0026】
50MgS−50MgBr2の4種の試料のXRDパターンを図1に、MgBr2のみの2種の試料のXRDパターンを図2に示す。図1及び2中、MM0h、MM5h、MM10h及びMM20hは、それぞれ、メカニカルミリング処理に、付さない、5時間、10時間及び20時間付したことを意味する。図1の下部にMgS及びMgBr2のXRDパターン、図2の下部にMgBr2のXRDパターンを記載している。図1及び2中、○はMgSに対応するピークを、▲はMgBr2に対応するピークを、◇は対応不明なピークを意味する。
【0027】
図1から、メカニカルミリング処理付さない場合のXRDパターンは、MgS及びMgBr2の単なる合計であるが、メカニカルミリング処理付すことでMgBr2に対応するピークがブロード化していることが分かる。このブロード化は、MgBr2のXRDパターンを示す図2からも分かる。
メカニカルミリング処理に20時間付した試料のラマンスペクトルを図3に示す。図3では、下部に示されているMgS及びMgBr2単独のスペクトルに由来するピークが観測されている。
【0028】
工程(ii):熱処理
上記6種の試料から、メカニカルミリング処理を20時間行った50MgS−50MgBr2及びMgBr2のみの2試料について、室温(25℃)から400℃に向かって加熱し、更に、400℃に達してから、室温に向かって冷却した。図4に50MgS−50MgBr2の試料についての熱処理前後のXRDパターンを示す。図4の下部にMgO、MgS及びMgBr2のXRDパターンを記載している。図4中、●MgOに対応するピークを、○はMgSに対応するピークを、▲はMgBr2に対応するピークを、◇は対応不明なピークを意味する。
【0029】
図4から、熱処理によりMgBr2に帰属するピークの強度が強くなったことが分かる。これは、メカニカルミリング処理により一部非晶質化した試料中のMgBr2成分が、熱処理によって再び結晶化したためであると推測される。なお、14°付近、28°付近及び48°付近のピークの半値幅は、0.50°、0.92°及び0.44°であり、28°付近のピークの強度Aと48°付近のピークの強度Bとの比A/Bは、0.95であった。
【0030】
熱処理後の2試料において、図5(a)に50MgS−50MgBr2の325℃時の、図5(b)にMgBr2の360℃時の加熱時の交流インピーダンスプロットを示す。交流インピーダンスの測定は、試料をステンレス鋼板に挟み込んだセルに対して行い、測定条件は、印加電圧50mV、周波数は0.01Hz〜1MHzとした。これら図には、いずれも低周波側にイオンブロッキング挙動由来のスパイクが見られている。従って、両試料ともイオン伝導体であると推察される。
【0031】
更に、上記2試料について、室温から400℃に向かって加熱し、更に、400℃に達してから、室温に向かって冷却する加熱及び冷却サイクル中、約15℃毎に、試料の導電率を測定した。測定結果を図6(a)及び(b)に示す。図中、●は加熱時、○は冷却時のプロットである。
【0032】
図6(a)から、50MgS−50MgBr2は冷却時の導電率が、加熱時とは異なる挙動を示している。この挙動の相違は、例えば、200℃における導電率は、加熱時には7.3×10-7Scm-1であり、冷却時には9.0×10-6Scm-1であり、異なっていることがからも分かる。一方、図6(b)から、MgBr2は、冷却時と加熱時の導電率がほぼ同じ挙動を示している。この結果から、50MgS−50MgBr2の試料については、加熱により導電率を向上させ得る構造の不可逆な変化が生じていると推察される。なお、2試料について、再度加熱及び冷却サイクルに付したところ、50MgS−50MgBr2の試料は、加熱時と冷却時共、図6(a)の冷却時と同じ挙動を示し、MgBr2の試料は、加熱時と冷却時共、図6(b)と同じ挙動を示した。この結果からも、50MgS−50MgBr2の試料については、加熱により導電率を向上させ得る構造の不可逆な変化が生じていると推察される。
【0033】
熱処理後の2試料において、図7(a)に熱処理後の50MgS−50MgBr2の330℃加熱時の、図7(b)に熱処理後のMgBr2の365℃加熱時の直流分極時の電流値のプロットを示す。電流値の測定条件は、一対のステンレス極に2試料をそれぞれ挟み、印加電圧を0.1Vとし、印加時間を50MgS−50MgBr2について3600秒、MgBr2について3000秒とした。両試料共、電圧印加初期に急激な分極が生じた。図7(a)から入手した50MgS−50MgBr2の定常電流値(2.7×10-6A)と、交流インピーダンス法とから、トータルの電気伝導度が2.9×10-5Scm-1、電子伝導度が2.5×10-6Scm-1と算出され、その結果イオン伝導度が2.5×10-5Scm-1であった。50MgS−50MgBr2の全伝導度(電気伝導度)に占めるイオン伝導度の割合は約90%となり、固体電解質として有用であることが分かる。図7(a)と同様に、図7(b)から入手したMgBr2の定常電流値(9.0×10-6A)と、交流インピーダンス法とから、全伝導度に占めるイオン伝導度の割合を算出したところ約40%であり、電子伝導度の割合が大きいことが分かる。
【0034】
実施例2
工程(i):メカニカルミリング処理
MgS及びMgBr2を60:40、40:60及び30:70のモル比とすること以外は実施例1と同様に20時間のメカニカルミリング処理に付して3種のMgS−MgBr2の試料(ペレット)を得た。
【0035】
3種の試料のXRDパターンを図8に示す。図8には、図1の50MgS−50MgBr2のメカニカルミリング処理10時間と20時間のXRDパターン及びMgBr2のみのメカニカルミリング処理20時間のXRDパターンも記載する。図8中、xはMgBr2のモル比を意味し、MM10hは、メカニカルミリング処理に10時間付したことを意味する。図8の下部にMgS及びMgBr2のXRDパターンを記載している。図8中、○はMgSに対応するピークを、▲はMgBr2に対応するピークを、◇は対応不明なピークを意味する。
【0036】
図8から、メカニカルミリング処理に付すことでどのモル比でもMgBr2に対応するピークがブロード化していることが分かる。また、モル比が50:50〜30:70の範囲で、下部に示されているMgS及びMgBr2単独のスペクトルに帰属しないピークが見られる。
3種の試料のラマンスペクトルを図9に示す。図9には、図3の50MgS−50MgBr2のラマンスペクトルも記載する。図9では、下部に示されているMgS及びMgBr2単独のスペクトルに由来するピークが観測されている。
【0037】
工程(ii):熱処理
上記3種の試料を実施例1と同様にして熱処理に付した。熱処理後の試料のXRDパターンを図10に示す。図10には、図4の50MgS−50MgBr2のXRDパターンも記載する。図10の下部にMgS及びMgBr2のXRDパターンを記載している。図10中、●MgOに対応するピークを、○はMgSに対応するピークを、▲はMgBr2に対応するピークを、◇は対応不明なピークを意味する。
【0038】
図10から、熱処理によりMgBr2に帰属するピークの強度が強くなったことが分かる。これは、メカニカルミリング処理により一部非晶質化した試料中のMgBr2成分が、熱処理によって再び結晶化したためであると推測される。なお、モル比60:40について、14°付近、28°付近及び48°付近のピークの半値幅は、0.36°、1.28°及び0.44°であり、28°付近のピークの強度Aと48°付近のピークの強度Bとの比A/Bは、1.06であった。モル比40:60について、14°付近、28°付近及び48°付近のピークの半値幅は0.36°、0.55°及び0.36°であり、28°付近のピークの強度Aと48°付近のピークの強度Bとの比A/Bは、1.03であった。モル比30:70について、14°付近、28°付近及び48°付近のピークの半値幅は、0.30°、0.55°及び0.30°であり、28°付近のピークの強度Aと48°付近のピークの強度Bとの比A/Bは、1.04であった。また熱処理により、対応不明な◇のピークの強度が強くなったことが分かる。この◇のピークは、立方晶構造を有するMgS(○)のピークの低角側に位置しており、MgSのSの一部がBrで置換された、MgSよりも格子定数の大きな立方晶によるものと推測される。
【0039】
上記3種の試料及び50MgS−50MgBr2のラマンスペクトルを図11に示す。図11の下部にMgS及びMgBr2のラマンスペクトルを記載している。熱処理前に存在していた220cm-1付近のピークが消失していることが確認される。MgS及びMgBr2に由来するピーク以外のピークは特に観察されていない。
【0040】
上記3種の試料についても、実施例1と同様に、インピーダンスプロットと加熱及び冷却サイクル中の試料の導電率の変化とを確認したところ、図5(a)及び図6(a)の50MgS−50MgBr2と同様の傾向を示すことを確認した。
図12にモル比と導電率との関係を示す。図中、●は加熱時、○は冷却時のプロットである。図12から、MgBr2が50モル%付近で導電率が極大を示すことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12