(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
過冷却水が螺旋状に旋回しながら流通する円筒状の容器と、前記円筒状の容器の底板に取り付けられた超音波振動発生部と、前記容器の側面の下側に設けられ前記過冷却水が流入する流入口と、前記容器の側面の上側に設けられ前記過冷却水が流出する流出口と、過冷却水の前記螺旋状の旋回において形成される流れのよどみ領域の部分である前記容器の底板の軸心部分に設けられ前記過冷却水に過冷却状態を解除する振動を、前記よどみ領域に配置されたライニングの無い耐腐食性の金属材料で形成された振動板で付与する超音波振動発生部とを備える製氷装置において、前記容器に過冷却水を前記流入口から流入させ、過冷却水を螺旋状に旋回しながら流通させる工程と、
前記過冷却水を螺旋状に旋回させている状態で、、前記よどみ領域で過冷却が解除されるまで前記超音波振動発生部を作動させて氷水スラリー状態とする工程と、
氷水スラリーを、氷結晶を前記円筒状の容器の内面に付着させないように前記流出口から流出させる工程と、を有する、
製氷方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過冷却水が通過する容器又は配管に超音波振動子を取り付けて超音波を発生させる場合、容器内又は配管内での乱反射等により超音波振動が減衰してしまう。よって、安定したトリガー効果を得るためには、発振周波数を取り付け箇所に応じてチューニングする必要があった。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、超音波振動の発振周波数のチューニングが不要な過冷却解除装置および製氷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、超音波振動子を有する超音波振動発生部の振動面から離間し且つ振動面に対向する反射板を設けた。
【0007】
詳細には、過冷却水が通過する容器又は配管に取り付ける過冷却解除装置であって、振動面と超音波振動子とを有し、前記容器又は配管に取付可能な超音波振動発生部と、反射面が前記振動面から離間し且つ前記振動面に対向した状態で固定された反射板と、を備える。
【0008】
上記過冷却解除装置では、振動面から射出された超音波が反射面で反射する。よって、この過冷却解除装置を容器又は配管に取り付けた状態で超音波振動子を駆動すると、容器又は配管内を通過する過冷却水のうち、振動面と反射面との間にある過冷却水が超音波振動を受け、氷結晶を生成することになる。この氷結晶は、過冷却解除を誘発する物質として拡散し、容器又は配管内の全体で過冷却解除を誘発可能である。
【0009】
上記過冷却解除装置によれば、過冷却解除を実現するための超音波は、振動面からの波と反射面からの反射波とが支配的となり、容器又は配管内の壁面からの波はほとんど影響
しない。そして、上記過冷却解除装置では、反射面が振動面から離間し且つ振動面に対向した状態の反射板が固定されているため、振動面と反射面との間に発生する超音波の状態は、過冷却解除装置の取り付け箇所にほとんど左右されない。よって、上記過冷却解除装置であれば、取り付け箇所に応じたチューニングを行わなくても、安定したトリガー効果を得ることが可能である。
【0010】
なお、前記過冷却解除装置は、前記容器又は配管の開口部に取り付ける装置であり、前記超音波振動発生部は、前記振動面が前記開口部を塞ぐ状態で前記容器又は配管に取付可能であり、前記反射板は、前記超音波振動発生部に固定されているものであってもよい。この過冷却解除装置では、反射板が超音波振動発生部に固定されているため、振動面と反射面との間に発生する超音波の状態は、過冷却解除装置の取り付け箇所にほとんど左右されない。よって、上記過冷却解除装置であれば、取り付け箇所に応じたチューニングを行わなくても、安定したトリガー効果を得ることが可能である。
【0011】
また、前記反射板は、前記超音波振動発生部を前記容器又は配管に取り付ける方向に移動させた状態において前記開口部を通過可能な大きさを有するものであってもよい。このように構成される過冷却解除装置であれば、反射板を容器又は配管内に容易に配置した状態とすることができる。また、保守点検や装置の交換等を容易に行うことができる。
【0012】
また、前記反射板は、前記反射面が平面であり、前記反射面と前記振動面との間の距離が、前記超音波振動発生部が射出する超音波の4分の1波長の奇数倍となる位置で固定されるものであってもよい。このように構成される過冷却解除装置であれば、共振を利用した安定したトリガー効果を得ることが可能である。
【0013】
また、前記反射板は、前記反射面が凹状の曲面、或いは、前記反射面が同心円状に分割されており、分割された各領域の反射面が各々凹状の曲面の一部を形成するものであってもよい。このように構成される過冷却解除装置であれば、反射板から反射する反射波が特定の箇所に集中するため、過冷却水の振幅が増大して安定したトリガー効果を得ることが可能である。
【0014】
また、本発明は、製氷装置としての側面から捉えることも可能である。すなわち、本発明は、例えば、過冷却水が螺旋状に旋回しながら流通する円筒状の容器と、前記円筒状の容器の底板または天板の軸心部分に取り付けられた上記何れかに記載の過冷却解除装置と、を備える、製氷装置であってもよい。
【0015】
容器内又は配管内に継続的に流入する過冷却水を超音波振動で過冷却解除し、連続的な製氷を実現しようとする場合に至っては、容器内又は配管内へ氷結晶が付着しないよう、容器又は配管全体を超音波振動させる方策が考えられるが、多大な超音波振動を発生させる必要が生じる。しかし、上記製氷装置であれば、過冷却水が螺旋状に旋回しながら流通する円筒状の容器の底板または天板の軸心部分に過冷却解除装置を取り付けているので、過冷却解除装置の周りには過冷却解除装置の取り付け面を底とする円錐状のよどみ領域が形成される。よどみ領域の内部では氷結晶の滞留時間が長いため、過冷却がほぼ完全に解除されて相変化がほぼ停止した氷水が循環しており、固体表面への氷の付着は起こらない。このため、過冷却解除装置の振動板や反射板にライニングなどの処置を施さなくても、氷が付着すること無く、連続的な製氷を実現可能である。
【発明の効果】
【0016】
上記過冷却解除装置および製氷装置であれば、超音波振動の発振周波数のチューニングが不要となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明の技術的範囲を以下の態様に限定するものではない。
【0019】
<過冷却解除装置の実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係る過冷却解除装置1の斜視図の一例である。過冷却解除装置1は、
図1に示すように、超音波振動を発生する超音波振動発生部2と、超音波を反射する反射板3とを備える。超音波振動発生部2は、過冷却解除装置1を取り付ける容器又は配管の開口部を塞ぐように取り付け可能な振動板4と、振動板4に取り付けられた超音波振動子5とを有しており、超音波振動子5を駆動することにより振動板4が振動する。超音波振動子5は、超音波を射出するものであり、既存のあらゆる超音波振動子を適用可能である。例えば、ランジュ板型超音波振動子といわれるタイプのものであれば、振動面4S全体を振動させて平面状の波を射出可能である。反射板3は、振動面4Sと対向するように支柱6を介して振動板4に固定される部材であり、超音波振動子5が振動面4Sから射出した超音波を振動面4Sへ反射させる反射面3Sを有している。また、反射板3は、超音波振動発生部2を容器又は配管に取り付ける方向に移動させ、容器又は配管に設けられている開口部に振動板4を取り付ける際、当該開口部を通過可能な大きさに形成されている。反射面3Sは、振動面4Sと平行な平面であり、振動面4Sから射出された超音波を正反対の方向へ反射する。反射面3Sは、振動面4Sから射出された波に反射波を重ね合わせることにより、反射板3が無い場合よりも大きな振幅を得ることを目的としている。なお、過冷却水や過冷却解除された氷水スラリーの流れを阻害することを防止するために、反射板3は水流の方向と平行になるように設置することが好ましい。また、反射板3の固定については、少なくとも超音波射出時に固定されていればよい。また、反射板3は、振動板4ではなく容器又は配管に固定してもよい。
【0020】
図2は、過冷却解除装置1を上から見た場合の構成図の一例である。超音波振動子5、振動板4および反射板3は、上から見ると円形になっている。また、過冷却解除装置1を取り付けるための取付孔8および支柱6は、構造的強度を確保可能な適当な箇所に配置されている。なお、支柱6は、反射板3を固定可能な強度を有していれば如何なるものであってもよいが、例えば、過冷却水の流動抵抗とならないように断面を流線形状にしてもよい。
【0021】
図3は、
図2において符号a−aで示す線で過冷却解除装置1を切断した場合の断面図の一例である。なお、超音波振動子5は既存のあらゆるものを適用可能であるため、
図3では、超音波振動子5の内部構造について図示を省略している。過冷却解除装置1は、
図3に示すように、Oリング溝7が振動板4に設けられている。よって、Oリング溝7にOリングを嵌めた状態の過冷却解除装置1を、取付孔8に通したボルトで容器又は配管に取
り付けることにより、過冷却水が流れる流路の水密性を確保可能である。
【0022】
上記過冷却解除装置1であれば、振動面4Sから射出した超音波を振動面4Sへ反射させる反射面3Sが備わっているので、振動面4Sと反射面3Sとの間でキャビテーションが容易に発生する。また、支柱6を介して超音波振動発生部2に固定された反射板3が、振動面4Sから一定の距離に反射面3Sを形成しているため、振動面4Sからの波と反射面3Sからの反射波との重なり具合が、過冷却解除装置1を取り付ける容器又は配管の形状等に依存することが無い。このため、振動面4Sと反射面3Sとの間にある過冷却水の相変化を容易に誘発し、過冷却を解除することが可能である。
【0023】
なお、反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aは、反射板3と振動板4との間に流入した過冷却水を超音波振動子5の超音波で相変化させることが可能であれば、如何なる距離であってもよい。しかし、反射板3は、振動面4Sから射出された波と反射面3Sから反射された反射波との重ね合わせによって大きな振幅を得ることを目的としている。よって、反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aが大きいと、反射面3Sによる反射波の減衰量や周囲への拡散量が増し、振動面4Sから射出された波と反射面3Sから反射された反射波との重ね合わせによる効果が低減する。そこで、反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aは、過冷却解除装置1を取り付ける容器又は配管の仕様や過冷却水の流速等を勘案して適宜決定することが望ましい。
【0024】
また、振動面4Sから射出された波と反射面3Sから反射された反射波との重ね合わせによる振幅を大きくするには、例えば、反射面3Sから反射された反射波の波形が、振動面4Sから射出された波の波形と重なるようにすることが好ましく、また、振動面4Sと反射面3Sとの間に定在波が形成されるとより好ましい。反射面3Sから反射された反射波の波形が、振動面4Sから射出された波の波形と重なり、定在波が形成されるようにするには、反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aを以下のように設定する。
【0025】
すなわち、振動板4は、固体であるため、定在波現象における固定端として作用する。そこで、反射面3Sから反射された反射波の波形が、振動面4Sから射出された波の波形と重なり、定在波が形成されるようにするには、反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aを、例えば、超音波振動子5が射出する超音波の4分の1波長の奇数倍の距離、すなわち、以下の式(1)を満たす距離にする。
【数1】
【0026】
なお、超音波の周波数nと超音波の波長λとは、以下の式(2)を満たす関係にある。そこで、反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aを上記の式(1)に基づいて決定する際は、以下の式(2)に従い、超音波振動子5が発振する超音波の周波数nや過冷却水中の音速cにも留意する。
【数2】
【0027】
反射面3Sと振動面4Sとの間の距離Aを、上記の式(1)を満たす距離とすることにより、振動面4Sと反射面3Sの間には振動面4Sが波の腹、反射面3Sが波の節となるような定在波が形成される。このような定在波が形成された共振状態では、波の腹の部分では大きな圧力振幅によって強いキャビテーションが発生し、振動面4Sと反射面3Sと
の間にある過冷却水の相変化を容易に誘発し、過冷却を解除することが可能である。
【0028】
なお、水中を通過する超音波は、水温の変化に応じて音速が変化し得る。しかし、共振状態とするためのパラメータは、上記の式(1)に示したように、予め設定した振動面4Sと反射面3Sの距離および水中での超音波の波長だけである。よって、水温の変化によって水中の音速が変化する場合には、水温にあわせて振動数を微調整することにより、定在波を形成することが可能である。
【0029】
<過冷却解除装置の第1変形例>
図4は、上記過冷却解除装置1の第1変形例を示した図の一例である。第1変形例に係る過冷却解除装置1Aは、反射板3Aの反射面3SAが凹状の曲面である。その他の構成については上記実施形態に係る過冷却解除装置1と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
反射面3SAは、振動面4Sから射出された超音波の反射波が特定の箇所に集中するよう、凹状の曲面にしたものである。超音波の反射波を特定の箇所に収束させることにより、当該特定の箇所においては大きな振幅が得られ、強いキャビテーションが発生する。よって、反射面3SAを形成する凹状の曲面は、例えば、いわゆるパラボラアンテナの反射器を形成している回転放物面のようなパラボラ形状であれば、超音波の反射波を一点に収束させてより強いキャビテーションを発生させることが可能である。
【0031】
<過冷却解除装置の第2変形例>
図5は、上記過冷却解除装置1の第2変形例を示した図の一例である。第2変形例に係る過冷却解除装置1Bは、反射板3Bの反射面3SBが同心円状に分割されており、分割された各領域の反射面3SB−1,2,3,4が各々凹状の曲面の一部を形成する。反射板3Bの反射面3SBがフレネルレンズのように同心円状に分割されているため、反射板3Bは、断面視すると反射面3SBがのこぎり状となる。なお、その他の構成については上記実施形態に係る過冷却解除装置1と同様であるため、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0032】
反射面3SBは、振動面4Sから射出された超音波の反射波が、振動面4Sの中心と反射面3SBの中心との間を結ぶ直線上の領域に収束する特定の箇所に収束するよう、各領域の反射面3SB−1,2,3,4が各々凹状の曲面の一部を形成するようにしたものである。超音波の反射波を、振動面4Sの中心と反射面3SBの中心との間を結ぶ直線上の領域に収束させることにより、当該直線状の領域においては大きな振幅が得られ、強いキャビテーションが発生する。よって、反射面3SBは、当該直線状の領域に超音波の反射波を集中させて強いキャビテーションを発生させることが可能である。
【0033】
<過冷却解除装置の適用例>
図6は、過冷却解除装置1を適用した製氷装置10の斜視図の一例である。なお、本適用例では、上記実施形態に係る過冷却解除装置1を適用した場合を示すが、製氷装置10は、上記第1変形例に係る過冷却解除装置1Aおよび上記第2変形例に係る過冷却解除装置1Bの何れについても適用可能である。
【0034】
製氷装置10は、円筒状の過冷却解除容器11を備える。過冷却解除容器11は、上部や下部が閉じられた密閉構造の円筒状容器であり、側面の下側には過冷却水を流入させるための流入口12が設けられ、側面の上側には過冷却状態の解除によって生成された氷水スラリーを流出させるための流出口13が設けられている。
【0035】
なお、流入口12及び流出口13の取り付け角は、次のように設定されている。
図7は
、製氷装置10を下側から見た図の一例である。流入口12は、
図7から明らかなように、過冷却水が過冷却解除容器11の内周面に沿うように容器内に流入するよう、流入口12の軸心が過冷却解除容器11の周面の接線に沿って取り付けられている。また、流出口13は、
図7から明らかなように、容器内で生成された氷水スラリーが、過冷却解除容器11の内周面に沿うように過冷却水が容器内に流入することにより発生する螺旋状の旋回流に乗って容器から流出しやすいよう、流出口13の軸心が過冷却解除容器11の周面の接線に沿って取り付けられている。
【0036】
また、流入口12及び流出口13の取り付け位置は、次のように設定されている。
図8は、
図7において符号b−bで示す線で製氷装置10を切断した場合の断面図の一例である。容器内で生成される氷水スラリーは、過冷却水よりも比重が軽いため、
図8から明らかなように、流出口13が流入口12よりも上側に配置されている。そして、過冷却解除容器11の容量に無駄が生じないよう、流入口12は過冷却解除容器11の側面の最も下側に配置され、流出口13は過冷却解除容器11の側面の最も上側に配置される。
【0037】
過冷却解除装置1は、このように構成される過冷却解除容器11の底部の中心に設けられた開口部9に取り付けられている。よって、過冷却解除容器11内に過冷却水を流通させた状態で過冷却解除装置1を作動させると、過冷却解除容器11内の下部で過冷却状態が解除されて氷水スラリーが生成し始める。なお、開口部9は円形になっており、その径は反射板3の径よりも大きく形成されているので、超音波振動発生部2を過冷却解除容器11に取付ける際に、反射板3を開口部9に容易に挿入可能となっている。これにより、過冷却解除装置1の脱着がしやすくなり、保守点検や装置の交換を容易に行うことができる。また、不図示であるが、過冷却解除容器11の下流側の流路には水抜弁を備えた水抜管が設けられており、保守点検や交換の際には過冷却解除容器11の上流側の流路に設けたバルブを閉めて水抜弁を開けて過冷却解除容器11内の水を排出して行う。
【0038】
なお、過冷却解除容器11や流入口12、流出口13の形状、位置等はこれらに限定されるものではない。例えば、旋回流による連続的な製氷を実現する容器のその他の形状としては、円錐形の容器を挙げることができる。また、過冷却解除装置1を単なる過冷却解除のトリガーとして用いるのであれば、過冷却解除装置1は、様々な形状の容器や配管、更には、流動の停止している過冷却水を蓄えた容器や配管等に適用してもよい。また、製氷装置10は、上下を逆さまにしてもよいし、螺旋状の旋回流が逆方向となるよう、流入口12や流出口13の向き等を変更してもよい。
【0039】
図9は、過冷却解除を行っている時の製氷装置10内の様子を示した図の一例である。製氷装置10の過冷却解除容器11内に過冷却水を流通させた状態で過冷却解除装置1を作動させると、キャビテーションにより過冷却解除が行われ、振動面4Sと反射面3Sとの間に微細な氷結晶が生成される。過冷却解除容器11内では上部へ向かう螺旋状の旋回流が生じているので、キャビテーションによって発生した氷結晶は、振動面4Sと反射面3Sとの間から流出し、旋回流に乗って容器内に拡散し、過冷却解除容器11内の過冷却水を相変化させる。一旦このような製氷状態になった後は、生成した氷結晶が新たな過冷却解除のトリガーとなるため、超音波振動を停止させても過冷却解除容器11に新たに流入する過冷却水を連続的に解除させる効果が継続する。よって、一旦製氷状態となった後は、過冷却解除装置1を停止しても、流入口12へ過冷却水を送り込み続けるだけで、流出口13から氷水スラリーの流出が継続される。
【0040】
なお、製氷装置10は、流入口12から流入した水が流出口13へ到達するまでの時間が4.1秒となるように過冷却水の流量或いは過冷却解除容器11の形状または大きさを調整してもよい。4.1秒というのは、相変化を開始した過冷却水中で、過冷度が0になるまで氷核が結晶成長するのに必要な時間であり、例えば特許第3855068号公報に
開示されている値である。結晶の成長速度は、超音波の有無とは無関係であり、過冷却水温度のみで定まる。よって、流入口12から流入する過冷却水の温度が同じであれば、トリガーのかけ方によらず、過冷却解除されるまでの時間は同じとなる。上記製氷装置10について実証実験を行った結果、過冷却水の過冷度2.0Kの場合において、過冷却解除容器11内の滞在時間が4.1秒となるように流量を調整しながら過冷却解除装置1を作動させたところ、経路が閉塞することもなく、製氷運転を安定的に継続できることが確認された。なお、このときの過冷却解除装置1の超音波の出力密度は31.4kW/m
2である。
【0041】
ところで、相変化が進行中の過冷却水中では、生成した氷結晶が固体表面に付着しやすいために流路の閉塞を起こしやすい。よって、上記製氷装置10は、例えば、過冷却解除容器11の内面に熱伝導率の小さな樹脂材料でライニングを施すことにより、生成した氷結晶が過冷却解除容器11の内面に付着するのを予防することが好ましい。熱伝導率の小さな樹脂材料としては、例えば、PVC(polyvinyl chloride:熱伝導率0.14W/mK)、アクリル樹脂(熱伝導率0.18W/mK)、ABS樹脂(熱伝導率0.18W/mK)等を挙げることができる。
【0042】
また、過冷却解除装置1の振動板4や反射板3は、超音波を射出したり反射したりする関係上、水中で腐食の虞が無い金属材料(例えば、SUS304やSUS316、各種のアルミニウム合金等)で形成することが好ましく、また、超音波の減衰を防ぐため、ライニング等を表面に施すことは好ましくない。ここで、金属材料は熱伝導率が大きいため、氷の付着に対する懸念が生じるようにも一見考えられる。しかし、本適用例に係る製氷装置10のように、過冷却水が螺旋状に旋回しながら流通する円筒状の容器の底板または天板の軸心部分に過冷却解除装置1を取り付けた場合、過冷却解除装置1の周りには過冷却解除装置1の取り付け面を底とする円錐状のよどみ領域が形成される。よどみ領域の内部では氷結晶の滞留時間が長いため、過冷却がほぼ完全に解除されて相変化がほぼ停止した氷水が循環しており、固体表面への氷の付着は起こらない。このため、過冷却解除装置1の振動板4や反射板3にライニングなどの処置を施さなくても、氷が付着することは無い。
【0043】
なお、過冷却解除装置1の適用対象によっては、このようなよどみ領域が形成されない場合もあり得る。この場合、必要に応じてライニングを適宜施すことが好ましい。