【実施例】
【0022】
例I
例Iでは、Bサイトの、Cr、Mn、Fe、Co及びAlから選択される1種以上の遷移金属を含む様々なNi系AB
2O
4スピネルを試験して硫酸塩分解に対するそれらの触媒活性を評価した。試験用の各々のスピネルに関して、45重量%の硫酸塩を含有するスピネルとダストのブレンド(質量比1:1)を、80ml/分の空気流中で熱重量分析計(TGA、スイス、Mettler−Toledo AG製)に入れ、約10℃/分の速度で約100℃から約1000℃まで加熱した。TGAを結合した質量分析計(英国ウォリントン、Hiden Analytical製)を使用して、TGAからの排気中の分解されたSO
2をモニターした。具体的には、NiCr
2O
4、NiAl
2O
4、NiMn
2O
4、NiMn
1.5Al
0.5O
4、NiFe
2O
4、及びNiFeCoO
4をそれぞれダストとブレンドし、試験した。さらに、スピネルを含まない粉塵も試験し、そのSO
2強度を触媒活性を評価するための基準として使用した。各試験においてモニターした様々な温度でのSO
2強度シグナル(任意単位)を
図1に示す。スピネルを含まないダストよりも高いSO
2強度を生じるスピネルは、硫酸塩分解に対する触媒活性を有すると考えられる。
図1から分かるように、NiCr
2O
4、NiMn
2O
4、NiMn
1.5Al
0.5O
4、NiFe
2O
4、及びNiFeCoO
4は、硫酸塩分解に対して触媒活性を有する。
【0023】
例II
例IIでは、酸化ニッケル(NiO)及びNi系AB
2O
4スピネル、例えばNiFe
2O
4、NiMn
2O
4、及びそれらのドープされた誘導体を含む、様々なニッケル系材料を試験し、比較した。試験用の各々の材料に関して、材料の粉末は、前駆体溶液を1種以上の金属硝酸塩前駆体、1種以上の有機キレート剤及び1種以上の界面活性剤からゾルゲル法によって調製し、前駆体溶液をホットプレートで乾燥させることによって製造した。例えば、NiFe
2O
4粉末は、NiFe
2O
4溶液を硝酸ニッケル、硝酸第二鉄、クエン酸(有機キレート剤として)及びトリエチレングリコール(界面活性剤として)からゾルゲル法によって調製し、NiFe
2O
4溶液をホットプレートで乾燥させることによって製造した。試験用の各々の材料の粉末は、約550℃で約2時間焼成した。次に、焼成粉末を円筒状のプレス型で押し固めてペレットにした。次に、各々のペレットを約1200℃で約2時間空気中で焼結させた。
【0024】
これらの材料の耐食性能を評価するため、これらの材料からそれぞれ作成されたペレットを模擬腐食試験に付した。模擬腐食試験では、Na
2SO
4、K
2SO
4、MgSO
4、CaSO
4、ダスト、及びペースト媒体の混合物を、硫酸塩腐食剤として焼結ペレットの表面に塗布し、次に硫酸塩腐食剤を施工したペレットを、腐食が起こりやすい試験温度で維持した。模擬腐食試験の後、ペレットをダイヤモンドソーで切断し、断面を磨き、分析して、ペレットと腐食剤の間の元素の拡散を調べた。硫黄は熱腐食を引き起こす主要な元素であるので、ペレットへの硫黄の浸透(S浸透)を妨げる能力が、試験した材料の硫酸塩耐食性の指標とみなされる。ペレットから硫酸塩腐食剤まで浸出しているカチオンは、腐食剤の存在下で試験した材料の安定性の指標とみなされ、したがって試験した材料のコーティングとしての寿命の可能性の指標ともみなされる。そのため、ペレットへのS浸透の深度は、硫酸塩耐食性を示すために使用され、硫酸塩腐食剤において観察したカチオンの浸出は、腐食剤の存在下での試験した材料の安定性を示すために使用される。
【0025】
例1:本例では、NiFe
2O
4、NiMn
2O
4、NiAl
2O
4、NiCo
2O
4及びNiCr
2O
4(サンプル1〜5)からそれぞれ作成したペレットを、本明細書に記載した模擬腐食試験に約704℃の温度で約100時間付した。各々のサンプルに関して、ペレットへのS浸透の深度及び硫酸塩腐食剤において観察されるカチオン浸出を下の表1に示す。
【0026】
【表1】
表1から、サンプル1(NiFe
2O
4)は、硫酸塩腐食剤へのカチオン浸出はなく、ペレットへのS浸透を防ぐことができ、一方、サンプル2(NiMn
2O
4)は、ペレットで形成された反応層と、ペレットから硫酸塩腐食剤へのMn及びNiの浸出を示し、サンプル3(NiAl
2O
4)は、10umの深度のペレットへのS浸透を示し、サンプル4(NiCo
2O
4)は、ペレットで形成された反応層と、ペレットから硫酸塩腐食剤へのCoの浸出を示し、サンプル5(NiCr
2O
4)は、ペレットで形成された反応層と、ペレットから硫酸塩腐食剤へのCr及びNiの浸出を示すことが分かる。
【0027】
サンプル1〜5の微細形態を観察するために、これらのサンプルの断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を得、
図2A、
図3A…及び
図6Aにそれぞれ示す。さらに、各々のサンプルのペレット表面(試験した材料と腐食剤との間の界面)を横切る拡散をさらに分析するために、各々のサンプルのペレット表面に隣接するサンプル領域(各々のサンプルのSEM画像中に表示)の組成の質量%をエネルギー分散型X線(EDX)によって測定した。測定したサンプル1〜5の組成を、それぞれ
図2B、
図3B…及び
図6Bに示す。例えば、そのSEM画像が
図2Aに示すサンプル1に関して、標記の4つの領域、領域11〜14の組成の質量%を測定し、
図2Bの図表に示した。具体的には、領域11〜14は、ペレット表面に対して実質的に直角の方向に沿って、試験材料側(ペレット側)から腐食剤側まで順番に配置され、ここで、領域11及び12は試験した材料側に位置し、領域13及び14は腐食剤側に位置している。残りのサンプル2〜5の各々に関して、4又は5箇所の領域の組成の質量%を測定し、対応する図表に同様に示した。
【0028】
図2Aは、鮮明なペレット断面の画像を示し、汚染は観察することができない。
図2Bの測定結果も、サンプル1のペレット表面を横切る腐食剤とペレットの間の相互拡散がないことを示す。したがって、NiFe
2O
4から作成したペレットは試験を通して安定していることが分かる。
【0029】
しかし、
図3Aに示すように、サンプル2において試験材料と腐食剤との間の界面で反応域が観察される。
図3Bは、サンプル2において腐食剤からペレットへの拡散があること、及び腐食剤側から拡散した元素はペレット側に位置する領域24と23の両方で検出され、Mg、Al、Si、S及びCaは領域24で検出され、Mgは領域23で検出されることを示す。
図4A及び
図4Bは、サンプル3においてペレットへのSの移動があり、腐食剤側から拡散したSが、ペレット側に位置しペレット表面に隣接する領域34において検出されることを示す。
図5Aに示すように、反応域が、サンプル4において試験材料と腐食剤との間の界面の近くに観察される。
図5Bは、Na、Mg、Al、Si、S、K及びCaの腐食剤側からの拡散が、ペレット側に位置する領域43において検出されること、並びにペレット側からのCoの拡散が、腐食剤側に位置する領域44において検出されることを示す。
図6A及び
図6Bは、サンプル5においてペレットへのSの移動を示し、腐食剤側から拡散したSは、ペレット側に位置しペレット表面に隣接する領域52において検出される。
【0030】
例2:本例では、CoをドープしたNiFe
2O
4(NiFeCoO
4)、AlをドープしたNiFe
2O
4(NiFeAlO
4)、NiFe
2O
4とNiOの組合せ、AlをドープしたNiMn
2O
4(NiMnAlO
4)、及びNiMn
2O
4とNiOの組合せ(サンプル6〜10)からそれぞれ作成したペレットを、約704℃の温度で約100時間、本明細書に記載した模擬腐食試験に付した。各々のサンプルに関して、ペレットへのS浸透の深度及び硫酸塩腐食剤において観察されるカチオン浸出を下の表2に示す。
【0031】
【表2】
表2から、ドープしたNiFe
2O
4、又はNiFe
2O
4とNiOの組合せは、硫酸塩腐食条件下でNiFe
2O
4に類似する耐硫化腐食性能及び安定性を示すことが分かる。NiMnAlO
4も耐硫化腐食性能を示すが、腐食剤へのカチオン拡散がある。NiMn
2O
4とNiOの組合せは、硫酸塩腐食条件下で不安定である。
【0032】
例1と同様に、サンプル6〜10の断面のSEM画像を、それぞれ
図7A、
図8A…及び
図11Aに示す。
図7A、
図8A…及び
図11AのSEM画像の各々に示す領域の組成の質量%を、それぞれ
図7B、
図8B…及び
図11Bの対応する図表に示す。
【0033】
図7A、
図8A及び
図9Aの各々は、鮮明なペレット断面の画像を示す。
図7B及び
図8Bは、サンプル6及び7において、ペレットへのSの移動もペレットから腐食剤へのカチオン浸出もなく、試験した材料の耐食性能にあまり影響を及ぼさないごく少量のSiが腐食剤からペレットに拡散したことを示す。
図9Bは、サンプル8のペレット表面を横切る腐食剤とペレットの間の相互拡散がないことを示す。したがって、ドープしたNiFe
2O
4、又はNiFe
2O
4とNiOの組合せから作成したペレットは、試験を通して安定していることが分かる。
図10Aにおいてサンプル9のペレットに硫黄の拡散は観察されない、これはNiMnAlO
4が耐硫化性能を有することを示す。しかし、
図10Bは、ペレット側から拡散したMn及びNiが腐食剤側に位置する領域93で検出されることを示す。NiMn
2O
4とNiOの組合せから作成したサンプル10に関して、
図11Bは、ペレットへのSの移動があり、腐食剤側から拡散したSが、ペレット側に位置しペレット表面に隣接する領域104で検出されることを示す。
【0034】
例3:本例では、NiO、NiFe
2O
4、NiFeCoO
4、NiFeAlO
4、NiFe
2O
4とNiOの組合せ、NiMn
2O
4及びNiMnAlO
4(サンプル11〜17)からそれぞれ作成したペレットを、約704℃の温度で約500時間(例1及び2の試験持続時間よりもはるかに長い)、本明細書に記載した模擬腐食試験に付した。各々のサンプルに関して、ペレットへのS浸透の深度及び硫酸塩腐食剤において観察されるカチオン浸出を下の表3に示す。
【0035】
【表3】
表3から、長い持続時間の腐食試験において、NiO、NiFe
2O
4、NiOとNiFe
2O
4の組合せ、及びNiFeAlO
4は、安定したままであったが、NiFeCoO
4は相分離及び硫酸塩腐食剤へのCoの浸出を示すことが分かる。NiMn
2O
4及びそのAlをドープした誘導体NiMnAlO
4は、深刻なS浸透及び元素浸出を示す。
【0036】
例1と同様に、サンプル11〜17の断面のSEM画像を、それぞれ
図12A、
図13A…及び
図18Aに示す。
図12A、
図13A…及び
図18AのSEM画像の各々に示す領域の組成の質量%を、それぞれ
図12B、
図13B…及び
図18Bの対応する図表に示す。
【0037】
図12A、
図13A、
図15A及び
図16Aの各々は、鮮明なペレット断面の画像を示す。
図12B、
図13B及び
図16Bの測定結果も、サンプル11、12及び15のペレット表面を横切る拡散がないことを示す。
図15Bは、サンプル14において、ペレットへのSの移動もペレットから腐食剤へのカチオン浸出もなく、耐食性能にあまり影響を及ぼさないごく少量のMgが腐食剤からペレットに拡散したことを示す。したがって、NiO、NiFe
2O
4、NiFe
2O
4とNiOの組合せ、又はNiFeAlO
4から作成したペレットは、試験を通して安定していることが分かる。
図14A及び
図14Bに示すように、NiFeCoO
4も、ペレットにおいて硫黄の浸透を遮断することができ、良好な耐硫化腐食性能が示唆される。しかし、
図14Bは、ペレット側から拡散したCoが腐食剤側に位置する領域134で検出されることを示す。このことは、材料の耐用年数に影響を及ぼし得る。NiMn
2O
4から作成したサンプル16に関して、反応域が、
図17Aにおいて試験材料と腐食剤との間の界面の近くに観察される。
図17Bは、腐食剤側から拡散したNa、Mg、Al、Si、S、K及びCaが、ペレット側に位置する領域164で検出されることを示す。NiMnAlO
4から作成したサンプル17に関して、ペレット側から拡散したMn及びNiは、
図18Bに示すように、腐食剤側に位置する領域173〜175で検出される。しかし、
図18Aの反応層は
図17Aの反応層よりもはるかに薄く、ドープしたNiMn
2O
4(NiMnAlO
4)が耐硫化腐食性能を向上させ、有望な耐硫化腐食材料であることを裏付ける。
【0038】
上記の例では、Bサイトドーパントを含むAB
2O
4スピネルだけが試験されたが、Aサイトドーパントを含むAB
2O
4スピネルにも適用できることに留意されるべきである。Aサイトドーピング策は、当分野の常識に基づくBサイトドーピング策と同じであり得る。
【0039】
本記載の説明は、最良の形態を含む本開示を説明するために、また、当業者が本開示を実践することを可能にするために、装置又はシステムを作成及び使用し、組み込まれた方法を実行することを含む、例を使用している。本開示の特許適格性を有する範囲は、特許請求の範囲に規定され、それには当業者の念頭に浮かぶその他の例を含んでいてもよい。そのようなその他の例は、それらが特許請求の範囲の文字通りの意味と異ならない構造要素を有する場合、又は、それらが特許請求の範囲の文字通りの意味との実質的な差異のない等価な構造要素を含む場合には、特許請求の範囲内にあることが意図される。