(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1ケーシングの表面から突出する前記リブの突出縁が、前記リブと接続する一方の前記ボルト座部の前記ボルト座面から他方の前記ボルト座部の前記ボルト座面まで直線状に延びる、請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置のケーシング構造。
前記ボルト座部および前記雌ねじ孔は、円筒形状に形成された前記ケーシングの周方向に間隔を空けて配置される、請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動装置のケーシング構造。
前記第2ケーシングは円筒形状であり、前記第1ケーシングは円板形状であり、前記リブは周方向に配置される前記複数のボルト座部を順次結ぶように周方向に連続して配置される、請求項3または4に記載のインホイールモータ駆動装置のケーシング構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インホイールモータ駆動装置のケーシングは複数のケーシング部材からなり、例えば円筒形状のケーシング部材と、円板形状のケーシング部材を含む。そして複数のケーシング部材は、ボルトによって互いに固定される。またインホイールモータ駆動装置は車重を支えるため、ケーシングには車重が作用する。特に自動車が旋回走行したり、急発進や急減速したりすると、車輪側からケーシングに大きな外力が作用する。もしケーシングの剛性が低ければ、ケーシングが変形してモータ部のロータが損傷したり、減速部の曲線板および内ピンが損傷したり、ケーシング部材同士の突き合わせ面が僅かに開いてケーシング内部から潤滑油が滲み出たりする虞がある。このためケーシングが変形をきたさない様、ケーシングの剛性を高くする必要がある。
【0005】
ところがインホイールモータ駆動装置は、サスペンション部材を介して車体に取り付けられることから、いわゆるバネ下荷重に含まれる。このため、ケーシングの肉厚を単に大きくしてケーシングの剛性を高める場合、いわゆるバネ下荷重が大きくなり、自動車の走行性能上好ましくない。
【0006】
本発明は、上述の実情に鑑み、ケーシングの肉厚をなるべく大きくすることなくケーシングの剛性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明によるインホイールモータ駆動装置のケーシング構造は、モータ部およびこのモータ部に駆動される車輪ハブ軸受部を備えるインホイールモータ駆動装置を前提とし、インホイールモータ駆動装置の外郭をなすケーシングが、複数のボルト座部を有する第1ケーシングと、複数の雌ねじ孔を有する第2ケーシングと、これら複数のボルト座部にそれぞれ形成された貫通孔に通されつつ雌ねじ孔のそれぞれに螺合することにより第1ケーシングを第2ケーシングに接続固定する複数のボルトとを含む。そして貫通孔の一端開口が形成されてボルトの頭部から押し付け力を受けるボルト座面が第1ケーシングの表面から突出して形成され、第1ケーシングの表面には、一つのボルト座部から他のボルト座部まで延びるリブが形成されることを特徴とする。
【0008】
かかる本発明によれば第1ケーシングの表面に、一つのボルト座部から他のボルト座部まで延びるリブが形成されることから、リブによって第1ケーシングの剛性を高めることができる。しかもボルト頭部からボルト座部に作用する押し付け力がリブを介して第1ケーシングに広がるよう伝達されて、第1ケーシングを第2ケーシングに確りと突き合わせて密着固定することができる。これにより第1ケーシングと第2ケーシングの突き合わせ面のシール性が向上する。なおリブが形成される第1ケーシングの表面は、全体的に平坦面であってもよいし、あるいは全体的に曲面であってもよいし、あるいは一部が相対的に低い平坦面であり他の一部が相対的に高い平坦面であってもよいし、あるいは凹凸形状であってもよいし、特に限定されない。
【0009】
第1ケーシングの表面から突出するリブの突出高さは特に限定されない。本発明の一実施形態として第1ケーシングの表面から突出するリブの突出縁が、このリブと接続する一方のボルト座部のボルト座面から他方のボルト座部のボルト座面まで直線状に延びる。かかる実施形態によればリブの突出高さを十分確保して、第1ケーシングの剛性を十分に高めることができる。本発明の他の実施形態として、リブの突出高さはケーシング表面からボルト座面までの高さよりも低くてもよい。
【0010】
互いに連結されるボルト座部および雌ねじ孔は、第1ケーシングと第2ケーシングの突き合わせ面の近傍に形成されればよく、その配置は特に限定されない。本発明の好ましい実施形態として、ボルト座部および雌ねじ孔は、円筒形状に形成されたケーシングの周方向に間隔を空けて配置される。かかる実施形態によれば、第1ケーシングの環状の突き合わせ面と、第2ケーシングの環状の突き合わせ面を、互いに突き合わせて密着固定することができる。本発明の他の実施形態としてボルト座部および雌ねじ孔を、ケーシングの軸方向に延びる突き合わせ面に沿って配置してもよい。
【0011】
本発明のさらに好ましい実施形態として雌ねじ孔およびボルト座部の貫通孔は、円筒形状に形成されたケーシングの軸方向と平行に延び、リブは第1ケーシングの表面から軸方向に突出する。かかる実施形態によれば、ケーシングの軸方向と直角な第1ケーシングの突き合わせ面および第2ケーシングの突き合わせ面を、軸方向に互いに突き合わせて密着固定することができる。本発明の他の実施形態として突き合わせ面同士を半径方向に突き合わせる場合、雌ねじ孔および貫通孔はケーシングの半径方向に延び、リブも第1ケーシングの表面から半径方向に突出してもよい。
【0012】
第1ケーシングおよび第2ケーシングの形状は特に限定されない。本発明の一実施形態として第2ケーシングは円筒形状であり、第1ケーシングは円板形状であり、リブは周方向に配置される複数のボルト座部を順次結ぶように周方向に連続して配置される。かかる実施形態によれば、円筒形状のケーシング部材の端部を円板形状のケーシング部材で封止する際に、両者の突き合わせ面同士を密着させることができる。本発明の他の実施形態として、第1ケーシングおよび第2ケーシングは共に円筒形状であってもよい。本発明のインホイールモータ駆動装置は、好ましくはモータ部の出力回転を減速して車輪ハブ軸受部に伝達する減速部をさらに備える。減速部は平行2軸式あるいは遊星歯車式の減速機であってもよいが、より好ましい実施形態として減速部は、モータ部の出力軸から回転を入力され、軸線方向に異なる位置に設けられた複数の偏心部を有する入力軸と、偏心部に相対回転可能にそれぞれ保持され、入力軸の回転に伴って該入力軸の軸線を中心とする公転運動を行う複数の公転部材と、公転部材の外周に係合して公転部材の自転運動を生じさせる外周係合部材と、公転部材の自転運動を入力軸の軸線を中心とする回転運動に変換して車輪ハブ軸受部へ出力する運動変換機構とを有する。かかる実施形態によれば減速部にサイクロイド減速機を採用することから、軽量にして大きな減速効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
このように本発明によれば、ケーシングの肉厚を大きくしてインホイールモータ駆動装置の重量が増えることなくケーシングの剛性を向上させることができる。したがってケーシングの剛性向上とインホイールモータ駆動装置の軽量化を両立させることが可能となり、自動車のバネ下重量が殆ど大きくならず、バネ下重量が走行に影響を及ぼすことが軽減される。さらに第1ケーシングと第2ケーシングの突き合わせ面のシール性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置を示す縦断面図である。
図2は同実施形態を示す横断面図である。この実施形態は車輪のロードホイール内空領域に配置されるインホイールモータ駆動装置である。インホイールモータ駆動装置21は、
図1に示すように駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力を駆動輪に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備える。モータ部A、減速部B、および車輪ハブ軸受部Cはこの順序で、インホイールモータ駆動装置の軸線Oに沿って同軸に配置される。
【0016】
モータ部Aはモータ部の外郭を形成するモータケーシング22a、ポンプケーシング22p、およびモータリヤカバー22tを有する。減速部Bは減速部の外郭を形成する減速部ケーシング22bを有する。これらモータリヤカバー22t、モータケーシング22a、および減速部ケーシング22bはボルト等により相互に結合し、さらにポンプケーシング22pはモータケーシング22aに一体形成され、全体として1個のケーシング22を構成する。このようにケーシング22は複数のケーシング部材あるいはケーシング部分からなる。そしてケーシング22には、車輪ハブ軸受部Cの外輪部材33aが取付固定される。インホイールモータ駆動装置21は、例えば電気自動車のホイールハウジング内に配置され、図示しないサスペンション部材に取り付けられる。この電気自動車は乗用自動車であり、一般的なエンジン自動車と同様に公道を高速走行可能である。
【0017】
モータ部Aは、円筒形状のモータケーシング22a内周に固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向に開いた隙間を介して対面する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に連結固定されてロータ24と一体回転するモータ回転軸35とを備えるラジアルギャップモータである。あるいは図示はしなかったが、モータ部Aはアキシャルギャップモータであってもよい。
【0018】
モータケーシング22aは、モータ回転軸35の軸線Oを中心とし、この軸線方向に延びる。ケーシング22の一部であるポンプケーシング22pは、略円板形状の隔壁であって、モータケーシング22aの一方端に一体形成され、モータ部Aの軸線O方向一方端で減速部Bとの境界を形成するとともに、転がり軸受37を介してモータ回転軸35の一方端部を回転自在に支持する。さらにポンプケーシング22pの壁厚内部には、潤滑油回路の吸入油路52、オイルポンプ51、および吐出油路54が形成される。潤滑油回路については後述する。ケーシング22の一部であるモータリヤカバー22tは、略円板形状であって、モータケーシング22aの他方端に突き合わされて固定され、モータ部Aの軸線O方向他方端でモータ部Aの端面を形成するとともに、転がり軸受36を介してモータ回転軸35の他方端部を回転自在に支持する。モータリヤカバー22tはモータ部Aの端部であるとともに、インホイールモータ駆動装置21の車幅方向内側の端部でもある。
【0019】
モータ回転軸35の一端は、減速部Bの内部に回転自在に設けられた減速部入力軸25と結合する。この結合はスプライン嵌合(セレーション嵌合も含む。以下同じ)であり、管状に形成されたモータ回転軸35の端部開口に、先細に形成された減速部入力軸25が挿入係合される。
【0020】
減速部Bは、サイクロイド減速機であって、モータ部Aの軸線O方向一方側に同軸配置され、円筒形状の減速部ケーシング22bと、減速部ケーシング22bの内周面に取り付け固定される外ピン保持部45と、軸線Oに沿って延びる減速部入力軸25と、減速部入力軸25に形成された一対の偏心部25a,25bと、それぞれの偏心部25a,25bに回転自在に保持される公転部材としての一対の曲線板26a,26bと、曲線板26a,26bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン27と、軸線Oに沿って延びる減速部出力軸28と、減速部出力軸28と結合し、曲線板26a,26bの自転運動を取り出す内側係合部材としての複数の内ピン31と、一対の曲線板26a,26b間の隙間に取り付けられてこれら曲線板26a,26bの端面に当接して曲線板の傾きを防止するセンターカラー29と、複数の内ピン31の端部同士を固定する補強部材61とを有する。
【0021】
減速部入力軸25は、モータ回転軸35の軸線Oに沿って延び、その両端部のうちモータ部Aに近い側にある減速部入力軸25の端部がモータ回転軸35の一端と結合する。モータ部Aから遠い側にある減速部入力軸25の端部は、転がり軸受39を介して、後述する減速部出力軸28の端部に回転自在に支持される。減速部入力軸25の外周には、一対の偏心部25a,25bが軸線Oから偏心して形成される。減速部入力軸25は、偏心部25a,25bよりもモータ部Aに近い側で、転がり軸受38によって補強部材61に対し回転自在に支持される。
【0022】
各偏心部25a,25bは、円板形状であり、軸線Oから偏心して減速部入力軸25に設けられる。また偏心部25a,25bは、2個で一対をなし、軸線O方向に離隔して配置され、偏心運動による遠心力で発生する振動を互いに打ち消し合うために、周方向180°位相を変えて設けられている。モータ回転軸35および減速部入力軸25は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するモータ側回転部材を構成し、一体に回転する。
【0023】
図2を参照して、曲線板26bは円板形状であり、その外周部を波形に形成される。具体的には曲線板26bの外周部は、エピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成されて径方向に窪んだ複数の曲線凹部であり、外ピン27と噛合する。また曲線板26bは、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30a,30bを有する。貫通孔30aは、曲線板26bの自転軸心Xを中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26bの自転軸心Xに設けられており、曲線板26bの内周になる。曲線板26bは、偏心部25bの外周に相対回転可能に取り付けられる。内ピン31は、針状ころ軸受を含み、内ピン本体31aと、複数の針状ころ31bと、軸受外輪31cを有する。内ピン本体31aは軸受外輪31cを貫通し、針状ころ31bは内ピン本体31aおよび軸受外輪31c間の環状空間に配置される。軸受外輪31cの外周面は、貫通孔30aの孔壁面と転がり接触する。
【0024】
曲線板26bは、転がり軸受41によって偏心部25bに対して回転自在に支持されている。理解を容易にするため
図2では転がり軸受41の周方向一部を破断して示す。この転がり軸受41は、外径面に内側軌道面42aを有する環状の内輪部材42と、内側軌道面42aと外側軌道面になる貫通孔30bの孔壁面との間に配置される複数のころ44と、周方向で隣り合うころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。あるいは深溝玉軸受であってもよい。内輪部材42の内径面は偏心部25bの外径面に嵌合する。内輪部材42は内側軌道面42aに位置し径方向に貫通する孔43および内側軌道面42aを挟んで向かい合う一対の鍔部をさらに有する。孔43は、偏心部25b内部を軸線O直角方向に延びる分岐油路58bと接続する。曲線板26aについても同様である。
【0025】
図1に示す外ピン27は、モータ側回転部材の軸線Oを中心とする円周軌道上に等間隔に複数設けられ(
図2参照)、軸線Oと平行に延びる。そして、2個で一対の曲線板26a,26bが軸線Oを中心として公転運動すると、曲線板26a,26b外周の曲線凹部と外ピン27とが係合して、曲線板26a,26bに自転運動を生じさせる。
【0026】
なお、減速部ケーシング22b内部に配設された外ピン27は、減速部ケーシング22bの内壁面に直接連結固定されていてもよいが、好ましくは減速部ケーシング22bの内壁面に取付固定されている外ピン保持部45に保持されている。より具体的には、
図1に示すように、外ピン27の軸線方向両端部を外ピン保持部45に取り付けられた針状ころ軸受27a(転がり軸受)によって回転自在に支持されている。このように、外ピン27を転がり軸受を介して外ピン保持部45に転がり回転自在に取り付けることにより、曲線板26a,26bとの係合による接触抵抗を低減することができる。
【0027】
図1に示すように減速部出力軸28は、モータ部A側の端部に大径フランジ部28bを、車輪ハブ軸受部C側に軸部28dを有する。大径フランジ部28bと軸部28dとの接続箇所には小径フランジ部28cが形成される。大径フランジ部28bの中心には減速部入力軸25の一端を受け入れる円形凹部34が形成され、円形凹部34に転がり軸受39が配置される。
【0028】
大径フランジ部28bには、減速部出力軸28の軸線Oを中心とする円周上の等間隔に内ピン31の一端部を固定する穴が形成されている。軸部28dの外周面には、車輪ハブ軸受部Cの車輪ハブ32が連結固定されている。
【0029】
図1に示すように、大径フランジ部28bから離れた側にある内ピン31の他端部には、補強部材61が設けられている。補強部材61は、減速部B内部で複数の内ピン31先端と結合固定するフランジ形状の大径円板部61bと、大径円板部61bに隣接して同軸に形成され、大径円板部61bよりも小径の小径円板部61cと、小径円板部61cの内周縁からモータ部Aへ延びるさらに小径の円筒部61dとを含む。大径円板部61bは軸線Oを中心とし、小径円板部61cは大径円板部61bよりもモータ部A寄りに配置され、円筒部61dは小径円板部61cからモータ部Aに向かって軸線Oに沿って延びる。
【0030】
2枚の曲線板26a、26bから一部の内ピン31に負荷される荷重は、補強部材61の大径円板部61bおよび減速部出力軸28の大径フランジ部28bを介して全ての内ピン31によって支持されるため、各内ピン31に作用する応力を低減させ耐久性を向上させることができる。円筒部61dの先端は、オイルポンプ51に差し込まれて、オイルポンプ51を駆動する(
図1参照)。小径円板部61cの内周面には転がり軸受38が取り付けられ、転がり軸受38は減速部入力軸25を回転自在に支持する。
【0031】
補強部材61は、内ピン31を介して減速部出力軸28と連結することから、減速部出力軸28と一体に回転する。減速部出力軸28、補強部材61、および車輪ハブ32は、
図1に示すように、減速部Bの駆動力を駆動輪(ボルト32cと連結する図示しない駆動輪)に伝達する車輪側回転部材を構成する。
【0032】
外ピン保持部45の両端部には転がり軸受62,64が配置される。転がり軸受62,64は車輪側回転部材を回転自在に支持する。具体的には、転がり軸受62は、補強部材61の大径円板部61bの外径に嵌合し、転がり軸受64は減速部出力軸28の大径フランジ部28bの外径に嵌合して外ピン保持部45に減速部出力軸28および補強部材61を回転自在に支持する。転がり軸受62はモータ部Aに近い側に配置され、転がり軸受64は車輪ハブ軸受部Cに近い側に配置される。
【0033】
オイルポンプ51は、ポンプケーシング22pの壁厚内部に設けられた吸入油路52および吐出油路54と接続し、減速部Bの下部に設けられたオイルタンク53から吸入油路52を経て潤滑油を吸い込み、吐出油路54から高圧の潤滑油を吐き出す。吐出油路54は、モータケーシング22aの壁厚内部に設けられて軸方向に延びる油路55と、モータリヤカバー22tの壁厚内部に設けられて径方向に延びる油路56と、管状のモータ回転軸35および減速部入力軸25の内部に設けられて軸線Oに沿って延びる軸線油路57と、軸線Oから偏心部25a内を径方向外側に向かって延びる分岐油路58aおよび偏心部25b内を同様に延びる分岐油路58bと、偏心部25a,25bの外周にそれぞれ嵌合する内輪部材42に穿設された孔43(
図2参照)と順次接続する。また軸線油路57の先端には、円形凹部34と接続する開口58cが設けられる。
【0034】
そしてオイルポンプ51から吐出した潤滑油は、これら油路54,55,56,57,58a(58b)、開口58c、および孔43を順次流れて、減速部B内部(転がり軸受38,39,41,62,64、曲線板26a,26b、内ピン31、および外ピン27等)を潤滑および冷却する。潤滑後の潤滑油は落下してオイルタンク53に集まる。そしてオイルポンプ51によって再び吸入されて、インホイールモータ駆動装置21の内部を循環する。このように本実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、軸心給油方式の潤滑油回路を備え、減速部入力軸25から潤滑油を噴射する。そして潤滑油は、減速部入力軸25から径方向外側に流れて減速部Bを潤滑および冷却する。
【0035】
また潤滑油は、軸線油路57から分岐して、ロータ24に形成されたロータ油路59を流れ、モータ部A内部を冷却するとともに、転がり軸受36,37を潤滑する。潤滑後の潤滑油は、モータ部Aの内部空間Lの中を落下してオイルタンク53に集まる。
【0036】
車輪ハブ軸受部Cは、
図1に示すように内輪33c、回転軸としての車輪ハブ32、転動体33、外輪部材33aを有する転がり軸受である。車輪ハブ32は減速部出力軸28の軸線O方向一方側に同軸配置され、減速部出力軸28に連結固定される。外輪部材33aは減速部ケーシング22bの一端にボルト33bで固定され、内輪33cは車輪ハブ32の外周面に嵌合固定される。車輪ハブ軸受部Cは多数の転動体33を2列に有する複列アンギュラ玉軸受であって、第1列の転動体33が減速部Bに近い側で、外輪部材33aおよび内輪33c間に配置され、第2列の転動体33が減速部Bから遠い側で、外輪部材33aおよび車輪ハブ32間に配置される。
【0037】
車輪ハブ32は、円筒形状の中空部32aと、中空部32aの一端から外径方向に突出する車輪取付けフランジ部32bとを有する。中空部32aの中央孔には軸部28dがスプライン嵌合(セレーション嵌合も含む。以下同じ)する。また中空部32aの外周面には第2列の転動体33と転がり接触する内側軌道面が直接形成される。車輪取付けフランジ部32bにはボルト32cによって図示しない駆動輪のロードホイールが連結固定される。
【0038】
図1および
図2を参照して、上記構成のインホイールモータ駆動装置21の作動原理を詳しく説明する。
【0039】
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。これにより、ロータ24に接続されたモータ回転軸35が回転すると、曲線板26a,26bはモータ側回転部材の軸線Oを中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a,26bの外周に形成された曲線凹部と転がりながら接触しつつ係合して、曲線板26a,26bをモータ側回転部材の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0040】
各貫通孔30aに挿通される内ピン31は、貫通孔30aの内径よりも十分に細く、曲線板26a,26bの自転運動に伴って貫通孔30aの孔壁面と当接する(
図2参照)。これにより、曲線板26a,26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a,26bの自転運動のみが減速部出力軸28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。なお内ピン31の軸受外輪31cは、貫通孔30aの孔壁面に沿って転がる。このとき、軸受外輪31cの一部が貫通孔30aの孔壁面と接触しつつ軸受外輪31cの残部が貫通孔30aの孔壁面と非接触となる。そして軸受外輪31cは、貫通孔30aの孔壁面と接触状態と非接触状態を繰り返しながら転がり接触する。
【0041】
このとき、軸線Oと同軸に配置された減速部出力軸28は、減速部Bの出力軸として曲線板26a,26bの自転を取り出す。これにより、減速部入力軸25の回転が減速部Bによって減速されて減速部出力軸28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、駆動輪に必要なトルクを伝達することが可能となる。ここで附言すると、貫通孔30aと、内ピン31と、減速部出力軸28は、曲線板26a,26bの自転運動を減速部入力軸25の軸線Oを中心とする回転運動に変換して車輪ハブ軸受部Cへ出力する運動変換機構を構成する。
【0042】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZ
A、曲線板26a,26bの波形の数をZ
Bとすると、(Z
A−Z
B)/Z
Bで算出される。
図2に示す実施形態では、Z
A=12、Z
B=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。本実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を電気自動車に採用することにより、バネ下重量を抑えることができる。その結果、走行安定性に優れた電気自動車を得ることができる。
【0043】
次に、ケーシング22につきさらに詳しく説明する。
【0044】
減速部ケーシング22bの上部は、図示しないサスペンション装置のアッパアームと回動可能に連結する。また減速部ケーシング22bの下部は、図示しないサスペンション装置のロアアームと連結する。これにより減速部ケーシング22b(インホイールモータ駆動装置21)を自動車の車体に支持する。なお車重は、サスペンション装置と、減速部ケーシング22bと、車輪ハブ軸受部Cと、車輪を介して、路面に伝達される。
【0045】
図1に示すように、ケーシング22のモータリヤカバー22tにはボルト座部22sおよびリブ22rが一体形成される。またモータケーシング22aには雌ねじ孔76が形成される。各ボルト座部22sには貫通孔22vが貫通形成される。各貫通孔22vは、雌ねじ孔76とそれぞれ接続する。具体的には、各雌ねじ孔76および各貫通孔22vは、円筒形状に形成されたケーシング22の軸線Oと平行に連続して延びる。なお貫通孔22vの一端開口はボルト座部22sのボルト座面22wに形成される。また貫通孔22vの他端開口は突き合わせ面22mに形成される。
【0046】
各貫通孔22vには、ケーシング22の外方からボルト71が通される。そしてボルト71の雄ねじ部72は雌ねじ孔76に螺合する。またボルト71の頭部73は、ボルト座部22sのボルト座面22wを押圧する。なお頭部73とボルト座面22wの間にワッシャ74を介在させてもよいこと勿論である。ワッシャ74は、頭部73の首下面およびボルト座面22wと接触する。複数のボルト71を確りと締め付けることによって、モータリヤカバー22tはモータケーシング22aに接続固定される。
【0047】
図3は、インホイールモータ駆動装置21を車幅方向内側からみた状態を示す背面図であり、リブ22rの全体配置を表す。
図4は、ケーシング22(モータケーシング22a、減速部ケーシング22b、ポンプケーシング22p、モータリヤカバー22t)および外輪部材33aを取り出し、
図3のIV−IVで切断し矢の向きにみた状態を模式的に示す縦断面図であり、リブ22rの断面形状を表す。
図5は、ケーシング22および外輪部材33aを
図3のV−Vで切断し矢の向きにみた状態を模式的に示す断面図であり、リブ22rの縦断面を表す。
【0048】
図3に模式的に示すようにボルト座部22sは、ケーシング22の周方向に間隔を空けて複数配置される。各雌ねじ孔76(
図1参照)も同様に、各ボルト座部22sに対応する位置に配置される。リブ22rは、隣り合うボルト座部22s,22s間に配置され、一方のボルト座部22sから他方のボルト座部22sまで延びる。さらにリブ22rは、複数のボルト座部22s,22s,22s・・・・を順次結ぶようにして周方向に連続して延び、モータリヤカバー22tを周回して延びる。
【0049】
図1および
図5に示すように、ボルト座面22wはモータリヤカバー22tのケーシング表面22xから突出して形成される。ケーシング表面22xは軸線Oと直角な平面である。リブ22rはケーシング表面22xから軸線O方向に突出する。
図5に示すようにケーシング表面22xから突出するリブ22rの突出縁77は、一方のボルト座面22wから他方のボルト座面22wまで直線状に延びる。モータリヤカバー22tの突き合わせ面22mは軸線Oと直角な平面である。突き合わせ面22mからケーシング表面22xまでの所定厚みとリブ22rの突出高さの合計、すなわちボルト座面22wから突き合わせ面22mまでの距離をh
vとする。なおh
vは、貫通孔22vの全長でもある。
【0050】
図6は、ボルトの頭部73がボルト座面22wを押圧する際に、当該押圧力がボルト座部22sおよびリブ22rに及ぼす応力分布を模式的に示したものである。この圧縮応力の分布は、頭部73の外縁から
図6に太矢印で示す押圧方向に広がる。この広がり具合は
図6に角度αおよびドット状のハッチングで概念的に示すように、頭部73から離れるほど広範囲に及ぶ。
【0051】
ところで本実施形態によれば、インホイールモータ駆動装置21の外郭をなすケーシング22が、複数のボルト座部22sを有するモータリヤカバー22tと、複数の雌ねじ孔76を有するモータケーシング22aと、複数のボルト座部22sにそれぞれ形成された貫通孔22vに通されつつ雌ねじ孔76のそれぞれに螺合することによりモータリヤカバー22tをモータケーシング22aに接続固定する複数のボルト71とを含む。そして貫通孔22vの一端開口が形成されるボルト座面22wが、モータリヤカバー22tのケーシング表面22xから突出して形成される。さらにケーシング表面22xには、一つのボルト座部22sから他のボルト座部22sまで延びるリブ22rが形成される。これによりモータリヤカバー22tの肉厚を大きくすることなくモータリヤカバー22tの剛性を向上させることができるばかりでなく、ボルト71からボルト座面22wに与える押圧力を、モータリヤカバー22tとモータケーシング22aの突き合わせ面22mに広く及ぼすことができる。これによりモータリヤカバー22tとモータケーシング22aが突き合わせ面22mで互いに密着し、突き合わせ面22mのシール性が向上する。
【0052】
また本実施形態によれば
図5に示すように、ケーシング表面22xから突出するリブ22rの突出縁77が、リブ22rと接続する一方のボルト座部22sのボルト座面22wから他方のボルト座部22sのボルト座面22wまで直線状に延びることから、モータリヤカバー22tの剛性を十分に高めることができる。
【0053】
また本実施形態によれば
図3に示すように、ボルト座部22sが
図3に図示しない雌ねじ孔76とともに、円筒形状に形成されたケーシング22の周方向に間隔を空けて配置されることから、モータリヤカバー22tの環状の突き合わせ面22mと、モータケーシング22aの環状の突き合わせ面22mを、互いに突き合わせて密着固定することができる。
【0054】
また本実施形態によれば
図1に示すように、雌ねじ孔76およびボルト座部22sの貫通孔22vが、円筒形状に形成されたケーシング22の軸線Oと平行に延びる。またリブ22rはモータリヤカバー22tのケーシング表面22xから軸線方向に突出する。これにより、軸線Oと直角なモータリヤカバー22tの突き合わせ面22mおよびモータケーシング22aの突き合わせ面22mを、互いに突き合わせて密着固定することができる。
【0055】
図7は、本実施形態のケーシング部材同士の突き合わせ面22mにおいて全てのボルト71の押圧力が作用する範囲にハッチングを付して模式的に示す説明図である。
図7にドット状のハッチングで示すように、ボルト71の押圧力は、リブ22rの中央で途切れることなく、突き合わせ面22mの全周に亘って及ぶことがわかる。
【0056】
本願発明の理解を容易にするため、比較例につき説明する。
図8は比較例になるインホイールモータ駆動装置を模式的に示す背面図であり、車幅方向内側からモータリヤカバー22tをみた状態を表す。
図9は、
図8のIX−IXにおける縦断面図であり、ケーシング22を取り出して示す。
図10は、
図8のX−Xにおける断面であり、隣り合うボルト座部同士の間を表す。
図11は、比較例のボルト1本当たりの押圧力の圧縮応力分布を模式的に示す説明図である。
図12は、比較例のケーシング部材同士の突き合わせ面において全てのボルトの押圧力が作用する範囲を模式的に示す説明図である。
【0057】
比較例では、リブ22rが設けられていない。またボルト座部22sがケーシング表面22xから突出するように形成されていない。このためボルト71の全長も短い。なお頭部73の幅寸法W
Hは、
図6および
図11に示すように、前述した実施形態と比較例で共通する。他の点は本実施形態と同一であるため、共通する部品に同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
比較例では
図10に示すように、モータリヤカバー22tのケーシング表面22xから突き合わせ面22mまでの寸法h
cが、ボルト座部22sおよび貫通孔22vの長さになる(h
c<h
v)。
【0059】
比較例のボルトの頭部73の押圧力が突き合わせ面22mに及ぶ広がり範囲W
cは、
図11に示すように、寸法h
cに比例して小さくなる(W
c<W
v)。
【0060】
この結果、比較例のケーシング部材同士の突き合わせ面22mにおいて全てのボルト71の押圧力が作用する範囲は、
図12にドット状のハッチングで示すように、隣り合うボルト座部22s同士の間で途切れてしまうことがわかる。
【0061】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
21 インホイールモータ駆動装置、 22 ケーシング、
22a モータケーシング、 22b 減速部ケーシング、
22m 突き合わせ面、 22p ポンプケーシング、
22r リブ、 22s ボルト座部、 22t モータリヤカバー、
22v 貫通孔、 22w ボルト座面、 22x ケーシング表面、
28 減速部出力軸、 31 内ピン、 32 車輪ハブ、
35 モータ回転軸、 51 オイルポンプ、 53 オイルタンク、
71 ボルト、 72 雄ねじ部、 73 頭部、
74 ワッシャ、 76 雌ねじ孔、 77 突出縁、
A モータ部、 B 減速部、 C 車輪ハブ軸受部、
O 軸線、 X 自転軸心。