(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
I.圧延接合体
本発明に係る圧延接合体の一実施形態を
図1に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態の圧延接合体1は、ステンレス(SUS)層10と、ステンレスとは異なる金属層20とから構成される。
【0015】
ステンレス層10に用いられるステンレスとしては、特に限定されずに、SUS304、SUS201、SUS316、SUS316L及びSUS430等の板材を用いることができる。
【0016】
ステンレスとは異なる金属層20を構成する金属は、圧延接合体の用途や目的とする特性に応じて適宜選択することができる。具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、マグネシウム、マグネシウム合金等が挙げられる。特に、アルミニウム、アルミニウム合金及び銅からなる群から選択される金属は好ましく用いられる。これらの金属をステンレス層と圧延接合することで、圧延接合体の放熱性及び軽量性を向上させることができ、例えばモバイル電子機器の筐体用として好適な圧延接合体を得ることができる。
【0017】
アルミニウム合金としては、アルミニウム以外の金属元素として、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を、添加金属元素の合計含有量1質量%超で含有するアルミニウム合金の板材を用いることができる。
【0018】
例えば、アルミニウム合金として、JISに規定のAl−Cu系合金(2000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)及びAl−Zn−Mg系合金(7000系)を用いることができ、プレス成形性、強度、耐食性の観点から3000系、5000系、6000系及び7000系のアルミニウム合金が好ましく、特にこれらのバランスとコストの観点から5000系のアルミニウム合金がより好ましい。アルミニウム合金は、好ましくは、Mgを0.3質量%以上含有する。
【0019】
また、アルミニウムとしては、アルミニウム以外の添加金属元素の合計含有量が1質量%以下である純アルミニウムの板材を用いることができる。純アルミニウムとしては、例えば、JISに規定の1000系の純アルミニウムを用いることができる。純アルミニウム中の、アルミニウム以外の添加金属元素の合計含有量は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、特に好ましくは0.15質量%以下である。
【0020】
銅としては、銅以外の添加金属元素の合計含有量が1質量%以下である銅の板材を用いることができる。具体的には、C1100等の板材を挙げることができる。また、銅合金の例としては、コルソン銅を挙げることができる。
【0021】
圧延接合体1の厚みTは、特に限定されずに、通常0.2mm以上3mm以下であり、好ましくは0.3mm以上2.2mm以下、特に好ましくは0.4mm以上1.5mm以下である。ここで、圧延接合体1の厚みTとは、ステンレス層10とステンレスとは異なる金属層20の総厚みをいう。圧延接合体の厚みTは、圧延接合体1上の任意の30点における厚みをマイクロメータ等で測定し、得られた測定値の平均値をいう。
【0022】
ステンレス層10の厚みT
SUSは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、下限は絞り成形性と強度の観点から、好ましくは0.045mm以上、より好ましくは0.05mm以上である。上限は特に制限はないが、ステンレスとは異なる金属層20に対して厚過ぎると、軽量性・放熱性が低下する恐れがあるため、T
SUSは好ましくは0.6mm以下、より好ましくは0.5mm以下、さらに軽量化の観点から0.4mm以下であることが特に好ましい。また、圧延接合体1の放熱性を確保する観点から、ステンレス層10はステンレスとは異なる金属層20よりも薄いことが好ましい。具体的には、厚みTに対するステンレス層10の厚みT
SUSの比率P
SUSが、5%以上70%以下であることが好ましく、7%以上60%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは15%以上50%以下である。圧延接合体1におけるステンレス層10の厚みT
SUSは、圧延接合体1の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真において任意の10点におけるステンレス層10の厚みを計測し、得られた値の平均値をいう。なお、圧延接合体の製造において、材料のステンレス鋼板は所定の圧下率にて接合されるため、圧延接合体のステンレス層の厚みは接合前の材料のステンレス鋼板よりも薄くなる。
【0023】
そして、本実施形態の圧延接合体1は、厚みTに対するステンレス層10の厚みT
SUSの比率P
SUSと、ステンレス層10側をX線回折測定した際に得られる結晶の面方位(200)を示すピークの半価幅FWHM
200との関係が、下記式を満たすことを特徴とする。面方位(200)を示すピークは、管電圧:45kV、管電流:200mAで、線源:CuKαを用いて、ステンレス層10を2θ/θ測定した際に2θ=48〜52°に現れるピークであり、半価幅FWHM
200は上記ピークの高さHの半分(H/2)の位置におけるピークの幅(°)をいう。
FWHM
200≦0.0057P
SUS+0.4
【0024】
上記式を満たすことにより、ステンレス層10における結晶粒の状態がステンレス層10の厚み比率P
SUSとの関係で最適化され、圧延接合体1の厚みが比較的大きい場合(0.2mm以上3mm以下)であっても、優れた成形加工性を有する圧延接合体1を得ることができる。
【0025】
一方、(111)回折ピークのすぐ近く、2θ=43〜45°において、ステンレスの加工度に依存すると考えられるピークが発現しやすく、このピークの影響で(111)回折ピークがブロード化してしまう結果、回折ピークの切り分けが困難となり、(111)由来の半価幅の同定は困難であることが分かった。また、(220)や(311)は、(111)のように加工度に依存するピークによる影響はないが、結晶元来の強度が(111)や(200)に対して低く、回折ピークがバックグランドの強度に影響されるためか、半価幅と厚み比率との相関性が得られなかった。これらに対し、(200)のピークについては、半価幅と厚み比率とが上記式の関係性を満たすことにより、高い成形加工性が得られることが分かった。
【0026】
すなわち、厚みが比較的大きい場合、厚みが大きくなることによる成形性向上の効果が得られる一方で、圧延接合体においては接合時に必要な圧下力が高くなるため、ステンレス層の結晶粒の微細化や加工ひずみの導入により硬度が高くなり、伸びの低下が生じてしまい、結果、筐体用として必要な成形加工性を有する圧延接合体が得られにくいという課題を本発明者らは見出した。そして、接合時の影響も反映された接合後のステンレス層のパラメータとして半価幅に着目し、中でも(200)面の半価幅とステンレス層の厚み比率を制御することにより成型加工性を最適化できること、及び、上記式を満たすことによって優れた成形加工性を有する圧延接合体が得られることを見出した。具体的には、圧延接合体1のエリクセン試験による張出高さ(エリクセン値)が7.0mm以上、好ましくは8.0mm以上という高い成形加工性が得られる。ここで、エリクセン試験による張出高さは、例えば機械式エリクセン試験機ESM−1(CAP2mm、(株)東京衡機試験機製)を用い、JIS Z 2247(エリクセン試験方法)に準じて測定することができる。
【0027】
また、本発明者らは、上記関係式を満たす圧延接合体が、(200)面のピークの半価幅FWHM
200及びステンレス層の厚みT
SUS(mm)に関して、下記の関係式をさらに満たすことが好ましいことを見い出した。これにより、圧延接合体の成形加工性がより向上する。
FWHM
200≦0.571T
SUS+0.4
【0028】
また、本実施形態に係る圧延接合体1において、ステンレス層10の表面硬度Hvは、圧延接合体の成形加工性と耐傷性とのバランスを考慮して適宜設定される。本発明において、表面硬度Hvは、例えばマイクロビッカース硬度計(荷重200gf)を用い、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験−試験方法)に準じて測定することができる。
【0029】
さらに、本実施形態に係る圧延接合体1は、密着強度の指標としてのピール強度(180°ピール強度、180°剥離強度ともいう)が、60N/20mm以上であることが好ましく、優れた絞り加工性を得るために、より好ましくは80N/20mm以上であり、特に好ましくは100N/20mm以上である。
【0030】
圧延接合体1のピール強度は、圧延接合体1から幅20mmの試験片を作製しステンレス層10とステンレスとは異なる金属層20とを一部剥離後、厚膜層側又は硬質層側を固定し、他方の層を固定側と180°反対側へ引っ張った際における引きはがすのに要する力をいう(単位:N/20mm)。
【0031】
ピール強度が高い圧延接合体では、絞り加工の際に、一方の層が他方の層に追随することができ、いずれの層も破断することなく加工可能である。
【0032】
圧延接合体1は、高い絞り加工性を有し、限界絞り比が1.20以上であることが好ましい。より好ましくは1.63以上であり、さらに好ましくは1.83以上である。圧延接合体の限界絞り比とは、円筒絞り加工における円筒の直径dに対するブランク直径Dの比の絞り比D/dにおいて1回の絞りで破断を起こさないで円筒を絞ることのできる最大のブランク直径をDmaxとしたときの、Dmax/dの値を指す。
【0033】
また、本実施形態の圧延接合体1は、幅が15mmの試験片について、引張試験による伸びが好ましくは35%以上であり、より好ましくは40%以上である。これにより、良好なプレス加工性が得られる。引張試験による伸びはJIS Z 2241又はJIS Z 2201に記載される破断伸びの測定に準じて、例えば後述する引張強さ試験の試験片を用いて測定することができる。
【0034】
圧延接合体1は、好ましくは、試験片の幅が15mmの引張試験による引張強さが3000N以上である。十分な強度及びプレス加工性を有するという観点から、より好ましくは3500N以上である。ここで引張強さとは引張試験における最大荷重を指す。引張強さは、例えばテンシロン万能材料試験機RTC−1350A(株式会社オリエンテック製)を用い、JIS Z 2241又はJIS Z 2201(金属材料引張試験方法)に準じて測定することができる。なお、上記試験片の幅15mmはJIS Z 2201における特別試験片6号の仕様を指す。JIS Z 2241においては例えば試験片5号の仕様を用いることが可能である。ここで、上記6号試験片における引張強さを5号試験片での引張強さに換算するときは、試験片の幅の倍率をかければよいので25mm/15mm、つまり約1.66倍すれば良い。
【0035】
II.圧延接合体の製造方法
圧延接合体1を製造するに際しては、ステンレスの板材と、ステンレスとは異なる金属の板材を準備し、これらを冷間圧延接合、温間圧延接合、表面活性化接合等の各種の方法により互いに接合して行うことができる。また、接合した後には安定化熱処理を施すことが好ましい。温間圧延接合は、接合材の再結晶温度以上の熱を加えながら圧延接合する方法であり、冷間圧延接合に比べて低い力で接合することができるが、接合界面に金属間化合物を生成し易い。したがって、金属間化合物を生成しないよう、加熱温度、加熱時間の条件の選択に留意するものとする。
【0036】
また、冷間圧延接合では、ステンレスの板材とステンレスとは異なる金属の板材の接合面にブラシ研磨等を施した後、両者を重ね合わせて冷間圧延しながら接合し、さらに焼鈍処理を施すことで圧延接合体を製造することができる。冷間圧延の工程は多段階で行っても良く、また焼鈍処理後に調質圧延を加えても良い。この方法では、最終的な圧下率として20〜90%の範囲で圧延接合される。冷間接合法で製造する場合、上記圧下率を考慮すると、原板の厚みは、ステンレスの板材については0.0125mm〜6mm、好ましくは0.056mm〜5mm、より好ましくは0.063mm〜4mm、ステンレスとは異なる金属の板材については0.063mm〜25mm、好ましくは0.13mm〜17mm、より好ましくは0.25mm〜11mmである。
【0037】
さらに、温間圧延接合では、冷間圧延接合と同様に接合面にブラシ研磨等を施した後、両者あるいは片方を200〜500℃に加熱し、重ね合わせて温間圧延し接合することで製造することができる。この方法では、最終的な圧下率は15〜40%程度となる。温間接合法で製造する場合、上記圧下率を考慮すると、原板の厚みは、ステンレスの板材については0.012mm〜1mm、好ましくは0.053mm〜0.83mm、より好ましくは0.059mm〜0.067mm、ステンレスとは異なる金属の板材については0.059mm〜4.2mm、好ましくは0.19mm〜2.8mm、より好ましくは0.24mm〜1.8mmである。
【0038】
圧延接合体1を製造する方法としては、接合の際にステンレス層へ入る加工ひずみを抑制し易いという観点から、表面活性化接合により接合することが好ましい。好ましい態様は次のとおりである。すなわち、ステンレス板と、ステンレスとは異なる金属板(以下、「他方の金属板」という)とを用意し、ステンレス板及び他方の金属板の接合面をスパッタエッチングする工程と、スパッタエッチングした表面同士を、ステンレス層の圧下率が0%以上25%以下の軽圧延となるように圧接して接合する工程と、200℃以上500℃以下のバッチ熱処理又は300℃以上890℃以下での連続熱処理を行う工程とを含む方法によって製造することができる。
【0039】
用いることができるステンレス板は、成形加工性の観点から焼鈍材(BA材)、1/2H材等が好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
接合前のステンレス板の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、下限は圧延接合体としたときの絞り成形性と強度及びハンドリング性の観点から、好ましくは0.045mm以上、より好ましくは0.05mm以上である。上限は特に制限はないが、他方の金属層に対して厚過ぎると圧延接合体としたときの伸び及び絞り成形性が低下する恐れがあるため、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.67mm以下、さらに軽量化の観点を加えると0.53mm以下であることが特に好ましい。接合前のステンレス板の厚みは、マイクロメータ等によって測定可能であり、ステンレス板の表面上からランダムに選択した10点において測定した厚みの平均値をいう。
【0041】
ステンレス板と接合させる、他方の金属板としては、金属の種類に応じて種々の金属板から適宜選択して用いることができる。他方の金属板の接合前における厚みは、通常0.05mm以上であれば適用可能であり、下限は好ましくは、0.1mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上となる。上限は、軽量化やコストの観点から通常3.3mm以下であり、好ましくは2.3mm以下であり、より好ましくは1.5mm以下である。接合前の他方の金属板の厚みは、前記のステンレス板と同様にして決定することができる。
【0042】
スパッタエッチング処理は、具体的には、ステンレス板と、他方の金属板を、幅100mm〜600mmの長尺コイルとして用意し、接合面を有するステンレス板及び他方の金属板をそれぞれアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1MHz〜50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積を前記の他の電極の面積の1/3以下として行う。スパッタエッチング処理中は、アース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防ぐことができる。
【0043】
スパッタエッチング処理では、真空中でステンレス板と他方の金属板の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、表面の吸着物を完全に除去し、且つ表面の酸化膜の一部又は全部を除去する。酸化膜は必ずしも完全に除去する必要はなく、一部残存した状態であっても十分な接合力を得ることができる。酸化膜を一部残存させることにより、完全に除去する場合に比べてスパッタエッチング処理時間を大幅に減少させ、圧延接合体の生産性を向上させることができる。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン等や、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。ステンレス板と他方の金属板のいずれについても、表面の吸着物は、エッチング量約1nm程度(SiO
2換算)で完全に除去することができる。
【0044】
ステンレス板についてのスパッタエッチング処理は、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W〜1kWのプラズマ出力で1〜50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、真空下で、例えば100W〜10kWのプラズマ出力、ライン速度1m/分〜30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、例えば1×10
−5Pa〜10Paであれば良い。スパッタエッチング処理において、ステンレス板の温度は、他方の金属板の軟化を防止する観点から、好ましくは常温〜150℃に保たれる。
【0045】
表面に酸化膜が一部残存するステンレス板は、ステンレス板のエッチング量を、例えば1nm〜10nmにすることによって得られる。必要に応じて、10nmを超えるエッチング量としても良い。
【0046】
他方の金属板についてのスパッタエッチング処理の条件は、金属の種類によって適宜設定される。例えば、アルミニウム合金板に対するスパッタエッチング処理は、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W〜1kWのプラズマ出力で1〜50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、100W〜10kWのプラズマ出力、ライン速度1m/分〜30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、1×10
−5Pa〜10Paであれば良い。
【0047】
表面の酸化膜が一部残存するアルミニウム合金板は、アルミニウム合金板のエッチング量を、例えば1nm〜10nmにすることによって得られる。必要に応じて、10nmを超えるエッチング量としても良い。
【0048】
以上のようにしてスパッタエッチングしたステンレス板及び他方の金属板の接合面を、ステンレス層の圧下率が0%以上25%以下の軽圧延となるように、例えばロール圧接により圧接して、ステンレス板と他方の金属板とを接合する。
【0049】
ステンレス層の圧下率は、好ましくは0%以上10%以下であり、より好ましくは0%以上8%以下である。ステンレス層の圧下率の上限が上記範囲であると、加工ひずみが導入されることによるステンレス層の加工硬化を抑制できるため、伸びの低下及びプレス加工性の低下を抑制することが可能となる。なお、ステンレス層は圧延接合後の熱処理による軟化の効果が小さいため、圧延接合時の圧下率により加工硬化の影響の制御が必要となる。
【0050】
圧延接合体の全体の圧下率は、好ましくは0%以上25%以下であり、より好ましくは0%以上15%以下である。さらに好ましくは10%以下である。圧延接合体の圧下率が25%以下であると、ステンレス層に加工ひずみが入り過ぎず、十分な強度及び伸びを有するため、プレス加工性が高い圧延接合体が得られ易い。また、各層の厚みをある程度均一に保つことができるため、高いプレス加工性を発現する。すなわち、圧延接合時に厚みの薄いところが生じてしまうと、プレス加工の際に局所的に荷重がかかり易くなり、破断する恐れがある。圧延接合体の圧下率は、接合前の材料であるステンレス板及び他方の金属板の総厚みと、最終的な圧延接合体の厚みから求める。すなわち、圧延接合体の圧下率は、以下の式:(接合前のステンレス板及び他方の金属板の総厚み−最終的な圧延接合体の厚み)/接合前のステンレス板及び他方の金属板の総厚み、により求められる。
【0051】
ロール圧接の圧延線荷重は、特に限定されず、ステンレス層について所定の圧下率を達成するように適宜設定することができる。例えば、1.0tf/cm〜10.0tf/cmの範囲に設定することができる。例えば圧接ロールのロール直径が100mm〜250mmのとき、ロール圧接の圧延線荷重は、好ましくは1.5tf/cm〜5.0tf/cmであり、より好ましくは1.6tf/cm〜4.0tf/cmである。ただし、ロール直径が大きくなった場合や接合前のステンレス板や他方の金属板の厚みが厚い場合等には、圧力確保のために圧延線荷重を高くすることが必要になる場合があり、この数値範囲に限定されるものではない。
【0052】
接合時の温度は、特に限定されずに、例えば常温〜150℃である。
【0053】
接合は、ステンレス板と他方の金属板の表面への酸素の再吸着によって両者間の接合強度が低下するのを防止するため、非酸化雰囲気中、例えばAr等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0054】
以上のようにしてステンレス板と他方の金属板を接合して得た圧延接合体について、熱処理を行う。熱処理によって、各層の間の密着性を向上することが可能となる。なお、他方の金属板がアルミニウム合金等である場合、熱処理がアルミニウム合金層の焼鈍を兼ねることができる。
【0055】
熱処理温度は、例えばバッチ熱処理の場合、200℃以上500℃以下であり、好ましくは200℃以上400℃以下である。また、例えば連続熱処理の場合、300℃以上890℃以下であり、好ましくは300℃以上800℃以下である。熱処理温度をこの範囲とすることによって、圧延接合体のピール強度が60N/20mm以上と高くなり、その結果、成形加工性が向上する。この熱処理温度は、ステンレスについては未再結晶温度域であるためほぼ軟化しない。本実施形態では、接合時のステンレス層の圧下率と、熱処理温度を所定の範囲に制御することによって、圧延接合体のピール強度が有意に向上し、その結果、成形加工性が向上する。なお、熱処理温度とは、熱処理を行う圧延接合体の温度をいう。
【0056】
また、この熱処理では、少なくともステンレスに含まれる金属元素(例えば、Fe、Cr、Ni)が他方のステンレスとは異なる金属層に熱拡散する。また、ステンレスに含まれる金属元素と、ステンレスとは異なる金属層に含まれる金属元素とを相互に熱拡散させても良い。
【0057】
熱処理時間は、熱処理方法(バッチ熱処理又は連続熱処理)、熱処理温度や熱処理を行う圧延接合体のサイズに応じて適宜設定することができる。例えば、バッチ熱処理の場合、圧延接合体の温度が所定の温度になってから圧延接合体を0.5〜10時間均熱保持し、好ましくは2〜8時間均熱保持する。なお、金属間化合物が形成されなければ10時間以上のバッチ熱処理を行っても問題ない。また、連続熱処理の場合、圧延接合体の温度が所定の温度になってから圧延接合体を20秒〜5分間均熱保持する。なお、熱処理時間とは、熱処理を行う圧延接合体が所定の温度になってからの時間をいい、圧延接合体の昇温時間は含まない。熱処理時間は、例えば、A4版(用紙サイズ)程度の小さい材料については、バッチ熱処理では1〜2時間程度で十分あるが、長尺もの、例えば幅100mm以上、長さ10m以上のコイル材等の大きい材料については、バッチ熱処理では2〜8時間程度必要である。
【0058】
III.圧延接合体の用途
本実施形態に係る圧延接合体は、各種のプレス成形部品として利用することができる。特に、厚みが厚い場合には、強度が大きく、また高い成形加工性を有することから、電子機器用の筐体として、その中でもモバイル電子機器(モバイル端末)の筐体として好適に利用することができる。筐体においては外面側の方が加工が厳しく、特にアルミニウム合金又は純アルミニウムからなる金属層を内面側、ステンレス層を外面側として成形した筐体やステンレス層が薄い筐体への加工は、ステンレス層の破断が起き易いが、本実施形態に係る圧延接合体を用いることにより、ステンレス層が他方の金属層に追随することによって良好な加工性を有するため、ステンレス層が破断することなく筐体を得ることができる。なお、筐体とした際には、変色抑制や加飾を目的とした処理が施されていても良く、また、圧延接合体の用途は上記筐体に限定されるものではない。
【0059】
電子機器用筐体は、好ましくは背面及び/又は側面に本発明の圧延接合体を含む。
【0060】
本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第1の実施形態を
図5及び
図6に示す。
図5は、本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第1の実施形態を示す斜視図であり、
図6は、本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第1の実施形態のX−X’方向における断面斜視図である。電子機器用筐体5は、背面50と側面51からなり、背面50と側面51又はその一部が、ステンレス層とステンレスとは異なる金属層とからなる本発明の圧延接合体を含むことができる。ここで背面とは、スマートフォン等の電子機器(モバイル端末)を構成する筐体における、表示部(ティスプレイ、図示せず)が設けられる側とは反対側の面を指す。また、電子機器用筐体5の内側には圧延接合体とは別の金属材料やプラスチック材料等を積層させても良い。なお、電子機器用筐体5は、圧延接合体を背面50に含む場合、背面50の全体又は一部(例えば、
図5の平面部分Aで示すような、2cm×2cm以上、例えば25mm×25mmの平面部分)が、圧延接合体について記載した前記の特性を満たしていれば良い。なお、電子機器用筐体5は、その背面50に圧延接合体を含む構造であるが、電子機器の構造によっては本構造に限定されるものではなく、背面50と側面51が圧延接合体からなる構造であっても良く、また、側面51に圧延接合体を含む構造であっても良い。
【0061】
次に、本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、センターフレームである電子機器用筐体が、ガラスや樹脂等の表示部及び背面によって挟まれた電子機器構造を示しており、電子機器用筐体は、側面と、その側面に接続された内部補強フレーム(電子機器用筐体における背面を構成する)から構成される。電子機器用筐体は、側面と内部補強フレーム又はその一部が、ステンレス層とステンレスとは異なる金属層とからなる本発明の圧延接合体を含むことができる。ここで内部補強フレームとは、スマートフォン等の電子機器の内部に位置し、電子機器全体の剛性向上や電池やプリント基板等の部品を実装する支持体としての役割を果たす支持板のことを意味する。内部補強フレームは、通常、接続やアセンブリのための穴を有する。穴は、例えばプレス等によって開けることが可能である。本実施形態においては、側面と内部補強フレームとを一体に構成することができるが、それに限定されるものではなく、側面と内部補強フレームとを一体化しなくても良い。また、側面だけに圧延接合体を適用しても良い。なお、本実施形態の電子機器用筐体についても、前記の電子機器用筐体5と同様に、電子機器の構造に応じて適宜変形することができ、上記で説明したような構造に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び参考例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
表面活性化接合法により、圧延接合体を製造した。ステンレス板として厚み:0.05mmのSUS304 BAを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。SUS304とA5052に対してスパッタエッチング処理を施した。SUS304についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力700W、12分間の条件にて実施し、A5052についてのスパッタエッチングは、0.3Pa下で、プラズマ出力700W、12分間の条件にて実施した。スパッタエッチング処理後のSUS304とA5052を、常温で、圧延ロール径100mm〜250mm、圧延線荷重0.5tf/cm〜5.0tf/cmの加圧力で、ステンレス層の圧下率0%〜5%にてロール圧接により接合し、SUS304とA5052の圧延接合体を得た。この圧延接合体に対し、300℃、1時間の条件でバッチ熱処理を行った。
【0064】
(実施例2〜6、比較例1〜3)
原板のステンレス板の鋼種、調質、厚み及び/又は原板のアルミニウム板の品種、厚みを変更し、また、接合時の加圧力を所定の値に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜6及び比較例1〜3の圧延接合体を得た。
実施例2はステンレス板として厚み:0.05mmの316L 1/2Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
実施例3はステンレス板として厚み:0.1mmの304 1/2Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
実施例4はステンレス板として厚み:0.1mmの304 1/2Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
実施例5はステンレス板として厚み:0.1mmの304 1/2Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウムA1050を用いた。
実施例6はステンレス板として厚み:0.2mmの304 1/2Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
比較例1はステンレス板として厚み:0.1mmの304 3/4Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
比較例2はステンレス板として厚み:0.2mmの304 3/4Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウムA1050を用いた。
比較例3はステンレス板として厚み:0.3mmの304 3/4Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウムA1050を用いた。
【0065】
(実施例8)
ステンレス板として厚み:0.25mmのSUS304 BAを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。SUS304とA5052に対してスパッタエッチング処理を施した。SUS304についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力4800W、ライン速度4m/分の条件にて実施し、A5052についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力6400W、ライン速度4m/分の条件にて実施した。スパッタエッチング処理後のSUS304とA5052を、常温で、圧延線荷重3.0tf/cm〜6.0tf/cmにてロール圧接により接合して、SUS304とA5052の圧延接合体を得た。この圧延接合体に対し、300℃で8時間のバッチ熱処理を行った。
【0066】
(実施例9〜12)
原板のステンレス板の鋼種、調質、厚み及び/又は原板のアルミニウム板の品種、厚みを変更し、また、接合時の加圧力を所定の値に変更した以外は実施例8と同様にして、実施例9〜12の圧延接合体を得た。
実施例9はステンレス板として厚み:0.25mmの304 1/2Hを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
実施例10はステンレス板として厚み:0.2mmの316L BAを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウム合金A5052を用いた。
実施例11はステンレス板として厚み:0.25mmの304 BAを用い、アルミニウム材として厚み:0.8mmのアルミニウムA1050を用いた。
実施例12はステンレス材として厚み:0.25mmの316L BAを用い、アルミニウム板として厚み:0.8mmのアルミニウムA1050を用いた。
【0067】
(実施例7、比較例4〜6)
冷間接合法により、ステンレス板とアルミニウム合金板との圧延接合体(厚み:0.403〜1.025mm)を準備した。ステンレス板とアルミニウム合金板の接合面にブラシ研磨等を施した後、両者を重ねあわせて冷間圧延しながら接合し、さらに熱処理を施すことで製造した。
【0068】
作製した圧延接合体における各層の種類及び厚みと、ステンレス層の厚み比率P
SUSを表1にまとめて示す。また、X線回折装置(リガク社製Smartlab)を用い、ステンレス層についてX線回折測定を行い、2θ=48〜52°に現れる結晶の面方位(200)を示すピークの半価幅FWHM
200を測定した。測定結果を表1に示す。作製した圧延接合体について、エリクセン試験による張出高さを測定した。測定は、機械式エリクセン試験機ESM−1(CAP2mm、(株)東京衡機試験機製)を用い、JIS Z 2247(エリクセン試験方法)に準じて行った。また、ステンレス層の表面硬度Hvを、マイクロビッカース硬度計(荷重200gf)を用い、JIS Z 2244(ビッカース硬さ試験−試験方法)に準じて測定した。張出高さ及びビッカース硬度の測定結果を表1に示す。また、実施例1〜12及び比較例1〜6の圧延接合体について、ステンレス層の厚みの比率P
SUSと面方位(200)を示すピークの半価幅FWHM
200との関係を
図2に示す。また、ステンレス層の厚みT
SUSと半価幅FWHM
200との関係を
図3に示す。さらに、ステンレス層の厚みの比率P
SUSとステンレス層の表面硬度との関係を
図4に示す。なお、半価幅測定の際には試料を研磨して行った。研磨の方法は特に限定されないが、研磨の際の表面加工はバフ研磨や電解研磨が好ましい。著しく研削されるような研磨の方法は、FWHM
200に影響を与える恐れがあるため、注意が必要である。
【0069】
【表1】
【0070】
表1及び
図2に示すように、下記式
FWHM
200≦0.0057P
SUS+0.4
を満たす実施例の圧延接合体は、いずれもエリクセン試験による張出高さが7mm超という高い値を示し、成形加工性に優れることが明らかとなった。一方、上記式の条件を満たさない比較例1〜6の圧延接合体は、張出高さは7mm未満に留まり、筐体用の圧延接合体としては不十分であった。また、表1及び
図3に示すように、下記式
FWHM
200≦0.571T
SUS+0.4
を満たすことによっても成形加工性が向上することが明らかとなった。
【解決手段】ステンレス層とステンレスとは異なる金属層とからなる圧延接合体であって、厚みTが0.2mm以上3mm以下であり、前記厚みTに対する前記ステンレス層の厚みT