特許第6375981号(P6375981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6375981温度ヒューズ付き電子部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6375981
(24)【登録日】2018年8月3日
(45)【発行日】2018年8月22日
(54)【発明の名称】温度ヒューズ付き電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 37/76 20060101AFI20180813BHJP
   H01C 13/00 20060101ALI20180813BHJP
【FI】
   H01H37/76 K
   H01C13/00 A
   H01H37/76 F
   H01H37/76 L
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-25179(P2015-25179)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-149241(P2016-149241A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 敏之
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 雅人
(72)【発明者】
【氏名】石塚 博弥
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−310003(JP,A)
【文献】 特開平03−283224(JP,A)
【文献】 特開2003−197080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01C 13/00
H01H 69/02
H01H 85/00−85/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品と、
該電子部品を覆う樹脂からなるモールド層と、
中空管および該中空管の内部を貫通する導電線からなり、前記中空管の外周面が前記モールド層に覆われた温度ヒューズと、を備え、
前記中空管は、一端側および他端側が開放面を成し、かつ絶縁材料から構成され、
前記モールド層は、前記中空管の一方の開放面および他方の開放面から前記中空管の内部空間の一部を充填するように形成され、
前記導電線は、前記中空管の内周面に対して離間して配され、前記導電線の周囲には、空間が形成されていることを特徴とする温度ヒューズ付き電子部品。
【請求項2】
前記中空管は、ガラス、またはセラミックスから構成されていることを特徴とする請求項1記載の温度ヒューズ付き電子部品。
【請求項3】
前記電子部品はチップ抵抗体であることを特徴とする請求項1または2記載の温度ヒューズ付き電子部品。
【請求項4】
前記導電線は、Pb−Ag合金であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項記載の温度ヒューズ付き電子部品。
【請求項5】
前記中空管の内部空間全体の体積から前記導電線の体積を除いた空間率は、60%以上、99.5%以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか一項記載の温度ヒューズ付き電子部品。
【請求項6】
電子部品と、該電子部品を覆う樹脂からなるモールド層と、中空管および該中空管の内部を貫通する導電線からなり、前記中空管の外周面が前記モールド層に覆われた温度ヒューズと、前記導電線の一方の端部および他方の端部に接合された電極と、を備える温度ヒューズ付き電子部品の製造方法であって、
前記中空管は、一端側および他端側に開放面が形成され、25℃における粘度が40Pa・s以上、60Pa・s以下の範囲の樹脂を前記中空管の一方の開放面および他方の開放面から前記中空管の内部空間の一部に入り込むように充填し、前記導電線の周囲に空間を確保しつつ前記モールド層を形成するモールド層形成工程を備えたことを特徴とする温度ヒューズ付き電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記導電線と前記電極とを、200℃以上、250℃以下の温度範囲で、AgO還元反応により接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記導電線にSnメッキを行った後、前記導電線と前記電極とを超音波によって接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記電極にSnメッキを行った後、前記導電線と前記電極とを超音波によって接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記導電線と前記電極とを、Pbを5%以上、10%以下の範囲で含むPb−Snはんだを用いて接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする請求項6記載の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子部品が所定の温度を超えた際に、導電線の一部を溶断させて回路を開く温度ヒューズ付き電子部品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品が過電流などによって所定の温度を超えた際に、電子部品やこれを覆う絶縁性のモールドを保護するための温度式の電力ヒューズ(以下、単に温度ヒューズと称する)が広く用いられている。こうした温度ヒューズは、電子回路の一部に挿入され、回路の一部を成す低融点金属などからなる導電線が所定の温度を超えると溶断することで、電子部品への通電を遮断する。特に、通電によって発熱しやすい電子部品である抵抗チップは、予め温度ヒューズを内蔵させた温度ヒューズ付き抵抗器として提供されているものもある。
【0003】
従来、こうした温度ヒューズの一例として、中空のガラス管の内部に、低融点金属からなる導電線を張架させ、ガラス管の両端を樹脂で封止したものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−57442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された温度ヒューズでは、モールドする際に樹脂が膨張し、ガラス管を押し潰して破損させることがある。そのため、溶断した低融点金属(ヒューズとなる導電線)が電極に接して再び繋がり、回路を再導通させてしまう虞があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、予め設定した温度で確実に電気回路を遮断することが可能であり、かつ、導電線と電極との接合部分の劣化を防止できる温度ヒューズ付き電子部品およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の温度ヒューズ付き電子部品は、電子部品と、該電子部品を覆う樹脂からなるモールド層と、中空管および該中空管の内部を貫通する導電線からなり、前記中空管の外周面が前記モールド層に覆われた温度ヒューズと、を備え、前記中空管は、一端側および他端側が開放面を成し、かつ絶縁材料から構成され、前記モールド層は、前記中空管の一方の開放面および他方の開放面から前記中空管の内部空間の一部を充填するように形成され、前記導電線は、前記中空管の内周面に対して離間して配され、前記導電線の周囲には、空間が形成されていることを特徴とする。
【0008】
このような温度ヒューズ付き電子部品によれば、モールド層の一部を中空管の内部空間に充填させることによって、中空管の一方、および他方の開放面付近が内部空間の側から支えられる。これによって、樹脂の膨張など外部応力による中空管の破損を確実に防止することが可能になる。また、導電線の周囲に空間を確保することによって、導電線が溶断された際に、導電線を構成する材料は導電線が張架されていた位置から離れた中空管の内周面に落ちる。これにより、導電線を構成する材料が冷却、固化した際に、温度ヒューズを再導通させてしまうことを確実に防止できる。
【0009】
前記中空管は、ガラス、またはセラミックスから構成されていることを特徴とする。
中空管をガラスやセラミックスで構成することで、導電線の周囲の絶縁性を確実に確保するとともに、導電線の溶融温度まで昇温しても、中空管の軟化や変形を防止することができる。
【0010】
前記電子部品はチップ抵抗体であることを特徴とする。
通電によって発熱しやすいチップ抵抗体を電子部品として適用することで、温度ヒューズの昇温による破損防止といった特性を充分に発揮することができる。
【0011】
前記導電線は、Pb−Ag合金であることを特徴とする。
導電線としてPb−Ag合金を用いることで、高い導電性と、モールド層の軟化点での溶融を実現することができる。
【0012】
前記中空管の内部空間全体の体積から前記導電線の体積を除いた空間率は、60%以上、99.5%以下であることを特徴とする。
導電線の周囲の空間率を上述した範囲に保つことによって、不必要な大きさの内部空間を持つ中空管を使用せずとも、導電線の溶断後に、温度ヒューズを再導通させてしまうことを防止することができる。
【0013】
本発明の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法は、電子部品と、該電子部品を覆う樹脂からなるモールド層と、中空管および該中空管の内部を貫通する導電線からなり、前記中空管の外周面が前記モールド層に覆われた温度ヒューズと、前記導電線の一方の端部および他方の端部に接合された電極と、を備える温度ヒューズ付き電子部品の製造方法であって、前記中空管は、一端側および他端側に開放面が形成され、25℃における粘度が40Pa・s以上、60Pa・s以下の範囲の樹脂を前記中空管の一方の開放面および他方の開放面から前記中空管の内部空間の一部に入り込むように充填し、前記導電線の周囲に空間を確保しつつ前記モールド層を形成するモールド層形成工程を備えたことを特徴とする。ここで、粘度が40Pa・s未満だと、中空管内に樹脂が流入しやすくなり、実質空間率が低下し、確実に導電線を断線ができなくなる虞がある。また、粘度が60Pa・sより高い場合は、モールド層を形成する途中で中空管が割れる虞がある。
【0014】
本発明の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法によれば、25℃における粘度が40Pa・s以上、60Pa・s以下の範囲の樹脂を前記中空管の一方の開放面および他方の開放面から前記中空管の内部空間の一部に入り込むように充填し、前記導電線の周囲に空間を確保しつつ前記モールド層を形成するモールド層形成工程によって、モールド層の一部が中空管の内部空間に充填されるので、中空管の一方、および他方の開放面付近が内部空間の側から支えられる。これにより、樹脂の膨張など外部応力による中空管の破損を確実に防止することが可能になる。また、導電線の周囲に空間を確保することが可能になる。
【0015】
前記導電線と前記電極とを、200℃以上、250℃以下の温度範囲で、AgO還元反応により接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする。
これによって、Pb−Ag合金からなる導電線と、Cuからなる電極とを直接接合することが可能になる。
【0016】
前記導電線にSnメッキを行った後、前記導電線と前記電極とを超音波によって接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする。
これによって、Pb−Ag合金からなる導電線と、Cuからなる電極とを直接接合することが可能になる。
【0017】
前記電極にSnメッキを行った後、前記導電線と前記電極とを超音波によって接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする。
これによって、Pb−Ag合金からなる導電線と、Cuからなる電極とを直接接合することが可能になる。
【0018】
前記導電線と前記電極とを、Pbを5%以上、10%以下の範囲で含むPb−Snはんだを用いて接合する電極接合工程を更に備えたことを特徴とする。
これによって、Pb−Ag合金からなる導電線と、Cuからなる電極とを直接接合することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の温度ヒューズ付き電子部品の一例を示す断面図である。
図2】温度ヒューズを示す拡大断面図である。
図3】溶断後の温度ヒューズを示す拡大断面図である。
図4】本発明の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の温度ヒューズ付き電子部品,およびその製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
(温度ヒューズ付き電子部品)
図1は、本発明の温度ヒューズ付き電子部品の一例である温度ヒューズ付き抵抗器を示す断面図である。
温度ヒューズ付き抵抗器(温度ヒューズ付き電子部品)20は、例えばAIN(窒化アルミニウム)からなる基板21,22の一面側に、それぞれチップ抵抗体(電子部品)23,24が配されてなる。また、基板21,22の他面側は、4N−Alからなる共通の緩衝層25を介して、Alからなる放熱板26が接続されている。チップ抵抗体(電子部品)23は、電極19aを介して端子27に接続されている。また、チップ抵抗体(電子部品)24は、電極19bを介して端子28に接続されている。
【0022】
チップ抵抗体23とチップ抵抗体24との間には、温度ヒューズ10が設けられている。チップ抵抗体23とチップ抵抗体24とは、温度ヒューズ10を構成する電極13a,13bを介して電気的に接続されている。温度ヒューズ10の構成は後ほど詳述する。
チップ抵抗体(電子部品)23,24の周囲には、このチップ抵抗体(電子部品)23,24に対して離間するように取り囲む型枠29が配置されている。そして、この型枠29の内部に、樹脂からなるモールド層31が形成されている。こうしたモールド層31は、チップ抵抗体23,24、温度ヒューズ10、および端子27,28の一部を覆うように形成されている。
【0023】
なお、放熱板26が緩衝層25と接合される接合面の反対面に、更に冷却器を取り付けることも好ましい。こうした冷却器としては、例えば、多数のフィンを並べた空冷式の冷却器や、冷媒を通す流路を形成した液冷式の冷却器などが挙げられる。
【0024】
基板21,22は、チップ抵抗体23,24及び端子27,28と、導電性の放熱板26との電気的接続を防止するものであり、本実施形態においては、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)からなる板状部材である。こうしたAlNからなる基板21,22の厚さは、例えば、0.3mm以上1.0mm以下の範囲内であればよく、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
基板21,22の厚さは、0.3mm未満であると基板21,22に加わる応力に対する強度を充分に確保できなくなる懸念がある。また、基板21,22の厚さが1.0mmを超えると、温度ヒューズ付き抵抗器20全体の厚みが増加し、薄厚化が難しくなる懸念がある。よって、基板21,22の厚さを、例えば、0.3mm以上1.0mm以下の範囲内にすることによって、基板21,22の強度と、温度ヒューズ付き抵抗器20全体の薄厚化とを両立できる。
【0026】
チップ抵抗体23,24は、温度ヒューズ付き抵抗器20に電流が流れた際の電気抵抗として機能させるためのものであり、構成材料の一例として、Ta−Si系薄膜抵抗体やRuO厚膜抵抗体が挙げられる。チップ抵抗体23,24は、本実施形態においては、Ta−Si系薄膜抵抗体によって構成され、厚さが例えば0.5μmとされている。
【0027】
端子27,28は、電極19b,19bを介してチップ抵抗体23,24に通電させるための電極であり、本実施形態においては、Cuによって構成されている。また、端子27,28の厚さは、例えば1μm以上3μm以下とされており、本実施形態においては、1.6μmとされている。
なお、本実施形態において、端子27,28を構成するCuは、純CuやCu合金を含むものとする。また、端子27,28は、Cuに限定されるものでは無く、例えば、Al,Agなど、高導電率の各種金属を採用することができる。
【0028】
チップ抵抗体23,24は、この端子27,28を介して外部の電子回路等に接続される。即ち、端子27は、チップ抵抗体23の一方の端子とされ、また、端子28は、チップ抵抗体24の他方の端子とされる。そして、チップ抵抗体23の他方の端子とチップ抵抗体28の一方の端子との間を温度ヒューズ10を介して接続することで、チップ抵抗体23とチップ抵抗体24とが直列に接続された抵抗回路を形成する。
なお、温度ヒューズ付き抵抗器20の配線は、上述した形態に限定されるものでは無く、例えば、コンデンサやダイオードなど他の電子部品と温度ヒューズ10とを任意の形態で接続した構成であってもよい。
【0029】
型枠29は、例えば、耐熱性の樹脂板から構成されている。そして、この型枠29の内側を埋めるモールド層31は、例えば、30℃〜120℃の温度範囲における熱膨張係数(線膨張率)が8ppm/℃〜20ppm/℃の範囲の絶縁性樹脂が用いられる。こうした熱膨張係数を持つ絶縁性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂にSiOフィラーを入れたものなどを挙げることができる。この場合、モールド層31を構成する樹脂はSiOフィラーが72%〜84%、エポキシ樹脂が16%〜28%の組成とすることが望ましい。
【0030】
モールド層31として、30℃〜120℃の温度範囲における熱膨張係数が8ppm/℃〜20ppm/℃の範囲の絶縁性樹脂を用いることによって、チップ抵抗体23,24の発熱に伴うモールド層31の熱膨張による体積変化を最小に抑えることができる。そして、モールド層31に覆われたチップ抵抗体23,24や端子27,28に対して過剰な応力が加わることでダメージを受け、導通不良等の不具合を起こすことを防止できる。
【0031】
放熱板26は、チップ抵抗体23,24から発生する熱を逃がすためのものであり、熱伝導性が良好なAl又はAl合金から形成されている。本実施形態においては、放熱板26は、A6063合金(Al合金)で構成されている。
【0032】
放熱板26は、積層方向に沿った厚みが、例えば2.0mm以上、10.0mm以下の範囲に形成されることが好ましい。放熱板26の厚みが2.0mm未満であると、放熱板26に応力が加わった際に、放熱板26が変形する懸念がある。また、熱容量が小さすぎるため、チップ抵抗体23,24から発生する熱を充分に吸収、放熱できない懸念がある。一方、放熱板26の厚みが10.0mmを超えると、放熱板26の厚みによって温度ヒューズ付き抵抗器20全体の薄厚化も図ることが困難となり、また、温度ヒューズ付き抵抗器20全体の重量が大きくなり過ぎるという懸念がある。
【0033】
こうした放熱板26と、基板21,22との間に形成される緩衝層25は、例えば、純度が99.99%以上の4N−Alからなる薄板状の部材である。この緩衝層25の厚みは、例えば、0.4mm以上、2.5mm以下であればよい。こうした緩衝層25を放熱板26と、基板21,22との間に形成することによって、チップ抵抗体23,24で発生した熱を効率的に放熱板26に伝搬させ、熱を速やかに放散することができる。
【0034】
また、緩衝層25を純度99.99%以上の4N−Alで形成することによって、変形抵抗が小さくなり、冷熱サイクルが負荷された際に基板21,22に発生する熱応力をこの緩衝層25によって吸収でき、基板21,22に熱応力が加わって割れが発生することを抑制できる。
【0035】
基板21,22と緩衝層25、および緩衝層25と放熱板26は、例えば、Al−Si系ろう材によって接合されている。Al−Si系のろう材は、融点が600〜700℃程度である。こうしたAl−Si系のろう材を用いて基板21,22と緩衝層25、および緩衝層25と放熱板26を接合することによって、耐熱性と接合時の熱劣化を同時に防止することができる。
【0036】
図2は、温度ヒューズを示す要部拡大断面図である。
温度ヒューズ10は、中空管11と、この中空管11の中空空間の内部を長手方向に貫通する導電線12と、この導電線12の一端12aおよび他端12bにそれぞれ接合された電極13a,13bとからなる。
【0037】
中空管11は、硬質で耐熱性の絶縁材料、例えば石英ガラス、またはセラミックスから構成されている。本実施形態では、中空管11として石英ガラス管を用いている。こうした中空管11は、外形形状が円筒形であり、一端側および他端側がそれぞれ開放面11a,11bを成し、内部に円筒形の空間が形成されている。
【0038】
中空管11は、外径が例えば1.5mm以上3mm以下のものが用いられる。また、中空管11は肉厚が0.2mm以上、0.5mm以下のものが用いられる。
【0039】
導電線12は、中空管11の内部空間の中心を、内周面Fに対して離間して張架されている。こうした導電線12は、導通を遮断したい温度帯で溶融する低融点金属によって形成された、直径が例えば0.05mm以上1.0mm以下の線材からなる。低融点金属としては、Pb−Ag合金、Pb−Sn合金などが挙げられる。本実施形態では、導電線12として、直径が0.25mmのPb−Ag合金からなる線材を用いている。こうしたPb−Ag合金の融点は、320℃〜350℃の範囲である。
【0040】
導電線12を構成する低融点金属の選択にあたっては、例えば、この温度ヒューズ10を取り巻くモールド層31の耐熱温度の上限付近で溶融するものを選択することができる。これによって、チップ抵抗体23,24(図1参照)の過剰な発熱によるモールド層31の損傷を防止することができる。
【0041】
導電線12の両端にそれぞれ接合される電極13a,13bは、高導電性の金属、例えば、Cu、Ag、あるいはこれを含む合金から構成される。本実施形態では、電極13a,13bとして、Cuを用いている。こうした電極13a,13bは、例えば、チップ抵抗体23,24に電気的に接続され、温度ヒューズ10が温度ヒューズ付き抵抗器20の電気回路の一部を構成する。
【0042】
Cuからなる電極13aとPb−Ag合金からなる導電線12の一端12a、および電極13bと導電線12の他端12bとは、直接接合されている。例えば、導電線12と電極13a,13bとを、200℃以上、250℃以下の温度範囲で、AgO還元反応により接合する。
【0043】
また、Pb−Ag合金からなる導電線12全体、または両端部だけにSnメッキを行った後、導電線12と電極13a,13bとを超音波によって接合することもできる。
また、Cuからなる電極13a,13bにSnメッキを行った後、導電線12と電極13a,13bとを超音波によって接合することもできる。
さらに、導電線12と電極13a,13bとをPbを5%以上、10%以下の範囲で含むPb−Snはんだを用いて接合することもできる。
【0044】
温度ヒューズ10を取り巻くモールド層31は、その一部が中空管11の開放面11a,11bからそれぞれ、中空管11の内部空間の一部を充填する(入り込む)ように形成されている。
【0045】
モールド層31は、温度ヒューズ10の導電線12の融点よりも高い軟化点を持つ樹脂を選択することが好ましい。これによって、導電線12が溶断する温度まで達しても、モールド層31が軟化したり焼損することを防止できる。
【0046】
また、モールド層31は、30℃〜120℃の温度範囲における熱膨張係数(線膨張率)が8ppm/℃〜20ppm/℃の範囲の樹脂を選択することが好ましい。これによって、モールド層31が高温になっても、膨張によって中空管11に過剰な応力が加わることを防止できる。
【0047】
また、モールド層31は、25℃における粘度が40Pa・s以上、60Pa・s以下の範囲の樹脂を選択することが好ましい。これによって、樹脂を型枠29(図1参照)に流し込んでモールド層31を形成する際に、中空管11の内部に過剰にモールド層31を構成する樹脂が流入して、中空管11の内部空間が狭められてしまう懸念が無い。
【0048】
こうしたモールド層31を形成後の中空管11の内部空間全体(但し、モールド層31が入り込んだ部分の体積を除いた)の体積から導電線12の体積を除いた空間率は、60%以上、99.5%以下の範囲となるように形成される。中空管11の空間率をこうした範囲にすることによって、導電線12が熱によって溶融した際に、電極13a,13bから確実に離れた位置に溶け落ち、固化した際に電極13aと電極13bとを再導通させてしまうことを防止する。
【0049】
以上のような構成の温度ヒューズ付き抵抗器20の作用について、温度ヒューズに係る部分を中心に説明する。
温度ヒューズ付き抵抗器20は、例えば、電子機器の回路中に電極13a,13bを接続することによって、抵抗として作用する。こうした温度ヒューズ付き抵抗器20に対して、例えば、過剰な電流が流れてチップ抵抗体23,24が過剰に発熱したり、あるいは、放熱が妨げられて過剰に発熱すると、モールド層31が焼損したり軟化する懸念がある。
【0050】
しかしながら、モールド層31を構成する樹脂、例えばエポキシ樹脂の軟化点以下の温度で溶融する導電線12を備えた本実施形態の温度ヒューズ10によって、温度ヒューズ10の周囲が高温になると導電線12が溶融し、図3に示すように金属粒Mとして中空管11の内周面Fに溶け落ちる。これによって、温度ヒューズ10の電極13aと電極13bとの間の導通ができなくなり、温度ヒューズ付き抵抗器20の回路が遮断され、温度上昇防止する。これにより、モールド層31の焼損や軟化を確実に防止することができる。
【0051】
また、中空管11に張架された導電線12の周囲に空間が確保されることによって、導電線12が溶断された際に、導電線12を構成する材料(溶融物)は導電線12が張架されていた位置から離れた中空管11の内周面Fに落ちる。これにより、導電線12を構成する材料が冷却、固化した際に、温度ヒューズ10を再導通させてしまうことを確実に防止できる。
【0052】
温度ヒューズ10の周囲の温度が上昇すると、モールド層31を構成する樹脂は、熱膨張によって体積が増加し、中空管11に応力が加わる。しかしながら、本発明の温度ヒューズ付き抵抗器20では、温度ヒューズ10を取り巻くモールド層31は、その一部が中空管11の開放面11a,11bからそれぞれ、中空管11の内部空間の一部を充填する(入り込む)ように形成されている。これによって、機械的強度の弱い部分である開放面11a,11b付近が、内部に入り込んだモールド層31によって、外部のモールド層31の膨張により加わる応力を緩和し、中空管11の破損を防止する。
【0053】
これにより、溶融後の導電線12は、金属粒として中空管11の内周面Fで受け止められ、冷却、固化後に電極13aと電極13bとの間を繋いで再導通させてしまうことを確実に防止することができる。
【0054】
(温度ヒューズ付き電子部品の製造方法)
次に、上述した構成の温度ヒューズ付き電子部品の製造方法について、温度ヒューズの製造工程を中心に説明する。
図4は、本発明の温度ヒューズ付き電子部品の一例である温度ヒューズ付き抵抗器の製造方法を段階的に示した断面図である。
温度ヒューズ付き抵抗器20を製造する際には、まず、温度ヒューズ10を予め製造する。
図4(a)に示すように、例えば、石英ガラスからなる中空管11を用意し、その内部空間の中心に、例えばPb−Agからなる導電線12を張架させる。
【0055】
次に、図4(b)に示すように、導電線12の一端12aおよび他端12bに、それぞれ、Cuからなる電極13a,13bを接合する(電極接合工程)。導電線12と電極13a,13bとを接合する際には、導電線12と電極13a,13bとを、200℃以上、250℃以下の温度範囲で、AgOの還元反応により直接接合する方法が挙げられる。
例えば、AgO粒子と還元剤とを含むAgOペーストからなる接合材を用意する。
【0056】
そして、このAgOペーストを焼成する際に、AgOが還元されて微細なAg粒子となり、緻密な構造のAg粒子によって、導電線12の一端12aおよび他端12bと、電極13a,13bとが、それぞれ強固に接合される。また、還元剤は、AgOを還元する際に分解されるため、接合部分に残存しにくく、導電線12と電極13a,13bとの接合部分における導電性及び接合強度を確保することができる。さらに、AgOペーストは、例えば300℃といった比較的低温条件で焼成することが可能であるため、接合時の熱負荷を低減することができる。
こうした接合方法によって、Pb−Ag合金からなる導電線12と、Cuからなる電極13a,13bとを、接合部分の電気抵抗が少なく、かつ高い接合強度で接合することが可能になる。
【0057】
なお、電極接合工程における接合方法として、Pb−Ag合金からなる導電線12全体、または両端部だけにSnメッキを行った後、導電線12と電極13a,13bとを超音波によって接合することも好ましい。
【0058】
また、Cuからなる電極13a,13bにSnメッキを行った後、導電線12と電極13a,13bとを超音波によって接合することもできる。
さらに、導電線12と電極13a,13bとをPbを5%以上、10%以下の範囲で含むPb−Snはんだを用いて接合することもできる。
【0059】
次に、図4(c)に示すように、形成した温度ヒューズ10を、例えば、基板21のチップ抵抗体23に繋がる回路と、基板22のチップ抵抗体(電子部品)24に繋がる回路とを接続する位置に配して、電極13a,13b(図4(b)参照)を介して電気的に接続する。
【0060】
そして、図4(d)に示すように、型枠29内に、例えば、エポキシ樹脂を充填し、モールド層31を形成する。この時、図2に示すように、温度ヒューズ10の中空管11の内部空間に開放面11a,11bからそれぞれモールド層31の一部が入り込む。そして、中空管11の中央領域では導電線12の周囲に空間が確保され、中空管11の端部領域(中空管11の開放面11a,11b付近)では、モールド層31が中空管11を内部空間の側から支える。これによって、エポキシ樹脂が膨張しても、応力の影響を受けやすい中空管11の開放面11a,11b付近の破損を確実に防止できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、電子部品としてチップ抵抗体23,24を用いた温度ヒューズ付き抵抗器を例示したが、これ以外にも、例えば、電子部品としてダイオード、サイリスタ、コンデンサ、トランジスタ、集積回路など、各種電子部品を用いた温度ヒューズ付き電子部品に適用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
実施例1〜17として、図2に示す構造、即ち、中空管の内部空間の一部に樹脂が充填された温度ヒューズを作成した。
また、比較例1〜4として、中空管の内部空間には樹脂が入り込まない構造の温度ヒューズを作成した。
実施例1〜17、および比較例1〜4のヒューズ長さは5mmとし、樹脂粘度、中空管の各部の寸法、導体線(導電線)の直径、および体積、空間率は、表1に示した通りとした。
導電線としては、直径0.05〜1.5mmのPb−Ag合金からなる金属導線を用いた。
導電線の両端に接合する電極としては、AlN基板上に形成されたCu薄膜電極を用いた。
導電線と電極との接合は、200℃の温度で、AgO還元反応により導電線と電極とを直接接合した。
【0063】
このようにして形成した実施例1〜17、および比較例1〜4の温度ヒューズを、導電線が溶融する温度(340℃)まで加熱し、石英ガラス管の破損状況、導電線の断線状況を検証した。
こうした検証結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示す検証結果によれば、実施例1〜17の温度ヒューズは、導電線の溶融温度+10℃まで加熱しても、石英ガラス管に破損は見られなかった。また、実施例1〜15は、N=100での断線確率は100%であった。
一方、比較例1〜4の温度ヒューズは、モールド樹脂の粘度が低いものや、空間率が低いものは、断線しないものが存在した。またガラス管を事前に両端を封止したものや、モールド樹脂の粘度が高いものは石英ガラス管が破損した(比較例3,4)。また、断線確率が45%ないし20%に留まるものが見られた(比較例1,2)。
【0066】
こうした検証結果から、本発明の温度ヒューズ付き電子部品によれば、モールド層の一部を中空管の内部空間に充填させることによって、中空管の開放面付近が内部空間の側から支えられ、樹脂の膨張など外部応力による中空管の破損を確実に防止でき、空間率を確保できることで断線確率が高くなることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
10 温度ヒューズ
11 中空管
12 導電線
13a,13b 電極
20 温度ヒューズ付き抵抗器(温度ヒューズ付き電子部品)
23,24 チップ抵抗体(電子部品)
31 モールド層
図1
図2
図3
図4