特許第6375055号(P6375055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6375055放射線治療を最適化するための方法、コンピュータプログラムおよびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375055
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】放射線治療を最適化するための方法、コンピュータプログラムおよびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   A61N5/10 P
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-511331(P2017-511331)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公表番号】特表2018-510664(P2018-510664A)
(43)【公表日】2018年4月19日
(86)【国際出願番号】EP2016064551
(87)【国際公開番号】WO2016207286
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2017年5月10日
(31)【優先権主張番号】15173971.1
(32)【優先日】2015年6月25日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516027694
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ,エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グリメリウス,ラース
(72)【発明者】
【氏名】エルスマーク,トア
(72)【発明者】
【氏名】ジャンソン,マーチン
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−502264(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/114159(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療装置の作動方法であって、前記作動方法がイオンビームの最大飛程を変更するためにビームエネルギーを適合するためのエネルギー適合手段を備えたパッシブ装置によりイオンビームが成形される、イオン治療のための放射線治療計画を最適化する方法であ
前記エネルギー適合手段は、飛程調整装置又はリッジフィルタを含み、前記医療装置はプロセッサ(53)と、データメモリ(54)と、およびプログラムメモリ(55)とを備え、かつ前記プロセッサ(53)が前記プログラムメモリ(55)に格納されるコンピュータプログラムによって以下の工程を実行する:
a.患者の領域に送達される線量に関する少なくとも1つの線量目的を含む目的関数を定義する工程、
b.前記エネルギー適合手段に関する少なくとも1つの最適化変数のために少なくとも1つの初期値を含む初期値セットを定義し、かつ前記初期値セットを現在の値セットとして定義する工程、
c.前記現在の値セットから得られる線量分布を決定する工程、
d.前記線量分布を前記線量目的に対して評価する工程、
e.前記目的関数を別の値セットについて評価すべきか否かを決定し、評価する場合は工程fを行い、評価しない場合は工程gに進む工程、
f.前記初期値セット内の少なくとも1つの初期値を修正して修正された値セットを生成し、前記修正された値セットを前記現在の値セットとして定義した後、工程cに戻る工程、
g.前記放射線治療計画で使用される前記値セットのうちの1つを選択する工程、
包含する医療装置の作動方法
【請求項2】
工程e)における決定は前記線量分布が特定の許容差内で前記線量目的を満たすか否かに基づいている、請求項1に記載の医療装置の作動方法
【請求項3】
前記線量目的は、前記患者の選択された領域の最小の線量および/または前記患者の第2の選択された領域の最大の線量を含む、請求項1または2に記載の医療装置の作動方法
【請求項4】
前記パッシブ装置は飛程補償装置を更に備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医療装置の作動方法
【請求項5】
前記パッシブ装置はブロックを更に備え、且つ前記少なくとも1つの最適化変数はブロック開口部のサイズ及び/又は形状を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療装置の作動方法
【請求項6】
前記ブロック開口部は画素に関して定義されているか、あるいは前記ブロックの輪郭多角形の頂点に関して定義されている、請求項5に記載の医療装置の作動方法
【請求項7】
前記初期値セットは、前記飛程補償装置の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれにおける第1および第2の厚さ値および前記ビームエネルギーから得られる拡大ブラッグピーク(SOBT)飛程および幅に関する値および飛程調整装置の選択を含む、請求項4に記載の医療装置の作動方法
【請求項8】
前記初期値セットは、前記パッシブ装置の少なくとも2つに関する少なくとも2つの最適化変数のそれぞれのための少なくとも1つの初期値を含む、請求項4〜7のいずれか1項に記載の医療装置の作動方法
【請求項9】
前記線量目的からの最大の偏差を設定し、かつ工程e)では修正された値セットによって最大の偏差未満だけ前記線量目的とは異なる線量分布に到達した場合に工程g)を続けて行うことを決定する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医療装置の作動方法
【請求項10】
工程e)では指定された数の値セットを評価した場合に工程g)を続けて行うことを決定し、ここでは、前記線量目的との最良の一致が得られる値セットが選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医療装置の作動方法
【請求項11】
コンピュータで実行すると前記コンピュータに請求項1〜10のいずれか1項に記載の医療装置の作動方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項12】
媒体に格納された請求項11に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項13】
前記プロセッサ(53)を備え、かつ請求項11または12に記載のコンピュータプログラム製品を実行すると前記プロセッサ(53)が制御されるように前記コンピュータプログラム製品がその中に格納された前記プログラムメモリ(55)を有する、放射線治療のために線量計算を行うためのコンピュータシステム(51)。
【請求項14】
最適化方法を実行した際に前記プロセッサ(53)によって使用されるデータ、例えば、前記患者に関する画像データ、初期治療計画および/または少なくとも1つのシナリオに関する情報を保持するように構成された前記データメモリ(54)をさらに備える、請求項13に記載のコンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療計画、特にイオン(例えば、プロトン(陽子)または炭素のようなより重いイオン)のビームで腫瘍を標的にするイオン治療の最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は癌などの疾患を治療するためによく使用されている。各種放射線源を使用することができる。現在使用されている主な種類の放射線は光子線である。光子線治療よりも高価であるが、プロトンおよび炭素治療などのイオンを用いた治療法がそれらの利点により、より一般的になりつつある。光子は患者の体を通り抜けて経路全体に沿ってエネルギーを放出するが、イオンビームは非常に僅かしか横方向に散乱せず、患者の体内において所望の深さで停止させることができる。また、イオンビームは体内を移動して停止する際に多くのエネルギーを放出する。イオンを所望の標的領域、典型的に腫瘍を通過した直後に停止させるように治療を計画することができる。従って、所望の標的領域にそのエネルギーの大部分を放出し、かつ光子と比較して周囲組織にあまり放出しないようにイオン放射線治療を計画することができる。
【0003】
イオン放射線治療のために2つの主な技術、すなわちパッシブ治療およびペンシルビームスキャニングが使用されている。パッシブ治療では、幅広い放射線場が照射され、標的に可能な限り正確に一致するようにビームを成形するために物理的要素が使用される。ビームエネルギーにより患者の体内におけるビームの最大飛程を制御する。高線量領域の幅、すなわち拡大ブラッグピーク(SOBP)は、例えば飛程調整装置またはリッジフィルタによって制御される。基本原理は、飛程調整装置内の異なるステップまたはリッジフィルタのリッジ形状のいずれかにより達成される高線量領域が平坦になるように、異なる重みを有する複数のエネルギーを1つにまとめることである。他の物理的要素は典型的に、ビームを横方向に成形するためにビームが通る所望の形状を有するトンネルを形成する、タングステンまたは黄銅などの非透過性材料からなるブロックを含む。別の要素は、患者の体内においてビームの最大深さに影響を与えるようにビーム軌道内に配置される飛程補償装置である。この補償装置はイオンビームの局所飛程を短くするものであり、腫瘍の形状を補償するために非均一に成形されている。標的の深さは水等価深さとして示され、幾何学的距離ならびにビーム経路に沿った密度および物質分布によって決まる。患者の体内においてビームがより短い水等価深さを移動しなければならない領域では、飛程補償装置は他の領域よりも厚くなる。ペンシルビームスキャニングでは、3次元全てにおいて腫瘍をカバーするために多数の小さい(ペンシル)ビームが使用される。これは各ビームの強度、位置および飛程を個々に変更することで達成される。ブロックおよび飛程補償装置をペンシルビームスキャニング技術と共に使用できることにも留意されたい。主な目的は、横方向ビーム端部(周辺部)を鋭くして、各エネルギー層をそれぞれ腫瘍により良好に適合させることである。
【0004】
従って、主な課題のうちの1つは、腫瘍を通過する所与のビームに沿って腫瘍の遠隔端まで正確な距離を移動するようにイオンビームを成形および調整するようにブロックおよび補償装置を設計することである。これは従来では患者の幾何学形状の光線追跡によって達成されており、つまり、その道に沿った物質組成を考慮し、かつこの情報を使用して腫瘍領域と放射線源から発せられたビームとの交差部分を計算してブロックおよび補償装置を成形する。
【0005】
国際公開第2008/114159号は、主として光子を用いた放射線治療計画のための装置および方法を開示している。治療プランナーを使用して、治療目的、例えば線量目的、治療装置によって供給されるエネルギーなどの治療装置目的、および減衰器またはMLC設定などの治療装置パラメータ目的、または時間変化率に関連する目的の重み付きの組み合わせに基づいて治療を最適化する。
【0006】
光子を用いた放射線治療のために開発された解決法は、イオンを用いた放射線治療に容易に適用することはできない。特に、ビームを調整および成形するために使用される装置は異なる。なお、補償装置と呼ばれる装置は光子を用いた放射線治療およびイオンを用いた放射線治療の両方のために使用されるが、これらの補償装置は基本的に異なる性質のものである。光子のために使用される補償装置はビームから光子を取り除くことにより光子ビームを減衰させる。イオンのために使用される補償装置はイオンの飛程、すなわちそれらが患者の体内を移動する水等価距離を調整する。従って、この後者の種類の補償装置を飛程補償装置と称することができる。
【0007】
複雑な患者の幾何学形状および腫瘍形状の場合、その計算は非常に難しくなることがある。事例の中にはあまりに複雑であるために最適な計画を手動で作成することが実際に不可能なものも存在し得る。例えば、重要臓器が標的の一部を放射線源から遮断している場合、パッチ照射と呼ばれる技術を使用することができ、この技術では、標的の異なる部分を異なる角度からイオンビームで照射して重要臓器を完全に回避する。そのような場合、イオンビーム間の境界領域において均一な線量分布を達成するのは難しい。Liらの「A novel patch-field design using an optimized grid filter for passively scattered proton beams(受動散乱されるプロトンビームのための最適化された格子フィルタを用いた新規なパッチ照射場設計)」, Phys. Med. Biol. 52 (2007) N265-N275は、標的の一部を貫通場に曝し、かつ標的の別の部分を、貫通場と共に均一なほぼL字型の場を形成すると思われるパッチ照射場に曝すパッチ照射戦略を開示している。パッチ照射場と貫通場との間の境界領域における不完全性を補償するために、Liらは、補償装置を操作して補償装置の異なる材料の厚さの繰り返しパターンを用いる格子フィルタによりパッチ照射場の遠位フォールオフを設計することを提案している。これにより遠位フォールオフ領域にブラーリング効果を生じさせ、主ビームの横方向フォールオフにおいて勾配を一致させることができる。これにより境界領域における線量均一性を改善することができるが、これはこの特定の事例のみを対象にする。例えば、これはパッチ照射領域の異なる部分において均一性が異なるような事例は対処しない。さらに、あらゆるビーム設計のためにビームエネルギー、飛程調整装置、ブロックおよび補償装置を設計するのは一般的な方法ではない。
【発明の概要】
【0008】
従って、本発明の目的は、イオン治療を用いる放射線治療計画の最適化の向上を可能にすることにある。
【0009】
本発明は、ビームの最大飛程を変更するためにビームエネルギーを適合するためのエネルギー適合手段、ブロックおよび飛程補償装置のうちの少なくとも1つを備えたパッシブ装置によりイオンビームが成形される、イオン治療のための放射線治療計画を最適化する方法であって、
a.患者の領域に送達される線量に関する少なくとも1つの線量目的を含む目的関数を定義する工程、
b.パッシブ装置の少なくとも1つに関する少なくとも1つの最適化変数のために少なくとも1つの初期値を含む初期値セットを定義し、かつ初期値セットを現在の値セットとして定義する工程、
c.現在の値セットから得られる線量分布を決定する工程、
d.線量分布を線量目的に対して評価する工程、
e.目的関数を別の値セットについて評価すべきか否かを決定し、評価する場合は工程fを行い、評価しない場合は工程gに進む工程、
f.初期値セット内の少なくとも1つの初期値を修正して修正された値セットを生成し、修正された値セットを現在の値セットとして定義した後、工程cに戻る工程、
g.値セットのうちの1つを選択して放射線治療で使用する工程
を含む方法に関する。
【0010】
本発明によれば、逆方向治療計画を使用してパッシブ装置の最終形状を決定する。
【0011】
これによりパッシブ装置の自動最適化を可能にし、治療計画を作成するために必要な手動編集量を減らす。従って、本発明によれば、先行技術の方法と比較して特に複雑な事例のために治療計画の品質を改善することができ、非常に複雑であるため手動で取り扱うことができない事例のために高品質治療計画を決定することもできる。また、先行技術の方法を用いた場合よりも短い時間で治療計画を作成することができる。
【0012】
上に記載したように、SOBP幅を適合するための手段は飛程調整装置であってもリッジフィルタであってもよい。ブロックはビームを横方向に成形するように設けられている。患者の体内におけるビームの最大深さに影響を与えるようにビームエネルギーを適合する。飛程補償装置は、主にイオンビームの局所飛程に影響を与えるように配置されており、腫瘍の形状を補償するために非均一に成形されている。
【0013】
別の利点は、不確定性(例えば、ビーム飛程および患者のセットアップにおける不確定性)を考慮に入れることができることである。本発明に係る方法は順方向治療計画ではなく最適化アルゴリズムに基づいているため、ロバストな最適化を使用することができる。これにより、例えば患者の正確な位置またはビーム飛程における不確定性を考慮に入れることが可能となる。
【0014】
工程e)における決定は、線量分布が特定の許容差内で線量目的を満たしているか否かに基づいていることが好ましい。好ましい実施形態では、線量目的からの最大の偏差を設定し、工程e)では修正された値セットによって最大の偏差未満で線量目的とは異なる線量分布に到達した場合に工程g)を続けて行うことを決定する。これにより、得られた治療計画が最小の品質要求を満たすことを保証する。
【0015】
あるいは、工程e)では、指定された数の値セットを評価した場合に工程g)を続けて行うことを決定し、ここでは線量目的との最良の一致が得られる値セットが選択される。例えば満足な線量分布が達成されている場合に本手順が工程g)を続けて行い、指定された数の値セットを計算した後に最大の偏差にまだ満たない場合に本プロセスが工程g)を続けて行うように、工程e)の2つの異なる診断基準を1つにまとめてもよい。
【0016】
当該技術分野において一般的なように、線量目的は、患者の選択された領域の最小の線量および/または患者の第2の選択された領域の最大の線量を含むことが好ましい。
【0017】
好ましい実施形態では、パッシブ装置はビームを成形するためのブロック開口部を有するブロックを備え、初期値セットは、ブロック開口部のサイズおよび/または形状を含む。当該技術分野において一般的なように、ブロック開口部は画素に関して定義されていてもよく、あるいはブロックの輪郭多角形の頂点に関して定義されていてもよい。
【0018】
好ましい実施形態では、初期値セットは、飛程補償装置の少なくとも第1および第2の部分のそれぞれにおける第1および第2の厚さ値および/またはビームエネルギーから得られるSOBP飛程および幅に関する値ならびに飛程調整装置の選択を含む。
【0019】
特に好ましい実施形態では、初期値セットは、パッシブ装置の少なくとも2つに関する少なくとも2つの最適化変数のそれぞれのための少なくとも1つの初期値を含む。これにより、瞬時に2つ以上の最適化変数に基づき治療計画を最適化することができる。好ましくはこの場合、初期値セットは、飛程補償装置の少なくとも第1および第2の部分における第1および第2の厚さ値と少なくとも1つの他の最適化パラメータとを含む。
【0020】
本発明は、コンピュータで実行するとコンピュータに上記実施形態のいずれかに係る本発明の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品にも関する。コンピュータプログラム製品は典型的に、ハードディスク、メモリスティックまたはコンピュータプログラムを保持するのに適したあらゆる他の種類のメモリなどの媒体に格納されている。
【0021】
本発明は、処理手段を備え、かつコンピュータプログラム製品を実行すると処理手段が制御されるように上に定義したコンピュータプログラム製品がその中に格納されたプログラムメモリを有する、放射線治療のために線量計算を行うためのコンピュータシステムにも関する。
【0022】
好ましくは、本コンピュータシステムは、最適化方法を実行した際に処理手段によって使用されるデータ、例えば、患者に関する画像データ、初期治療計画および/または少なくとも1つのシナリオに関する情報を保持するように構成されたデータメモリをさらに備える。
【0023】
以下では、添付の図面を参照しながら本発明についてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】パッシブイオン治療のためのシステムの例を示す。
図2】本発明に係る方法を用いて2つの放射線場が一緒にパッチ照射されるイオン治療のためのセットアップを示す。
図3】セットアップのロバスト性を高めるための本発明の概念の別の適用を示す。
図4】患者の体内へのプロトンビームの透過および拡大ブラッグピーク(SOBP)を示す。
図5】本発明に係る方法のフローチャートである。
図6】本発明に係るコンピュータの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明を実装することができるパッシブイオン治療のためのシステムの例を概略的に示す。イオン治療を受ける患者1が図1の右側に概略的に示されている。患者1の体内の関心領域ROIすなわち標的3は、放射線治療を受ける臓器または他の組織を表す。標的3の最大の幅はwとして印されている。当該技術分野において一般的なように、患者の体内において放射線を回避することが特に重要となる領域である規定の重要領域が存在する場合もあるが、図1には図示されていない。
【0026】
放射線源5は、典型的には標的3の遠位端に到達する所望の最大飛程を達成するのに十分なエネルギーを有するイオンビーム7を供給する。典型的には1つまたは2つの散乱装置(図示せず)が幅広い放射線場を生成するように配置されている。あるいは均一なスキャニング技術またはワブラー法(wobbling)を使用して幅広い放射線場を生成してもよい。ビームにおける強度が不均一なペンシルビームスキャニング技術では、散乱装置は必要ではない。さらに、ブロックおよび/または補償装置を使用してエネルギー層を標的の形状に一致させてもよい。その後、パッシブ装置を用いて線量を標的すなわち関心領域に対して成形する。最初に、図4に関連して以下により詳細に述べるように、拡大ブラッグピークを生成するために放射線の経路に飛程調整装置9を配置する。つまり、飛程調整装置9は、標的3の領域をカバーするのに十分な幅でなければならないSOBPの(ビーム方向に沿った)幅wを決定する。飛程調整装置9の後にブロック11を配置してビームを横方向に成形する。典型的にイオンが透過しない黄銅または他の材料でできたブロック11は、ビームを通過させるための開口部13を有する。標的3は典型的に、標的の遠位端までの水等価距離が標的にわたって変動するような不規則な形状を有する。例えば、図1では、標的3の下部は、その上部よりも患者の体1の中にさらに延在している。患者の幾何学形状も標的までの(水等価)距離に影響を与える。距離を計算するために、ビームは体内を移動しなければならず、体組織は水と同じ特性を有すると推定し、骨または空洞域は異なる方法で距離に影響を与える。幾何学的距離と比較した場合、ビーム経路内の骨領域は例えば水等価深さを増加させ、空洞はそれを減少させる。
【0027】
最大のイオンビーム飛程が標的上の最遠位点と一致するように、ビームエネルギーは選択される。当然ながら、より複雑な患者の幾何学形状および標的形状が生じることが多く、その飛程は標的の少なくとも一部には大き過ぎる。腫瘍の遠位端までの水等価距離におけるばらつきを補償するために、飛程補償装置15を導入して、イオンビームの断面にわたって局所飛程を制御する。これは図1に図示されていないが、飛程補償装置の厚さを当該技術分野でよく知られている方法でビーム軌道によって変化させてビームエネルギーを各点において標的の遠位端に適合させる。対応する量の補償装置材料を特定の位置において患者の前方に追加することにより、飛程は短くなり、線量は標的の遠位端に一致する。これを可能限り正確に制御して、ROI外の患者の部分に対する不要な放射線を回避しなければならない。飛程補償装置の異なる点において異なる程度にイオンビームの飛程を短くするように飛程補償装置15が配置されているため、イオンビームはROIの任意の点においてROIの遠位端程の遠くまで到達する。
【0028】
ペンシルビームスキャニング治療中にブロック11および飛程補償装置15を使用することもできる。この場合、異なる位置、飛程および強度を有する多数の小さいペンシルビームによりイオンビームを生成する。このスキャニング技術により線量を標的に十分に一致させることができる。従って、ブロックは主にビームの周辺部すなわち横方向端部を鋭くするために使用される。この場合、飛程補償装置15を使用して最も高いエネルギー層を標的3の遠位端に確実に一致させてもよい。従って、本発明の基本原理はパッシブ治療システムおよび方法に限定されず、全種類のイオン治療システムに使用することができる。
【0029】
放射線治療の目的は、均一でありながらも等角である線量を標的3に与え、かつ標的外には可能な限り少ない放射線を与えることにある。これはビーム拡散が原因で難しい場合がある。不均一な患者の幾何学形状および複雑な標的形状によりその難しさが増す。いくつかの特に複雑な状況では、2つ以上の放射線場を一緒にパッチ照射し、かつ/または一致させて標的全体に均一な線量を与える。そのような例は標的ROI23を含む患者21を概略的に示す図2で確認することができ、そこでは標的23の一部が重要臓器24によって遮断されており、放射線を与えることができない。放射線が重要臓器24に到達しないにようにビームを成形しなければならないが、標的23全体を治療しなければならない。重要臓器24を傷つけることなく標的23全体に到達することができるようにするために、第1の貫通場27および第2の場29を図2に示すように一緒にパッチ照射しなければならない。第1の貫通場27は2つの点線の垂直線によって図2に図示されており、第2の場29は2本の破線の水平線によって図示されている。この場合、第2の場29は遠位端が第1の場27の横方向端部に一致してL字型を形成するように成形されているが、場合によってはさらにより複雑な形状が必要になる場合がある。線量勾配の違いにより、第1および第2の場の間の境界領域における線量分布が不均一になるのは一般的なことである。それどころか、この境界は治療にマイナスの影響を与えるホットスポットおよびコールドスポットを通常含む。
【0030】
本発明に係る方法により、セットアップの不確定性を異なる方法で考慮することもできる。図3はこれを適用することができるセットアップを示す。患者31は2本の水平の破線34によって表されているイオン放射線の標的線量を受ける標的ROI33を有する。標的の遠位端まで患者の体を通る幾何学的距離は標的にわたって実質的に同じであるが、2つの構造、すなわち水等価距離を増加させる骨構造35および水等価距離を減少させる空洞36は腫瘍までの水等価距離に影響を与える。当該技術分野において一般的なように、飛程補償装置38はイオンビームの飛程を制御して水等価深さを一致させるように配置されている。ビームが軟組織のみを通過する領域では、飛程補償装置は第1の厚さw1を有する。骨構造35および空洞36によって引き起こされる水等価深さにおけるばらつきを補償するために、飛程補償装置38は、この領域での水等価距離の増加を補償するために骨構造35の領域に一致する第1の厚さw1よりも薄い領域を有する。飛程補償装置38は、この領域での水等価距離の減少を補償するために空洞36の領域に一致するw1よりも厚い領域も有する。
【0031】
図から分かるように、当該装置または患者が一方向に少し移動した場合、より大きい厚さを有する飛程補償装置の領域が、理想的には厚さが第1の厚さw1でなければならない領域または骨構造35の影響に対処するためにw1よりも大きくなければならない領域においてビームに影響を及ぼすリスクがある。従来では、そのような不確定性は、より小さい厚さの領域の拡大を行うボケ技術によって対処される。本発明の一態様によれば、そのような状況を、代わりにロバストな最適化方法を適用することにより本発明の方法に従って対処することができる。これはシナリオに基づく逆方向治療計画を含み、そこでは位置および密度における各不確定性が離散化され、線量計算に含められる。次いで、目的関数の評価は単なる名目上のシナリオの代わりに全てのシナリオ(または場合により最悪の事例)の組み合わせに目を向ける。
【0032】
図4は、深さの関数として相対線量の観点から患者の体内のプロトンビームの拡大ブラッグピークSOBPを概略的に示す。図から分かるように、線量は平坦域から最大値(距離wにわたって一定である)になるまで増加する。拡大ブラッグピーク後に、線量は短い距離の中でゼロまで低下する。ビームの最大飛程はRとして示されている。理想的には、最大線量の領域は図1に示す標的幅と一致しなければならない、すなわちプロトンビームが標的を通って移動する際に最大放出エネルギーが生じなければならず、その後、放出エネルギーは可能な限り早くゼロまで低下しなければならない。他のイオンの深さ線量形状は、核分裂片から生じるSOBP後の低い線量テールが存在すること以外はプロトンの場合と同様である。
【0033】
放射線治療を最適化するために、ビームの飛程およびパッシブ装置、すなわち飛程調整装置9、ブロック11および飛程補償装置15の設計を変更してもよい。従来では、これは患者の幾何学形状の光線追跡を用いてパッシブ装置の設計を計算することにより、順方向治療計画法によって行われている。
【0034】
SOBP飛程を決定するために、従来では、ビーム内の全ての点iについて標的の遠位端の水等価深さを追跡することによりビーム方向に沿った標的の最大飛程Rを計算する。次いで、遠位端までの最大の水等価距離として最大標的飛程を計算する。
【数1】
次いで、ビームの最大飛程が標的の最大飛程Rと等しくなるかそれよりも僅かに大きくなるようにビームエネルギーを選択する。
【0035】
SOBP幅を決定するために、従来では、ビーム内の全ての点iについて標的の遠位端および近位端の水等価深さを追跡することにより、ビーム方向に沿った標的の最大幅wを計算する。次いで、最大標的幅を遠位端と近位端との最大差として計算する。
【数2】
【0036】
次いで、その対応するSOBP幅が最大標的幅と等しくなるかそれよりも僅かに大きくなるように飛程調整装置を選択する。
【0037】
ブロックの輪郭を決定するために、従来ではビームの全ての部分を追跡し、標的に的中したか否かを登録し、このようにして標的端部が位置している場所を見つける。ビーム拡散により線量はビーム端部において低下し、その結果、標的端部において線量は低下する。これはブロックの輪郭を横方向に典型的に0.5〜1cm拡大させることにより補償される。ブロックの輪郭は、標的領域のサイズに応じて数cmから20〜30cmの範囲の幅であってもよい。
【0038】
飛程補償装置を決定するために、従来では、ビーム内の全ての点iについて遠位端の水等価深さを計算し、対応する補償装置の厚さを、
【数3】
として計算する。
【0039】
本発明によれば、線量に基づく最適化を用いてパッシブ装置の最終形状を決定するために、上記方法の代わりに逆方向治療計画アルゴリズムを使用する。この目的のために、SOBP飛程および各パッシブ装置、すなわち飛程調整装置、ブロックおよび飛程補償装置のために異なる最適化変数を定義する。複数の線量最適化関数を準備することにより最適化問題を指定する。本発明に係る方法を用いて、全ての装置を同時に最適化することができる。
【0040】
図5に概略が示されているように、本方法は、線量最適化関数を設定し、かつそれらに重みを与える第1の工程S41を含み、通常は標的における最小および最大線量および1つ以上の重要リスク臓器における最大線量を含む。重み付きの線量最適化関数の組み合わせにより目的関数が得られ、これを使用して線量分布を評価する。
【0041】
工程S42では、最適化変数の初期値セットを設定し、工程S43では、この初期値セットで得られる初期線量分布を決定する。異なる装置のための可能な最適化変数について以下に説明する。
【0042】
工程S44では、現在の線量分布を線量目的と比較して目的関数を評価し、工程S45では、最適化を続けるべきか否かを決定する。最適化を続ける場合、本方法は工程S46を続けて行い、最適化を続けない場合、本方法は終了する。好ましくは、線量分布が特定の許容差内で線量目的を満たすまで最適化を続ける。これは典型的に標的全体に対して得られる線量が最小線量を超え、かつあらゆるリスク臓器に対して得られる線量がこの臓器の最大線量未満であることを意味する。
【0043】
任意の工程S46では、最適化変数に関する目的関数の導関数を計算する。これを使用して、次の工程で説明する最適化変数の最良の修正を決定することができるが、この修正は他の方法で決定してもよい。導関数計算の詳細について以下に説明する。
【0044】
工程S47では、変数値の少なくとも1つを変更して修正された値セットを生成する。修正された変数値セットで得られる線量分布を計算し、この新しい線量に対して目的関数を評価する、すなわち工程S43およびS44を繰り返す。上述のように、通常は、工程S46で得られている現在の線量分布が指定された許容差内で線量目的に一致すると判定されるまで工程S43〜S47を何回も繰り返す。その場合、放射線治療で使用するために最後の現在の値セットを選択する。あるいは、線量分布が各繰り返しを実質的に改善しなくなるまで、または複数の繰り返しが行われるまで最適化を続けてもよい。あるいは、工程S43〜S47を所定の回数で繰り返しもよく、評価された値セットの中で線量目的に最も一致する線量分布が得られる値セットを選択してもよい。
【0045】
SOBP飛程および飛程調整装置のための最適化変数はSOBPの飛程および幅を含む。SOBPの飛程および幅は連続的なものとして扱わなければならない。実際には、これは工程S47において非常に小さい増分で変化させなければならないことを意味する。特定の機械のために利用可能な飛程調整装置の種類に応じて、最適化を最終化する際に、この幅を次のより大きな飛程調整装置幅まで丸めなければならないことがある。
【0046】
例えば、導関数を使用する最適化アルゴリズムを用いる場合、SOBPの飛程または幅に関する線量の導関数を有限差分、すなわち飛程または幅(Δw)における小さい変化の間の線量差として計算する。
【数4】
【0047】
導関数を使用する最適化方法について上に説明してきたが、他の最適化方法、例えば焼きなまし法に基づく最適化方法を代わりに使用してもよい。
【0048】
ブロック11のために、本発明に係る2つの代替法が提案されている。
【0049】
第1の代替法では、ブロック開口部13の最適化のための最適化変数は、開口部比の行列として表され、ここでは、各画素は0(完全に覆われている)〜1(完全に開放されている)の値を有する。0〜1の画素値は、画素がブロックの輪郭によって部分的に覆われていることを意味する。これにより、完全に覆われている画素が外側にある状態で部分的に覆われている画素が開放された部分の端部に位置していなければならないという要件が生じる。導関数を使用する最適化アルゴリズムを用いる場合、開口部比に関する線量の導関数は画素からの線量寄与と等しいが、これは、開口部比における増加により線量の等しい増加が比例的に生じるからである。
【0050】
第2の代替法では、ブロック開口部の最適化のための最適化変数は、ブロックの輪郭多角形の全ての頂点の位置である。各頂点はxおよびy方向に移動し得る。導関数を使用する最適化アルゴリズムを用いる場合、頂点位置に関する線量の導関数を、有限要素を用いて、すなわち頂点のxおよびy位置における小さい変化の間における線量の差として計算してもよい。
【0051】
飛程補償装置15のための最適化変数は補償装置の行列の全ての画素における補償装置の厚さ値である。本発明によれば、最適化アルゴリズムの最大の柔軟性を可能にするために、補償装置の行列の各画素を個々に設定できることが好ましい。
【0052】
導関数の計算に基づく最適化アルゴリズムを用いる場合、補償装置の厚さに関する線量の導関数を有限差分として、すなわち厚さ(h)における小さい変化の間の線量の差として計算する。
【数5】
【0053】
導関数は各繰り返しにおいて補償装置画素ごとに計算する必要がある。計算速度を上げるために、各線量計画手順のために計算を行う必要がないように各画素における複数の補償装置の厚さの対応する線量分布を予め計算してキャッシュに入れることが好ましい。その後、導関数の計算はキャッシュに入れた線量分布の加算および除算のみとなる。補償装置の厚さの好適な範囲は1mm刻みで+/−1cmであってもよい。
【0054】
線量導関数を使用して工程S47において変数の最良の修正を決定することができるが、それらは全ての最適化アルゴリズムには必要ではない。
【0055】
飛程およびセットアップの不確定性を補償するために、ロバストな最適化を用いてパッシブ装置9、11、15を最適化することができる。これは、線量が名目上のシナリオだけでなく、全ての曖昧な飛程およびセットアップエラーの空間を跨ぐ複数のシナリオにとって最適であるようにそれらの形状が最適化されることを意味する。上に記載したロバストな最適化は、例えば患者の正確な位置またはビームの実際の飛程に関する不確定性を考慮する。
【0056】
図6は、本発明の方法を実施することができるコンピュータシステムの概略図である。コンピュータ51はプロセッサ53、データメモリ54およびプログラムメモリ55を備える。キーボード、マウス、ジョイスティック、声認識手段またはあらゆる他の入手可能なユーザ入力手段の形態のユーザ入力手段58も存在することが好ましい。
【0057】
治療計画、1つ以上の値セットおよび1つ以上の目的関数ならびに上記工程S45で使用される許容差レベルはデータメモリ54内に存在する。データメモリ内のデータは当該技術分野で知られている任意の方法で、コンピュータ51で生成してもよく、ユーザ入力手段によって入力してもよく、あるいは別の格納手段から受信してもよい。
【0058】
当然のことながら、データメモリ54は概略的にのみ示されている。それぞれが1つ以上の異なる種類のデータを保持するいくつかのデータメモリユニットが存在してもよく、例えば値セットのための1つのデータメモリ、目的関数のための1つのデータメモリなどが存在してもよい。
【0059】
プログラムメモリ55は、プロセッサを制御して図5に定義されている最適化を行うように構成されたコンピュータプログラムを保持する。当然のことながら、図5の方法の全ての工程が必ずしもコンピュータ51で実行されるわけではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6