特許第6375274号(P6375274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6375274粉体混合物及び炉壁用不定形耐火物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375274
(24)【登録日】2018年7月27日
(45)【発行日】2018年8月15日
(54)【発明の名称】粉体混合物及び炉壁用不定形耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20180806BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20180806BHJP
   F27D 1/16 20060101ALI20180806BHJP
【FI】
   C04B35/66
   F27D1/00 N
   F27D1/16 K
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-165932(P2015-165932)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-43507(P2017-43507A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古宮山 常夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】配藤 賢宏
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−145890(JP,A)
【文献】 特開2015−101489(JP,A)
【文献】 特開平08−157267(JP,A)
【文献】 特表2006−513966(JP,A)
【文献】 特開2000−169247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
F27D 1/00
F27D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不定形耐火物用の粉体混合物であり、
酸化アルミニウムと、アルミノ珪酸塩と、ホウ酸と、フリットを含み、
粉体混合物内における割合が、酸化アルミニウムよりもアルミノ珪酸塩の方が多く、
ホウ酸以外の粉体混合物に対するホウ酸の割合が1.0重量%以上2.0重量%以下であり、
フリット以外の粉体混合物に対するフリットの割合が1.5重量%以上5.0重量%以下である、粉体混合物。
【請求項2】
さらに、氷晶石を、粉体混合物に対して0.5重量%以上1.5重量%の割合で含む請求項1に記載の粉体混合物。
【請求項3】
さらに、炭化ケイ素を含む請求項1又は2に記載の粉体混合物。
【請求項4】
炉壁用不定形耐火物の製造方法であり、
炉の外壁と間隔を置いた位置に可燃性の内壁を配置し、耐火物配置空間を形成する空間形成工程と、
酸化アルミニウム系材とホウ酸とフリットを含む粉体混合物であって、ホウ酸以外の粉体混合物に対するホウ酸の割合が1.0重量%以上2.0重量%以下であるとともに、フリット以外の粉体混合物に対するフリットの割合が1.5重量%以上5.0重量%以下に調整された粉体混合物を、耐火物配置空間に導入する粉体混合物導入工程と、
を有する炉壁用不定形耐火物の製造方法。
【請求項5】
前記内壁の燃焼開始温度が、400℃以上500℃以下である請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する技術は、粉体混合物、及び、その粉体混合物を使用した炉壁用不定形耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱炉等の炉壁は、不定形耐火物を用いて現場施工されることがある。特許文献1は、アルミナ、ムライト、炭化ケイ素を混合した混合粉体を用いて炉壁を製造する技術を開示している。特許文献1では、焼結助剤として、混合粉体にホウ酸を加えている。なお、特許文献1には、炉壁の製造方法として、炉の外壁(本体)と間隔を置いた位置に鋼製の内壁(中枠)を配置し、外壁と内壁の間に粉体混合物を充填し、加熱して粉体混合物を焼結させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−169247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、従来は、鋼製の内壁を用いて炉壁(不定形耐火物)を焼結している。この場合、内壁は、不定形耐火物が硬化した後に取り外すか、炉の運転中に加熱されることにより内壁自体が溶融して消失する。高温で運転する炉であれば、後者の方法を採用できる。しかしながら、中低温で運転する炉の場合、前者を採用する他ない。不定形耐火物の焼結温度(必要な強度を発現する温度)を低くすることができれば、低温で燃焼(又は溶融)する内壁を用いることができ、様々な運転温度の炉において内壁を取り外す作業を省略でき、施工時間及びコストを削減することができる。本明細書では、焼結温度が低い不定形耐火物用の粉体混合物を実現する技術を開示する。また、本明細書は、炉壁用の不定形耐火物の製造方法も開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する粉体混合物は、不定形耐火物を製造する用途に用いられる。その粉体混合物は、酸化アルミニウム系材と、ホウ酸と、フリットを含む。この粉体混合物では、粉体混合物に占めるホウ酸の割合が1.0重量%以上2.0重量%以下であり、粉体混合物に占めるフリットの割合が1.5重量%以上5.0量%以下である。
【0006】
上記の粉体混合物は、ホウ酸とフリットを含んでいるという特徴を有している。具体的には、粉体混合物に対して、ホウ酸を1.0重量%以上,フリットを1.5重量%以上含んでいる。ホウ酸とフリットを上記割合で含むことにより、粉体混合物の焼結温度を低下させることができる。すなわち、ホウ酸とフリットを上記割合で含む粉体混合物を用いることにより、不定形耐火物の焼結温度が低下し、高温で加熱することなく不定形耐火物を硬化させることができる。上記の粉体混合物を用いることにより、鋼材よりも融点(あるいは燃焼温度)が低い材料を用いて内壁を作製することができる。そのため、高温で運転する炉以外の炉であっても、炉を運転する際の熱によって内壁を消失させることができる。不定形耐火物の硬化後に内壁を取り外す作業が不要となり、施工時間及びコストを削減することができる。
【0007】
なお、粉体混合物に占めるホウ酸の割合が1.0重量%未満、あるいは、フリットの割合が1.5重量%未満の場合、十分な強度を得るためには高温で加熱することが必要である。すなわち、不定形耐火物の焼結温度を低下させることができない。また、ホウ酸の割合が2.0重量%を超えると、耐食性が低下する現象が現れる。フリットの割合が5.0量%を超えると、耐食性の低下,焼結後の収縮が大きくなる等の現象が現れる。なお、本明細書でいう「フリット」とは、原料混合物を溶融してガラス化した後に急冷して破砕したものであり、薄膜状あるいは粉末状の材料である。また、本明細書では、1200℃以上を「高温」と称する。また、「酸化アルミニウム系材」とは、単体の酸化アルミニウム(アルミナ)のみを意味するのではなく、酸化アルミニウムと他の物質との化合物も含まれる。酸化アルミニウムと他の物質との化合物として、例えば、アルミノ珪酸塩(ムライト)が挙げられる。
【0008】
本明細書では、炉壁用不定形耐火物の製造方法も開示する。その製造方法は、空間形成工程と、粉体混合物導入工程を備えている。空間形成工程では、炉の外壁と間隔を置いた位置に可燃性の内壁を配置し、耐火物配置空間を形成する。粉体混合物導入工程では、耐火物配置空間に粉体混合物を導入する。なお、粉体混合物として、酸化アルミニウム系材とホウ酸とフリットを含んでおり、ホウ酸の割合が1.0重量%以上2.0重量%以下であるとともにフリットの割合が1.5重量%以上5.0量%以下に調整されたものを用いる。
【0009】
上記の製造方法によると、可燃性の内壁を用いて耐火物配置空間を作製し、その空間内に粉体混合物を導入する。粉体混合物はホウ酸とフリットを含んでいるので、不定形耐火物の焼結温度を低くすることができる。そのため、内壁を可燃性としても、内壁が消失する前に不定形耐火物が硬化する。すなわち、内壁を取り外す作業を行わず、内壁を残存させたまま炉を運転することにより、運転中に内壁を消失させることができる。運転温度が低い炉であっても、不定形耐火物が焼結した後、炉の運転を停止して内壁を除去する必要がない。上記の製造方法によると、炉の施工時間等を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】不定形耐火物の製造工程を説明するフローチャートを示す。
図2】実験例の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本明細書で開示する粉体混合物及びその粉体混合物を用いた不定形耐火物の製造方法について技術的特徴の幾つかを記す。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0012】
粉体混合物は、酸化アルミニウム系材と、ホウ酸と、フリットを含んでいる。この粉体混合物は、不定形耐火物を製造するために用いられる。特に、粉体混合物は、炉壁として使用される不定形耐火物を製造するために用いられる。粉体混合物は、さらに、氷晶石,SiC(炭化ケイ素),カイヤナイトなどを含んでいてもよい。酸化アルミニウム系材として、酸化アルミニウム(アルミナ)、及び/又は、アルミノ珪酸塩(ムライト)を用いてよい。アルミナ及びムライトは、不定形耐火物の材料として一般的に用いられている。なお、粉体混合物は、酸化アルミニウム系材として、アルミナとムライトの双方を含んでいてもよい。また、粉体混合物は、粒径の異なる複数のムライトを含んでいてよい。例えば、ムライトの粒径を、粒径1:0.2mm以下、粒径2:0.2mm以上1.7mm以下、粒径3:1.7mm以上に分類したときに、(粒径1),(粒径2),(粒径3)の順に配合割合(重量%)が増加していてよい。ムライトが、粉体混合物に占める割合が最も高くてよい。アルミナは、ムライトに次いで、粉体混合物に占める割合が高くてよい。アルミナの粒径は、10μm以下であってよい。
【0013】
粉体混合物は、ホウ酸の割合が1.0重量%以上2.0重量%以下に調整されているとともに、フリットの割合が1.5重量%以上5.0重量%以下に調整されている。ホウ酸及び/又はフリットの割合が上記割合よりも低い場合、粉体混合物の強度が低下することがある。なお、粉体混合物に占めるホウ酸の割合が2.0重量%を超えると、不定形耐火物の耐食性が低下することがある。また、粉体混合物に占めるフリットの割合5.0重量%を超えると、加熱(焼結)後に不定形耐火物が収縮したり、不定形耐火物の耐食性が低下することがある。
【0014】
フリットは、ガラスを急冷した粉末状の材料であってよい。フリットは、Al,P,NaO,B,LiO,F等の成分を含んでいてよい。特に、リン系のフリットが好ましい。すなわち、フリットは、少なくともPを含んでいることが好ましい。
【0015】
氷晶石は、不定形耐火物の焼結を促進し、低温で高強度の不定形耐火物を得るための助剤として機能する。氷晶石は、アルミナの融点を下げ、材料(粒子)同士を結合しやすくする働きをする。氷晶石の粉体混合物に占める割合は、0.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましい。特に好ましくは、氷晶石の粉体混合物に占める割合は、0.5重量%以上1.5重量%以下である。0.5重量%未満の場合、粉体混合物に含まれる粒子を結合する効果が得られにくい。1.5重量%を超えると、不定形耐火物の耐食性が低下することがある。また、3.0重量%を超えると、不定形耐火物の耐食性の低下がより顕著になることがある。
【0016】
SiCは、不定形耐火物の焼結を促進し、低温で高強度の不定形耐火物を得るための助剤として機能する。SiCは、アルミナと反応してムライトを生成し、不定形耐火物の材料(粒子)同士を結合する働きをする。SiCの粉体混合物に占める割合は、3.0重量%以上10.0重量%以下であることが好ましい。3.0重量%未満の場合、粉体混合物に含まれる粒子を結合する効果が得られにくい。また、10.0重量%を超えると、不定形耐火物内にSiOが残存し、不定形耐火物が膨張することが起こり得る。
【0017】
カイヤナイトは、高温(1200℃以上)で加熱されると、ムライトに変化する。カイヤナイトを用いることにより、低温炉から高温炉まで幅広い温度範囲の炉に適用した不定形耐火物を得ることができる。
【0018】
不定形耐火物は、炉壁として使用される。不定形耐火物は、炉壁が配置される空間に粉体混合物を充填し、炉を運転する際の熱により硬化(焼結)する。具体的には、不定形耐火物は、空間形成工程と、粉体混合物導入工程を経て製造される。空間形成工程では、炉の外壁と間隔を置いた位置に可燃性の内壁を配置し、耐火物配置空間を形成する。可燃性の内壁は、燃焼開始温度が400℃以上500℃以下であることが好ましい。燃焼開始温度が400℃未満であると、粉体混合物が十分に硬化する前に内壁が消失することが起こり得る。燃焼開始温度が500℃を超える場合、炉の仕様によっては、内壁が炉内に残存することがある。内壁として、例えば、木材を使用することができる。木材は、典型的に、400〜470℃で発火し、燃焼する(消失する)。
【0019】
粉体混合物導入工程では、上記した粉体混合物を、耐火物配置空間に導入する。耐火物配置空間に粉体混合物を導入した後に、粉体混合物に振動を加え、粉体混合物を耐火物配置空間に充填してもよい。その後、炉を通常運転すると、炉内温度の上昇に伴い、粉体混合物が硬化(焼結)し、不定形耐火物が形成される。不定形耐火物が形成された後(粉体混合物が焼結した後)、内壁が消失する。
【実施例】
【0020】
図1を参照し、炉壁(炉の内張り)の製造工程を説明する。まず、金属製の炉本体(炉の外装)の内側に、炉本体と間隔をおいて木枠を設置する(ステップS2)。炉本体と木枠の間に粉体混合物を供給するための隙間(耐火物配置空間)が形成される(空間形成工程)。次に、粉体混合物を耐火物配置空間に供給し、空間内を粉体混合物で充填する(ステップS4:粉体混合物導入工程)。粉体混合物は、粒径1.7mm超のムライト35重量%、粒径0.2〜1.7mmのムライト22重量%、粒径0.2mm未満のムライト20重量%、粒径10μm未満のアルミナ10重量%、粒径0.1mm未満のSiC5重量%、粒径0.1mm未満のカイヤナイト5重量%、氷晶石1重量%、ホウ酸2重量%、フリット3重量%含むものを用いる。なお、フリットは、他の材料の合計重量を100としたときに、合計重量に対して3重量%含まれている。
【0021】
なお、必要に応じて、耐火物配置空間に隙間が残存しないように、粉体混合物に振動を加えてもよい。この段階では、炉壁(不定形耐火物)は完成していないが、実質的に、炉壁の製造作業は以上で終了する。その後、炉の通常運転を行う(ステップS6)ことにより、粉体混合物が硬化し、不定形耐火物(炉壁)が完成する。木枠は、炉の運転中に燃焼し、消失する。粉体混合物導入工程を実施した後、木枠を除去する必要はない。
【0022】
上記したように、耐火物配置空間に粉体混合物を充填した後、乾燥等の工程を経ることなく、炉を運転することができる。そのため、炉の施工時間・施工コストを削減することができる。また、炉壁は、炉本体を炉内から断熱するために用いられる。すなわち、炉壁の炉内側に比べ、炉壁の炉本体側(外側)は運転中に加わる温度が低い。典型的に、加熱温度(焼結温度)が高くなる程、炉壁の強度が高くなる。そのため、上記製造方法によると、炉内側の強度が炉本体側の強度よりも高い炉壁(不定形耐火物)を製造することができる。このような炉壁は、交換の際(炉壁を解体する際)に、炉壁を炉本体から容易に取り外すことができるという利点も得られる。
【0023】
図2を参照し、実験例について説明する。図2は、作製した試料1〜16の配合率(重量%)と、各試料の特性を示している。なお、試料1〜16は、4つのグループに分類される。試料1〜5は、フリットを外掛けで加えた数値を示している。すなわち、フリット以外の材料の配合率の合計を100重量%とし、フリットの配合率は、それらの材料の合計(100重量%)に対するものである。試料6〜9は、ホウ酸を外掛けで加えた数値を示している。ホウ酸の配合率は、ホウ酸以外の材料の配合率の合計(100重量%)に対するものである。試料10〜14は、氷晶石を外掛けで加えた数値を示している。氷晶石の配合率は、氷晶石以外の材料の配合率の合計(100重量%)に対するものである。試料15,16は、SiCを外掛けで加えた数値を示している。SiCの配合率は、SiC以外の材料の配合率の合計(100重量%)に対するものである。
【0024】
図2には、試料1〜16の粉体混合物を500℃,800℃で焼成した不定形耐火物について、曲げ強度及び圧縮強度を測定した結果を示している。曲げ強度及び圧縮強度はJISR2553に基づいて測定した結果であり、測定試料は以下の方法で作製した。曲げ強度及び圧縮強度の試料は、各試料の粉体混合物を型に投入し、250℃で加熱した後、離型し、再度所定温度(500℃又は800℃)で加熱して作製した。また、図2には、250℃で加熱した際に、型から離型できた試料に「○」,離型できなかった試料に「×」を付している。800℃強度の評価は、800℃で焼成した試料について、曲げ強度3.0Mpa以上、圧縮強度13.0Mpa以上の双方を満足する試料に「○」を付し、それ以外の試料に「×」を付している。
【0025】
また、各試料について、耐反応性(耐食性)の試験も行った。耐反応性の試験方法について説明する。まず、紛体混合物を金型に投入し、250℃で加熱硬化させ、表面70×70mm,厚み70mmであり、表面の中心に直径30mm,深さ35mmの孔(穿孔)が設けられた坩堝(試料)を作製した。次に、試料の穿孔にスラグ微粉(食剤)を30g入れた状態で、大気雰囲気,1400℃の電気炉内で試料を12時間加熱した。なお、スラグ微粉は710μm以下に粉砕したものを用意した。また、用いたスラグの化学成分は、NaOが10%、Alが15%、SiOが23%、SOが8%、CaOが12%、Feが22%、KOが2%、Clが3%、TiOが3%であった。次に、試料を電気炉から取り出し、穿孔線(穿孔の中心軸)に沿って試料を切断し、切断面の状態を目視で観察した。切断面における食剤の浸食面積(mm),試料の軟化,変形,発泡の有無を観察し、以下の基準に基づいて「○」,「△」,「×」の評価を行った。
「〇」:浸食面積1mm以下。かつ、変形、発泡が検出されない。
「△」:浸食面積10mm以下。かつ、変形、発泡が検出されない。
「×」:浸食面積10mm超。または、変形、発泡のうちの一つ以上を検出。
【0026】
250℃離型性の結果は、各試料(粉体混合物)を250℃で加熱したときに、各試料(不定形耐火物)が形状を保てているか否かを示している。上記したように、本明細書で開示する粉体混合物は、外壁(炉本体)と可燃性の内壁(木枠)の間に配置された状態で加熱される。「250℃」という温度は、可燃性の内壁が変形あるいは消失(燃焼)を開始する温度に相当する。「250℃」で形状が保てていれば、内壁が変形・消失を開始したときに、不定形耐火物(炉壁)が脱落することを防止することができる。
【0027】
500℃強度(曲げ強度及び圧縮強度)の結果も、各試料を500℃で加熱したときに、各試料が形状を保てているか否かを示している。「500℃」という温度は、可燃性の内壁が完全に消失(燃焼)する温度に相当する。500℃強度の試験(曲げ試験、圧縮試験)にて数値が得られることは、内壁が完全に消失したときに不定形耐火物が硬化していることを示している。なお、500℃で焼成した試料の曲げ強度が0.5Mpa以上であれば、外部からの圧力(燃焼圧力等)・振動等に抗して、炉壁の脱落をより確実に防止することができる。
【0028】
800℃強度(曲げ強度及び圧縮強度)の結果は、炉(比較的低温の炉)の運転温度における、炉壁の強度を示している。曲げ強度が3.0Mpa未満、及び/又は、圧縮強度が13.0Mpa未満の場合、炉の使用中に炉壁が脱落することが起こり得る。曲げ強度3.0Mpa以上、圧縮強度13.0Mpa以上の双方を満足すれば、炉壁の状態を長期間に亘り良好に維持することができ、耐久性の高い炉壁が得られる。800℃で焼成したときの曲げ強度が3.0Mpa以上であり、圧縮強度が13.0Mpa以上である試料は、様々な運転温度の炉のおいて、耐久性の高い炉壁を実現することができる。
【0029】
試料1〜5に示すように、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方とも、フリット添加量の増加に伴い、強度(曲げ強度及び圧縮強度)が向上する。但し、フリット添加量が1.5重量%未満の場合、800℃強度において十分な強度が得られていない(試料1)。具体的には、試料1は、曲げ強度3.0Mpa以上は満足しているが、圧縮強度13.0Mpa以上を満足していない。また、試料1は、500℃の焼成を行うことにより硬化しているが、曲げ強度が0.3Mpaであり、やや強度が低い結果であった。試料2〜5は、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方において、曲げ強度及び圧縮強度ともに、十分な強度が得られている。しかしながら、フリット添加量が5重量%を超えると、耐反応性が悪化することが確認された(試料5)。試料1〜5の結果は、フリット添加量を1.5重量%以上5.0重量%以下に調整することにより、炉壁として優れた不定形耐火物が得られることを示している。
【0030】
試料6〜9に示すように、ホウ酸についても、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方ともに、その添加量の増加に伴い、強度が向上する。但し、ホウ酸添加量が1.0重量%未満となると、250℃で試料を離型することができず、その後の焼成(500℃,800℃)を行うことができなかった。試料6の結果は、ホウ酸添加量が1.0重量%未満になると、低温(250℃)で硬化しないことを示している。試料7〜9は、500℃焼成試料及び800℃焼成試料の双方において、曲げ強度及び圧縮強度ともに、十分な強度が得られている。しかしながら、ホウ酸添加量が2.0重量%を超えると、耐反応性が悪化することが確認された(試料9)。試料6〜9の結果は、ホウ酸添加量を1.0重量%以上2.0重量%以下に調整することにより、優れた不定形耐火物が得られることを示している。
【0031】
ここで、試料3と試料6を比較すると、両試料ともフリット添加量が3重量%であるにも関わらず、試料3は十分な強度が得られ、試料6は250℃で硬化しなかった。また、試料1と試料8を比較すると、両試料ともホウ酸添加量が2重量%であるにも関わらず、試料1は800℃強度(曲げ強度及び圧縮強度)が不十分であった。このことは、フリットとホウ酸の一方を所定割合添加するだけでは十分な強度が得られない(あるいは低温で硬化しない)ことを示している。すなわち、フリットとホウ酸の双方を、フリット1.5重量%以上5.0重量%以下,ホウ酸1.0重量%以上2.0重量%以下の割合で添加することによって、高強度であるとともに、耐食性に優れた不定形耐火物が得られる。
【0032】
試料10〜14は、氷晶石を添加することにより、その添加量の増加に伴い、曲げ強度及び圧縮強度が向上することを示している。但し、氷晶石の添加量が0.5重量%未満の場合、500℃で粉体の硬化が確認され、800℃で十分な曲げ強度・圧縮強度が得られているものの、500℃の曲げ強度がやや低い(0.3Mpa)結果であった(試料10)。また、氷晶石の添加量が1.5重量%を超えると、耐反応性がやや低下する結果であった(試料14)。この結果は、氷晶石は必要とする特性に応じて適宜加えることができるが、その添加量は0.5重量%以上1.5重量%であることが特に好ましいことを示している。また、試料15,16は、SiCを添加することにより、曲げ強度及び圧縮強度が向上することを示している。なお、理由は不明であるが、SiCを添加しない試料15は、耐反応性がやや低下する結果となった。
【0033】
上記実施例では、アルミナとムライトの双方を含む粉体混合物について説明した。すなわち、実施例は、2種類の酸化アルミニウム系材が含まれる粉体混合物を用いた不定形耐火物について説明した。しかしながら、本明細書で開示する技術は、1種類の酸化アルミニウム系材を含む粉体混合物に適用することもできる。重要なことは、酸化アルミニウム系材を含む粉体混合物において、粉体混合物に占めるホウ酸の割合を1.0重量%以上2.0重量%以下とし、フリットの割合を1.5重量%以上5.0重量%以下とすることである。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2