(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。例えば、以下では、電気化学デバイスの例としてPEFCを挙げるが、本発明はPEFC以外の電気化学デバイス、例えば水素生成デバイスのような電気分解装置、製塩装置、純水製造装置にも適用することができる。電気化学素子の例として膜−電極接合体(MEA)を挙げるが、本発明はMEA以外の電気化学素子にも適用することができる。
【0017】
(アニオン交換形高分子電解質膜)
本実施形態のアニオン交換形高分子電解質膜(アニオン交換膜)は、超高分子量ポリオレフィンのフィルムから構成される基体に、グラフト鎖がグラフト重合されている。換言すれば、本実施形態のアニオン交換膜は、超高分子量ポリオレフィンのフィルムを基体(基体フィルム)とするグラフト重合膜である。
【0018】
本実施形態のアニオン交換膜は、乾燥状態における厚さが100μm以下であることが好ましい。本実施形態のアニオン交換膜の乾燥状態における厚さは、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。本実施形態のアニオン交換膜の乾燥状態における厚さの下限は特に限定されないが、例えば15μmである。なお、乾燥状態とは、23℃、53%RHに調温・調湿された空間にアニオン交換膜を24時間以上放置した状態をいう。
【0019】
本実施形態のアニオン交換膜は、ヒドラジン透過係数が小さく、イオン伝導度が良好であることが好ましい。例えば、本実施形態のアニオン交換膜(炭酸型)において、イオン伝導度は12〜21mS/cmの範囲にあってもよい。ヒドラジン透過係数は、0.1〜0.6mmol/m・hrの範囲にあってもよい。イオン伝導度[mS/cm]に対するヒドラジン透過係数[mmol/m・hr]の比は8×10
-3〜2.5×10
-2の範囲にあってもよい。イオン伝導度及びヒドラジン透過係数は、後述する実施例に記載の測定方法により測定できる。
【0020】
本実施形態のアニオン交換膜の面積変化率は、値が小さいほど好ましい。面積変化率の小さなアニオン交換膜は、MEAにおいてアニオン交換膜と電極との剥離を抑制することに寄与できる。
【0021】
本実施形態のアニオン交換膜に含まれる基体は、超高分子量ポリオレフィンのフィルムから構成されている。超高分子量ポリオレフィンは、カチオン形PEFCのカチオン交換膜(典型的にはプロトン交換膜)として従来より広く使用されているパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(例えば、ナフィオン(登録商標))のようなフッ素系重合体、及び特許文献1に開示がある高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等の通常のポリオレフィンに比べて、アルカリ耐久性、機械的強度及び燃料遮断性(特にアルカリ燃料遮断性)が高い。例えば、通常のポリオレフィンフィルムを基体として用いた場合、その軟化点及び強度の低さからPEFCの運転時におけるアニオン交換膜の膨潤が生じやすく、超高分子量ポリオレフィンフィルムを基体として用いた場合に比べてアニオン交換膜の燃料遮断性が著しく低下する。また、超高分子量ポリオレフィンは、基体として用いたときのグラフト重合時における寸法安定性が、HDPE、LDPE等の通常のポリオレフィンに比べて高い。これらの高い特性は、超高分子量ポリオレフィンが、通常のポリオレフィンとは異なってエンジニアリングプラスチックとして扱われていること等からもわかるように、非常に高い分子量によってもたらされる特異性に基づいている。さらに、超高分子量ポリオレフィンは、フッ素系重合体とは異なり、廃棄時にハロゲンを環境中に排出しないため環境負荷が少なく、芳香族炭化水素系重合体よりもモノマーの浸透速度の観点からグラフト膜の形成に好適であるとともに低コストでの製造が可能となる。
【0022】
超高分子量ポリオレフィンの分子量は、重量平均分子量にして、例えば100万〜400万であり、好ましくは150万〜350万、より好ましくは200万〜300万である。過度に分子量が大きくなると、フィルム形状に成形することが難しくなる。過度に分子量が小さくなると、充分なアルカリ耐久性、機械的強度、燃料遮断性を得ることができないことがある。
【0023】
超高分子量ポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により評価できる。例えば、評価対象の樹脂(フィルムの形状であってもよい)を溶媒(例えばo−ジクロロベンゼン)に必要に応じて熱を加えながら溶解させ、得られた溶液に対してGPC測定を実施すればよい。溶液を形成する際に、樹脂の分子量及び架橋の有無によっては不溶部分が生じる場合があるが、この場合は、溶媒に溶解した成分に対する測定結果を当該樹脂の重量平均分子量とする。なお、得られた数値の千以下の単位は四捨五入する。
【0024】
本実施形態のアニオン交換膜に含まれる基体は、無延伸フィルムであることが好ましい。超高分子量ポリオレフィンフィルムは、インフレーション法を用いて形成されることがある。しかし、インフレーション法を用いて形成したフィルムでは、フィルム形成時に延伸に相当する力が加わることから、超高分子量ポリオレフィンの結晶が、フィルムの厚さ方向に対して層状に堆積した状態にある。基体の厚さ方向に対して層状に堆積した結晶は、アニオン交換膜の厚さ方向に対するアニオン伝導を阻害することがある。また、グラフト重合では、結晶間にアニオン伝導能を有するグラフト成分が導入される。このため、基体の厚さ方向に対して結晶が層状に堆積していると、グラフト重合の進行に伴い当該層状結晶の間にグラフト成分が導入されることで基体がその厚さ方向に選択的に膨潤する。その結果、得られるアニオン交換膜の膜厚が大きくなり、このアニオン交換膜をPEFCに用いた場合にPEFCの運転時(発電時)に膜抵抗が増大することがある。
【0025】
本実施形態のアニオン交換膜に含まれる基体は、超高分子量ポリオレフィンのスカイブフィルム(切削フィルム)から構成されることが好ましい。超高分子量ポリオレフィンのブロックを切削する切削法により得たスカイブフィルムを用いると、例えばインフレーション法により形成したフィルム等よりも高いアニオン伝導性を得ることができる。これは、超高分子量ポリオレフィンフィルムの製法によって、当該フィルムの結晶状態が大きく異なることに起因すると推定される。スカイブフィルムでは、超高分子量ポリオレフィンの微細な結晶がランダムに配向した状態にある。
【0026】
また、基体の形成に切削法を用いる場合、均一な厚みを有する基体を得ることが可能となり、例えば均一な厚みの薄膜状の基体を得ることが可能となる。また、インフレーション法を用いて基体を形成した場合と異なって、切削法を用いて基体を形成した場合には、フィルムの厚さ方向に対して層状に結晶が堆積しておらず、グラフト重合によって結晶間にグラフト成分は導入されにくい。切削法を用いると、インフレーション法を用いた場合よりも、グラフト重合による膜厚の増大は少ないと考えられる。従って、超高分子量ポリオレフィンのスカイブフィルムから構成される基体を用いると、この基体を有するアニオン交換膜の膜厚の制御が容易になり、薄膜状のアニオン交換膜を得ることが容易になる。
【0027】
超高分子量ポリオレフィンフィルムがスカイブフィルムであるか否かは、スカイブフィルム以外のフィルムとの結晶構造の違いにより判別できる。結晶構造は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)により評価できる。
【0028】
超高分子量ポリオレフィンは、例えば、超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリプロピレンである。分子量違いあるいは膜厚違い等の多くの種類のスカイブフィルムが市販されており、入手が比較的容易である観点からは超高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0029】
本実施形態のアニオン交換膜は、基体に、以下の式(1)に示す構成単位を有するグラフト鎖がグラフト重合されている。
【0031】
ここで、L
1〜L
5は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルカノール基、以下に示す式(2−1)に示す構造又は式(2−2)に示す構造であり、L
1〜L
5の少なくとも1つは、式(2−1)に示す構造又は式(2−2)に示す構造である。炭素原子数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基を挙げることができる。炭素原子数1〜4のアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、であることが好ましい。炭素原子数1〜4のアルカノール基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基を挙げることができる。なお、本明細書において、アルカノール基とは、アルキル基の有する水素原子のうち少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基に置換された構造を示す。L
1〜L
5は、水素原子又は式(2−1)に示す構造であり、L
1〜L
5のいずれか1つが、式(2−1)に示す構造であることが好ましい。式(1)に示す第1の構成単位においては、式(2−1)に示す構造又は式(2−2)に示す構造は、オルト位、メタ位又はパラ位のいずれの位置に存在していてもよいが、パラ位に存在することがより好ましい。
【0034】
ここで、R
1〜R
3、R
11〜R
13及びR
21〜R
23は、互いに独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルカノール基を示す。R
1〜R
3、R
11〜R
13及びR
21〜R
23は、互いに独立して、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜6のアルカノール基であることが好ましい。R
1〜R
3、R
11〜R
13及びR
21〜R
23は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基又は炭素原子数1〜4のアルカノール基であることがより好ましい。炭素原子数1〜8のアルキル基としては、例えば、上述した炭素原子数1〜4のアルキル基、1−メチルブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等を挙げることができる。炭素原子数1〜8のアルカノール基としては、上述した炭素原子数1〜4のアルカノール基、5−ヒドロキシペンチル基、6−ヒドロキシヘキシル基、7−ヒドロキシヘプチル基、8−ヒドロキシオクチル基等を挙げることができる。
【0035】
M
1、M
11及びM
21は、互いに独立して、炭素原子数3〜8の直鎖状の水素原子が置換されていてもよい炭化水素鎖を有する。M
1、M
11及びM
21は、互いに独立して、水素原子が置換されていてもよい炭素原子数3〜8のアルキレン基であってもよい。炭化水素鎖を構成する炭素原子数は、3〜6であることが好ましい。M
1、M
11及びM
21は、互いに独立して、炭素原子数3〜6のアルキレン基であることがより好ましい。水素原子の置換基は、ハロゲン原子及び炭素原子数1〜5のアルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1つである。ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が例示される。炭素原子数1〜5のアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1、1−ジメチルプロピル基、1、2−ジメチルプロピル基、2、2−ジメチルプロピル基を挙げることができる。置換基は、メチル基及び/又はエチル基であることが好ましい。炭化水素鎖が複数の置換基を有する場合には、複数の置換基は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
Z
1、Z
11及びZ
21は、互いに独立して、窒素原子、又はリン原子を示す。Z
1、Z
11及びZ
21は、窒素原子であることが好ましい。
【0037】
Z
2は、水素原子1つと結合した窒素原子(NH)、酸素原子(O)、又は硫黄原子(S)を示す。Z
2は、酸素原子であることが好ましい。Z
12は、窒素原子(N)を示す。
【0038】
L
6は、水素原子、メチル基又はエチル基を示す。L
6は、水素原子であることが好ましい。
【0039】
一般にアニオン交換膜は、ベンジルトリアルキルアンモニウム構造のようにアニオン交換基がベンジル位の炭素原子を介してベンゼン環に結合した構造を有する。これに対し、本実施形態のアニオン交換膜に含有されるグラフト鎖に含まれる式(1)で示される構成単位において、アニオン交換基は、M
1、M
11又はM
21で示される水素原子が置換されていてもよい炭化水素鎖(例えば、アルキレン基)及びZ
2又はZ
12で示されるヘテロ原子(例えば、酸素原子)を介してベンゼン環に結合している。本実施形態のアニオン交換膜はベンゼン環に結合したZ
2又はZ
12で示されるヘテロ原子を有し、アニオン交換基はこのヘテロ原子を含むエーテル構造、チオエーテル構造又はアミン構造を介してベンゼン環に結合している。本実施形態のアニオン交換膜は、水酸化物イオンによる求核置換反応の生じやすいベンジルトリアルキルアンモニウム構造を有していない。従って、本実施形態のアニオン交換膜に含有される構成単位からは、アルカリ性雰囲気下でのアニオン交換基の脱離が生じにくい。この構成単位を含有するグラフト鎖を含む本実施形態のアニオン交換膜は、アニオン交換基の脱離が生じにくく、アルカリ耐久性が良好である。
【0040】
第1の構成単位の具体例として、以下の式(9)で示される構造を挙げることができる。ここで、nは、3〜8の整数であることが好ましく、3〜6の整数であることがより好ましい。R
1〜R
3は窒素に直接結合している。R
1〜R
3は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基又は炭素原子数1〜4のアルカノール基であることが好ましい。好適な第1の構成単位としては、R
1及びR
2はメチル基であり、R
3はブチル基、nは4の構成を挙げることができる。
【0042】
本実施形態のアニオン交換膜の有するアニオン種(対イオン)Y
2としては、例えば、水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、ハロゲン化物イオンが挙げられる。ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンが挙げられる。
【0043】
(アニオン交換膜の製造方法)
本実施形態のアニオン交換膜の製造に適した製造方法の一例を説明する。この製造方法は、超高分子量ポリオレフィンのフィルムから構成される基体と基体に導入された式(6)で示される構成単位を有するグラフト鎖を有するグラフト膜Bの式(6)で示される構成単位から式(1)で示される構成単位を有する構成単位を形成する工程(iv)を含む。
【0045】
ここでL
11〜L
15は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルカノール基、NH
2、OH、又はSHを示し、L
11〜L
15の少なくとも1つはNH
2、OH及びSHからなる群より選ばれる少なくとも1つを示す。炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルカノール基については上述したため重複する記載は省略する。L
11〜L
15は、水素原子、又はNH
2、OH、又はSHを示し、L
11〜L
15のいずれか1つは、NH
2、OH及びSHからなる群より選ばれる少なくとも1つを示すことが好ましい。L
11〜L
15は、水素原子又はOHであって、そのいずれか1つはOHであることがより好ましい。
【0046】
工程(iv)は、式(6)で示される構成単位と、以下の式(3)で示される化合物とを反応させ、式(1)で示される構成単位を有する共重合体を製造する工程(iv−a)、又は式(6)で示される構成単位と、以下の式(4)で示される化合物とを反応させ、その後、得られた反応物と以下の式(5)で示される化合物とを反応させ式(1)で示される構成単位を構造を形成する工程(iv−b)である。R
1〜R
3、M
1、Z
1については上述したため、重複する記載は省略する。X
1〜X
3は、互いに独立して、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であり、Y
1は、水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、又はハロゲン化物イオンである。
【0050】
L
11〜L
15のいずれか1つがNH
2の場合、式(2−1)で示される構造と式(2−2)で示される構造の得られる割合は、式(6)で示される構成単位に含まれる窒素のモル数に対する式(3)で示される化合物のモル数の比率によって調整できる。例えば、工程(iii−a)において上記のモル数の比率が1.1〜2.0の範囲にあると、式(2−1)で示される構造を多く含む反応生成物が得られる。同様に、工程(iii−b)では、式(6)で示される構成単位に含まれる窒素のモル数に対する式(4)で示される化合物のモル数の比率によって、式(2−1)で示される構造と式(2−2)で示される構造の得られる割合を調整できる。
【0051】
工程(iv)の一例では、超高分子量ポリオレフィンのフィルムから構成される基体とこの基体に導入された式(10)で示される構成単位を有するグラフト鎖とを有するグラフト膜Bの式(10)で示される構成単位から、式(14)で示される構成単位を形成する。工程(iv−a)は、例えば、式(10)で示される構成単位と、以下の式(11)で示されるハロアルキルトリアルキルアンモニウムとを反応させ、式(12)で示される構成単位を有する共重合体を製造する工程である。工程(iv−b)は、例えば、式(10)で示される構成単位と、以下の式(12)で示されるジハロアルカンとを反応させ、その後、得られた反応物と以下の式(13)で示されるトリアルキルアミンとを反応させ、式(14)で示される構成単位を製造する工程である。ここで、R
1〜R
3、n、X
1〜X
3、Y
1は、すでに説明したとおりである。
【0057】
本明細書において、ハロアルキルトリアルキルアンモニウムとは、式(11)で示される化合物である。ハロアルキルトリアルキルアンモニウムの具体例としては、ハロプロピルトリメチルアンモニウム、ハロブチルトリメチルアンモニウム、ハロペンチルトリメチルアンモニウム、ハロヘキシルトリメチルアンモニウム、ハロプロピルエチルジメチルアンモニウム、ハロブチルエチルジメチルアンモニウム、ハロペンチルエチルジメチルアンモニウム、ハロヘキシルエチルジメチルアンモニウム、ハロプロピルジメチルプロピルアンモニウム、ハロブチルジメチルプロピルアンモニウム、ハロペンチルジメチルプロピルアンモニウム、ハロヘキシルジメチルプロピルアンモニウム、ハロプロピルジメチルブチルアンモニウム、ハロブチルジメチルブチルアンモニウム、ハロペンチルジメチルブチルアンモニウム、ハロヘキシルジメチルブチルアンモニウム、ハロプロピルジエチルメチルアンモニウム、ハロブチルジエチルメチルアンモニウム、ハロペンチルジエチルメチルアンモニウム、ハロヘキシルジエチルメチルアンモニウム、ハロプロピルエチルメチルプロピルアンモニウム、ハロブチルエチルメチルプロピルアンモニウム、ハロペンチルエチルメチルプロピルアンモニウム、ハロヘキシルエチルメチルプロピルアンモニウム、ハロプロピルブチルエチルメチルアンモニウム、ハロブチルブチルエチルメチルアンモニウム、ハロペンチルブチルエチルメチルアンモニウム、ハロヘキシルブチルエチルメチルアンモニウム、ハロプロピルメチルジプロピルアンモニウム、ハロブチルメチルジプロピルアンモニウム、ハロペンチルメチルジプロピルアンモニウム、ハロヘキシルメチルジプロピルアンモニウム、ハロプロピルメチルブチルプロピルアンモニウム、ハロブチルメチルブチルプロピルアンモニウム、ハロペンチルメチルブチルプロピルアンモニウム、ハロヘキシルメチルブチルプロピルアンモニウム、ハロプロピルメチルジブチルアンモニウム、ハロブチルメチルジブチルアンモニウム、ハロペンチルメチルジブチルアンモニウム、ハロヘキシルメチルジブチルアンモニウム、ハロプロピルトリエチルアンモニウム、ハロブチルトリエチルアンモニウム、ハロペンチルトリエチルアンモニウム、ハロヘキシルトリエチルアンモニウム、ハロプロピルジエチルプロピルアンモニウム、ハロブチルジエチルプロピルアンモニウム、ハロペンチルジエチルプロピルアンモニウム、ハロヘキシルジエチルプロピルアンモニウム、ハロプロピルジエチルブチルアンモニウム、ハロブチルジエチルブチルアンモニウム、ハロペンチルジエチルブチルアンモニウム、ハロヘキシルジエチルブチルアンモニウム、ハロプロピルエチルジプロピルアンモニウム、ハロブチルエチルジプロピルアンモニウム、ハロペンチルエチルジプロピルアンモニウム、ハロヘキシルエチルジプロピルアンモニウム、ハロプロピルブチルエチルプロピルアンモニウム、ハロブチルブチルエチルプロピルアンモニウム、ハロペンチルブチルエチルプロピルアンモニウム、ハロヘキシルブチルエチルプロピルアンモニウム、ハロプロピルジブチルエチルアンモニウム、ハロブチルジブチルエチルアンモニウム、ハロペンチルジブチルエチルアンモニウム、ハロヘキシルジブチルエチルアンモニウム、ハロプロピルトリプロピルアンモニウム、ハロブチルトリプロピルアンモニウム、ハロペンチルトリプロピルアンモニウム、ハロヘキシルトリプロピルアンモニウム、ハロプロピルブチルジプロピルアンモニウム、ハロブチルブチルジプロピルアンモニウム、ハロペンチルブチルジプロピルアンモニウム、ハロヘキシルブチルジプロピルアンモニウム、ハロプロピルジブチルプロピルアンモニウム、ハロブチルジブチルプロピルアンモニウム、ハロペンチルジブチルプロピルアンモニウム、ハロヘキシルジブチルプロピルアンモニウム、ハロプロピルトリブチルアンモニウム、ハロブチルトリブチルアンモニウム、ハロペンチルトリブチルアンモニウム、ハロヘキシルトリブチルアンモニウムが挙げられる。
【0058】
ハロアルキルトリアルキルアンモニウムは、式(12)で示されるジハロアルカンと式(13)で示されるトリアルキルアミンとを反応させて得ることができる。例えば、ジエチルエーテル等の溶媒中において、式(12)で示されるジハロアルカンと式(13)で示されるトリアルキルアミンとを混合することによって、ハロアルキルトリアルキルアンモニウムを得ることができる。
【0059】
式(11)で示されるハロアルキルトリアルキルアンモニウムを得る反応は、例えば、ジエチルエーテル等の溶媒中において、式(12)で示されるジハロアルカンと式(13)で示されるトリアルキルアミンとを混合することによって行うことができる。この反応は、例えば0〜50℃、特に20〜30℃で行うことができる。
【0060】
工程(iv−b)における式(12)で示されるジハロアルカン及び式(13)で示されるトリアルキルアミンは、互いに反応したときに上述したハロアルキルトリアルキルアンモニウムが得られるものを用いることができる。工程(iv−b)は、式(10)で示される構成単位と式(12)で示されるジハロアルカンとを反応させ、その後、得られた生成物と式(13)で示されるトリアルキルアミンとを反応させる逐次的な反応によって行うことができる。必要に応じて、式(10)で示される構成単位と式(12)で示されるジハロアルカンとの反応後の生成物を単離させた後、その後の反応を行ってもよい。工程(iv−b)におけるこれらの反応は、例えば、10〜80℃で行うことができる。
【0061】
本実施形態のアニオン交換膜の製造方法を用いると、アニオン交換膜を効率よく、容易に製造することができる。また、本実施形態のアニオン交換膜の製造方法では、クロロメチルメチルエーテル、ヨウ化メチル等の人体に有害な試薬を使用する必要がなく、容易な操作によってアニオン交換膜を製造することができる。
【0062】
本実施形態のアニオン交換膜の製造方法は、さらに、超高分子量ポリオレフィンのフィルムから構成される基体に放射線を照射する工程(i)、
放射線を照射した基体に、式(7)に示される単量体をグラフト重合し、グラフト膜Aを形成する工程(ii)、
グラフト膜Aを加水分解し、グラフト膜Bを形成する工程(iii)、
を含み、工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)を、工程(iv)の前に実施することが好ましい。
【0063】
ここで、L
21〜L
25は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルカノール基、以下の式(8−1)に示す構造又は以下の式(8−2)に示す構造であり、L
21〜L
25の少なくとも1つは、式(8−1)に示す構造又は以下の式(8−2)に示す構造である。L
21〜L
25は、互いに独立して、水素原子、又は以下の式(8−1)に示す構造であり、式(8−1)に示す構造においてZ
2は酸素原子であることがより好ましい。式(8−1)に示す構造又は以下の式(8−2)に示す構造は、ベンゼン環のオルト位、メタ位又はパラ位のいずれの位置に存在してもよく、パラ位に存在することがより好ましい。R
4、R
14及びR
24は、互いに独立して、水素原子、メチル基又はエチル基である。炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルカノール基、L
6、及びZ
2については上述したため、重複する記載は省略する。
【0067】
工程(i)について説明する。工程(i)においては、超高分子量ポリオレフィンのフィルムから構成される基体に放射線を照射する。超高分子量ポリオレフィン及びそのスカイブフィルム(切削フィルム)は、上述したとおりである。超高分子量ポリオレフィンのスカイブフィルムは、例えば、超高分子量ポリオレフィンのブロックを形成した後、当該ブロックを切削して形成できる。具体的な形成方法は、公知の方法に従えばよい。また、市販のスカイブフィルムを利用してもよい。
【0068】
超高分子量ポリオレフィンのスカイブフィルムは、超高分子量ポリオレフィンフィルムではあるがインフレーション法等の他の方法により形成されたフィルム、及びHDPE、LDPE等から構成される通常のポリオレフィンフィルムに比べて、膜厚の均一性が高く、かつ結晶状態がよりランダムである(異方性が小さく、より等方的であるともいえる)。このため、アニオン交換膜及びMEAとしたときのアルカリ耐久性、機械的強度、寸法安定性、燃料遮断性を、基体としてより薄い膜厚で確保することができる。また、薄い基体の膜厚は、アニオン伝導性及び水透過性の向上にも寄与する。基体の厚さは、例えば、50μm以下とすることが可能であり、アニオン伝導性と燃料遮断性とのバランス及び水透過性の観点からは同じく50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。基体の厚さの下限は特に限定されないが、例えば10μmである。あまりに薄い基体は、アニオン交換膜及びMEAとしての強度が不十分となり、PEFCの運転中にMEAが破損する可能性が増す。
【0069】
本実施形態の効果が得られる限り、放射線を照射する基体フィルムは、超高分子量ポリオレフィン以外の樹脂及び/又は低分子化合物等を含んでいてもよい。
【0070】
工程(i)において基体に照射する放射線は、例えば、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等の電離放射線であり、γ線又は電子線が好ましい。放射線の照射線量は特に限定されないが、例えば1kGy〜400kGyであり、好ましくは10kGy〜300kGyである。照射線量を1kGy以上とすることによって、後の工程(ii)におけるグラフト率が過度に低くなることが防止される。また、照射線量を400kGy以下とすることによって、後の工程(ii)における過剰な重合反応が抑制されたり、工程(i)における基体の劣化が抑制されたりする。
【0071】
放射線を照射した後の基体は、次の工程(ii)を行うまで、低温(例えば−30℃以下)で保持してもよい。
【0072】
工程(ii)について説明する。工程(ii)においては、工程(i)で放射線を照射した基体に、式(7)で示される単量体をグラフト重合し、グラフト膜Aを形成する。ここで、式(7)で示される単量体については上述したため、重複する記載は省略する。
【0073】
工程(ii)は、例えば、固液二相系において実施される。より具体的には、例えば、単量体を含む溶液(液相)に、放射線が照射された基体(固相)を接触させることによってグラフト重合を進行させる。接触は、例えば、溶液への基体の浸漬である。酸素の存在によって反応が阻害されることを防ぐため、工程(ii)は、酸素濃度ができる限り低い雰囲気下で行うことが好ましい。このために、例えば、単量体を含む溶液を窒素ガス等でバブリングして用いてもよい。
【0074】
単量体を含む溶液(重合液)の溶媒には、単量体を溶解させるが、基体を溶解しない溶媒が選択される。単量体及び基体に対する溶解性に応じて、溶媒を選択してもよい。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;フェノール、クレゾール等のフェノール類をはじめとする芳香族化合物を用いることができる。芳香族化合物を溶媒に使用することによって、グラフト率が高くなる傾向がある。また、芳香族化合物は、副生成物である、基体にグラフト重合していない(基体とは関係なく遊離している)ポリマーを溶解するため、溶液を均一に保つことができる。溶媒は2種以上の溶媒の混合物であってもよい。グラフト重合を実施する温度において単量体が液体である場合には、溶媒を用いることなくグラフト重合を実施してもよい。
【0075】
重合液における単量体の濃度は、単量体の重合性や目標とするグラフト率に応じて定めることができるが、20wt%以上であることが好ましい。重合液における単量体の濃度を20wt%以上とすることによって、十分なグラフト反応の進行を図ることができる。
【0076】
工程(ii)においてグラフト重合を行った後のグラフト膜Aの重量(乾燥重量)が基体の重量(重合前の乾燥重量)の1.1〜3.5倍程度となるようにグラフト重合を実施することが好ましい。上記の倍率は、1.4〜3.3倍の範囲にあることがより好ましく、1.6〜3.0倍の範囲にあることが特に好ましい。この倍率が過度に小さいと、アニオン交換膜とするのに十分なグラフト成分が導入されていない可能性がある。この倍率が低すぎる(例えば1.1倍未満の場合)と、アニオン交換膜のイオン伝導率が低くなることがあり、特にアニオン交換膜を燃料電池に用いる場合には好ましくない。この倍率が過度に大きいと、形成したアニオン交換膜及びこのアニオン交換膜を含むMEAの強度が低下することがある。
【0077】
具体的な工程(ii)の一例は、以下のとおりである。単量体を含む溶液をガラスやステンレス等の容器に収容する。次に、グラフト重合を阻害する溶存酸素を除去するために、溶液に対して減圧脱気及び窒素ガス等の不活性ガスによるバブリングを行う。次に、放射線を照射した後の基体を溶液に投入してグラフト重合を実施する。グラフト重合によって、基体を構成する超高分子量ポリオレフィンに、単量体に由来する構成単位を含むグラフト鎖が付加する。グラフト重合時間は、例えば10分〜12時間程度であり、反応温度は、例えば0〜100℃(好ましくは40〜80℃)である。次に、グラフト重合後の基体を溶液から取り出す。次に、溶媒、未反応の単量体及び基体とは関係なく遊離した状態にあるポリマーを除去するために、取り出した基体を適量の溶剤で洗浄し(典型的には3〜6回洗浄する)、乾燥させる。溶剤は、単量体及び遊離ポリマーが溶解するが、グラフト重合後の基体及びグラフト鎖が溶解しない溶剤から選択する。溶剤は、例えば、トルエン、キシレン、アセトンを用いることができる。
【0078】
工程(iii)について説明する。工程(iii)では、工程(ii)で得られたグラフト膜Aを加水分解し、グラフト膜Bを形成する。
【0079】
工程(iii)は、グラフト膜Aを、アルカリ性剤を含む溶媒中に浸漬させることによって行うことができる。アルカリ性剤としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン等を用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、複数の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
工程(ii)及び(iii)の一例は以下のとおりである。工程(ii)では、例えば式(15)で示される単量体をグラフト重合し、グラフト膜Aを形成する。工程(iii)において、グラフト膜Aを加水分解し、式(10)で示される構成単位を有するグラフト鎖を有するグラフト膜Bを形成する。
【0083】
式(15)で示される単量体においては、フェニル基に結合した官能基[−O−C(=O)−R
4]は、オルト位、メタ位又はパラ位のいずれの位置に存在してもよいが、パラ位に存在することが好ましい。式(15)で示される単量体としては、ビニルフェニルホルメート、ビニルフェニルアセテート、ビニルフェニルプロピオネート等のビニルフェニルアシレート類が挙げられる。
【0084】
(電気化学素子)
本実施形態の電気化学素子は、本実施形態のアニオン交換膜と、アニオン交換膜の表面に配置された電極とを備える。本実施形態の電気化学素子は、アノードと、カソードと、本実施形態のアニオン交換膜とを有し、アノード及びカソードは、本実施形態のアニオン交換膜を挟持する。本実施形態の電気化学素子の一例は、MEAである。本実施形態のアニオン交換膜については上述したため記載は省略する。
【0085】
本実施形態のアニオン交換膜を用いたMEAでは、アニオン交換膜の表面に電極が配置されている。典型的には熱プレス等の手法により、アニオン交換膜と電極とが一体化されている。通常、電極としてアノード及びカソードの一対の電極が、それぞれアニオン交換膜の各主面に配置されている。
図1に、本実施形態のアニオン交換膜を用いたMEAの一例を示す。
図1に示すMEA1は、アニオン交換膜2とアノード3とカソード4とを備え、アノード3がアニオン交換膜2の一方の主面に、カソード4がアニオン交換膜2の他方の主面に、それぞれ配置されている。
【0086】
電極には、PEFCに使用する公知のMEAが備える触媒を用いることができる。触媒は、カチオン交換形燃料電池とは異なり、必ずしも白金のような貴金属である必要はなく、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、銀等の卑金属を使用可能である。含まれる具体的な触媒等の構成は、MEAのアノード側とカソード側とで異なっていても同一であってもよい。
【0087】
(電気化学デバイス)
本実施形態の電気化学デバイスは、本実施形態の電気化学素子を備える。本実施形態の電気化学素子については、上述したため記載は省略する。本実施形態の電気化学デバイスの一例は、PEFCである。PEFCは、アニオン交換形燃料電池であることが好ましい。本実施形態のPEFCは、本実施形態のMEAを備え、これによりPEFCの性能の向上が達成される。例えば、MEAが有するアニオン交換膜のアルカリ耐久性、機械的強度、寸法安定性が高いことにより、耐久性が高いPEFCとなる。また、MEAが有するアニオン交換膜のアニオン伝導性、燃料遮断性及が高く、アニオン伝導性と燃料遮断性とのバランスが良好であることにより、出力特性が高いPEFCとなる。MEA以外の構成部材には、従来から公知のものを特に制限なく使用できる。
【0088】
図2に、本実施形態のPEFCの一例を示す。
図2に示すPEFC11は、アニオン交換膜2と、アニオン交換膜2を狭持するように配置された一対の電極(アノード3及びカソード4)と、上記一対の電極を狭持するように配置された一対のセパレータ(アノードセパレータ5及びカソードセパレータ6)とを備え、各部材は、当該部材の主面に垂直な方向に圧力が印加された状態で接合されている。アニオン交換膜2と電極3、4とは、MEA1を構成している。
【0089】
本実施形態のPEFCは、アニオン交換形燃料電池であり、アノードには燃料が、カソードには酸化剤が供給される。燃料は、例えば、アルコール、ヒドラジン(水和物)等を含むアルカリ燃料であり、反応性が高く、発電原理上CO
2を排出しないことから、ヒドラジン(水和物)を含む燃料が好ましい。酸化剤は、例えば空気である。
【0090】
本実施形態のPEFCは、本実施形態のMEA以外にも、PEFCを構成する部材として公知の部材を備えることができる。当該部材は、例えば、燃料電池をセル単体としてみるとガス拡散層、セパレータ等、燃料電池をシステムとしてみると燃料供給装置、酸化剤供給装置、加湿装置、集電板、発電状況を検知する温度センサー、酸素センサー、フローメーター、湿度センサー等である。PEFCの製造方法は、公知の方法に準じて行えばよい。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実験及び測定は、特に記載がない限り60℃で行った。また、以下の記載における「室温」は23℃を示す。
【0092】
実施例、比較例における評価は、下記のようにして行った。
【0093】
[グラフト率]
グラフト率は下式を用いて算出した。
グラフト率(%)=100×(W
1−W
0)/W
0
ここで、W
0は、乾燥状態におけるグラフト重合前の基体の重量(g)、W
1は、乾燥状態におけるグラフト重合後の膜の重量(g)である。「乾燥状態における」重量とは、60℃雰囲気下1時間以上静置し、重量変化がなくなった状態の値を示す。
【0094】
[イオン交換容量]
作製したアニオン交換膜を裁断し、イオン交換容量測定用の試験片を作製した。得られた試験片を3mol/L(23℃)の塩化ナトリウム水溶液に10時間以上浸漬し、アニオン交換膜の対アニオンを塩化物イオンへ変換した。その後、このアニオン交換膜を、1mol/Lの硝酸ナトリウム(NaNO
3)水溶液に12時間以上浸漬した。遊離してきた塩化物イオンを、0.05mol/Lの硝酸銀(AgNO
3)水溶液を用いて滴定し、イオン交換容量を測定した。
【0095】
[イオン伝導度(アニオン伝導度)]
最初に、作製したアニオン交換膜を20mm×30mmのサイズに裁断し、得られた試験片を30℃の水中に2時間以上浸漬して膨潤させた。次に、試験片を60℃の水中に5分浸漬し、膨潤した膜の一方の主面上に一対の白金箔電極(幅10mm)を配置し、測定セルとした。このとき2枚の白金箔電極は、互いの間隔が10mmとなるように配置した。
【0096】
次に、測定セルを60℃の水中に投入し、ケミカルインピーダンスメーター(HIOKI社製、型番3532−80)を用いて白金箔電極間のインピーダンスを測定した。測定周波数は、10kHz〜1MHzの範囲とした。得られたインピーダンスについて、実数部分を横軸、虚数部分を縦軸としてプロットし、極小値の実数部分の値を膜抵抗R(Ω)とした。膨潤させたときの試験片の膜厚をt[μm]、試験片の幅をh[cm]、白金箔電極の間隔をL[cm]として、以下の式からアニオン交換膜のイオン伝導度σ[S/cm]を求めた。
(イオン伝導度σ)=L/(R×t×h×10
-4)[S/cm]
【0097】
次に、得られたイオン伝導度σの値を試験片の膜厚tで割り、膜厚を加味したイオン伝導度を示すコンダクタンスC=σ/(t×10
-4)[S/cm
2]を求めた。
【0098】
[ヒドラジン透過係数の測定]
最初に、作製したアニオン交換膜を50mm×50mmのサイズに裁断し、得られた試験片を濃度1mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液に12時間以上浸漬した。次に、浸漬した試験片を、2つのT字型セルの間に挟み、全体としてH字型になるようにセル同士を接続した。試験片は、Hの字の横棒の中央部に位置することになる。セルの接続部におけるアニオン交換膜の面積は7.07cm
2であった。次に、アニオン交換膜を挟んで対峙する一方のセルに水を180mL、他方のセルに燃料(ヒドラジン水和物10重量%及びKOH4.19重量%を含有する水溶液)180mLを収容した後、素早く30℃の水浴中にセルを設置して、セル内を撹拌した。攪拌開始の時点を基準時として、一定時間毎に、水を収容したセルからセル内の溶液を2mL採取した。また、これと同時に、双方のセルの液面を同一とし、液面の高さが異なることにより生じる圧力差によって透過量が揺らいだり変化したりすることを抑制するために、燃料を収容したセルからもセル内の溶液を2mL採取した。水を収容したセルから採取した溶液を希釈し、得られた希釈液を、電位差自動滴定装置(AT−510:京都電子工業株式会社製)を使用して、濃度0.05規定の塩酸水溶液で滴定し、当該溶液におけるヒドラジンの含有量を求めた。求めた含有量から、アニオン交換膜を透過したヒドラジンの透過量を算出し、さらに、単位膜面積、単位時間あたりのヒドラジン透過量の変化から、アニオン交換膜のヒドラジン透過係数[mmol/(m・hr)]を算出した。なお、上記ヒドラジン透過量は、一定時間毎に上述の手法にてヒドラジン含有量を確認し、該含有量の時間変化(基準時から溶液採取時の時間を横軸に、各溶液採取時のヒドラジン含有量を縦軸にとったグラフの傾き)から算出した。
【0099】
[アルカリ耐久性の評価]
実施例又は比較例で得られたアニオン交換膜を用いて、それぞれアルカリ耐久性の評価を以下のように行った。
【0100】
作製したアニオン交換膜を裁断し、イオン交換容量測定用の試験片を作製した。この試験片の塩化物イオン量の測定値を、試験前の塩化物イオン量とした。
【0101】
10重量%のヒドラジン水和物と1mol/L(1M)のKOHとを含む水溶液、及び10重量%のヒドラジン水和物と5mol/L(5M)のKOHとを含む水溶液を準備した。それぞれの水溶液の温度を80℃に維持した。これらの水溶液に、試験片を浸漬し、所定時間経過後に試験片を取り出し、それぞれの試験片について、塩化物イオン量を測定した。この測定値を、試験後の塩化物イオン量とした。
【0102】
試験前の塩化物イオン量に対する、試験後の塩化物イオン量の比率(試験後の塩化物イオン量/試験前の塩化物イオン量)を、官能基維持率(%)とし、アルカリ耐久性の評価の指標とした。
【0103】
なお、上記の塩化物イオン量は以下のように測定した。試験片を3mol/L(23℃)の塩化ナトリウム水溶液に10時間以上浸漬し、アニオン交換膜の対アニオンを塩化物イオンへ変換した。その後、このアニオン交換膜を、1mol/Lの硝酸ナトリウム(NaNO
3)水溶液に12時間以上浸漬した。遊離してきた塩化物イオンを、0.05mol/Lの硝酸銀(AgNO
3)水溶液を用いて滴定した。
【0104】
[面積変化率(%)の評価]
所定の寸法に裁断したアニオン交換膜のサンプルを、25℃相対湿度60%の雰囲気下に12時間以上静置した後、サンプルの面積S
0を測定した。次に、このサンプルを30℃の純水中に2時間以上浸漬し、充分に水を保持させた時点でのサンプルの面積S
1を測定した。面積変化率(%)は、以下の式で算出した比率である。
面積変化率(%)=[(S
1−S
0)/S
0]×100
【0105】
(合成例1)
超高分子量ポリエチレン粉末(三井化学製、ハイゼックスミリオン240M)を金型に充填し、温度25℃で100kg/cm
2の圧力を10分間加えて圧縮予備成形した後、圧力を30kg/cm
2まで下げるとともに温度を210℃に上げ、この状態を120分間保って超高分子量ポリエチレン粉末を溶融させた。次に、圧力を100kg/cm
2まで上げて、この圧力を保ちながら120分間で室温まで冷却して金型から取り出し、外径80mm、内径40mm、長さ80mmの焼成されたブロックである円筒状成形物を得た。次に、当該成形物を切削加工して、厚さ25μmのスカイブフィルムを得た。このフィルムを測定対象物としてGPC測定して求めた重量平均分子量Mwは154万であった。このフィルムを基体1とした。
【0106】
窒素雰囲気下にて、上記の基体1に電子線を照射した。電子線の照射は室温で行った。電子線は、基体の一方の主面から、加速電圧250kV、照射線量90kGyで照射した。電子線照射後の基体を基体2とし、ドライアイスを用いてドライアイスの温度まで冷却し、次の工程を実施するまで保管した。
【0107】
(合成例2)
窒素雰囲気下にて、膜厚50μmの高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム(タマポリ製、HD)に電子線を照射した。電子線の照射は室温で行った。電子線は、基体の一方の主面から、加速電圧250kV、照射線量90kGyで照射した。電子線照射後の基体を基体3とし、ドライアイスを用いてドライアイスの温度まで冷却し、次の工程を実施するまで保管した。
【0108】
(実施例1)
単量体として4−ビニルフェニルアセテート(VPAc)550gを用意し、これを窒素ガスでバブリングして、単量体中の酸素を除去した。VPAcは室温で液体状であるため、溶媒は用いなかった。この単量体を70℃に昇温し、液温を70℃に維持しながら、基体2を4分間浸漬させることにより、グラフト重合を進行させた。次に、グラフト重合後の基体を重合溶液から取り出し、トルエンに1時間以上浸漬して洗浄した。さらにアセトンで30分間洗浄した後、60℃の乾燥機で乾燥した。得られた膜のグラフト率は68%であった。
【0109】
次に、室温において、上記のグラフト膜を1mol/LのKOH含有メタノール溶液に2時間浸漬してけん化し、ポリビニルフェノール構造を有するグラフト膜を得た。
【0110】
次に、30重量%のブロモブチルブチルジメチルアンモニウムブロミドと1mol/LのKOHとを含む水溶液に、けん化後のグラフト膜を室温にて12時間浸漬した。KOH水溶液で処理後のグラフト膜を、純水に1時間以上浸漬させて洗浄した。この洗浄は複数回行った。その後、1mol/LのKOH水溶液に2時間浸漬して、グラフト膜のイオン交換を行った。その後純水で洗浄した後、純水中にグラフト膜を浸漬し、炭酸ガスを用いて30分間バブリングし、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0111】
(実施例2)
基体の浸漬時間を7分間とした以外は、実施例1と同様に行い、VPAcをグラフト重合した膜(グラフト率85%)を得た。その後のけん化以降の工程は、実施例1と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0112】
(実施例3)
基体の浸漬時間を11分間とした以外は、実施例1と同様に行い、VPAcをグラフト重合した膜(グラフト率133%)を得た。その後のけん化以降の工程は、実施例1と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0113】
(実施例4)
基体の浸漬時間を15分間とした以外は、実施例1と同様に行い、VPAcをグラフト重合した膜(グラフト率163%)を得た。その後のけん化以降の工程は、実施例1と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0114】
(比較例1)
単量体として、4−(クロロメチル)スチレン550gを用意した。これを窒素ガスでバブリングして、単量体内の酸素を除去した。4−(クロロメチル)スチレンは室温で液体状であるため、溶媒は用いなかった。この単量体を70℃に昇温し、液温を70℃に維持しながら、基体2を10分間浸漬させることにより、グラフト重合を進行させた。次に、グラフト重合後の基体を重合溶液から取り出し、トルエン中に1時間以上浸漬して洗浄した。さらにアセトンで30分間洗浄した後、洗浄後の膜を60℃の乾燥機で乾燥した。乾燥後に得られたグラフト膜のグラフト率は66%であった。
【0115】
乾燥後の膜を、トリエチルアミンのエタノール溶液(アルドリッチ製、濃度30重量%)に室温で12時間浸漬し、グラフト膜のクロロメチル基部分の4級化処理を行った。4級化処理後のグラフト膜を、エタノールを用いて30分間洗浄した後、1mol/LのHClを含むエタノール溶液を用いて30分間洗浄した。その後純水を用いてさらに洗浄した。得られた膜を1mol/LのKOH水溶液に2時間浸漬してイオン交換した。その後、純水で洗浄した後、純水中に浸漬し、炭酸ガスを用いて30分間バブリングし、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0116】
(比較例2)
基体の浸漬時間を14分間とした以外は、比較例1と同様に行い、4−(クロロメチル)スチレンをグラフト重合した膜(グラフト率86%)を得た。その後の4級化処理以降の工程は、比較例1と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0117】
(比較例3)
基体の浸漬時間を30分間とした以外は、比較例1と同様に行い、4−(クロロメチル)スチレンをグラフト重合した膜(グラフト率100%)を得た。その後の4級化処理以降の工程は、比較例1と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0118】
(比較例4)
単量体としてVPAc550gを用意し、これを窒素ガスでバブリングして、単量体中の酸素を除去した。VPAcは室温で液体状であるため、溶媒は用いなかった。この単量体を70℃に昇温し、液温を70℃に維持しながら、基体3を5分間浸漬させることにより、グラフト重合を進行させた。次に、グラフト重合後の基体を重合溶液から取り出し、トルエンに1時間以上浸漬して洗浄した。さらにアセトンで30分間洗浄した後、60℃の乾燥機で乾燥した。得られた膜のグラフト率は14%であった。
【0119】
次に、室温において、上記のグラフト膜を1mol/LのKOH含有メタノール溶液に2時間浸漬してけん化し、ポリビニルフェノール構造を有するグラフト膜を得た。
【0120】
次に、30重量%のブロモブチルブチルジメチルアンモニウムと1mol/LのKOHとを含む水溶液に、けん化後のグラフト膜を、室温にて12時間浸漬した。KOH水溶液で処理後のグラフト膜を、純水に1時間以上浸漬させて洗浄した。この洗浄は複数回行った。その後、1mol/LのKOH水溶液に2時間浸漬して、グラフト膜のイオン交換を行った。その後純水で洗浄した後、純水中にグラフト膜を浸漬し、炭酸ガスを用いて30分間バブリングし、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0121】
(比較例5)
基体の浸漬時間を15分間とした以外は、比較例4と同様に行い、VPAcをグラフト重合した膜(グラフト率58%)を得た。その後のけん化以降の工程は、比較例4と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0122】
(比較例6)
基体の浸漬時間を60分間とした以外は、比較例4と同様に行い、VPAcをグラフト重合した膜(グラフト率77%)を得た。その後のけん化以降の工程は、比較例4と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0123】
(比較例7)
VPAc単量体を50℃に昇温し、液温を50℃に維持しながら、基体3を960分間浸漬させた以外は、比較例4と同様に行い、VPAcをグラフト重合した膜(グラフト率165%)を得た。その後のけん化以降の工程は、比較例4と同様に行い、対イオンが炭酸イオンである4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換膜を得た。
【0124】
表1に、実施例及び比較例で得られたアニオン交換膜のグラフト率、イオン交換容量、面積変化率、イオン伝導度、ヒドラジン透過係数及びイオン伝導度[mS/cm]に対するヒドラジン透過係数[mmol/m・hr]の比を示す。また、表2に、実施例4及び比較例3で得られたアニオン交換膜の官能基維持率を示す。表1の面積変化率の「−」は、測定していないことを示す。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表1からわかるように、実施例で得られたアニオン交換膜と比較例で得られたアニオン交換膜とを比較すると、イオン交換容量が近いサンプル(実施例3と比較例1)では、ほぼ同等のイオン伝導度及びヒドラジン透過係数の結果が得られた。なお、両者のグラフト率が異なるのは、グラフト鎖の構成単位当たりの分子量が異なるためである。表2の結果から、実施例4で得られたアニオン交換膜は、比較例3で得られたアニオン交換膜よりもアルカリ耐久性が向上していることが分かる。特に、高濃度のアルカリ環境下ではその差は非常に大きかった。
【0128】
表1からわかるように、イオン交換容量の近いサンプル(実施例4と比較例7)では、実施例4のアニオン交換膜の面積変化率、イオン伝導度[mS/cm]に対するヒドラジン透過係数[mmol/m・hr]の比は、比較例7のアニオン交換膜よりもそれぞれ小さくなった。これは、実施例で用いた基体が超高分子量ポリエチレンであるためである。グラフト率を低くすることによって、比較例7で得られたアニオン交換膜よりも面積変化率及びヒドラジン透過係数の小さなアニオン交換膜が得られた(比較例4)。しかし、比較例4のアニオン交換膜はイオン伝導性をほぼ示さなかったことから電解質膜としての使用に適していなかった。