(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータで駆動されるポンプからの作動液体の供給により伸縮可能で、前記モータで前記ポンプを駆動中にアンロード可能であって、鉄道車両の車体と台車との間に介装されるアクチュエータと、
前記車体に設置されて前記車体の左右方向の加速度を検知する加速度センサと、
前記加速度に基づいて、前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、
前記モータで前記ポンプを駆動しつつ前記アクチュエータのアンロード中に、前記加速度センサの出力値に含まれるドリフト成分を打ち消すオフセット値を計測する
ことを特徴とする鉄道車両用制振装置。
前記モータで前記ポンプを駆動しつつ前記アクチュエータのアンロード中に、前記加速度センサにおける前記モータの駆動時の前記出力値を所定回数計測し、得られた前記出力値を順次加算した値を前記所定回数で除した平均値を前記オフセット値とする
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄道車両用制振装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の鉄道車両用制振装置におけるアクチュエータは、電動油圧シリンダとされており、モータで駆動されるポンプからシリンダに供給される圧油によって、伸縮作動するようになっている。
【0006】
このようなアクチュエータには、モータを駆動するためのインバータが搭載されており、モータ駆動時にインバータを流れる電流によって生じる電磁波等の影響で、加速度センサの出力にノイズが重畳してドリフトしてしまう。
【0007】
加速度センサの出力に重畳されるノイズによるドリフト成分は、低周波であるため、加速度センサの出力をハイパスフィルタ処理してドリフト成分を取り除く方法が一般的に行われている。
【0008】
しかしながら、ハイパスフィルタ処理をすると、加速度センサで検知する加速度が実際の加速度よりも位相が進んでしまうとともに、ドリフト成分がきれいに取り除かれて出力が安定するまで時間がかかってしまう。そのため、モータの始動時に制振制御を実行していると、実際には車体に加速度が作用していないにも拘らず、コントローラは、前記ドリフト成分に基づいて制御力を求めてアクチュエータを駆動してしまうので、制振効果が悪化する問題がある。
【0009】
これに対して、モータ始動時の加速度センサのドリフト量は、予め計測できるので、これをオフセット値として設定し、モータ始動時に加速度センサの出力に含まれるドリフト成分をオフセット値で相殺する試みもある。
【0010】
ドリフト量が常に一定であればよいが、加速度センサの経年劣化等によってドリフト量が変化する場合があり、予め固定化されたオフセット値を用いて加速度センサの出力を補正しても、実際の加速度から乖離が生じて制振効果が悪化してしまう問題が依然残る。
【0011】
そこで、本発明は、制振効果を損なわずに加速度センサの出力からドリフト成分を取り除ける鉄道車両用制振装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の鉄道車両用制振装置は、モータでポンプを駆動中にアンロード可能なアクチュエータと、車体に設置されて車体の左右方向の加速度を検知する加速度センサと、加速度に基づいてアクチュエータを制御するコントローラとを備え、モータを駆動しつつアクチュエータをアンロード中に、加速度センサの出力値に含まれるドリフト成分を打ち消すオフセット値を計測する。よって、鉄道車両用制振装置は、加速度センサの出力をハイパスフィルタ処理する必要がなく、前記計測によってオフセット値を更新でき、オフセット値を最適な値に維持でき、モータの駆動の影響によるドリフト成分を取り除くハイパスフィルタ処理も不要である。
【0013】
また、鉄道車両用制振装置は、モータの駆動時にのみ出力値をオフセット値で補正するようになっていてもよく、このようにすれば、モータが非駆動から駆動に切換わる際、および、駆動から非駆動に切換わる際にも良好な制振効果が得られる。
【0014】
さらに、鉄道車両用制振装が加速度センサにおけるモータの駆動時の出力値を所定回数計測し、得られた出力値を順次加算した値を所定回数で除した平均値をオフセット値とするようにしてもよい。このようにすれば、コントローラのメモリソースを圧迫せず、容量の少ないメモリで対応可能となるので、鉄道車両用制振装置が安価となる。
【0015】
また、鉄道車両用制振装置におけるアクチュエータが、シリンダと、ピストンと、ロッドと、タンクと、ロッド側室へ作動液体を供給するポンプと、ポンプを駆動するモータと、ロッド側室とピストン側室とを連通する第一通路の途中に設けた第一開閉弁と、ピストン側室とタンクとを連通する第二通路の途中に設けた第二開閉弁と、ロッド側室とタンクとを接続する排出通路と、排出通路の途中に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁と、ピストン側室からロッド側室へ向かう作動液体の流れのみを許容する整流通路と、タンクからピストン側室へ向かう作動液体の流れのみを許容する吸込通路とを備えていてもよい。このように構成された鉄道車両用制振装置では、モータが停止されていても、アクチュエータがスカイフックセミアクティブダンパとして機能するので、モータの停止中も制振効果が失われない。
【発明の効果】
【0016】
発明の鉄道車両用制振装置によれば、制振効果を損なわずに加速度センサの出力からドリフト成分を取り除ける。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における鉄道車両用制振装置Vは、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、
図1に示すように、車体Bと台車Tとの間に対として介装されるアクチュエータAと、車体Bに設置されて車体Bの左右方向の加速度αを検知する加速度センサ40と、アクチュエータAを制御するコントローラCとを備えて構成されている。アクチュエータAは、詳細には、鉄道車両の場合、車体Bの下方に垂下されるピンPに連結され、車体Bと台車Tとの間で対を成して並列に介装されている。
【0019】
台車Tは、車輪Wを回転自在に保持しており、車体Bと台車Tとの間には、枕ばねと称される懸架ばねSが介装され、車体Bが弾性支持されることにより、台車Tに対する車体Bの横方向への移動が許容されている。
【0020】
そして、これらのアクチュエータAは、基本的には、コントローラCによるアクティブ制御で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。
【0021】
コントローラCは、加速度センサ40が検知する車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の加速度αに基づいて、アクチュエータAが発生すべき制御力Fを求め、各アクチュエータAに制御力F通りの推力を発生させる指令を与える。このようにして、鉄道車両用制振装置Vは、アクチュエータAに制御力Fを発揮させて車体Bの前記横方向の振動を抑制する。
【0022】
つづいて、アクチュエータAの具体的な構成について説明する。なお、図示したところでは、アクチュエータAが台車Tに対して二つずつ設けられているが、一つのみを設けてもよい。また、各アクチュエータAに対して一つずつコントローラCを設けてもよい。
【0023】
アクチュエータAは、本例では
図2に示すように、鉄道車両の車体Bと台車Tの一方に連結されるシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に挿入されて車体Bと台車Tの他方とピストン3とに連結されるロッド4と、作動液体を貯留するタンク7と、タンク7から作動液体を吸い上げてロッド側室5へ作動液体を供給可能なポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、アクチュエータAの伸縮の切換と推力を制御する液圧回路HCとを備えており、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。
【0024】
また、前記ロッド側室5とピストン側室6には、本例では、作動液体として作動油が充填されるとともに、タンク7には、作動油のほかに気体が充填されている。なお、タンク7内は、特に、気体を圧縮して充填して加圧状態とする必要は無い。また、作動液体は、作動油以外にも他の液体を利用してもよい。
【0025】
液圧回路HCは、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10に設けた第二開閉弁11と、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22とを備えている。
【0026】
そして、基本的には、第一開閉弁9で第一通路8を連通状態とし、第二開閉弁11を閉じてポンプ12を駆動すると、アクチュエータAが伸長し、第二開閉弁11で第二通路10を連通状態とし、第一開閉弁9を閉じてポンプ12を駆動すると、アクチュエータAが収縮する。
【0027】
以下、アクチュエータAの各部について詳細に説明する。シリンダ2は筒状であって、その
図2中右端は蓋13によって閉塞され、
図2中左端には環状のロッドガイド14が取り付けられている。また、前記ロッドガイド14内には、シリンダ2内に移動自在に挿入されるロッド4が摺動自在に挿入されている。このロッド4は、一端をシリンダ2外へ突出させており、シリンダ2内の他端をシリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3に連結している。
【0028】
なお、ロッドガイド14の外周とシリンダ2との間は図示を省略したシール部材によってシールされており、これによりシリンダ2内は密閉状態に維持されている。そして、シリンダ2内にピストン3によって区画されるロッド側室5とピストン側室6には、前述のように作動油が充填されている。
【0029】
また、このアクチュエータAの場合、ロッド4の断面積をピストン3の断面積の二分の一にして、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積がピストン側室6側の受圧面積の二分の一となるようになっている。よって、伸長作動時と収縮作動時とでロッド側室5の圧力を同じにすると、伸縮の双方で発生される推力が等しくなり、アクチュエータAの変位量に対する作動油量も伸縮両側で同じとなる。
【0030】
詳しくは、アクチュエータAを伸長作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6を連通させた状態とする。すると、ロッド側室5内とピストン側室6内の圧力が等しくなり、アクチュエータAは、ピストン3におけるロッド側室5側とピストン側室6側の受圧面積差に前記圧力を乗じた推力を発生する。反対に、アクチュエータAを収縮作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6との連通を断ちピストン側室6をタンク7に連通させた状態とする。すると、アクチュエータAは、ロッド側室5内の圧力とピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積とを乗じた推力を発生する。
【0031】
要するに、アクチュエータAの発生推力は伸縮の双方でピストン3の断面積の二分の一にロッド側室5の圧力を乗じた値となるのである。したがって、このアクチュエータAの推力を制御する場合、伸長作動、収縮作動共に、ロッド側室5の圧力を制御すればよい。また、本例のアクチュエータAでは、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しているので、伸縮両側で同じ推力を発生する場合に伸長側と収縮側でロッド側室5の圧力が同じとなるので制御が簡素となる。加えて、変位量に対する作動油量も同じとなるので伸縮両側で応答性が同じとなる利点がある。なお、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しない場合にあっても、ロッド側室5の圧力でアクチュエータAの伸縮両側の推力を制御できる点は変わらない。
【0032】
戻って、ロッド4の
図2中左端とシリンダ2の右端を閉塞する蓋13とには、図示しない取付部を備えており、このアクチュエータAを鉄道車両における車体Bと台車Tとの間に介装できるようになっている。
【0033】
そして、ロッド側室5とピストン側室6とは、第一通路8によって連通されており、この第一通路8の途中には、第一開閉弁9が設けられている。この第一通路8は、シリンダ2外でロッド側室5とピストン側室6とを連通しているが、ピストン3に設けられてもよい。
【0034】
第一開閉弁9は、電磁開閉弁とされており、第一通路8を開放してロッド側室5とピストン側室6とを連通する連通ポジションと、第一通路8を遮断してロッド側室5とピストン側室6との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第一開閉弁9は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
【0035】
つづいて、ピストン側室6とタンク7とは、第二通路10によって連通されており、この第二通路10の途中には、第二開閉弁11が設けられている。第二開閉弁11は、電磁開閉弁とされており、第二通路10を開放してピストン側室6とタンク7とを連通する連通ポジションと、第二通路10を遮断してピストン側室6とタンク7との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第二開閉弁11は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
【0036】
ポンプ12は、コントローラCに制御されて所定の回転数で回転するモータ15によって駆動され、一方向のみに作動油を吐出するポンプとされている。そして、ポンプ12の吐出口は供給通路16によってロッド側室5へ連通されるとともに吸込口はタンク7に通じていて、ポンプ12は、モータ15によって駆動されるとタンク7から作動油を吸込んでロッド側室5へ作動油を供給する。
【0037】
前述のようにポンプ12は、一方向のみに作動油を吐出するのみで回転方向の切換動作がないので、回転切換時に吐出量が変化するといった問題は皆無であり、安価なギアポンプ等を使用できる。さらに、ポンプ12の回転方向が常に同一方向であるので、ポンプ12を駆動する駆動源であるモータ15にあっても回転切換に対する高い応答性が要求されず、その分、モータ15も安価なものを使用できる。なお、供給通路16の途中には、ロッド側室5からポンプ12への作動油の逆流を阻止する逆止弁17が設けられている。なお、モータ15は、コントローラCによって制御される図示しないインバータ回路から電力供給を受けて駆動される。
【0038】
さらに、本例の液圧回路HCは、前述したように、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21と、排出通路21の途中に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22を備えている。
【0039】
可変リリーフ弁22は、本例では、比例電磁リリーフ弁とされており、供給される電流量に応じて開弁圧を調節でき、前記電流量が最大となると開弁圧を最小とし、電流の供給がないと開弁圧を最大とするようになっている。
【0040】
このように、排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータAを伸縮作動させる際に、ロッド側室5内の圧力を可変リリーフ弁22の開弁圧に調節でき、アクチュエータAの推力を可変リリーフ弁22へ供給する電流量で制御できる。排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータAの推力を調節するために必要なセンサ類が不要となり、ポンプ12の吐出流量の調節のためにモータ15を高度に制御する必要もなくなる。よって、鉄道車両用制振装置Vが安価となり、ハードウェア的にもソフトウェア的にも堅牢なシステムを構築できる。
【0041】
なお、第一開閉弁9を開いて第二開閉弁11を閉じる場合或いは第一開閉弁9を閉じて第二開閉弁11を開く場合、ポンプ12の駆動状況に関わらず、外力からの振動入力に対して伸長或いは収縮のいずれか一方にのみアクチュエータAが減衰力を発揮できる。よって、たとえば、減衰力を発揮する方向が鉄道車両の台車Tの振動により車体Bを加振する方向である場合、そのような方向には減衰力を出さないようにアクチュエータAを片効きのダンパと機能させ得る。よって、このアクチュエータAは、カルノップのスカイフック理論に基づくセミアクティブ制御を容易に実現できるため、セミアクティブダンパとしても機能できる。
【0042】
なお、可変リリーフ弁22に与える電流量で開弁圧を比例的に変化させる比例電磁リリーフ弁を用いると開弁圧の制御が簡単となるが、開弁圧を調節できる可変リリーフ弁であれば比例電磁リリーフ弁に限定されない。
【0043】
そして、可変リリーフ弁22は、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状態に関わらず、アクチュエータAに伸縮方向の過大な入力があって、ロッド側室5の圧力が開弁圧を超える状態となると、排出通路21を開放する。このように、可変リリーフ弁22は、ロッド側室5の圧力が開弁圧以上となると、ロッド側室5内の圧力をタンク7へ排出するので、シリンダ2内の圧力が過大となるのを防止してアクチュエータAのシステム全体を保護する。よって、排出通路21と可変リリーフ弁22を設けると、システムの保護も可能となる。
【0044】
なお、本例のアクチュエータAにおける液圧回路HCには、前述の構成に加えて、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19を備えている。よって、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態でアクチュエータAが伸縮すると、シリンダ2内から作動油が押し出される。そして、シリンダ2内から排出された作動油の流れに対して可変リリーフ弁22が抵抗を与えるので、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態では、本例のアクチュエータAはユニフロー型のダンパとして機能する。
【0045】
より詳細には、整流通路18は、ピストン側室6とロッド側室5とを連通しており、途中に逆止弁18aが設けられ、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。さらに、吸込通路19は、タンク7とピストン側室6とを連通しており、途中に逆止弁19aが設けられ、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、整流通路18は、第一開閉弁9の遮断ポジションを逆止弁とすると第一通路8に集約でき、吸込通路19についても、第二開閉弁11の遮断ポジションを逆止弁とすると第二通路10に集約できる。
【0046】
このように構成されたアクチュエータAでは、第一開閉弁9と第二開閉弁11がともに遮断ポジションを採っても、整流通路18、吸込通路19および排出通路21で、ロッド側室5、ピストン側室6およびタンク7を数珠繋ぎに連通させる。また、整流通路18、吸込通路19および排出通路21は、一方通行の通路に設定されている。よって、アクチュエータAが外力によって伸縮すると、シリンダ2から必ず作動油が排出されて排出通路21を介してタンク7へ戻され、シリンダ2で足りなくなる作動油は吸込通路19を介してタンク7からシリンダ2内へ供給される。この作動油の流れに対して前記可変リリーフ弁22が抵抗となってシリンダ2内の圧力を開弁圧に調節するので、アクチュエータAは、パッシブなユニフロー型のダンパとして機能する。
【0047】
また、アクチュエータAの各機器への通電が不能となるようなフェール時には、第一開閉弁9と第二開閉弁11のそれぞれが遮断ポジションを採り、可変リリーフ弁22は、開弁圧が最大に固定された圧力制御弁として機能する。よって、このようなフェール時には、アクチュエータAは、自動的に、パッシブダンパとして機能する。
【0048】
つづいて、アクチュエータAに所望の伸長方向の推力を発揮させる場合、コントローラCは、基本的には、モータ15を回転させてポンプ12からシリンダ2内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を連通ポジションとし、第二開閉弁11を遮断ポジションとする。このようにすると、ロッド側室5とピストン側室6とが連通状態におかれて両者にポンプ12から作動油が供給され、ピストン3が
図2中左方へ押されアクチュエータAは伸長方向の推力を発揮する。ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力が可変リリーフ弁22の開弁圧を上回ると、可変リリーフ弁22が開弁して作動油が排出通路21を介してタンク7へ排出される。よって、ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力は、可変リリーフ弁22に与える電流量で決まる可変リリーフ弁22の開弁圧にコントロールされる。そして、アクチュエータAは、ピストン3におけるピストン側室6側とロッド側室5側の受圧面積差に可変リリーフ弁22によってコントロールされるロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力を乗じた値の伸長方向の推力を発揮する。
【0049】
これに対して、アクチュエータAに所望の収縮方向の推力を発揮させる場合、コントローラCは、モータ15を回転させてポンプ12からロッド側室5内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を遮断ポジションとし、第二開閉弁11を連通ポジションとする。このようにすると、ピストン側室6とタンク7が連通状態におかれるとともにロッド側室5にポンプ12から作動油が供給されるので、ピストン3が
図2中右方へ押されアクチュエータAは収縮方向の推力を発揮する。そして、前述と同様に、可変リリーフ弁22の電流量を調節すると、アクチュエータAは、ピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積と可変リリーフ弁22にコントロールされるロッド側室5内の圧力を乗じた収縮方向の推力を発揮する。
【0050】
ここで、アクチュエータAが外力で伸縮するのではなく、自ら伸縮する場合、ロッド側室5の圧力の上限は、モータ15が駆動するポンプ12の吐出圧に制限される。つまり、アクチュエータAが外力で伸縮するのではなく、自ら伸縮する場合、ロッド側室5の圧力の上限は、モータ15が出力可能な最大トルクに制限される。
【0051】
また、アクチュエータAにあっては、アクチュエータとして機能するのみならず、モータ15の駆動状況に関わらず、第一開閉弁9と第二開閉弁11の開閉のみでダンパとしても機能できる。また、アクチュエータAをアクチュエータからダンパへ切換える際に、面倒かつ急峻な第一開閉弁9と第二開閉弁11の切換動作を伴わないので、応答性および信頼性が高いシステムを提供できる。
【0052】
さらに、第一開閉弁9および第二開閉弁11を連通ポジションとする場合、第一通路8と第二通路10とを通じてロッド側室5とピストン側室6とがタンク7に連通される。この状態では、アクチュエータAは、アンロード状態となり、モータ15でポンプ12を駆動しても、ロッド側室5とピストン側室6の圧力が常にタンク圧となってアクチュエータAは伸縮せず、推力を発揮しない。また、アクチュエータAは、アンロード状態では、ポンプ12の駆動、非駆動に関わらず、外力で強制的に伸縮されると殆ど抵抗なく伸縮する。
【0053】
なお、本例のアクチュエータAにあっては、片ロッド型に設定されているので、両ロッド型のアクチュエータに比較してストローク長を確保しやすく、アクチュエータの全長が短くなって、鉄道車両への搭載性が向上する。
【0054】
また、本例のアクチュエータAにおけるポンプ12からの作動油供給および伸縮作動による作動油の流れは、ロッド側室5、ピストン側室6を順に通過して最終的にタンク7へ還流するようになっている。そのため、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、アクチュエータAの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、推力発生の応答性の悪化を阻止できる。したがって、アクチュエータAの製造にあたって、面倒な油中での組立や真空環境下での組立を強いられず、作動油の高度な脱気も不要となるので、生産性が向上するとともに製造コストを低減できる。さらに、ロッド側室5あるいはピストン側室6内に気体が混入しても、気体は、アクチュエータAの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、性能回復のためのメンテナンスを頻繁に行う必要もなくなり、保守面における労力とコスト負担を軽減できる。
【0055】
つづいて、本例のコントローラCは、
図3に示すように、加速度センサ40が出力する出力値を補正して車体Bに作用する車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の加速度αを求める補正部41と、加速度αに基づいてアクチュエータAが出力すべき制御力Fを求める制御演算部42と、制御力Fに基づいてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、可変リリーフ弁22を駆動する駆動部43とを備えている。
【0056】
加速度センサ40は、車体Bに設置されており、車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の加速度を検知してコントローラCへ出力する。なお、加速度センサ40は、
図1中で右側へ向く方向となる場合に、加速度を正の値として検知し、反対に
図1中左側へ向く方向となる場合に負の値とをして検知する。
【0057】
補正部41は、モータ15の駆動時には、加速度センサ40が出力する出力値からオフセット値を差し引いて車体Bに作用する車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の加速度αを求める。他方、補正部41は、モータ15の非駆動時には、オフセット値による補正を行わず、加速度センサ40が出力する出力値をそのまま加速度αとして出力する。
【0058】
オフセット値は、
図4に示すように、計測されて決定される。オフセット値の計測は、平坦な軌道上に鉄道車両を配置して行われる。コントローラCは、モータ15でポンプ12を駆動しつつ、第一開閉弁9および第二開閉弁11を連通ポジションとして、アクチュエータAをアンロード状態とする(ステップST1)。アクチュエータAがアンロード状態であると、アクチュエータAは推力を発揮せず車体Bが加振されないので、車体Bには車両進行方向に対する水平横方向の加速度が作用しない筈である。しかしながら、この状態で、加速度センサ40で車体Bの加速度を検知すると、加速度センサ40の出力値には、モータ15を駆動するインバータ回路から発せられる電磁ノイズ等に起因したドリフト成分が重畳されている。つまり、この状態では、加速度センサ40の出力値は、車体Bに作用する加速度が0を示す値とはなっておらず、車体Bを左右のいずれかの方向へ押す値の加速度が検知されており、この値が前述の電磁ノイズ等に起因したドリフト成分となる。よって、コントローラCは、モータ15でポンプ12を駆動しつつ、第一開閉弁9および第二開閉弁11を連通ポジションとして、アクチュエータAをアンロード状態として、加速度センサ40の出力値を取り込み(ステップST2)、加速度センサ40の出力値を新たなオフセット値として決定し(ステップST3)、オフセット値を決定したオフセット値に更新する(ステップST4)。一回の出力値のサンプリングによってオフセット値を決定してもよいが、加速度センサ40の出力値には、他のノイズ成分も含まれる可能性があるので、本例では、以下のようにしてオフセット値を決定する。コントローラCは、予め決められた所定のサンプリング周期で加速度センサ40の出力値を所定回数に達するまでサンプリングし、得られた出力値の総和を前記所定回数で除して得た出力値の平均値をオフセット値とする。なお、出力値をサンプリングして得るごとに順次加算して、所定回数分のサンプリングの終了後に所定回数で割り算を行うと、常に、サンプリング後の出力値の総和の値だけを保持すればよく、コントローラC内の図外のメモリソースを圧迫せずに済む。つまり、サンプリングされた全出力値を記憶しておいてから出力値の総和を演算するのでは、所定回数分の出力値をメモリに格納する必要があるが、都度、出力値を加算する場合、サンプリングされた出力値の和を一つだけメモリに格納すれば足りる。このように、出力値の平均値をオフセット値とするので、モータ15の駆動時のノイズ等によるドリフト成分のみを除去できるオフセット値が高精度で得られる。なお、オフセット値の決定に当たり、加速度センサ40の出力値の移動平均を求めて、この値をオフセット値として採用してもよい。このようにして得られたオフセット値は、コントローラC内のメモリに格納されて記憶され、オフセット値が計測、決定される度に更新される。そして、補正部41は、常に最新のオフセット値を用いて、モータ15の駆動時における加速度センサ40の出力値を補正して、加速度αを得る。オフセット値は、モータ15の駆動時におけるドリフト成分を取り除くものであるので、モータ15の非駆動時には加速度センサ40の出力値には重畳されない。それゆえ、補正部41は、モータ15の非駆動時には、オフセット値による補正を行わず、加速度センサ40が出力する出力値をそのまま加速度αとして出力する。モータ15の駆動時における加速度センサ40の出力値に重畳されるドリフト成分の値は、加速度センサ40の経年劣化等によって時間的にゆっくり変化するものであるから、オフセット値の計測と更新は、交番検査等の定期検査で行われればよいが、仕業検査や運行前点検の度に行われてもよい。
【0059】
制御演算部42は、補正部41によって求められた加速度αに含まれる曲線走行時の定常加速度、ドリフト成分やノイズを除去するバンドパスフィルタで処理して、アクチュエータAが発揮すべき制御力Fを求める。制御演算部42は、本例では、H∞制御器とされており、加速度αから車体Bの振動を抑制するためにアクチュエータAが出力すべき推力を指示する制御力Fを求める。なお、制御力Fは、方向により正負の符号が付されており、符号はアクチュエータAに出力させるべき推力の方向を示す。
【0060】
制御演算部42は、制御力Fを求めると制御力FをアクチュエータAに出力させるべく、制御力Fに応じた制御指令を駆動部43へ出力する。駆動部43は、制御指令を受けとると、制御指令が指示する制御力Fの符号に応じて第一開閉弁9と第二開閉弁11に電流供給或いは電流供給を停止して開閉駆動する。より詳細には、アクチュエータAの伸長方向を正とし、収縮方向を負とする場合、駆動部43は、以下のように動作する。制御力Fの符号が正である場合、アクチュエータAの推力発揮方向が伸長方向であるので、駆動部43は、第一開閉弁9を連通ポジションとしつつ第二開閉弁11を遮断ポジションとする。すると、ポンプ12からロッド側室5とピストン側室6の双方に作動油が供給されてアクチュエータAは伸長方向の推力を発揮する。他方、制御力Fの符号が負である場合、アクチュエータAの推力発揮方向が収縮方向であるので、駆動部43は、第一開閉弁9を遮断ポジションとしつつ第二開閉弁11を連通ポジションとする。すると、ポンプ12からロッド側室5のみに作動油が供給されてロッド側室5とタンク7とが連通されるので、アクチュエータAは収縮方向の推力を発揮する。
【0061】
なお、制御演算部42は、本例では、加速度αのみから制御力Fを求めている。これに対して、車体Bの前後に加速度センサ40を設けて車体Bの前後の加速度αから車体Bのスエー加速度とヨー加速度を求め、これらスエー加速度とヨー加速度とに基づいて、車体Bのスエーを抑制する制御力とヨーを抑制する制御力を求めてもよい。このようにする場合、スエーを抑制する制御力とヨーを抑制する制御力を加算して制御力Fを求めて、車体Bと車体Bの前後に配置される台車Tとの間に設置されるアクチュエータAの各々に対して制御力Fを出力させるようにすればよい。
【0062】
なお、コントローラCは、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度センサ40が出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、加速度センサ40の出力値を取り込んでアクチュエータAを制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、コントローラCの制御演算部42における各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。
【0063】
このように鉄道車両用制振装置Vは、モータ15で駆動されるポンプ12からの作動液体の供給により伸縮可能でモータ15でポンプ12を駆動中にアンロード可能なアクチュエータAと、車体Bに設置されて車体Bの左右方向の加速度を検知する加速度センサ40と、加速度に基づいてアクチュエータAを制御するコントローラCとを備え、モータ15を駆動しつつアクチュエータAをアンロード中に、加速度センサ40の出力値に含まれるドリフト成分を打ち消すオフセット値を計測する。よって、鉄道車両用制振装置Vは、モータ15の駆動時にもアクチュエータAをアンロードでき、モータ15を駆動しつつ車体Bを加振せず安全な状態で加速度センサ40の出力値に重畳されるドリフト成分を計測できる。よって、鉄道車両用制振装置Vは、加速度センサ40の出力をハイパスフィルタ処理する必要がなく、前記計測によってオフセット値を更新できる。以上から、鉄道車両用制振装置Vによれば、オフセット値を最適な値に維持でき、モータ15の駆動の影響で加速度センサ40の出力値に含まれるドリフト成分を取り除くハイパスフィルタ処理も不要で検知される加速度の位相ずれや安定を待つ必要が無くなるので、制振効果を良好に保てる。したがって、本発明の鉄道車両用制振装置Vによれば、制振効果を損なわずに加速度センサの出力からドリフト成分を取り除けるのである。
【0064】
また、本例の鉄道車両用制振装置Vでは、モータ15の駆動時にのみ出力値をオフセット値で補正するようになっている。このようにすれば、モータ15が非駆動から駆動に切換わる際、および、駆動から非駆動に切換わる際に、制御に使用される加速度αの値が大きく変化するような事態が生じない。よって、本例の鉄道車両用制振装置Vでは、モータ15が非駆動から駆動に切換わる際、および、モータ15が駆動から非駆動に切換わる際にも良好な制振効果が得られる。モータ15の駆動時に加速度センサ40の出力値に重畳されるドリフト成分は、モータ15のオンオフ(駆動と非駆動)の切換えによってステップ的に前記出力値に加減算される。よって、モータ15のオンオフ切換えによってオフセット値の減算の有効と無効を切換えれば、補正部41から出力される加速度αの値がモータ15のオンオフによって変化せず連続するようになる。したがって、モータ15のオンオフを行っても制振性能が悪化せずに済むために、鉄道車両の走行中にモータ15の駆動が不要な状況ではモータ15をオフにでき、鉄道車両用制振装置Vの消費エネルギを抑制できる。
【0065】
さらに、本例の鉄道車両用制振装置Vでは、加速度センサ40におけるモータ15の駆動時の出力値を所定回数計測し、得られた出力値を順次加算した値を所定回数で除した平均値をオフセット値としている。このようにすれば、コントローラCのメモリソースを圧迫せず、容量の少ないメモリで対応可能となるので、鉄道車両用制振装置Vが安価となる。
【0066】
さらに、本例の鉄道車両用制振装置Vは、シリンダ2と、ピストン3と、ロッド4と、タンク7と、ロッド側室5へ作動油を供給するポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10に設けた第二開閉弁11と、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22と、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19とを備えている。このように構成された鉄道車両用制振装置Vでは、ポンプ12が停止されていても、アクチュエータAがスカイフックセミアクティブダンパとして機能するので、ポンプ12の停止中も制振効果が失われない。
【0067】
なお、アクチュエータAは、モータで駆動されるポンプからの作動液体の供給により伸縮可能であって、モータでポンプを駆動中にアンロード可能であればよく、前述した具体的な構造に限定されるものではない。
【0068】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。