(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374808
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】ZrO2成分を含有するケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20180806BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20180806BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
C03C10/04
C03B32/02
A61C13/083
【請求項の数】32
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-43471(P2015-43471)
(22)【出願日】2015年3月5日
(62)【分割の表示】特願2011-87790(P2011-87790)の分割
【原出願日】2011年4月11日
(65)【公開番号】特開2015-145332(P2015-145332A)
(43)【公開日】2015年8月13日
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】10160222.5
(32)【優先日】2010年4月16日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン リッツベルガー
(72)【発明者】
【氏名】リカルド デラジアコモ
(72)【発明者】
【氏名】マルセル シュヴァイガー
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド ビュールク
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフラム ホーランド
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー ラインベルガー
【審査官】
吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−053776(JP,A)
【文献】
特開2006−219367(JP,A)
【文献】
特開平08−040744(JP,A)
【文献】
特開平11−314938(JP,A)
【文献】
特開昭50−094017(JP,A)
【文献】
特公昭32−005080(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 10/00 − 10/14
C03B 32/00 − 32/02
C04B 35/14 − 35/22
A61C 5/70 − 5/77
A61C 13/08 − 13/097
A61K 6/00 − 6/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科材料として使用するためのケイ酸リチウムガラスセラミックであって、該ケイ酸リチウムガラスセラミックが8.0質量%〜16.0質量%のZrO2、55.0質量%〜71.0質量%のSiO2、0.5質量%〜12.0質量%の造核剤、0.2質量%〜10.0質量%のAl2O3を含有し、かつメタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有し、ここで、該ガラスセラミックは、9.0質量%〜17.0質量%のLi2Oを含有する、ケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項2】
前記ガラスセラミックが8.0質量%〜9.7質量%のZrO2を含有する、請求項1に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項3】
前記ガラスセラミックが10体積%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項4】
前記ガラスセラミックが20体積%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項3に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項5】
前記ガラスセラミックが30体積%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項4に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項6】
前記ガラスセラミックが10体積%より多くの二ケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項1〜2のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項7】
前記ガラスセラミックが20体積%より多くの二ケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項6に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項8】
前記ガラスセラミックが30体積%より多くの二ケイ酸リチウム結晶を含有する、請求項7に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項9】
前記ガラスセラミックが55.0質量%〜69.0質量%のSiO2を含有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項10】
前記造核剤が、P2O5、TiO2、Nb2O5および金属から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項11】
前記ガラスセラミックが2.5質量%〜7.0質量%の造核剤を含有する、請求項10に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項12】
前記造核剤がP2O5である、請求項10または11に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項13】
前記ガラスセラミックがさらなるアルカリ金属酸化物を、1.0質量%〜7.0質量%の量で含有し、該さらなるアルカリ金属酸化物が、K2O、Cs2OおよびRb2Oからなる群より選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項14】
前記ガラスセラミックがさらなるアルカリ金属酸化物を、2.0質量%〜7.0質量%の量で含有する、請求項13に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項15】
前記ガラスセラミックがさらなるアルカリ金属酸化物を、2.0質量%〜5.0質量%の量で含有する、請求項14に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項16】
前記さらなるアルカリ金属酸化物がK2Oである、請求項13〜15のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項17】
前記ガラスセラミックが5.0質量%までのアルカリ土類金属酸化物を含有し、該アルカリ土類金属酸化物が、CaO、BaO、MgOおよびSrOからなる群より選択される、請求項1〜16のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項18】
前記ガラスセラミックが2.5質量%〜7.0質量%のAl2O3を含有する、請求項1〜17のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項19】
前記ガラスセラミックが2.5質量%〜3.5質量%のAl2O3を含有する、請求項18に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項20】
0.5質量%〜3.5質量%のAl2O3を含有する、請求項1〜17のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項21】
前記ガラスセラミックが少なくとも1種のさらなる四価元素の酸化物、1種のさらなる五価元素の酸化物、または1種の六価元素の酸化物を含有する、請求項1〜20のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項22】
前記さらなる四価元素の酸化物がSnO2およびGeO2から選択され、前記さらなる五価元素の酸化物がBi2O5であり、前記六価元素の酸化物がWO3およびMoO3から選択される、請求項21に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項23】
前記ガラスセラミックが以下の成分:
成分 質量%
SiO2 55.0〜71.0
K2O 1.0〜5.0
Al2O3 0.5〜5.0
P2O5 0.5〜12.0
ZrO2 8.0〜16.0
を含有する、請求項1、3〜8、10〜13、16、17、21および22のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項24】
前記ガラスセラミックが以下の成分:
成分 質量%
SiO2 55.0〜69.0
K2O 1.0〜5.0
Al2O3 0.5〜3.5
P2O5 2.5〜7.0
ZrO2 8.0〜16.0
を含有する、請求項23に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項25】
前記ガラスセラミックが、KIC値として測定される、少なくとも1.5MPa・m0.5の破壊靱性を有する、請求項1〜24のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項26】
前記ガラスセラミックが、KIC値として測定される、1.8MPa・m0.5より高い破壊靱性を有する、請求項25に記載のケイ酸リチウムガラスセラミック。
【請求項27】
歯科材料として使用するためのケイ酸リチウムガラスであって、該ガラスが、請求項1〜2および8〜24のいずれか1項に記載のガラスセラミックの成分を含有し、かつ主要結晶相としてメタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムを形成するのに適した核を含有する、ケイ酸リチウムガラス。
【請求項28】
粉末、ブランクまたは歯科用修復物の形態で存在する、請求項1〜26のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックまたは請求項27に記載のケイ酸リチウムガラス。
【請求項29】
酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするのに使用するための、請求項1〜26もしくは請求項28のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックまたは請求項27もしくは請求項28に記載のケイ酸リチウムガラス。
【請求項30】
歯科用修復物をコーティングするのに使用するため、および歯科用修復物を調製するのに使用するための、請求項1〜26もしくは請求項28のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックまたは請求項27もしくは請求項28に記載のケイ酸リチウムガラス。
【請求項31】
酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするためのプロセスであって、請求項1〜26もしくは請求項28のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックまたは請求項27もしくは請求項28に記載のケイ酸リチウムガラスが、該酸化ジルコニウムセラミックに塗布され、そして高温に曝露される、プロセス。
【請求項32】
請求項1〜26もしくは請求項28のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックまたは請求項27もしくは請求項28に記載のケイ酸リチウムガラスでコーティングされた、酸化ジルコニウムセラミック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZrO
2を含有し、そして酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするのに特に適している、ケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ジルコニウムセラミックは、優れた生体適合性および顕著な機械特性により特徴付けられ、この理由により、過去において、これらのセラミックは、移植物およびプロテーゼのための材料としてのみでなく、歯科用修復物のための枠組み材料として、次第に使用されている。特に安定化された酸化ジルコニウムベースのセラミックが、主としてこのために使用される。
【0003】
多くの場合において、酸化ジルコニウムセラミックの表面を異なる材料でコーティングすることによって、この表面を変更することが望ましい。具体的には、酸化ジルコニウムセラミックベースの歯科用修復物を調製する場合、このようなコーティングは、この修復物に望ましい視覚的特性を与えるために、通常使用される。
【0004】
ガラスセラミックは、酸化物セラミック(例えば、酸化ジルコニウムセラミック)にコーティングまたは上張りするために、過去にすでに使用されている。これらとしては、長石ベースのセラミックまたはフルオロアパタイトガラスセラミックが挙げられる。
【0005】
二ケイ酸リチウムガラスセラミックもまた公知であり、これらは、高い半透明性および非常に良好な機械特性に起因して、特に歯科分野において、そして主として、歯科用クラウンおよび小さいブリッジを調製するために使用される。
【0006】
特許文献1は、0重量%〜2重量%のZrO
2をさらに含有し得るケイ酸リチウムガラスセラミックを記載する。これらは、所望の歯科用修復物に加工され、特に、CAD/CAM法によりメタケイ酸リチウムガラスセラミックの形態で加工され、ここで引き続く熱処理は、メタシリケート相の、より高強度のジシリケートの相への転換を起こす。これらのガラスセラミックはまた、セラミック修復物を覆ってプレスするために使用され得る。
【0007】
特許文献2は、類似のケイ酸リチウムガラスセラミックを記載し、これらは、ZnOを実質的に含まず、そして他の成分に加えて、0重量%〜4重量%のZrO
2を含有し得る。しかし、高い強度を達成するために、0重量%〜2重量%という少量のZrO
2が好ましい。これらのガラスセラミックはまた、特に、CAD/CAMによる機械加工後に、歯科用修復物を調製するために役立つ。
【0008】
しかし、技術水準から公知であるこれらのケイ酸リチウムガラスセラミックは、これらが特に、粘性状態でのプレスにより酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするのに適していないという欠点を有する。なぜなら、粘性流動プロセスでのプレス後に、亀裂および傷がこのガラスセラミックに形成されるからである。従って、このような複合材は、歯科用修復物材料として使用する際に特に絶対必要な機械特性を有さない。
【0009】
二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有するガラスセラミック(イットリウムで安定化されたニ酸化ジルコニウムを含む歯科用修復物を上張りするのに適切である)もまた、特許文献3から公知である。しかし、これらのガラスセラミックは、ほんの6.0重量%までの量のZrO
2、およびかなりの量のNa
2Oを含有する。存在するZrO
2は、所望の二ケイ酸リチウム結晶相の形成を起こすために、必要に応じて存在するさらなる造核剤(例えば、TiO
2)と一緒に、単に標準的な造核剤として働く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1505041号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1688398号明細書
【特許文献3】国際公開第2008/106958号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
すでに公知であるガラスセラミックの上記欠点を考慮して、本発明の目的は、特に粘性状態でプレスすることによって、プロセスが実質的に亀裂も傷も含まないコーティングを形成するプロセスで、酸化ジルコニウムセラミックにコーティングされ得るガラスセラミックを提供することである。さらに、このガラスセラミックは、コーティングされる酸化ジルコニウムセラミックとしっかりした結合を形成し得るべきであり、そしてこのガラスセラミックが特に歯科用修復物のためのコーティング材料として、かつ歯科用修復物を調製するための材料としてもまた、使用されることを可能にする視覚的特性および機械特性を有するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
少なくとも6.1重量%のZrO
2を含有する、ケイ酸リチウムガラスセラミック。
【0013】
(項目2)
6.1重量%〜20.0重量%、好ましくは8.0重量%〜20.0重量%、特に好ましくは8.0重量%〜18.0重量%、そして非常に特に好ましくは10.0重量%〜16.0重量%のZrO
2を含有する、上記項目に記載のガラスセラミック。
【0014】
(項目3)
メタケイ酸リチウムを主要結晶相として含有し、そして特に、10体積%より多く、好ましくは20体積%より多く、そして特に好ましくは30体積%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0015】
(項目4)
二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有し、そして特に、10体積%より多く、好ましくは20体積%より多く、そして特に好ましくは30体積%より多くの二ケイ酸リチウム結晶を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0016】
(項目5)
55.0重量%〜71.0重量%、特に60.0重量%〜69.0重量%のSiO
2を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0017】
(項目6)
9.0重量%〜17.0重量%、特に11.0重量%〜15.0重量%のLi
2Oを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0018】
(項目7)
0.5重量%〜12.0重量%、特に2.5重量%〜7.0重量%の造核剤を含有し、該造核剤が、特に、P
2O
5、TiO
2、Nb
2O
5および/または金属から選択され、そして好ましくは、P
2O
5である、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0019】
(項目8)
さらなるアルカリ金属酸化物を、1.0重量%〜7.0重量%、好ましくは2.0重量%〜7.0重量%、そして特に好ましくは2.0重量%〜5.0重量%の量で含有し、該さらなるアルカリ金属酸化物が、特に、K
2O、Cs
2Oおよび/またはRb
2Oであり、好ましくは、K
2Oである、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0020】
(項目9)
5.0重量%までのアルカリ土類金属酸化物を含有し、該アルカリ土類金属酸化物が、好ましくは、CaO、BaO、MgOおよび/またはSrOである、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0021】
(項目10)
0.2重量%〜10.0重量%、特に2.5重量%〜7.0重量%、そして好ましくは2.5重量%〜3.5重量%の三価元素の酸化物を含有し、該三価元素の酸化物が特に、Al
2O
3、Y
2O
3、La
2O
3、および/またはBi
2O
3であり、そして好ましくは、Al
2O
3である、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0022】
(項目11)
少なくとも1種のさらなる四価元素の酸化物、特にSnO
2もしくはGeO
2、1種のさらなる五価元素の酸化物、特にBi
2O
5、または1種の六価元素の酸化物、特にWO
3もしくはMoO
3を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0023】
(項目12)
以下の成分:
成分 重量%
SiO
2 55.0〜71.0
Li
2O 9.0〜17.0
K
2O 1.0〜5.0、特に2.0〜5.0
Al
2O
3 0.5〜5.0、特に2.5〜3.5
P
2O
5 0.5〜12.0、特に2.5〜7.0
ZrO
2 6.1〜20.0、特に8.0〜20.0
のうちの少なくとも1つ、好ましくは全てを含有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0024】
(項目13)
K
IC値として測定される、少なくとも1.5MPa・m
0.5、そして特に1.8MPa・m
0.5より高い破壊靱性を有する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【0025】
(項目14)
上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミックの成分を含有する、ケイ酸リチウムガラス。
【0026】
(項目15)
メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核を含有する、上記項目のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラス。
【0027】
(項目16)
粉末、ブランクまたは歯科用修復物の形態で存在する、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラス。
【0028】
(項目17)
上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスを調製するためのプロセスであって、該ガラスセラミックまたは該ガラスの成分を含む出発ガラスが、450℃〜950℃の範囲での少なくとも1回の熱処理に供される、プロセス。
【0029】
(項目18)
酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするための、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスの使用。
【0030】
(項目19)
歯科材料としての、特に、歯科用修復物をコーティングするため、および歯科用修復物を調製するための、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスの使用。
【0031】
(項目20)
酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするためのプロセスであって、上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスが、該酸化ジルコニウムセラミックに塗布され、そして高温に曝露される、プロセス。
【0032】
(項目21)
上記項目のいずれか1項に記載のガラスセラミック、または上記項目のいずれか1項に記載のガラスでコーティングされた、酸化ジルコニウムセラミック。
【0033】
上記目的は、請求項1〜13もしくは16のいずれか1項に記載のケイ酸リチウムガラスセラミックによって達成される。また、本発明の主題は、請求項14または15に記載のケイ酸リチウムガラス、請求項17に記載のガラスセラミックおよびガラスを調製するためのプロセス、請求項18および19に記載のこれらの使用、請求項20に記載の酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするためのプロセス、ならびに請求項21に記載のコーティングされた酸化ジルコニウムセラミックである。
【0034】
(摘要)
特に粘性状態でプレスすることによって、酸化ジルコニウムセラミックに有利に塗布され得、そしてこの酸化ジルコニウムセラミックとしっかりした結合を形成し得る、ケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラスが記載される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によって、特に粘性状態でプレスすることによって、酸化ジルコニウムセラミックに有利に塗布され得、そしてこの酸化ジルコニウムセラミックとしっかりした結合を形成し得る、ケイ酸リチウムガラスセラミックおよびガラスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、粉砕したガラス円柱の示差熱分析(DSC)の結果を示す。
【
図2】
図2は、ガラス円柱の高温X線回折(HT−XRD)を使用した、メタケイ酸リチウム(Li
2SiO
3)および二ケイ酸リチウム(Li
2Si
2O
5)の形成の温度からの依存性を示す。
【
図3】
図3は、研磨されてHF蒸気で30秒間エッチングされた、結晶化した円柱の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【
図4】
図4は、40% HF蒸気でエッチングした後の、結合の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミックは、少なくとも6.1重量%のZrO
2、そして特に、少なくとも6.5重量%、好ましくは少なくとも7.0重量%、そして特に好ましくは少なくとも8.0重量%のZrO
2を含有することを特徴とする。
【0038】
さらに好ましい実施形態において、このガラスセラミックは、特に6.1重量%〜20.0重量%、好ましくは8.0重量%〜20.0重量%、特に好ましくは8.0重量%〜18.0重量%、そして非常に特に好ましくは10.0重量%〜16.0重量%のZrO
2を含有する。
【0039】
さらに、55.0重量%〜71.0重量%、そして特に60重量%〜69重量%のSiO
2を含有するガラスセラミックが好ましい。
【0040】
さらに、9.0重量%〜17.0重量%、そして特に11重量%〜15重量%のLi
2Oを含有するガラスセラミックが好ましい。
【0041】
さらに、このガラスセラミックが、0.5重量%〜12.0重量%、そして特に2.5重量%〜7.0重量%の造核剤を含有する場合に特に好ましいことが示された。好ましい造核剤は、P
2O
5、TiO
2、Nb
2O
5、金属(例えば、Pt、Pd、AuおよびAg)、またはこれらの混合物から選択される。特に好ましくは、このガラスセラミックは、P
2O
5を造核剤として含有する。驚くべきことに、造核剤としてのP
2O
5は、特に、所望の二ケイ酸リチウム結晶の形成を起こし、一方で、ZrO
2含有結晶相(これは、半透明性のかなりの低下を引き起こし得る)の形成を大いに防止する。その使用によって、他の望ましくない二次結晶相の形成もまた、見かけ上大いに防止される。
【0042】
本発明によるガラスセラミックは、好ましくは、さらなるアルカリ金属酸化物を、1.0重量%〜7.0重量%、好ましくは2.0重量%〜7.0重量%、そして特に好ましくは2.0重量%〜5.0重量%の量で含有する。用語「さらなるアルカリ金属酸化物」とは、Li
2O以外のアルカリ金属酸化物をいう。さらなるアルカリ金属酸化物は、特に、K
2O、Cs
2Oおよび/またはRb
2Oであり、そして特に好ましくは、K
2Oである。K
2Oの使用は、従来のガラスセラミックにおいて使用されるNa
2Oと比較して、ガラス網目構造の強化に寄与すると仮定される。ガラスセラミックは、2.0未満、特に1.0未満、好ましくは0.5未満Na
2Oを含有すること、および特に好ましくは、Na
2Oを本質的に含まないことが好ましい。
【0043】
ガラスセラミックは、5.0重量%までのアルカリ土類金属酸化物を含有することがさらに好ましく、ここでこのアルカリ土類金属酸化物は、特に、CaO、BaO、MgO、SrOまたはこれらの混合物である。
【0044】
さらに、0.2重量%〜10.0重量%、特に2.5重量%〜7.0重量%、そして好ましくは2.5重量%〜3.5重量%の三価元素の酸化物を含有するガラスセラミックが好ましく、ここでこの酸化物は特に、Al
2O
3、Y
2O
3、La
2O
3、Bi
2O
3およびこれらの混合物から選択され、そして好ましくは、Al
2O
3である。
【0045】
以下の成分のうちの少なくとも1つ、そして好ましくは全てを含有するガラスセラミックが、特に好ましい:
成分 重量%
SiO
2 55.0〜71.0
Li
2O 9.0〜17.0
K
2O 1.0〜7.0、特に2.0〜5.0
Al
2O
3 0.5〜5.0、特に2.5〜3.5
P
2O
5 0.5〜12.0、特に2.5〜7.0
ZrO
2 6.1〜20.0、特に8.0〜20.0。
【0046】
本発明によるガラスセラミックはさらにまた、さらなる成分を含有し得、これらのさらなる成分は、特に、さらなる四価元素の酸化物、さらなる五価元素の酸化物、六価元素の酸化物、融解加速剤、着色剤および蛍光剤から選択される。
【0047】
用語「さらなる四価元素の酸化物」とは、SiO
2およびZrO
2以外の四価元素の酸化物をいう。さらなる四価元素の酸化物の例は、SnO
2およびGeO
2である。
【0048】
用語「さらなる五価元素の酸化物」とは、P
2O
5以外の五価元素の酸化物をいう。さらなる五価元素の酸化物の例は、Bi
2O
5である。
【0049】
六価元素の酸化物の例は、WO
3およびMoO
3である。
【0050】
少なくとも1つのさらなる四価元素の酸化物、1つのさらなる五価元素の酸化物または1つの六価元素の酸化物を含有するガラスセラミックが好ましい。
【0052】
着色剤および蛍光剤の例は、d元素の酸化物およびf元素の酸化物であり、例えば、Ti、Sc、Mn、Fe、Ag、Ta、W、Ce、Pr、Nd、Tb、ErおよびYbの酸化物である。
【0053】
以下で使用される用語「主要結晶相」とは、他の結晶相と比較して体積の割合が最も高い結晶相をいう。
【0054】
本発明によるガラスセラミックは、好ましくは、メタケイ酸リチウムを主要結晶相として含有する。特に、このガラスセラミックは、ガラスセラミック全体に対して10体積%より多く、好ましくは20体積%より多く、そして特に好ましくは30体積%より多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有する。
【0055】
さらに好ましい実施形態において、このガラスセラミックは、二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有する。特に、このガラスセラミックは、ガラスセラミック全体に対して10体積%より多く、好ましくは20体積%より多く、そして特に好ましくは30体積%より多くの二ケイ酸リチウム結晶を含有する。
【0056】
本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、特に良好な機械特性を示し、そして本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックの熱処理により、製造され得る。
【0057】
驚くべきことに、その高いZrO
2含有量にもかかわらず、本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、有利な機械パラメータ(例えば、高い破壊靱性値)を有し、そして酸化ジルコニウムセラミックに、粘性状態で、焼結または特にプレスによって、ガラスセラミックに応力(これにより、亀裂または傷が現れる)を生じさせずに塗布され得ることが示された。これらの非常に良好な機械特性が、このガラスセラミックの構造が二ケイ酸リチウム結晶(これらは通常、互いに架橋しない)を有するにもかかわらず達成されることは、特に驚くべきことである。他方で、このような架橋は、公知の二ケイ酸リチウムガラスセラミックと起こり、そしてこのことは、これらの高い強度の主要な理由であるとみなされる。本発明によるガラスセラミック中のZrO
2が、公知の製品とは異なり、他の結晶相のための造核剤としては働かず、むしろ、包埋されたZr−O多面体を介するガラス網目構造を強化することが、現在仮定される。これらの多面体は、[ZrO
6/2]
2−または[ZrO
8/2]
4−の構造単位であり得、これらは、網目構造形成物または網目構造改変物として機能する。
【0058】
その高いZrO
2含有量にもかかわらず、本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックが高い半透明性を有すること、および非晶質−非晶質相分離が起こらないこと、および従って、特に酸化ジルコニウムセラミックベースの歯科用修復物の美的に好ましいコーティングのために使用され得ることもまた、驚くべきことである。
【0059】
本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミック中に存在する二ケイ酸リチウム結晶は、特に、小板の形状を有する。この特別な形態は、酸化ジルコニウムセラミックとの亀裂のない材料結合を可能にすると仮定される。熱冷却段階中の材料結合における重大な応力の蓄積は、細長い、すなわち針状晶を有する二ケイ酸リチウムガラスセラミックよりも、小板形状の結晶形態において、さほど顕著ではないようである。さらに、良好な破壊靱性(K
IC値により表わされる)は、小板形状の結晶形態で達成される。
【0060】
本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、特に、少なくとも1.5MPa・m
0.5、そして特に、1.8MPa・m
0.5より高い破壊靱性(K
IC値として測定される)を有する。さらに、好ましくは200MPa〜500MPaの高い二軸破壊靱性を有する。さらに、酢酸中での保存後の質量損失により決定された、高い化学耐性を示す。この化学耐性は、特に、60μg/cm
2未満である。最後に、特に10.3×10
−6K
−1m/m未満(100℃〜500℃の範囲で測定した)の線形熱膨張係数を有し、従って、これは一般に、コーティングされるべき酸化ジルコニウムセラミックの線形熱膨張係数より小さい。
【0061】
本発明はまた、メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核を有するケイ酸リチウムガラスに関し、このガラスは、本発明による上記ガラスセラミックの成分を含有する。従って、このガラスは、少なくとも6.1重量%のZrO
2を含有する。このガラスの好ましい実施形態に関して、本発明によるガラスセラミックの上記好ましい実施形態が参照される。
【0062】
本発明による核を有するガラスは、対応して構成された出発ガラスの熱処理により製造され得、これは、本発明のさらなる局面を形成する。さらなる熱処理によって、本発明によるメタケイ酸リチウムガラスセラミックが形成され得、これが次に、さらなる熱処理によって、本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックに転換され得る。この出発ガラス(核を有するガラスおよびメタケイ酸リチウムガラスセラミック)は、結果として、高強度二ケイ酸リチウムガラスセラミックの製造のための前駆体とみなされ得る。
【0063】
本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスは、特に、粉末またはブランクの形態で存在する。なぜなら、これらは、これらの形態で容易にさらに加工され得るからである。しかし、これらはまた、歯科用修復物(例えば、インレー、アンレー、クラウンまたは橋脚歯)の形態で存在してもよい。
【0064】
本発明はまた、本発明によるガラスセラミックおよび本発明による核を有するガラスを調製するためのプロセスに関し、このプロセスにおいて、このガラスセラミックまたはこのガラスの成分を有する出発ガラスが、450℃〜950℃の範囲での、少なくとも1回の熱処理に供される。
【0065】
従って、この出発ガラスは、少なくとも6.1重量%のZrO
2を含有する。さらに、この出発ガラスはまた、好ましくは、ケイ酸リチウムガラスセラミックの形成を可能にする目的で、適切な量のSiO
2およびLi
2Oを含有する。さらに、この出発ガラスはまた、さらなる成分(例えば、本発明によるケイ酸リチウムガラスセラミックについて上に与えられた成分)を含有し得る。ガラスセラミックについてもまた好ましいと記載された実施形態が、好ましい。
【0066】
この出発ガラスを調製するために、この手順は特に、適切な出発材料(例えば、カーボネート、酸化物、ホスフェートおよびフッ化物)の混合物を、特に1300℃〜1600℃の温度で、2時間〜10時間融解することである。特に高い均質性を達成するために、得られるガラス融解物を、ガラス顆粒を形成する目的で水に注ぎ、次いで、得られる顆粒を再度融解する。
【0067】
次いで、この融解物を、出発ガラスのブランク(いわゆる固体ガラスブランクまたはモノリシックブランク)を製造するための型に注ぎ得る。
【0068】
顆粒を調製する目的で、この融解物を再度水に注ぐこともまた可能である。次いで、この顆粒が、粉砕後および必要に応じてさらなる成分(例えば、着色剤および蛍光剤)への添加後にプレスされて、ブランク(いわゆる粉末未焼結コンパクト)を形成し得る。
【0069】
最後に、この出発ガラスはまた、顆粒化後に粉末を形成するように加工され得る。
【0070】
次いで、この出発ガラスは、例えば固体ガラスブランク、粉末未焼結コンパクトまたは粉末の形態で、450℃〜950℃の範囲での少なくとも1回の熱処理に供される。1回目の熱処理は、最初に500℃〜600℃の範囲の温度で実施されて、メタケイ酸リチウム結晶および/または二ケイ酸リチウム結晶を形成するのに適した核を有する、本発明によるガラスを調製することが好ましい。次いで、このガラスは好ましくは、より高温、特に、570℃より高温での少なくとも1回のさらなる温度処理に供されて、メタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムの結晶化を起こし得る。
【0071】
本発明によるプロセスにおいて実施される少なくとも1回の熱処理はまた、本発明によるガラスまたは本発明によるガラスセラミックを、選択された酸化ジルコニウムセラミック上にプレスまたは焼結する間に行われ得る。
【0072】
歯科用修復物(例えば、インレー、アンレー、クラウンまたは橋脚歯)が、本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスから調製され得る。従って、本発明はまた、歯科用修復物の調製のためのこれらの使用に関する。
【0073】
しかし、本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスは、酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするために特に適切である。従って、本発明はまた、酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするための、本発明によるガラスまたは本発明によるガラスセラミックの使用に関する。
【0074】
本発明はまた、酸化ジルコニウムセラミックをコーティングするためのプロセスに関し、このプロセスにおいて、本発明によるガラスセラミックまたは本発明によるガラスは、酸化ジルコニウムセラミックに塗布され、そして高温に供される。
【0075】
このことは特に、焼結および好ましくはプレスによって、行われ得る。焼結を用いて、ガラスセラミックまたはガラスは、コーティングされるべきセラミックに通常の様式で(例えば、粉末として)塗布され、次いで高温で焼結される。好ましいプレスにおいて、本発明によるガラスセラミックまたは本発明によるガラスは、例えば、粉末未焼結コンパクトまたはモノリシックブランクの形態で、例えば700℃〜1200℃の高温で、圧力(例えば、2バール〜10バール)を加えながらプレスされる。EP 231 773に記載される方法、およびそこに開示されるプレス炉が、特にこのために使用され得る。適切な炉は、例えば、Programat EP 5000(Ivoclar Vivadent AG製,Liechtenstein)である。
【0076】
コーティングプロセスの完了後、本発明によるガラスセラミックは、二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有して存在することが好ましい。なぜなら、特に良好な特性を有するからである。驚くべきことに、本発明によるガラスセラミックは、一旦、酸化ジルコニウムセラミック上にコーティングされると、実用的なことに、傷および亀裂を有さず、そしてガラスセラミックとセラミックとの間にしっかりした結合が達成されることが示される。
【0077】
この酸化ジルコニウムセラミックは、その四面体相を安定化するために、Ce、Y、Sr、CaまたはMgの少なくとも1つの酸化物を含有することが好ましい。この酸化ジルコニウムセラミックはまた、他の無機成分を含む複合材の形態で存在し得る。
【0078】
本発明によるガラスセラミックまたは本発明によるガラスでコーティングされた酸化ジルコニウムセラミックは、本発明のさらなる主題を形成する。
【0079】
本発明によるガラスセラミックおよび本発明によるガラスの、その前駆体としての上記特性の観点から、これらはまた、歯科学における使用に特に適切である。従って、本発明の主題はまた、本発明によるガラスセラミックまたは本発明によるガラスの、歯科材料としての使用、特に、歯科用修復物を調製するための使用、または歯科用修復物(例えば、クラウンおよびブリッジ)のためのコーティング材料としての使用である。
【0080】
本発明による二ケイ酸リチウムガラスセラミックと酸化ジルコニウムセラミックとの結合において、このガラスセラミック中に亀裂が生じないことは、驚くべきことである。特に、二ケイ酸リチウム結晶の特別な小板形状の形態は、このために重要なものであると考えられる。熱冷却段階中の材料結合における重大な応力の蓄積は、細長い、すなわち針状晶を有する二ケイ酸リチウムガラスセラミックよりも、小板形状の結晶形態において、さほど顕著ではないようである。さらに、2.1MPa・m
0.5までの良好な破壊靱性は、特に小板形状の結晶形態で達成されるが、二ケイ酸リチウム結晶の直接の架橋は、この構造においては本質的に見られない。従って、本発明によるコーティングされた酸化ジルコニウムセラミックは、高い強度と、一方では高靱性の酸化ジルコニウムセラミックとの間、そして他方では、強靭なガラスセラミックとの間の強い複合物であり、この理由により、この複合物は、咀嚼サイクルにおける高い負荷を吸収し得る。従って、本発明によるガラスセラミックはまた、有利なことに、酸化ジルコニウムセラミックベースの部材を3つより多く備える、長距離にまたがるブリッジのコーティングにおいて、直接使用され得る。
【0081】
本発明は、実施例を参照しながら以下により詳細に記載される。
【実施例】
【0082】
(実施例1〜28 -- 組成および結晶相)
合計28個の、本発明によるガラスおよびガラスセラミック(表I〜表IVに与えられる組成を有する)を、対応する出発ガラスの融解、続いて制御された核形成および結晶化のための熱処理により調製した。
【0083】
この目的で、これらの出発ガラスを最初に、100g〜200gの規模で、通常の素材から1400℃〜1500℃で融解し、そして水に注ぐことにより、ガラスフリットに転換した。次いで、これらのガラスフリットを、均質化のために、1450℃〜1550℃で1時間〜3時間、2回目に融解した。得られたガラス融解物を予熱した型に注いで、ガラスモノリスを製造した。これらのガラスモノリスを、熱処理によって、本発明によるガラスおよびガラスセラミックに転換した。
【0084】
制御された核形成および制御された結晶化のために施した熱処理を、選択した例について表Vに与える。500℃〜560℃の範囲での1回目の熱処理は通常、メタケイ酸リチウム結晶または二ケイ酸リチウム結晶のための核を有するケイ酸リチウムガラスの形成をもたらし、そして650℃〜710℃での2回目の熱処理は、メタケイ酸リチウムガラスセラミックの形成をもたらし、そして800℃〜920℃の範囲での3回目の熱処理は、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの形成をもたらした。
【0085】
いくつかの実施例において、形成された結晶相を同時に分析しながらの2回目の非等温熱処理を、それぞれの与えられた温度において、高温X線回折(HT−XRD)によって、1回目の熱処理の後に実施した。
【0086】
全ての熱処理の完了後に得られた結晶相もまた、表Vに列挙する。驚くべきことに、二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有するガラスセラミックが常に得られた。実施例5および6を、1回目および2回目の熱処理のみ実施することにより、さらに繰り返した。この様式で、メタケイ酸リチウムを主要結晶相として含有するガラスセラミックを生成した。
【0087】
20重量%までの高いZrO
2含有量にもかかわらず、実施例8のみにおいて、ZrO
2が二次結晶相として結晶化した。
【0088】
(実施例29 − ガラスおよびガラスセラミックブランク)
実施例5による組成を有するガラスを、対応する素材(酸化物およびカーボネートの形態)を30分間、Turbulaミキサー中で混合し、次いでこの混合物を白金坩堝中1450℃で120分間融解することによって、調製した。微細に分割されたガラス顆粒を得る目的で、この融解物を水に注いだ。特に高い均質性を有するガラス融解物を得る目的で、このガラス顆粒材料を再度、1530℃で150分間融解した。この温度を1500℃まで30分間低下させ、次いで、12.5mmの直径を有する円柱形のガラスブランクを、予熱した分離可能な鋼型または黒鉛型に注いだ。得られたガラス円柱の応力を、550℃で除去した。メタケイ酸リチウム結晶または二ケイ酸リチウム結晶のための核を有するガラスが得られた。
【0089】
図1は、粉砕したガラス円柱の示差熱分析(DSC)の結果を示す。
【0090】
図2は、ガラス円柱の高温X線回折(HT−XRD)を使用した、メタケイ酸リチウム(Li
2SiO
3)および二ケイ酸リチウム(Li
2Si
2O
5)の形成の温度からの依存性を示す。
【0091】
次いで、これらのガラス円柱を、680℃〜700℃で20分間の1回目の結晶化に供した。その加熱速度は、1分間あたり15℃であった。次いで、これらのガラス円柱を、850℃〜880℃で30分間の2回目の結晶化に供した。この処理の後に、その結晶相の分析は、二ケイ酸リチウムを主要結晶相として含有し、そして低い割合のメタケイ酸リチウムおよびリン酸リチウムを二次相として有する、本発明によるガラスセラミックを示した。
【0092】
図3は、研磨されてHF蒸気で30秒間エッチングされた、結晶化した円柱の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0093】
これらの結晶化した円柱をさらに、910℃のプレス温度で、EP600プレス炉(Ivoclar Vivadent AG)を使用して、ホットプレスによりさらに加工して、試験片を形成した。これらの試験片の特性は、以下のとおりであった:
色: 白色、半透明、蛍光なし
溶解度: 24μg/cm
2(2008年9月1日のISO 6872による)
二軸強度: 420 MPa(2008年9月1日のISO 6872による)
破壊靱性: 2.0 MPam
0.5(K
IC値として、SEVNB法を使用して、2008年9月1日のISO 6872に従って決定した)
熱膨張係数: 9.9×10
−6×1/K(100℃〜500℃の範囲で)。
【0094】
(実施例30 - 酸化ジルコニウムセラミックへのホットプレス)
実施例5による二ケイ酸リチウムガラスセラミックをホットプレスによって、920℃で、3型Y−TZP酸化ジルコニウムセラミック(Tosohから得られる)に、Programat EP 5000プレスおよび焼成の組み合わせ炉(combined press and firing furnace)(Ivoclar Vivadent AG製,Liechtenstein)においてプレスした。このコーティングプロセスの完了後、欠損のない接合が得られた。
【0095】
図4は、40% HF蒸気でエッチングした後の、この結合の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0096】
(実施例31 - 小さい歯のキャップおよびブリッジ枠へのホットプレス)
密に焼結された酸化ジルコニウム(e.max ZirCAD,Ivoclar Vivadent AG)の1つの小さい歯のキャップ、および4要素ブリッジ枠を、燃焼で除去できるプラスチック(PMMA)を用いて、解剖学的形状の修復物に作製した。ブリッジ枠とプラスチック部品との両方をCAD/CAMプロセスにより製造し、これによって、再現可能な幾何学的形状および層厚さが達成できた。これらの修復物を、歯科用インベストメントコンパウンド(IPS PressVest Speed,Ivoclar
Vivadent AG)で包み、プラスチックを燃焼により除去し、そして実施例29による結晶化した円柱をこの枠に910℃の温度で直接プレスした。中間層(裏打ち)を、この酸化ジルコニウムに塗布しなかった。
【0097】
冷却の完了後、これらの物品のインベストメントをサンドブラスターで除去し、この際に、コーティングされたガラスセラミックの高い強度に起因して、特別な注意は必要ではなかった。これらの物品を圧縮チャネルから離し、ダイヤモンドグラインダーで再度乾式処理し、次いで、残っているあらゆるインベストメントコンパウンドの残渣を緩める目的で、IPS INVEX Liquid(Ivoclar Vivadent AG)で超音波下で20分間処理し、次いで、これらの残渣を、100μmの顆粒サイズを有するAl
2O
3砂で1バール〜2バールの圧力でサンドブラストした。
【0098】
その表面を熱水蒸気で洗浄し、そしてIPS e.max Ceram Glaze(Ivoclar Vivadent AG)で770℃で2回釉がけし、これによって、魅力的な光沢を生じた。この釉がけ焼成中に、特別な冷却(緩和冷却)を行わなかった。このように調製した修復物(すなわち、クラウンおよびブリッジ)は、美的に好ましく、そして欠損がなかった。これらは、亀裂も気泡も隆起領域も示さなかった。鋸での切断後、本発明によるコーティングされた二ケイ酸リチウムガラスセラミックと、酸化ジルコニウムとの間の優れた結合が、断面のSEMにより認識された。
【0099】
各場合に、8つのクラウンおよび8つのブリッジを、水中に保存しながら、5℃から55℃での熱サイクリングに、咀嚼機(Willitec)内で、300,000サイクルで供した。試験強度は、100,000サイクルごとに30N、60Nまたは90Nであった。負荷を0.8Hzの周波数でかけた。この上張り構造体において、欠けは全く存在しなかった。
【0100】
(実施例32 − ガラスおよびガラスセラミックブランク)
実施例23による組成を有するガラスを出発材料として使用したこと以外は、実施例29を繰り返した。得られた結晶化した円柱を、905℃の温度のホットプレスによってさらに試験片に加工した。これらの試験片の特性は、以下のとおりであった:
色: 歯の色、半透明、歯のような蛍光を有する
溶解度: 30μg/cm
2(2008年9月1日のISO 6872による)
二軸強度: 405MPa(2008年9月1日のISO 6872による)
熱膨張係数: 9.9×10
−6×1/K(100℃〜500℃の範囲で)。
【0101】
(実施例33 - 小さい歯のキャップおよびブリッジ枠へのホットプレス)
実施例32による結晶化した円柱を使用したこと以外は、実施例31を繰り返した。4回までの最終釉がけ焼成後、クラウンおよびブリッジを得、これらもまた、亀裂も気泡も隆起領域も示さなかった。
【0102】
(実施例34 - ガラスセラミックブランク(粉末未焼結コンパクト))
実施例1〜28と同様に、実施例24による組成を有する出発ガラスを2回融解した。しかし、このガラスを次いで、鋼型には注がず、微細に分割されたガラス顆粒を得る目的で、水中でクエンチした。このガラス顆粒材料を、核形成および1回目の結晶化を起こす目的で、550℃で20分間、次いで、680℃で20分間熱処理した。このように前処理した顆粒を20μmの平均顆粒サイズまで乾式粉砕し、そして0.1重量%のセラミック着色顔料と混合した。この混合物をいくらかの水で湿らせ、そして20MPaのプレス圧でプレスして、粉末未焼結コンパクトを形成した。この粉末未焼結コンパクトを850℃で30分間焼結した。この焼結したブランクの結晶相分析は、主要結晶相としての二ケイ酸リチウム、ならびに各場合において、二次相としての低い割合のメタケイ酸リチウムおよびリン酸リチウムを示した。
【0103】
これらの焼結したブランクを、905℃でのホットプレスにより、EP600プレス炉(Ivoclar Vivadent AG)を使用して試験片にさらに加工した。これらの試験片の特性は、以下のとおりであった:
色: 歯の色、半透明、歯のような蛍光
二軸強度: 302MPa(2008年9月1日のISO 6872による)。
【0104】
(実施例35 - 小さい歯のキャップへのホットプレス)
実施例34による焼結されたブランクを使用して小さい歯のキャップ上に圧縮したこと以外は、実施例31を繰り返した。2回の最終釉がけ焼成後、クラウンを得、これらもまた、亀裂も気泡も隆起領域も示さなかった。
【0105】
(実施例36 - 小さい歯のキャップ上への焼結)
実施例34と同様に、0.1重量%の顔料で着色した実施例24による組成のガラスセラミック粉末を、調製した。しかし、今回は、粉末ブランクを圧縮しなかった。この粉末をモデル化液(e.max Ceram Build Up Liquid,Ivoclar Vivadent AG)とブレンドし、そして咬合形態をモデル化する目的で、この混合物を、予め製造した酸化ジルコニウムの1つの小さい歯のキャップに塗布した。次いで、このコーティング用混合物を、歯科用炉(P500,Ivoclar Vivadent AG)内で、850℃の保持温度で、2分間の滞留時間で焼結した。
【0106】
焼結後、これらのクラウンの端をダイヤモンドグラインダーで切り落とし、そして2回目をコーティングした。次いで、2回のさらなる釉がけ焼成を770℃の温度で実施した。美的に高品質の歯の色のクラウン(自然に見える蛍光および乳光を有する)が得られた。これらもまた、亀裂も気泡も隆起領域も示さなかった。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【表5】
HT−XRD分析において、約2K/分の加熱速度を使用した。