特許第6375191号(P6375191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6375191金属ナノ粒子分散液の製造方法、金属クラスターを含む溶液、その製造方法およびその塗膜並びにアスコルビン酸センサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375191
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子分散液の製造方法、金属クラスターを含む溶液、その製造方法およびその塗膜並びにアスコルビン酸センサー
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/14 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
   B22F9/14 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-186302(P2014-186302)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-27184(P2016-27184A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2017年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-140123(P2014-140123)
(32)【優先日】2014年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(72)【発明者】
【氏名】樋口 章二
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/032756(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00, 9/14
B82Y 5/00,15/00,20/00,40/00
C09K 11/00
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に配置した少なくとも1対の金属電極間に放電プラズマを発生させて、金属ナノ粒子分散液の製造方法であって、
(1)前記液体の導電率が20μS/cm以下であり、
(2)前記金属電極がAg、Au、Cu、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、C、Si、Ga、Ge、Se、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、In、Sn、Sb、Te、Hf、Ta、W、Re、Tl、Pb、Biおよびランタノイドのうちのいずれか少なくとも一種の金属であり、
(3)前記プラズマは、前記金属電極間に交流電圧が800V以上20kV以下、短絡電流40mA以下となるように電圧を印加して発生させる交流放電プラズマである
ことを特徴とする金属ナノ粒子分散液の製造方法
【請求項2】
前記液体が蒸留水または純水であることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記金属電極間の電極間距離が、接触状態から3mmの間であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法によって製造された金属ナノ粒子分散液とアスコルビン酸とを室温で混合する工程とを含むことを特徴とする金属クラスターを含む発光溶液の製造方法
【請求項5】
前記金属ナノ粒子がAu又はPtであることを特徴とする請求項に記載の発光溶液の製造方法
【請求項6】
請求項または請求項に記載の金属クラスターを含む溶液を塗布、乾燥して得られることを特徴とする紫外線照射によって発光する薄膜の製造方法
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法によって製造された金属ナノ粒子分散液とアスコルビン酸を含む検体を混合した液に紫外線を照射して発光を検知する手段を有することを特徴とするアスコルビン酸の検出及び定量方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ナノ粒子の分散液の製造方法、金属クラスターを含む溶液の製造方法、発光性金属クラスター並びにこれを用いた塗布膜及びセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
Ag、Au、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osといった貴金属を微小サイズにしていくと、いずれの貴金属も量子的な効果によって特異な光学的性質が発現することが知られている。その中で、Auは、粒子径が20nm程度までナノ粒子化することでプラズモン吸収と呼ばれる特異な光吸収特性が発現し、粒子の大きさ、形状によって赤、赤紫、青紫など特徴ある色相を示すことが知られている。
【0003】
以下、貴金属の内の金(Au)を例にして、背景技術とその課題を説明する。
金(Au)ナノ粒子の製造方法には、金塩溶液に還元剤を適用して金を還元する方法が一般に知られている。非特許文献1には塩化金酸をクエン酸ナトリウム水和物によって還元する方法が示されている。特許文献1および特許文献2にはクエン酸塩、アスコルビン酸塩で金塩溶液を還元して金ナノ粒子分散液を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、液体中に配置した金(Au)板にパルスレーザーを照射してレーザーの大きなエネルギーで金板から物理的に微小な金をはぎ取って、金ナノ粒子を液体中に分散させる金ナノ粒子の製造方法が開示されている。
【0005】
非特許文献2には、塩化カリウムを含む塩化金酸溶液中で、パルス幅2μ秒、電圧2.5kVをタングステン電極に印加して、プラズマを発生させる、いわゆる液中プラズマ法で金ナノ粒子が生成することが示されている。さらに特許文献4には、水溶液中の少なくとも1対の貴金属電極間に電圧を印加してプラズマを発生させる液中プラズマ法で貴金属ナノ粒子を生成し、水溶液中に存在する酸化物粒子に該貴金属ナノ粒子を担持させる製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、金塩溶液を還元する手法では、必ず金以外の対イオンが存在しており、さらに還元剤・添加剤を使用することから金ナノ粒子分散液から、不純物であるそれらの対イオンや還元剤・添加剤由来成分を除去することは困難であった。また、原料に用いる金塩は、貴金属としての金よりもはるかに高価で供給量も少なく、金ナノ粒子供給は十分ではなく、産業応用が進みにくい状況であった。
【0007】
パルスレーザー照射の方法は、こうした金塩溶液を還元する手法の課題を解決するために提案された金と分散溶液以外の不純物を全く含まない金ナノ粒子の製造手法であったが、レーザーパルス幅がピコ秒オーダーの高価なピコ秒パルスレーザーである必要があり、そのうえレーザースポットをターゲットである金上でスキャンさせなければならず、産業応用の観点から、大型装置や複雑な工程が不要な製造方法であるとは言えるものではなかった。
【0008】
液中プラズマ法の場合、不純物を含まない液中で電極金属から金属ナノ粒子を生成する可能性を示唆されているが、特許文献4では、安定したプラズマを得るために塩化カリウム等の塩を液中に加えて、水溶液の導電率を300μS/cmから3000μS/cmの間に調整することが好ましいと記述されており、不純物を含まない、すなわち導電率の小さな液中でのプラズマ発生については何ら技術的可能性を示唆するものではなかった。
一方、Auナノ粒子を1nm以下に微小化してAu原子が数個ないし数十個集まった状態はAuクラスターと呼ばれ、量子効果によって、強い発光(蛍光)を示す例が知られている。
【0009】
Auクラスターの製造方法には、Au塩溶液に還元剤を適用してAuを還元する方法が一般に知られている。非特許文献3、非特許文献4、特許文献5および特許文献6には、ポリアミドアミンデンドリマーを鋳型(template)として含む塩化金酸またはハロゲン化金酸溶液を水素化ホウ素ナトリウムによって還元して製造する方法が示されている。得られたAuクラスターは原子数に応じて、発光ピーク波長が異なっており、金(Au)8原子からなるAu8の発光ピーク波長が455nm(青)、同様にA5の発光ピーク波長が385nm(紫外)、Au13の発光ピーク波長が510nm(緑)、Au23の発光ピーク波長が760nm(赤)、Au31の発光ピーク波長が866nm(近赤外)であると示されていた。特許文献7には、安定化剤としてホスフィン化合物を塩化金酸やハロゲン化金化合物に作用させてAuクラスターを製造する方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、上記製法ではAu原料である塩化金酸やハロゲン化金が劇物であること、ならびに該試薬が高価で通常取引量が1g単位と極小であった。また、原料が金塩であるので、Au以外に必ず、対アニオンである塩化物イオン(Cl−)などのハロゲン化物イオンが反応系中に残留しており、Auナノ粒子から分離除去できず、生体標識などに適用する際の安全性や標識精度が十分に担保できないことが課題であった。さら、鋳型としてポリアミドアミンデンドリマーを用いる製造方法では、ポリアミドアミンデンドリマーも、さらに、製造量が少なく非常に高価であるので、Auクラスターを大量生産するには適するものではなかった。また、ホスフィン化合物金塩溶液を還元する手法で得られるAuクラスターの中で最も小さいAuクラスターは、原子数11のAu11(登録商標:ウンデカゴールド)とされているが、発光特性を保持していないものであった。
【0011】
また、特許文献5および特許文献6には、塩化金酸水溶液とアスコルビン酸を混合して発光性のAuクラスターを得る製法も開示されているが、アスコルビン酸の混合は、非発光性のAuクラスターの生成を抑制するために、遮光下4℃の低温環境条件で行うか、室温緩衝溶液中で行わなければならない旨記載されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第2834400号公報
【特許文献2】特許第2902954号公報
【特許文献3】特開2009−299112号公報
【特許文献4】特開2014−97476号公報
【特許文献5】米国特許 第7914588号
【特許文献6】米国特許 第8536119号
【特許文献7】特開2013−255887号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ネイチャー フィジカル サイエンス(Nature Physical Science)、1973年、第20巻、p241
【非特許文献2】粉砕、2008年、No51、p30−36
【非特許文献3】フィジカル レビュー レターズ(Physical Review Letters)、2004年、第93巻、第7号、077402−1
【非特許文献4】日本物理学会 秋季大会 要旨集、25aPS−63、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上記した問題点を解決するものであって、簡易でかつ汎用的な設備で、さらに短時間で分散剤を含まない高純度の金属ナノ粒子分散液を製造することおよび前記金属ナノ粒子分散液から分散安定性ならび保存安定性さらには生体適合性に優れる発光性の金属クラスターを含む溶液を製造する方法を提供することである。
さらには、本発明は前記金属クラスターを含む溶液を用いて発光する薄膜の提供及びアスコルビン酸のセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、鋭意検討した結果、従来技術の問題点を完全に解消し、純度が高くかつ分散安定性の高い高品質な金属ナノ粒子分散液製造方法を見出すとともに、その金属ナノ粒子分散液を用いて分散安定性ならびに保存安定性の高い発光性金属クラスターおよびそれを含む水溶液の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の技術的手段から構成される。
【0016】
〔1〕 液体中に配置した少なくとも1対の金属電極間に放電プラズマを発生させて、金属ナノ粒子分散液の製造方法であって、
(1)前記液体の導電率が20μS/cm以下であり、
(2)前記金属電極がAg、Au、Cu、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、C、Si、Ga、Ge、Se、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、In、Sn、Sb、Te、Hf、Ta、W、Re、Tl、Pb、Biおよびランタノイドのうちのいずれか少なくとも一種の金属であり、
(3)前記プラズマは、前記金属電極間に交流電圧が800V以上20kV以下、短絡電流40mA以下となるように電圧を印加して発生させる交流放電プラズマである
ことを特徴とする金属ナノ粒子分散液の製造方法
〔2〕 前記液体が蒸留水または純水であることを特徴とする前記〔1〕に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
〔3〕前記金属電極間の電極間距離が、接触状態から3mmの間であることを特徴とする前記〔1〕または前記〔2〕に記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法。
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法によって製造された金属ナノ粒子分散液とアスコルビン酸とを室温で混合する工程とを含むことを特徴とする金属クラスターを含む発光溶液の製造方法

前記金属ナノ粒子がAu又はPtであることを特徴とする前記〔〕に記載の貴金属クラスターを含む発光溶液の製造方法
〕 前記〔〕または前記〔〕に記載の金属クラスターを含む溶液を塗布、乾燥して得られることを特徴とする紫外線照射によって発光する薄膜の製造方法
〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の金属ナノ粒子分散液の製造方法によって製造された金属ナノ粒子分散液とアスコルビン酸を含む検体を混合した液に紫外線を照射して発光を検知する手段を有することを特徴とするアスコルビン酸の検出及び定量方法
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、安価でかつ汎用的な設備で、さらに短時間で分散剤を含まない高純度の金属ナノ粒子分散液を製造することができる。さらに本発明によって得られる金属ナノ粒子分散液は、保護剤を含んでいないことから活性な触媒として用いることができる。また、Au、Ag、Cuなど金属種類によっては可視域にプラズモン吸収があるので着色しておりバイオセンサー用色材、インク用色材として使用可能であり産業応用上有用である。
【0018】
また、本発明によって、安価でかつ汎用的な設備で、分散安定性ならび保存安定性さらには生体適合性に優れる発光性の金属クラスターおよびそれを含む水溶液を製造することができる。さらに本発明は、金属ナノ粒子が、有機酸の中でもアスコルビン酸(光学異性体のうちL体はビタミンC)と選択的に反応することで発光性の金属クラスターとなるので、ビタミンCセンサーのセンシング機構としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明にかかる装置の概念図。
図2】実施例1で作製した金ナノ粒子分散液の可視光消滅スペクトルの図。
図3】実施例6で作製したAuクラスター水溶液の電子吸収スペクトルと発光スペクトル。
図4】実施例12で作製したAuクラスター薄膜の発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(金属塩を原料としない金属ナノ粒子の製法)
本発明の金属ナノ粒子分散液の製造方法は、導電率が20μS/cm以下である液体中に配置した少なくとも1対の金属電極間に交流電圧が800V以上20kV以下、短絡電流40mA以下となるように電圧を印加して交流放電プラズマを発生させて、金属ナノ粒子分散液を製造することを特徴とする。
【0021】
本発明の金属ナノ粒子分散液の製造方法は、Ag、Au、Cu、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Al、C、Si、Ga、Ge、Se、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、In、Sn、Sb、Te、Hf、Ta、W、Re、Tl、Pb、Biおよびランタノイドのうちのいずれか少なくとも一種の金属を原料として用いてそれぞれの金属ナノ粒子分散液を製造することができる。
【0022】
上記の金属の中でもAg、Au、Pt、Pd、Rh、Ir、RuおよびOsのうちのいずれかの貴金属の金属ナノ粒子分散液が、金属固有の酸化還元電位に基づいて酸化しにくく安定であること、これら貴金属は高い触媒作用を有している点で有用であり、その中でもAuまたはPtの金属ナノ粒子分散液が特に有用である。
【0023】
本発明の金属ナノ粒子分散液製造に用いる装置の概念図を図1に示す。
金属ナノ粒子分散液の製造装置は、電気絶縁性の容器(103)に例えば、変圧器(トランス)などの小さな電圧(1次側電圧という)を高電圧(2次側電圧という)に昇圧する高電圧発生装置(106)に接続された少なくとも1対の金属電極(101)を備えている。そして、電極には最大20kVの高電圧が印加されるので、容器と電気的に絶縁する必要があり、金属電極は電気絶縁材(102)を介して前記容器内に設置される。前記電気絶縁材(102)は、例えば、樹脂ブロックに孔をあけておき、棒状の金属をその孔に通して電気的絶縁を担保する。絶縁材としては樹脂やセラミックスを用いることができるが、樹脂の場合、液体と接触しても変化しない樹脂であることが好ましい。
【0024】
1対の金属電極は、先端が接触状態から3mmの電極間距離で前記液体中に設置すればよい。そして、金属電極は、高電圧発生装置(106)に配線(107)により接続されており、金属電極と高電圧発生装置(106)は、前記電気絶縁材(102)中で接続されても良いし、図1の概念図に示すように金属電極の一部を前記電気絶縁材(102)で絶縁し、電極の他端を液体から空気中に出るように設置して容器の外側で接続するようにしても良い。本発明は20μS/cm以下の絶縁性液体を用いるので、図1の接続方法が可能となっている。図1の接続方法を適用することで、装置の構造が簡便になるばかりでなく、装置本体から金属電極の交換・保守が容易となり、設備としての価値が高くなる。
【0025】
電極に用いる金属は、純度99.9%以上で、少なくとも1対の対向電極として作用すればよく、形状は特に限定はしないが、ワイヤー状、棒状、板状であれば、液体を満たす容器中に配置しやすく好適である。
【0026】
プラズマ発生のための高電圧発生装置は、最大20kVの交流電圧(2次側電圧)が発生するトランスを用いればよく、インバータ式、巻線式いずれであってもよい。1次側電圧源は直流、交流いずれであってもよいが、日本国内では、一般商用電源である交流単相100V電源、交流単相200V電源あるいは交流3相200V電源を用いることが可能である。当然のことながら、日本国外で本発明を実施する場合は、各国の電源事情に合わせた電源を1次側電圧に用いればよい。高電圧発生装置のなかでも、ネオン管点灯用のネオントランスは入手が容易で、かつ2次側電圧最大15kV、短絡電流20mAとなっており好適である。そして、トランスの2次側電圧を調整するときは、電圧調整器あるいは可変抵抗器を使用してトランス1次側電圧を調整すればよい。
【0027】
前記液体を満たす容器も同様に電気絶縁性であることが必要である。好適には、ガラス、樹脂を用いることができる。
【0028】
前記液体は、導電率が20μS/cm以下の液体を用いる。
導電率がこれ以上であると液体中に不純物が存在していることになるので、製造する金属ナノ粒子分散液の純度が低くなるので好ましくない。また、導電率が大きいと液中に配置した電極金属のうち、プラズマ発生部位以外からも電界が形成され(漏れ電界という)、印加した電圧が分散してしまい、結果としてプラズマ発生のためにより大きなエネルギー(高電圧)が必要となり、エネルギー消費の観点から好ましくない。
前記液体には、水(蒸留水または純水)および導電率が20μS/cm以下の有機溶媒を単独あるいは混合して用いることができる。前記液体を用いる際には、不純物混入による導電性が20μS/cmより大きな値を示さないようにする。前記有機溶媒の種類には、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類(化学的分類ではジオール類)、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのセロセルブ類など水と容易に混和する溶媒が好適である。
【0029】
金属ナノ粒子を製造するには、上記の設備、部材を使用して図1記載のように設備を設置して、所定の電圧を印加する。電圧印加してもプラズマ発生しないときは、1対の電極を接触させて短絡すればよい。短絡と同時にプラズマ放電が始まる。プラズマの大きなエネルギーによって、金属電極から金属の微小粒子、すなわち金属ナノ粒子がはぎ取られていく。一旦プラズマが発生すれば、プラズマ発生が継続するように電極間の距離をわずかに離す。電極間距離を離しすぎるとプラズマが消滅する。消滅した場合は再び電極間を接触させて再びプラズマ放電させてやればよい。このときの電極間の距離は接触状態から3mmの間が好ましく、電極間距離の制御は手動であっても自動であってもよい。手動の場合は、プラズマ発生の状態を目視観察しながら電極を移動させることにより、また、自動の場合は、例えば、オシロスコープを用いて1対のAu電極間の電圧および電流をモニターしておき、短絡時の電流値(短絡電流)、プラズマ発生時の電流値(プラズマ電流)、プラズマ発生していないときの電流値(非プラズマ電流)の3値を検出して、Au電極間の距離を制御すればよい。具体的には、非プラズマ電流を検知したときは、短絡電流を検知するまで1対の電極を接触させる方向に移動させる。短絡電流を検知したときは、プラズマ電流を検知するまで1対の電極を離す方向に移動させる。その状態で非プラズマ電流を検知したときは、再び短絡電流を検知するまで1対の電極を接触させる方向に移動させる。この制御を繰り返し行ってやればよい。その制御の際の電極の移動速度はできるだけ早い方が単位時間当たりのプラズマ発生時間が長くなるので好ましいが、特に限定するものではなく、モーター、振動等の既存の機械制御機構をもちいてやればよい。
【0030】
連続してプラズマを発生させた場合は、液体の温度が上がるので、前記容器の外周部に冷却用の熱交換器または冷却恒温槽が付属させて、装置内の液体の温度上昇を押さえて金属ナノ粒子を製造することができる。容器外部に取り付けた熱交換器あるいは冷却恒温槽を付属させる場合は、前記容器は、熱交換効率のよいガラスがさらに好適である。
【0031】
(金属クラスターの製造方法)
以上記述した製法による金属ナノ粒子分散液には、金属以外の化学成分を含まない高純度の金属からなる金属ナノ粒子分散液なので、本発明の金属クラスターを含む溶液の原料として好適である。原料の金属ナノ粒子分散液の濃度は大きい方が、得られる金属クラスターからの発光の目視観察が容易であるが、例えば、Auナノ粒子分散液の場合、該分散液中の金(Au)プラズモン吸収帯(450nmから600nm)のピークでの直線光線透過率が80%以下(光路長1cm)であれば十分な濃度であると判断できる。
【0032】
本発明の金属クラスターを含む溶液の製造法は、まず、金属ナノ粒子分散液にアスコルビン酸を室温で混合溶解する。アスコルビン酸はL体、D体どちらであってもよい。このときアスコルビン酸の濃度が0.1mmol/Lから1000mmol/Lの範囲となるように混合する。さらに好適には1mol/Lから100mmol/Lの範囲である。混合溶解後、数時間で黒色の浮遊物が認められるが、さらに数日室温で保持しておくと黒色浮遊物は消失して、金属クラスター−アスコルビン酸錯体からなる均一な透明溶液が得られる。このときの透明溶液は金属の種類に応じて着色していることがある。また、溶媒の沸点まで加温して均一透明溶液の生成を促進することもできる。得られた透明溶液に紫外線を照射すると金属クラスター由来の発光が目視で確認できる。Auクラスター溶液の場合、該透明溶液に含まれるAuクラスターは、発光スペクトルから少なくともAu8、Au13の2種類が存在している。そのため、発光色は青色と緑色の加法混色によって、人間の目には白色に見える。
【0033】
(金属クラスターを含む発光性薄膜の作製)
以上記述した製法によって得られた金属クラスター溶液を、基材に塗布・乾燥することで金属クラスターを含む発光性薄膜が得られる。このとき用いる基材の素材は特に限定されないが、紙、ガラス、金属、セラミックス、プラスチックスなどを用いることができる。通常、溶液を塗布する場合、基材表面は親水性であることが望ましい。基材表面を親水化する処理としては、プラズマ処理、紫外線オゾン処理、酸処理、アルカリ処理など既知の表面処理方法を適用することができる。塗布方法は、回転塗布、浸漬塗布、バーコートなど各種の塗布方法が適用できる。塗布後の乾燥処理は、室温での自然乾燥でもよいし、250℃までの任意の温度での加熱乾燥であってもよい。以上の方法で得られた薄膜に紫外線を照射すると金属クラスター由来の発光が目視で確認できる。
【0034】
(アスコルビン酸(ビタミンC)センサー)
ビタミンC(L−アスコルビン酸)を含む検体に、金属塩を原料としない本発明の金属ナノ粒子分散液を作用させる。作用させるときの該検体は固体、液体のどちらであってもよい。固体の場合、該検体を該金属ナノ粒子分散液に加えればよく、液体の場合は、該液体と該金属ナノ粒子分散液を混合すればよい。但し。固体の場合は、該検体が完全に分散溶媒に溶解しなければならない。作用させると、その分子的機構詳細は明確ではないが、金属ナノ粒子は、カルボキシル基やヒドロキシ基を含む有機酸の中で、アスコルビン酸と選択的に作用して金属クラスター−アスコルビン酸錯体を形成する。作用させた後の保管温度は、検体が変質しない範囲で加温することができるが、100℃以下とすることが望ましい。金属クラスター−アスコルビン酸錯体は紫外線照射によって発光するので、容易に検出できる。検体中に存在するビタミンCの量に応じて生成する金属クラスター−アスコルビン酸錯体の量が決まる。発光強度は金属クラスター−アスコルビン酸錯体の量に比例しているので、予め、発光強度とL−アスコルビン酸量の検量線を作成しておけば、発光強度から検体中のアスコルビン酸量が求められる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1〕
純度99.9%、厚み1mm、25mm角の金板(田中貴金属工業)を切断して長さ25mm、1mm角の短冊2本作製した。12.5mm×25mm、厚み5mmのテフロン(登録商標)ブロックに孔をあけて、短冊状の金を通して、1対の絶縁電極を作製した。ガラス製シャーレ(φ70mm、深さ18mm)の中央部分に作製した1対の絶縁電極の金の先端部分が1mmの隙間を空けて配置した。その後、30mlの蒸留水(15μS/cm ナカライテスク)を加え、絶縁電極の金先端部分を水中に配置した。ネオントランス(レシップ)を用いて絶縁電極に9kVを印加した後、絶縁電極を接触させてプラズマを発生させた。その後電極間距離を微調整しながら30分間プラズマ発生を継続したところ、シャーレ中の蒸留水が赤紫色となっていた。分光光度計を用いて、得られた赤紫色の液体の可視光消滅スペクトルを測定したところ、522nmに金のプラズモン吸収に基づく吸収極大が認められた(図2)。また、動的光散乱法で粒度分布を測定したところd50(粒度の累積頻度が50%となる粒度)は30nmであった。吸収極大波長、d50、外観色を表1に示した。
【0037】
〔実施例2〕
印加電圧が5kVであること以外は、実施例1と同様に行って、赤紫色の液体を得た。得られた赤紫色液体の収極大波長、d50、外観色を表1に示した。
【0038】
〔実施例3〕
印加電圧が1kVであること以外は、実施例1と同様に行って、赤紫色の液体を得た。得られた赤紫色液体の収極大波長、d50、外観色を表1に示した。
【0039】
〔実施例4〕
短冊状の金の代わりにPt線(外径0.5mm、長さ50mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行って、黒色透明の液体を得た。d50、外観色を表1に示した。なおPtは明確なプラズモン吸収をもたないので可視光消滅スペクトルにおいてピーク形状は認められなかった。
【0040】
〔実施例5〕
短冊状の金の代わりにCu線(外径1.5mm、長さ50mm)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行って、褐色透明の液体を得た。d50、外観色を表1に示した。
【0041】
〔比較例1〕
印加電圧が730Vであること以外は、実施例1と同様に行って、青紫色の液体を得た。得られた青紫色液体の収極大波長、d50、外観色を表1に示した。
【0042】
〔比較例2〕
蒸留水に代えて、0.01重量%の塩化ナトリウム水溶液(210μS/cm)を用いたこと以外は、実施例1と同様に行ったところ、電圧印加すると電極で水の電気分解による気泡が認められ、放電プラズマは発生せず、金ナノ粒子に基づく着色液体を得ることができなかった。
【0043】
【表1】
【0044】
〔実施例6〕
水中放電プラズマ法で作製した522nmのAuのプラズモン吸収に基づく吸収ピークの直線光線透過率(光路長1cm)が47%であるAuナノ粒子水分散液にL−アスコルビン酸濃度が52mmol/Lとなるように加えた。L−アスコルビン酸溶解後、1週間室温に保持して淡黄色透明溶液を得た。この溶液に紫外線LED(365nm、約38mW/cm2)を照射すると白色発光が認められた。発光スペクトル(励起波長:366nm)を測定したところ、442nmと467nmに極大ピークが認められ、560nm近傍にショルダーピークが認められた。表2に得られた溶液の外観色、発光スペクトルのピーク波長、最大ピークでの発光強度、発光色をまとめて示した。図3には電子吸収スペクトルと発光スペクトルを示した。
【0045】
〔実施例7〕
545nmのAuのプラズモン吸収に基づく吸収ピークの直線光線透過率(光路長1cm)が77%であるAuナノ粒子水分散液を用いた以外は実施例6と同様に行って、淡黄色透明溶液を得た。表2に得られた溶液の外観色、発光スペクトルのピーク波長、発光色をまとめて示した。
【0046】
〔実施例8〕
600nmの直線光線透過率(光路長1cm)が43%であるPtナノ粒子水分散液(Ptの場合、プラズモン吸収は認められない)を用いた以外は実施例6と同様に行って、淡黄緑色透明溶液を得た。表2に得られた溶液の外観色、発光スペクトルのピーク波長、発光色をまとめて示した。
【0047】
〔実施例9〕
600nmの直線光線透過率(光路長1cm)が66%であるCuナノ粒子水分散液を用いた以外は実施例6と同様に行って、無色透明溶液を得た。表2に得られた溶液の外観色、発光スペクトルのピーク波長、発光色をまとめて示した。
【0048】
〔実施例10〕
L−アスコルビン酸を用いるところを、L−アスコルビン酸15mmmol/L、クエン酸1水和物15mmmol/L、L−酒石酸15mmmol/Lの混合物を用いた以外は実施例6と同様に行って、黒色浮遊物を含む淡黄色透明溶液を得た。表2に得られた溶液の外観色、発光スペクトルのピーク波長、ピーク強度、発光色をまとめて示した。
【0049】
〔実施例11〕
L−アスコルビン酸を用いるところを、L−アスコルビン酸30mmmol/L、クエン酸1水和物15mmmol/L、L−酒石酸15mmmol/Lの混合物を用いた以外は実施例6と同様に行って、黒色浮遊物を含む淡黄色透明溶液を得た。表2に得られた溶液の外観色、発光スペクトルのピーク波長、発光色をまとめて示した。
【0050】
〔実施例12〕
実施例6で得た淡黄色透明液体0.1mLをスライドグラスに滴下、自然乾燥して無色透明薄膜を得た。この薄膜に紫外線LED(365nm、約38mW/cm2)を照射すると淡緑色発光が認められた。このときの発光スペクトルを図4に示した。
【0051】
〔比較例3〕
L−アスコルビン酸を用いるところを、クエン酸1水和物52mmmol/Lを用いた以外は、実施例1と同様に行ったところ、黒色沈殿物を含む無色透明液体を得た。得られた液体に紫外線照射しても発光は認められなかった。
【0052】
〔比較例4〕
L−アスコルビン酸を用いるところを、L−酒石酸52mmmol/Lを用いた以外は、実施例1と同様に行ったところ、黒色沈殿物を含む無色透明液体を得た。得られた液体に紫外線照射しても発光は認められなかった。
【0053】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の金属ナノ粒子分散液は、分散剤等の添加物を含まないにもかかわらず分散安定性のよい金属ナノ粒子分散液を簡易な設備で短時間に製造することができ、産業上、例えば、医療、ヘルスケア分野で用いられる体外検査薬用の発色色材としての利用価値は甚大である。また、これらの金属ナノ粒子分散液から金属酸化物ナノ粒子分散液、金属水酸化物ナノ粒子分散液を得ることができ、産業上の波及範囲は極めて広範囲である。
【0055】
さらに、本発明は、分散安定性のよい発光性金属クラスター分散液および金属クラスターを含む薄膜を安価な設備で短時間に製造することができ、産業上、特に、医療、ヘルスケア分野への利用価値は甚大である。さらに本発明によれば、ビタミンCのセンシングも可能となり食品、医療分野に適用可能であるとともに、金属クラスター自身が保有する触媒機能を利用することも可能であり、産業上の波及範囲は極めて広範囲である。
【符号の説明】
【0056】
101 金電極
102 電気絶縁材
103 電気絶縁性容器
104 導電率が20μS/cm以下の液体
105 電極間距離(0〜3mm)
106 高電圧発生装置
107 配線
図1
図2
図3
図4