特許第6374941号(P6374941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼネラル・エレクトリック・カンパニイの特許一覧

特許6374941硫酸塩腐食から物品を保護するための方法及び硫酸塩腐食に対する耐性の向上した物品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6374941
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】硫酸塩腐食から物品を保護するための方法及び硫酸塩腐食に対する耐性の向上した物品
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   C23C28/00 B
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-238073(P2016-238073)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-141504(P2017-141504A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年2月16日
(31)【優先権主張番号】201510987977.1
(32)【優先日】2015年12月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(74)【代理人】
【識別番号】100113974
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 拓人
(72)【発明者】
【氏名】シーツォン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】マルティナ・マシュー・モーラ
(72)【発明者】
【氏名】レイ・カオ
(72)【発明者】
【氏名】イテン・ジン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ・チャン
(72)【発明者】
【氏名】クンジャン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ミング・グオ
(72)【発明者】
【氏名】シャオユアン・ロウ
(72)【発明者】
【氏名】シャーシ・リ
(72)【発明者】
【氏名】チージャ・フ
(72)【発明者】
【氏名】チャンチャン・シン
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−060661(JP,A)
【文献】 特表2001−521993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00,28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸塩を含有する物質への高温暴露に起因する硫酸塩腐食から物品の表面を保護するための方法であって、当該方法がニッケル系材料で表面をコーティングして防食コーティングを形成する工程を含み、ニッケル系材料が式ABのスピネル(式中、Aはニッケルを含み、Bは鉄、又は、マンガンとBサイトドーパントとの組合せ、を含む。)を含む、方法。
【請求項2】
AがAサイトドーパントをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Aサイトドーパントが、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、希土類元素又はそれらの組合せを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Bサイトドーパントが、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、希土類元素又はそれらの組合せを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ニッケル系材料が、NiFe、Ni(Fe2−xCo)O、Ni(Fe2−xAl)O、Ni(Mn2−xAl)O又はそれらの組合せ(式中、0<x<2)を含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ニッケル系材料を表面にコーティングする前にニッケル系材料を焼成することをさらに含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ニッケル系材料が400〜1000℃の温度で焼成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
焼成ニッケル系材料を表面にコーティングする前に焼成ニッケル系材料を焼結することをさらに含む、請求項6又は請求項7に記載の方法。
【請求項9】
焼成ニッケル系材料が1000〜1300℃の温度で焼結される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
高温が500℃を超える、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
硫酸塩を含有する物質への高温暴露に起因する硫酸塩腐食に対する耐性が向上した物品であって、
金属基材と、
金属基材上に堆積させた防食コーティングであって、防食コーティングが式ABのスピネル又はそれらの組合せ(式中、Aはニッケルを含み、Bは鉄、又は、マンガンとBサイトドーパントとの組合せ、を含む。)を含む、防食コーティングと、
を備える、物品。
【請求項12】
AがAサイトドーパントをさらに含む、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
Aサイトドーパントが、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、希土類元素又はそれらの組合せを含む、請求項12に記載の物品。
【請求項14】
Bサイトドーパントが、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、希土類元素又はそれらの組合せを含む、請求項11乃至請求項13のいずれか1項に記載の物品。
【請求項15】
ニッケル系材料が、Ni(Fe2−xCo)O、Ni(Fe2−xAl)O、Ni(Mn2−xAl)O又はそれらの組合せ(式中、0<x<2)を含む、請求項11乃至請求項14のいずれか1項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に硫酸塩腐食から物品を保護するための方法及び硫酸塩腐食に対する耐性の向上した物品に関し、より具体的には、硫酸塩を含有する物質への高温暴露に起因する硫酸塩腐食から物品を保護するための方法及びそのような硫酸塩腐食に対する耐性の向上した物品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱腐食は、航空産業及び電力産業において腐食性の汚染物質を含有する燃料又は材料にさらされる金属部品に典型的な問題である。それは、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、バナジウム、及び様々なハロゲン化物などの元素を含有する環境塩及び硫酸塩が存在すると起こる促進腐食である。腐食は、金属部品の保護酸化物表面又は酸化物コーティングを損傷することがある。比較的高い温度、例えば約850℃を超える温度で、熱腐食は大部分の硫酸塩及び単塩の融点を上回ると起こる。硫酸塩及び塩は、部品表面に液体付着物を形成することがあり、この液体付着物は溶融機構によって部品表面を攻撃することがある。したがって、溶解(溶融)が部品の保護酸化物表面に起こることがある。比較的低い温度、例えば約650〜800℃の低温では、硫酸塩は孔食機構によって部品表面を攻撃することがある。硫化反応及び酸化反応は、表面の切れ目で開始し、局在基底で伝播し、孔食を生じることがある。孔は予想外に速い速度で生じ、部品のベース合金に伝播する亀裂を開始させ、壊滅的な故障を招くことがある。その結果、部品の耐力は低下し、ついにはその壊滅的な故障に至る。
【0003】
熱腐食の特徴及び機構を研究し、熱腐食を軽減するために種々のアプローチを開発する努力がなされてきた。しかし、そのような熱腐食に取り組む成熟した技術はまだない。特に、大部分の研究がこれまで高い伝導率を持つ溶融塩に起因する熱腐食に重点を置いているので、航空業界及び電力業界での運転条件下で一般的であり得る、650〜800℃などの比較的低い温度での孔食に起因する熱腐食を効果的に緩和するアプローチはない。したがって、そのような硫酸塩腐食を防ぐための新規な方法及び材料を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
一態様では、硫酸塩を含有する物質への高温暴露に起因する硫酸塩腐食から物品の表面を保護するための方法は、ニッケル系材料で表面をコーティングして防食コーティングを形成することを含む。ニッケル系材料は、NiO、式AB24のスピネル又はそれらの組合せ(式中、Aはニッケルを含み、Bは鉄、又はマンガンとBサイトドーパントとの組合せを含む。)を含む。
【0005】
別の態様では、硫酸塩を含有する物質への高温暴露に起因する硫酸塩腐食に対する耐性の向上した物品は、金属基材及び金属基材上に堆積した防食コーティングを含む。防食コーティングは、NiO、式AB24のスピネル又はそれらの組合せ(式中、Aはニッケルを含み、Bは鉄、又はマンガンとBサイトドーパントとの組合せを含む。)を含む。
【0006】
本開示の上記及びその他の態様、特徴、及び利点は、添付の図面と併せた場合に、後に続く詳細な説明を考慮すればより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】種々の試験したスピネルの触媒活性の評価のためのSO2強度シグナルを示すグラフを示す図。
図2A】サンプル1の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を示す図。
図2B図2Aに示す領域の組成物を示す図表。
図3A】サンプル2の断面のSEM画像を示す図。
図3B図3Aに示す領域の組成物を示す図表。
図4A】サンプル3の断面のSEM画像を示す図。
図4B図4Aに示す領域の組成物を示す図表。
図5A】サンプル4の断面のSEM画像を示す図。
図5B図5Aに示す領域の組成物を示す図表。
図6A】サンプル5の断面のSEM画像を示す図。
図6B図6Aに示す領域の組成物を示す図表。
図7A】サンプル6の断面のSEM画像を示す図。
図7B図7Aに示す領域の組成物を示す図表。
図8A】サンプル7の断面のSEM画像を示す図。
図8B図8Aに示す領域の組成物を示す図表。
図9A】サンプル8の断面のSEM画像を示す図。
図9B図9Aに示す領域の組成物を示す図表。
図10A】サンプル9の断面のSEM画像を示す図。
図10B図10Aに示す領域の組成を示す図表。
図11A】サンプル10の断面のSEM画像を示す図。
図11B図11Aに示す領域の組成を示す図表。
図12A】サンプル11の断面のSEM画像を示す図。
図12B図12Aに示す領域の組成を示す図表。
図13A】サンプル12の断面のSEM画像を示す図。
図13B図13Aに示す領域の組成を示す図表。
図14A】サンプル13の断面のSEM画像を示す図。
図14B図14Aに示す領域の組成を示す図表。
図15A】サンプル14の断面のSEM画像を示す図。
図15B図15Aに示す領域の組成を示す図表。
図16A】サンプル15の断面のSEM画像を示す図。
図16B図16Aに示す領域の組成を示す図表。
図17A】サンプル16の断面のSEM画像を示す図。
図17B図17Aに示す領域の組成を示す図表。
図18A】サンプル17の断面のSEM画像を示す図。
図18B図18Aに示す領域の組成を示す図表。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の1以上の実施形態が以下に記載される。別に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語及び科学用語は、本発明の属する分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。用語「1つの(「a」及び「an」)」は、量の制限を示すものではなく、むしろ言及される項目の1以上の存在を示す。本明細書において明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用される近似を表す語は、その関連する基本機能を変えることなく許容範囲内で変化し得る任意の量的表現を修飾するために適用されてよい。したがって、「約」及び「実質的に」などの1以上の用語によって修飾される値は、特定される正確な値に限定されない。その上、「約第1の値〜第2の値」という表現を使用する場合、約は両方の値を修飾するものである。少なくとも一部の例では、近似を表す語は、値を測定するための計測器の正確さに相当することがある。ここで、そして明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、範囲の限界は、組合せ、かつ/又は交換することができる;文脈又は語が別に指定する場合を除いて、そのような範囲は特定され、その中に含まれるすべての下位範囲を含む。
【0009】
本明細書において列挙されるいずれの数値にも、任意の下方値と任意の上方値との間に少なくとも2単位の隔たりが存在するという条件で、1単位の増分で下方値から上方値の間のすべての値を含む。一例として、部品の量又は、例えば温度、圧力、時間、及び同類のものなどのプロセス変数の値が、例えば1〜90であると述べられている場合、15〜85、22〜68、43〜51、30〜32などの値が本明細書において明示的に列挙されていることが意図される。1未満の値に関して、1単位は、必要に応じて0.0001、0.001、0.01又は0.1とみなされる。これらは具体的に意図されるものの例にすぎず、列挙される最小値と最大値の間の数値のすべての可能性のある組合せは、本願において同様に明示的に述べられているものとみなされる。
【0010】
本開示の実施形態は、ガスタービン又はエンジン部品などの金属製物品を硫酸塩腐食から保護し、それによりその物品の耐用年数を大幅に向上させるための、発電、航空、並びに高温及び腐食環境を伴うその他の用途において使用することのできる、一種のニッケル系コーティング材料に関する。この種のニッケル系コーティング材料は、硫酸塩を含有する物質(腐食剤)に高温で暴露されている間も安定していて、多機能コーティングを耐食用途に提供するために使用することができる。ニッケル系コーティング材料の特有の耐食性は、腐食剤とコーティングとの間の界面相互作用を変えることのある、硫酸塩分解に対するその高い化学安定性と高い触媒活性に関連があり得る。ある実施形態では、ニッケル系コーティング材料及びこの材料のコーティング(以降、「ニッケル系コーティング」、「ニッケル系防食コーティング」、又は「防食コーティング」とも呼ばれる)は、硫酸塩がそれ自体を分解するよりも早く、例えば約750℃で硫酸塩を分解させることができるだけでなく、三酸化硫黄(SO3)を二酸化硫黄(SO2)に変換することによってSO3/硫酸塩の形成を防ぐこともできる。硫酸塩は、分解して対応する金属酸化物、SO2及び酸素を生成することがある。
2MSO4→2MO+2SO2+O2
式中、Mは金属を表す。
【0011】
SO3/硫酸塩の形成は、SO3をSO2と酸素に変換することによって防ぐことができる。
2SO3→2SO2+O2

ニッケル系コーティングは、ニッケル系コーティング材料の組成と実質的に同じ組成を有してよい、そのため、それらは下文において一緒に記載されることがある。ニッケル系コーティング材料又はコーティングは、酸化ニッケル(NiO)、一般式AB24(A2+3+2O2-4)のニッケル系スピネル又はそれらの組合せを含んでいてもよい。典型的なスピネル構造ではA及びBの電荷はそれぞれ+2及び+3であるが、一価、二価、三価、又は四価のカチオンを組み込む組合せ、例えばカリウム、マグネシウム、アルミニウム、クロム、及びケイ素なども可能である。Aがニッケル(Ni)を含み、Bが1種以上の遷移金属、例えばクロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)を含む場合に、スピネルAB24が硫酸塩分解に対して触媒活性を有することが見出される。
【0012】
Niのほかに、Aは、Aサイトドーパントをさらに含んでいてもよい。Aサイトドーパントは、スピネルのAサイトにドープし得る任意の適した1種以上の元素であってよい。同様に、Bは、Bサイトドーパントをさらに含んでいてもよい。Bサイトドーパントは、スピネルのBサイトにドープし得る任意の適した1種以上の元素であってよい。ある実施形態では、Aサイトドーパント又はBサイトドーパントは、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、希土類元素又はそれらの組合せを含んでいてもよい。希土類元素は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ebium(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)又はそれらの組合せを含んでいてもよい。
【0013】
1種以上のドーパントは、スピネルAB24の安定性を向上させることがある。例えば、硫酸塩を含有する腐食剤にさらされている間、NiFe24は安定しているが、NiCr24、NiMn24及びNiCo24は安定していない。しかし、BサイトドーパントはNiMn24の安定性を高めることができる。BサイトにドープされたNiMn24は、硫酸塩分解に対する触媒活性と高い化学安定性の両方を有する。
【0014】
ある実施形態では、ニッケル系材料又はコーティングは、NiO、式AB24のスピネル又はそれらの組合せを含み、式中のAはニッケルを含み、Bは鉄、又はマンガンと上記のBサイトドーパントの組合せを含む。一部の特定の実施形態では、Bサイトドーパントは、Cr、Co、Al又はそれらの組合せを含む。適したスピネルの一部の例としては、NiFe24、Ni(Fe2-xCox)O4、Ni(Fe2-xAlx)O4及びNi(Mn2-xAlx)O4が挙げられ、式中、0<x<2である。
【0015】
ニッケル系コーティング材料又はコーティングは、硫酸塩分解に高い触媒活性を示し、高温で硫酸塩を含有する腐食剤及びダストにさらされている間、それ自体は非常に安定している、そしてそのために高温で硫黄に関連する腐食を防ぐことができる。さらに、ニッケル系コーティング材料又はコーティングは、持続性の耐硫化性を有することができ、高温で長時間(例えば、500時間超)にわたって硫酸塩腐食に耐えることができる。本明細書において使用される「高温」は、通常、標準温度よりも高い、例えば周囲温度よりも高い温度をさす。ある実施形態では、「高温」とは、特に発電、航空、並びに熱及び腐食環境を伴うその他の用途における運転温度をさす。例えば、高温は、ガスタービン又はエンジン、例えばジェットエンジンでの運転温度をさすことがある。一部の具体的な実施形態では、高温とは、約500℃を超える温度をさす。特に、高温は、約500℃〜約800℃である。
【0016】
本開示の実施形態はまた、硫酸塩を含有する物質への高温暴露に起因する硫酸塩腐食から物品の表面を保護する方法にも関し、それは本明細書において上に記載されるニッケル系コーティング材料で表面をコーティングしてニッケル系防食コーティングを形成することを含む。
【0017】
ある実施形態では、ニッケル系コーティング材料は、硫酸塩を含有する腐食剤に向かい合う面(目標面)に直接施工し得る。ある実施形態では、ニッケル系コーティング材料は、界面金属又は酸化物層、例えばCoNiCrAlYなどのボンド層を介して目標面に施工し得る。ボンド層は、ベース合金でのニッケル系コーティングの付着力を向上させることができる。ニッケル系コーティング材料は、様々なコーティングプロセス、例えば、噴霧又は堆積プロセスによって目標面に施工し得る。ある実施形態では、ニッケル系コーティング材料は、溶射プロセス、湿式化学成膜プロセス(wet−chemical deposition process)又はそれらの組合せによって目標面に施工し得る。本明細書において、用語「溶射プロセス」とは、溶融した(又は加熱された)材料が表面に噴霧されるコーティングプロセスをさす。用語「湿式化学成膜プロセス」とは、その後それに続く後処理工程によって望ましいコーティングに変換される液体前駆体フィルムを基材に施工することを伴う、液体に基づくコーティングプロセスをさす。湿式化学成膜法の一部の例としては、浸漬コーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、ダイコーティング法、及びスクリーン印刷法が挙げられる。
【0018】
ある実施形態では、ニッケル系コーティング材料は、目標面に施工される前に、例えば、約400〜1000℃の温度で約1〜3時間焼成されてよい。ある実施形態では、焼成されたニッケル系コーティング材料は、目標面に施工される前にさらに焼結されてよい。例えば、焼成ニッケル系コーティング材料は、約1000〜1300℃の温度で約1〜5時間焼結されてよい。ニッケル系コーティング材料は、焼結後に約1500℃までの温度で、硫酸塩を含有する腐食剤に対してより安定するようになり得る。
【0019】
硫酸塩がニッケル系コーティング全体にわたってSO2に分解される時に、1以上の方法を導入して、硫酸塩分解によって生成されるSO2を放散させるのを助けてもよい。例えば、強制的な空気の流れを導入してSO2を放散させてもよい。ある実施形態では、上記の方法は、例えば、約100sccm(標準状態立方センチメートル毎分)の体積流量の強制的な空気流によって、ニッケル系コーティングで形成されたSO2を放散させることをさらに含んでよい。
【0020】
本開示の実施形態はまた、本明細書に記載したニッケル系防食コーティングを施工した物品にも関する。物品は、金属基材及び金属基材上に堆積させた上述のニッケル系防食コーティングを含んでいてもよい。金属基材は、任意の適した金属又は合金から作成されてよく、合金は、限定されるものではないが、鉄基合金、コバルト基合金、ニッケル基合金又はそれらの組合せを含む。ニッケル系防食コーティングは、耐食性を実現するために一般に使用される任意の実際的な厚さのものであってよい。ある実施形態では、ニッケル系防食コーティングの厚さは約1〜200umである。一部の特定の実施形態では、ニッケル系防食コーティングの厚さは約5〜60umである。ニッケル系防食コーティングは、本明細書に記載したプロセスによって施工し得る。
【0021】
本開示の実施形態は、いくつかの限定されない例を参照して説明される。以下の実施例は、本明細書において特許請求される材料及び方法を評価する方法の詳細な説明を当業者に提供するために示され、本発明者らが自分たちの発明と考えるものの範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0022】
例I
例Iでは、Bサイトの、Cr、Mn、Fe、Co及びAlから選択される1種以上の遷移金属を含む様々なNi系AB24スピネルを試験して硫酸塩分解に対するそれらの触媒活性を評価した。試験用の各々のスピネルに関して、45重量%の硫酸塩を含有するスピネルとダストのブレンド(質量比1:1)を、80ml/分の空気流中で熱重量分析計(TGA、スイス、Mettler−Toledo AG製)に入れ、約10℃/分の速度で約100℃から約1000℃まで加熱した。TGAを結合した質量分析計(英国ウォリントン、Hiden Analytical製)を使用して、TGAからの排気中の分解されたSO2をモニターした。具体的には、NiCr24、NiAl24、NiMn24、NiMn1.5Al0.54、NiFe24、及びNiFeCoO4をそれぞれダストとブレンドし、試験した。さらに、スピネルを含まない粉塵も試験し、そのSO2強度を触媒活性を評価するための基準として使用した。各試験においてモニターした様々な温度でのSO2強度シグナル(任意単位)を図1に示す。スピネルを含まないダストよりも高いSO2強度を生じるスピネルは、硫酸塩分解に対する触媒活性を有すると考えられる。図1から分かるように、NiCr24、NiMn24、NiMn1.5Al0.54、NiFe24、及びNiFeCoO4は、硫酸塩分解に対して触媒活性を有する。
【0023】
例II
例IIでは、酸化ニッケル(NiO)及びNi系AB24スピネル、例えばNiFe24、NiMn24、及びそれらのドープされた誘導体を含む、様々なニッケル系材料を試験し、比較した。試験用の各々の材料に関して、材料の粉末は、前駆体溶液を1種以上の金属硝酸塩前駆体、1種以上の有機キレート剤及び1種以上の界面活性剤からゾルゲル法によって調製し、前駆体溶液をホットプレートで乾燥させることによって製造した。例えば、NiFe24粉末は、NiFe24溶液を硝酸ニッケル、硝酸第二鉄、クエン酸(有機キレート剤として)及びトリエチレングリコール(界面活性剤として)からゾルゲル法によって調製し、NiFe24溶液をホットプレートで乾燥させることによって製造した。試験用の各々の材料の粉末は、約550℃で約2時間焼成した。次に、焼成粉末を円筒状のプレス型で押し固めてペレットにした。次に、各々のペレットを約1200℃で約2時間空気中で焼結させた。
【0024】
これらの材料の耐食性能を評価するため、これらの材料からそれぞれ作成されたペレットを模擬腐食試験に付した。模擬腐食試験では、Na2SO4、K2SO4、MgSO4、CaSO4、ダスト、及びペースト媒体の混合物を、硫酸塩腐食剤として焼結ペレットの表面に塗布し、次に硫酸塩腐食剤を施工したペレットを、腐食が起こりやすい試験温度で維持した。模擬腐食試験の後、ペレットをダイヤモンドソーで切断し、断面を磨き、分析して、ペレットと腐食剤の間の元素の拡散を調べた。硫黄は熱腐食を引き起こす主要な元素であるので、ペレットへの硫黄の浸透(S浸透)を妨げる能力が、試験した材料の硫酸塩耐食性の指標とみなされる。ペレットから硫酸塩腐食剤まで浸出しているカチオンは、腐食剤の存在下で試験した材料の安定性の指標とみなされ、したがって試験した材料のコーティングとしての寿命の可能性の指標ともみなされる。そのため、ペレットへのS浸透の深度は、硫酸塩耐食性を示すために使用され、硫酸塩腐食剤において観察したカチオンの浸出は、腐食剤の存在下での試験した材料の安定性を示すために使用される。
【0025】
例1:本例では、NiFe24、NiMn24、NiAl24、NiCo24及びNiCr24(サンプル1〜5)からそれぞれ作成したペレットを、本明細書に記載した模擬腐食試験に約704℃の温度で約100時間付した。各々のサンプルに関して、ペレットへのS浸透の深度及び硫酸塩腐食剤において観察されるカチオン浸出を下の表1に示す。
【0026】
【表1】
表1から、サンプル1(NiFe24)は、硫酸塩腐食剤へのカチオン浸出はなく、ペレットへのS浸透を防ぐことができ、一方、サンプル2(NiMn24)は、ペレットで形成された反応層と、ペレットから硫酸塩腐食剤へのMn及びNiの浸出を示し、サンプル3(NiAl24)は、10umの深度のペレットへのS浸透を示し、サンプル4(NiCo24)は、ペレットで形成された反応層と、ペレットから硫酸塩腐食剤へのCoの浸出を示し、サンプル5(NiCr24)は、ペレットで形成された反応層と、ペレットから硫酸塩腐食剤へのCr及びNiの浸出を示すことが分かる。
【0027】
サンプル1〜5の微細形態を観察するために、これらのサンプルの断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を得、図2A図3A…及び図6Aにそれぞれ示す。さらに、各々のサンプルのペレット表面(試験した材料と腐食剤との間の界面)を横切る拡散をさらに分析するために、各々のサンプルのペレット表面に隣接するサンプル領域(各々のサンプルのSEM画像中に表示)の組成の質量%をエネルギー分散型X線(EDX)によって測定した。測定したサンプル1〜5の組成を、それぞれ図2B図3B…及び図6Bに示す。例えば、そのSEM画像が図2Aに示すサンプル1に関して、標記の4つの領域、領域11〜14の組成の質量%を測定し、図2Bの図表に示した。具体的には、領域11〜14は、ペレット表面に対して実質的に直角の方向に沿って、試験材料側(ペレット側)から腐食剤側まで順番に配置され、ここで、領域11及び12は試験した材料側に位置し、領域13及び14は腐食剤側に位置している。残りのサンプル2〜5の各々に関して、4又は5箇所の領域の組成の質量%を測定し、対応する図表に同様に示した。
【0028】
図2Aは、鮮明なペレット断面の画像を示し、汚染は観察することができない。図2Bの測定結果も、サンプル1のペレット表面を横切る腐食剤とペレットの間の相互拡散がないことを示す。したがって、NiFe24から作成したペレットは試験を通して安定していることが分かる。
【0029】
しかし、図3Aに示すように、サンプル2において試験材料と腐食剤との間の界面で反応域が観察される。図3Bは、サンプル2において腐食剤からペレットへの拡散があること、及び腐食剤側から拡散した元素はペレット側に位置する領域24と23の両方で検出され、Mg、Al、Si、S及びCaは領域24で検出され、Mgは領域23で検出されることを示す。図4A及び図4Bは、サンプル3においてペレットへのSの移動があり、腐食剤側から拡散したSが、ペレット側に位置しペレット表面に隣接する領域34において検出されることを示す。図5Aに示すように、反応域が、サンプル4において試験材料と腐食剤との間の界面の近くに観察される。図5Bは、Na、Mg、Al、Si、S、K及びCaの腐食剤側からの拡散が、ペレット側に位置する領域43において検出されること、並びにペレット側からのCoの拡散が、腐食剤側に位置する領域44において検出されることを示す。図6A及び図6Bは、サンプル5においてペレットへのSの移動を示し、腐食剤側から拡散したSは、ペレット側に位置しペレット表面に隣接する領域52において検出される。
【0030】
例2:本例では、CoをドープしたNiFe24(NiFeCoO4)、AlをドープしたNiFe24(NiFeAlO4)、NiFe24とNiOの組合せ、AlをドープしたNiMn24(NiMnAlO4)、及びNiMn24とNiOの組合せ(サンプル6〜10)からそれぞれ作成したペレットを、約704℃の温度で約100時間、本明細書に記載した模擬腐食試験に付した。各々のサンプルに関して、ペレットへのS浸透の深度及び硫酸塩腐食剤において観察されるカチオン浸出を下の表2に示す。
【0031】
【表2】
表2から、ドープしたNiFe24、又はNiFe24とNiOの組合せは、硫酸塩腐食条件下でNiFe24に類似する耐硫化腐食性能及び安定性を示すことが分かる。NiMnAlO4も耐硫化腐食性能を示すが、腐食剤へのカチオン拡散がある。NiMn24とNiOの組合せは、硫酸塩腐食条件下で不安定である。
【0032】
例1と同様に、サンプル6〜10の断面のSEM画像を、それぞれ図7A図8A…及び図11Aに示す。図7A図8A…及び図11AのSEM画像の各々に示す領域の組成の質量%を、それぞれ図7B図8B…及び図11Bの対応する図表に示す。
【0033】
図7A図8A及び図9Aの各々は、鮮明なペレット断面の画像を示す。図7B及び図8Bは、サンプル6及び7において、ペレットへのSの移動もペレットから腐食剤へのカチオン浸出もなく、試験した材料の耐食性能にあまり影響を及ぼさないごく少量のSiが腐食剤からペレットに拡散したことを示す。図9Bは、サンプル8のペレット表面を横切る腐食剤とペレットの間の相互拡散がないことを示す。したがって、ドープしたNiFe24、又はNiFe24とNiOの組合せから作成したペレットは、試験を通して安定していることが分かる。図10Aにおいてサンプル9のペレットに硫黄の拡散は観察されない、これはNiMnAlO4が耐硫化性能を有することを示す。しかし、図10Bは、ペレット側から拡散したMn及びNiが腐食剤側に位置する領域93で検出されることを示す。NiMn24とNiOの組合せから作成したサンプル10に関して、図11Bは、ペレットへのSの移動があり、腐食剤側から拡散したSが、ペレット側に位置しペレット表面に隣接する領域104で検出されることを示す。
【0034】
例3:本例では、NiO、NiFe24、NiFeCoO4、NiFeAlO4、NiFe24とNiOの組合せ、NiMn24及びNiMnAlO4(サンプル11〜17)からそれぞれ作成したペレットを、約704℃の温度で約500時間(例1及び2の試験持続時間よりもはるかに長い)、本明細書に記載した模擬腐食試験に付した。各々のサンプルに関して、ペレットへのS浸透の深度及び硫酸塩腐食剤において観察されるカチオン浸出を下の表3に示す。
【0035】
【表3】
表3から、長い持続時間の腐食試験において、NiO、NiFe24、NiOとNiFe24の組合せ、及びNiFeAlO4は、安定したままであったが、NiFeCoO4は相分離及び硫酸塩腐食剤へのCoの浸出を示すことが分かる。NiMn24及びそのAlをドープした誘導体NiMnAlO4は、深刻なS浸透及び元素浸出を示す。
【0036】
例1と同様に、サンプル11〜17の断面のSEM画像を、それぞれ図12A図13A…及び図18Aに示す。図12A図13A…及び図18AのSEM画像の各々に示す領域の組成の質量%を、それぞれ図12B図13B…及び図18Bの対応する図表に示す。
【0037】
図12A図13A図15A及び図16Aの各々は、鮮明なペレット断面の画像を示す。図12B図13B及び図16Bの測定結果も、サンプル11、12及び15のペレット表面を横切る拡散がないことを示す。図15Bは、サンプル14において、ペレットへのSの移動もペレットから腐食剤へのカチオン浸出もなく、耐食性能にあまり影響を及ぼさないごく少量のMgが腐食剤からペレットに拡散したことを示す。したがって、NiO、NiFe24、NiFe24とNiOの組合せ、又はNiFeAlO4から作成したペレットは、試験を通して安定していることが分かる。図14A及び図14Bに示すように、NiFeCoO4も、ペレットにおいて硫黄の浸透を遮断することができ、良好な耐硫化腐食性能が示唆される。しかし、図14Bは、ペレット側から拡散したCoが腐食剤側に位置する領域134で検出されることを示す。このことは、材料の耐用年数に影響を及ぼし得る。NiMn24から作成したサンプル16に関して、反応域が、図17Aにおいて試験材料と腐食剤との間の界面の近くに観察される。図17Bは、腐食剤側から拡散したNa、Mg、Al、Si、S、K及びCaが、ペレット側に位置する領域164で検出されることを示す。NiMnAlO4から作成したサンプル17に関して、ペレット側から拡散したMn及びNiは、図18Bに示すように、腐食剤側に位置する領域173〜175で検出される。しかし、図18Aの反応層は図17Aの反応層よりもはるかに薄く、ドープしたNiMn24(NiMnAlO4)が耐硫化腐食性能を向上させ、有望な耐硫化腐食材料であることを裏付ける。
【0038】
上記の例では、Bサイトドーパントを含むAB24スピネルだけが試験されたが、Aサイトドーパントを含むAB24スピネルにも適用できることに留意されるべきである。Aサイトドーピング策は、当分野の常識に基づくBサイトドーピング策と同じであり得る。
【0039】
本記載の説明は、最良の形態を含む本開示を説明するために、また、当業者が本開示を実践することを可能にするために、装置又はシステムを作成及び使用し、組み込まれた方法を実行することを含む、例を使用している。本開示の特許適格性を有する範囲は、特許請求の範囲に規定され、それには当業者の念頭に浮かぶその他の例を含んでいてもよい。そのようなその他の例は、それらが特許請求の範囲の文字通りの意味と異ならない構造要素を有する場合、又は、それらが特許請求の範囲の文字通りの意味との実質的な差異のない等価な構造要素を含む場合には、特許請求の範囲内にあることが意図される。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B