(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から
図8(A)(B)に示すように、ハウジング51とこのハウジング51に設けた軸孔52に挿通する回転軸61との間で機内側Aの密封流体(油)が機外側Bへ漏洩しないようシールする密封装置101であって、回転軸61の外周に装着されるスリンガー111と、ハウジング51の軸孔52内周に装着されるリップシール部材121との組み合わせよりなる密封装置101が知られている。
【0003】
スリンガー111は、金属等の剛材製であって、回転軸61の外周面に固定されるスリーブ部112と、このスリーブ部112の一端に設けられたフランジ部113とを一体に有し、フランジ部113の機外側端面113aに、回転軸61が回転するときに遠心力による流体ポンピング作用を発揮するネジ溝114が設けられている。
【0004】
一方、リップシール部材121は、ハウジング51の軸孔52内周面に固定される取付環122と、この取付環122に被着されたゴム状弾性体123とを有し、このゴム状弾性体123によって、スリンガー111におけるフランジ部113の機外側端面113aに摺動可能に密接するシールリップ(端面リップ)124が設けられている。
【0005】
ところで近年、環境問題から自動車業界では低燃費車の開発を加速しており、エンジン用オイルシールに対するニーズとしては回転時のトルク低減が挙げられ、このような状況下で上記
図8の端面リップ構造の密封装置101によれば、一般的なラジアルリップ構造の密封装置と比較して、低トルク化を実現可能とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記
図8の密封装置101に対しては、以下の点について更なる機能向上が求められている。
【0008】
すなわち上記密封装置101においては、回転軸61が回転するとき、回転軸61と共に回転するスリンガー111がフランジ部113による流体振り切り作用およびネジ溝114による流体ポンピング作用を発揮するため、密封流体の漏洩を抑制することが可能とされるが、回転軸61の回転が停止すると遠心力が消失するため、密封流体がネジ溝114を伝ってシールリップ124先端を通過し、機外側Bへ漏洩する虞がある(いわゆる静止漏れの発生の虞)。尚、この静止漏れは、例えば自動車が坂道途上で停車する等して車体に傾きが発生し、エンジンの軸孔52内における油量(油面水位)が回転軸61の下端を越える場合などに特に発生しやすい。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて、シールフランジおよびシールフランジに摺動可能に接触するシールリップを備える密封装置において、回転軸の回転が停止したときに静止漏れが発生するのを抑制することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために以下の手段を採用した。
本発明の密封装置は、ハウジングと前記ハウジングに設けた軸孔に挿通する回転軸との間で機内側の密封流体が機外側へ漏洩しないようシールする密封装置であって、前記回転軸の外周に装着されるシールフランジに対し、前記ハウジングの軸孔内周に装着される
シールリップが全周に亙って摺動可能に接触する密封装置において、前記回転軸の回転時に流体ポンピング作用を発揮するネジ溝を備え、前記ネジ溝を、前記シールフランジに対し前記シールリップが全周に亙って摺動可能に接触する接触領域と交差しない位置に設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明の密封装置によれば、回転軸の回転時に流体ポンピング作用を発揮するネジ溝が、シールフランジに対しシールリップが全周に亙って摺動可能に接触する接触領域と交差しない位置に設けられているため、ネジ溝は、回転軸の停止時における静止漏れの漏れ流路とならない。したがってネジ溝を伝って静止漏れが発生するのを抑制することが可能となる。
【0012】
本発明において、ネジ溝を設ける位置や、シール機能を高めるその他の構成については、以下の態様が考えられる。
【0013】
第1の態様・・・・
ネジ溝をシールフランジの機外側端面の一部に設けることによりシールフランジの機外側端面にネジ溝形成領域を設けるとともに、ネジ溝を設けていないネジ溝非形成領域をネジ溝形成領域の外周側に設け、ネジ溝非形成領域に対しシールリップを摺動可能に接触させる。また、シールリップの内周側に環状の突起をシールフランジへ向けて設け、突起およびシールフランジ間に微小隙間を設ける。
【0014】
上記態様の密封装置によれば、シールフランジの機外側端面におけるネジ溝形成領域の外周側にネジ溝非形成領域が設けられ、シールリップがネジ溝形成領域ではなくその外周側のネジ溝非形成領域に対し接触するため、シールリップのリップ端とネジ溝とが互いに交差しないことになる。したがってネジ溝は静止漏れの漏れ流路とならず、よってネジ溝を伝って静止漏れが発生するのを抑制することが可能となる。
【0015】
また、回転軸が回転しているときは、シールリップが摺動によるシール作用を発揮するほか、シールフランジが回転に伴う流体振り切り作用を発揮し、ネジ溝が回転に伴う流体ポンピング作用を発揮し、更に微小隙間が非接触のラビリンスシール作用を発揮する。したがってこれらの各作用にもとづいて、密封流体が機外側へ漏洩するのを抑制することが可能となる。
【0016】
また、上記第1の態様の密封装置において、突起は、シールフランジの機外側端面におけるネジ溝形成領域との間に微小隙間を形成することにしても良い。
【0017】
この構成によれば、突起がシールフランジの機外側端面におけるネジ溝形成領域との間に微小隙間を形成するため、ネジ溝がこの微小隙間の内部において回転に伴う流体ポンピング作用を発揮し、微小隙間は幅が狭いのでその全幅に対し流体ポンピング作用が及ぶことになる。したがって、シールリップ摺動部を通過して来た密封流体は微小隙間を通過しなければ機外側へ漏洩しないところ、微小隙間に入った密封流体に対しては必ずポンピング作用が及ぶと云う関係が成立するため、密封流体は微小隙間を通過しにくく、よって機外側へ漏洩しにくい。このような作用からして微小隙間はその幅が狭いほど良い。
【0018】
第2の態様・・・・
ネジ溝をシールフランジの機外側端面の一部に設けることによりシールフランジの機外側端面にネジ溝形成領域を設けるとともに、ネジ溝を設けていないネジ溝非形成領域をシールフランジの機外側端面の他の部分に設け、ネジ溝形成領域に対し複数のシールリップのうちの一部のシールリップを摺動可能に接触させるとともに、ネジ溝非形成領域に対し他のシールリップを摺動可能に接触させる。
【0019】
上記態様の密封装置によれば、回転軸が回転する時には、複数のシールリップのうち一部のシールリップとシールフランジとの摺動部に、回転方向に対して求心方向へ延びるネジ溝によるネジポンプ効果で優れた密封性を発揮し、回転軸の停止時には、シールフランジにおけるネジ溝非形成領域に密接された他のシールリップによって優れた密封性を維持することが可能となる。
【0020】
また、上記第2の態様の密封装置において、ネジ溝形成領域に摺動可能に密接される一部のシールリップよりも、ネジ溝非形成領域に摺動可能に密接される他のシールリップを低反発としても良い。
【0021】
この構成によれば、回転時のシールフランジとの摺動による摩擦の増大を抑制することが可能となる。
【0022】
第3の態様・・・・
この態様において、軸孔および回転軸は、その中心軸線を水平方向に向け設定されるものとされる。また、密封流体は、回転軸の回転が停止したときに軸孔内にて所定の高さ位置まで充満するものとされる。そして、シールフランジの機外側端面と対向するシールリップの対向面にネジ溝が設けられ、更にネジ溝は、シールリップの対向面において、回転軸の回転が停止したときに密封流体が軸孔内にて充満する所定の高さ位置より上方の部位のみに設けられる。
【0023】
上記態様の密封装置によれば、シールフランジの機外側端面と対向するシールリップの対向面に、回転軸が回転したときに流体ポンピング作用を発揮するネジ溝が設けられるとともに、このネジ溝がシールリップの対向面において回転軸の回転が停止したときに密封流体が軸孔内にて充満する所定の高さ位置より上方の部位のみに設けられているため、この所定の高さ位置より下方の部位にはネジ溝が設けられていない。したがって上記
図8の従来技術に係る密封装置101のように、円周上一部のネジ溝114が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態が発生しないため、静止漏れが発生するのを有効に抑制することが可能となる。
【0024】
また、ネジ溝を回転側ではなく静止側(非回転側)のシールリップに設けていることにより、静止漏れが発生するのを有効に抑制することが可能となる。
【0025】
これは、上記
図8の従来技術に係る密封装置101では、ネジ溝114が回転側のスリンガー111のフランジ部113に設けられているため、回転が停止したときにネジ溝114が円周上いずれの位置で停止するかを予め特定することができないため、上記円周上一部のネジ溝114が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態が発生する可能性が残されることになる。これに対し上記態様の密封装置では、ネジ溝を回転側ではなく静止側(非回転側)のシールリップに設けることにして、円周上一部のネジ溝114が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態が発生する可能性をなくすことで、ネジ溝の円周上の位置を常に一定としたことにより可能となった。
【0026】
また、上記第3の態様の密封装置において、回転軸の回転が停止したときに密封流体が軸孔内にて充満する所定の高さ位置は、回転軸の中心軸線の高さ位置と同等ないし略同等であることにしても良い。この場合、ネジ溝はシールリップの対向面のうちの円周上の上半分のみに設けられることになる。
【0027】
この構成によれば、シールリップの対向面のうち下半分の領域においてネジ溝が設けられないため、この下半分の領域で静止漏れが発生するのを抑制することが可能となる。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、シールフランジおよびこのシールフランジに摺動可能に接触するシールリップを備える密封装置において、回転軸の回転が停止したときに静止漏れが発生するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0035】
第1実施例・・・・
図1は、本発明の第1実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。
当該実施例に係る密封装置1は、ハウジング(シールハウジング)51とこのハウジング51に設けた軸孔52に挿通する回転軸61との間で機内側(油側)Aの密封流体(油)が機外側(大気側)Bへ漏洩しないようにシールする密封装置(エンジン用オイルシール)1であって、回転軸61の外周に装着されるスリンガー11と、ハウジング51の軸孔52内周に装着されるリップシール部材21との組み合わせにより構成されている。
【0036】
スリンガー11は、金属等の剛材製であって、回転軸61の外周面に固定(嵌合)されるスリーブ部12と、このスリーブ部12の一端(機内側端部)に設けられたフランジ部(シールフランジ)13とを一体に有し、フランジ部13の機外側端面13aに環状のネジ溝形成領域14が設けられ、このネジ溝形成領域14に
図2に示すような、回転軸61が回転するときに遠心力による流体ポンピング作用を発揮することにより密封流体を外周側(機内側A)へ向けて押し戻す作用を発揮するネジ溝15が設けられている。矢印eは回転軸61の回転方向を示している。
図2においてネジ溝15は4条ネジとして示されている。
【0037】
また、同じくフランジ部13の機外側端面13aであってネジ溝形成領域14の外周側に、ネジ溝を形成していない環状のネジ溝非形成領域16が設けられている。このネジ溝非形成領域16はネジ溝を形成していないので、軸直角の平坦面として設けられている。
【0038】
図1において、ネジ溝形成領域14はE
1にて示す範囲に設定され、ネジ溝非形成領域16はE
2にて示す範囲に設定されている。
【0039】
一方、リップシール部材21は、ハウジング51の軸孔52内周面に固定(嵌合)される金属等の剛材よりなる取付環22と、この取付環22に被着(架橋接着)されたゴム状弾性体23とを有し、このゴム状弾性体23によって、スリンガー11におけるフランジ部13の機外側端面13aのネジ溝非形成領域16に摺動可能に密接するシールリップ(端面リップ)24、および環状の突起25が一体に設けられ、またゴム状弾性体23に対し、スリンガー11におけるスリーブ部12の外周面に摺動可能に密接するダストリップ26が組み付けられている。
【0040】
突起25は、シールリップ24の内周側に設けられ、その基端から先端へかけてスリンガー11におけるフランジ部13に向けて設けられ、フランジ部13との間に所定の幅(軸方向幅)wを備える環状の微小隙間cを形成している。
【0041】
また、突起25は、スリンガー11におけるフランジ部13の機外側端面13aのネジ溝形成領域14に向けて設けられているので、このネジ溝形成領域14との間に所定の幅(軸方向幅)wを備える環状の微小隙間cを形成している。
【0042】
また、突起25は軸直角平面状の先端面25aを備えているので、微小隙間cは所定の幅(軸方向幅)wを備えるほか、この幅wより大きな寸法の長さ(軸直角方向(径方向)長さ)Lを備えている。
【0043】
また、突起25は軸直角平面状の先端面25aを備えるほか、その基端から先端へかけて漸次拡径する向きに傾斜するテーパー面状の外周面25bおよび内周面25cを備えているので、突起25は全体として断面平行四辺形のかたちに形成されている。
【0044】
上記構成の密封装置1においては、スリンガー11におけるフランジ部13の機外側端面13aのネジ溝形成領域14の外周側にネジ溝非形成領域16が設けられ、シールリップ24が前者のネジ溝形成領域14ではなく後者のネジ溝非形成領域16に対し接触するため、シールリップ24のリップ端24aとネジ溝15は互いに交差していない。したがってネジ溝15が静止漏れの漏れ流路とならないため、ネジ溝15を伝って静止漏れが発生するのを抑制することができる。
【0045】
また、回転軸61が回転しているときは、シールリップ24がネジ溝非形成領域16に対し摺動することによるシール作用が発揮されるほか、フランジ部13が回転に伴う流体振り切り作用を発揮し、ネジ溝15が回転に伴う流体ポンピング作用を発揮し、更に微小隙間cが非接触式のラビリンスシール作用を発揮する。したがってこれらの各作用にもとづいて、密封流体が機外側Bへ漏洩するのを抑制することができる。
【0046】
また、これに加えて上記構成の密封装置1においては、突起25がフランジ部13の機外側端面13aにおけるネジ溝形成領域14との間に微小隙間cを形成するため、ネジ溝15がこの微小隙間cの内部において回転に伴う流体ポンピング作用を発揮し、微小隙間cはその幅wが狭いので、その全幅wに対し流体ポンピング作用が及ぶ。したがって、シールリップ24のリップ端摺動部を漏れて来た密封流体は微小隙間cを通過しなければ機外側Bへ漏洩し得ないところ、微小隙間cに入った密封流体に対しては必ず流体ポンピング作用が及ぶため、密封流体は微小隙間cを通過しにくく、通過することはほとんど不可能である。したがって、シールリップ24を漏れて来た密封流体が微小隙間cを通過して機外側Bへ漏洩するのをほぼ完全に抑制することができる。
【0047】
以上のように当該実施例に係る密封装置1によれば、密封流体に対する優れたシール性を発揮することができる。
【0049】
図3における参照符号51は非回転のハウジング、参照符号61はこのハウジング51の軸孔に挿通された回転軸である。このハウジング51と回転軸61の間に配置される密封装置は、ハウジング51に装着されるリップシール部材21と、回転軸61に装着されるスリンガー11とを備え、
図3における右側の機内空間Aに存在する密封対象油が、ハウジング51の内周から
図3における左側の機外空間Bへ漏洩するのを防止するものである。
【0050】
リップシール部材21は、ハウジング51の内周面に圧入嵌着される取付環22と、この取付環22にゴム状弾性材料(ゴム材料またはゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で一体成形された内周側シールリップ27、外周側シールリップ28、ガスケット部29、ダストリップ30および弾性層31からなる。
【0051】
リップシール部材21における取付環22およびスリンガー11は、鋼板等の金属板をプレス加工することによって製作されたものであって、このうち取付環22は、ハウジング51の内周面51aに圧入嵌合される外周嵌着部22aと、この外周嵌着部22aから機内空間Aと反対側へ向けて小径になる円錐筒状に形成されたガスケット支持部22bと、そこから内径側へ延びる径方向部22cと、その内径端部から機内空間A側へ漸次小径となるように延びる円錐筒部22dと、更にその端部から内径側へ延びるフランジ部22eからなる。またスリンガー11は、回転軸61の外周面に密嵌されるスリーブ部12およびその一端から延びるシールフランジ13からなる。
【0052】
リップシール部材21における内周側シールリップ27および外周側シールリップ28は、取付環22におけるフランジ部22eの内径端に位置する弾性層31の内径部を根元にしてそれぞれ先端が外周側を向くような円錐筒状をなして機内空間A側へ延びており、その先端部が、シールフランジ13における機内空間Aと反対側を向いて軸心Oとほぼ直交する平面をなす端面に摺動可能に密接されるものである。そして、シールフランジ13に押し付けられることによる外周側シールリップ28の反発力(シールフランジ13に対する面圧)は、内周側シールリップ27の反発力よりも低いものとなっている。なお、この実施の形態において、内周側シールリップ27は
請求項2に記載された「一部のシールリップ」に相当するものであり、外周側シールリップ28は「他のシールリップ」に相当するものである。
【0053】
スリンガー11のシールフランジ13の端面における径方向中腹部にはネジ溝15が形成されており、このネジ溝15は、
図4に示すように軸回転方向(
図4における反時計方向)に対して求心方向へ延びている。そして、リップシール部材21における内周側シールリップ27の先端部は前記端面におけるネジ溝15の形成領域(ネジ溝形成領域)14に密接され、外周側シールリップ28の先端部は前記端面におけるネジ溝形成領域14より外径側のネジ溝非形成領域16に密接されている。
【0054】
リップシール部材21におけるガスケット部29は、弾性層31の外径端に形成され、取付環22におけるガスケット支持部22bの外周に位置しており、ガスケット支持部22bとハウジング51の内周面51aとの間に所定のつぶし代をもって介在されることによって、ハウジング51との間の気密性を保持するものである。
【0055】
リップシール部材21におけるダストリップ30は、弾性層31の内径端から機外空間B側へ円錐筒状をなして延び、その先端部が回転軸61の外周面に近接対向されている。
【0056】
以上のように構成された密封装置は、
図3に示すように、リップシール部材21が、その取付環22の外周嵌着部22aにおいてハウジング51の内周面51aに圧入嵌着されると共に、ガスケット部29において適当なつぶし代をもって密嵌され、リップシール部材21の内周側シールリップ27および外周側シールリップ28が、回転軸61と一体回転するスリンガー11のシールフランジ13の端面と密接摺動することによって、機内空間A側に存在する密封対象油が機外空間B側へ漏洩するのを阻止するものである。
【0057】
特に回転軸61の回転時には、スリンガー11のシールフランジ13は、これに接触する流体を遠心力によって外径方向へ振り切る作用を有することに加え、機内空間A側に存在する密封対象油の一部がもし外周側シールリップ28とシールフランジ13との摺動部からさらに内周側シールリップ27とシールフランジ13との摺動部を内径側へ通過しようとしても、内周側シールリップ27とシールフランジ13との摺動部ではネジ溝15が回転によって流体を外径側へ送り出すネジポンプ作用を惹起するので、優れた密封機能を奏する。また、外周側シールリップ28は内周側シールリップ27よりも低反発であるため、外周側シールリップ28を設けたことによる摩擦の増大が抑えられる。
【0058】
しかも上記ネジポンプ作用によって、内周側シールリップ27と外周側シールリップ28の間に画成された環状空間Cの内圧が上昇するので、外周側シールリップ28とシールフランジ13との摺動部における密封性も向上する。
【0059】
また、回転軸61の回転が停止した場合、スリンガー11のシールフランジ13による振り切り作用やネジ溝15のネジポンプ作用は失われるが、外周側シールリップ28の先端部がシールフランジ13の端面におけるネジ溝15の形成領域14より外径側のネジ溝非形成領域16に密接されているため、ネジ溝15による漏れ経路は形成されず、したがって回転軸61の停止時にも機内空間Aに密封対象油が存在しているような条件であっても優れた密封性が維持される。
【0060】
なお、上述の実施の形態では、内周側シールリップ27の先端部がネジ溝15の形成領域14に密接され、外周側シールリップ28の先端部がネジ溝非形成領域16に密接されているが、これとは逆に、外周側シールリップ28の先端部がネジ溝形成領域に密接され、内周側シールリップ27の先端部がネジ溝形成領域より内径側のネジ溝非形成領域に密接されるようにしても良い。
【0061】
また本発明は、3本以上のシールリップを有するものにも適用することができる。
【0062】
第3実施例・・・・
図5は、本発明の第3実施例に係る密封装置1の要部断面を示している。
当該実施例に係る密封装置1は、ハウジング(シールハウジング)51とこのハウジング51に設けた軸孔52に挿通する回転軸61との間で機内側(油側)Aの密封流体(油)が機外側(大気側)Bへ漏洩しないようにシールする密封装置(エンジン用オイルシール)1である。図示するように軸孔52および回転軸61はその中心軸線0を水平方向に向けて設定されている。また回転軸61の回転停止時、密封流体は軸孔52内にて所定の高さ位置まで充満し、具体的には、回転軸61の中心軸線0の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置まで充満するものとされている。図ではこのときの液面水位を符号Hで示している。
【0063】
密封装置1は、回転軸61の外周に装着されるスリンガー11と、ハウジング51の軸孔52内周に装着されるリップシール部材21との組み合わせにより構成されている。
【0064】
スリンガー11は、金属等の剛材製であって、回転軸61の外周面に固定(嵌合)されるスリーブ部12と、このスリーブ部12の一端(機内側端部)に設けられたフランジ部(シールフランジ)13とを一体に有している。フランジ部13の機外側端面13aにネジ溝は設けられておらず、よってフランジ部13の機外側端面13aは平滑面とされている。
【0065】
一方、リップシール部材21は、ハウジング51の軸孔52内周面に固定(嵌合)される金属等の剛材よりなる取付環22と、この取付環22に被着(架橋接着)されたゴム状弾性体23とを有し、このゴム状弾性体23によって、スリンガー11におけるフランジ部13の機外側端面13aに摺動可能に密接するシールリップ(端面リップ)24と、スリンガー11に対し非接触の油回収リップ32と、スリンガー11におけるスリーブ部12の外周面に摺動可能に密接するダストリップ26が一体に設けられている。油回収リップ32はシールリップ24の機外側Bに配置され、ダストリップ26は油回収リップ32の更に機外側Bに配置されている。
【0066】
また、フランジ部13の機外側端面13aと対向するシールリップ24の対向面24bに、回転軸61の回転時に遠心力によるポンピング作用を発揮することにより密封流体を外周側(機内側A)へ向けて押し戻す作用を発揮するネジ溝33が設けられている。シールリップ24はその基端部から先端部へかけて径寸法が徐々に拡大するテーパー状(漏斗状)のサイドリップとされているので、ネジ溝33はシールリップ24の内周面に設けられている。
【0067】
また、このネジ溝33は
図6に示すように、シールリップ24の対向面24bにおいて、回転軸61の回転停止時に密封流体が軸孔52内にて充満する所定の高さ位置よりも上方の部位のみに設けられており、当該実施例では上記したように密封流体は回転軸61の中心軸線0の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置まで充満するので、ネジ溝33はシールリップ24の対向面24bのうち円周上上半分の領域のみに設けられている。
【0068】
すなわち、比較例として
図7に示すようにネジ溝33が仮に全周360度に亙って設けられると、その円周上において下半分の領域ではネジ溝33が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態となるため、この円周上の下半分領域においてシールリップ24の外周側からネジ溝33を経由してシールリップ24の内周側へ密封流体が侵入しやすいことになる。これに対し当該実施例では
図6に示すように、ネジ溝33が円周上の上半分領域のみに設けられて下半分の領域には設けられていないため、ネジ溝33が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態とはならない構成とされている。
【0069】
図6および
図7において、矢印eは回転軸61の回転方向を示している。ネジ溝33は
図6では4条ネジとして示されている。
【0070】
上記構成の密封装置1においては、回転軸61の回転時、シールリップ24がスリンガー11のフランジ部13に摺動可能に密接することにより基本的なシール機能が発揮されるほか、回転軸61と共に回転するスリンガー11がフランジ部13による流体振り切り作用を発揮し、更にシールリップ24に設けられたネジ溝33がフランジ部13との相対回転に伴う流体ポンピング作用を発揮するため、シールリップ24およびフランジ部13間を通過する流体があってもこれを外周側(機内側A)へ戻すことが可能とされ、よって優れたシール機能が発揮される。
【0071】
また、回転軸61の回転が停止すると遠心力が消失し、これに伴って上記流体振り切り作用および流体ポンピング作用が一時停止するため、一部の密封流体がネジ溝33を伝って機内側Aからシールリップ24および油回収リップ32間の空間Dへ流出する懸念があるところ、当該実施例では上記したようにネジ溝33がシールリップ24の対向面24bにおいて回転軸61の回転停止時に密封流体が軸孔52内にて充満する所定の高さ位置よりも上方の部位のみに設けられているため、円周上一部のネジ溝33が液面水位Hより下方に配置されて密封流体に浸漬される状態が発生しない。したがってネジ溝33を伝って密封流体がシールリップ24の外周側から内周側へ静止漏れするのを抑制することができる。
【0072】
尚、回転軸61の回転停止時に密封流体が軸孔52内にて充満する所定の高さ位置についてはその具体例を上記したように、回転軸61の中心軸線0の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置としたが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば他の例として、回転軸61の下端部の高さ位置と同等ないし略同等の高さ位置などとすることもできる。ここに回転軸61の下端部とは、中心軸線0を水平方向に向けて設定された回転軸61の外周面における円周上下端部のことを云う。そしてこの場合には上記実施例対比で、シールリップ24の対向面24bにおいてネジ溝33を形成する領域が増えネジ溝33を形成しない領域が減るため、ネジ溝33による流体ポンピング作用を増強することができる。