(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374798
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】回転電機の冷却構造
(51)【国際特許分類】
H02K 1/20 20060101AFI20180806BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20180806BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20180806BHJP
H02K 5/20 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
H02K1/20 Z
H02K1/18 E
H02K9/19 A
H02K5/20
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-17022(P2015-17022)
(22)【出願日】2015年1月30日
(65)【公開番号】特開2016-144271(P2016-144271A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 一人
(72)【発明者】
【氏名】柳生 壽美夫
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第101119055(CN,A)
【文献】
特開2004−112961(JP,A)
【文献】
特開2013−179745(JP,A)
【文献】
特開2013−179746(JP,A)
【文献】
特開昭53−051407(JP,A)
【文献】
実開昭51−025705(JP,U)
【文献】
国際公開第2015/037069(WO,A1)
【文献】
特開2005−354821(JP,A)
【文献】
特開平08−251872(JP,A)
【文献】
特開平08−322170(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0167536(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/20
H02K 1/18
H02K 5/20
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のヨーク(2)と、このヨーク(2)の内周側から突出し且つ周方向に間隔をあけて配列したティース(3)と有する固定子(1)と、
前記ティース(3)に巻回された巻線(5)であって前記周方向で隣接する巻線(5)間に間隔が設けられた巻線(5)と、
前記巻線(5)間を充填しながら固定子(1)の軸心方向両側面に高熱伝導率の樹脂でモールド成形された熱伝導体(7)と、
前記熱伝導体(7)の内部に形成された冷媒流通用の通路(8)であって、前記ヨーク(2)に沿った環形状を呈していて、前記巻線(5)及び前記ティース(3)とオーバラップした位置と、前記ヨーク(2)とオーバラップした位置とに配置された通路(8)と、
を備えていることを特徴とする回転電機の冷却構造。
【請求項2】
前記巻線(5)及び前記ティース(3)とオーバラップした位置に配置された通路(8)と、前記ヨーク(2)とオーバラップした位置に配置された通路(8)とが、前記ヨーク(2)の径方向に同心円環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項3】
前記通路(8)は、冷媒を流通させる通路内面が前記熱伝導体(7)を形成する樹脂によって構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電機の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、産業機器に適用される回転電機の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や、農機、建機、ユーティリティビークル等の産業機器に適用される電動機(各種PMモータ・ジェネレータを含む。)は、シリーズハイブリッド式又はパラレルハイブリッド式駆動源として機器に搭載されており、例えば、小型・高出力の永久磁石同期電動機が用いられている。
この種の電動機の固定子は、ヨークから突出したティースにコイルを集中巻き又は分布巻きしており、コイルの銅損で発生する熱、固定子の鉄損で発生する熱を放熱するために、オートマチックトランスミッションフルード (ATF)を用いた直接冷却、外部ケースにウォータジャケットを用いた液冷等が実施されている。
【0003】
前記ATF冷却では、コイルと冷媒間の接触面積が小さく、伝熱量が小さかったり、コイル近傍の冷却が困難であったりしており、外部ケースのウォータジャケット冷却では、固定子と外部ケースとの間に空気層があり、熱抵抗が大きく、コイルまでの距離が長いので放熱効率が低いものになっている。
特許文献1においては、鉄芯コアに巻かれた電磁コイルをモールド樹脂でモールド成形して、モールド樹脂の高い熱伝導率化を利用したものがある。
【0004】
また、特許文献2においては、コイルに対して固定子の軸心方向に離間して冷媒供給口を配置して、この冷媒供給口からコイルの軸方向端面と円周方向端面とに冷媒を供給して接触させることにより、冷却効率を向上させるようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2012/101976A1明細書
【特許文献2】特開2014ー096876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の技術は、電磁コイルからモールド樹脂への熱伝導は効率良く行うことができるが、モールド樹脂で外部ケースも形成しなくてはならなく、金属製の外部ケース内に配置すると、モールド樹脂から外部への放熱が困難になる。
前記特許文献2の技術は、コイルの周面を直接的に冷却できるが、冷媒はコイルと接触する時間が短いので、冷却効率を高めることは困難になる。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにした回転電機の冷却構造を提供することを目的とする。
本発明は、ティースの巻線を覆う高熱伝導率樹脂製の熱伝導体の内部に冷媒用通路を形成することにより、巻線を効率良く冷却できるようにした回転電機の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における課題解決のための具体的手段は、次の通りである。
本発明の一態様に係る回転電機の冷却構造は、円環状のヨーク2
と、このヨーク2の内周側から突出
し且つ周方向に間隔をあけて配列したティース3
と有する固定子1
と、前記ティース3に巻回された巻線5であって前記周方向で隣接する巻線5間に間隔が設けられた巻線5と、前記巻線5間を充填しながら固定子
1の軸心方向両側面に高熱伝導率の樹脂で
モールド成形された熱伝導体7
と、前記熱伝導体7の内部に
形成された冷媒流通用の通路8であって、前記ヨーク2に沿った環形状を呈していて、前記巻線5及び前記ティース3とオーバラップした位置と、前記ヨーク2とオーバラップした位置とに配置された通路8
と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、前記巻線5及び前記ティース3とオーバラップした位置に配置された通路8と、前記ヨーク2とオーバラップした位置に配置された通路8とが、前記ヨーク2の径方向に同心円環状に形成されていることを特徴とする。
また、前記通路8は、冷媒を流通させる通路内面が前記熱伝導体7を形成する樹脂によって構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、巻線を効率良く冷却できる。
即ち
、巻線5間を充填しながら固定子の軸心方向両側面に高熱伝導率の樹脂で熱伝導体7をモールド成形することにより、大きい体積の熱伝導体7で巻線5から抵抗少なく熱を奪うことができ、その熱を熱伝導体7内で冷媒用通路8を通る冷媒で効率良く冷却することができる。
【0011】
また、巻線5間にも高熱伝導率の樹脂を充填して熱伝導体7をモールド成形でき、巻線5の全周から熱伝導体7へ熱伝導ができ、その熱を巻線5とオーバラップ配置した冷媒用通路8の冷媒で効率よく冷却することができる。
また、固定子1の軸心方向の側面は広い面積を有し、その広い面積部分で熱伝導体7の冷却ができ、冷却効率を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜4に示す第1実施形態において、例えば、永久磁石埋込型ロータを有する同期電動機(回転電機)に適用される固定子1を示しており、固定子1は環状の外部ケース10の内周面に圧入嵌入されている。
固定子1は、環状のヨーク2の内周側にティース3が突出して周方向複数配列され、ティース3には絶縁部材4を介在して巻線5が巻かれており、ティース3及び巻線5の径内端を残して固定子1の全体に高熱伝導率の樹脂で熱伝導体7をモールド成形し、この熱伝導体7の内部に冷媒用通路8を形成している。
【0014】
前記固定子1は、1つの環状のヨーク2の内周に多数のティース3を突設したヨーク一体型のものであるが、分割ヨークとそれに一体となった1つのティース3(極歯部)とで固定子片を形成し、その固定子片を周方向に多数個配列して1個の環状の固定子を構成する固定子片環状結合型であってもよい。
固定子1は多数枚の珪素鋼板を積層して形成しており、ティース3は周方向の2面(スロット側の面)と軸方向(固定子の軸心方向)の2面とを有し、断面矩形状になっている。
【0015】
絶縁部材4は、アラミド絶縁紙あるいはPPS樹脂等の樹脂で形成されており、断面矩形状のティース3の全周を包囲する四角筒形状、または、ティース3の全周を2個一対で
包囲する二つ割り形状になっている。
なお、ティース3の周方向面及び/又は軸方向面に凸条を形成し、絶縁部材4の内周面にそれら凸条と嵌入する凹条溝を形成して、両者の接触面積をより大きくし、空気層を形成し難くし、またティース3に対して絶縁部材4の嵌合位置を不動になるように構成してもよい。
【0016】
前記巻線5は集中巻きで巻かれており、ティース3に絶縁部材4を嵌合して、その絶縁部材4の外周に巻線5を締めながら集中巻きしている。
前記熱伝導体7は、熱伝導率の高い樹脂であり、金型内に固定子1を配置しておいて樹脂を充填することにより、巻線5間にも樹脂が充填され、外形も断面矩形状又はそれ以外の形状に形成される。このモールド成形は固定子1を外部ケース10内に嵌入する前でも後でも行える。
【0017】
前記モールド成形を行う際に、樹脂製の管、金属製の管または熱溶解可能な材料で形成された棒状中子等を、環状に形成して金型内に挿入しておくことにより、冷媒用通路8が形成される。
図1〜4に示した冷媒用通路8は4本であり、巻線5及びティース3とオーバラップした位置に3本、ヨーク2とオーバラップした位置に1本配置されている。この4本の冷媒用通路8は、同心円環形状の4本円に巻いており、4本の通路8の一端部に共通の冷媒供給口部材13を設け、4本の他端部に共通の冷媒吐出口部材14を設けている。
【0018】
前記冷媒供給口部材13及び冷媒吐出口部材14は、固定子1の外部の冷媒循環装置に接続されており、冷却した水、油等の冷媒を冷媒供給口部材13に供給して冷媒用通路8に流動させ、冷媒吐出口部材14から吐出させるようになっている。
前記4本の冷媒用通路8は、1本の通路を4重螺旋に巻いて形成することもでき、その場合は、一端部に冷媒吐出口部材13を接続し、他端部に冷媒吐出口部材14を接続する。
【0019】
図5には第2実施形態を示しており、熱伝導体7内の冷媒用通路8は固定子1の軸心方向の両側面に配置されており、ヨーク2の両側面には断面小判形の補助通路16が形成されている。この補助通路16はヨーク2の軸方向側面とオーバラップし、かつ巻線5の径外側端部とオーバラップしており、巻線5とヨーク2とを冷却可能になっている。外部ケース10内にもヨーク2の近傍の内周側に冷媒を通す冷却路17が形成されている。
【0020】
前記第1、第2実施形態において、冷媒用通路8は軸心方向視において、網目形状又は周方向ジグザグ形状に形成して熱伝導体7内に配置したり、巻線5の側方から周方向に隣り合う巻線5間に侵入させたり、周方向に隣り合う巻線5を縫うように配置したりしてもよい。
前記冷媒用通路8は、断面形状が円形、小判形、角形、その他の形状でもよく、1本又は複数本にして固定子1の軸心方向の少なくとも一方の側面に配置しておればよく、ヨーク2とオーバラップする位置に配置可能であるが、少なくとも巻線5とオーバラップする位置、コイルエンドを冷却できる位置に配置される。
【0021】
前記固定子1を内蔵する回転電機は、高熱伝導率樹脂製の熱伝導体7が巻線5間に充填され、巻線5、ティース3及びヨーク2の軸心方向両側面を覆うことにより、巻線5及びティース3で発生する抵抗熱を効率よく伝導して吸収し、冷媒用通路8を流れる冷媒によって除去できる。
発熱体である巻線5と冷媒用通路8との間には高熱伝導率樹脂のみであり、熱抵抗が低下するとともに、冷媒用通路8を通る冷媒で熱伝導体7自体を冷却して抵抗熱を奪うことができるので、効率よく冷却できる。しかも、熱伝導体7内に冷媒用通路8を一体成形す
るため、部品点数を削減でき、モールド成形が容易である。
【0022】
冷媒用通路8は熱伝導体7内部の巻線5のコイルエンド近傍に配置でき、巻線5の両側方、ヨーク2の両側方等に配置することにより、固定子1を全体的にかつ均一的に冷却でき、巻線5の温度を低く保てることにより、回転電機の寿命を長くすることも可能になる。
冷媒による冷却効率が向上することは、回転電機におけるフィン等の構造物を削減したり、強制冷却システムを低出力にしたりすることも可能になり、低振動化、低騒音化等も可能になる。
【0023】
また、固定子1は外面を覆う熱伝導体7を有するので、固定子1の外周面と外部ケース10の内周面とはラフな精度でも固定することができ、コスト削減も可能になり、扁平形状の回転電機の場合には、熱伝導体7のないものよりも大きい冷却面積、冷却体積を確保できる。
なお、本発明は前記実施形態における各部材の形状及びそれぞれの前後・左右・上下の位置関係は、
図1〜5に示すように構成することが最良である。しかし、前記実施形態に限定されるものではなく、部材、構成を種々変形したり、組み合わせを変更したりすることもできる。
【0024】
例えば、巻線5は集中巻きで巻かれているが、複数本のティース3に渡って巻線を巻く分布巻きにしてもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 固定子
2 ヨーク
3 ティース
4 絶縁部材
5 巻線
7 熱伝導体
8 冷媒用通路