【実施例】
【0020】
図1を参照し、炉壁(炉の内張り)の製造工程を説明する。まず、金属製の炉本体(炉の外装)の内側に、炉本体と間隔をおいて木枠を設置する(ステップS2)。炉本体と木枠の間に粉体混合物を供給するための隙間(耐火物配置空間)が形成される(空間形成工程)。次に、粉体混合物を耐火物配置空間に供給し、空間内を粉体混合物で充填する(ステップS4:粉体混合物導入工程)。粉体混合物は、粒径1.7mm超のムライト35重量%、粒径0.2〜1.7mmのムライト22重量%、粒径0.2mm未満のムライト20重量%、粒径10μm未満のアルミナ10重量%、粒径0.1mm未満のSiC5重量%、粒径0.1mm未満のカイヤナイト5重量%、氷晶石1重量%、ホウ酸2重量%、フリット3重量%含むものを用いる。なお、フリットは、他の材料の合計重量を100としたときに、合計重量に対して3重量%含まれている。
【0021】
なお、必要に応じて、耐火物配置空間に隙間が残存しないように、粉体混合物に振動を加えてもよい。この段階では、炉壁(不定形耐火物)は完成していないが、実質的に、炉壁の製造作業は以上で終了する。その後、炉の通常運転を行う(ステップS6)ことにより、粉体混合物が硬化し、不定形耐火物(炉壁)が完成する。木枠は、炉の運転中に燃焼し、消失する。粉体混合物導入工程を実施した後、木枠を除去する必要はない。
【0022】
上記したように、耐火物配置空間に粉体混合物を充填した後、乾燥等の工程を経ることなく、炉を運転することができる。そのため、炉の施工時間・施工コストを削減することができる。また、炉壁は、炉本体を炉内から断熱するために用いられる。すなわち、炉壁の炉内側に比べ、炉壁の炉本体側(外側)は運転中に加わる温度が低い。典型的に、加熱温度(焼結温度)が高くなる程、炉壁の強度が高くなる。そのため、上記製造方法によると、炉内側の強度が炉本体側の強度よりも高い炉壁(不定形耐火物)を製造することができる。このような炉壁は、交換の際(炉壁を解体する際)に、炉壁を炉本体から容易に取り外すことができるという利点も得られる。
【0023】
図2を参照し、実験例について説明する。
図2は、作製した試料1〜16の配合率(重量%)と、各試料の特性を示している。なお、試料1〜16は、4つのグループに分類される。試料1〜5は、フリットを外掛けで加えた数値を示している。すなわち、フリット以外の材料の配合率の合計を100重量%とし、フリットの配合率は、それらの材料の合計(100重量%)に対するものである。試料6〜9は、ホウ酸を外掛けで加えた数値を示している。ホウ酸の配合率は、ホウ酸以外の材料の配合率の合計(100重量%)に対するものである。試料10〜14は、氷晶石を外掛けで加えた数値を示している。氷晶石の配合率は、氷晶石以外の材料の配合率の合計(100重量%)に対するものである。試料15,16は、SiCを外掛けで加えた数値を示している。SiCの配合率は、SiC以外の材料の配合率の合計(100重量%)に対するものである。
【0024】
図2には、試料1〜16の粉体混合物を500℃,800℃で焼成した不定形耐火物について、曲げ強度及び圧縮強度を測定した結果を示している。曲げ強度及び圧縮強度はJISR2553に基づいて測定した結果であり、測定試料は以下の方法で作製した。曲げ強度及び圧縮強度の試料は、各試料の粉体混合物を型に投入し、250℃で加熱した後、離型し、再度所定温度(500℃又は800℃)で加熱して作製した。また、
図2には、250℃で加熱した際に、型から離型できた試料に「○」,離型できなかった試料に「×」を付している。800℃強度の評価は、800℃で焼成した試料について、曲げ強度3.0Mpa以上、圧縮強度13.0Mpa以上の双方を満足する試料に「○」を付し、それ以外の試料に「×」を付している。
【0025】
また、各試料について、耐反応性(耐食性)の試験も行った。耐反応性の試験方法について説明する。まず、紛体混合物を金型に投入し、250℃で加熱硬化させ、表面70×70mm,厚み70mmであり、表面の中心に直径30mm,深さ35mmの孔(穿孔)が設けられた坩堝(試料)を作製した。次に、試料の穿孔にスラグ微粉(食剤)を30g入れた状態で、大気雰囲気,1400℃の電気炉内で試料を12時間加熱した。なお、スラグ微粉は710μm以下に粉砕したものを用意した。また、用いたスラグの化学成分は、Na
2Oが10%、Al
2O
3が15%、SiO
2が23%、SO
3が8%、CaOが12%、Fe
2O
3が22%、K
2Oが2%、Clが3%、TiO
2が3%であった。次に、試料を電気炉から取り出し、穿孔線(穿孔の中心軸)に沿って試料を切断し、切断面の状態を目視で観察した。切断面における食剤の浸食面積(mm
2),試料の軟化,変形,発泡の有無を観察し、以下の基準に基づいて「○」,「△」,「×」の評価を行った。
「〇」:浸食面積1mm
2以下。かつ、変形、発泡が検出されない。
「△」:浸食面積10mm
2以下。かつ、変形、発泡が検出されない。
「×」:浸食面積10mm
2超。または、変形、発泡のうちの一つ以上を検出。
【0026】
250℃離型性の結果は、各試料(粉体混合物)を250℃で加熱したときに、各試料(不定形耐火物)が形状を保てているか否かを示している。上記したように、本明細書で開示する粉体混合物は、外壁(炉本体)と可燃性の内壁(木枠)の間に配置された状態で加熱される。「250℃」という温度は、可燃性の内壁が変形あるいは消失(燃焼)を開始する温度に相当する。「250℃」で形状が保てていれば、内壁が変形・消失を開始したときに、不定形耐火物(炉壁)が脱落することを防止することができる。
【0027】
500℃強度(曲げ強度及び圧縮強度)の結果も、各試料を500℃で加熱したときに、各試料が形状を保てているか否かを示している。「500℃」という温度は、可燃性の内壁が完全に消失(燃焼)する温度に相当する。500℃強度の試験(曲げ試験、圧縮試験)にて数値が得られることは、内壁が完全に消失したときに不定形耐火物が硬化していることを示している。なお、500℃で焼成した試料の曲げ強度が0.5Mpa以上であれば、外部からの圧力(燃焼圧力等)・振動等に抗して、炉壁の脱落をより確実に防止することができる。
【0028】
800℃強度(曲げ強度及び圧縮強度)の結果は、炉(比較的低温の炉)の運転温度における、炉壁の強度を示している。曲げ強度が3.0Mpa未満、及び/又は、圧縮強度が13.0Mpa未満の場合、炉の使用中に炉壁が脱落することが起こり得る。曲げ強度3.0Mpa以上、圧縮強度13.0Mpa以上の双方を満足すれば、炉壁の状態を長期間に亘り良好に維持することができ、耐久性の高い炉壁が得られる。800℃で焼成したときの曲げ強度が3.0Mpa以上であり、圧縮強度が13.0Mpa以上である試料は、様々な運転温度の炉のおいて、耐久性の高い炉壁を実現することができる。
【0029】
試料1〜5に示すように、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方とも、フリット添加量の増加に伴い、強度(曲げ強度及び圧縮強度)が向上する。但し、フリット添加量が1.5重量%未満の場合、800℃強度において十分な強度が得られていない(試料1)。具体的には、試料1は、曲げ強度3.0Mpa以上は満足しているが、圧縮強度13.0Mpa以上を満足していない。また、試料1は、500℃の焼成を行うことにより硬化しているが、曲げ強度が0.3Mpaであり、やや強度が低い結果であった。試料2〜5は、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方において、曲げ強度及び圧縮強度ともに、十分な強度が得られている。しかしながら、フリット添加量が5重量%を超えると、耐反応性が悪化することが確認された(試料5)。試料1〜5の結果は、フリット添加量を1.5重量%以上5.0重量%以下に調整することにより、炉壁として優れた不定形耐火物が得られることを示している。
【0030】
試料6〜9に示すように、ホウ酸についても、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方ともに、その添加量の増加に伴い、強度が向上する。但し、ホウ酸添加量が1.0重量%未満となると、250℃で試料を離型することができず、その後の焼成(500℃,800℃)を行うことができなかった。試料6の結果は、ホウ酸添加量が1.0重量%未満になると、低温(250℃)で硬化しないことを示している。試料7〜9は、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方において、曲げ強度及び圧縮強度ともに、十分な強度が得られている。しかしながら、ホウ酸添加量が2.0重量%を超えると、耐反応性が悪化することが確認された(試料9)。試料6〜9の結果は、ホウ酸添加量を1.0重量%以上2.0重量%以下に調整することにより、優れた不定形耐火物が得られることを示している。
【0031】
ここで、試料3と試料6を比較すると、両試料ともフリット添加量が3重量%であるにも関わらず、試料3は十分な強度が得られ、試料6は250℃で硬化しなかった。また、試料1と試料8を比較すると、両試料ともホウ酸添加量が2重量%であるにも関わらず、試料1は800℃強度(曲げ強度及び圧縮強度)が不十分であった。このことは、フリットとホウ酸の一方を所定割合添加するだけでは十分な強度が得られない(あるいは低温で硬化しない)ことを示している。すなわち、フリットとホウ酸の双方を、フリット1.5重量%以上5.0重量%以下,ホウ酸1.0重量%以上2.0重量%以下の割合で添加することによって、高強度であるとともに、耐食性に優れた不定形耐火物が得られる。
【0032】
試料10〜14は、氷晶石を添加することにより、その添加量の増加に伴い、曲げ強度及び圧縮強度が向上することを示している。但し、氷晶石の添加量が0.5重量%未満の場合、500℃で粉体の硬化が確認され、800℃で十分な曲げ強度・圧縮強度が得られているものの、500℃の曲げ強度がやや低い(0.3Mpa)結果であった(試料10)。また、氷晶石の添加量が1.5重量%を超えると、耐反応性がやや低下する結果であった(試料14)。この結果は、氷晶石は必要とする特性に応じて適宜加えることができるが、その添加量は0.5重量%以上1.5重量%であることが特に好ましいことを示している。また、試料15,16は、SiCを添加することにより、曲げ強度及び圧縮強度が向上することを示している。なお、理由は不明であるが、SiCを添加しない試料15は、耐反応性がやや低下する結果となった。
【0033】
上記実施例では、アルミナとムライトの双方を含む粉体混合物について説明した。すなわち、実施例は、2種類の酸化アルミニウム系材が含まれる粉体混合物を用いた不定形耐火物について説明した。しかしながら、本明細書で開示する技術は、1種類の酸化アルミニウム系材を含む粉体混合物に適用することもできる。重要なことは、酸化アルミニウム系材を含む粉体混合物において、粉体混合物に占めるホウ酸の割合を1.0重量%以上2.0重量%以下とし、フリットの割合を1.5重量%以上5.0重量%以下とすることである。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。