(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375260
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】斜材の接合構造及び木造建築構造躯体
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20180806BHJP
【FI】
E04B1/58 G
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-88434(P2015-88434)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-204998(P2016-204998A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096611
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 清
(72)【発明者】
【氏名】今井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 仁志
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−136881(JP,A)
【文献】
特開平07−173881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜して配置された斜材をほぼ水平に支持された木製の横架材又は鉛直に支持された木製の鉛直材に接合する斜材の接合構造であって、
前記横架材又は前記鉛直材には、棒状となった軸部の外周面に螺旋状の翼体を有するとともに前記軸部の端面から軸線方向にネジ穴を有する第1のスクリュー部材が、該横架材又は前記鉛直材の軸線に対して傾斜し、前記斜材の軸線方向にねじ込まれ、
前記斜材の端部には接合金具が固着され、
前記第1のスクリュー部材の前記ネジ穴にねじ込まれたボルトを介して前記接合金具が前記第1のスクリュー部材に連結されていることを特徴とする斜材の接合構造。
【請求項2】
棒状となった軸部の外周面に螺旋状の翼体を有するとともに、前記軸部の端面から軸線方向にネジ穴を有する第2のスクリュー部材が、木製の前記斜材の端面から該斜材の軸線方向にねじ込まれ、
該第2のスクリュー部材の前記ネジ穴にねじ込まれたボルトによって前記接合金具が前記第2のスクリュー部材に固着されていることを特徴とする請求項1に記載の斜材の接合構造。
【請求項3】
前記斜材の端部には、該斜材の軸線に対して傾斜し、接合される前記横架材のほぼ水平となった面又は前記鉛直材のほぼ鉛直となった面に当接される当接面と、
前記斜材の軸線と垂直となった垂直面とを有し、
前記接合金具は、該垂直面と対向するように固着されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の斜材の接合構造。
【請求項4】
前記当接面の一部又は全部が、前記垂直面より該斜材の先端側に突き出した部分に形成されており、
前記垂直面と前記当接面との間には、該斜材の軸線と平行となる軸方向面を有し、
前記接合金具は、側面が前記軸方向面と接触又は斜材が軸線に対して横方向に変位するのを拘束するように近接して前記斜材に固着されていることを特徴とする請求項3に記載の斜材の接合構造。
【請求項5】
前記横架材又は前記鉛直材に埋め込まれる前記第1のスクリュー部材の前記ネジ穴には、接続ボルトがねじ込まれ、該接続ボルトが前記横架材又は前記鉛直材の表面より突出しており、
前記接合金具が有する前記斜材の軸線と垂直となる面を前記接続ボルトの端面に当接して、該接合金具が前記接続ボルトを介して前記第1のスクリュー部材に連結されていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の斜材の接合構造。
【請求項6】
下層階の柱の上部より片持ち状に張り出して支持された木製の横架材と、
前記横架材より上方に立ち上げられた木製の上層階の柱と、
前記上層階の柱と前記横架材の片持ち状に張り出した部分とを斜め方向に連結する木製の斜材とを有し、
前記斜材と前記上層階の柱との接合部又は前記斜材と前記横架材との接合部が、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の斜材の接合構造を備えることを特徴とする木造建築構造躯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造の建築物において斜め方向に配置される斜材を、ほぼ水平方向に配置された梁又は鉛直方向に配置された柱に接合するための接合構造及び斜材を用いた木造建築構造躯体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造建築物において、木部材を斜め方向に配置し、斜材として用いられることがある。例えば、構造躯体に作用する水平方向の力に抵抗するための筋交いとして用いられるもの、張り出し梁を吊り支持する斜材として用いられるもの、張り出し梁を斜め下方から支持する斜材として用いられるもの等がある。このような斜材の端部は、一般にほぼ水平方向に支持された横架材又は鉛直方向に立設された柱に接合される。
【0003】
斜材の端部を木部材である横架材又は柱に接合する構造としては、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されるものがある。
特許文献1に記載される斜材は、土台とこれに立設された柱との接合部に端部が結合される筋交いであり、土台と柱との双方に固定された接合金具及び接合金具に連結されたコネクタを介して結合されるものである。接合金具は複数のラグスクリューによって柱及び土台に固定されており、筋交いにはコネクタが固定されている。そして、コネクタがピンボルトによって接合金具に回動が可能に連結されるものとなっている。
【0004】
特許文献2に記載の斜材は、建築物の構造躯体から張り出すように設けられた木材からなるベランダ受け梁を吊り支持する吊り金具であり、両端が柱材とベランダ受け梁に接合されている。これらの接合は、木部材であるベランダ受け梁又は柱材にこれらの部材の軸線と直角方向にボルトを貫通させ、これらのボルトを吊り金具のリング状となった受部に挿通してナットで締め付けるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−150893号公報
【特許文献2】特開2004−308274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、次に説明するような解決が望まれる課題がある。
特許文献1に記載されているように、ラグスクリューやビスで木部材に固定された接合金具を介して斜材を接合すると、斜材に大きな引張力が作用したときにラグスクリューを引き抜こうとする力が生じる。そして、終局的な状態では、ラグスクリュー等が引き抜かれるか、またはラグスクリューがねじ込まれている範囲で木部材の一部に割れが生じて耐力が急激に低下する。このため、大きな引張力が作用する斜材について適用することが難しい。
【0007】
一方、特許文献2に記載されているように、木部材を貫通するボルトを介して斜材を梁又は柱に接合する構造では、斜材から大きな引張力又は圧縮力が作用すると、ボルトに梁又は柱の軸線方向の力が作用する。つまり、ボルトの軸線とは直角方向の成分を含む力が作用し、ボルトの側面を周囲の木部材に強く押し付けることになる。このため、ボルトの位置が梁又は柱の軸線方向に変位する虞が生じる。このため、例えば特許文献2に記載されているように斜材でベランダ受け梁を吊り支持する構造では、斜材に大きな引張力が作用したときに、ボルトの変位によってベランダ受け梁が下方へたわむことがある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、木部材からなる横架材又は柱と接合されて引張力又は圧縮力が作用する斜材の接合構造であって、横架材又は柱との相対的な変位を小さく抑えることができる斜材の接合構造、及び片持ち状に張り出した横架材のたわみを、斜材を用いて小さく抑えることができる木造建築構造躯体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 傾斜して配置された斜材をほぼ水平に支持された木製の横架材又は鉛直に支持された木製の鉛直材に接合する斜材の接合構造であって、 前記横架材又は前記鉛直材には、棒状となった軸部の外周面に螺旋状の翼体を有するとともに前記軸部の端面から軸線方向にネジ穴を有する第1のスクリュー部材が、該横架材又は前記鉛直材の軸線に対して傾斜し、前記斜材の軸線方向にねじ込まれ、 前記斜材の端部には接合金具が固着され、 前記第1のスクリュー部材の前記ネジ穴にねじ込まれたボルトを介して前記接合金具が前記第1のスクリュー部材に連結されている斜材の接合構造を提供する。
【0010】
この斜材の接合構造では、第1のスクリュー部材が横架材又は鉛直材に対して、斜材の軸線方向にねじ込まれているので、斜材に作用する軸線方向の力は第1のスクリュー部材に対してその軸線方向に伝達される。そして、第1のスクリュー部材の周面に形成されている螺旋状の翼体から木製の横架材又は鉛直材に伝達される。したがって、第1のスクリュー部材の周面の広い範囲から木製の部材に力が伝達されるとともに、第1のスクリュー部材の周面に軸線と直角方向の大きな力が作用するのが回避される。これにより、斜材の軸力は、接合される木製の横架材又は鉛直材に局部的に大きな応力を生じさせることなく伝達される。そして、第1のスクリュー部材が横架材又は鉛直材の軸線方向へ変位するのを小さく抑えることができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の斜材の接合構造において、 棒状となった軸部の外周面に螺旋状の翼体を有するとともに、前記軸部の端面から軸線方向にネジ穴を有する第2のスクリュー部材が、木製の前記斜材の端面から該斜材の軸線方向にねじ込まれ、 該第2のスクリュー部材の前記ネジ穴にねじ込まれたボルトによって前記接合金具が前記第2のスクリュー部材に固着されているものとする。
【0012】
この斜材の接合構造では、斜材の軸力は第2のスクリュー部材に対して該スクリュー部材の周面の広い範囲で伝達され、この第2のスクリュー部材から接合金具を介して第1のスクリュー部材に伝達される。したがって、第2のスクリュー部材と木製の斜材との間の相対的な変位を小さく抑えることができ、斜材と木製の横架材又は鉛直材との間で斜材の軸線方向の相対的な変位が生じるのを小さく抑えることができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の斜材の接合構造において、 前記斜材の端部には、該斜材の軸線に対して傾斜し、接合される前記横架材のほぼ水平となった面又は前記鉛直材のほぼ鉛直となった面に当接される当接面と、 前記斜材の軸線と垂直となった垂直面とを有し、 前記接合金具は、該垂直面と対向するように固着されているものとする。
【0014】
この斜材の接合構造では、斜材の端部の当接面を横架材又は鉛直材に当接させて支持し、安定した状態で、接合金具を介して斜材と横架材又は鉛直材とを接合する作業を行うことができる。また、接合金具は斜材の垂直面に対向させた状態で該斜材に固着することができ、斜材の軸力が接合金具に安定して伝達される。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の斜材の接合構造において、 前記当接面の一部又は全部が、前記垂直面より該斜材の先端側に突き出した部分に形成されており、 前記垂直面と前記当接面との間には、該斜材の軸線と平行となる軸方向面を有し、 前記接合金具は、側面が前記軸方向面と接触又は斜材が軸線に対して横方向に変位するのを拘束するように近接して前記斜材に固着されているものとする。
【0016】
この斜材の接合構造では、斜材に軸線と直角方向に変位させようとする力が作用したときに、接合する横架材又は鉛直材に接近する方向へは当接面に作用する圧接力によって拘束される。一方、横架材又は鉛直材から離れる方向へは、垂直面より突き出した部分に形成された軸方向面が接合金具の側面に当接されて斜材の変位が拘束される。したがって、接合金具が斜材の軸線に対して横方向に回転するような変位を抑えることができる。すなわち、第1のスクリュー部材、接合金具及び斜材の連結体に、いわゆる横折れが生じるのを抑えることができる。
【0017】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の斜材の接合構造において、 前記横架材又は前記鉛直材に埋め込まれる前記第1のスクリュー部材の前記ネジ穴には、接続ボルトがねじ込まれ、該接続ボルトが前記横架材又は前記鉛直材の表面より突出しており、 前記接合金具が有する前記斜材の軸線と垂直となる面を前記接続ボルトの端面に当接して、該接合金具が前記接続ボルトを介して前記第1のスクリュー部材に連結されているものとする。
【0018】
この斜材の接合構造では、第1のスクリュー部材を木製の横架材又は鉛直材に埋め込まれるようにねじ込み、第1のスクリュー部材の周面の広い範囲で軸線方向の力を伝達することが可能となる。そして、第1のスクリュー部材がねじ込まれた横架材又は鉛直材は、第1のスクリュー部材が埋め込まれて突き出した部分がないので搬送や建て込み等の取り扱いを容易に行うことができる。そして、斜材を接合するときに接続ボルトを第1のスクリュー部材のネジ穴にねじ込んで接続するともに、横架材又は鉛直材から突き出した接続ボルトに対して、接合金具の第1のスクリュー部材の軸線と垂直となった面を当接させて結合することができる。したがって、斜材の軸力が接合金具を介して第1のスクリュー部材に安定した状態で伝達される構造とすることができる。
【0019】
請求項6に係る発明は、 下層階の柱の上部より片持ち状に張り出して支持された木製の横架材と、 前記横架材より上方に立ち上げられた木製の上層階の柱と、 前記上層階の柱と前記横架材の片持ち状に張り出した部分とを斜め方向に連結する木製の斜材とを有し、 前記斜材と前記上層階の柱との接合部又は前記斜材と前記横架材との接合部が、請求項1から請求項5までのいずれかに記載の斜材の接合構造を備える木造建築構造躯体を提供するものである。
【0020】
この木造建築構造躯体では、下層階の柱より張り出した横架材を、斜材に作用する引張力によって支持することができるともに、斜材と上層階の柱との接合部及び斜材と横架材との接合部が大きな負荷に耐え得るので横架材の張り出しを大きく設定することができる。
また、横架材及び上層階の柱には斜材の軸線方向にスクリュー部材がねじ込まれており、該スクリュー部材を介して斜材の軸力が横架材又は柱に伝達されるので、負荷が作用したときの斜材と横架材又は柱との相対的な変位が小さく抑えられる。したがって張り出した横架材の下方へのたわみを小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る斜材の接合構造では、木製の横架材又は鉛直材と接合されて引張力又は圧縮力が作用する斜材を、横架材又は鉛直材に局部的に大きな応力を生じさせることなく接合するともに、横架材又は鉛直材との相対的な変位を小さく抑えることができる。また、本発明の木造建築構造躯体では、斜材を用いて片持ち状に張り出して支持された横架材を支持し、横架材の張り出した部分のたわみを小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る斜材の接合構造を適用することができる木造建築構造躯体の一部を示す概略側面図である。
【
図2】
図1に示す木造建築構造躯体の一部を示す概略斜視図である。
【
図3】
図1又は
図2に示す木造建築構造躯体で使用される斜材の端部を片持ち状に張り出した梁と接合する構造であって、本発明の一実施形態である斜材の接合構造を示す概略側面図である。
【
図4】
図3に示す斜材の接合構造で用いられるスクリュー部材の側面図及び端面図である。
【
図5】
図3に示す斜材の接合構造で用いられる接続ボルトの側面図及び正面図である。
【
図6】
図3に示す斜材の接合構造で用いられる接合金具の概略斜視図である。
【
図7】
図1又は
図2に示す木造建築構造躯体で使用される斜材の端部を柱と接合する構造であって、本発明の他の実施形態である斜材の接合構造を示す概略側面図である。
【
図8】斜材を主に圧縮力が作用する部材として用い、該斜材の接合に本発明に係る斜材の接合構造を適用することができる木造建築構造躯体の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る斜材の接合構造を適用することができる木造建築構造躯体の一部を示す概略側面図である。また、
図2は、
図1に示す木造建築構造躯体の一部を示す概略斜視図である。
この木造建築構造躯体は、木部材を主材料として構築された多層建築物の構造躯体であって、上層階すなわち2階から4階までに、一階部分の外壁に沿った位置にある柱2より外側に張り出した張り出し部1を有するものとなっている。この構造躯体の一階部分は基礎4上に柱2,3を立設し、その上に横架材である梁5を架け渡して形成されている。外壁に沿った位置にある柱2と基礎4との接合部及びこの柱2と梁5との接合部は、双方の部材間で相対的な回転変位が可能な構造、すなわち曲げモーメントの伝達が期待されていない構造となっている。また、外壁より内側にある柱3と基礎4との接合部及びこの柱3と梁5との接合部は曲げモーメントの伝達が生じる構造とされ、柱3と梁5とがラーメン構造となっている。
【0024】
二階部分は、一階部分の柱2,3上に架け渡された梁5の上に柱6,7を立設し、これらの上に梁8を架け渡すことによって形成され、さらに三階部分、四階部分はこれらの下層階の柱上に架け渡された梁上に柱を立設し、その上に梁を架け渡すことによって形成されている。
【0025】
一階部分の柱2,3上に支持された第1の梁5、二階部分の柱6,7上に支持された第2の梁8、三階部分の柱9,10上に支持された第3の梁11は、それぞれ二階、三階、四階の床を支持するものであり、四階部分の柱12,13上に支持された第4の梁14は四階部分の天井を支持するものである。これらの梁5,8,11,14は、一階部分の外壁に沿って立設された柱2の位置より外側に張り出したものとなっている。そして、二階部分、三階部分及び四階部分の床を支持する梁5,8,11の先端付近と一階部分の外壁に沿った位置で当該梁5,8,11上に立設された柱6,9,12の上部との間に、傾斜して斜材15,16,17が架け渡されている。これらの斜材15,16,17に作用する引張力によって張り出した梁5,8,11を吊り支持し、張り出し部1を支持する柱2,6,9上で梁5,8,11に生じる曲げモーメントを低減するとともに、張り出し部1のたわみを抑えるものとなっている。なお、張り出した梁5,8,11の先端部には、軸柱18が立設され、この軸柱18の上端が上層階の梁8,11,14の下面に接続されている。
【0026】
このような柱2,3,6,7,9,10,12,13と、梁5,8,11,14と、斜材15,16,17とを主要部とする構造躯体が、
図2に示すように複数併設され、これらを横梁19で連結することによって張り出し部1を有する構造躯体となっている。
【0027】
上記梁5,8,11,14は、断面の形状が上下方向に長辺を有する扁平な長方形となっており、上下方向の曲げモーメントに抵抗するものとなっている。また、柱2,3,6,7,9,10,12,13の断面も梁5,8,11,14の軸線方向に長辺を有する扁平な長方形となっている。
上記斜材15,16,17は、断面形状が長方形であって、傾斜して架け渡されたときの幅方向より上下方向の寸法がやや大きくなっている。
これらの梁、柱及び斜材は、いずれも一つの材木から切り出された無垢の木材であってもよいし、複数の小断面の木材すなわちラミナを張り合わせた集成材等であってもよい。
【0028】
図3は、本発明の一実施形態である斜材の接合構造であって、
図1及び
図2に示す木造建築構造躯体の梁5と斜材15との接合構造を示す概略側面図である。
この接合構造は、梁5に対してその軸線の斜め方向にねじ込まれた第1のスクリュー部材20と、この第1のスクリュー部材20に接続された接続ボルト30と、この接続ボルト30に連結用ボルト61によって連結された接合金具40と、斜材15の軸線方向にねじ込まれ、連結用ボルト62によって上記接合金具40が固着される第2のスクリュー部材50と、を介して上記梁5と上記斜材15とを接合するものとなっている。
【0029】
上記第1のスクリュー部材20は、
図4に示すように、棒状の鋼部材である軸部21の側面に螺旋状の翼体22を設けたものであり、梁5にねじ込まれた状態で翼体22が梁5と係合し、相互間でこの第1のスクリュー部材20の軸線方向及び軸線と直角方向に力が伝達されるものとなっている。また、この第1のスクリュー部材20の端面23から軸線方向にネジ穴24が設けられており、内周面に雌ネジが切削されている。この雌ネジには、接続ボルト30をねじり合せ、連結することができるものとなっている。
【0030】
上記第1のスクリュー部材20は、ほぼ水平方向に支持された梁5に対して斜め上方から該梁5の中心軸線を越えて下面近くまでねじ込まれている。そして、ねじ込んだ後端は、梁5の上面とほぼ同じ位置又は上面よりさらにねじ込まれた位置となっている。第1のスクリュー部材20をねじ込むときの後方の端面23には、
図4に示すように、ネジ穴24の周囲に放射方向の4つの溝25が形成されている。これらの溝25は、第1のスクリュー部材20を梁5にねじ込むときに後方側から工具(図示しない)を係止することができるものとなっており、工具を介して軸線回りに回転させることができるものである。したがって、梁5に対して第1のスクリュー部材20を上面より下側までねじ込むことができる。
【0031】
上記接続ボルト30は、
図5に示すように、上記第1のスクリュー部材20に設けられたネジ穴24にねじこむことができるネジ部31と、このネジ部に連続する頭部32とを有するものである。頭部32は軸線方向の寸法が通常のボルトより長く、梁5にねじ込まれた第1のスクリュー部材20のネジ穴24にねじ込んだときに、梁5から上記頭部32が突出するものとなっている。つまり、上記頭部32は、梁5の表面から突出して接合金具40の斜材15の軸線と垂直な面に突き当てて結合することができる長さを有するものとなっている。また、この頭部32には端面33から軸線方向にネジ穴34が形成され、接合金具40を連結するための連結用ボルト61をねじ込むことができるものである。
【0032】
上記接合金具40は、
図6に示すように、互いに対向する二つの対向板部41,42と、これらを連結する側板部43とを備え、側板部43は、対向板部41,42の周縁に沿った一部でこれらの対向板部間を開放するように設けられている。
一方の対向板部41にはボルト孔44が設けられ、このボルト孔44に二つの対向板部の間から連結用ボルト62を挿通することができる。この連結用ボルト62を第2のスクリュー部材50のネジ穴にねじ込み、接合金具40を締め付けて固着するものとなっている。
【0033】
他方の対向板部42には円孔が形成され、この円孔には箱状となった接合金具40の内側から円形プレート46が嵌め入れられ、周縁部が対向板部42に当接されている。そして、円形プレート46は円孔内に嵌め入れられた状態で周方向の回転が可能となっている。この円形プレート46には、連結用ボルト61を挿通することができる長孔47が設けられており、この長孔47は円形プレート46の中心から半径方向に軸線を有するものとなっている。したがって、長孔47内の連結用ボルト61が挿通される位置を調整するとともに、円形プレート46を回転して長孔47の軸線の方向を調整することにより、連結用ボルト61と接合金具40との相対的な位置を調整することができるものとなっている。
このような対向板部42が、第1のスクリュー部材20に連結された接続ボルト30の頭部の端面33に当接され、上記円形プレートの長孔47に挿通された連結用ボルト61が接続ボルト30の頭部に設けられたネジ穴34にねじ込まれている。この連結ボルト61を締め付けることにより、位置を調整しながら接合金具40を、接続ボルト30を介して第1のスクリュー部材20に固着するものとなっている。
【0034】
なお、接合金具40は、斜材から引張力又は圧縮力が作用したときに大きな変形が生じたり、連結用ボルト61,62の破断、スクリュー部材周辺の木材の破損より先に破壊が生じたりしないように設定しておくのが望ましく、接合金具40が十分な強度と剛性を有するように、部材厚の設定及び材料の選択を行うのがよい。
【0035】
上記第2のスクリュー部材50は、
図4に示す第1のスクリュー部材20と同じものを用いることができ、斜材15の端面から該斜材15の軸線方向にねじ込まれている。
【0036】
上記斜材15の端部は、
図3に示すように、この斜材15と接合される梁5に近い部分に、該斜材15の軸線に対して傾斜し、梁5の表面すなわち梁の上面にほぼ平行となって該梁5に当接される当接面15aを備えている。また、梁5から離れた部分には該斜材15の軸線と垂直となった垂直面15bを有するものとなっている。当接面15aは垂直面15bの位置より斜材15の先端側に突き出した部分に形成されており、当接面15aと垂直面15bとの間には、斜材5の軸線とほぼ平行となった軸方向面15cが形成されている。上記第2のスクリュー部材50は、垂直面15bから斜材15の軸線方向にねじ込まれており、接合金具40の一方の対向板部41が垂直面15bと対向し、第2のスクリュー部材50の端面に突き当てられている。そして、該第2のスクリュー部材50に連結用ボルト62によって固着されている。このとき接合金具40の側板部43は、斜材15の端部に形成された上記軸方向面15cと接触又は近接するように固着される。近接する位置に固着されるときには、例えば隙間を2mm以下とすることができる。
【0037】
このように斜材15と梁5とを接合するときには、梁5に第1のスクリュー部材20をねじ込むとともに、第1のスクリュー部材の端面に設けられたネジ穴24には接続ボルト30をねじ込んで連結する。一方、斜材15には、垂直面15bから軸線方向に第2のスクリュー部材50をねじ込む。そして、接合金具40のボルト孔が形成された対向板部41を第2のスクリュー部材50の端面に対向させ、連結用ボルト62によって第2のスクリュー部材50に固着しておく。この斜材15を柱6と梁5との間で斜めに支持し、斜材15の当接面15aを梁5の上面に当接させた状態で接合金具40の円孔が設けられた対向板部42を接続ボルト30の頭部の端面33に突き当てる。円形プレート46に設けられた長孔47には連結用ボルト61を挿通し、接続ボルト30のネジ穴34にねじ込んで接合金具40を締め付け、接続ボルト30と接合金具40とを連結する。これにより、第1のスクリュー部材20、接続ボルト30、接合金具40及び第2のスクリュー部材50を介して梁5と斜材15とが接合される。
なお、接合金具40は斜材15に固着する前に梁5にねじ込まれた第1のスクリュー部材20に接続ボルト30を介して装着しておいてもよい。このときには接合金具40のボルト孔が設けられた対向板部41を接続ボルト30に当接して固着しておく。そして、斜材15にねじ込まれた第2のスクリュー部材50の端面を接合金具40の円孔が設けられた対向板部42に突き当て、連結用ボルト62で接合金具40と第2のスクリュー部材50とを連結することができる。
【0038】
このような斜材の接合構造では、第1のスクリュー部材20、接続ボルト30、接合金具40及び第2のスクリュー部材50を介して梁5と斜材15との間で軸力が伝達される。そして、第1のスクリュー部材20と木部材である梁5との間では、周面に翼体22が形成された第1のスクリュー部材20の周面の広い範囲に分布して斜材15の軸線方向の力が伝達される。したがって、大きな引張力に耐え得る構造とすることが可能になるとともに、梁5の高さ方向における一部に力が集中することが回避され、第1のスクリュー部材20と梁5との間で生じる相対的な変位を小さく抑えることができる。また、第2のスクリュー部材50と木部材である斜材15との間でも同様に相互間の変位が小さく抑えられる。
【0039】
以上に説明した斜材の接合構造は、梁5と斜材15とを接合するものであったが、同じ斜材15と柱6とを接合する部分にも、
図7に示すように、同じ構造を採用することができる。
柱6と斜材15とを接合するときには、第1のスクリュー部材71を斜材15の軸線方向であって柱6に対して傾斜した方向にねじ込む。そして、端面に設けられたネジ穴には接続ボルト72をねじ込んで連結する。斜材15の端部には垂直面15bbと柱6に近い部分に当接面15aaが形成されており、当接面を柱6の側面に当接して支持する。垂直面15bbから斜材の軸線方向にねじ込まれた第2のスクリュー部材74には連結用ボルト76によって接合金具73を固着する。この接合金具73の側面は、斜材15の端部の垂直面15bbと当接面15aaとの間に形成されている軸方向面15ccと接触又は近接するものとする。そして、連結用ボルト75によって接合金具73が、第1のスクリュー部材71に接続された接続ボルト72に連結される。
【0040】
一方、
図1及び
図2に示す木造建築構造躯体では、張り出すように架設された梁5を斜材15によって上方から吊り支持するものであったが、
図8に示すように斜材81を梁5の下面と梁5を支持する柱2の下部との間に傾斜して支持し、梁5を下方から支持することもできる。この斜材81と梁5との接合部及び斜材81と柱2との接合部に本発明の斜材の接合構造を適用することができる。このとき斜材81には主に圧縮力が作用するものとなるが、引張力が作用するときと同様に、第1のスクリュー部材、接続ボルト、接合金具及び第2のスクリュー部材を介して梁5又は柱2と斜材81との間で主に斜材の軸線方向の力が伝達される。
【0041】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他の形態として実施することもできる。例えば、上記実施の形態では、第1のスクリュー部材20と接合金具40との間に接続ボルト30を介挿したが、接続ボルトを用いることなく、第1のスクリュー部材20を直接に接合金具40と連結することもできる。このとき、第1のスクリュー部材20は十分な長さを有するもの、つまり必要ねじ込み長より長い第1のスクリュー部材を用い、これを梁又は柱にねじ込んだときに一部が梁又は柱から突き出した状態としておく。このようにねじ込まれた第1のスクリュー部材の端面に直接に接合金具の対向板部を当接し、連結用ボルトで第1のスクリュー部材と接合金具とを連結することができる。
また、本発明に係る斜材の接合構造で用いられる第1のスクリュー部材、2のスクリュー部材、接合金具、接続ボルト等は、その形状及び寸法を適宜に変更して使用することができる。
【0042】
さらに、本発明に係る斜材の接合構造は、片持ち状に張り出した梁を支持する斜材の接合に限定されるものではなく、地震時の水平方向力に抵抗する斜材等の接合に本発明の斜材の接合構造を適用することもできる。
【符号の説明】
【0043】
1:木造建築構造躯体の張り出し部, 2,3:柱, 4:基礎, 5:梁, 6,7:柱, 8:梁, 9,10:柱, 11:梁, 12,13:柱, 14:梁, 15,16,17:斜材, 15a,15aa:斜材端部の当接面, 15b,15bb:斜材端部の垂直面, 15c,15cc:斜材端部の軸方向面, 18:軸柱, 19:横梁,
20:第1のスクリュー部材,21:軸部, 22:螺旋状の翼体, 23:第1のスクリュー部材の端面, 24:端面に設けられたネジ穴, 25:ネジ穴の周囲に設けられた溝,
30:接続ボルト, 31:ネジ部, 32:頭部, 33:頭部の端面, 34:ネジ穴,
40:接合金具, 41,42:対向板部, 43:側板部, 44:ボルト孔, 46:円形プレート, 47:長孔、
50:第2のスクリュー部材,
61,62:連結用ボルト,
71:第1のスクリュー部材, 72:接続ボルト, 73:接合金具, 74:第2のスクリュー部材, 75,76:連結用ボルト,
81:斜材