特許第6375239号(P6375239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375239
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】レーザ顕微鏡装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/36 20060101AFI20180806BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20180806BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   G02B21/36
   G02B21/06
   G02B21/00
【請求項の数】21
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-21242(P2015-21242)
(22)【出願日】2015年2月5日
(65)【公開番号】特開2016-143030(P2016-143030A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】久保 博一
【審査官】 岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−091694(JP,A)
【文献】 特開2011−257661(JP,A)
【文献】 特開2003−167183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00
G02B 21/06−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を標本上において走査する走査部と、
前記レーザ光の照射によって標本において発生した観察光を集光する対物レンズと、
単一のフォトンを検出可能な複数の検出要素が平面上に配列してなる受光面を有し、前記対物レンズによって集光されて前記受光面に入射した前記観察光を受光し、受光した前記観察光の光量に応じた強度を有する強度信号を出力する光検出部と、
該光検出部から出力された前記強度信号の強度と前記走査部による前記レーザ光の走査位置とに基づいて前記標本の画像を生成する画像生成部と、
該画像生成部による前記画像の生成に使用される前記強度信号に所定の閾値以上の強度を有する強度信号が含まれる場合に、前記所定の閾値以上の強度を有する前記強度信号の存在をユーザに認識させる認識手段とを備え、
前記所定の閾値が、前記受光面に入射する前記観察光のビーム径に応じて設定されるレーザ顕微鏡装置。
【請求項2】
前記所定の閾値が、前記対物レンズの射出NAに基づいて設定される請求項1に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項3】
前記対物レンズと前記光検出部との間に設けられ、前記対物レンズの焦点と光学的に共役な位置に配置されたピンホールを有するピンホール部材を備え、
前記所定の閾値が、前記ピンホールの孔径に基づいて設定される請求項1または請求項2に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項4】
前記対物レンズと前記光検出部との間に設けられ、前記対物レンズによって集光された観察光を波長毎に分離してスペクトル列を生成する回折格子と、
該回折格子によって生成された前記スペクトル列の配列方向に幅寸法を有し、前記スペクトル列の内の一部のみを通過させるスリットを有するスリット部材とを備え、
前記所定の閾値が、前記スリットの幅寸法に基づいて設定される請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項5】
前記標本の観察条件を設定する条件設定手段と、
前記標本の観察条件と前記所定の閾値とが対応付けられたテーブルを記憶し、前記条件設定手段によって設定された観察条件と前記テーブルとに基づいて、前記認識手段によって使用される前記所定の閾値を設定する閾値設定手段とを備える請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項6】
前記標本の観察条件を設定する条件設定手段と、
前記標本の観察条件と前記所定の閾値とを対応付けた関数を記憶し、前記条件設定手段によって設定された観察条件に基づいて前記関数から前記所定の閾値を算出する閾値設定手段とを備える請求項1から請求項4のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項7】
前記光検出部と前記画像生成部との間に設けられ、前記光検出部から出力された前記強度信号を増幅する増幅手段を備え、
前記所定の閾値が、前記増幅手段による前記強度信号の増幅率に応じて設定される請求項1から請求項6のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項8】
前記所定の閾値は、前記受光面に入射する前記観察光のビーム径に基づいて決まる、前記光検出部から出力される前記強度信号の強度が取り得る範囲の最大値に応じて設定される請求項1から請求項7のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項9】
前記所定の閾値が、前記走査部による前記レーザ光の走査速度に応じて設定される請求項8に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項10】
前記認識手段が、警告表示、警告光および警告音の内、少なくとも1つを出力する報知部を備える請求項1から請求項9のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項11】
前記認識手段が、前記画像生成部によって生成される前記画像において、前記強度信号の強度が前記所定の閾値以上である画素を他の画素に対して強調表示させる請求項1から請求項10のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項12】
前記認識手段が、前記所定の閾値と等しい前記強度信号の強度が前記画像の各画素が取り得る階調値の範囲の最大値に相当するように、前記画像生成部によって生成される前記画像の階調を変更する請求項1から請求項10のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項13】
前記光検出部と前記画像生成部との間に設けられ、前記強度信号を増幅する増幅手段を備え、
前記認識手段は、前記所定の閾値と等しい前記強度信号の強度が前記画像の各画素が取り得る階調値の範囲の最大値に相当するように、前記増幅手段による前記強度信号の増幅率を調整する請求項1から請求項10のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項14】
前記光検出部への前記観察光の入射光量を低減させる入射光量低減手段と、
前記強度信号の強度が前記所定の閾値以上であるときに、前記入射光量低減手段の作動を許可する入射光量低減許可手段とを備える請求項1から請求項13のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項15】
前記入射光量低減手段が、前記標本に照射される前記レーザ光を減弱させる請求項14に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項16】
前記入射光量低減手段が、前記対物レンズと前記光検出部との間の光路に挿脱可能に設けられた、または、該光路に前記観察光の光量の低減量を変更可能に設けられたNDフィルタを備える請求項14に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項17】
前記入射光量低減手段が、前記対物レンズと前記光検出部との間の光路に挿脱可能に設けられ、前記観察光の一部のみを透過させ、他の部分を反射する部分反射ミラーを備える請求項14に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項18】
前記部分反射ミラーによって反射された観察光を吸収するビームダンパを備える請求項17に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項19】
前記部分反射ミラーによって反射された観察光を検出する副光検出部を備え、
前記光検出部と前記副光検出部とが、同時に前記観察光を検出し、
前記画像生成部が、前記光検出部から出力された強度信号と、前記副光検出部から出力された強度信号とを平均化した信号に基づいて前記画像を生成する請求項18に記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項20】
前記光検出部が、前記検出要素に入射した前記観察光を増倍する増倍機能を有し、
前記所定の閾値以上の強度を有する前記強度信号が含まれる場合に、前記光検出部による前記観察光の増倍率の低減を許可する増倍率低減許可手段を備える請求項1から請求項19のいずれかに記載のレーザ顕微鏡装置。
【請求項21】
前記光検出部が、所定の降伏電圧未満の電圧が印加されている状態で駆動するリニアモード、および、前記所定の降伏電圧以上の電圧が印加されている状態で駆動し、前記検出要素に入射した前記観察光を前記リニアモードよりも高い増倍率で増倍するガイガーモードで択一的に動作し、
前記増倍率低減許可手段は、前記所定の閾値以上の強度を有する前記強度信号が含まれる場合に、前記ガイガーモードから前記リニアモードへの切り替えを許可する請求項20に記載のレーザ顕微鏡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光検出器としてPMT(光電子増倍管)を採用したレーザ顕微鏡装置が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。光検出器としては、PMTの他に、MPPC(Multi−Pixel Photon Counter)、SiPM(Silicon Photomultiplier)、マルチピクセル型アバランシェフォトダイオードのようなPPD(Pixelated Photon Detector、マルチピクセル型のフォトン検出器)が知られている。
【0003】
光を検出するとその光の強度に関係なく一定強度の信号を出力する動作モード、すなわち、ガイガーモードでPPDを使用すると、1フォトンレベルの微弱光を検出することが可能になる。ガイガーモードでPPDを使用した場合において、単位時間当たりに検出することができるフォトン数は1ピクセル当たり1フォトン程度であるが、PPDはマルチピクセルであるから、PPDへの入射フォトン数が多くなっても、それに応じたフォトン数を検出することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】原口徳子,木村宏,平岡泰編集、「講義と実習 生細胞蛍光イメージング−阪大・北大 顕微鏡コースブック」、共立出版、p.151−152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PPDのダイナミックレンジの上限(飽和レベル)は、PPDが有する全ピクセルの内、光が入射するピクセルの数に依存し、光が入射するピクセルの数が多い程、飽和レベルが高くなる。すなわち、PPDの飽和レベルはPPDに入射する光のビーム径に依存し、ビーム径が大きい程、PPDの飽和レベルが高くなる。ビーム径は、対物レンズの射出NA等の観察条件に応じて変化する。したがって、例えば、ユーザが対物レンズを射出NAが大きいものから小さいものへ切り替えたときに、PPDの飽和レベルが低下してしまう。しかしながら、観察条件の変更に伴って変化するPPDの飽和レベルをユーザが判断することは難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、観察条件の変更に伴って変化する光検出器の飽和レベルをユーザが容易に判断することができるレーザ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、レーザ光を標本上において走査する走査部と、前記レーザ光の照射によって標本において発生した観察光を集光する対物レンズと、単一のフォトンを検出可能な複数の検出要素が平面上に配列してなる受光面を有し、前記対物レンズによって集光されて前記受光面に入射した前記観察光を受光し、受光した前記観察光の光量に応じた強度を有する強度信号を出力する光検出部と、該光検出部から出力された前記強度信号の強度と前記走査部による前記レーザ光の走査位置とに基づいて前記標本の画像を生成する画像生成部と、該画像生成部による前記画像の生成に使用される前記強度信号に所定の閾値以上の強度を有する強度信号が含まれる場合に、前記所定の閾値以上の強度を有する前記強度信号の存在をユーザに認識させる認識手段とを備え、前記所定の閾値が、前記受光面に入射する前記観察光のビーム径に応じて設定されるレーザ顕微鏡装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、走査部によって標本上でレーザ光が走査されることによって標本において発生した観察光は、対物レンズによって集光され、光検出部によって検出され、光検出部から観察光の強度に対応する強度信号が出力される。光検出部から出力された強度信号は、画像生成部において、走査部によるレーザ光の標本上における走査位置と対応付けられることによって、画像化される。
【0009】
この場合に、光検出部においては、1フォトンレベルで光を検出する検出要素が複数個用いられることによって、観察光全体の強度が検出される。このような光検出部の飽和レベル(光検出部が検出可能な光の最大強度)は、観察条件毎に決まり、受光面への観察光の入射ビーム径に依存する。一方、入射ビーム径に応じて、飽和レベルに相当する所定の閾値が設定されるが、該所定の閾値は、光検出部の飽和レベルが変化したときに該飽和レベルと連動して変化する。認識手段は、画像内に飽和レベル相当の強度信号が存在する場合に作動することによって、その旨をユーザに認識させる。このように、認識手段の作動の基準として、光検出部の飽和レベルと連動する所定の閾値を用いることによって、観察条件の変更に伴って変化する光検出部の飽和レベルを認識手段の作動に基づいてユーザが容易に判断することができる。
【0010】
上記発明においては、前記所定の閾値が、前記対物レンズの射出NAに基づいて設定されてもよい。
受光面へ入射する観察光のビーム径は、対物レンズの射出NAに依存する。したがって、対物レンズの射出NAを用いて光検出部の飽和レベルを算定することができる。
【0011】
上記発明においては、前記対物レンズと前記光検出部との間に設けられ、前記対物レンズの焦点と光学的に共役な位置に配置されたピンホールを有するピンホール部材を備え、前記所定の閾値が、前記ピンホールの孔径に基づいて設定されてもよい。
ピンホールを通過した観察光を光検出部によって検出する共焦点顕微鏡の構成において、受光面へ入射する観察光のビーム径は、ピンホールの孔径に依存する。したがって、ピンホールの孔径を用いて光検出部の飽和レベルを算定することができる。
【0012】
上記発明においては、前記対物レンズと前記光検出部との間に設けられ、前記対物レンズによって集光された観察光を波長毎に分離してスペクトル列を生成する回折格子と、該回折格子によって生成された前記スペクトル列の配列方向に幅寸法を有し、前記スペクトル列の内の一部のみを通過させるスリットを有するスリット部材とを備え、前記所定の閾値が、前記スリットの幅寸法に基づいて設定されてもよい。
観察光を回折格子によって分光してスリットを通過した一部の波長の光のみを検出する構成において、受光面へ入射する観察光のビーム径は、スリットの幅寸法に依存する。したがって、スリットの幅寸法を用いて光検出部の飽和レベルを算定することができる。
【0013】
上記発明においては、前記標本の観察条件が設定される条件設定手段と、前記標本の観察条件と前記所定の閾値とが対応付けられたテーブルを記憶し、前記条件設定手段に設定された観察条件と前記テーブルとに基づいて、前記認識手段によって使用される前記所定の閾値を設定する閾値設定手段とを備えていてもよい。あるいは、上記発明においては、前記標本の観察条件を設定する条件設定手段と、前記標本の観察条件と前記所定の閾値とを対応付けた関数を記憶し、前記条件設定手段によって設定された観察条件に基づいて前記関数から前記所定の閾値を算出する閾値設定手段とを備えていてもよい。
このようにすることで、観察条件に最適な所定の閾値を自動的に設定することができる。
【0014】
上記発明においては、前記光検出部と前記画像生成部との間に設けられ、前記光検出部から出力された前記強度信号を増幅する増幅手段を備え、前記所定の閾値が、前記増幅手段による前記強度信号の増幅率に応じて設定されてもよい。
このようにすることで、増幅手段によって増幅されて画像生成部において画像生成に使用される強度信号と、所定の閾値との比較を容易にすることができる。
【0015】
上記発明においては、前記所定の閾値は、前記受光面に入射する前記観察光のビーム径に基づいて決まる、前記光検出部から出力される前記強度信号の強度が取り得る範囲の最大値に応じて設定されてもよい。
このようにすることで、所定の閾値を、光検出部の飽和レベルに相当する値に設定することができる。光検出部の飽和レベルは、走査部によるレーザ光の走査速度に応じて変化するので、前記所定の閾値は、前記走査部による前記レーザ光の走査速度に応じて設定されてもよい。
【0016】
上記発明においては、前記認識手段が、警告表示、警告光および警告音の内、少なくとも1つを出力する報知部を備えていてもよい。
このようにすることで、強度信号の強度が所定の閾値以上である飽和画素の存在を、視覚または聴覚を介してユーザに確実に認識させることができる。
【0017】
上記発明においては、前記認識手段が、前記画像生成部によって生成される前記画像において、前記強度信号の強度が前記所定の閾値以上である画素を他の画素に対して強調表示させてもよい。
このようにすることで、飽和画素が画像に存在する場合に当該飽和画素が画像内において強調表示されるので、ユーザは、観察している画像から容易に飽和画素の存在を認識することができる。
【0018】
上記発明においては、前記認識手段が、前記所定の閾値と等しい前記強度信号の強度が前記画像の各画素が取り得る階調値の範囲の最大値に相当するように、前記画像生成部によって生成される前記画像の階調を変更してもよい。
このようにすることで、飽和画素が存在する場合には当該飽和画素が画像内において最大階調値で表示されるので、ユーザは、観察している画像から容易に飽和画素の存在を認識することができる。さらに、所定の閾値の変化に伴う画像内の飽和画素の明るさの変化が抑制されるので、ユーザは、所定の閾値の変動を必要以上に気にすることなく画像を観察することができる。
【0019】
上記発明においては、前記光検出部と前記画像生成部との間に設けられ、前記強度信号を増幅する増幅手段を備え、前記認識手段は、前記強度信号の強度が前記所定の閾値以上であるときに、前記所定の閾値と等しい前記強度信号の強度が前記画像の各画素が取り得る階調値の範囲の最大値に相当するように、前記増幅手段による前記強度信号の増幅率を調整してもよい。
このようにすることで、飽和画素が存在する場合には当該飽和画素が画像内において最大階調値で表示されるので、ユーザは、観察している画像から容易に飽和画素の存在を認識することができる。さらに、所定の閾値の変化に伴う画像内の飽和画素の明るさの変化が抑制されるので、ユーザは、所定の閾値の変動を必要以上に気にすることなく画像を観察することができる。
【0020】
上記発明においては、前記光検出部への前記観察光の入射光量を低減させる入射光量低減手段と、前記強度信号の強度が前記所定の閾値以上であるときに、前記入射光量低減手段の作動を許可する入射光量低減許可手段とを備えていてもよい。
このようにすることで、観察光に対して光検出部が飽和状態であるときに、入射光量低減手段の作動によって、光検出部への観察光の入射光量を低減させることによって、強い観察光の強度も正確に検出することができる。
【0021】
上記発明においては、前記入射光量低減手段が、前記標本に照射される前記レーザ光を減弱させてもよい。
このようにすることで、標本に照射されるレーザ光の減弱に伴って標本から発せられる観察光を減弱させることによって、光検出部への観察光の入射光量を簡便な構成で低減させることができる。
【0022】
上記発明においては、前記入射光量低減手段が、前記対物レンズと前記光検出部との間の光路に挿脱可能に設けられた、または、該光路に前記観察光の光量の低減量を変更可能に設けられたNDフィルタを備えていてもよい。
あるいは、上記発明においては、前記入射光量低減手段が、前記対物レンズと前記光検出部との間の光路に挿脱可能に設けられ、前記観察光の一部のみを透過させ、他の部分を反射する部分反射ミラーを備えていてもよい。
このようにすることで、NDフィルタまたは部分反射ミラーを前記光路に挿入するだけ、または、NDフィルタによるレーザ光の光量の低減量を変更するだけの簡単な構成と制御のみで、光検出部への観察光の入射光量を低減させることができる。
【0023】
上記発明においては、前記部分反射ミラーによって反射された光を吸収するビームダンパを備えていてもよい。
上記発明においては、前記部分反射ミラーによって反射された光を検出する副光検出部を備え、前記光検出部と前記副光検出部とが、同時に前記観察光を検出し、前記画像生成部が、前記光検出部から出力された強度信号と、前記副光検出部から出力された強度信号とを平均化した信号に基づいて前記画像を生成してもよい。
このようにすることで、画像のSN比を向上することができる。
【0024】
上記発明においては、前記光検出部が、前記検出要素に入射した前記観察光を増倍する増倍機能を有し、前記所定の閾値以上の強度を有する前記強度信号が含まれる場合に、前記光検出部による前記観察光の増倍率の低減を許可する増倍率低減許可手段を備えていてもよい。
このようにすることで、観察光に対して光検出部が飽和状態となっているときに、観察光の増倍率を低減することによって、強い観察光に対する光検出部の感度を適正化することができる。
【0025】
上記発明においては、前記光検出部が、所定の降伏電圧未満の電圧が印加されている状態で駆動するリニアモード、および、前記所定の降伏電圧以上の電圧が印加されている状態で駆動し、前記検出要素に入射した前記観察光を前記リニアモードよりも高い増倍率で増倍するガイガーモードで択一的に動作し、前記増倍率低減許可手段は、前記所定の閾値以上の強度を有する前記強度信号が含まれる場合に、前記ガイガーモードから前記リニアモードへの切り替えを許可してもよい。
このようにすることで、観察光に対して光検出部の感度が飽和状態となっているときに、観察光を高い増倍率で増倍する高感度のガイガーモードから、観察光を低倍率で増倍する低感度のリニアモードへ切り替えることによって、強い観察光に対する光検出部の感度を適正化することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、観察条件の変更に伴って変化する光検出器の飽和レベルをユーザが容易に判断することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ顕微鏡装置を示す概略構成図である。
図2】対物レンズの射出NAと、PPDへ入射する観察光のビーム径との関係を説明する、図1のレーザ顕微鏡装置の部分的な拡大図である。
図3】PPDへの入射光量とPPDから出力される強度信号との関係を表すグラフである。
図4図1のレーザ顕微鏡装置による、PPDの飽和状態の判定に係る処理を説明するフローチャートである。
図5】本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置において、画像生成ソフトウェアが有するLUTを示す図である。
図6図1のレーザ顕微鏡装置の第1の変形例の部分的な構成図である。
図7図6のレーザ顕微鏡において、PPDへの入射光量とPPDから出力される強度信号との関係を表すグラフである。
図8図1のレーザ顕微鏡装置の第2の変形例の部分的な拡大図である。
図9図1のレーザ顕微鏡装置の第2の変形例の他の例を示す部分的な構成図である。
図10図1のレーザ顕微鏡装置の第3の変形例の部分的な拡大図である。
図11図1のレーザ顕微鏡装置の第3の変形例の他の例を示す部分的な拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1は、図1に示されるように、顕微鏡本体2と、該顕微鏡本体2をユーザが操作するためのコンピュータ3と、顕微鏡本体2とコンピュータ3との間に接続され、コンピュータ3への入力に従って顕微鏡本体2を駆動制御する駆動制御部4とを備えている。
【0029】
顕微鏡本体2は、レーザ光Lを出力するレーザ光源5と、レーザ光源5から出力されたレーザ光Lを2次元的に走査するXYガルバノミラー(走査部)6と、XYガルバノミラー6によって走査されたレーザ光Lをリレーするリレー光学系7と、リレー光学系7によってリレーされたレーザ光Lを標本Sに照射し、標本Sから発せられる観察光L’(例えば、蛍光)を集光する対物レンズ8とを備えている。
【0030】
さらに、顕微鏡本体2は、対物レンズ8によって集光されてレーザ光Lの光路を戻る観察光L’を分岐するダイクロイックミラー9と、ダイクロイックミラー9によって分岐された観察光L’を反射する反射ミラー10と、反射ミラー10によって反射された観察光L’を集光する集光レンズ11と、集光レンズ11によって集光された観察光L’の通過を制限するコンフォーカルアパーチャ(ピンホール部材)12と、コンフォーカルアパーチャ12を通過した観察光L’を略平行光束に変換するコリメートレンズ13と、コリメートレンズ13によって略平行光束に変換された観察光L’を検出するPPD(Pixelated Photon Detector、光検出部)14とを備えている。
【0031】
対物レンズ8は、NAや倍率の異なる複数種類のものがレボルバ15によって支持されている。レボルバ15は、駆動制御部4の制御またはユーザの手動によって、いずれか1つの対物レンズ8をレーザ光Lの光路に挿入するようになっている。
【0032】
ダイクロイックミラー9は、レーザ光源5からのレーザ光LをXYガルバノミラー6に向けて反射し、標本Sから対物レンズ8やXYガルバノミラー6等を介してレーザ光Lの光路を戻る観察光L’を反射ミラー10に向けて透過させる。
コンフォーカルアパーチャ12は、対物レンズ8の焦点と光学的に共役な位置に配置されたピンホール12aを有し、対物レンズ8の焦点位置からの観察光L’のみがピンホール12aを通過するようになっている。
【0033】
PPD14は、例えば、MPPC(Multi−Pixel Photon Counter)、SiPM(Silicon Photomultiplier)、マルチピクセル型アバランシェフォトダイオード等の光検出器である。PPD14は、観察光L’を検出する複数のピクセル(検出要素、図示略)が2次元配列された受光面14aを有している。各ピクセルは、フォトン検出を行う単位である。
【0034】
PPD14は、各ピクセルが入射光強度に関わらず一定強度のパルスを出力するガイガーモードで駆動するよう設定されている。ガイガーモードにおいて、PPD14の各ピクセルが単位時間当たりに検出するフォトン数は、1フォトン程度である。観察光L’を検出したピクセルはパルスを出力し、PPD14は、各ピクセルから出力されるパルスの和を強度信号として出力する。
【0035】
PPD14の後段には、PPD14から出力された強度信号を増幅する増幅器(増幅手段)16と、該増幅器16によって増幅された強度信号の強度をデジタル値(強度信号値)に変換するAD変換器(増幅手段)17とが接続されている。AD変換器17は、デジタル変換前に強度信号を増幅する増幅機能を有していてもよい。
【0036】
コンピュータ3には、顕微鏡本体2の作動条件を設定するためのアプリケーションソフトウェア(駆動制御ソフトェア)31と、顕微鏡本体2から受信した強度信号値から標本Sの画像を生成して表示するためのアプリケーションソフトウェア(画像生成ソフトウェア)32とがインストールされている。駆動制御ソフトェア31がコンピュータ3によって実行されることによって、顕微鏡本体2が駆動制御部4による駆動制御に従って作動し、画像生成ソフトウェア32がコンピュータ3によって実行されることによって、画像が生成および表示されるようになっている。
【0037】
駆動制御ソフトェア(閾値設定手段)31は、コンピュータ3に接続されたマウスやキーボード等の任意の入力装置(図示略)を介してユーザが顕微鏡本体2による標本Sの観察条件を入力することによって、観察条件を設定することができるようになっている。観察条件には、標本Sの観察に使用される対物レンズ8の種類と、XYガルバノミラー6によるレーザ光Lの走査速度と、増幅器16のゲイン(増幅率)とが少なくとも含まれる。さらに、AD変換器17のゲイン(増幅率)が観察条件に含まれてもよい。駆動制御ソフトェア31に入力された観察条件は、コンピュータ3から駆動制御部4へ送信されるようになっている。コンピュータ3から観察条件を受信した駆動制御部4は、該観察条件に従って顕微鏡本体2を駆動制御するようになっている。
【0038】
さらに、駆動制御ソフトェア(条件設定手段)31は、設定された観察条件に基づいて、観察光L’の強度信号値に対する上限値(所定の閾値)を設定する。上限値の設定には、コンピュータ3に内蔵される記憶装置に記憶されたテーブルが使用される。テーブルには、対物レンズ8の射出NA、コンフォーカルアパーチャ12のピンホール12aの孔径、および、XYガルバノミラー6によるレーザ光Lの走査速度の組み合わせからなる観察条件毎に上限基準値が対応付けられている。駆動制御ソフトェア31は、記憶装置からテーブルを読み出し、現在設定されている観察条件と対応する上限基準値をテーブルから選択する。次に、駆動制御ソフトェア31は、選択した上限基準値に、増幅器16およびAD変換器17のゲインをかけ算することによって上限基準値を補正し、得られた補正値を上限値に設定する。
【0039】
ここで、上限値と、顕微鏡本体2による標本Sの観察条件と、PPD14の観察光L’に対する飽和レベルとの関係について説明する。
飽和レベルは、PPD14が検出可能な観察光L’の強度の最大値である。受光面14aへの観察光L’の入射光量がゼロから飽和レベルまでの範囲のときは、図3に示されるように、PPD14から出力される強度信号は入射光量に比例する。しかし、受光面14aへの観察光L’の入射光量が飽和レベル以上となると、PPD14から出力される強度信号は飽和して入射光量に依らずに一定となる。
【0040】
下式(1)は、PPD14において、入射光によって励起されてフォトン検出信号を出力するピクセルの数Nfiredを表している。式(1)において、NtotalはPPD14の全ピクセルの内、観察光L’が入射する領域内のピクセルの総数、Nphotonは入射フォトン数、Pはレーザ光Lの走査速度に依存して決まる受光面14aへの観察光L’の入射時間(秒)、tはピクセルの不感時間(秒)であり、P>tである。Nfiredは、PPD14の飽和レベルに相当する実効的なダイナミックレンジを表すと考えることができる。式(1)から分かるように、Nfired、すなわちPPD14の実効的なダイナミックレンジは、Ntotal、すなわち、受光面14aに入射する観察光L’のビーム径に依存する。
【0041】
【数1】
【0042】
図2に示されるように、射出NAの大きな対物レンズ8を使用する場合、受光面14aに入射する観察光L’のビーム径が大きくなるため、Ntotalが大きくなり、PPD14の飽和レベルが大きくなる。一方、射出NAの小さな対物レンズ8を使用する場合、受光面14aに入射する観察光L’のビーム径が小さくなるため、Ntotalが小さくなり、PPD14の飽和レベルが小さくなる。
受光面14aに入射する観察光L’のビーム径は、コンフォーカルアパーチャ12のピンホール12aの孔径にも影響される。したがって、PPD14の飽和レベルは、対物レンズ8の射出NAの他に、コンフォーカルアパーチャ12のピンホール12aの孔径にも依存する。さらに、PPD14の飽和レベルは、XYガルバノミラー6によるレーザ光Lの走査速度にも依存する。このように、PPD14の飽和レベルは、観察条件毎に異なる。
【0043】
ここで、テーブルにおいて観察条件毎に対応付けられた上限基準値は、各観察条件の下において飽和レベル相当の観察光L’が受光面14aに入射したときにPPD14から出力される強度信号の強度に相当する。上限基準値をゲインで補正して算出される上限値は、各観察条件の下において飽和レベル相当の観察光L’が受光面14aに入射したときに、AD変換器17から出力される強度信号値に相当する。したがって、強度信号値が上限値以上である場合には、観察光L’の強度がPPD14の飽和レベルを超えていることを意味する。
【0044】
画像生成ソフトウェア32は、強度信号値とXYガルバノミラー6によるレーザ光Lの走査位置情報とを対応付けることによって、強度信号値を画素の階調値とする標本Sの2次元的な画像を生成する。画像生成に必要な強度信号値とXYガルバノミラー6によるレーザ光Lの走査位置情報とは、コンピュータ3によって駆動制御部4から取得される。画像生成ソフトウェア32は、生成された画像をコンピュータ3のディスプレイ33に表示させる。
【0045】
さらに、画像生成ソフトウェア32は、駆動制御ソフトェア31によって設定された上限値を駆動制御ソフトェア31から取得する。画像生成ソフトウェア32は、1フレームの画像の全画素の階調値(すなわち、強度信号値)を上限値と比較する。画像生成ソフトウェア32は、上限値以上の階調値を有する画素(以下、「飽和画素」という。)の数が所定の数N以上であるときには、コンピュータ3から駆動制御部4へ状態異常信号を送信させる。一方、飽和画素の数が所定の数N未満であるときには、画像生成ソフトウェア32は、コンピュータ3から駆動制御部4への状態異常信号を送信させない。状態異常信号を受信した駆動制御部4は、当該状態異常信号を報知部へ送信する。
【0046】
所定の数Nは、画像生成ソフトウェア32または駆動制御ソフトェア31によって、画像の全画素数に基づいて自動的に算出および設定される。例えば、所定の数Nは、全画素数に所定の比率をかけ算した値である。あるいは、ユーザが駆動制御ソフトェア31に対して任意の値を所定の数Nとして設定することができるようになっていてもよい。
【0047】
報知部(認識手段)は、例えば、コンピュータ3である。コンピュータ3は、駆動制御部4から状態異常信号を受信したときに、PPD14が飽和していることを示す警告表示をディスプレイ33に表示させるようになっている。なお、報知部は、PPD14が飽和していることを視覚または聴覚を介してユーザに認識させることができさえすれば、どのような形態であってもよい。例えば、報知部は、状態異常信号を受信したときに警告光を点灯するハザードランプ(図示略)であってもよく、状態異常信号を受信したときに警告音を出力するスピーカ(図示略)であってもよい。
【0048】
このように構成されたレーザ顕微鏡装置1の作用について説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置1により標本Sの画像を取得するには、まず、所望の観察条件がユーザによって駆動制御ソフトウェア31に設定される。観察条件が設定されると、駆動制御ソフトウェア31は、図4に示されるように、記憶装置からテーブルを読出し、観察条件に対応する上限基準値をテーブルから選択し(ステップS1)、選択した上限基準値に増幅値をかけ算することによって上限値を決定する(ステップS2)。次に、駆動制御ソフトェア31に入力された観察条件がコンピュータ3から駆動制御部4に送信され、駆動制御部4が顕微鏡本体2の駆動を開始する(ステップS3)。
【0049】
レーザ光源5から出力されたレーザ光Lは、ダイクロイックミラー9によって反射された後、XYガルバノミラー6によって走査されてリレー光学系3によってリレーされ、対物レンズ8によって標本Sに照射される。これにより、XYガルバノミラー6の揺動動作に応じて、標本S上でレーザ光Lが2次元的に走査される。
【0050】
レーザ光Lが照射されることによって標本Sから発せられる観察光L’は、対物レンズ8によって集光された後、リレー光学系3およびXYガルバノミラー6を介してダイクロイックミラー9を透過し、反射ミラー10によって反射されて集光レンズ11によって集光される。集光レンズ11によって集光された観察光L’の内、標本Sにおける対物レンズ8の焦点位置からの光のみがコンフォーカルアパーチャ12のピンホール12aを通過し、コリメートレンズ13によって略平行光束に変換されてPPD14に入射する。
【0051】
PPD14においては、全ピクセルの内、観察光L’が入射したピクセルのみから一定強度のパルスが出力され、パルスの和である強度信号が出力される。強度信号は、増幅器16およびAD変換器17による増幅およびAD変換器17によるデジタル変換を経て、コンピュータ3へ送信される。これにより、コンピュータ3内の画像生成ソフトウェア32によって、各強度信号値がXYガルバノミラー6によるレーザ光Lの走査位置情報と対応づけられ、2次元的な標本Sの画像が生成される。
【0052】
ここで、画像内に飽和画素が何個存在するかが画像生成ソフトウェア32によって判断される(ステップS4)。そして、所定の数N以上の飽和画素が存在する場合に(ステップS4のYES)、駆動制御部4からコンピュータ3へ状態異常信号が送信され、ディスプレイ33に警告表示が表示される(ステップS5)。ユーザは、ディスプレイ33上の警告表示の出現に基づいて、PPD14の飽和レベルに対して観察光L’が強過ぎるために、一部の画素において観察光L’の強度が飽和してしまっていることを認識することができる。一度ディスプレイ33に表示された警告表示は、例えば、ユーザがレーザ光Lを弱めたりレーザ光Lの走査速度を速めたりする等して、PPD14への観察光L’の入射光量を飽和レベル未満まで低下させることによって、消すことができる。
【0053】
このように、本実施形態によれば、上限値は、観察条件毎に、各観察条件の下でPPD14の飽和レベルに対応するように設定される。例えば、使用する対物レンズ8が射出NAの異なるものに変更されてPPD14の飽和レベルが変化したときに、変化後の飽和レベルに対応するように上限値も変更される。したがって、観察条件の変更に伴ってPPD14の飽和レベルが変化したとしても、現在の観察条件の下でのPPD14の飽和レベルを、警告表示の表示および非表示に基づいてユーザが容易に判断することができるという利点がある。
【0054】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置は、飽和画素の存在を報知部からの警告表示、警告光、警告音等の警報情報の出力によってユーザに認識させることに代えて、または、これに加えて、画像内の飽和画素を強調表示する点で、第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置と異なっている。
【0055】
本実施形態において、画像生成ソフトウェア32は、画像の内、飽和画素を、飽和画素以外の画素に対して強調表示する。例えば、画像がモノクロ画像である場合には、飽和画素を、赤等の目立つ色で表示する。
本実施形態のその他の構成は、第1の実施形態と同一である。
本実施形態によれば、飽和画素を強調表示することによって、画像を観察するユーザが飽和画素を視覚的に容易に認識することができるという利点がある。特に、いずれの画素において強度信号が飽和しているかを、容易に視認することができるという利点がある。
【0056】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置は、飽和画素の存在を報知部からの警告表示、警告光、警告音等の警報情報の出力によってユーザに認識させることに代えて、画像において飽和画素が白で表示されるように、上限値に応じて画像の階調を変換する点で、第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置と異なっている。
【0057】
本実施形態において、画像生成ソフトウェア(認識手段)32は、駆動制御ソフトェア31によって設定された上限値が、各画素が取り得る階調値の範囲の最大値となるように、画像の階調を変換する。例えば、図5に示されるように、画像のビット数が12ビット(4096階調)である場合、階調値0が黒、階調値4096が白にそれぞれ対応するように、強度信号値と画素の階調値との対応関係を表す画像のルックアップテーブル(LUT)が初期設定される。そして、駆動制御ソフトェア31によって上限値が800に設定されると、画像生成ソフトウェア32は、階調値800が白に対応するようにLUTを変更することによって、画像の階調を変換する。
本実施形態のその他の構成は、第1の実施形態と同一である。
【0058】
本実施形態によれば、飽和画素が存在している場合、画像において飽和画素は白で表示されるので、第2の実施形態で説明したような強調表示を飽和画素に施さずとも、画像を観察するユーザが飽和画素を視覚的に容易に認識することができるという利点がある。特に、いずれの画素において強度信号が飽和しているかを、容易に視認することができるという利点がある。
【0059】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係るレーザ顕微鏡装置は、飽和画素の存在を報知部からの警告表示、警告光、警告音等の警報情報の出力によってユーザに認識させることに代えて、画像において飽和画素が白で表示されるように、上限値に応じて増幅器16およびAD変換器17のうち少なくとも一方の強度信号のゲインを変更する点で、第1の実施形態に係るレーザ顕微鏡装置と異なっている。
【0060】
本実施形態において、上限値が、画像の各画素が取り得る階調値の範囲の最大値(例えば、画像のビット数が12ビットであるときには4096)未満である場合に、上限値が最大階調値となるように、駆動制御部4が増幅器16およびAD変換器17のうち少なくとも一方のゲインを増強させる。
本実施形態のその他の構成は、第1の実施形態と同一である。
【0061】
本実施形態によれば、第3の実施形態と同様に、飽和画素が存在している場合、画像において飽和画素は白で表示されるので、第2の実施形態で説明したような強調表示を飽和画素に施さずとも、画像を観察するユーザが飽和画素を視覚的に容易に認識することができるという利点がある。特に、いずれの画素において強度信号が飽和しているかを、容易に視認することができるという利点がある。
【0062】
なお、上述した第1から第4の実施形態は、以下のように変形することができる。
(第1の変形例)
上述した実施形態の第1の変形例においては、図6に示されるように、コリメートレンズ13とPPD14との間に、対物レンズ8によって集光された光を分光して所定の波長帯域の光のみをPPD14へ射出する分光部18をさらに備えていてもよい。
【0063】
分光部18は、図6に示されるように、コリメートレンズ13から射出された光を分光して波長が一方向に変化するスペクトル列L”に変換する回折格子181と、該回折格子181によって生成されたスペクトル列L”を反射するミラー182と、該ミラー182によって反射されたスペクトル列L”をPPD14の受光面14a上に集光させる結像レンズ183と、該結像レンズ183によって集光されたスペクトル列L”の内、一部の波長の光のみを通過させるスリット184aが形成されたスリット部材184とを備える。
【0064】
スリット部材184は、遮光材料から形成され、スペクトル列L”の波長の変化方向に移動可能に設けられている。スリット部材184の移動によってスペクトル列L”に対するスリット184aの位置を変更することにより、スペクトル列L”を構成する光の内、PPD14へ通過させる光を選択することができるようになっている。
【0065】
スリット部材184を備える構成において、PPD14に入射する観察光L’のビーム径はスリット184aの幅寸法(スリット幅)にも依存する。すなわち、図7に示されるように、スリット幅が大きい程、PPD14の受光面14aに入射する光のビーム径が大きくなり、PPD14の飽和レベルが大きくなる。したがって、本変形例においては、駆動制御ソフトェア31が、さらにスリット184aの幅寸法も加味して上限値を設定する。
【0066】
(第2の変形例)
上述した実施形態の第2の変形例においては、テーブルに基づいて上限値を設定することに代えて、駆動制御ソフトェア31が、観察条件に基づいて上限値を演算により算出してもよい。
例えば、駆動制御ソフトェア31に式(1)の関数が記憶されており、駆動制御ソフトェア31が、顕微鏡本体2の観察条件に基づいて式(1)から上限値を算出する。この場合、各観察条件の下でのPPD14に入射する観察光L’のビーム径とNtotalとを対応づけて記憶しておき、現在の観察条件に対応するNtotalを計算に使用する。観察条件は、駆動制御ソフトェア31が自動取得してもよく、ユーザが手入力してもよい。
また、駆動制御ソフトェア31による自動計算に代えて、ユーザが、観察条件と上限値とが対応付けられた早見表等を使用して、上限値を算出してもよい。
【0067】
(第3の変形例)
上述した実施形態の第3の変形例においては、飽和画素の数が所定の数N以上である場合に、PPD14への観察光L’の入射光量を低減させる入射光量低減手段がさらに設けられていてもよい。入射光量低減手段は、観察光L’のビーム径を変化させることなくPPD14への観察光L’の入射光量を低減させることができる構成であれば、どのような構成であってもよい。
本変形例においては、飽和画素の数が所定の数N以上であるときに、入射光量低減手段の作動を許可する入射光量低減許可手段(図示略)がさらに設けられる。入射光量低減許可手段は、例えば、コンピュータ3に設けられたGUIである。
【0068】
入射光量低減手段の第1の変形例は、レーザ光Lの光路に配置されレーザ光Lを強度を変調する音響光学素子(図示略)を備え、該音響光学素子によってレーザ光Lの強度を低下させることよって、標本Sにおいて発生する観察光L’の強度を低減するようになっている。
音響光学素子に代えて、レーザ光源5に供給する電力を低減してレーザ光源5からのレーザ光Lの出力強度を低減させてもよい。
【0069】
入射光量低減手段の第2の変形例は、図8および図9に示されるように、対物レンズ8からPPD14までの観察光L’の光路(検出光路)に配置されたND(neutral density)フィルタ19を備え、NDフィルタ19によって強度が低下した観察光L’がPPD14に入射するようになっている。NDフィルタ19は、図8に示されるように、レーザ光Lの光軸に平行な回転軸回りに回転可能に設けられ、回転角度に応じて観察光L’の透過率(観察光L’の光量の低減量)が異なる可変式NDフィルタであってもよい。あるいは、図9に示されるように、検出光路に挿脱可能に設けられ、一定の透過率を有する固定式NDフィルタであってもよい。
【0070】
入射光量低減手段の第3の変形例は、図10および図11に示されるように、対物レンズ8からPPD14までの観察光L’の光路(検出光路)に挿脱可能に設けられ、観察光L’の一部のみを透過させ、他の部分を反射する部分反射ミラー20を備える。部分反射ミラー20によって反射された観察光L’は、図10に示されるように、ビームダンパ21によって吸収される。
【0071】
ビームダンパ21に代えて、図11に示されるように、反射された観察光L’を検出するもう1つのPPD(副光検出部)22を備えてもよい。PPD22を備える場合、観察光L’を2つのPPD14,22によって同時に検出し、PPD14から出力された強度信号とPPD22から出力された強度信号とを平均化した信号を、画像の階調値として使用してもよい。このようにすることで、画像のSN比を向上することができる。
【0072】
上記の第1の変形例から第3の変形例の入射光量低減手段の内、複数を組み合わせて採用してもよい。複数種類の入射光量低減手段が設けられている場合には、いずれの入射光量低減手段を使用するかを、ユーザが選択することができるように構成されていてもよい。
【0073】
(第4の変形例)
上述した実施形態の第4の変形例においては、PPD14が、ガイガーモードおよびリニアモードの2種類の動作モードを有していてもよい。
ガイガーモードは、PPD14への印加電圧を降伏電圧以上に設定してPPD14を作動させるモードである。ガイガーモードにおいて、PPD14は、各ピクセルに入射した観察光L’を極めて高い増倍率で増倍させるので、微弱な観察光L’も極めて高い感度で検出することができる。ガイガーモードにおいて、PPD14には、ピクセルにフォトンが入射したとしてもフォトンを検出することができない不感時間が生じる。
【0074】
一方、リニアモードは、PPD14への印加電圧を降伏電圧未満に設定してPPD14を作動させるモードである。リニアモードにおいて、PPD14による観察光L’の増倍率は、ガイガーモードのそれに比べて低いが、強度信号の強度はPPD14への観察光L’の入射光量に比例する。
【0075】
本変形例においては、飽和画素の数が所定の数N以上であるときに、ガイガーモードからリニアモードへの変更を許可する増倍率低減許可手段(図示略)がさらに設けられる。増倍率低減許可手段は、例えば、コンピュータ3に設けられたGUIである。
本変形例によれば、通常はガイガーモードを使用し、飽和状態となったときにガイガーモードから、観察光L’の増倍率が小さいリニアモードへ変更することによって、PPD14のダイナミックレンジを拡大して強い観察光L’の強度も正確に検出することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 レーザ顕微鏡装置
3 コンピュータ(認識手段)
6 XYガルバノミラー(走査部)
8 対物レンズ
12 コンフォーカルアパーチャ(ピンホール部材)
12a ピンホール
14 PPD(光検出部)
14a 受光面
16 増幅器(増幅手段)
17 AD変換器(増幅手段、信号変換手段)
181 回折格子
184 スリット部材
184a スリット
19 NDフィルタ(入射光量低減手段)
20 部分反射ミラー(入射光量低減手段)
21 ビームダンパ
22 PPD(副光検出部)
31 駆動制御ソフトェア(条件設定手段、閾値設定手段)
32 画像生成ソフトウェア(認識手段)
33 ディスプレイ(認識手段)
S 標本
L レーザ光
L’ 観察光
L” スペクトル列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11