(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1の前記仰角αは平均で20°〜60°である請求項1に記載の絶縁放熱基板。
導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1及び側面2の輪郭は共に内側に窪んだ湾曲線状である請求項1〜3の何れか一項に記載の絶縁放熱基板。
導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、最低部から前記接合面の接合端までの、導体の平面視輪郭の接線に対する法線方向の距離Lが平均で5μm〜30μmである請求項1〜4の何れか一項に記載の絶縁放熱基板。
側面1の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所は、前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に平均で200μm以下後退している請求項1〜5の何れか一項に記載の絶縁放熱基板。
側面1の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所は、前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に平均で20μm以上100μm以下後退している請求項6に記載の絶縁放熱基板。
【背景技術】
【0002】
HEV/EVや電車等の電力制御にパワー半導体モジュールが使用されている。パワー半導体モジュールは、例えばスイッチング素子、IGBT、MOSFETなどのパワー半導体、導体層を備えた絶縁放熱基板、冷却部材、及び、筺体で構成される。パワー半導体モジュールは、大電力制御を行うため高発熱であり、また、冷熱サイクル環境下で使用される。それゆえ、パワー半導体を実装する絶縁放熱基板には、接合強度、電気絶縁性、放熱性に加え、冷熱サイクルに対する信頼性(耐久性)が要求される。
【0003】
このような要求に対応する絶縁放熱基板として、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板などのセラミックス基板に薄銅板を直接接合したDCB(Direct Copper Bond)基板が広く知られている。また、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、あるいは窒化珪素基板などのセラミックス基板と薄銅板とを、活性金属を含むロウ材(接合材)を用いて形成される接合層を介して接合してなるAMB(Active Metal Bonding)基板も、絶縁放熱基板として広く知られている。このような絶縁放熱基板については、更なる高性能化を図るべく日夜研究開発が続けられている。
【0004】
例えば、特許第4051164号公報(特許文献1)によれば、回路層間の絶縁基板の表面粗さRmax及び厚みを制御することにより、金属箔、金属板等の配線回路層の絶縁基板への密着強度を高めることができるとともに、表面に無電解メッキを施した場合においても基板表面への活性液の残留によるメッキ付着を防止でき配線間のショートによる不良をなくすことができ、且つ熱抵抗の低い回路基板を得ることができるとされている。
【0005】
特許第4688380号公報(特許文献2)によれば、窒化珪素を主結晶相とする絶縁基板の表面粗さRmaxを制御することで、金属板と絶縁基板との接合強度を高めることができ、且つメッキ工程を経ても不具合が生じず、低コストの回路基板を得ることができるとされている。
【0006】
特許第5038565号公報(特許文献3)には、回路基板を構成するセラミックス基板の表面粗さの異方性がその抗折強度に大きな影響を及ぼすことが判明し、さらにセラミックス基板の表面粗さの異方性を所定値以下に低減することにより、セラミックス基板の抗折強度を向上させることができ、そのセラミックス基板を使用することにより割れの発生が少なく、絶縁耐圧性及び信頼性が高い回路基板が実現されることが記載されている。
【0007】
特許第5498839号公報(特許文献4)には、セラミックス材料から構成される絶縁膜と、ろう材で構成される接合層と、金属で構成される回路板とを備えた絶縁放熱基板が開示されている。当該文献には、絶縁膜の厚みを100μm以下とすることにより、絶縁膜による伝熱抵抗を小さくして、回路板から熱伝導基板への熱伝導性を良好にできることが記載されている。また、絶縁膜の接合層側に複数の凸部を設けることで、絶縁膜と回路板との接合強度が向上することが記載されている。さらに、この凸部が凸に湾曲した曲面状の表面を有するので、ろう材から構成される接合層におけるクラックの発生を抑制し、信頼性が向上することも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、パワー半導体モジュールに対して、出力密度の向上や小型化が要求されるようになってきている。斯かる要求を受けて、パワー半導体モジュールに用いる絶縁放熱基板については、放熱性と小型化とを両立させる目的で、銅板を厚板化することが検討されている。しかし、厚銅板を用いる場合、銅とセラミックスとの熱膨張差に起因して銅板とセラミックス基板との接合界面に発生する熱応力が大きくなり、セラミックス基板と銅板とを接合する際の熱処理で発生する残留熱応力と実使用時の温度変化により生じる繰り返し熱応力とによって、セラミックス基板にクラックが発生する問題が生じやすくなる。
【0010】
この点、従来技術では冷熱サイクル環境下でのクラックの発生防止が十分とは言えず、更なる耐久性の向上が望まれる。本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、冷熱サイクルに対する耐久性を高め、且つ、半導体モジュールの小型化に寄与する絶縁放熱基板を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
冷熱サイクルの繰り返しによって発生するセラミックス基板のクラックは導体層(回路層と同義)とセラミックス基板の接合端付近で生じやすい。本発明者は当該原因を追求したところ、セラミックス基板と導体層の接合端において急激な角度変化があることによって大きな熱応力が掛かるためであることを熱応力解析により明らかにした。そして、本発明者は当該接合端部を平滑化することで熱応力が低下し、冷熱サイクル耐久性が有意に向上することを見出した。また、導体層の側面形状を工夫することで実装エリアを拡大させることが可能であることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成した。
【0012】
本発明は一側面において、
セラミックス基板と、該セラミックス基板の少なくとも一方の主表面上に接合された導体層とを有する絶縁放熱基板であって、
前記導体層は上面と、下面と、上面及び下面を連結する側面1とを有し、
前記セラミックス基板は最低部と、最低部及び前記導体層の側面1を連結する側面2と、該最低部よりも高い位置にあり、前記導体層の下面に接合する接合面とを有し、
導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、前記下面の高さにおける側面1の前記下面に対する仰角αと、前記接合面の高さにおける側面2の前記接合面に対する仰角βの差の絶対値が平均で20°以下であり、
導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1は前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退した箇所を有する絶縁放熱基板である。
【0013】
本発明に係る絶縁放熱基板は一実施形態において、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1の前記仰角αは平均で20°〜60°である。
【0014】
本発明に係る絶縁放熱基板は別の一実施形態において、前記セラミックス基板における最低部と前記接合面の端部との厚み方向の距離Hが平均で0μm〜30μmである。
【0015】
本発明に係る絶縁放熱基板は別の一実施形態において、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1及び側面2の輪郭は共に内側に窪んだ湾曲線状である。
【0016】
本発明に係る絶縁放熱基板は更に別の一実施形態において、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、最低部から前記接合面の接合端までの、導体の平面視輪郭の接線に対する法線方向の距離Lが平均で5μm〜30μmである。
【0017】
本発明に係る絶縁放熱基板は更に別の一実施形態において、側面1の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所は、前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に平均で200μm以下後退している。
【0018】
本発明に係る絶縁放熱基板は更に別の一実施形態において、側面1の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所は、前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に平均で20μm以上100μm以下後退している。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、絶縁放熱基板の冷熱サイクルに対する耐久性を高めることが可能となり、実装エリアも拡大する。このため本発明は、放熱性及び小型化を両立させるために銅板を厚板化させた絶縁放熱基板に有利に適用することができ、とりわけパワー半導体モジュールの出力密度の向上や小型化に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0022】
<1.絶縁放熱基板>
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁放熱基板100を、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で部分観察したときの模式図である。本明細書において、平面視とは絶縁放熱基板をその投影面積が最大となる方向から観察する方法を意味し、厚み方向とは当該観察方向に平行な方向を指す。絶縁放熱基板100は、セラミックス基板110と、セラミックス基板110の少なくとも一方の主表面上に接合された導体層120とを有する。導体層120はセラミックス基板110の一方の主表面上に接合されてもよいし、両方の主表面上に接合されてもよい。絶縁放熱基板100の平面図の一例を
図5に示す。導体層120は電気回路を形成するための任意のパターンで形成することができる。
【0023】
導体層120は上面121と、下面122と、上面121及び下面122を連結する側面1(123)とを有する。セラミックス基板110は最低部111と、最低部111及び導体層120の側面1(123)を連結する側面2(112)と、最低部111よりも高い位置にあり、導体層120の下面122に接合する接合面113とを有する。本明細書においては、セラミックス基板の最低部111は、倍率1000倍のSEMにより、導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、接合面(113)の端部(接合端)から当該法線方向に50μm離れた場所までのセラミックス基板の表面のうち、接合端からの厚み方向への距離が最も長い箇所を指す。接合端からの厚み方向への距離が最も長い箇所が複数存在する又は連続するときは、接合端からの当該法線方向への距離が最も短い箇所を最低部とする。導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線の例を
図5に点線N
1−N
1’及び点線N
2−N
2’で示す。
【0024】
絶縁放熱基板100は、例えばスイッチング素子、IGBT、MOSFETなどの図示しないパワー半導体を含むパワー半導体モジュールにおいて、該パワー半導体が実装される基板として使用可能である。導体層120は電気回路パターンを形成することができ、該電気回路パターン上にパワー半導体を実装することができる。
【0025】
セラミックス基板110としては、窒化珪素(Si
3N
4)基板や窒化アルミニウム(AlN)基板などの窒化物セラミックス基板の他、アルミナ(Al
2O
3)基板が例示される。本発明を実現する上においては、セラミックス基板110の平面形状やサイズに特段の制限はないが、パワー半導体モジュールの小型化を図るという観点からは、一辺が20mm〜70mm程度で厚みが0.1mm〜1.0mmの平面視矩形状のセラミックス基板100が例示される。
【0026】
導体層120は、銅(Cu)、銅合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金などの金属で形成することができる。導体層120は、タングステン(W)やモリブデン(Mo)等の高融点金属または銀(Ag)からなるメタライズ層で形成することもできる。その他、ニッケル、鉄、チタン、モリブデンを使用することもできる。導体層120の厚み(導体層120の上面121と下面122の高さの差(厚み方向の距離))については、パワー半導体モジュールの小型化を図るという観点からは、0.3mm〜2.0mmであることが好ましく、0.5mm〜1.5mmであることがより好ましい。
【0027】
図1に示す実施形態においては、導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1(123)は上面121の端部よりも導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退した箇所を有する。換言すれば、上面121が迫り出すように側面1(123)が構成されている。これにより、半導体チップを搭載することのできるボンディングエリアの他、半導体チップを半田付け等で搭載する実装エリア、端子を接続(例:超音波接続)するためのエリア等の実装エリアを大きくできることが分かる。このため、本発明によれば、半導体チップの搭載量が同じであれば絶縁放熱基板の面積を小さくできる、換言すれば、半導体モジュールを小型化することができることになる。
【0028】
実装エリアを大きくするという観点からは、側面1(123)の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所は、上面121の端部よりも導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向に平均で10μm以上後退していることが好ましく、20μm以上後退していることがより好ましく、40μm以上後退していることが更により好ましい。但し、側面1(123)を後退させ過ぎると上面121の先端が鋭角となって強度が低下しやすく、更には先端が垂れ下がった状態になりやすい。そのような部分は、実装エリアとしては不適である。このため、側面1の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所は、前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に平均で200μm以下後退していることが好ましく、150μm以下後退していることがより好ましく、100μm以下後退していることが更により好ましい。
【0029】
図2には、本発明の一実施形態に係る絶縁放熱基板について、導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で部分観察したときの、導体層120とセラミックス基板110の接合端付近の模式図が示されている。当該断面観察において、下面122の高さにおける側面1(123)の下面122に対する仰角αと、接合面(113)の高さにおける側面2(112)の接合面113に対する仰角βの差の絶対値が小さいことが冷熱サイクル耐久性を高める上で重要である。
【0030】
従来の絶縁放熱基板においては、
図4に示すように、セラミックス基板と導体層の接合端はピン角(先端が尖った角)となっており、急激な角度変化が存在している。このようなピン角には大きな熱応力が掛かる。これは、導体層とセラミックス基板の接合端付近にピン角が存在すると、冷熱サイクルの繰り返しにより、そこを起点としてクラックが入り易くなることを意味する。
【0031】
そこで、本発明者は導体層とセラミックス基板の接合端付近にピン角が存在しないことでクラックを抑制できるという仮説を立て、種々の実験及び検討を重ねたところ、上記断面観察において、下面122の高さにおける側面1(123)の下面122に対する仰角α(0°≦α≦90°)と、接合面(113)の高さにおける側面2(112)の接合面113に対する仰角β(0°≦β≦90°)の差の絶対値(|α−β|)が平均で20°以下のときに冷熱サイクル耐久性が有意に向上することを見出した。|α−β|の平均は8°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましく、例えば1°〜20°とすることができる。平均値は測定対象となる絶縁放熱基板の任意の5箇所以上の断面観察により求めることとする(以下のパラメータの平均値についても同様である。)。
【0032】
側面1(123)の仰角α自体は特に制限はないが、20°未満や60°未満とするのは形状作り込みのためのエッチング条件やウェットブラスト条件の選定が複雑になることから、αは平均で20°〜60°とするのが一般的であり、20°〜30°とするのが好ましい。
【0033】
図3に、本発明の一実施形態に係る絶縁放熱基板を、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で部分観察したときの、導体層とセラミックス基板の接合端付近のSEM画像を示す。セラミックス基板と導体層の接合端が滑らかに接続されていることが理解できる。
【0034】
再び
図2を参照すると、接合界面の箇所のみならず、側面2(112)は全体的に急激な角度変化がないほうが熱応力を受けにくく、冷熱サイクル耐久性の向上につながる。この観点からは、導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面2(112)の仰角βと、接合面113の接合端から導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向に10μm離れた地点における側面2(112)の接合面113に対する仰角γの差の絶対値(|β−γ|)は小さいほうが好ましい。具体的には、|β−γ|は平均で30°以下であることが好ましい。一方で、|β−γ|が小さすぎると、セラミックス基板110が大きく削られて厚みが小さくなり、絶縁性能を低下させやすいことから、|β−γ|は平均で5°以上であることが好ましい。但し、|β−γ|の変化によって生じる特性上の差は軽微である。
【0035】
セラミックス基板110が大きく削られて絶縁性能が低下するのを防止するという観点からは、導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、セラミックス基板110における最低部111と接合面113の端部(接合端)との厚み方向の距離Hは平均で30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが更により好ましい。Hの下限は特に設定されず、0でもよいが、Hが大きい方が|α−β|を小さくしやすいため、Hは平均で2μm以上が好ましい。
【0036】
更に、セラミックス基板110が大きく削られて絶縁性能が低下するのを防止するという観点からは、導体層120とセラミックス基板110を導体層110の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、最低部111から接合面113の接合端までの、導体120の平面視輪郭の接線に対する法線方向の距離Lが平均で5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。但し、距離Lが長くなりすぎると導体間の距離(スペース)を大きくする必要が出てくることや、絶縁性能の低下抑止効果が飽和するという観点から、距離Lは平均で30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明において、仰角α及びβは、倍率1000倍のSEMで上述した断面を観察して以下の手順で測定することとする。導体層120とセラミックス基板110の接合端から側面1(123)の輪郭形状に対応する長さ30μmの近似直線Aを引く。導体層120とセラミックス基板110の接合端から側面2(112)の輪郭形状に対応する最低部111と接合端の間の厚み方向の距離Hの半分の長さの近似直線Bを引く。導体層120とセラミックス基板110の接合端から接合面113(下面122)の輪郭形状に対応する長さ30μmの近似直線Cを引く。近似直線Aと近似直線Cのなす角度から仰角αを、近似直線Bと近似直線Cのなす角度から仰角βをそれぞれ求める。
【0038】
例示的に、
図3のSEM画像において、導体層120とセラミックス基板110の接合端から側面1(123)の輪郭形状に対応する長さ30μmの近似直線Aのイメージを示す。接合端から側面1の輪郭点を近似直線の長さが30μmとなる範囲で直交座標系((x、y)座標)に30点以上満遍なくプロットすると、最小二乗法によりy=ax+bの形の近似式が得られる。この近似式に対応する直線が近似直線Aである。その際に近似直線Aの傾きを一義的に決定することができる。近似直線B及び近似直線Cについても同様の方法で傾きを決定することができる。これらの傾きから仰角α及び仰角βをそれぞれ求めることができる。
【0039】
本発明において、仰角γは、倍率1000倍のSEMで上述した断面を観察して以下の手順で測定することとする。導体層120とセラミックス基板110の接合端から導体120の平面視輪郭の接線に対する法線方向に10μm離れた地点における側面2(112)の輪郭形状に対応した長さ5μmの近似直線Dを当該地点から上方(厚み方向のうち接合端に近づく方向)に引く。近似直線Dと近似直線Cのなす角度から仰角γを求める。
【0040】
<2.製造方法>
本発明に係る絶縁放熱基板は、セラミックス基板と金属板又は金属箔とを接合して接合基板を作製した後、リソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて電気回路パターンを形成し、更に平滑化処理することにより製造することができる。
【0041】
セラミックス基板と金属板又は金属箔とを接合して接合基板を作製する方法は公知の任意の技術を使用すればよい。代表的にはセラミックス基板と金属板又は金属箔とを直接接合してDCB基板を作製する方法、及び、セラミックス基板と金属板又は金属箔とを活性金属を含むロウ材(接合材)を用いて形成される接合層を介して接合してAMB基板を作製する方法が挙げられる。これらの中でも接合強度を高めるという観点からは、Ag及びTiを含むろう材を用いて加熱加圧接合(ホットプレス)する方法が好ましい。ろう材は導体であるから、本発明においては、接合層も導体層の一部として取り扱うこととする。
【0042】
ろう材を用いてホットプレスする場合、接合雰囲気は、活性金属であるTiが酸化すると、そもそも接合ができないために、真空もしくは不活性雰囲気(Ar雰囲気等)とする必要がある。接合強度を高めるという観点からは、接合圧力は5MPa以上が望ましい。但し、接合圧力が高すぎると接合の際にセラミックス基板を破壊してしまうおそれがあるから、接合圧力は25MPa以下が望ましい。接合温度は使用するろう材の種類により適宜調整すればよいが、Ag及びTiを含むろう材を用いる場合、800℃〜1000℃程度とするのが好適である。
【0043】
なお、ろう材としては、低融点化のためにAgにCu、Sn、In等の一種又は二種以上が添加されたもの、また、それらの合金粉末に、Tiを加えたものを用いることもできる。例えば、Ag−Cu−Ti系のろう材としては、Ag、Cu、Tiをそれぞれ組成重量比で30〜70%、0〜40%、0.1〜20%なる範囲で含有するものが例示され、これらの組成範囲を充足する市販のものを用いることも可能である。
【0044】
接合基板を作製した後のリソグラフィ技術及びエッチング技術も公知の任意の方法を採用すればよいが、エッチング方法としてはウェットエッチングが特に好適である。エッチング条件によって導体層の側面1の仰角αが有意に影響を受けるので、エッチング条件には留意する必要がある。一般には、エッチング時間が長くなると仰角αは大きくなる傾向にある。
【0045】
電気回路パターンを形成後に平滑化処理を実施し、導体層とセラミック基板の接合端及びその周辺を平滑化することが重要である。平滑化処理の方法としては、例えば、ウェットブラスト、乾式ブラスト、切削、レーザー加工、その他の機械加工が挙げられるが、セラミックス基板の金属層との接合面からセラミックス基板の基準面(平面)に漸近する滑らかな曲面形状を作りやすく、また、このような曲面形状にすることによって応力集中を防ぐことができるのでウェットブラストが好ましい。ウェットブラストを採用する場合、噴射圧力及び噴射時間、ウェットブラストに使用する研削材の種類及び粒径によって平滑化処理の状態が変化するため、適切な条件を適宜選定することが望まれる。一般には、噴射時間が長くなるとセラミックス基板の仰角βは大きくなる傾向にある。|α−β|の値を小さくするためには、微粒な砥粒を用いて、導体層の側面1の形状に応じて噴射時間を調整することが必要である
【0046】
ウェットブラストの好適な条件例を挙げると、噴射圧は0.01〜0.5MPa、研削材の種類は砥粒セラミックス(SiC、アルミナ、ジルコニア等)、研削材の粒径は1〜100μm程度とすることができる。
【0047】
ウェットブラストによる平滑化処理を行うことで作製された絶縁放熱基板は、典型的には以下に示す形態上の特徴を何れか一つ以上有することができ、より典型的には二つ以上有することができ、更により典型的には三つとも有することができる。下記の特徴は何れもウェットエッチングの低コスト化、生産性向上、角度αの制御性向上につながるという点で有利である。
(1)導体層120の上面の端部124は導体層120の下面の端部125よりも導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退している(
図1参照)。
(2)導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1(123)及び側面2(112)の輪郭は共に内側に窪んだ湾曲線状である(
図1参照)。
(3)導体層120とセラミックス基板110を導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、側面1(123)は導体層120の上面の端部124よりも導体層120の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退した箇所を有する(
図1参照)。
【0048】
平滑化処理の後、更に種々の表面処理を行うことができる。表面処理の例としては、限定的ではないが、酸処理、アルカリ処理、洗浄、めっき、防錆処理等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
(1.絶縁放熱基板の作製)
セラミックス基板として厚み0.3mmの平面視矩形状(横21mm×縦21mm)の窒化珪素(Si
3N
4)基板を用意した。当該窒化珪素基板の片面側に厚み0.5mmの平面視矩形状(横21mm×縦21mm)の銅(Cu)板をろう材を用いてホットプレスにより接合し、セラミック基板と銅板の接合基板を得た。ろう材としては、組成重量比がAg:51質量%、Cu:24質量%、In:11質量%、Ti:14質量%であるものを用いた。ホットプレスは850℃の真空下で接合圧力20MPaの条件で行った。
【0051】
上記の手順で得られた接合基板から、フォトリソグラフィによるパターン形成及びウェットエッチングを経て、
図5に示すような導体パターンを形成した。エッチング液としては塩化第二銅及び塩化第二鉄等を含有する水溶液(pH=1〜3)を使用した。ウェットエッチングは試験番号に応じて、エッチング時間の異なる二条件(Cuエッチング条件1及びCuエッチング条件2)で行った。Cuエッチング条件1では導体層の側面1の角度αの目標値を50°として、Cuエッチング条件2では導体層の側面1の角度αの目標値を25°として、それぞれエッチング時間を調整した。具体的にはCuエッチング条件1はエッチング時間を1時間とし、Cuエッチング条件2はエッチング時間を0.5時間とした。
【0052】
導体パターンを形成後、導体層とセラミックス基板の接合端周辺を平滑化することを目的として、接合基板の導体パターン形成面に対してウェットブラストを実施した。ウェットブラストは、ウェットブラスト装置を使用し、水と研削材(粒径10〜20μm程度のSiC粒子)のスラリーを、導体パターン形成面に対して垂直な方向から噴射することにより行った。この際、噴射圧力を0.15MPaとし、ノズルの移動速度を100mm/secとし、パス回数を変化させることで、セラミックス基板の側面2の形状に変化を与えた。1回のパスで、スリット状ノズルを接合基板の一辺からこれに対向する辺に向かって移動させ、これにより全面が一度ウェットブラストされる。パス回数とは、この操作の繰り返し回数を表す。
【0053】
(2.形状評価)
上記の工程を経て得られた各試験例の絶縁放熱基板について、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面が露出するように切断し、樹脂埋め後、露出した断面を研磨して、SEM観察を1000倍で行ない、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)評価1
導体層の上面の端部が導体層の下面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退しているか否かを評価した。評価結果は、任意の5箇所の断面について行い、5箇所の断面すべてが上記条件を満たす場合にYESとし、それ以外はNOとした。
(2)評価2
側面1及び側面2の輪郭は共に内側に窪んだ湾曲線状であるか否かを評価した。評価結果は、任意の5箇所の断面について行い、5箇所の断面すべてが上記条件を満たす場合にYESとし、それ以外はNOとした。
(3)評価3
側面1は導体層の上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退した箇所を有するか否かを評価した。評価結果は、任意の5箇所の断面について行い、5箇所の断面すべてが上記条件を満たす場合にYESとし、それ以外はNOとした。また、YESの場合は、側面1の前記後退した箇所のうち、最も後退した箇所が、導体層の上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退している距離の平均値を当該5箇所の断面から算出した。
(4)評価4
任意の5箇所の断面について仰角α、仰角β、仰角γ、α−β、β−γを測定し、それぞれの平均値を求めた。
(5)評価5
任意の5箇所の断面について、セラミックス基板における最低部と接合端の厚み方向の距離Hを測定し、平均値を求めた。
(6)評価6
任意の5箇所の断面について、セラミックス基板の最低部からセラミックス基板の接合面の接合端までの、導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向の距離Lを測定し、平均値を求めた。
【0054】
(3.冷熱サイクル試験)
上記の工程を経て得られた各試験例の絶縁放熱基板について、冷熱サイクル試験を行った。冷熱サイクル試験は、−55℃(15分)/175℃(15分)の冷熱サイクルを1000cyc(サイクル)与える試験を行った。途中100cyc毎に(つまりは全10回)、実体顕微鏡による外観確認と超音波探傷とによって、接合部の剥がれ及びセラミックス基板におけるクラックの有無(以下、これらをまとめて「不具合」と総称する)について確認し、不具合が生じることなく冷熱サイクル試験が行うことができたサイクル回数を評価した。
【0055】
結果を表1に示す。例えば、「100」とあるのは最初の100cycまでは不具合が生じなかったが、200cyc終了後の観察時には不具合が生じたことを示す。また、「1000」とあるのは、1000cycを実施するまでの間に不具合が生じなかったことを示す。
【0056】
(4.絶縁破壊電圧)
上記の工程を経て得られた各試験例の絶縁放熱基板を対象に、絶縁破壊電圧の測定を行った。測定は、絶縁油中において、
図5に示す三つの導体層のうち中央の最も大きな導体層の上面とセラミックス基板の非接合面(導体層が接合されている面とは反対の面)との間に、交流電圧(実効値6kV、周波数60Hz)を10秒間印加することにより行った。評価は、ショートしなかった場合を「OK」、ショートした場合を「NG」とした。表1に結果を示す。
【0057】
【表1-1】
【0058】
【表1-2】
【0059】
(5.考察)
以上の結果より、α−βの絶対値の平均が20°を超える比較例1−1及び比較例2−1に対して、α−βの絶対値の平均が20°以下の実施例1−1〜1−7、実施例2−1〜2−5は、冷熱サイクル耐久性が有意に向上したことが理解できる。なお、実施例1−5のように研削量が大きいと基板の厚みが薄くなり、絶縁破壊特性へ影響が出ると考えられる。
冷熱サイクルに対する耐久性を高め、且つ、半導体モジュールの小型化に寄与する絶縁放熱基板を提供する。セラミックス基板と、該セラミックス基板の少なくとも一方の主表面上に接合された導体層とを有する絶縁放熱基板であって、前記導体層は上面と、下面と、上面及び下面を連結する側面1とを有し、前記セラミックス基板は最低部と、最低部及び前記導体層の側面1を連結する側面2と、該最低部よりも高い位置にあり、前記導体層の下面に接合する接合面とを有し、導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、前記下面の高さにおける側面1の前記下面に対する仰角αと、前記接合面の高さにおける側面2の前記接合面に対する仰角βの差の絶対値が平均で20°以下であり、側面1は前記上面の端部よりも導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向に後退した箇所を有する絶縁放熱基板。