(54)【発明の名称】高分子材料の解析用モデルの作成方法、高分子材料の解析用モデルの作成用コンピュータプログラム、高分子材料のシミュレーション方法及び高分子材料のシミュレーション用コンピュータプログラム
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンピュータを用いて分子動力学法により複数の分子鎖間の架橋形態が高分子材料の材料特性に与える影響を解析するための高分子材料の解析用モデルの作成方法であって、
前記分子鎖の端部の粒子を反応粒子に置換する第1ステップと、
前記反応粒子同士を反応させて結合させる反応時間と、前記解析用モデルに作成される分子鎖の数である目標分子鎖数とを設定する第2ステップと、
前記反応時間及び前記目標分子鎖数に基づいて前記分子鎖の反応粒子を結合させて複数の前記分子鎖が1本に連結された直鎖状分子鎖を作成し、前記直鎖状分子鎖の端部の反応粒子を結合させて1本のリング状の分子鎖を有する前記解析用モデルを作成する第3ステップと、
を含むことを特徴とする、高分子材料の解析用モデルの作成方法。
前記第3ステップにおいて、所定の分子鎖長未満の複数の特定分子鎖の端部の反応粒子を分子鎖間で相互に結合させる、請求項1に記載の高分子材料の解析用モデルの作成方法。
前記第3ステップにおいて、所定の分子鎖長以上の特定分子鎖の両端部の反応粒子を相互に結合させる、請求項1又は請求項2に記載の高分子材料の解析用モデルの作成方法。
前記第3ステップにおいて、前記反応粒子を特定位置近傍に移動させて反応粒子を結合させる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の高分子材料の解析用モデルの作成方法。
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の高分子材料の解析用モデルの作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする、高分子材料の解析用モデルの作成用コンピュータプログラム。
前記高分子材料の解析用モデルにフィラーモデルを挿入し、前記高分子材料の解析用モデルと前記フィラーモデルとの間の相互作用を設定してから、前記架橋反応解析を実行する、請求項9に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
前記高分子材料の解析用モデルと前記フィラーモデルとの間に結合を形成してから、前記架橋反応解析を実行する、請求項10に記載の高分子材料のシミュレーション方法。
請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の高分子材料のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とする、高分子材料のシミュレーション用コンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、変性ポリマーなどの高分子材料においては、複数の分子鎖間に架橋結合によって形成された3次元的なネットワークにより高分子材料に生じる応力が変化する。高分子材料に生じる内部応力としては、分子鎖に形成された架橋点間に起因する架橋形態に基づく応力と、架橋結合によって生じた自由末端に起因する応力とがある。このため、高分子材料に生じる応力を正確に解析するためには、架橋形態が材料特性に与える影響と、架橋結合によって生じた自由末端が材料特性に与える影響とをそれぞれ解析することが望ましい。
【0005】
しかしながら、従来の高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、高分子材料の分子鎖中にランダムに反応点を形成して架橋結合を形成しているので、高分子材料に多数の自由末端が形成される。このため、架橋形態が材料特性に与える影響を解析しようとしても、自由末端に起因する応力の影響を十分に排除できない場合がある。また、自由末端がない解析用モデルとして、例えば、分子鎖の一端と他端とを結合させて初期構造が円形の解析用モデルを作成することも考えられるが、この場合、高分子材料特有の分子鎖の絡み合いの影響も排除されてしまい正確に材料特性を解析できない場合がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、自由末端に起因する応力の影響を低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析できる高分子材料の解析用モデルの作成方法、高分子材料の解析用モデルの作成用コンピュータプログラム、高分子材料のシミュレーション方法及び高分子材料のシミュレーション用コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
高分子材料の解析用モデルの作成方法は、コンピュータを用いて分子動力学法により複数の分子鎖間の架橋形態が高分子材料の材料特性に与える影響を解析するための高分子材料の解析用モデルの作成方法であって、分子鎖の端部の粒子を反応粒子に置換する第1ステップと、前記反応粒子同士を反応させて結合させる反応時間及び前記解析用モデルに作成される分子鎖の数を目標分子鎖数として設定する第2ステップと、前記反応時間及び前記目標分子鎖数に基づいて前記複数の分子鎖の反応粒子を結合させて前記解析用モデルを作成する第3ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
この方法によれば、分子鎖の端部同士を相互に結合させながら目標分子鎖数の高分子材料の解析用モデルを作成できるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を低減できると共に、自由末端の全長を短くすることが可能となる。これにより、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響を低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析できる高分子材料の解析用モデルの作成方法を実現できる。
【0009】
高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、前記第3ステップにおいて、所定の分子鎖長未満の複数の特定分子鎖の端部の反応粒子を分子鎖間で相互に結合させることが好ましい。この方法により、第3ステップで反応時間の初期に作成される所定の分子鎖長未満の分子鎖の端部を分子鎖間で結合させることができるので、複数の分子鎖を効率よく結合させることが可能となる。
【0010】
高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、前記第3ステップにおいて、所定の分子鎖長以上の特定分子鎖の両端部の反応粒子を相互に結合させることが好ましい。この方法により、第3ステップで反応時間の経過と共に作成される所定の分子鎖長以上の分子鎖の両端部を結合させることができるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を更に低減できる。これにより、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響をより一層低減できるので、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析することが可能となる。
【0011】
高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、前記第1ステップにおいて、前記分子鎖の末端の粒子を反応粒子に置換することが好ましい。この方法により、分子鎖の末端同士を結合させながら目標分子鎖数の高分子材料の解析用モデルを作成できるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を更に低減できる。これにより、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響をより一層低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析することが可能となる。
【0012】
高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、前記第3ステップにおいて、前記特定分子鎖の両末端の反応粒子を相互に結合させることが好ましい。この方法により、分子鎖の両末端を結合させて高分子材料の解析用モデルを作成できるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を更に低減できる。これにより、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響をより一層低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析することが可能となる。
【0013】
高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、前記第3ステップにおいて、前記反応粒子を特定位置近傍に移動させて反応粒子を結合させることが好ましい。この方法により、反応粒子を予め設定した特定位置近傍に移動させて結合させることができるので、反応粒子を効率よく反応させることが可能となる。
【0014】
高分子材料の解析用モデルの作成方法においては、前記第3ステップにおいて、反応解析によって前記反応粒子を結合させることが好ましい。この方法により、反応粒子を任意の反応で結合させることができるので、フィラーとポリマーとを効率的に結合させることができる。
【0015】
高分子材料の解析用モデルの作成用コンピュータプログラムは、上記高分子材料の解析用モデルの作成方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0016】
高分子材料のシミュレーション方法は、上記高分子材料の解析モデルの作成方法で作成した高分子材料の解析用モデルを用いて架橋反応解析を実行することを特徴とする。
【0017】
この方法によれば、分子鎖の端部同士を相互に結合させながら目標分子鎖数として分子鎖の端部に生じる自由末端の数を低減すると共に、自由末端の全長を短くした高分子材料の解析用モデルを用いるので、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響を低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析することが可能となる。
【0018】
高分子材料のシミュレーション方法においては、前記高分子材料の解析用モデルにフィラーモデルを挿入し、前記高分子材料の解析用モデルと前記フィラーモデルとの間の相互作用を設定してから、前記架橋反応解析を実行することが好ましい。この方法により、高分子材料とフィラーとを含有する高分子材料に対して高分子材料の架橋形態が材料特性に及ぼす影響を解析することが可能となる。
【0019】
高分子材料のシミュレーション方法は、前記高分子材料の解析用モデルと前記フィラーモデルとの間に結合を形成してから、前記架橋反応解析を実行することが好ましい。この方法により、高分子材料とフィラーとを含有する高分子材料間の結合と高分子材料の架橋形態とが材料特性に及ぼす影響を解析することが可能となる。
【0020】
高分子材料のシミュレーション方法は、上記高分子材料の解析モデルの作成方法で作成した高分子材料の解析用モデルを用いて分子動力学法による運動シミュレーションを実行して物理量を取得することを特徴とする。この方法によれば、架橋形態が材料特性に与える影響を解析することができるので、架橋形態が高分子材料の材料特性に及ぼす影響を解明することが可能となる。
【0021】
高分子材料のシミュレーション用コンピュータプログラムは、上記高分子材料のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、自由末端に起因する応力の影響を低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析できる高分子材料の解析用モデルの作成方法、高分子材料の解析用モデルの作成用コンピュータプログラム、高分子材料のシミュレーション方法及び高分子材料のシミュレーション用コンピュータプログラムを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。
【0025】
本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法は、コンピュータを用いて分子動力学法により分子鎖の架橋形態が高分子材料の材料特性に与える影響を解析するための高分子材料の解析用モデルの作成方法である。この高分子材料の解析方法は、分子鎖の端部の粒子を反応粒子に置換する第1ステップと、反応粒子同士を反応させて結合させる反応時間、及び解析用モデルで作製する分子鎖の数を目標分子鎖数として設定する第2ステップと、反応時間及び目標分子鎖数に基づいて複数の分子鎖の反応粒子を結合させて解析用モデルを作成する第3ステップとを含む。まず、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法の概要について説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法に用いられる高分子材料1の概念図である。
図1に示すように、この高分子材料1は、例えば、複数の原子によって構成される高分子鎖の主鎖11が架橋点12を介して結合された架橋構造を有する。高分子鎖の主鎖11は、両末端が架橋点12に結合した架橋鎖11aと、一端が架橋点12に結合して他端が自由端となる自由末端11bとを含む。この高分子材料1においては、複数の高分子鎖の主鎖11が架橋鎖11aによって相互に結合されて3次元的なネットワークを形成し、架橋鎖11a及び自由末端11bが相互に絡み合うことにより、高分子材料1に働く応力が変化して材料特性が変化する。
【0027】
高分子材料1に生じる応力としては、架橋点12間の架橋鎖11aの絡み合いに起因する架橋形態に基づく応力と、架橋結合によって生じた自由末端11bに起因する応力とがある。本実施の形態においては、自由末端11bを低減した解析用モデルを作成することにより、架橋結合によって生じた自由末端11bに起因する応力を低減して、架橋形態が高分子材料1の材料特性に与える影響を正確に解析する。
【0028】
次に、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法について詳細に説明する。
図2及び
図3は、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法の一例を示す説明図である。
図2に示すように、高分子材料1は、ポリマー原子及び複数のポリマー原子が集合したポリマー粒子が連結された複数の第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24によってモデル化される。本実施の形態においては、解析用モデルの作成開始当初には、複数(
図2に示す例では4つ)の第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24が存在する。第1の分子鎖21は、複数の粒子21aが数珠状に連結して直鎖状の分子鎖を構成し、第2の分子鎖22は、複数の粒子22aが数珠状に連結して直鎖状の分子鎖を構成し、第3の分子鎖23は、複数の粒子23aが数珠状に連結して直鎖状の分子鎖を構成し、第4の分子鎖24は、複数の粒子24aが数珠状に連結して直鎖状の分子鎖を構成している。なお、複数の第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24は、例えば、予め設定した所望の粒子数である1000未満の粒子21a〜24aによって構成される。
【0029】
本実施の形態においては、まず、複数の第1の分子鎖21の両末端の粒子21aを反応粒子21bに置換し、複数の第2の分子鎖22の両末端の粒子22aを反応粒子22bに置換し、複数の第3の分子鎖23の両末端の粒子23aを反応粒子23bに置換し、複数の第4の分子鎖24の両末端の粒子24aを反応粒子24bに置換する。
【0030】
次に、第1の分子鎖21の一端の反応粒子21bと第2の分子鎖22の一端の反応粒子22bとを反応させて反応粒子21bと反応粒子22bとを結合させて第1の分子鎖21と第2の分子鎖22とを連結する。次に、第2の分子鎖22の他端の反応粒子22bと第3の分子鎖23の一端の反応粒子23bとを反応させて反応粒子22bと反応粒子23bとを結合させて第2の分子鎖22と第3の分子鎖23とを連結する。次に、第3の分子鎖23の他端の反応粒子23bと第4の分子鎖24の一端の反応粒子24bとを反応させて反応粒子23bと反応粒子24bとを結合させて第3の分子鎖23と第4の分子鎖24とを連結する。これにより、複数の第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24が末端同士で近傍の第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24と連続的に連結されて自由末端がない1本の直鎖状分子鎖25を有する解析用モデルを作成することができる。ここでは、直鎖状分子鎖25の分子鎖長が所定以上(例えば、粒子数1000以上)になると直鎖状分子鎖25の一端の反応粒子21bと他端の反応粒子24bとの間の距離が離れるので、直鎖状分子鎖25の両末端が相互に反応して結合が形成されることを防ぐことができ、直鎖状分子鎖25の分子鎖長を所望の長さまで伸長することが可能となる。
【0031】
次に、
図3に示すように、解析用モデルの直鎖状分子鎖25の粒子数があらかじめ設定した所望の粒子数である1000以上となった際には、直鎖状分子鎖25の両末端の反応粒子21b,24bを相互に反応させて結合させることにより、1本のリング状の分子鎖を有する解析用モデル2を作成する。ここでは、直鎖状分子鎖25の一端の反応粒子21bと他端の反応粒子24bとの間に特定位置P(集合点)を指定し、指定した特定位置P近傍に反応粒子21b,24bの少なくとも一方を移動させて反応粒子21b,24bを反応させて結合を形成することが好ましい。これにより、直鎖状分子鎖25の粒子数が多く、直鎖状分子鎖25の分子鎖長が長くなった場合であっても、直鎖状分子鎖25の両末端の21b,24bを効率よく反応させることが可能となる。なお、特定位置Pは、直鎖状分子鎖25の一端の反応粒子21b又は他端の反応粒子24bの近傍に指定してもよい。
【0032】
なお、上述した実施の形態においては、第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24の両末端の粒子21a〜24aを反応粒子21b〜24bに置換する例について説明したが、本発明の効果を奏する範囲で第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24の両端部の粒子21a〜24aを反応粒子21b〜24bに置換して解析用モデルを作成してもよい。例えば、
図2に示した例においては、第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24の末端から一つ内側の粒子21a〜24aを反応粒子21b〜24bに置換してもよい。この場合、粒子数が1つの自由末端が形成されるが、分子鎖が長い場合には粒子数1の自由末端の影響は小さいので、自由末端の影響が極めて小さい解析用モデルを作成することが可能となる。
【0033】
次に、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法及び高分子材料のシミュレーション方法について詳細に説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法及び高分子材料のシミュレーション方法を実行する解析装置の機能ブロック図である。
図4に示すように、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法及び高分子材料のシミュレーション方法は、処理部52と記憶部54とを含むコンピュータである解析装置50が実現する。この解析装置50は、入力手段53を備えた入出力装置51と電気的に接続されている。入力手段53は、高分子材料の解析用モデルの作成対象である高分子材料(必要に応じてフィラー)の各種物性値及び解析における境界条件などを処理部52又は記憶部54へ入力する。入力手段53としては、例えば、キーボード、マウスなどの入力デバイスが用いられる。
【0034】
処理部52は、例えば、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びメモリを含む。処理部52は、各種処理を実行する際にコンピュータプログラムを記憶部54から読み込んでメモリに展開する。メモリに展開されたコンピュータプログラムは、各種処理を実行する。例えば、処理部52は、記憶部54から予め記憶された各種処理に係るデータを必要に応じて適宜メモリ上の自身に割り当てられた領域に展開し、展開したデータに基づいて、高分子材料の解析用モデルの作成及び高分子材料の解析用モデルを用いた高分子材料のシミュレーションに関する各種処理を実行する。
【0035】
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cとを含む。モデル作成部52aは、予め記憶部54に記憶されたデータに基づき、分子動力学法により高分子材料の解析用モデルを作成する際の高分子材料の粒子数、分子数、分子量、分岐、形状、大きさ、反応時間、反応条件及び作成する解析用モデルに含まれる分子数である目標分子数などの構成要素の配置、設定及び計算ステップ数などの粗視化モデルの設定、分子鎖間などの相互作用などの各種計算パラメーターの初期条件の設定を行う。
【0036】
モデル作成部52aは、初期条件の設定の後、平衡化計算を行う。平衡化計算では、所定の温度、密度及び圧力で、初期設定後の各種構成要素が平衡状態に到達する所定の時間、分子動力学計算を行う。そして、モデル作成部52aは、初期条件の設定及び平衡化を計算した後に、高分子材料の解析用モデル作成のためにモデル化した複数の粒子21a〜24aによって構成される分子鎖によるポリマーモデルを作成し、作成したポリマーモデル中に分子鎖を分散させる。
【0037】
モデル作成部52aは、分子鎖の両末端の粒子を反応粒子に置換し、モデル作成部52aは、分子鎖の数が目標分子鎖数になるまで分子鎖を反応させて高分子材料の解析用モデルを作成する。作成された高分子材料の解析用モデルは、解析部52cにより実行される架橋反応解析などの高分子材料の解析用モデルとして用いられる。ここでは、モデル作成部52aは、予め設定した所望の分子鎖長である粒子の数が1000未満の分子鎖が存在しなくなるまで反応粒子を連続的に反応させてもよい。この場合、モデル作成部52aは、粒子の数が1000未満の第1の分子鎖21〜第4の分子鎖24が存在しなくなった後、粒子の数が1000を超えた分子鎖の両末端を相互に反応させてもよい。
【0038】
また、モデル作成部52aは、粒子の数が1000以上となった分子鎖については、指定した特定位置P(集合点)に反応粒子を移動させて反応粒子を反応させる。ここでの特定位置Pとしては、反応させる一対の反応粒子の中間点、反応させる一対の反応粒子の一方の反応粒子の位置及び一方の反応粒子の近傍の位置などが挙げられる。また、反応粒子の移動方法としては、反応粒子に、反応粒子と特定位置Pとの間の距離に応じた強制変位を与える方法及び特定位置Pに向けて所定の速度を与える方法が挙げられる。
【0039】
また、モデル作成部52aは、カーボンブラック又はシリカなどの無機材料のフィラーをフィラーモデルとして併用して解析を行う場合には、高分子材料の解析用モデルに挿入するフィラーモデルを作成する。この場合、モデル作成部52aは、高分子材料の解析用モデルとフィラーモデルとの間の相互作用を設定する。また、フィラーモデルとの間に結合を形成してもよい。
【0040】
条件設定部52bは、モデル作成部52aで作成した高分子材料の解析用モデルを用いた分子動力学法による運動シミュレーション(解析)を実行するための各種条件を設定する。条件設定部52bは、入力手段53からの入力及び記憶部54に記憶されている情報に基づいて各種条件を設定する。各種条件としては、解析を実行する高分子材料の分子鎖の位置及び数、ポリマー原子、ポリマー原子団、ポリマー粒子及びポリマー粒子群の位置及び数、ポリマー粒子番号、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び条件を変更しない固定値などが含まれる。
【0041】
解析部52cは、モデル作成部52aにより作成された高分子材料の解析用モデルを用いた分子動力学法による架橋反応解析などの運動シミュレーションを実行して各種物理量を取得する。これにより、分子鎖の端部同士を相互に結合させながら目標分子鎖数として分子鎖の端部に生じる自由末端の数を低減すると共に、自由末端の全長を短くした高分子材料の解析用モデルを用いて解析できるので、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響を低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析することが可能となる。なお、架橋反応解析とは、分子鎖の粒子種の変更を伴わずに分子鎖間に単純な結合により架橋を形成する解析方法である。
【0042】
ここでの運動シミュレーションとしては、例えば、伸長解析及びせん断解析などが挙げられる。また、ここでの物理量としては、シミュレーションの結果得られる運動変位及び公称応力又は運動変位を演算して得られる公称ひずみなどが挙げられる。このように、作成した高分子材料の解析用モデルを用いて運動シミュレーションを行って分子鎖の動きを観察することにより、高分子材料の架橋形態が材料特性に及ぼす影響を解明することが期待できる。また、解析部52cは、フィラーモデルを用いて解析する場合には、設定された高分子材料の解析用モデルとフィラーモデルとの間の相互作用などに基づいて架橋反応解析などの解析を実行する。これにより、高分子材料とフィラーとを含有する高分子材料に対して高分子材料の架橋形態が材料特性に及ぼす影響を解析することが可能となる。
【0043】
記憶部54は、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ及びCD−ROMなどの読み出しのみが可能な記録媒体である不揮発性のメモリ、並びに、RAM(Random Access Memory)のような読み出し及び書き込みが可能な記録媒体である揮発性のメモリが適宜組み合わせられる。
【0044】
記憶部54には、入力手段53を介して解析対象となる高分子材料の解析用モデルを作成するためのデータであるゴム及び樹脂材料などの高分子材料のデータ、カーボンブラック及びシリカなどの無機材料のデータ、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法、高分子材料のシミュレーション方法を実現するためのコンピュータプログラムなどが格納されている。このコンピュータプログラムは、コンピュータ又はコンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施の形態に係る高分子材料のシミュレーション方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)及び周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0045】
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。なお、記憶部54は、データベースサーバなどの他の装置内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52及び記憶部54にアクセスするものであってもよい。
【0046】
次に、
図5を参照して本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法の具体例について説明する。
図5は、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法の一例の概略を示すフロー図である。
【0047】
図5に示すように、開始時には、モデル作成部52aが、入力手段53を介して予め記憶部54に記憶された高分子材料をモデル化するためのデータである高分子材料の分子鎖の粒子数、分子鎖数、分子量、分岐、形状、及び大きさなどの構成要素の配置、予め設定した物理量履歴である応力ひずみ曲線及び条件を変更しない固定値などの高分子材料をモデル化するための各種データを読込む。続いて、モデル作成部52aは、各種データに基づいて高分子材料のポリマーモデルを作成し、初期条件の設定及び分子動力学計算により平衡化計算を行う。
【0048】
次に、モデル作成部52aは、作成した高分子材料の分子鎖を分散させた後、分散させた分子鎖の末端粒子(又は末端部粒子)を反応粒子に置換する(ステップST11)。次に、モデル作成部52aは、分子鎖の反応粒子を反応させる反応時間を設定すると共に、作成する解析用モデル中の分子鎖数となる目標分子鎖数を設定する(ステップST12)。続いて、モデル作成部52aは、設定した反応時間内で反応粒子を連続的に反応して反応粒子同士を結合させる(ステップST13)。
【0049】
ここでは、モデル作成部52aは、所定の分子鎖長未満の複数の分子鎖を特定分子鎖として指定し、指定した特定分子鎖の端部の反応粒子を分子鎖間で相互に結合させることが好ましい。これにより、反応時間の初期に作成される所定の分子鎖長未満の分子鎖の端部を分子鎖間で結合させることができるので、複数の分子鎖を効率よく結合させることが可能となる。また、モデル作成部52aは、所定の分子鎖長以上の特定分子鎖の両端部の反応粒子を相互に結合させることが好ましい。これにより、反応時間の経過と共に作成される所定の分子鎖長以上の分子鎖の両端部を結合させることができるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を更に低減できる。この結果、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響をより一層低減できるので、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析することが可能となる。また、モデル作成部52aは、特定分子鎖の両末端の反応粒子を相互に結合させることが好ましい。これにより、分子鎖の両末端を結合させて高分子材料の解析用モデルを作成できるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を更に低減できる。
【0050】
また、モデル作成部52aは、反応粒子を特定位置(集合点)近傍に移動させて反応粒子を結合させることが好ましい。これにより、反応粒子を予め設定した特定位置近傍に移動させて結合させることができるので、反応粒子を効率よく反応させることが可能となる。また、モデル作成部52aは、反応解析によって反応粒子を結合させることが好ましい。これにより、反応粒子を任意の反応で結合させることができるので、反応粒子を効率的に結合させることができる。反応解析の方法としては、反応粒子を結合させることができるものであれば特に制限はない。反応解析の方法としては、例えば、分子鎖の反応粒子に新たに結合鎖を作成し、作成した結合鎖と当該分子鎖と結合していない分子鎖の粒子とを結合させる方法などが挙げられる。
【0051】
次に、モデル作成部52aは、分子鎖数が目標分子鎖数以下となったか否かを確認し、目標分子鎖数以下となっていない場合(ステップST14:No)には、必要に応じて反応時間を変更する(ステップST15)。そして、モデル作成部52aは、変更した時間内で反応粒子を連続的に反応して反応粒子同士を結合させる(ステップST13)。そして、モデル作成部52aは、目標分子鎖数以下となった場合(ステップST14:Yes)には、分子鎖の両末端の反応粒子を相互に反応させて高分子材料の解析用モデルを作成する。また、モデル作成部52aは、作成した高分子材料の解析用モデルのデータを記憶部54に格納して高分子材料の解析用モデルの作成を終了する。
【0052】
次に、条件設定部52bは、入力手段53からの入力又は記憶部54に記憶されている情報に基づいて、高分子材料の解析用モデルを用いた分子動力学法による運動シミュレーション(解析)の条件を設定する。次に、解析部52cは、条件設定部52bによって設定された条件に基づいて、モデル作成部52aによって作成された高分子材料の解析用モデルを用いて架橋反応解析などの解析を行い公称応力及び公称ひずみなどの物理量を取得する。また、解析部52cは、架橋反応解析などによって得られた解析結果を記憶部54に格納する。
【0053】
図6は、本実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法の他の例の概略を示すフロー図である。
図6に示す例では、モデル作成部52aは、
図5に示した例と同様に、作成した高分子材料の分子鎖を分散させた後、分散させた分子鎖の末端粒子を反応粒子に置換する(ステップST21)。次に、モデル作成部52aは、例えば、反応させる一対の反応粒子間の中間点及び一方の反応粒子の位置などを反応粒子の特定位置として設定する(ステップST22)。続いて、モデル作成部52aは、指定した位置に反応粒子を移動する(ステップST23)。次に、モデル作成部52aは、反応粒子を反応させて結合させる(ステップST24)。以上を繰り返すことにより分子鎖を連続的に結合させた直鎖状分子鎖を有する高分子材料の解析用モデルを作成することができる。
【0054】
以上説明したように、上記実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法によれば、分子鎖の端部同士を相互に結合させながら目標分子鎖数の高分子材料の解析用モデルを作成できるので、分子鎖の端部に生じる自由末端の数を低減できると共に、自由末端の全長を短くすることが可能となる。これにより、高分子材料中の自由末端に起因する応力の影響を低減でき、分子鎖間の架橋形態が材料特性に与える影響を正確に解析できる高分子材料の解析用モデルの作成方法を実現できる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
本発明者らは、上述した実施の形態に係る高分子材料の解析用モデルの作成方法により高分子材料の解析用モデルを作成し、従来の高分子材料の解析用モデルの作成方法で作成した解析用モデルと自由末端の粒子数の割合を比較した。以下、本発明者らが調べた内容について説明する。
【0057】
(実施例1)
総粒子数を20000とし、
図5に示したフロー図の方法に従って粒子数200の分子鎖100本の両末端を連続的に結合させて高分子材料の解析用モデルを作成した。架橋点の数は、約500個とした。総粒子数に対する自由末端の粒子数の割合は、1.2%であった。
【0058】
(実施例2)
実施例1で作成した解析用モデルを用いて、
図6に示したフロー図の方法に従って、分子鎖の両末端を相互に結合させて高分子材料の解析用モデルを作成した。総粒子数に対する自由末端の粒子の割合は0%であり、自由末端が存在していなかった。
【0059】
(比較例1)
一般的な高分子材料の解析用モデルの作成方法に従って高分子材料の解析用モデルを作成したこと、すなわち、分子鎖に反応粒子をランダムに設けて架橋結合を形成したこと以外は実施例1と同様の条件で高分子材料の解析用モデルを作成した。総粒子数に対する自由末端の粒子の割合は28%であった。以上の結果を下記表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から分かるように、本実施の形態によれば、従来の高分子材料の解析用モデルの作成方法と比較して著しく自由末端を低減したモデル及び自由末端が存在しない高分子材料の解析用モデルを作成できることが分かる。この結果は、分子鎖の両末端を反応粒子に置換して反応させることにより、分子鎖の両末端を連続的に結合できたためである。